第278話 女子力とは、かく語りき⑤



「え、英里佳―、あの、ごめん! その、別に深い意味とかじゃなくて、あの、とにかくごめんなさーい!!」



今、世界でもっとも有名な少年、歌丸連理は一人、大声を張り上げる。


既に隠密用のマントの効果が無くなるくらいに大騒ぎしているので、周囲には人ごみが出来ている。


周囲から見れば、彼は大きな気に向かって叫んでいる変人にしか見えないだろう。



「あんた、何してんのよ……?」



そんな変人――歌丸に話しかけたのは南学区生徒会の腕章を身に着けた一人の少女


――稲生薺いなせなずなである。



「おう稲生……実はあの樹の上に英里佳が隠密使った状態でいるんだけど降りてこなくなって」


「……あんたら、何してんのよ?」



歌丸の言葉を聞いても状況が理解できずに困惑する稲生。



「実は……」


「実は?」


「……………」


「なんか言いなさいよ」


「いや、でも……その……個人的なことなので」



そう言いつつ、歌丸の眼はめっちゃ泳いでいる。


同時に稲生は悟った。


――こいつ、多分余計なこと言ったな、と。



歌丸連理は決して悪人ではない。むしろ好青年だと言えるだろう。


しかし、どうも他人の気を逆立てる言動をしてしまう嫌いがある。


言っときは稲生自身も、彼が何でもないようにエンペラビットを連れまわしていてそれにヤキモキさせられたことがあった。


体育祭の時だって、他人をあおることにはある種の才能があり、それをうっかりで味方にまで発揮してしまう一面があるのだ。


詳しく知っているわけではないが、彼が一時迷宮で遭難したのも、彼のうっかりな言動が起因したと噂でも聞いていた。



「――とりあえず他のチーム天守閣のメンバー呼ぶわよ」


「え”」


「明らかにあんた一人で解決できないでしょ」


「いや、あの……」


「――その心配ならいらないわよ」

「――もう来てるから」



背後から聞こえてきた声に、歌丸の背筋がピンと伸びる。


見れば、三上詩織と苅澤紗々芽の二人がいた。



「ふ、二人ともどうしてここに?」


「英里佳が融合スキル発動してるみたいだから様子見てこいって言われたのよ」


「シャチホコちゃんの追跡スキルが共有状態だったからここまですぐにこれたよ」



鬼龍院の報告が巡り巡って二人の耳に届いたのだろうと判断した歌丸だったが、周囲を見回してから、一つ訊ねる。



「……戒斗は?」


「「…………」」



歌丸のその言葉に、二人はそっと目を逸らした。


味覚がシャチホコ化した英里佳が作った料理は、きっと戒斗が何とかしてくれているのだろう。そうだろう、と歌丸は内心で流すことにした。



「で、あんた一体何したのよ?」


「……別に、その、なんと言いますか、これは、その……」


「――正直に話して、歌丸くん」



紗々芽のスキルである義吾捨駒奴ギアスコマンドが発動する。


基本的にこのスキルが発動すると人道に反しない限りは歌丸は命令に逆らえず、即行で口を割らされた。



「――もしかしてシャチホコの方が英里佳より女子力が高いんじゃないかって言ってしまいました」



この瞬間、微かに目の前の樹の枝が揺れたのだった。



「うわぁ」とドン引きする稲生

「あんたねぇ」と呆れる詩織



流石に言っていいことと悪いことがあると、流石の歌丸も今回は深く反省しているのだが……



「そうだよね、歌丸くんって自分の言動が相手にどんな風に傷つけるのか考えずに言っちゃうよね」



そしてまた、紗々芽も彼のそう言った無神経さに傷つけられた経験を持っている。


犯罪組織と初めて真っ向から対立することとなった時、怖がっていた紗々芽に対して立場上の正論の一点張りで、こちらの気持ちを一切考えずに言いくるめられたことを彼女はまだ忘れていない。



「というか、何がどうしてそんな結論が出てきたのよ?」


「えっと……実は」



紗々芽がいる時点でもう隠し事はできないと諦めここに至る経緯を話す。


そしてそれを聞いて女子三人はほとほと呆れ果てる。



「連理、女子力って別にそういうことじゃないわよ。馬鹿じゃないの?」

「がはっ」

詩織1Hit


「いるいる、こういう自分に都合のいい女子が一番とか考える身勝手な男子」

「ぐふっ」

ナズナ2Hit!


