第301話 銃音寛治 が なかま に なった。(あと稲生も)



「一体何しに来やがった」



普段とは違う冷めた口調の戒斗の言葉に、銃音寛治は鼻を鳴らして目を細める。


睨む、という感じまではいかないが、それでも不快感は覚えているらしい。



「流石にこの場で昨日の焼きまわしはやめてくださいよ。


今度はこいつけしかけますからね」


「ふんすっ」



僕の近くに待機していたシャチホコの頭に手を置きながらそう宣言すると、シャチホコはやる気満々な様子で力こぶを見せえるような動作をする。数ミリすらも力こぶ見えないけどね。



「喧嘩しに来たんじゃねぇ」


「だったら、何しに来たんだよ」



いつになく喧嘩腰な戒斗の態度に、普段の彼を知る女子陣営が意外そうな顔をしている。



「確認しにきただけだ」


「確認って……どういう意味だよ?」


「その相手はお前じゃない。


……歌丸連理」


「……なんだ?」


「お前は、今回の犯罪組織の裏に潜む“ディー”をどうするつもりだ?


そのまま放置してドラゴンを倒すことにのみに集中するのか」


「そんなの決まってる」



僕は戒斗を、シャチホコを、英里佳、詩織さん、紗々芽さん、そして稲生に子兎たちを見る。



「あいつらは必ずまた僕たちの前に現れる。


それがわかっているのなら、戦う。


戦って、勝って、もうあいつらには何も奪わせない」


「一人じゃ何もできないくせに、か」


「逆だよ。一人だったら戦おうとすら思ってない。


一緒に戦ってくれる人がいるんで、まったく負ける気がしないから戦うんだ」



まさに他力本願。


しかし、もうそれが僕の在り方なのだと開き直ったのだ。



「…………そうか。


そこが、俺とお前との決定的な違いか」



何かを悟ったかのように、目を閉じる銃音寛治。


その表情は寂しげではあったが、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべている。



「歌丸連理、それに……チーム天守閣……まずは、これまでのことを詫びさせてくれ」



そして、続く銃音寛治の行動に僕はもちろん、その場にいた全員が目を見開いた。


銃音寛治はその場で跪いて、土下座をして見せたのだ。


あの、あれだけ横暴な態度を取ってきた男の最上級の謝罪を示す行動に、僕たちはただただ困惑する。



「……な、何してんスかこの人?」



戸惑い過ぎて普段のキャラに戻った戒斗が僕に視線を向けるが、僕だって意味が分からない。



「……あ、もしかして」



そう言えば昨日、戒斗が……



『素直に、頭一つ、下げてみろ、やぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』



と、頭突きによるダブルノックアウトの直前に叫んでいた。



「“ディー”という存在が、いったいどれだけの規模の存在なのかはわからないが……確実にドラゴンと同等の存在だ。


そうなれば、お前たちの力は必要不可欠だ。


頼む。俺にできることならば最大限の支援をするし、今までお前たちを一方的に利用してきた分の賠償だって支払うから、お前たちの力を貸してくれ」



昨日までとは違う。


明確な目的を見据え、その上で彼は真剣に頼み込んでいる。



「……戒斗は、どう思う?」


「…………別に、俺の言いたいことは昨日全部言ったんでこれ以上こいつにどうこう突っかかるつもりはないッスよ。


俺個人としては特に意見はないんで、そっちに任せるッス」



どこか罰の悪そうにそんなことを言う戒斗。


もう答えを言っているようなものだ。



「……あの、どうしてわざわざあなたがそんなことを頼むんですか?


