第251話 まぁ、そりゃ予定も全部崩れるよね。
■
「なんっ、って、こと、してんだ、お前らぁああああああああああああああああああ!!!!????」
ホテルの会議室にて、絶叫が響く。
その声を受けているのは、僕と英里佳の二人。
カーペットの敷かれた会議室なのに、そこで正座させられている僕たちを怒鳴るのは、今回の体育祭の総責任者となった銃音寛治先輩である。
「折角の勝利確定してたのに、よりにもよって一番面倒な奴に権力握らせて、今までの計画全部根底からひっくり返されるとかありえねぇだろ!!」
髪が抜けるのではないかと思うほどにガシガシと頭を強くかく銃音寛治
「反省はしてますが、後悔はしてません」
「私もです」
「だろうな! そりゃそうだろうな!
あんだけ気持ちよく学園長の首消し飛ばせればそりゃそうだろうな!!!!」
――ドラゴンに人間の攻撃が通じた。
そしてその光景はあの会場にいた者たちはもちろん、その映像は世界中に拡散されて新たな衝撃を世界に与えた。
ドラゴンに攻撃を与えられるかもしれない、から、ドラゴンに攻撃が通じたという可能性が現実に変わったその瞬間
ただ語るだけなら大差無いが、変化は劇的だ。
もっとも……
『いやぁ……マジで死ぬほど痛かったですねぇ……』
消し飛んだ首の分だけ体格が小さくなったドラゴンがすぐに復活した。
元々ドラゴンの無敵さは知っていたし、この時に攻撃したドラゴンは本物ではないので連理も英里佳も想定の範囲内なので驚きは少ない。
『本体、すぐに探し出します』
『そして、必ず殺す』
連理と英里佳のその言葉を受けて、ドラゴンは力は籠っていなかったが、楽しそうに笑う。
『ええ、楽しみにしていますよ。
……とはいえ、流石に疲れたので今日はこれで……』
そう言って、ドラゴンはその場から消えていった。
ダメージは無いが、全く影響がないというわけではないらしい。
その後の混乱は続く。
本日は団体競技の予選の予定であったが、最終協議で体育祭の結果がすべて決まるとあって、当初の予定だった観客参加型のエキシビジョンマッチ競技を前倒しで本日実施。
一応七日目にも同じ競技をするが、明日の競技内容を見直しすることとなったのだ。
そして、つい先ほどその内容が確定した。
確定したが、予定が一気に崩れたのでその怒りを銃音寛治は連理と英里佳にぶつけているというのが今の状況である。
「どうすんだよ、折角の勝利確定だったっていうのに、ああもう、よりによって一番厄介な奴に実権握らせてよぉ!!」
「それさっき聞きました」
「大事なことなんだよこの馬鹿後輩カップルがぁ!」
「か、カップルって……」
「っ……」
「初々しい反応してんじゃねぇよ全国中継でキスしてたくせによぉ!!!!」
「「~~~~っ」」
「おい誰かガトリングかグレネード持ってこい!! こいつら爆発四散させてやる!!!!」
「銃音、落ち着け。
マジで落ち着け。もう完全に普段のキャラが崩壊してるぞ」
顔から火が出るほど熱くなって思わずうつむいてしまったその間に、来道先輩が狂乱状態の銃音先輩を諫める。
「まぁでもいいんじゃない、要するに勝てばいいわけなんだし」
北学区の会長である天藤紅羽会長が欠伸交じりにそう気楽に言った。
「だからそう簡単な話じゃ…………ああくそ、もう知らん!