「歌丸くん、普段甘える立場だから甘えられる立場になって調子の乗ったのかな?」

「あぶぁ」

紗々芽3Hit!!



女子力の定義づけは難しいところはあるし、男子に上手く甘えるのも女子力の一種といえなくも無いが、現状の英里佳はシャチホコの影響を受けている状態だ。


女の子として甘えている、というよりは、純粋な子供らしい甘え方をしていると捉える方が最適だろう。



「あんたは英里佳の女子力どうこう言う前に、他人への気配りができるようになりなさいよ」


「はい……おっしゃる通りです……」


「――異議あり、です!」



そして、そんなところにまた別の誰かがやってきた。


腕章をつけた北学区の生徒――鬼龍院麗奈であった。



「お兄様から連絡を受け、もしやと思って来てみました」



兄である蓮山とは対極的に歌丸連理に対して必要以上に畏敬の念を持っている女子である。



「麗奈さん……ちょっとこの馬鹿にお説教しないといけないから控えてもらえないかしら?」


「ですから、異議あり、です。


私も連理様が悪意を抱いての発言をしたというのなら止めませんが、状況を考えると異なるのでしょう。


つまりすべては、榎並英里佳が女子力を兼ね備えていなかったのが起因していること。


そしてそれがシャチホコ様にも劣っているのではないかと思われてしまうほど。これはもはや連理様だけの責任だと言えますでしょうか?」


「あの……麗奈さん、たぶん今も英里佳ここの会話聞こえてるからそういうことはあんまり言わない方が……」


「はい、存じております」



歌丸が抑えるようにやんわりと伝えたが、麗奈はそんなことすでに百も承知だった。



「そもそも、あの子はメンタルが弱すぎるんです。


自分の悪い所を反省して治そうとするのは良いことですけど、いちいちいちいち過剰に反応しすぎなんです。


少しは笑って流せるくらいの度量を持たなければなりません。それだって立派な女子力だと言えましょう」


「「「あー……」」」



麗奈の言葉に思わず納得する詩織、紗々芽、ナズナ


確かに、榎並英里佳という少女は戦闘能力はトップクラス


しかし精神的に強いのかといわれるとそうでもない。むしろかなり打たれ弱い。



「このままでは西から来る神吉千早妃に連理様を取られても文句が言える立場ではありませ――――え」


「――あ、え……英里佳?」



麗奈の言葉の途中で、急に突風が発生。


見れば、今までそこにいなかったはずの榎並英里佳が、正座状態の歌丸の背後にいて、その背後から抱き着いていたのだ。



「……――ん」


「……え」


「―――だ、もん」



英里佳が何か呟いた。


あまりに小声でよく聞き取れなかった歌丸だったが、続く言葉に歌丸だけでなく他の者たち耳を疑った。



「れんりくん、えりかのだもんっ!!!!」



シャチホコと同じ真っ赤な瞳に涙を溜めて、兎耳の毛が逆立った状態


明らかに正気ではない。


猛烈に嫌な予感がした紗々芽は咄嗟に義吾捨駒奴で英里佳を落ち着かせようと思ったが――



「■■■■■■■■■■■■!!!!」



ベルセルク専用スキルの一つである狂獣咆哮ビーストハウル



「「うっ……」」



詩織や麗奈は軽いめまいを覚えて動きが止まる一方で、紗々芽とナズナはそのスキルの影響でその場に崩れ落ちる。


紗々芽は歌丸のスキル共有のおかげで意識はあるが、ナズナの方は気絶してしまったようだ。



「え、ちょ――英里佳、いきなりどうし――え、ちょ、ぇえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」