さっきの連理の答えなら、あなたがわざわざそんなことを頼む必要性すらないはずですよね」



昨日の殴り合いを見てない上に、今までの銃音寛治の行動を見ている詩織さんの極々当たり前の質問。



「確かに、その通りだ。


さっきの歌丸のことを考えれば、俺がどうこうしなくても勝手に“ディー”と戦うだろう。


だが……それじゃあ、俺は納得できないんだ」



顔を上げ、銃音寛治はその拳を握りしめる。



「――手段は選ぶつもりはなかったが……ここまで虚仮にされて、黙っていられるか。


必ず、この手で奴らをぶっ飛ばす」



その目には、昨日の戒斗や僕に向けられた時以上の激情が燃えている。


その気迫に先ほどまでやる気だったシャチホコが思わず僕の背後に隠れてしまうほどだ。



「そちらからのお願いに応える前に、質問いいですか?」


「ああ、俺に答えられることなら」


「貴方がそこまでして“ディー”に……犯罪組織に拘る理由はなんですか?」


「……もう、察してるだろ」


「ええ、昨日のことで大体は」



銃音寛治が何度か言っていた“先輩”の存在。


其れこそが、今までの彼を作った起源のはずだ。


そして……その人はおそらく、もういないのだろう。



「でも、ハッキリとあなたの口から聞きたいんです


……いくら謝罪されたとしても、俺は貴方に椿咲を利用されたということを許す気はない。


千早妃を見捨てようとしたことを、今だって認められない。


だけど……あなたが戦う理由を知られれば、少なくともこれから一緒に戦ってくれる存在として認めることが出来る気がします」


「……自分が利用されてきたことは許すんだ」

「多分、自覚してないから……」

「歌丸くん変なところ鈍いもんね」



なんか稲生と英里佳と紗々芽さんが何か言っているがスルー。



「先輩は、犯罪組織によって殺された」



過去のことを思い出しているのか、銃音寛治は拳をさらに強く握りしめ、後悔からか歯を食いしばっている。



「当時、俺は入学したばかりの北学区で、右も左もわからなかった。


それに、俺は人付き合いってのが得意じゃ無くてな……どのパーティにも属せずにあぶれていた」


「「「うっ」」」



銃音寛治の言葉に、僕、英里佳、戒斗が過去を思い出して思わず胸を抑える。


僕たち三人とも、周囲から浮きまくっていたわけだから覚えがある。



「……そんな俺を見かねてか、声をかけてくれたのが先輩だった。


先輩の年は一つ上だったが……実際のところは同じ学年だった」


「え……留年ってことですか?