どっちにしろもう俺にはどうしようもないからな。
言っておくが、俺は責任取らないぞ。
全部こいつら二人が原因なんだからな!!」
「わかってるわよ、じゃああとは北で受け持つから」
「勝手にしやがれ! もう俺は体育祭に関わらないからな!!」
銃音先輩は声を荒らげながらとうとう会議室を出ていった。
「……あー……まぁ、そういうことで本来の体育祭の通りにここからは北学区主導でやるが、意義のある奴はいるか?」
来道先輩が周囲を見回しながら訊ねるが、誰も異論は唱えたなかった。
「さて……それじゃあ明日の競技については四つある。
午前中に各会場に分かれて学年ごとの団体競技だ。
一年の部はフラッグ戦だが……厳密には大将を一人決めてそれを狙う、将棋みたいなもんだ。参加人数は最大50人チーム
二年の部は学園でもやった攻城戦で、守備だ。こっちは人数制限200人ずつ
三年の部は持ち込み武器と人数の制限があるだけのなんでもありのバトルロワイアル。全滅したほうが負けな。ちなみに戦闘力が高いほどレギュレーションがデカくなるから、場合によっては生徒会三年とフロントライナーで固めることになるな。
で……最終競技は午後、レイドボスを放ち、それをどれだけ早く倒せるかのタイムアタックだ。これは学年関係なく、五十人上限参加。ちなみにテイムしたパートナーは一人って数えられるわけだが……こっちのメンバーはあとで決める。
それぞれリーダーを立てるから、明日の戦略についてはそいつが主導して話し合ってくれ。
一年代表は……鬼龍院蓮山」
「えっ――あ、は、はい! 頑張ります!」
名前を呼ばれて驚いた様子の鬼龍院だったが、すぐに席から立ち上がって声を裏返しながら大声で返事した。
「二年は……本当なら氷川か瑠璃あたりなんだが……下村、頼んでいいか?」
「俺ですか? 別にいいですけど……なんであの二人じゃ駄目なんですか?」
「今朝までずっと、あの二人はノルン対策の策を数千数万と練り続けていてな……知恵熱出した」
え、幼児? いやでも、常人より遥かに知力高いあの二人なら逆にあり得るのかな?
「一回殺してリセット、なんて荒業もできるが……ぶっちゃけこの団体競技全敗したところで最後のレイドで勝てば一気に逆転できるくらいの点差はあるから、わざわざそこまで酷なことはさせられない。
逆を言えば、この三勝取ったところで最後で負ければ意味も無いんだがな……とにかく、あの二人は休ませてやれ」
「は、はぁ……話はわかりました。
ですが、やるからには当然勝ちにいきます」
「ああ、頼む。
で、三年は…………作戦とか要らないよな。
レギュレーションのために持ち込む武器の種類だけ話し合うぞ。
それじゃあ、メンバーの選抜は任せたぞ、鬼龍院、下村」
「はいっ!」
「はい」
鬼龍院と下村先輩が返事をすると、来道先輩は疲れたような顔で出入り口の方に向かう。
「よし、明日の試合出たい三年は屋上行くぞ。
どうせ話し合いじゃ済まないだろうしな」
「流っ石、話わかってるじゃないっ!」
「――ふっ……前哨戦か」
「く、ひひひひ……!」
「ああ、楽しみ過ぎて震えがとまらねぇ……」
物凄く楽しそうな天藤会長と、おそらくフロントライナー所属と思われるヤベェ三年生の方々が会議室の外へと向かって行ってしまった。
……今日も屋上が汚れそう……とうか壊れそう?
「はぁ……やれやれ……おい蓮山、そこのバカップルの手綱しっかり握っておけよ」
「はい! こいつらにはもう好き勝手絶対にさせませんっ!」
疲れたようにため息をつく会津先輩の言葉に力強く頷く鬼龍院
「さて……じゃあ人数も多いし、俺も別室に移動するか。
他にも呼び出す連中も増えたしな。
一年はこのままこの会場使ってていいぞ」
そう言って下村先輩と、他の二年生の先輩方も部屋から出ていき、残されたのは僕たちチーム天守閣と鬼龍院たちのチーム竜胆
他には他学区の生徒会関係者の方々だ。
「ふ、ふふふふふふっ……さぁ、では早速明日の競技に向けてミーティングを――」
――ぐるるるるる~~~~~!
