第322話 神吉千早妃、到着



夏休み終盤に行われる大規模戦闘


初日も好調で、その後も危うげなく駒が進み、そして本日、大規模戦闘最終日――夏休みの最終日の前日となったわけだが……



「二分ジャスト、死傷者無し、これにて大規模戦闘を完全終了です」



最終日のレイドボス【ファフニール】という確認されている中でも危険度がヒュドラ以上の存在を前にあっさりと行われた、世界記録更新


決め手はもちろん、戒斗とギンシャリのコンビで行われた物理無効による攻撃だったが……強大な翼で空を飛び、あらゆる銃弾も弾く鋼鉄のような鱗に、あらゆるものを破壊する爪、口から吐き出すあらゆるものを燃やして腐らせる毒焔、それらすべてが、完封された。


空を飛ぼうとすれば事前に用意しておいたウォルフラム錬鋼を惜しみなく使用した弾丸で翼の膜を破き、鱗の継ぎ目を狙って爆薬を仕掛けて爆破、爪は手足の関節を狙って動きの初動で崩し、毒と炎は吐こうとしたタイミングに口を塞ぐように動き、最後には迷宮学園特性の素材で作った速乾の硬化剤で塞いでしまった。


完璧な対策である。


それもそのはずだ。



「――さて、東部迷宮での初陣、これで飾れたでしょうか?」



西部迷宮学園からの転校生


ノルン・神吉千早妃


彼女の予知を前に、ファフニールは姿を現す前からすべての行動を封じられていたのだから。





「敵に回すと厄介だけど、味方だとこんなにも頼もしいのね」


「いえいえ、こちらこそ。


今までのどの戦場いくさばよりも整っていました。


やはり有能な方が上に立つ組織というのは良いものですね」



ものの二分で終わった大規模戦闘


平和になった中央広場は、祝勝会の場へ早変わり


流石に今日の戦闘で反省点などないということで、氷川の奴も文句はないようだ。



「どうぞ」

「こちらも食べ頃です」


「あ、ありがとう……」



一方僕、歌丸連理は現在、千早妃の世話役であるクノイチ姉妹ことサイドテールを左に結んだ日下部綾奈、右に結んだ日下部文奈に飲み物とBBQで美味しそうに焼けた串焼きを、簡易テーブルの上に並べられる。



「えっと、二人ともこっちに来れたんだね。


転校の手続き大変じゃなかった、惟神かむながら関連で色々とあったんじゃない?」


「いえ、こちらの西の学園長に逆らおうという気概のある者は皆無ですので」


「歌丸様の尽力で、向こうの汚職についても公になり、火消でこちらに構っている場合ではなかったようですね。


それに……どうやら裏でこちらを補助してくださった方もいましたので」


「……ああ、なるほど」



文奈さんの言葉に、僕は銃音先輩を思い出す。


そう言えばあの人、千早妃の転校にも手を貸すように動いてくれてるって戒斗が言ってたな。


それはそれとして……二人はまるで従者のように僕の傍らに立つ。もの凄く落ち着かない。



「えっと、そういえばハゲ――ごほんっ、君たちのお兄さんとか、千早妃のお姉さんとかはこっちに来るとかきいてない?」


千鳥ちどりお姉様は引継ぎが完了次第こちらに転勤するように手続きを進めておりますね。


ハゲ――こほんっ、善光よしみつ殿も、お姉様の傍付きですし、同時にこちらに来るでしょうね」


僕の疑問に答えたのは、氷川との話し合いが終わった千早妃だった。


というか、やっぱり千早妃の認識でもハゲなんだな、あいつ。



「氷川との話はもういいの?」


「お互いにどれほどできるか確認したかっただけですので」



そういいつつ、自然な動きで僕の隣に座ろうとする千早妃だったが……



「――そのまま話し続けてればいいものを」



ヌルっとという表現が合うように、唐突に、しかしながら千早妃以上に滑らかな動きで僕と千早妃の間に割って入る英里佳


お互いに表情はにこやかなのだが、並々ならぬ敵意が間に滾り、目には見えない火花が散ったような気がした。



「――お退きなさい雌犬榎並英里佳

「――失せろ泥棒猫神吉千早妃


「「は?」」



おかしいな……まだ夏なのに、ここだけ空気が異様に冷たいぞ……?


