第295話 シャチホコ、進化への道! ⑰到達点

『くっ……』



男の姿が再び黒いシルエットに変わる。


あの黒いやつ、物理的な攻撃を遮断していたな。


僕たち相手では物理的な攻撃は脅威じゃないと判断していたから解いてたのか?



『あの黒いのは、物理的な攻撃を弾きます……銃音寛治の銃弾も効果がありませんでした』



まだちょっと喉の調子がおかしいが、スキルが発動しなければ普通に喋れるっぽい。



『あと、毒も効果がないし、銃音寛治から致命傷を受けても塞がって起きあがりました』


「なるほど……まぁ、あいつがただでやられるわけがないとはわかっていたが、そこまでやっても死なないのか」


「相手も人間だと思ってて油断したんだろうな……勘が鈍って……いや、普段より冷静さが欠けてたんだろうな」


「そうだな…………歌丸は休んでいろ」


『でも、あの黒い靄を外すには僕かシャチホコの物理無効スキルが必要です』


「その姿を見てまさかとは思ったが……お前も使えるようになったのか。


だが安心しろ。その程度の敵なら、これまで俺たちは何度も戦ってきた」


「ああ、要するに――」



会津先輩の手に、いつぞやクリアスパイダー討伐の際に仕様されたパイルドライバーが出現する。


……あの、それ、持ち出しにかなり制限ある奴じゃ……?



「ああ、攻略するならシンプルに――」



来道先輩はマントを翻し、その手を指先まで伸ばして刀のように構える。



「「防御力を上回る攻撃をすればいいだけだ」」



脳筋の論理だった。


うん、普段凄い理知的な人なんだけど、こういうところをみるとやっぱり北学区なんだなぁって思う。



『調子に乗るな、傀儡風情が!!』



黒いシルエット状態の男はその手に剣を持って切りかかってきた。


どうやらあの姿だと魔法は使えないらしい。


だが、それでもあの動きは速すぎる。


少なくとも僕には二匹との融合とスキルの力無しでは絶対に対応できない。


だが、相手が悪すぎる。



「うるせぇ」『――がは!?』



相手の方が圧倒的に速いはずなのに、会津先輩の攻撃が当たる。


会津先輩が振り回したパイルドライバーの先端部分に、まるで男が自分から当たりに行ったのかと錯覚するほどにタイミングが揃っていた。


パイルドライバーから一瞬だけ炸裂音がしたと思えば、内蔵されたパイルが射出され、男の身体は地面にめり込んで打ち付けられる。



『あ、ぁ――――ぎ、ぐぅのれぇえええええええええ!!』



あれを受けてまだ動けるのかと僕が戦慄するのを他所に、会津先輩の足元に魔法陣らしきものが浮かび上がった。


あの状態でも魔法が使えるのか!?


あ、いや、冷静に考えればそもそも僕もあの状態で転移魔法発動させられてここに来たんだった!