意気揚々と鬼龍院が語りだそうとしたその時、デカい腹の音が鳴った。
「――歌丸ぅ……!」
「え、いや僕じゃ――」
そう言いかけた時、ふと、横で英里佳がもの凄く顔を赤くして俯いているのが見えた。
……あ、そう言えば今朝、僕は試合前だからって気合入れて食べてたけど、英里佳は食べてなかった気がする。
僕のこと心配して食が喉を通らなかったのだろう。
「…………僕が、やりました!」
「元気よく返事すんな!」
英里佳に恥をかかせるのは見過ごせないと僕がそう言うと、英里佳が横で驚いたような気配がしたが、今はスルー
「お兄様、もうお昼ですし、ひとまず軽食など口にしながらミーティングしませんか?」
鬼龍院の妹である麗奈さんがそうやんわりと提案する。
ただ、麗奈さん、一度英里佳を何とも言えない目で見てたから多分バレてるんだろうなぁ……
「……確かにもう昼か。
渉、ルームサービスで人数分何か注文してくれ。
経費で落ちるから領収書も書いてもらうように」
「はいよ」
既に僕たちチーム天守閣とは違って実務作業にも携わっているチーム竜胆の面々は慣れた様子で食事の手配を進める。
ひとまず僕と英里佳は用意された席に座る。
ルームサービスの人は十分くらいで食事を持ってきてくれた。
もともとランチタイムに出す予定だったビュッフェのサンドイッチが大量に会議室に届けられた。
「さて、明日の午前中の俺たちの競技はフラッグ戦……といっても、実際は大将の生徒を決めてそいつを先に倒すか、対象が無事なら時間制限まで生き残った人数の多い方が勝ちになる。
こっちも、テイムした迷宮生物については、一匹につき一人分の枠を使うわけだな」
「きゅ!」「ぎゅ!」
鬼龍院の言葉に、シャチホコとギンシャリが反応する。
ちなみにワサビはレタスサンドを美味しそうに頬張っている。
「ハッキリ断言してもいいが、この試合に関しては俺たちに負ける要素は無い。
チーム天守閣は言わずもがな、自慢に聞こえるかもしれないが、チーム竜胆も、並の一年生チームと実力が隔絶している。
そしてこれまでの試合結果を見るに、西の一年は実力主義で個人技を伸ばす傾向が強いが、それでも俺たちには及ばない。
――歌丸、榎並、お前ら学園長に攻撃してどれくらいポイントゲットした?」
「僕っていうか、シャチホコだけど…………もう、桁違いに多い、とだけ」
「……私も、覚えられるスキル、取ろうと思えば全部取れる」
英里佳の発言に会議室がざわつく。
まぁ、それも当然だろう。
前にシャチホコが物理無効スキルでちょっと小突いただけで、ハウンド十体以上狩ったとき以上のポイントがもらえたんだ。
その首を消し飛ばしたときのポイントは、今までとは比較にならないほど多い。
「そのポイント使って、お前のスキル効果をどれくらいの人数に与えられる?」
「ただ人数を伸ばすだけなら……最大で10人。
だけど、共有可能スキルの数を三つに限定すれば……競技場一つ分くらいの範囲内で僕が味方だと認識した人だけに共有するってスキルは覚えられるよ」
共存共栄Lv5
任意指定したスキルを範囲内の任意の対象に共有状態を作る。
現在三つ
※ポイントでスキル性能拡張で効果範囲、共有可能スキル数増加
御崎鋼真との戦いの最中に修得が可能になっていたこのスキル、今のシャチホコのポイントを流用すれば使えるようになる。
団体戦において、これ以上のスキルは無いだろう。
「よし、決まりだ。そのスキルを覚えろ。共有するのは筋力回復と、痙攣無効のスキル……あと、一応聞くがサムライのスキルの共有は可能か?」
「パワーストライクとか簡単なものなら他の人も使えるようになるみたいだけど、こっちある程度のステータスと技術が必要みたい。
僕もスキルもらっただけじゃ発動しなかったし……たぶん後衛職の人は使えないと思うよ」
「逆を言えば適性があればサムライじゃなくても使えるってことだな。
……まぁ、今使う必要はないか。他に使えそうなスキルはあるか?」
「……
どんな状況でも快適に呼吸ができるってやつで、これを覚えれば水や土の中でも呼吸ができるようになる。
つまり、どんなに激しく動いても息切れしない。
僕の言いたいことがわかったらしく、鬼龍院は悪役みたいな顔を見せる。
「そうでなくても体力馬鹿が多いのに、全員もれなく体力お化けか。
お前みたいに疲労骨折しない限り全速力で動き続けられるとかもう相手が不遇だな。
よし、その二つ覚えてもらう。言っとくが文句は受けつけない。
そもそもお前らが元凶なんだし、それくらいのこと融通はしろ」
「わかってるよ。
……はい、覚えたよ」
シャチホコのポイントを使って早速新たに二つのスキルを修得し、それを見せると鬼龍院は満足げに頷く。
普段なら慎重にスキルを選ぶように注意されるところだが、今はこれが最善と判断したのか詩織さんは何も言わなかった。
「――歌丸連理、お前にはオフェンス側として誰よりも前に出て暴れてもらう」
鬼龍院の予想外の人選に、会議室の視線が一斉に僕に集まった。
「え……ぼ、僕が前に出るの?」
「向こうは面子をお前に潰されたんだ、囮役としてはうってつけだし、元々お前の得意分野だろ」
恨まれて囮役って凄い嫌だけど、実際今までの僕の一番輝ける場って囮役だったので何も言えねぇ。
「いいか歌丸、徹底的に相手の目の前で動き回って、焦らして、煽って相手の集中をかき乱せ。
無駄にプライドの高い連中だ、お前の存在を無視はできないだろ。
その間に、他の連中で西の連中を潰す」
鬼龍院の目には闘志の炎が燃えており、今まで以上にやる気が満ち溢れているのがすぐにわかる。
「勝利は確定した以上、俺たちに何が求められているか?
