第294話 シャチホコ、進化への道! ⑯ベストを尽くせ
男は怒りの形相をそのままに、口を開く。
「――■」
男の口から発せられる一言、いや短い音。
聞き覚えのあるような、それでも初めて聞くその音に、その場にいた誰もが訝しむ。
「なんだ、気でも狂った――」
「避けて!!!!」
咄嗟に動いた稲生
体当たりように銃音を弾くと、直後、炸裂音が響く。
「――ぁ」
僕たちの目の前で、稲生が爆炎に包まれた。
「稲生!!」
「ナズナ!?」
いきなりの爆発、咄嗟に僕は倒れる稲生を抱き留めて、男から少しでも離れる。
「テメェ何を――が!?」
そしてその間に、男に向けてライフルを放とうとした銃音寛治だったが、今度はその手が爆炎に包まれる。
そのまま腕が焼かれてもおかしくなかったが、銃音寛治は咄嗟にライフルを捨てて後ろに跳んでいた。
とはいえ、腕にははっきりとわかるくらいの大やけどをしている。
「下がれ!!」
後方で鬼龍院が叫ぶと、僕たちと男の間に石の壁が出現した。
「稲生、おい、稲生!!」
「――い、たいから、揺らさないでってば……!」
まさか死んでしまったのかと背筋が寒くなったが、稲生はちゃんと返事をしてくれて安堵する。
「きゅぽ」
そしてその体が一瞬光ったかと思えば、稲生の胸の上にシュバルツが出現する。融合が解除されたようだ。
土門先輩がすぐにこちらにやってきて稲生の様子を見る。
「うまく直撃を避けたみたいだな……とにかくポーションを飲むんだ。早く」
「う、うん……」
ぎこちないながらも、土門先輩から受け取ったポーションを飲む稲生。
「土門先輩、稲生と一緒に下がってください」
「わかった!」
ひとまず稲生を土門先輩に預け、僕は石壁の向こうに意識を向ける。
そして思い出すのは先ほどの爆発だが……
「さっきのあれ、魔法か?」
「狙いを定めた空間を爆発させるトラップ型の爆破魔法……デザグネイトバーストだが……早すぎる。
発動する前兆としても、さっきの一言発した以外何もなかった」
この場で一番魔法に詳しいであろう鬼龍院が、信じられないという表情をしていた。
「どんな空間でも一度設置してしまえば、傍目からには前触れもなく爆破したように見える、トラップとして強力な魔法だ。
しかし、体から魔力を放出するのではなく、空間に魔力を固定化して発動させるのは高度技術で、たとえ金剛先輩であったとしても発動には十秒はかかるはずだ」
瑠璃先輩でも十秒……あの人の頭、学園どころか世界的に見てもとんでもないくらいのスペックだったはずだが……
「――がは!?」
「鬼龍院っ!?」
突然の爆発は、すぐ近く――鬼龍院のすぐそばで発生した。
あの男はこちらの姿も見えてないはずなのにどうして――そう思った直後に、脅威を感じ取った僕はすぐさまその場から高く飛びあがる。
ヴァイスとの融合により手に入れた脚力により、足元で発生していたであろう爆発を僕は無事に回避できた。
「どういうことだよ、これ……!!」
意味が分からない。
突然前触れもなく爆発が起きる。
相手がこちらの姿を視認しているのならまだ理解できるが、それすならく、突然の爆発。
まさか音を聞いただけで正確な位置を、とんでもない速度で魔法を発動させていると?
そんなのどう考えても、人間業じゃない。
そんな風に着地しつつ戦々恐々としていると、爆破の直撃を受け、倒れた鬼龍院が起き上がるのを確認した。
「鬼龍院、無事か!?」
「耐久力上げるポーション飲んでたから、なんとかな……!」
キラービーの群対策として使っていたのだろうか?