表情は変わらずに、お互いの名前を呼んだだけのはずなのに、何故か異なる言葉を発したような気がする。これどういう現象?



「今の動き、見えた……?」

「ま……まったく気付けなかった……!」

「……隠密スキル?」

「でも、ベルセルク系統にそんなスキルは無い筈……?」



そして僕の左右斜め後ろにいた日下部姉妹は、突如出現した英里佳に戦々恐々としていた。


夏季休暇の間に、僕も色々……色々? ……まぁ、全力疾走のタイムは縮んだか……まぁ、とにかく僕を含めてチーム天守閣全員がそれぞれの技量を体育祭から更に磨いてたし、英里佳のこの動きもその一環なのだろう。多分。



「昨日来たばかりの人に威嚇しないの」

「うぐっ……」



一触即発のような空気に割って入ったのは我らがリーダーの詩織さん。


英里佳の首襟をつかんで強制的に千早妃から距離を取らせる。その光景は威嚇していた犬のリードを引っ張る飼い主にとてもよく似ていた。


引っ張られながらも睨みを解かないあたり、本当に千早妃のこと意識してるんだなぁっと思う。



「はむはむはむはむ」



そして、さっきからいたけど、英里佳とは反対隣で座って黄金パセリやら虹色大根をメインにして作られた狂気のサラダにがっついているシャチホコ(詩織さんの兎耳白髪赤目幼女バージョン)


最近発見したことだが、なんかシャチホコは見た目が変わると味覚にも変化が出てくるらしい。


英里佳の格好の時は味の濃い肉や揚げ物などを好み、紗々芽さんだと繊細な出汁の味付けの和食、稲生の時はケーキみたいなクリームを多めに使った洋菓子、千早妃の場合は餡子を使った和菓子を好む。


ちなみに上記の四人の姿ではそれぞれ野菜、揚げ物(てんぷらを除く)、苦みの強い野菜、辛い物全般などを嫌うようになるが、唯一詩織さんの姿では好き嫌いがなく、この姿の時が兎の時と同じ好みで美味しく黄金パセリと虹色大根を食べられるのだとか。



