第284話 シャチホコ、進化への道! ⑥殴りに行こう(確定)
■
――歌丸連理、稲生薺、鬼龍院蓮山
以上三名が、遭難した。
その一報が北学区生徒会に届いた。
そしてそれらの情報はすぐさま風紀委員(笑)を通じて、それぞれの仕事を割り当てられていたチーム天守閣の面々にも伝えられた。
そして現在、北学区の会議室にて歌丸連理救出のための現在対策会議が開かれていた。
出席メンバーは、報告役として遭難直前まで三人と一緒に行動していたチーム竜胆の鬼龍院麗奈
ちなみに他のチーム竜胆の萩原渉と谷川大樹は、それぞれ東と南への報告に出向いている。
チーム竜胆が護衛をしていた研究者たちの代表である植木彌
風紀委員(笑)の金剛瑠璃
そして、北学区生徒会で今回の歌丸に護衛チームとの動向を認可した氷川明依
更にチーム天守閣からはいつのも四名と、二匹の兎
今にもこの場にいる全員を殺さんばかりの殺気を放つ榎並英里佳
冷静な物腰だが目には闘気を滾らせる三上詩織
微笑んでいるが目が一切笑っていない苅澤紗々芽
直近でそれらの重圧を肌で感じて冷や汗をかいている日暮戒斗。頑張れ。
そして珍しく戒斗の近くで鎮座しているギンシャリとワサビ
以上の七名と二匹が、現在この会議室にいた。
「……まず、鬼龍院麗奈さん、この中で最も近くで犯人が歌丸連理たちを転移させる様子を見ていた。そうですね?」
氷川明依の問いかけに、鬼龍院麗奈は頷く。
「はい、その通りです。
そして、私たちが目撃した人影の言動によると……どうやら私たちとは別の集団を探していたらしく、接触は偶然。
蛇、という以前連理様たちが捕縛した者のコードネームを口にしたので犯罪組織の一員であることは確実です。
ただ、連理様に対して何やら妙な執着を見せていたようです」
「具体的には?」
「連理様のことを、“あの方の器”というものに選ばれた存在だと語っていました。
ですが、連理様の戦闘能力に落胆し、試すと言って転移させたように見えました」
「あいつの戦闘能力なんてたかが知れているのにわざわざ試す……妙な話ね」
「――そんなことより」
会議にて、良く通るが、とてつもない重圧の込められた声が響く。
声の主は、榎並英里佳だった。
「さっさと歌丸くんを救出に行きたいの。
瑠璃先輩がどうしてもというから、仕方なくこの場に私たちはいるの。
無駄話するだけだったら私たちは救出に行く」
「――そうはいかないケースなのよ、これが」
あとから会議室に入ってきた女子生徒
その人物を見て、今まで形だけの微笑みを浮かべていた紗々芽が反応を見せる。
「……堀江先輩――いえ、堀江会長?」
「あれ、私、自分のこと言ってたけ?」
「あの後調べたので……まさか、西の生徒会長が直々に私と歌丸くんのコーチをしてたなんて驚きましたけど」
入ってきたのは、西学区の生徒会長である堀江来夏
「――まぁ、それはそれとして」
「……え」
入室し、悠々と上座の席に向かおうとして堀江来夏だったが、驚いた表情を浮かべながらその動きが不自然に止まる。
非戦闘員である植木彌や、鬼龍院れ映奈には、彼女が何故か不自然な体勢で急に止まったように見えるだろうが、事実は違う。
「……苅澤紗々芽、堀江会長の拘束を解きなさい」
氷川明依の優れた視力はその原因を見ていた。
細い細い、植物繊維から作られた糸
それが今、堀江会長の手足に巻き付いてその動きを止めていたのだ。
その様子に、氷川明依は内心で舌を巻く。
(これで後方支援系? 質が悪すぎる、ちょっと見ない間に妙な技術を覚えたわね)
歌丸連理と関わった人物の成長速度は異常
そんなことは前から分かり切っていたことだが、榎並英里佳、三上詩織に隠れていた苅澤紗々芽も例外ではなかったようだと警戒度を上げた。
「それは堀江会長の返答次第です。
――どうして、あなたが私たちを止めようとしているのですか?」
「あー、えっと……一度クールダウンして話し合わない? あの、本当にお願いします。私立場上は会長だけど、この場にはメッセンジャーというか、使いッパシリで来てるようなものだから、ね? 落ち着こう?」