でもこの学園って、卒業時の単位不足くらいしか留年する理由ってないはずじゃ……」


「いや、先輩は病弱な人だったからな……中学時点ですでに一度留年していて、入学が一年遅れていたんだ」



銃音寛治のその言葉に、みんなが自然と僕の方を見た。


つまり、その人って僕とかなり似た状況だったってことなのか。



「……まぁ、ウィザードの適正は持っていたからお前よりはマシだったと思うぞ」



人の内心勝手に読んだ上にいらない情報挟まないで欲しい。



「先輩は……まぁ、かなりお節介な人だった。


損することばかりしていて……騙されやすいというか、無警戒というか……


困ってる人がいたら手当たり次第に声をかけるような……それで自分がさらに困る、そんなことが頻繁にあった。


こっちが何度注意しても聞きやしない。


それでも縁があって、助けた連中が集まって、そこそこ規模のデカいギルドにはなった。


お世辞にも優秀だとは言えないが……それでも、俺たちは俺たちなりに迷宮で結果を出していた」



「だが」と言葉を区切り、銃音寛治の視線は鋭くなる。



「俺たちは迷宮攻略の最中に、犯罪組織と思われる連中が標的を襲っているところに出くわした」


「……それで……殺されたんですか?」


「……いや、当時、俺たちは数だけは多かったからな……一年生にしてはかなりの戦力を持っていた。


どうにか撃退に成功した……いや、成功させてしまった……という方が正しいだろうな」



銃音寛治は顔を伏せ、絞り出すように告げる。



「――先輩は、奴らの依頼を邪魔した見せしめとして、一人の時を狙われて殺された」


「「――」」



その時の彼の言葉に、僕も戒斗も胸の内を掻き毟られるような怒りを覚えた。


――見せしめとして、殺す。


その瞬間を、僕はこの目で見た。


未来からやってきた北学区三年生になった椿咲が、まさにそれだった。



「……結局、俺たちが助けた奴もその後すぐに殺された。


何のために、あの人は殺されたんだって…………わけわかんなくなって……結局、俺たちのギルドは空中分解したが……俺は、あいつらを許せない。


だから……俺はどんな手段を使ってでもあいつらを倒すと、そう決めたんだ」



そこまで言ってから、ゆっくりと息を吐く銃音寛治。



「……そして、昨日があって……今に至る。


俺が話せるのは、ここまでだ。満足したか」


「……ええ、十分に」



少なくとも、僕の心は決まった。


なら、後は……



「あの……詩織さん、勝手に話を進めてごめん。


だけど、その……」


「……はぁ……わかってるわよ。


情況的にその“ディー”との戦闘は私たちは避けられないのは理解していたもの。


それに、話を聞く限り私たちにデメリットがあるわけじゃないし……」



少しばかり間を置いて思案した詩織さんは、ひとまず未だに床に跪いている銃音寛治を立ち上がらせた。



「銃音寛治先輩……チーム天守閣は“ディー”との対抗するために貴方と協力関係を結びます。


とはいえ、これには私たちの行動に対してあなたに口出しする権利はありません。


もし何か依頼するのなら、相応の対価を求めます」


「ああ、もとよりそのつもりだ。


犯罪組織を捕まえるという名目で、力を貸してくれた連中は既に目的を達したと思ってもう俺に協力はしてくれないだろうし……仮に力を貸してくれたとしてもドラゴンと同等の相手には意味が無い。


必要なのは、お前たちチーム天守閣の力だ」



……今更だけど、僕たちの力って期待されすぎてない?


やっぱり体育祭で英里佳に学長の首吹っ飛ばさせたインパクトがデカかったのかな……



「とはいえ、すぐにどうこうできるっていう話でもない。


歌丸にも言ったが、奴らが動くのは来年以降になる。


それまでの間に、まずは俺がどうにか奴らに対抗するための力をつける。


……西学区としてお前らに表立った支援も、現時点ではあまり期待はしないでくれ」


「ええ、わかりました。


――それはそれとして」


「む――ぐほっ!?」



病室内に、炸裂音がして銃音寛治の顔が先ほどとは90度違う方向に向けられた。



「今回、また貴方の思惑で連理が危険な目に遭った。


私からは今のでチャラ、ということにしておきます」


「……ああ、感謝する」


「じゃあ、残りも大人しく受け入れて下さい」


「……は」



詩織さんの言葉に間抜けな顔をする銃音寛治


詩織さんが一歩下がると、代わりに前に出る二人……いや、三人か。



「私あんまり力強くないし……スキル使った方が良いかな」


「じゃあ私はグーで」


「……ひとまず私も南学区を代表して一発くらいは入れさせてもらいます」



紗々芽さん、英里佳、稲生も銃音寛治を殴る気満々だった。



「…………」



銃音寛治が無言ではあるが、助けを求めるような視線を僕に送ってきていた。



「……英里佳、流石にグーはやめておこう」



流石にちょっと可哀想なのでそう諫めておく。


……その後、包帯の上からでもわかるくらいに顔を腫らした銃音寛治は自分の病室へと帰っていった。



「あ、そうだ。歌丸、さっきの話の続きなんだけど」


「ん、ああ、子兎たちのことだよね」


「私、これからチーム天守閣にも所属することにするからよろしくね」


「……え、どゆこと?」



なんか知らん間に稲生がチーム天守閣に入ることが決まっていた。


どうやら僕と戒斗が知らないうちにすでに話はついていたらしい。

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