発動速度は先ほどのように無茶苦茶なものではないが、パイルドライバーを射出した直後で会津先輩は動けない。


そして、魔法が発動して距離があるにも関わらず熱いと感じるほどの高温の火柱が発生し、天井まで焦がしていく。



「別に直撃しても大したことねぇぞ」


「そうだが、転移の魔法だったら厄介だろ」



火柱の出現に目を見開いていた僕だが、別方向から聞こえてきた声にさらに驚く。



『な……!?』



男も同様に驚いていたようで、その方向には会津先輩がいて、その肩に手を置いている来道先輩がいる。


……今の一瞬で来道先輩が会津先輩が助けたのか? ヴァイスとシュバルツと融合していたのに、まったく見えなかった。



「しかし、今のを受けてもあの程度か……ふむ」



何を思ったのか、来道先輩がその場で手刀を振るう。


すると、男は短い悲鳴をあげて肩を抑えた。


……体育祭で見せた、次元干渉の切断だろうか? 相手の距離も硬さも関係なく切り裂くとは聞いていたけど……



「腕を切り飛ばすつもりの攻撃でこの程度、か。


やはり、その黒いモヤみたいなのは次元干渉の効果もあるようだな。


物理干渉はほとんど無効化し、同じ次元干渉能力では相殺し合って有効打には至らない。


問答無用で防御を突破できるのは、あくまでも物理無効スキルのみか。


面倒だが、俺の手数を増やすしかないか……」


「おい、俺の攻撃が全く効いてないわけじゃねぇぞ。


微かだが手応えは確かにあった。


打ち込む角度とか踏み込みを工夫すれば届く」


「……実際にできそうだからお前も異常だよな、本当に」


「俺ら同期の中で一二を争う異常な奴がよく言うぜ……」


「百歩譲って二位は甘んじて受けるが一位は絶対に紅羽だろ」


「はっ、違いねぇ」



軽口を叩き合う二人のその姿に、僕は言葉が出なくなった。


あの絶望的な相手がすぐそこにいるのに、もう、あの二人が敗北する姿が全く想像できなかったのだ。



「歌丸」


『え、あ、は、はいっ! って、ぉおっとと』


「悪いが、銃音の足を持って行ってそいつを使ってやってくれ」



来道先輩から投げ渡された物体はケースに入った注射器だった。



「今回、俺たち二人に支給されたエリクサーだ」



エリクサー……確か、霊薬エリクシルの成分を研究して作られた人工霊薬


エリクシルには遠く及ばないが、瀕死の怪我も軽傷にしてしまうくらいの効果があるという。


確かにこの薬があれば、銃音寛治の足を元に戻すことができるかもしれない。



「こいつ相手なら俺らには必要ない。


さっさと持っていけ」


『わ、わかりました!』



あの男の正体とか色々と気になるが、今は後にしよう。


銃音寛治は嫌いだが……あのまま大怪我したままというのは後味が悪い。


僕はすぐに奴の足を拾い、先ほど他のみんなが向かって行った扉の方へと向かう。



『逃がすと思って』「こっちのセリフだ」



男が何やら邪魔をしようとしたらしいが、あの二人がそれを許すはずもない。


僕は一切の妨害を受けることなく、部屋を出た。





『くぅ……悉く私の邪魔をするか、邪神の使途共が!!!!』


「そんな怪しい宗教に入った覚えはねぇ!」



パイルドライバーを振り回す会津清松


その攻撃速度は速くはないが、男は避けるのに精いっぱいだった。


息継ぎ、踏み込み、攻撃に転じようとしたそのタイミングを完全に読まれているのか、迂闊に攻撃をすれば次の瞬間に自分は再びあのパイルを受けるとわかっているのだ。


故に、防御に徹するしかない。


だが、そのまま何もしなければ――



『ぐぅ!!』



全身を覆う黒いモヤがあるので出血はないが、体を切られる痛みに呻く。


見れば、来道黒鵜が手刀を振るった姿がある。


傷はすぐに塞がるのだが、痛みが消えたわけではない。



「おい、ちゃんと当てたのか?」


「当ててるが、どうやら再生能力も高いらしいな。歌丸に薬を預けて正解だったな。これは時間が掛かるぞ」


「ああ、面倒な奴だ」



目の前の二人の言葉に、血管が切れんばかりの怒りの形相を黒いモヤの中で浮かべる。


どうにかこの二人を殺せないか、いや、それが出来なくとも、この場から逃げ出した歌丸連理をどうにか捉えなければと思考して、ふと、奴が逃げた先を見る。



『――ふはっ』



そして、その口から思わず笑いがこぼれた。



「テメェ何がおかしい」



怒りを隠さず、そしてその間も淡々と怒涛の攻撃を続ける会津



『ああ、まったく困った困った、これは大変だ』



言葉とは裏腹に、男の言葉には喜色が見える。


その意味深な態度に、いち早く何かを察したのは、来道だった。



「この場、任せていいか!」


「――ああ、行け!」



そして会津もすぐに気づく。


ここはそもそも敵地。


他の面々が逃げ込んだ先が、自分たちに取って安全である保障など何もない。



『行かせはせん――――■」



男の黒いモヤが消え、その姿を晒す。


同時に、その口から発せられた異音は周囲を一瞬で爆破し、扉はもちろん、会津までも飲み込んだ。



「なッ――く!!」


「が、ぁああああああああああ!!」



来道は咄嗟に手刀を放ち、次元を切り裂いて男を攻撃する。


先ほどまでと違い、その腕は今度はあっさりと切断されたが、男はもう一方の手で切断された手を掴み、無理矢理傷口にくっつける。


すると、その個所が一瞬だけ液状になって泡立ち、何事もなかったかのように元に戻った。



「く、ぅ――ふ、ははははは!!』



男は痛みに表情を歪めながらも笑みを浮かべ、そしてその姿が再び黒いシルエットに変化した。



『一対一ならば勝てると、そう思っているのか?


