第287話 シャチホコ、進化への道! ⑨合流



「……ここも行き止まり、か」



暗闇エリア、本来ならば不死存在アンデットが多く存在しており、そんな中を進む四人の青年たちがいた。



「やはり“階戸佑”の記憶にある時期から時間経過がしすぎているな……そうでなくとも暗闇エリアは攻略する頻度が少ない。


予測作成された地図も、ここでは殆ど役に立たない」



しかめっ面でそんなことを言いながら、持っていた地図に×印をつけるのは、このパーティのリーダーである銃音寛治つつねかんじであった。



「まったく……犯罪組織が使ってる区画っていう位だから、人が使いやすいように“変性”が起きないのかと期待してたんだがなぁ……」


「相手はエンペラビットほどではなくともナビ能力を持っているのなら、変性なんて気にしなかったんだろうぜ。


あーあ、羨ましいなぁ……」




疲れたように呟く会津清松あいづきよまつと、そんな彼の言葉に釣られて愚痴をこぼす柳田土門やなぎだどもん



「俺たちがこの階層に到達してもう8時間経過、か……流石に、もう俺たちの存在は相手に気付かれていると思った方が良いだろう。


銃音、どうする? 一度引き返すか?」



そう訊ねてきたのは、このパーティにおいての探索の要である来道黒鵜


彼の意見ももっともだ。


しかし、ここで何も得られずに引き返すというのは避けたいとも銃音寛治は考える。



「……ん? ちょっと待て、なんか学生証が反応してるぞ?」



黙考していた銃音だったが、不意に会津清松がそんなことを言う。



「こんな時期に反応って……遭難者か?