「今更ですけど、シャチホコ様も随分と変わった進化をされましたね……」


「変わった進化って……まぁ、確かに前の二匹と比べると異色だけど……もしかして、千早妃の予知だと別の姿だったりした?」


「いえ、厳密にはこの姿もありましたけど、かなり低い可能性でしたね。


私が見た中でもっとも可能性があったのは、【エンゼルラビット】と名付けられた翼が生えた姿ですね」


「エンゼル……天使、か……」



シャチホコが進化したとき戦っていた天使モドキを思い出すと、ちょっと天使には良いイメージが浮かばなくなってしまった。



「因果律に干渉して幸運を引き寄せる、何が起きても絶対に死なないという異常なほどの生存能力に特化した姿でした。


ヴァイスとシュバルツ……あの子兎たちから得られる未来視と同系統の力ですね。


あの二匹が仲間にならなければ、おそらくはそうなっていたと思われます。


そしておそらくは連理様とシャチホコ以外は大規模戦闘前に――」「それは言わなくていい」



なるほど、下手したら稲生も、鬼龍院や先輩たちもあの場で天使モドキ相手に殺されていたのか。


今思い出すとちょっと寒気を覚えるほど、僕ってあの時綱渡り状態だったんだなぁ……



「それがわかってるなら事前に言え」


「未来の情報というのは迂闊に口外しても良いことは無いのです。


というか、その件の敵と相対した場合、貴方や他のメンバーが同行していたらそれこそ連理様死にますからね、身も心も。


そういう浅はかな思考はやめなさい、この猪娘」



英里佳の文句に、にこやかだが滅茶苦茶苛立ったのが目に見えてはわかる早口でまくし立てる千早妃


……まぁ確かに、万が一英里佳が死んでしまったら自殺とかしかねないな、僕。


それに、うん、あの天使モドキ、戦う相手によって実力が変わる以上、僕以外の誰かが戦ってたら逆に強化されていたな。


あれとまともに戦えるのってシャチホコと融合した英里佳で一撃必殺を狙うくらいで、ルーンナイトになった詩織さんでもギリ負ける気がする。


二人の実力を知っていても、そう思うしかない位にあの天使モドキは底が知れなかった。



「ですが……そうですね、せめて連理様には一言お伝えしておくべきでした。


申し訳ございません」


「いや、千早妃が悪いわけじゃないよ。


むしろ逆に僕がそれを知っていたなら、変な方向になっていた可能性の方が高い気がする。


……なんかこっちでも一部しか知らないはずの情報も持ってるみたいだし、あとでその辺りもすり合わせした方が良さそうだね」


「はい、では早速今夜で情報のすり合わせを」「盛ってんなよ泥棒猫風情が」



平和なBBQ会場でもお構いなしに狂狼変化ルーガルーを使用する英里佳


その気迫、周囲にいた北学区生徒が反射的に武器を構えるほどであった。



「英里佳、お座り」



しかし、ここにいるのは詩織さんだけではない。


獣耳を生やしたまま立ち上がろうとした英里佳が、即座に僕の隣で姿勢を正して座る。


ベルセルクとして狂化スキルを使って姿勢を正すとは、これ如何に?


などと内心で下らないことを考えていると、にっこりと笑いつつも、迫力を感じさせる紗々芽さんがやってきた。


心なしか、一緒にいる稲生の顔色が悪い。紗々芽さんに怯えているようだ。



「そのままジッとしてなさい」



微笑みつつも目が一切笑っていない紗々芽さんが視線と軽い指の動作だけで、足元の芝生から蔦らしきものが伸びてきて英里佳の手足、腰に絡みついて――あれれぇ?



「紗々芽さん、なんか僕の首に蔦、絡みついてますけど?」


「英里佳が無理矢理動くと、歌丸くんの首が締まるように結んだの。凄いでしょ」


「なんで!?」



自慢気に語る紗々芽さん。


植物を操作する技量が格段に上がっているが、なんでこんな異次元の方向に使用してるんだこの人?!



「逆に聞くけど、私の拘束が本気の英里佳に通じるとでも」


「いや、義吾捨駒夢奴ギアスコマンドあるじゃん!」


「十分おきにスキル使うの疲れるなら、歌丸くんを人質に捕る方が楽だし……」


「ベルセルク以上に狂った思考!」


「正気じゃこのパーティは務まらないのよ」


「――反論できない……」


「いや、しなさいよ……」



先ほどからドン引きしている稲生が静かに突っ込みを入れる。



「ほら、貴方たちも座って。


こいつの世話とかしなくていいから、折角のBBQが冷めちゃうわよ」


「は、はぁ……」

「い、いただきます……」



そして特に気にした風もない詩織さんは、日下部姉妹を別の場所に座らせてBBQを楽しむように促していた。



「――ふっ」


「縛られてるくせに何を勝ち誇った顔してるんですかこの雌犬は?」


「別に」



一方の英里佳は、千早妃を一瞥してすぐに僕の方に顔を寄せてって、えぇ!



「あ、ちょ、英里佳、ちょっと近くない?」


「仕方ない。迂闊に動くと歌丸くんの首が締まっちゃうから、これは仕方がない。


不可抗力、不可抗力」


「いや、ま、まぁそうだけど……」



近い近い近い、というかめっちゃ良い匂い!