だが、そう何発も受けて平気なはずがない。
おそらく僕なら直撃したら稲生同様に戦闘不能になってしまう。
「どうした、先ほどまでの威勢は?」
僕たちの目の前で石壁が破壊され、そして現れる青い目の男。
その表情には怒りを残しつつも、僕たちを見下し、嘲っている。
「ふっ……ほんの少しでも本気を出せば、所詮貴様ら人間など、この程度だ」
これが、本気……転移の魔法を使っていたから、魔法による攻撃手段は持っていると思っていたけどこれほどまでなのか……いや、それはそれとして……
「……なんで立ってる? さっきまで毒が効いてたはずなのに」
先ほどまで、目の前の男は銃音の毒を受けて動けなくなっていたはずだ。
それなのに今は、まるで己の存在を見せつける堂々と立って、一歩、二歩とこちらに歩いて来る。
「確かに、少し不快だったが所詮は人間用。私のような高次元の存在には、大した効果はない」
「お前、一体何なんだ?
ドラゴンでもないのに迷宮の構造を変えて、毒も向かなくて、魔法も意味不明……それに、その髪に、瞳……」
僕の中でとんでもなく嫌な予感がする。
まだ確証を得たわけじゃないけれど、それでも、今、目の前にある男の容姿は無視できなかった。
「あんた、
十年前の卒業式レイド、その際に迷宮に挑み、そのまま帰らぬ人となったはずの英里佳の父親
日本にいながら明らかに外国の、西洋の雰囲気のある容姿の男性に、英里佳と同じ髪と瞳……これだけの要素があって、まったくの無関係だとは思えない。
だが、僕のその問いに、男は明らかな嘲笑を返す。
「下らん。私に人間の名などあるはずがない。
貴様ら人間風情には理解などできはしない」
髪と瞳は同じ。だけど、今まで見たことが無いほどの嘲笑。
相田和也や、御崎鋼真と、こちらを見下す人の悪意には度々に見てきたが……これはさらに枠が違う。
あいつらは、こちらを見下していてもまだ人間として――自分と同じ存在として僕を見ていた。
でも目の前の男はなんだ?
まるでドブネズミを見るかのように、僕や鬼龍院を見下し、侮蔑し、排除したいという思惑を隠さぬ悪意がある。
「――ああ、そうだ、そうだった」
困惑する僕を他所に、男は名案を閃いたと言わんばかりに狂暴な表情を見せる。
「貧弱な手足などむしろ邪魔だ。
切り落とし、新たに丈夫な手足に挿げ替えればいい。
移植……だったか? 貴様ら人間は、汚らわしくも別の手足をつけられる便利な存在だったのだろう。“鼠”の使っていた玩具と同じようにして、一級の器に私が手ずから仕立ててやろう」
奴のその言葉に、僕は“鼠”というコードネームのネクロマンサーを思い出す。
そして、奴が使っていた、人間の死体をバラバラにしてつなぎ合わせた怪物
……未来の椿咲があっさりと倒してしまったが……まさか、こいつは僕をそんな風にしようとしているのか?
「イかれてるな、こいつ」
口の端から血を流しながら、鬼龍院は戦意を高めていく。
「ああ、そうだ、丁度いい。
この“器”の手足を使えばさらに良い仕上がりになるだろう。
あの“邪神”に対抗する力を持っているし、スキルを共有させられれば好都合だ」
「――鬱陶しい、頭がおかしい奴との会話は本気で疲れるな」
その時、不意に男の腹部から刃が生えてきた。
「……は」
「「っ!?」」
男は自分の腹部から生えてきた刃を見て呆け、そしてその光景に僕と鬼龍院は絶句した。
いつの間にか、男の背後には銃音寛治がいて、背中から腹へと袖から出した刃で貫いていたのだ。
隠密スキルで姿を消して、奴の注意が僕たちに向いてる間に背後に回っていたのか!!
