第232話 歌丸 の デートレベル が あがった !
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神吉千早妃をデートに誘い、体育祭の情報から遮断するという思惑。
こんな見え透いた罠などかかるはずが無いと思っていた僕。
しかし予想を裏切り、千早妃はむしろ嬉々として僕の誘いに乗ってきた。
女の子をナンパしてデートに誘う、という僕にとってはあまりに経験の少ない未知の領域なわけだが、あらかじめ教えてもらったこの東京ディスティニーパークを選んだわけだが……
「うぉおおおおおお!」
「きゃああああああ!」
現在、僕と千早妃は並んで絶叫系のアトラクションに乗っていた。
急降下のポイント、並んで手をあげています。
――やばい、東京ディスティニーパーク、メッチャ楽しいっ!!
もはや当初の不安などどうでもよくなっていた。
千早妃も僕と一緒に全力ではしゃいでいる様子だったが、もう楽しませようという気分よりも一緒に楽しみたいという感じだった。
とにかく楽しい!
「連理様連理様、ほら、さっきの写真出てますよ!」
「あ、本当だ! あはは、千早妃ってば眼つぶってるじゃん」
「だ、だってあんなのビックリしちゃうじゃないですか?」
「あ、じゃあ千早妃、最後のところでグッパー見てないんだ」
「え、グッパー? 最後って何があったんですか?」
グッパーとは、カルガモをイメージしたキャラクターであり、ミックマウスとよく一緒に出てくるキャラクターで、皮肉屋だが、どこか憎めない人気キャラだ。
「あー、もったいないなー、あれはなー、ちゃんと見てなかったなんてもったいないなー」
「も、もー、連理様の意地悪、何があったのかちゃんと教えてくださいよー」
「言っても良いのかなー、あれは自分で見ないともったいない気がするんだけど……」
「それは……う、うー……」
悩まし気な表情になる千早妃。
やばい、めっちゃかわいい。
「もう一回乗る?」
「え……でも、まだ他のアトラクション回りきってませんよ?」
「大丈夫大丈夫、今日って普段より混んでないみたいだからすぐに乗れるってさ」
一応学生出来ている人も多いが、それでも普段の入園者数と比べれば大分少ないらしい。
このペースでいけば全部回れるだろう。
「よぉーし、じゃあ今度は目をつぶらないようにしよう」
「あ、あのでしたら……」
「うん?」
千早妃は僕の手を引いて上目遣いで見上げる。
「乗ってる間、手……握ってくれませんか?」
――やばい、可愛い。
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宮城県、某所。
「――ふぅうううう……!」
「お、おい……なんで試合終わってんのに東のベルセルクあんな殺気立ってるんだ?」
「わ、わからねぇけど……声かけるの止めようぜやっぱ」
「だ、だな……いくら可愛くてもあれはちょっと……」
(なんか凄いイライラする……!
他の会場に飛び入り参加しようかな……)
――飛び入り参加可能競技にて、宮城県内で大番狂わせが多発したとかどうとか……
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「あはは、コーヒーカップって子供っぽいと思ったけど乗ってみると楽しいものだね」
「はいっ」
一緒にジェットコースター系に二つ、コーヒーカップにメリーゴーランドと乗って、現在僕たちはランチを取っていた。
まだお昼は問ってなかったしね。
「わぁ……これが、あの伝説のお子様ランチですか!」
僕はちょっとパスタの大皿を頼み、千早妃が選んだチョイスはなんとお子様セット。
一つでいろんな種類を食べられるメニューであるが……高校生で頼む人って初めて見た。
「千早妃はちょっと表現が大袈裟過ぎない?」
僕も東京ディスティニーパークに来たのは初めてだが、それにしたって千早妃の喜びようはちょっと大袈裟過ぎると思う。
「あ、す、すいません。うるさかったですよね」
「あ、全然そんなことないよ。
シャチホコたちと比べればもう全然」
あ、ちなみにシャチホコは現在アドバンスカードの中に入ってる。
今は隠密で来道先輩が近くで護衛しているだろうし、流石に遊園地内では動物であるシャチホコは出せないからね。
「むしろ喜んでもらえて嬉しかったんだけど…………その、家族とこういうところ来たこと無いの?」
「……そうですね。私が覚えている限り……私にとって本当の意味で家族と言えるようになった人は……迷宮学園を卒業して戻ってきた姉上だけでしょうね」
どこか寂し気な表情を見せる千早妃を見て、僕は迂闊にも地雷を踏んだのではないかと焦る。
――僕の馬鹿ぁ! 千早妃みたいな特殊な家の生まれには大なり小なり一般家庭とは違うことがあるんだから地雷の可能性くらい想定できるじゃん!
我ながら本当になんでこうも学ばないのかと呆れてしまう。
「そ、その……ごめん……聞きにくいこと聞いちゃって……」
「あ、いえ、私にとってはもう割り切ってることですので」
そうは言うが、明らかに最初より元気がないというか…………あれ?