「そういう下手な演技も結構です。あなたが元フロントライナーに所属していた戦闘狂だというのも知ってるんです。
――さっさと、話してください。あなたたちは歌丸くんに何をさせようとしたんですか?」
きゅっと、堀江来夏は自分の首に巻き付けられた細い糸が締まっていく感触を覚えた。
そしてそれは徐々に強まっていくのを実感する。
――ちょっと見ぬ間にヤベェ方向性に強くなってる。
内心で堀江来夏は絶句していた。
「――はぁ、やれやれ」
そう嘆息しつつ、堀江来夏は軽く指を動かす。
たったそれだけの動作。
その動作で、堀江来夏は体の自由を取り戻す。
「…………」
今度は紗々芽の方が驚いていた。
今の一瞬で、堀江来夏に巻き付けていた拘束用の糸がすべて解かれたのだ。
斬られた、ではなく解かれた。
糸に流し込んでいた操作用の魔力の主導権を、あっさりと奪われて解除されたのだ。
「魔術を使った拘束なら、糸は駄目だよ。魔力を流し込んで流れを乱せば簡単にアンコントロールになる。
太い紐とかなら、たくさん魔力流せるからこんな簡単に無効化できないけど……ああでも、不意打ちとかには凄い有効だと思うわよ、それ」
そんな解説をしつつ、自分に割り振られていた席に座る堀江来夏
非戦闘職とはいえ、彼女もまた実力者の一人なのだと、実感する。
「さて、それじゃあ今の事態なんだけど」「銃音副会長、ですよね、主導者は」
堀江来夏の言葉を途中で遮ったのは、三上詩織だった。
「まだ何も言ってないけど……というかちゃんと喋らせて欲しいんだけど」
「私たちはあまり悠長にしてられるほど気が長くはないんです。
勿体ぶるなら、私の仮説であなたたちが何を企んでるか言い当てましょうか」
「へぇ……どうぞ、聞かせてもらおうじゃない。
どうしてうちの副会長が主導者だと思ったのかしら?」
「ここまでの情報があって、尚且つ連理を平気で巻き込むようなゲスはあの男しか私たちは知りません。
連理たちを遭難させた人物は、その言動から犯罪組織であることは確実
そしてその人物は、連理たちとは別の集団を迷宮内で探していた。
体育祭の際、あの男は連理が西部学園の御崎鋼真との決闘を認める条件として犯罪組織のメンバーの意識を回復させるという約束をドラゴンとしていた。
この数日間でそいつから情報を引き出し、迷宮内でその情報を元になにか探していて……何かと目立つ連理たちを、囮にするために、このタイミングで連理にエンペラビットの生態調査の同行するように仕向けた。
違いますか?」
「うん、ほぼほぼその通り」
ごぅ、っと、会議室内で風がうねる。
そして気温が一気に低下していく。
詩織の手には氷の魔法剣であるクリアブリザードが握られていて、それを利用して魔法が発動させられたのだ。
「あ、はは……流石に夏でもこれはちょっと寒いかなぁ……」
結果、堀江来夏を囲む形で全方位に氷柱が出現して並び、尚且つ堀江来夏がいる場所だけ急激に熱が奪われていく。
その急な気温の落差に、会議室内で奇妙な気流が発生したのだ。
(おー……ちょっと見ぬ間にしーたん、魔力操作も上達してる……)
後輩の進歩に、金剛瑠璃は内心で感動を覚える。
「ち、ちょい、みんな落ち着くッス。
この場で暴れても俺らに良いことないッスよ」
殺気を隠そうとしない英里佳、平気で他学区の生徒会長を拘束した紗々芽と、現在進行形で攻撃しちゃってる詩織
この三人、歌丸連理が絡むと見境が無くなってきたなと危機感を覚える戒斗である。
「……とりあえず詩織さん、剣を収めて欲しいッス。
今の仮説が事実なら、俺にも堀江会長に聞きたいことがあるッス」
「……わかったわ」
戒斗の言葉に、詩織はクリアブリザードの魔力操作を解除する。
結果、空中に浮いていた氷柱は霧散して消え、会議室に発生してた妙な気流も解消、結果的に涼しさが室内に広がった。
「ふぅ……流石に私も現場離れてたブランクを実感しちゃうわ。
で、日暮くんの方は私に何が聞きたいのかしら?」
「今の詩織さんの発言が正しいとなると……犯罪組織は、俺たちも知らなかった、あんた達生徒会側の動きを把握していたことになるッスよね」
「ええ、そうね」
「連理たちを囮に使った……囮役は他にもいたんスか?