「掠った程度が利かないなら、もっと大量に注いでやるよ。たっぷり苦しめ、外道が」
そう吐き捨て、さらにもう一本、刃が男の腹部から生える。
「……がはっ!!」
男の口から、大量の血反吐が零れ落ちる。
どこからどう見ても致命傷だ。
「ま、待て! まだ聞かなきゃいけないことが――!!」
止めようとしたが、遅かった。
「――地獄に落ちろ」
男の腹に刺さった刃が、それぞれ逆回転で捻られた。
「うっ……」
腹の肉がそれぞれ引きちぎられ、穴が空く。そこから見えた赤黒い肉の塊を見て、僕は思わず目を背ける。
そして男は、腹から夥しい量の血を流しながら、地面に倒れる。
そして、その背後には銃音寛治が立っていた。
酷い火傷を負っていたその手は、もうその火傷が見えないくらいの返り血で汚れていた。
「死んだ、のか……?」
僕は恐る恐ると口を開く。声を発して初めて自分が震えていることを自覚した。
そしてそんな確認など、不要なものだった。
誰がどう見ても、あれで生きられるはずがない。
にもかかわらず、銃音寛治は倒れた男に向けてその刃を再び降ろそうとしていた。
「止めろっ!」
そんな銃音寛治に、僕は声を張って制止する。
「もう死んでる! それ以上は何もする必要はない!!」
「うるせぇ、念のために手足切り落とすだけだ」
「念のためって――……どうみても八つ当たりだろ、それは!」
「――なんだと」
銃音寛治の視線がこちらに向く。
以前、体育祭の会議室で見せた時よりも、はるかに冷酷な敵意が、こちらに向けられる。
「何があったのか知らないが、あんたが今やろうとしてることと、そいつらがこの学園でやってきたことの、何が違うんだ!」
「ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、うるせぇんだよ役立たずが!!」
「な、なんだと」「落ち着け、味方同士で争うな!」
言い返そうとした僕を、鬼龍院が止めに入る。
「銃音先輩も、落ち着いてください。
それ以上死体を辱めるようなことは俺も見逃せ」「テメェは黙ってろ!」
しかし、銃音寛治はこちらに耳を傾けようともしない。
「こいつの身体調べて、少しでも奴らにつながる手がかりを手に入れるんだよ、俺は!!
お前らじゃなくて、予定通りにあいつらが一緒だったら、殺さなくても生け捕り出来てたんだよ!!
歌丸連理、お前はいちいちいちいち、俺の邪魔ばっかりしやがって、目障りなんだよ!!」
「さっきから好き勝手言いやがって、お前一体なにさ――」
頭に血が上り、堪忍袋の緒が切れた。
今度こそ言い返してやる。
そう思った矢先、僕は銃音寛治の足元に倒れている男の身体が微かに動いたのを見た。
同時に、僕と融合しているヴァイスが危機を報せる。
「――避けろ!!!!」
「は――」
僕の声を聞いて銃音寛治は一瞬呆けた顔をしたが、すぐにその場から動く。
否、動こうとした。
だが、結果は非情。
銃音寛治は、その場に仰向けに倒れた。
そして僕と鬼龍院の目の前に、ドチャという重みのある水音がした。
「――な、ぁ」
絶句する鬼龍院
今、僕たちの目の前にある物体は、靴だった。
――ただし、太ももほどまでの長さのある、アサシン用に変化した制服のズボンの裾が付いている。
そして、こちらからの角度では見えないが、制服が下の方から徐々に赤くなってきており、そこには確かに中身があるということを知らせる。
「――が、ぁ、ああああああああああああああああ!!!!」
聞こえてきた絶叫は、銃音寛治の口からだった。
銃音寛治は今、何もなくなった、右足があったであろう場所を抑えて絶叫している。
「――人間、フゼイが……よくもやって、くれた、なぁ」
倒れた銃音寛治とは逆に、立ち上がる男
誰がどこから見ても致命傷であったはずの腹部の穴が、消えていく。
まるで逆再生の映像を見ているかのように、塞がっていくのだ。
「鬼龍院!!」
「わかってる、行け!!」
僕は即座に颯を発動させ、一気に間合いを詰める。
「ぉおおおおおおおおおお!!!!」
全身に物理無効スキルの光を纏わせ、我武者羅に体当たりを繰り出す。
「ちっ――!!」
すると、これまでの行動と同様に大袈裟なくらいに男はその場から離れて距離を取った。
とにかく、今は銃音寛治から引き離す。
「おぉおおおおおおおおおお!!」
即座に間合いを詰め、さらに攻撃を仕掛ける。
男の傷は完全に塞がったが、動きはまだ鈍い。追撃するなら今がチャンスだ。
「残りカスが、図に乗るな!」
男の手に剣が出現する。
剣が出現する。