無線で呼びかけるが、構わないか?」


「……待て、俺が無線をつなげる」



清松の代わりに自分の学生証を操作する寛治。


通話機能から無線を選択し、受信状態に設定をすると……



『――ら、鬼龍院蓮山です。応答願います』





暗い道の中を進む、僕、歌丸連理、鬼龍院、稲生、そして三匹の兎たち。


行く先々には必ずと迷宮生物やトラップなどが待ち構えていたのだが……



「ゴブリンの大群……物量で押してきたわね」


「流石に時間が掛かるかな、これは……」


「一掃するから下がってろ――フェイク・ブリザード!」



ザコの大群は鬼龍院の魔法によって蹴散らされ……



「えっと、そことそこ、んでその辺りは即死級の罠だな」


「きゅきゅ」「きょぽ」「きゅぷぷぅ」


「んで、そことそこ、それとあのあたりには即死級に追い込むためのトラップがあるっぽいぞ」



僕の死線スキルと、兎たちの感知能力でトラップを的確に見抜き……



「GUROOOOOOOO!!」


「獣タイプならお手の物よ――ほら、言うこと聞きなさい」



稲生はテイマーとしてのスキルを行使し、襲ってきたハウンドタイプの迷宮生物を見事に手懐けて大人しくさせ、眠らせてリリース



「これはおかしい……」



快調に迷宮を攻略していく一向


そんな中で、臨時のリーダーを担っている鬼龍院は渋い表情でそんなことを呟いた。



「なんだよ急に、何か問題あるのか?」


「逆だ、頭がおかしくなりそうなくらい、スムーズに攻略が出来ておかしいって言ってんだよ」


「そうか、だいたい迷宮攻略ってこんな感じだろ?」


「ちげぇよアホ」

「ええ、違うわね」



チーム天守閣の時の攻略ペースはだいたいいつもこんな感じなので、鬼龍院と稲生から同時にそんな風に否定され、僕は訳が分からずに首を傾げる。



「そうだった……こいつらチーム天守閣にとっての一番のチートって、戦闘能力じゃなくて、このナビ能力だった」


「トラップとか会敵のタイミングとか、敵の数や種類も事前にわかるから、精神的に凄い余裕があるわよね……」


「ああ、そういえば他のチームだとその辺りで凄い苦労するって聞いてたな。


そっちのチームだとトラップ解除とか、迷宮生物の対応とかどうしてるんだ?」


「基本は渉が斥候の役割も兼ねてるから確認してくれるが…………」


「私が一緒の時は、じれたユキムラが即効で進んでトラップを力業で解除してくれてるわ」


「お前らも大概じゃねぇか」



と、そんなことを言いながら迷宮を進み続ける僕たち。



「……きゅ?」



ぴくっと、シャチホコが足を止めた。どうしたのだろうかと思うと、鬼龍院が不意に自信の胸ポケットに手を当てている。



「……ん……まさか」


「どうした、鬼龍院?」


「学生証に反応があった」


「反応?」


「知らないのかよ、お前……学生証には事前に設定しておけば、登録してるアドレスの学生証が近くにある時に振動で反応があることを教えてくれる機能があるんだ。


仲間が遭難したときに探したり、斥候とかで一時的に別行動する時には必須の機能…………まぁ、お前らの場合はいちいち使う必要もないか」


「まぁ、そうだな…………って、待て、ということは、この区画に今、お前の知り合いが近くにいるってことなのか? 誰だ?」


「流石に個人までは特定はできない。ただ反応が近いことを示すだけだ」


「なんだよ、地味に使えないな……」


「文句ならそういう制限をしてるドラゴンに言え」



そう言いつつ、鬼龍院は学生証を取り出して周囲にかざす。



「向こうも気づいてくれたなら、無線が通じるしれないな」



そう言えば、学生証の通話機能って迷宮でも限定的に使えたんだっけ。


地上の様にいつでもどこでもってわけにはいかないけど、迷宮内部だと同じ階層限定で短距離通信が出来たり、もしくはトランシーバーみたいに複数人同時通話とかもできる。



「こちら、鬼龍院蓮山です。応答願います」



鬼龍院は学生証を操作して、無線機能を使い始める。



「でも……一体誰が、何しにこの階層に来てるのかしら?」


「何しにって、探索じゃないのか、普通に?」


「ここってニ十層より下……つまり、安全地帯の無い階層だっていうのが、私たちの予想でしょ」


「そう、だな……今日のシフトでは下村先輩がニ十層の安全地帯にいるらしいけど……通話機能は一切反応しないから、多分それより下だと思うし」


「今の期間中、北学区の多くは他の学区の人の護衛とか監視とかで手いっぱいのはずよ。蓮山くんが登録してる人って、大体は生徒会関係だし……そういう人たちが今の時期にニ十層より下に来るとは考えづらいのよね」


「生徒会関係以外での鬼龍院の知り合いが来てるとかは?」


「うーん……いつも一緒にいるわけじゃないけど……蓮山くんに生徒会以外での交流はあんまり知らないわね」



まぁ、あいつの性格って癖が強いし、無駄に向上心強いからなぁ……味方より敵の方が作りそうだからお世辞にも友達が多いタイプとは言えないよな。


…………僕も人のこと言えないな。


よく考えたら僕だって生徒会関係以外での交流ってほとんどなかった。



『――鬼龍院蓮山、なんでお前がこの階層にいる?』



そんな風に稲生と会話していたら、鬼龍院の学生証から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「……この声は……」



勝手に顔が引き攣るのを僕は感じた。


僕がこの学園において嫌いな人間、氷川明依を抜いて第一位に君臨した男の声だ。



「その声……銃音寛治先輩ですか?」


『質問に質問で返すな、鬼龍院蓮山』


「す、すいません。こちらは、犯罪組織の関係者と思われる存在と接触し、強制転移によって森林エリアからこちらに飛ばされました」


『お前一人か?』


「いえ、自分の他に稲生薺と歌丸連理『――チッ』と、歌丸がテイムした兎が三匹います」



鬼龍院の言葉に、学生証の向こうから思た目の舌打ちが聞こえた。しかも僕の名前を聞いたタイミングで。あの野郎……!



『……ん? 兎が三匹?