どこまでも愚かだな人間!


お前らは確かに厄介だが、一対一ならば脅威ではない』


「……清松!」


「くっ……大丈夫だ、この程度じゃ倒れねぇ!!」



爆炎が消え、姿を見せた会津


重傷ではないが、明らかにダメージがある。


二人がいれば、目の前の敵はほぼ無傷で倒せる。これは間違いない。


だが、一対一となるとこちらが不利になる。


それが今証明された。



『扉は爆破によって瓦礫が塞いだ。そこの男ではすぐには突破できない。


知っているぞ。パワーはあるが、それだけだ。


となると……来道黒鵜、奴らを助けに行くか?


やってみるがいい、貴様が戻ってくる前にそこの男を焼き殺してやるぞ、確実にな』


「来道、構うな行け!」


『そう焦ることは無い。


これでも親切で言っているのだぞ。


もしお前らが何もせず、かつ運が良ければ、全員生き残れるかもしれないんだぞ?』


「……どういう意味だ?」


『そのままの意味だ。


結果的には当初の予定通りになったに過ぎない。


言っただろう、歌丸連理をと』



男は上機嫌に告げる。



『故に、お前らが行けば、かえって危険だ。


実力が……いや、が強すぎるのだ、お前らは』



その言葉は、脅しでもなんでもない。



『向かったが最後――……そう、今、動き出した』


「「っ!」」



男の言葉には明確な確信が込められていることを会津も来道もわかった。



『その瞬間に貴様ら以外の全員が“アレ”に殺されてしまうぞ』



その言葉が真実だと物語る“何か”が動き出したことを、二人はこの時、感じ取ったのだ。





『うぇえ……』


「きゅきゅ……」



先ほどの部屋を飛び出し、僕は今意外と清潔感のある通路を走っていた。


銃音寛治の足を持つのに邪魔だったので、今は鬼形は鞘に納めて腰に佩いている。


とはいえ、ヴァイスとシュバルツとの融合のおかげで脚力は十分に普段より強化されている。


今、銃音寛治の千切れた足を持って移動しているのだが、これがとにかく血生臭い。


まぁ、ついさっきまで本人にくっついていたわけだから仕方がないけど……



『っ! おーい!!』



そうこうは考えて走っているうちに、稲生の背中が見えた。


鬼龍院が先頭で、その次に銃音寛治を背負った土門先輩がいた。


僕の声に気が付いたのか、全員が足を止めてこちらを見る。



「歌丸!」



僕が駆け寄ってくると、稲生が真っ先に近づいてきた。



「あんた、眼にその耳、肩も火傷が……!」


『それは後! 先輩、これ銃音の奴にくっつけて、これ、来道先輩が使えって!』


「あいつら、合流したのか! じゃあ、それ、エリクサーか!!」



事前に説明を受けていたのか、土門先輩の表情が明るくなる。


背負っていた銃音寛治をゆっくりと床に降ろし、そして僕が持ってきた足を銃音寛治の怪我の部位に近づける。



「三人とも、銃音が動かないように押さえてくれ」


「「『はい!』」」



僕が銃音寛治の残っている右足を固定し、鬼龍院が右手、稲生が左手をそれぞれ抑え込む。


そして土門先輩は千切れていた左足の方を抑えながら、ゆっくりと呼吸をする。



「――よし、いくぞ」



そう言って、土門先輩は僕が渡したエリクサーの入っている注射器を患部に直接差し込んだ。