「正直に言うと、私の認識では彼だけじゃなくてこの時期の集団で行動してるすべての集団行動してる学生が囮の役割にあったわ。
彼に必ずしも敵が引っかかるとは思っていなかった。
まぁでも、迷うことなくスムーズに迷宮を進む集団だから怪しまれて接触された可能性は十分にあるわね。
銃音くんは、その辺りを計算に入れていたことは私は否定しづらいわ」
そんな堀江来夏の言葉に、恋する乙女三人衆の殺意が上昇していた。
「銃音寛治の本命の集団はいつ、どこから迷宮に潜るか決めていたはずッスよね。そっちは待ち伏せされてたんじゃないッスか?」
「そっちは彼が直々に指揮を取ってて、作戦内容はこっちには一切伝えられてないの。連絡も一切無し。
彼が信用できると判断した人間以外は完全にシャットアウトよ。私も、ね」
「…………ああ、なるほど」
納得したように呟くが、戒斗の表情は苦虫を嚙み潰したようだった。
「俺たちをこの場に残してすぐに動かさないのは……いや、動かせないのは連理自身よりも、救助に向かう俺たちの方が危ないから。
連理を助けに行くことで、犯罪組織の思惑を邪魔する俺たちが、その例の人影に襲われることを危惧しているから。
違うッスか?」
「……流石、頭の回転が早いわね。日暮さんの弟なだけあるわ」
「はぐらかさないで欲しいッス。
もし、今のが肯定の意味なら……生徒会の情報が犯罪組織に筒抜けってことっスよね。つまりそれって……」
戒斗の表情が真剣なものに変わる。
同様に、その言葉にチーム天守閣の面々も、さらに植木彌も、鬼龍院麗奈も戒斗の言いたいことを察して息を呑む。
彼らは今、最悪な事実に気付いてしまったのだ。
「生徒会の中に犯罪組織のメンバーがいた。
そして今もそれが誰かわかってない。そういうことッスよね」
「
私たちは、勝ったと思っていた犯罪組織に、ずっと前から情報戦で負け続けていたのよ」
■
「人がちょっと眠ってる間に何やってんだお前ら」
「何やってんだろうね、本当に」
「そうね」
鬼龍院の言葉に、僕も稲生も反論できなかった。
僕と稲生の今の姿の普段とは異なっていた。
現在、僕と稲生は、兎耳だった。
英里佳がシャチホコと合体したときと同じ、兎耳である。
さらに追加するなら、僕は白髪状態になった。
実戦でいきなり使うのは流石に危険だからという独自の判断である。
僕は雌のヴァイス、稲生は雄のシュバルツとそれぞれ融合状態になっている。
できれば今の状態の稲生の写真を撮影したいところだが、状況が状況なので自重
…………ひとまず、英里佳とシャチホコの融合よりも発動条件が緩いので、機会があれば土下座でもして撮影させてもらおう。メイド服は向こうが持ってるし、ナース……いや、婦警とか、スーツとか……白木先輩からコスプレ店とか紹介してもらえないかな?
「……あの、歌丸」
「ん? どうした?」
色々と考えを膨らませていると、何故か稲生が顔を赤くした引き攣った表情をしている。
「あんたの考えてること、断片的にだけど私の頭に流れ込んでくるんだけど」
………………ほぅ。
「…………………………」
(今の状態で婦警さんコスして撮影させてください)
「しないわよ!!!!」
うん、どうやらばっちり伝わっているようだ。
ヴァイスとシュバルツも、さっき僕たちにパパやらママやら言ってたけど、あれって肉声じゃなかったっぽいし。
その影響がこっちにも流れているのか?