学園の前線基地とか、レンタルとかされているような安物だ。
しかし、ただその剣を持っただけで、男の脅威が数倍に増した気がした。
剣を振り、ヴァイスの本能と死線スキルの両方が発動する。
瞬時にどう動くべきか――いや、正しく動かなければ死ぬと理解し、必死に体を動かす。
だが、駄目だ。このままじゃ、すぐに避け切れなくなる。
――まずい、殺される。
本能的にそれを察知した僕は、できるかできないかとか、そんなこと考える前に叫ぶ。
「――シュバルツ!!」
「きょぽ!」
今この時、僕はヴァイスとシュバルツの両方と融合した。
『あ――が――』
頭が割れるような頭痛がして、視界が二重に見えた。
幻覚かと思ったが、違う。
二重が三重、四重、五重とどんどん僕の視界内で異なる動きをする剣の軌道が見えた。
その中から、僕でも防げる軌道を選び、回避する。
次の瞬間、頭痛が一瞬軽くなり、視界が正常に戻った。
「――な――このっ!!」
一瞬だけ男が驚いたような息遣いが聞こえたが、すぐに返す刃で攻撃してきて、再び視界が何十にも重なる。
その中から再び僕でも回避、もしくは防御できる攻撃を選択し、それに合わせて動く。
「なに――ぐっ!!」
再び紙一重で回避し、その腹に肘鉄を叩き込んでやった。
頭痛が酷過ぎて物理無効スキルが使えなかったが……この現象が何なのか、少しわかってきた。
これは、シュバルツの“
稲生はこんな風に頭痛が発生してるようには見えなかったし、こんな状態になるならさっき銃音寛治をかばって怪我をするはずもない。
ということは、今、もう一つのスキル“
単体では意味が無くとも、組み合わせると性能が化けるなんて、この身で何度も実感してる。
いや、考察は後だ。今はとにかく、この状態を使ってどうにか現状を打開することだけを考えるんだ。
「小癪なっ!」
男は明らかに殺気立った様子でさらに続けて攻撃をしてきたが、そのすべての攻撃が今の僕にとっては無意味だ。
視界が何重にも重なった中から、対処可能な物を選ぶと、相手がその通りに動き、容易にカウンターを入れられる。
『はぁ――はぁ――はぁ!!!!』
しかし、なんだか息苦しい。
超呼吸のスキルは聞いているはずなのに、いくら空気を吸っても足りないし、頭が痛いし、視界が歪む。
まるで首を絞められているかのような感覚がしたが、それでも僕は戦うしかない。
「――歌丸、応急処置は済ませた、早く逃げるんだ!!」
背後から鬼龍院の声が聞こえた。
一瞬だけ見ると、僕たちが入ってきた扉とは別の扉から顔を出して鬼龍院が叫んでいた。
足音から察するに、稲生はどうにか動けるようで、足を切断された銃音寛治は、土門先輩に背負われているようだ。
『先に、ニゲろ』
今逃げても、こいつに追いつかれるのが目に見ている。
そして、現状、こいつを相手にできるのは僕だけだ。
「逃げすと思うか――■」
男が口を開き、また先ほどのように超高速の詠唱らしきものを発しようとするのが分かった。
この発動は止められない――だが、邪魔はできる。
『兎ニモ角ニモ』
ラビットホーンを発動し、手に持つ鬼形の刀身に纏わせて振るう。
「っ!」
鬼龍院の方を向いていた男の視線が僕の方に向く。
魔法の対象も僕に変えられたのが分かり、再び視界が何重にも重なった。
視界が赤くなり、鼻の奥がツンとした痛みを覚えたが、気にしてはいられなかった。
首が痛くなるくらいに右に曲げると、僕の顔のすぐ横で爆発が起き、耳が焼け、右方の制服焼けこげる。
多分鼓膜が破れたのだろうか、急に右の音が聞こえにくくなった。しかし、まだ左がある。
『ぁああああああ!!』
「くっ!!!!」
物理無効スキルを纏った刃に避けるのに必死で、男はその場で崩れるように倒れたが、それでもすぐに地面を転がって体勢を立て直す。
「■」
『させるかぁああああああああああああ!!』
魔法を自由には使わせない。
あと少し、ほんの少しだけ時間を稼ぐ。
だから、その間に――
そんな意志を込めて、鬼龍院の方に視線を向けた。
「――待ってろ、すぐに助けを呼んで来る!!」
そう言って、鬼龍院たちがその場から離れてのを音で確認した。
『ぐ、ぅ、ぁああ、アアああ!!』
頭痛に耐えながら、僕は相手の攻撃をスキルの力でどうにかいなし続ける。
さきほどから頭痛が止まらなくなってきて、
「この動き……まさか、ありえん……だが、いや、しかし……」
なんど攻撃し、そして防御したかわからなくなってきたころ、男は何やら焦ったような声音で僕のことを見ていた。
「まさか……因果律に干渉しているのか?