困惑する歌丸などお構いなしに英里佳はその膂力で持ち上げ、さながら重要上げのバーベルのような状態になる。


そしてあろうことか、英里佳はそのまま、現時点迷宮学園最速の足でその場から走り出した。


あまりの早さに、その場にいた誰もが一瞬で英里佳と歌丸の姿を見失った。



「え、ちょ……紗々芽、大丈夫?」


「わ、私はなんとか……それより、稲生さんの方は?」


「ナズナさんは……気絶しているだけですね。


英里佳のあのスキルはステータスの低い相手を気絶させる効果があるので……テイマー系のナズナさんでは耐えられなかったのでしょう」


「他の人たちは……大丈夫そうね」


「本気のスキルではなかったからでしょうね……本気で吠えていたらこの辺りの大半は気絶していたことでしょう」



周囲の人々は今の英里佳の咆哮に戸惑っているようだが、気絶している者たちはいない。



「さっきの英里佳、明らかに様子が変だったわよね」


「おさ――じゃなくて、南学区の特性ドリンク飲んだ時もあんな感じだったよね」


「いいえ、あの時以上です……あの時は酔っぱらって暴れてましたけど、今はなんというか……駄々っ子のような……いえ、今は置いておきましょう。


――というか……あの子はまったくもう、次から次へとトラブルばかりを起こして……! どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むのですか!!」



先ほどの英里佳の行動を思い出して怒る麗奈



「と、とにかく二人を追うわよ!


紗々芽の義吾捨駒奴で英里佳を抑えるわよ!


麗奈さんはナズナさんを休ませて上げて!」


「わかりました……万が一に備えて他にも応援を呼びます」


「ええ、できれば来道先輩を呼んで。


本気になったあの子のスピードに対応できる人、他に思いつかないし……ナズナさんが起きたら、ユキムラも貸してもらえるように頼んでもらえないかしら」


「了解です。お二人とも、お気をつけて」



そんなわけで、学園全体を巻き込んだ榎並英里佳包囲網作戦が今、始まろうとしていた。





どうも、歌丸連理です。


現在の僕ですが、南学区の広大な農場のどこかの草原に連れてこられました。



「うぅ……!」



英里佳が真正面から抱き着いてきて離れようとしません。


胡坐をかいた僕の膝の上に座って、向かい合ってコアラみたいに足を背中に回されて抱き着かれてる。


これって傍目からみたら対面座――ごほんごほんっ!


――コアラ抱っこ、そう、コアラ抱っこ状態なのだ!!


と、自分に言い聞かせてみたものの、英里佳のやわらかな感触がダイレクトに感じられて、その、あの、男子の息子がウォームアップを開始している。


ちょっと油断すれば即座にSutanndoappu!!な状態になる。


これはシャチホコ、じゃれついてるだけ、決して性的な意味合いじゃないからセーフ、セーフ、セーフ……!



「ぁむ」

「ひゃふんっ……!」



メッチャ変な声が出た!


唐突に英里佳が僕の首筋を甘噛みしてきた。



「え、英里佳、本当にどうしたの?」


れんりくんふぇんりふんえりかのだもんえふぃふぁのらもん……」



先ほどからこの調子だ。


以前に酔っぱらって暴走したときは色々とはっちゃけている感じだったが……今はなんというか、泣き虫な子どもみたいな感じで……これもシャチホコとの融合の影響か?


精神的なところまでシャチホコに引っ張られている?



「……英里佳、あの、ひとまずシャチホコとの融合を解除しない?」


「やだ」


「……シャチホコがまだ満足してないってこと?」


「ちがうもん……れんりくん、いまのわたしのこと、すきでしょ」


「ま、まぁ……そうだけど」



獣耳女子を嫌いな男などいるはずがない。


たとえドラゴンであっても覆せない世界の真理なのだから。


……しかし、今の発言から察するに現状の融合の主導権はシャチホコじゃなくて英里佳に移ってるのか?


シャチホコじゃなく、英里佳が融合を継続しているってことか?



「だったら……もっと、いっぱいさわって……」



――鼻血出そう。


英里佳が間近で目を潤ませながら凄いこと言ってきた。


……しかし落ち着け僕。今は英里佳を落ち着かせることが大事なのだ。



「えっと……じゃあ、触るね」


「……ん」



英里佳がそっと目を閉じたので、恐る恐る英里佳の耳を触る。


普段よくなでてるシャチホコたちの耳と近い感触なのに、なんでこんなにドキドキしてるんだ……!