「――ぐ、ぎ」



その瞬間、今まで気絶していた銃音寛治の身体がビクッと痙攣をおこす。



「何が何でも押さえつけろ!!」



土門先輩は叫びながら、止血帯を緩め傷口を晒す。


隣で見ていた僕は、その傷口の様子が見えた。


もともとグロイ肉の断面が、グチャグチャになっていた。


つい先ほど見た、敵の男の傷と同じような状態になる。


そして、そんなキモイ状態になったところに、土門先輩は一切の躊躇もなく、僕が持ってきた足をくっつけた。



「――がああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」



途端に、気絶していた銃音寛治が白目を剥いて絶叫しだす。



「押さえろ! くっついた足がまた千切れるぞ!!」



その言葉に、僕も稲生も鬼龍院も全体重を掛けて銃音寛治を押さえつけ、意味もない打だろうがシャチホコも一緒に銃音寛治の上に乗る。意味が無いけど。


そしてそんな絶叫もほんの数秒で、銃音寛治は小刻みに体を揺らしながら再び気絶する。



「あ、あの……お兄ちゃん、この人、口から泡吹いてる……」


「ああ……あまり見てやるな。一応こいつにも体面ってもんがあるから……」


「…………あの、土門先輩」


「…………言うな」


「いやでも…………いえ、はい、そうですね……はい」



足を抑えていた僕と土門先輩は、起こってしまった事実にすぐに気が付いた。


……人はとんでもない衝撃を感じると、急激なストレスから神経が誤作動を起こすことがあるという。


それは生物学的なことから色々と仕方がないことであるが……まぁ、端的に言おう。



――銃音寛治は、失禁した。



普段ならザマァ見ろと笑ってやりたいところだが、状況が状況なので仕方がない。



「とにかく……まぁ、足は繋がったみたいだな、良かった」



安堵しつつ、銃音寛治の足を見る土門先輩


ひとまず僕も奴の足から手を離す。



「歌丸……その……ナズナを頼む」


「あはい」



流石に失禁したまま放置、というのはできないという判断だろう。


かといって、稲生の近くで同年代の男子を着替えさせるわけにはいかないという気遣いだろう。



「稲生、ちょっといいか?」


「え、何」


「いいからちょっと来てくれ」



馬鹿正直に銃音寛治が漏らしたから着替えさせるなんて言えるわけもない。



「鬼龍院……悪いけど、その……ちょっとこいつの身体拭いてやるから水魔法、頼めるか?」


「はい? あ…………はい」



後方での小声の会話も、今の僕にはばっちり聞こえた。


銃音寛治、今はほんのちょっとだけ同情するわ。


ゲロ吐きまくった僕だけど、流石に人前で漏らしたことは無いからな。うん。


苦痛耐性フェイクストイシズム、取っておいて本当に良かったなと……今更ながら凄い過去の自分の判断を褒めたい。



「ちょっと、急にどうしたのよ?」


『あ、あー……まぁ、その、なんというか…………あ、怪我、大丈夫だったか?』


「あんたがそれ言う?」



何か話題はと思って悩んだが、そもそも稲生だってさっき大怪我したのを思い出す。


しかし、心配したというのに何故か稲生は僕の方を呆れ顔でみる。どうして?



