第273話 歌丸連理を考察する者たち《NI5》② 見聞編



「とにかく、歌丸連理を知ることこそ、俺たちのモテ男子街道につながる唯一の道だ」


「「「応っ!」」」



リーダーの言葉に力強く頷くタツキ、キム、山ちゃん。


一方のマツジは、首を痛そうに触れていた。



「絶対に他に道あるって……」


「うるせぇ裏切り者。


ひとまずマツジ、お前から見た歌丸連理のこと話せ」


「えぇ……いきなり俺?


って言ってもさ、同じ寮に住んでるだけで俺らほぼ接点ないだろ。せいぜいGWの大規模戦闘の寮の打ち上げで少し話した程度だし」


「本人と話したことじゃなくてもいい。あいつの行動を見たり聞いたりで、なんかモテそうなエピソードとかあるだろうがボケアホ馬鹿」


「そこまで言う。


……はぁ……そうだな、歌丸連理が女子から注目される点で一番外せない要素といえば……やっぱり、あの兎だな」


「ああ、あのエンペラビットだろ」


「最初一匹だったのにいつの間にか三匹に増えてたよな」


「確かに、エンペラビット可愛いって女子は多いな」


「つまり、可愛いは……モテる?」



「「「っ!」」」



あたかも真理を見出したような表情をする四人にマツジは表情を引きつらせた。



「山ちゃん、それは飛躍しすぎてるだろ……」


「だが、実際エンペラビットに注目する女子は多いのは事実。


これは無視できなくね?」



キムは顔の机に肘を置き、手を顔の前で組んで口元を見えなくする不敵な雰囲気を演出。ミステリアスなイケメンであるが、本人に自覚は無いし、気付かせてくれる女子もこの場にはいない。



――ちょ、火、火がフライパンの中にも付いてるから!


――え、でも……フランベするのが美味しいって……


――素人あるあるだよね、すぐ上級テクニック実践するのって



そもそも三人ともそれどころじゃなかった。



「つまり、エンペラビットをテイムできればモテる。


それが俺たちの今後の行動ってことだな、リーダー?」


「いや、不可能だろ」


「……ほっ」



リーダーが意外と冷静な判断ができるなと安心したマツジであったが……



「二番煎じでは、俺たちは歌丸のモテを超えられない」


「あ、そっち?」



エンペラビットを見つけるところから大変というか現実的じゃないだろという指摘をされるのかと思ったら別方向の切り口だったのにマツジは驚くのである。



「エンペラビットは確かに可愛い。


小動物って時点で十分に可愛い。


だが、同じものを俺たちが連れていたらどうなる?」


「そもそもエンペラビットのテイム難易度高くて不可能じゃないのか?」



マツジのツッコミはスルーして三人は黙して考える。


そして突如始まる小芝居。



「どうだこれ凄くね? 俺、エンペラビットをテイムしちゃったんだぜ!」

とタツキ


「やだエンペラビットかわうぃー」

とキム


「まじまんじー」

と山ちゃん


「うわ、歌丸連理の真似してるぅー、くそださーい」

とリーダー


そして同時に机に突っ伏す四人


そんな四人を見てマツジは一言



「なにこれ」



四人は悔しそうな表情をしながら拳を握る。



「モテる男は他人の真似などしない」


「ああ、むしろ真似されるものだ」


「くそぅ、くそぅ……!」


「真似したところで女子に凄いとは思われないのか……!」


「いや、エンペラビットのテイムはガチで凄いことなんだが……」


「「「「女子にモテなきゃ意味がねぇ!」」」」


「あ、はい」



同調圧力である。



「女子は可愛いものが好きだし、悪くはないはずなんだが……」


「だが、どうする?


……まさか俺たちが可愛くなる方向性か?」



タツキの言葉に、キムと山ちゃんは目を見開く。



「なるほど」

「俺たち自身が女子になる、ということか」


「お前ら狂ってんの?」


「それは俺も」


「いやいや、一考の価値もないだろ」


「――やってみたけどキモいだけだった」


「せめて考えてから実践してくれないか?