「あ、ぅん……ひゃ……」


「ぉぉぉおお……!」



耳の触り方を変えるとそれに合わせて英里佳が反応する。


今は無いが、もし心臓があったら早鐘を打っていたところだろう。


代わりに体中の血液が流れが速まった気がする。



「んん……」



しかし……なんというか……英里佳はどこか寂しそうだ。



「……英里佳、あの……どうしてそんなにその姿に拘るの?


確かに可愛いけど……そのままの姿でいるの、英里佳恥ずかしがってたじゃん」


「……だって……れんりくん、いつものえりかのこと……すきじゃないもん」


「いやいやいや、あり得ないから。僕は英里佳のこと、大好きだよ」


「それは、いまのえりかがうさみみだからだもん」


「そんなこと無いってば。僕はどんな時の英里佳のことも大好きだよ」


「……じゃあ、なんでみみばっかりなの?」


「……それって……あの、どういう…………」



いや、言われなくてもわかる。


僕はそんじょそこらの鈍感主人公とは違うのだから。



「…………触っても……OK?」


「…………――――っ」



英里佳が頷く。


理性がぷつぷつと切れていく。


身体は密着状態で、今は耳に触れている指が下へ、首、肩、背中……そして、さらに下へと……



「…………いや、やっぱり、やめよう」



僕がそう告げると、英里佳が一瞬目を見開き、潤んだ瞳から涙があふれた。



「……やっぱり、れんりくん、わたしのことすきじゃないんだ。みみがすきなだけなんだぁ……!」


「――そんなことない!」



これだけは、ハッキリと否定する。



「僕は英里佳のこと大好きだ!


この場ですぐにでも、もっといろんなことがしたい!」



僕だって男子だ。



「――英里佳と、セッ〇スだってしてみたい!!!!」


「せっっっ……!?」



泣いていた英里佳が僕の言葉に目を見開いて驚きに硬直する。



「当たり前じゃん!


こんな状況なら誰だってそこまで考えちゃうよ!!