「ほら、ちょっと顔貸しなさい」


「殴るの?」


「殴りません。ほら、こっち」



そう言って稲生は強引に僕の顔を両手で挟み、近くに寄せてきた。


顔が近い……と考えてるうちに、稲生はポケットからハンカチを取り出して僕の顔を拭く。


そして、赤黒く汚れたハンカチを見て、そう言えば目からも出血していたなと今さら思い出す。


今はもう右目は見えるようになったので気にしてなかったけど……汚れ具合を見ると結構出血してたんだな。



「……ごめんなさい」


『なんで謝るんだよ?』


「私がもっとちゃんとしてれば……あんたがこんな怪我することなかった」


『それは違う』



確かに、稲生があの時戦闘不能になったのは驚いた。


だが、それだけだ。


あの時、稲生が銃音寛治を庇わなければどうなっていたのか考えても、現状とさほど変わらない。


いやむしろ、僕はシュバルツとの融合ができずに今よりもっと大怪我をしていた可能性だって否定はできない。



『これは結局は僕が弱いから……いつも通りだよ』



僕がそう言うと、稲生はぎゅっとハンカチを掴み、そしてもう一方の手で僕の制服の襟をつかんだ。



「いつも通りって、何よ」


『……稲生?』


「――あんた一人だけ残して、逃げるしかなかった私の気持ち、ちょっとは考えなさいよ!」



目に涙を溜める稲生


その顔を見て、ズキンと痛みを覚える。


……これは僕だけじゃない。


稲生のことを親だと思っているヴァイスとシュバルツの両方が今、悲しんでいるのだ。


融合してその気持ちをダイレクトに感じ取れたからか、自然と体が動く。


少し前にそうしたように、稲生をぎゅっと抱きしめた。


あの時と違うのは、僕たちの間に、子兎がいないことだろう。


だからこそ、稲生の存在を先ほどより強く感じる。



『ごめんな、心配かけて』


「っ……――――」



僕が謝ると、途端に稲生はとうとう涙をこぼし僕の胸元に顔をうずめ、声を押し殺して体を震わせる。


また泣かせてしまった。


僕はいつもいつも、僕のことを大事に思ってくれる人たちを悲しませてしまう。


ああ、強くなりたい。


そうすればきっと……僕は誰も悲しませなくて済むのに。



「――きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ!!!!」


「『っ!』」



抱き合っていた僕と稲生だったが、突然鳴きだしたシャチホコに驚いてお互いに距離を取る。



『――あ』



次の瞬間、酷い頭痛がした。


視界が二重に、三重に、四重、五重と幾重にも重なり頭痛がする。


そのすべてで、稲生が死んだ。



『あ、ぇ』



首を切り落とされた、腹を刺された、頭を射抜かれた、弾けた、牽かれた、刺殺、射殺、圧殺、殴殺、斬殺――あらゆる稲生の死の情報が頭の中に叩き込まれる。



死んだ、死んだ、殺された、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ。



『――あ、ぁあアアAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』



違う違う違ウ血がうチがう、血が血、赤イ、チが、違う、これ――チが――!!!!


――このままじゃ駄目だ、駄目だ駄目駄目駄メダ目ダメだ目駄め駄目!!!!



『ヤメロぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』





「――きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ!!!!」



「っ!」

『離れるな!!!』



シャチホコが鳴きだし、稲生薺は思わず歌丸連理から離れそうになる。


だが、その瞬間、逆に連理はナズナをより強く抱きしめ後方に飛ぶ。


同時に、ナズナが先ほどまで立っていた場所に鋭い槍のようなものが突き刺さる。



■■■■ERROR■■■■■■■■■■■■■■■因果干渉により対象の殺害を妨害されました



耳が痛くなるような意味の分からない音が周囲に響き渡る。



その意味を正しく理解できる者はいない。


一人を除いて。



「――て、めぇ……!!!!」



鮮血が目から噴出する。



「歌丸、血が、眼から……!」



稲生が心配そうな声を発するが、今はそれどころじゃない。



『よくも、稲生、ヲ、殺しタ、ナぁ!!』


「え、ちょっと、歌丸?」



連理の言葉の意味が分からずに困惑するナズナ。


明らかに今の連理の状態は普通じゃない。



『稲生下がってろ!』



返事を待たず、連理はナズナを後方に押し退け、腰に佩いた鬼形を抜刀する。


額から角が生え、出血で赤くなっていた目がさらに赤く染まる。



■■■■■■■■、■■■■■■■■汚染濃度:28%、対象、歌丸連理を確認


■■■■■■■■■■これより測定を開始する



周囲には奇怪な音しか聞こえていないが、その意味を正しく理解できる歌丸だけはより殺意を高める。



『ベラベラとうるせぇぞ、天使モドキが!!』



――天使モドキ


そう歌丸が称した存在


白磁の肌、などと評されることはあるが、それ以上に白い肌は光沢感がある。


顔だって凹凸はしっかり確認できるのだが、セラミックで作られた肌に、人の形だけで顔には目も鼻も口も耳も、あくまで形だけのマネキンだ。


それでも音を発しているのは、その頭上に輝く光の輪が細かく振動しているからだろうか。


そしてマネキンの背中に生えている羽は機械を連想させるような物体がある。


実際は羽を模した薄い金属片が集まっているだけなのだが……形状は翼といっても差し支えない。


血を流す鬼と、無機質な天使


その両者が今、相対する。

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