圧倒的な勝利だ。
相手に何もさせるな、相手に活躍させたらこっちの負けだと思え。
徹底的な蹂躙! それこそが、明日の俺たちの役目だ!」
■
一方その頃、西の多くの生徒会役員や各派閥の生徒がとある京都にある大屋敷の一室に集められていた。
「ハッキリ言いますが、我々西部はどう立ち回っても東部と真正面からぶつかり合えば勝ち目はありません」
ドラゴン公認で、西の体育祭の全権を担うこととなった神吉千早妃の言葉に、その場にいた多くの者がざわつく。
「なんだその弱気な発言は!」
「それでもこの場の責任者か!」
「勝つ気がない奴が偉そうに!」
千早妃の傍らに控える護衛である二人のクノイチは思う。
お前らが言うな、と。
今発言した者たちはもちろん、今千早妃に対しての敵意を向けてくる者たちは自分の保身のため、あるいは他者を蹴落とすために妨害などしまくっていた者ばかりである。
「策略ごっこに明け暮れていたせいで、西部迷宮の迷宮攻略率は東部より劣っているのです。
ここ数年は特に、新しい階層の攻略もされていない。
すでに実力が違うんですよ、貴方たち程度では」
しかし、千早妃はばっさりとこの場にいる者たちを見下す強気の発言。
今までの彼女からでは考えられないような言動に、その会議に出席していた千早妃の姉であり、教師の神吉千鳥は目を白黒させた。
ちなみに、彼女は千早妃の身にこの数日何があったのか把握はしていない。
今日のエキシビジョンマッチで、何やらトラブルがあったとは思うが、それだけだ。
「貴様なんだその」「黙りなさい」
激昂し、立ち上がろうとした生徒に、千早妃は冷淡な声音で吐き捨てる。
その眼は、ノルンとしての能力を使うときと同様に光を灯す。
「――もうあなた方の面子も、惟神への出資とか、本当にどうでもいいんです。
というか、いっそ皆さん全員くたばってください」
「え……あ、あの千早妃……どうしたの?
一体何があったのか、お姉ちゃんに教えて」
「――神吉先生、今はちょっと黙ってていただけませんか?」
「あ、はい」
妹の今まで見たことが無い能面のような表情、しかしその眼に燃える怒りの炎に思わず頷く。
――今まで他者に興味をしめさず、ただ言われるがままに言うことを聞いていたお飾り。
それこそがこの場に集まっていた者たちの神吉千早妃への評価だった。
だが……もう彼女は変わったのだ。
「たかだか惟神にはした金払って、何調子に乗ってるんですか?
惟神っていうか、今この場にいる皆さん、私に守られていたって自覚あります?
私、その気になれば皆さんをとっくの昔に殺すように誘導できていたんですよ。その意味、わかります?」
――そう、ぶっちゃけ、キレていた。
もともと不快に思っていたが、感情の乏しい一面のあった千早妃はそれを上手く発露させられなかったのだ。
しかし、この数日でずっと恋焦がれていた歌丸連理やその仲間たちと接し、激しく感情を揺り動かされ、そして自分の中での優先順位がはっきり定まった今はもう、過去とは違う。
「――あなたたちが死のうがどうなろうが私にはもうどうでもいいんですよ。
惟神だってどうでもいいです。
あの不本意ながら血のつながってる狸爺や、その取り巻きの老害集団も、父も母も、全部全部、一切合切どうでもいい。
政治家だのなんだの、知ったこっちゃないんですよ。
こっちの後ろ盾なんだと思ってるんですか? ドラゴンですよ、ドラゴン。ほら、なんか文句ありますか?」
ドラゴンの名前を出されては、この場にいる者たちは何も言えない。
というか、千早妃の発言に誰もが絶句している。
もはや、彼女の中での優先順位は不動のものとなった。
「わかったなら、さっさと私と連理様の輝かしい未来のために馬車馬の如く働きなさい。
今ここにいる者たちはみんな、そのために戦うのです。誇りに思いなさい」
後日、この時、この会議に参加していた西の生徒会長である中村松はこう語る。
「恋する乙女は無敵なのだと思いました。」
小学生並の感想であったとさ。
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