というかやったのかよ女装」


「本島にいた時にちょっと、な」



リーダーの闇の深さにドン引きするマツジである。



「どうやら……可愛い路線は俺たちには無理だな」



リーダーの結論に四人は落胆する。


一方のマツジは早くこの会話終わらないかなぁと思う。



「男ならやっぱり、カッコよさっしょ」



そう切り出したのはキムだった。



「カッコよさ、と一言で言っても色々あんじゃね?」


「一理あるな」



キムとタツキの言葉に、マツジは内心でようやくまともな議論になるのかと思った。



「よし、ぱっと思いつくカッコよさを一人一つ上げてみろ。


俺はやっぱり強さだな。どんな敵も倒せる」

とリーダー


「相手の攻撃を簡単にかわす身のこなし」

とタツキ


「的確な急所を狙いすました一撃」

と山ちゃん


「この脳筋共め。


お前ら結局戦うことばっかりじゃないか」


「そりゃそうなるだろ。女はなんだかんだで守ってもらうこと、つまりはお姫様みたいに大事にされるのを喜ぶのものだ」



マツジに対して訳知り顔のキム(彼女なし童貞)



「だけど歌丸連理って強さのイメージはないだろ。むしろ縁遠いだろ」


「甘いなマツジ、俺はまだ強さが一言もカッコいいに直結するとは言ってないぜ」


「なんだと?」


「強さは確かに大事だが、その強さの前提にあるもの。


それは……!」


「「「「それは?」」」」


「――真剣さだ!」



溜められて発せられたキムの言葉に、四人は首を傾げた。


一方でキムは自身の学生証を操作して、空中にとある映像を表示させる。



『「っ! 連理、避け」「ないっ!!!!」』



そこには、ベルセルクのスキルで暴走した英里佳を止めようと、自身の負傷をいとわずに英里佳を助けようとしている姿が映る。


GWのクリアスパイダー討伐戦前の榎並英里佳救助作戦である。



「この時の歌丸連理は、同じ男としてカッコいいと思う」


「……なるほど、確かに歌丸連理は戦闘における強さの印象は薄いが、こうして必至に誰かのために戦っている姿は何度も見た覚えがあるな。


俺もこういう時は素直にカッコいいと思うぞ」


「体育祭の時も、西の大将やってた一年との一騎打ち、あれも元々は女の子助けるためだったらしいな。


そう言うの抜きでも、あの必死に戦う姿には心を動かされるのがあるな」


「血塗れなのはどうかと思うけど……まぁ、そうだな。


真剣に何かに撃ち込んでる人はカッコよく見えるよな」



おおむねキムの意見に賛成の四人。



「というわけで、まずは」



真剣さをアピールするとなると、具体的にどういう方法かを話し合うのかなと思ったマツジであったが……



「真剣に見えるシチュエーションを作るために脚本を作ろう」


「やらせかよ」


「こんなイベント、普通に生きててホイホイ発生するわけねぇじゃん」


「まぁ確かに」



思わず納得するマツジ


歌丸連理の周囲にはこういう騒ぎが置き過ぎている印象がある。


あんな状況、普通は狙わない限りは日常生活ではまずおきない。



「というわけで脚本を作るわけぞ。


劇的に、歌丸級の演出を目指す」


「いやでもさ、別に真剣さをアピールするのにあれは過剰過ぎるだろ」


「やるなら目標は高く持つべきだ!」


「過剰な意識の高さ。


おい、お前らも止めろって」



暴走仕掛けているキムを止めたくて他に助けを求めたマツジだったが……



「俺としてはやっぱり強敵を前にピンチ、からの逆転が理想だと思うんだ」


「鉄板だが、真剣さをアピールするんだぞ。やはりピンチの女子を助けるというパターンだろ」


「敵を用意する必要があるな」



他の三名もノリノリだったことに愕然とするマツジである。



――ちょ、英里佳ちゃん、何混ぜたの? 色が変なんだけど!


――隠し味を、少々


――隠せてない、英里佳、隠せてないよこの存在感は


――っていうか本当に何入れたの? え、なにこれ? カレーなのに凄いショッキングピンクなんだけど……え、本当に何入れたの?



先ほどからカレーとは思えないツンとした刺激臭がしてくるが、マツジはそれどころではなかった。


真剣な顔で話し合う四人に対して、ふと思ったことを訊ねる。



「あのな、そもそもそのシチュエーションって女子が見てることありきじゃないのか?