「冷静に物事考えててもさっきのこと忘れないわよ。英里佳に言いつけるわ」
「ごめんなさい、出来心なんです」
即行土下座した。
「お前ら……何の話してるんだ?」
状況がわからないのか困惑してる鬼龍院
まぁ、今のやり取りって僕の思考が稲生に読み取られているから発生したものだしね。
閑話休題
ひとまず、鬼龍院が眠ってる間におきたことをざっくりと説明した。
結果、眉間にしわを寄せていた。
「……なんでお前は、いつもいつもちょっと目を離すと何かとやらかすんだ。
三上詩織の心労が伺える」
何も言えねぇ。
詩織さんごめんなさい。
「ひとまず確認だが……今のお前ら、融合したってことは強さはどうなってる? 榎並英里佳と比べてどれくらいだ?」
「英里佳とシャチホコの融合状態と比べて数十分の一くらいの実力、かな」
「私も多分それくらいだと思うわ」
「……いや、もっと何かあるだろ。物理無効スキルとか、シャチホコが覚えてるスキル、あっただろ」
「確かにそうなんだけど、融合してるヴァイスとシュバルツは幼すぎるせいなのかスキルがまだ使えないみたいなんだ。
唯一、覚えたばかりの妙なスキルは使用できるみたいなんだけど……」
「どんなスキルだ?」
「僕……というよりヴァイスのスキルは
能力は多分、シュバルツの観測……稲生と融合してる子兎がいつどこで何をしているのかを完全に把握してる。
かなりざっくり言えば、シュバルツ限定に距離とか障害物を完全に無視した……測定器が見られる、かな。
あくまで一方通行だね」
「どう役立つんだよそのスキル」
ね。大層な名前のわりに凄いショボいと思う。ヴァイスには悪いけど。
「……それで、稲生の方は?」
「私というよりシュバルツね。スキル名は
ほんの数秒先の未来の観測……かしら?」
「それは、西のノルンの未来予知と同じってことでいいのか?
戦闘ではかなり役立つかもしれないな」
「それも微妙、かしら……なんていえばいいのか、自分の行動によって周りがどう動くのかがわかるっていうか……予知というより、凄い精度の予測、みたいな?」
ふむ……西のノルンこと、神吉千早妃の未来予知は……観測せずにそのまま進行していた場合は起こったであろう未来を見ることができる、というのが能力らしい。
だから、正確に言えばノルンとしての能力で観測した時点で、結果的に同じだとしても、ほんの少しでも未来が変わっている状態になるのだとか。
つまり“確定”から“不確定”の状態にするのが千早妃の予知
対して稲生……というかシュバルツの場合は、現時点から起こりうる可能性を能力で観測し、そして自分によって都合がいいと判断した未来を任意で選べる“不確定”からの“確定”に持っていく。
似ているし、結果的には同じように使えるが、その過程は真逆にある能力といえるかもしれない。
「でも、使おうとすると魔力が消費されて、私と相性が良くないのか知らないけど使ったら頭痛が酷いし、本当に数秒先程度だからあんまり乱発はできないかも」
「うむ……となると、いざという時のとっておき、くらいの認識か。
……身体能力の方はどうだ? 融合したなら少しは戦闘力はともかくスピードなら」
「僕も稲生も、英里佳がベルセルクのスキル使った時と同じか少し遅いくらいかな。
少なくとも素の英里佳よりは速いみたい」
「なるほど……攻撃に関しては後衛で指揮をしている俺がカバーに周り、前衛で敵を引き付ける歌丸、メインの遊撃をシャチホコ、サブに撹乱メインの遊撃として稲生というところか」
「それなんだが鬼龍院、ここで残念なお知らせです」
「なんだ、言ってみろ」
「実は……」
鬼龍院にもう一つの事実を告げようと思ったとき、僕と稲生の身体が光を発して……
「きゅぷ」
「きゅぽ」
僕と稲生のそれぞれの頭の上に現れるヴァイスとシュバルツ
融合が解除されたのだ。
「現時点での一回の融合はだいたい三十分で、クールタイム三時間必要です」
つまり、三時間経過しないと僕も稲生も融合が使えない。
「お前、本当に肝心な時は役に立たねぇのな」
「なんだとこの野郎!!」
「やめなさいってば……」
「きゅぅう……」
「きゅぽ?」「きゅぷぷ?」
そんなわけで、当初の予定通りの戦力で先に進むことになった。
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