今だって色々と物凄くムラムラしてるんだよ!!」


「むらむら……!」



見るからに狼狽える英里佳。


密着具合が弱まって離れようとしたが、今度は逆に僕が英里佳の背中に手を回して話さない。



「れ、れんりくん……?」


「英里佳が好きなんだ、もう僕は……君がいなきゃダメなんだ」



抱きしめる力が自然とこもる。



「でもさ……そういうのって軽い気持ちでやっていいものじゃないって思ってるんだ。


重いって言われるかもしれないけどさ……僕は…………その……英里佳とちゃんと、結婚とかしたい」


「……けっこん」


「……うん、僕はこの学園に来て、卒業と同時に死ぬことを漠然と受け入れていたけど……最近、色々と考えるようになったんだ。


英里佳のこと、凄く大事だし……僕は英里佳とずっと一緒にいたい。


僕が死んだとして、その後に英里佳が他の誰かとって……そう考えただけで吐きそうになるくらい気分が悪くなったりする。


僕はさ、それだけ榎並英里佳が大好きで、必要不可欠な存在なんだ。君がいないと、生きていけないんだ。


……英里佳は、どう?」


「……うん、わたしも……連理くん、と、おなじ気持ち」


「……ありがとう。


だからこそ、さ……僕は今、ハッキリと卒業後も生きていられるって言う保証もない状態で、英里佳に無責任なことはしたくないんだ。


……面倒くさくて、ごめん」


「ううん……私も、ごめん……もう大丈夫だよ」


「――きゅぴぃ」


「……あ」



近くにいつの間にかシャチホコがいた。


腹が膨れた状態で目を回してるかのように仰向けに倒れている。


少し体を離して英里佳を見ると、眼は元に戻り、耳も人間のものに戻っている。



「「…………」」



お互いに、今更ながら凄い体勢で密着しているなと思って赤面する。


……我ながら本当に恥ずかしいこと言ってるな。



「連理くん」


「え、あ……」



気が付けば僕は英里佳に押し倒される。


赤い髪が徐々に日が傾きだしている空と一体化してるみたいで、その中にある青い瞳に吸い込まれそうだった。



「……やっぱり少しだけ不安だから……もう少しだけ、我儘……許して欲しいな」



そして、僕と英里佳の距離は再びゼロになった。





日は完全に落ちて、夜空に星が輝く時間。



「では、これより榎並英里佳の包囲作戦、及び歌丸連理の救出作戦を開始します」



多くの光源で照らされる南学区の広場にて、多くの武装した生徒が待機しており、その中心にいる氷川明依がそう宣言した。



「……なんか、凄い大事になってるんだけど……」


「ほら……歌丸くんがいると居ないとじゃ、明日からの他学区の引率の難易度が雲泥の差になるから、副会長も必死なんだよ」



自分たちで要請したが、まさかここまで本格的に人が集まると思っていなかった詩織は内心で焦る。



「あの馬鹿どもめぇ……!」


「やはり一緒に行動すべきだったか……」



そして折角の午後休を潰されて怒る鬼龍院蓮山と、自分の行動を振り返る谷川大樹




「――いいかですか、全員榎並英里佳を見つけても迂闊に手を出さないで。


ひとまず、この作戦の核と苅澤紗々芽さんの声が届く範囲まで接近してもらえばそれで解決します。


ただし、絶対に気を抜かずに対処します!」



誰の目から見ても必死な氷川


歌丸という存在がいると居ないで、北学区生徒たちの明日以降の作業用が大きく変わるので、その必死さが伝播してこの場にいる者たちの指揮は必然的に高くなる。



「――あの、詩織さん、これ何の騒ぎ? なんかあったの?」


「ああ、連理……実は連理が英里佳に攫われたってことでその騒ぎを収めるためのみんな必死なのよ」


「へぇ…………って、え……僕?」


「そうよ、連理のためにみんなが………………連理?」



詩織の呟きに、その場にいる者たちの視線が集まる。


そこにいたのは、状況が良くわかってない様子の間抜けた顔をした歌丸連理と、そしてとてつもなく申し訳なさそうな表情をしつつも連理と手をつないでいる榎並英里佳の姿があった。



「「…………」」


「「「「……………………」」」」



状況を徐々に理解して表情が強張る歌丸と、顔を伏せる英里佳


しかしお互いに手はつないだままでとても仲睦まじい様子が伝わってくる。


そしてそんな二人を見ているからか、この場に集まった者たちは、無言ではあるが徐々に放たれるプレッシャーが増幅していく。



「――おっと、そう言えばシャチホコの好物が近くのスーパーで特売だったかな?」


「――そ、そうだね、急いで買いに行かないとと!」



結果、その場からの離脱を計るものの――



「二人とも正座」



義吾捨駒奴が発動。


苅澤紗々芽からは逃げられない。



「歌丸連理……榎並英里佳」


「……あー……えっと……氷川先輩、こんにち……いや、こんばんは?」


「あらあら、今日はちゃんと先輩と呼ぶのですね……歌丸連理


そして榎並英里佳」


「は、はぃ」



ドラゴン相手にも一切ひるまずに殺してみせると啖呵を切った二人の影が見る影もない。


たった一人の上級生の女子に本気で二人は怯えていた。



「色々といいたいことはありますが……一つだけ確認があります、正直に答えなさい」


「「はい」」



ここは逆らわずに正直に答えようと決意し頷く二人であったが……



「――二人の首についている内出血らしいその痕ができた理由をこの場で答えなさい」


「「………………」」



ゆっくりと、歌丸と英里佳は首を手で覆うが、時すでに遅し。


その場にいる全員がばっちり見ている。



「――あなたたち、は! 私たち、が、明日に備えて、色んな準備をして、忙しい、時に、一体何をしているんですか!!


だいたい、まだ高校一年の身で不純なことをするとか一切何を考えてるんですか!!


だいたい、いつもいつも、あなたたちはくどくどくど――――――――くどくどくど!! ガミガミガミ――――――――――ガミガミガミ!! ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい――――――――――――――――――――ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい!!!!!!!!」



荒ぶる氷川明依が落ち着くのは、これから二時間以上経過してからだったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る