普段からも可愛いのに、今は犬耳(狼)で、その耳がパタパタと動いて僕の頬に優しく当たる。


心臓があったら間違いなくバクバクいってたな、これは。



「雌犬、今すぐ、旦那さまから、離れなさい」


「は? 状況見て言えば。


私が離れると、歌丸くんが苦しい思いをする。


だからこれは仕方がないことなの。


需要と供給がベストマッチしているのだから仕方がない」



この僕を巻き込んでの拘束を供給と捉えるのは真剣にどうかと思う。



「千早妃さん、ちょっとだけ見逃してあげて


この数日、英里佳ずっと遠くから見てるだけで何もしてなくてストレスたまってたみたいだから」


「私、体育祭以降一月近く連理様にお会いできなかったのですけど?」


「冷静になった後に今のことをいじると英里佳が悶絶するから、それで我慢して」


「……なるほど」



そして紗々芽さんがちゃっかり千早妃に妙な説得をしている。


英里佳はご満悦な様子で気付いていない。


というか、そんなにストレスたまってたの?



「――まぁ、見せ場は全部戒斗に持っていかれて、明らかに自分が戦う以上に効率よく倒されてたらこっちとしても面目が立たないものよね」



僕の内心を読んだかのように、向かいに座って肉を食べる詩織さん


そしてその一瞥した先にいるのは、先輩たちに囲まれている戒斗と、その頭の上に乗っているギンシャリの姿があった。



「随分と今回は大活躍だったな」


「いや、まぁ、皆さんのおかげっスよ」

「ぎゅう」


「今回のMVPは間違いなくお前だな」


「それどっちかというとギンシャリッスよ。こいつが頑張ってくれたおかげっス」

「ぎゅぎゅう」


「謙虚すぎるのもかえって嫌味だぞ~、こんな時くらい大いに調子乗れっての」


「そ、そうっスかねぇ~? えへへへっ」

「ぎゅっぎゅっぎゅう」



先輩たちか囲まれてよいしょされてめっちゃ嬉しそうだ。


おかしいな、僕、あんな風に周囲からよいしょされた経験よりも、活躍するほどに妬まれるのに、なんだこの扱いの違いは?



「女の子こんだけ侍らせておいてなに不満げな顔してんのよ、あんた」


「おい、僕をハーレム作った男みたいに言うな」


「「「「「「「え」」」」」」」



英里佳、詩織さん、紗々芽さん、稲生、千早妃、日下部姉妹の七人同時に僕に対して「何言ってんのこの人」みたいな目で見てくる。


あ、そう言えばここにいるの全員女子、しかも美少女しかいなかった。


うん、傍目から見れば完全にハーレム野郎だった。そりゃ同年代の男子から妬まれ、女子からは軽蔑されるわな、僕。



違うんです、自分から狙ってやったわけじゃないんです。


なんか結果的にこうなるのが最善だっただけなんです。


なんなら整えたの僕じゃなくてて紗々芽さんだし。



「はむはむはむはむはむ――ごくんっ――おかわりしてくるっ!」



そしてそんな周囲の空気など気にせず、誰もとっていない黄金パセリと虹色大根のサラダのバイキングに大皿を抱えて走り出すシャチホコ


あそこだけなんかすげぇ光ってて眩しいんだよなぁ……



「えへへぇ……」



ひとまず抱き着いてすり寄ってくる英里佳が可愛いから別に良いか。



「「しゃーーー!!」」



そしてそんな英里佳に子兎二匹が威嚇してるけど、まぁ、いっか。





「はー……」



BBQ会場と化した中央広場の一角で、近づこうとするものがほとんどいない場所。


そこには翼を畳んだとはいえ十分に巨大な飛竜が座っており、その身体に体を預けているパートナーの天藤紅羽はつまらなそうに空を仰いでいた。



「ファフニール倒すの、楽しそうに見てたのにどうした急に?」



そんな彼女と、彼女のパートナーである飛竜の空のために、文字通り十段重ねの肉厚ステーキを抱えてやってきた来道黒鵜



「GUUU」



目の前にやってきた肉に、目を輝かせえるソラの前にステーキを置き、それを食べ始めてる間に手早く鉄板、墨を用意し、慣れた手つきでBBQの準備を進め、その間に大量の材料を抱えて会津清松がやってくる。