肝心のその女子に、どういう過程でそのシチュエーションを見せるんだよ?」



「「「「」」」」



四人の動きが止まる。


その辺りを考えていなかったらしい。


そもそも女子と仲良くなるための作戦を話していたのに、女子とある程度仲良くならないと実行できない方法を語るという愚策である。



「……どうやら、俺の作戦を語る時が来たようだな」



と、おもむろに口を開く山ちゃん



「――歌丸連理が女子と仲良くなる能力に長けている。これは間違いないだろう。


だが、俺が注目する点は他にあると思う。それは」



「「「それは?」」」



山ちゃんが無言で溜める。


もう本当に早く終わらないかなと思うマツジ


先ほどから食堂のカウンターの奥から酸っぱい匂いが漂ってきて、できればこの場から去りたい気持ちで一杯なのであった。



「“出会い”だ」



山ちゃんの言葉に四人は首を傾げる。



「女子との出会いのインパクト、つまりは第一印象。


これが俺たちと歌丸連理との差だと考える!」


「「「おぉ!」」」



納得しような顔をする三人の一方で、同じクラスであるマツジは歌丸連理の第一印象を思い浮かべ……



「…………あいつの第一印象、ゲロ吐いてた奴って感じだったんだが」


「ああ、強烈なインパクトだな」


「強烈過ぎじゃね?」


「だが、女子にモテるにはそれくらいのインパクトが必要だったんだよ」


「いや、冷静に考えろ。あれは女子どころか男子すらドン引きしてただろ。ドラゴン学長とかも、あのとき目を丸くしてたぞ」



冷静に考えると、ドラゴンのキョトン顔などあの時が初だったのではないだろうか?



「そうやってゲロを恐れるから俺たちはモテないんだ!」


「「「っ!」」」


「騙されんな! お前ら、騙されんな!!


何、確かに、みたいな表情してんだよ!」



このままでは仲間たちが人前でゲロをまき散らす最悪な迷惑行為を実行仕掛けない。


そう思ったその時だ。



「――あー……すっごい疲れた」


「――スキルで体は疲れてないじゃないッスか」



食堂に入ってきた時の人――歌丸連理が、日暮戒斗と共に食堂にやってきたのだ。



「確かに肉体的には疲れてないけどさ、精神的になんかねぇ……魔剣の副作用の一つなのかな?」


「どっちにしても絶対に俺の方が疲れてるッス。


てか、朝飯食ったばっかなのになんで食堂なんスか?」


「いや、なんか紗々芽さんから食堂来てくれってメッセージが来てたから」



そんな言葉を交わしながら自分たちの方には目もくれずに食堂のカウンターの方に向かっていく歌丸連理



「はっ……あれがモテる男の余裕か!」


「日暮といい……俺たちには眼中も無しってわけか」


「ふっ……今に見ていろよ」


「へへへ……俺たちの時代はもうすぐ来る」


「本当に何と争ってんのお前ら?」



しょうもない所で謎の対抗心を燃やす仲間たちに呆れかえっていたマツジ



――う、歌丸くん!? ど、どうしてここに?


――ちょっと紗々芽さんに呼ば……え、ちょっと、詩織さん、どうして無言で羽交い絞めするの?



何やらカウンターの向こうが騒がしくなっていた。


様子がおかしいのに気付いたのか、五人ともカウンターの方に視線を向ける。


とはいえ、物陰で姿は見えないので、言葉だけが聞こえてくる。



「え、ちょ――紗々芽さん、なんで急にスプーン近づけて……え、何それ、何?」


「なんか凄い色で……え、ちょ、それ食わせるの? なんか凄く酸っぱい匂いするんだけど、え、本当に何それ!?」


「白里さんなんで謝るの? 詩織さん、さっきからなんで無言? てか戒斗は――おい、いるのわかってるんだぞ! 隠密スキルで隠れるな!!」


「え? 英里佳の手作り?」


「ああ、なんだ、つまり味見ね……なんだビックリさせないでよ」


「それじゃいただきます。あむっ」



…………そこで歌丸連理の言葉が止まる。


しばし無言の空気が流れる食堂



「――――おろろろろろろろろろろろ」


「う、歌丸くんっ!?」


「……ごめん、連理、本当にごめん」


「英里佳にわからせるなら、もう実際にどうなるか見せないと駄目だと思うの。本当にごめんなさい」


「ははは、今日だけはザマァって感じッスね」


「……変な食材とか用意してなかったはずなんだけどなぁ……」



色々と酷い会話が聞こえてくる。



「「「「「」」」」」



しばし無言になる五人はお互いに向き直り……



「やっぱモテるなら自分磨きが大事だと俺は思うんだ」


「「「「だな!」」」」



結局マツジのその一言で解散となるのであった。

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