ギンシャリとワサビは別行動してたんじゃないのか?』



他にも聞き覚えのある声が聞こえた。


黒鵜副会長の声だ。



「今日、また新たに二匹テイムして、さらに進化させてユニークスキルを覚えさせてます」


『何があった? ……いや、本当に、何があった?』


『そこは後で聞いておけ……で、お前ら無事なのか?』


「はい、ここまで何度か迷宮生物との遭遇やトラップがありましたが、三人とも無事に突破してます」


『……わかった、ちょっと待ってろ』



そこで一旦通話が切れたのか、鬼龍院は学生証を胸ポケットに戻す。



「声は二人だが、おそらく他にもいるだろうな」


「そんなことわかるのか?」


「かすかだが、ノイズが混じった。


息遣いとかで同じようなノイズが発生した。


二人が喋るタイミングで、微かにそれが聞こえた」


「へぇ……」



これは素直に感心した。


普段通話機能とかあんまり使わないから言われるまで気付かなかったな。


……もうちょい学生証の昨日とか有効に活用できないか、戻ったらみんなと相談してみるか。



「――きゅう!」

「きょぽ!」「きゅぷぅ!」



そんな時、急に兎たちが反応する。


毛を逆立ててある方向を見ており、そこには……壁があるだけなのだが……その壁が、突如破壊された。



「な、なんだ!?」


「下がれ!」



僕は咄嗟に鬼形を構え、そんな僕の前に立つ鬼龍院はレイドウェポンであるクロスリフューザーを構え、斥力の力場を作る。


壁が壊れた拍子に発生した土煙が、僕たちを避けるように横に流れていき……そして、破壊された土壁の向こうを鬼龍院が照らすと……



「っ……おい、光をこっちに向けるな、こっちは暗視ゴーグル使ってるんだぞ」



先ほど学生証越しに聞いた声がした。



「銃音先輩、来道先輩……それに……清松先輩まで……!?」


「よぉ、まさかこんなところで会うとは思わなかったぜ」



壁を壊した張本人である会津清松先輩は大槌を肩に担ぐ。



「ちっ……まさかこんなところにいたとは……」


「明らかに今回は俺たちに巻き込まれただけだろ。文句を言うどころか、むしろ俺たちが謝罪すべきだ」



銃音寛治が何やら文句を言っているのを、来道先輩がたしなめる。


そして三人は身に着けていたゴーグルを外して素顔を見せる。



「――よぉ、随分と大変だったみたいだな」


「え、土門先ぱ」「お兄ちゃん!?」



そんな三人の影からひょっこりと現れた、元南学区生徒会長である柳田土門先輩


僕も稲生も驚かずにはいられなかった。



「なんで、皆さんがこんなところに……」



想定外のメンバーに鬼龍院も困惑した様子だったが、それに答えたのは銃音寛治だった。



「俺たちは今、この施設――迷宮内部に存在していた犯罪組織の拠点内部を探索中だ」



その言葉に多少動揺したが、同時に、僕たちはすぐに納得もした。



「お前ら反応薄いな……ナズナあたりはもっと怖がると思ったんだが……」


「おに――こほんっ――土門先輩、一応私もここに来るまで色々あったので、いちいちそんな子ども扱いしないでください」


「ははは、そりゃ悪かったな」


「……それに、元々私たちは犯罪組織の人間にここに送りこまれましたし、本来禁止されているバジリスクの人工飼育された個体も見ました。


普通の迷宮の生態とは異なって明らかに人の手が加えられている」



稲生の報告に、土門先輩の表情が強張る。



「……そうか……そうなると、俺も余計にこの施設に関しては見逃せなくなるな。


南学区の研究まで悪用されちゃ、黙ってられねぇ」


「しかし……ここは迷宮内部……そこに犯罪組織の施設があるということは……ドラゴンが裏で糸を引いているってことですか?」



表情が険しい鬼龍院


……まぁ、確かにそうだ。ここは迷宮、ドラゴンの領域だ。


そこに人が留まれる自由なスペースがあるというのは本来ありえない。



「いや、この領域に関しては学園長はノータッチだ。


まぁ、本人曰く、黙認はしてるだけ、らしい」


「あのクソドラゴンめ……」



人間の味方じゃないし、人間同士の争いに一方的に肩入れしないと公言していたが……迷宮にあるのを黙って、それに使わせてる時点で十分に肩入れしてるだろ。



「しかし、明らかにここまで取った道では迷宮の構造物であるトラップに指向性……人の意図らしきものが見えます。


犯罪組織の意図が反映されている以上、ドラゴンが迷宮の構造をいじったとしか……」


「その辺りも確認するために、俺たちがここにいるんだ。


想定外だが……結果オーライか。


鬼龍院蓮山、歌丸連理、詳しい説明は省くが、とにかくお前ら手を貸せ」


「はい」

「あ?」



鬼龍院は快諾したようだが、僕はこいつの言うことを聞くというのは納得できない。


だってこいつ、体育祭の時に思いっきり僕の邪魔してきたし。いや、向こうにも事情があったのは重々承知してるけど、やっぱり納得できない点もあるわけで……


だから、こんな上から目線で言われて納得できないわけで……



「歌丸、悪いが力を貸してくれ。現状、どうしてもお前の力が必要だ」


「はい、任せて下さい来道先輩」


「…………」


「落ち着け銃音、ナイフ出すな出すな」



袖からいつぞや見せた刃を見せてくる銃音寛治だがスルー。会津先輩に抑えてもらおう。


だが来道先輩に頼まれたのならが応えよう。これまで何度も助けてくれた恩人だし。



「えっと……あの、私はどうすれば……?」



先ほど名前を呼ばれなかった稲生は不安げに小さく挙手をする。



「先に言っておくが、ナズナをこのまま一人で帰すとか無理だし、置いていくのは論外だぞ」


「わかっている。連れていくぞ。


もともと戦力としては論外の歌丸がいる以上、大して手間は変わらん」


「………………」


「歌丸、魔剣を構えるな、しまえしまえ」



銃音寛治ぃ……! いちいち人を煽らないと会話もできないのかこいつ……!


鬼龍院と違って、こいつの悪態は侮蔑100%だからなお腹が立つ。



「よし、予定とは違うが……犯罪組織の拠点探索を続行する。


すでにもうこちらの存在はバレたと断定。


故に、こそこそ隠れるのは終わりだ。


――速攻で行くぞ、全員、遅れるな!!」



銃音寛治の偉そうなその言葉と共に、遭難から一変、僕たちの犯罪組織の拠点探査が始まるのであった。

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