「……すっごい手馴れたわよね二人とも」


「どっかの誰かが頻繁にこういうイベントの仕切りを押し付けるから自然とな」


「そのくせ残り物とか焦げたとかするとマジギレするから手に負えねぇしな」



黒鵜も清松も、文句を言いたいが、目の前の女はその程度で反省などするはずもないので大人しく従う。


ぶっちゃけ、このレイド期間の間は大人しくて色々と楽だったのだ。活発に動くときほど周囲に迷惑が掛かるが、いなければいないで本気で困るこの会長には色々と頭を悩ませるのである。



「で、本当にどうした?


お前だったら『よし、時間余ったし私も暴れよう!』とかほざいて何かやらかすと思ったんだが」


「うん、その予定だったんだけど」

「「…………」」

「最後まで聞いて、止められたからこうして大人しくしてるんじゃない」



紅羽の言葉に、黒鵜も清松も訝しむ。


この会長が大人しく言うことを利かせられる存在など、この学園にいたのだろうかと。


可能性があるのは副会長の氷川明依か、それとも今も歌丸を取り合って威嚇している榎並英里佳か、神吉千早妃か……あるいは、と思考を巡らせる。



「学園長にね、今回暴れたらアドバンスカードを卒業まで強制的に封印するぞって言われたのよ」


「…………はぁ?」

「……すまん、耳がおかしくなった、今、学園長がお前を止めたって聞こえた」


本気で意味が分からないというように首を傾げる黒鵜と、自分の耳を疑う清松。



「だからそう言ったのよ。


あのドラゴンが、今回のレイドに何も介入しないどころか、私を止めに来たのよ」



告げられた内容が冗談ではないことを認識しつつも、激しく動揺する黒鵜と清松


その行動は、これまでのドラゴンの行動パターンから考えても異常そのものだ。


榎並英里佳から受け得たダメージをまだ引きずっている? いや、ありえない。だとしたらむしろ逆に放置して紅羽の蛮行を見逃す。


そして学生に過干渉するのを嫌う傾向にあるドラゴンが、それを実行すると言ってまで紅羽を止める目的はなんだろうか?


この大規模戦闘が行われた期間中、一度も姿を見せなかったのことと何か関係があるのかと、思考を加速させて冷や汗までかく二人。



「まぁ、それはいいのよ。


ただね、早く特別クラスの人員発表されないかと思ってね、それを待ってるのがじれったいのよ」


「じれったいって……まぁ、当初の予定通りに歌丸と俺たち、榎並に三上……戒斗と稲生は確定で、全体バフを巻いてた苅澤も外せないだろうな」


「氷川の全体指揮を見抜いてない教員はいないだろうから可能性は高いし、攻撃メンバーの中心にいた下村やチーム竜胆も堅いし……他にも見どころがあるのは何人かいたし……少なく見積もっても30人、多ければ50人前後のクラスにはなりそうだが……」



黒鵜と清松の予測を聞いて、にやぁっと笑いながら紅羽は口を開く。



「――新設される、特別クラス――【歌丸連理とゆかいな仲間たち】を対象とした指名クエスト、発注者はドラゴンよ。


開始は夏休み明け直後――つまり明後日の朝から。だから消耗させたくないそうよ」


「あ、明後日の朝だと……!」


「おいおい、明日一日で事務処理全部片づけろって無茶ぶりだろ。


いったいどんなクエストなんだよ、それ」


「ふふっ……それは、ね」



そして、その答えを天藤紅羽告げる。


さながら、神託を信者たちに告げる神官のごとく。



「――迷宮深部の現在の到達階層は私がたどり着いた58階層、その先にある未確認の60階層。そこに住んでいると異文化交流してきなさい、だそうよ」



その時の彼女の表情は、まるでクリスマスプレゼントを待っている少女のように楽し気だったという。

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