そんな兎と融合した程度で?」
『なニ、言っテんだ、おマえ……?』
「自覚がないのか?
いや、だが……奴の力に汚染された連中ではその領域に干渉することなど不可能なはず」
意味の分からないことをぶつぶつと呟きだす男。
ポタポタと、足元に液体が落ちていく。そこで僕は自分の鼻から血が出ていることに気が付いた。
いや、これもしかして……目からも出血しているのか?
「人間だけではない……兎も、奴の汚染とは異なる力だとでもいうのか?
しかし、我々の用意した種族とはまた異なる力などあるはずが……いや、奴が自分で用意した? ありえん……そんな自滅を招くことなど……いや、だが奴ならば」
頭痛が酷過ぎて何を言ってるのかよくわからないが……なんとなく、こいつのいう“奴”が誰なのかはわかった。
『あのドラゴンのナにを知っテルんだ?』
なんかさっきから喋りづらいな……どうも体がフワフワとしててちょっと動きにくい。
「知っているか、だと……?
なんだ、その問いは?
お前たち人間が、一体どうしてこんな風にのうのうと生きていられるかもわかっていないのか?
誰の手によって生かされ、誰の手によって自由を謳歌できているか、それすら気付かずに愚かにもお前らは奴の身体を這いずり回っているのか?」
『……?』
こいつの言葉の意味がよくわからない。
だめだ、さっきから考えがまとまらない。頭痛が酷過ぎる。
「何も知らないのか? 本当に?
…………は、ははははは……これは傑作だ」
言葉とは裏腹に、男の言動には明確な失望が見えた。
「こんな、ゴミども為に……我々は放逐されたというのか?
――認められるか、そんなこと』
男が鋭い視線を僕に向けてきて、鋭い視線を向けてきた。
重なっていく視界はそれぞれ周囲が爆炎に包まれていき、その中での僕が生き残れるであろう光景を
「我々ですらその力は使いこなす者はごく一部。
人間程度が、いったいいつまでその力を使いこなせるのだろうな!!」
『くっ――』
回避自体は難しくはない。
だが、避けるために“力”を使うたびに頭痛が酷くなっていく。
『ウ、ぁ……』
ブチっと、何かが切れる音がして、右側の視界が真っ赤に染まる。
まずい、血管が切れて血があふれてきた……!
右側は音も聞こえずらくなったのに、その上視界まで奪われたら――
「その右足、吹き飛ばしてやる」
再び視界が重なるが、そのすべての視界に重なる事実に僕はゾッとした。
――その視界のすべてで、僕は右足を失う。
まずい、今動けなくなったら、時間稼ぎすらできなくなる!!
最悪な未来が眼前に迫っている――そう自覚した直後、また別の未来が見えた。
僕一人では何もできない。それに変わりはないが……僕以外の者がここに来た。
「すまん――遅くなった」
僕は瞬時に視界が変わり、気が付けばお姫様抱っこ状態になっていた。
そしてそんな僕を抱き上げている人は……
『来道、先輩』
「おう」
「きゅきゅぅ!!」
来道先輩の背にいたのか、シャチホコは僕の胸の中に飛び込んでくる。
「なんだと……馬鹿な、確実に分断したはず――ぬ!?」
「ちっ――勘のいい奴」
男はすぐに右に避けると、先ほどまで立っていた場所を、豪速で槍が通過して壁に突き刺さった。
「他の奴らは?」
『あっチの、方に……僕は、時間カセぎに……』
「……そうか、だいたいわかった」
来道先輩は一瞬、この部屋に残された銃音寛治の千切れた足を見て、男の方を睨む。
「良くもやってくれたな」
「ああ……久しぶりに頭に来た」
北学区生徒会副会長・来道黒鵜
北学区生徒会会計・会津清松
あの男が本気で警戒した二人が今、この場に戻ってきた。
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