「……あのさ、千早妃もしかしてだけど体調悪かったりする?」
「え……ど、どうしてそう思うんですか?」
僕の質問に、千早妃はちょっとだけ声を上ずった。
「いやその…………なんか、疲れたって表情に見えたから」
……今の表情が、落ち込んだ英里佳と重なったから……とは流石に言えないよね。
それは流石に僕でもわかる。
「…………そう、ですか。
……実を言うと、少しだけ寝不足気味なんです。
ちゃんとお化粧して隠してたんですけど……連理様にはやっぱりバレちゃうんですね」
「体調悪いなら、どこかで休む?」
「………………これはつまり、ご休憩のお誘い……所謂、お持ち帰りというものでしょうか?」
「茶化さないでよ。結構本気で心配してるんだけど」
「それは……ごめんなさい。
でも……私はまだ一緒に連理様と一緒にデートしたいです。
こんなに楽しいのは生まれて初めてなんです。
だから……多少無理してでも連理様と一緒にいたいです。駄目、ですか?」
「………わかった。
でも、本当に無理な場合はちゃんと教えてよ」
「はい」
というか、そもそも人一倍無理を通してきた自覚のある僕の立場で他人に無理するなとか言えるはずがないわけですよねぇ……
「とりあえず一回手出して」
「? こうですか」
僕の言う通りに手を差し出す千早妃の手を取る。
「
「あ……」
まだ空きがあるので、スキルを発動させる。
「歩いてる途中でふらついたら危ないし、とりあえずデートの間だけスキルで誤魔化すってことで…………千早妃?」
「…………はっ、あ、す、すいません。あまりに嬉しくて、ちょっと放心してしまいました」
「だからいちいち大袈裟だってば……ほら、お昼食べよう。
折角のデート、楽しもう」
「はいっ」
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神奈川県・某所
「「っ!!」」
早々に競技が終わった紗々芽は、親友である詩織の応援のためにこちらの会場にやってきていた。
午後から翌日のトーナメント出場のための試合が待っており、現在食事中だったわけだが……
「……紗々芽、今、気付いた?」
「うん…………なんとなく。
最近、歌丸くんとの特性共有状態、こっちからも逆に色々と探知できるようになったよね」
「じゃあやっぱり気のせいじゃないわね。
今歌丸、治療してるわけじゃないわよね?」
「治療の場合は連続で断線と接続を繰り返すけど……これは繋がりっぱなしかな」
「……どう考えても、相手って一人よね」
「うん、そうだね」
一緒に食事をしながら、二人の身にまとう空気が重さを増す。
美少女二人が並んで食事をしているシーンで、声を掛けようかと思っていた男子たちが即座に踵を返すほどの気迫である。
「……ええ、わかってる、これは作戦。れっきとした作戦よ」
「そうだね。うん、そうだね。
そうだけど…………とりあえず帰ってきたらどうだったか確認しない?」
「…………そうね。そうしましょうか」
歌丸はこの時、妙な悪寒を覚えたらしい。
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北海道・某クレー射撃場にて
「あーあ、あいつ今夜やばいッスね」
特性共有のネットワークから感覚を何気に戒斗も感じられるようになっていた。
そしてその感覚だけで色々と察した戒斗は、おにぎり片手にそう呟いた。
「戒斗先輩、お茶をどうぞ」
「あ、どうもッス」
しかし、戒斗はそんなことを忘れて自分の応援に来てくれた歌丸椿咲と一緒にランチをしていた。
「いやぁ、流石だね日暮くん」
「噂では聞いていたけど、本当に凄いわね。
凄いカッコよかったわね」
さらにそこに歌丸夫妻も一緒にいるわけで……
「まぁ、あれくらいはチョロいもんッス。
あははははははっ」
――
■
「戒斗、あの野郎っ……!」
「れ、連理様? 突然どうしたんですか?」
「え……あ、ごめん、今なんか猛烈に戒斗をぶん殴りたくなって……まぁ、気にしないで」
「は、はぁ……」
今は戒斗のことはどうでもいい。
とにかく今は千早妃と遊ぶことをメインだ。
お昼も終わり、僕と千早妃はその後いろんなアトラクションを見て回った。
SF風のジェットコースターに、海賊船を模したアトラクション、空中ブランコに、VRを使ったアトラクション、演劇、いろんなものを見て回った。
小さい頃に家族で近場の遊園地に行ったことしかなかったが、流石は世界規模で有名なだけはあって、そのすべてのクオリティが楽しかった。
これは、年間パスポートを作りたがる気持ちがわかる。
そして楽しいのはなにもアトラクションだけじゃない。
「わぁ……! 連理さま、あれ、あれ見て下さい!」
「キティマウスです、キティマウスですよ!」
「あ、凄い、あ、今こっち見ました! 連理さま、マーメイドさんがこっち見ました!」
このようにア園内にいるキャラクターたちと頻繁に会えて、知っているキャラクターに遭えた時は僕もテンションが上がってしまう。
そしてそんなはしゃぐ千早妃の姿を撮影し、近くにスタッフさんがいる時は一緒に写真を撮ったりして、ポラロイドの数がどんどん増えていく。
「はい、どうぞ」
「わぁ……こんなに一杯」
そして撮った写真を眺めて、千早妃は顔をほころばす。
……彼女の反応を見る限り、こういうことの経験が本当に無いのだろう。
ちょいちょい地雷を感じるな、神吉の家。
迂闊に踏んでも折角のデートの雰囲気を壊すかもしれない。
それは千早妃も望まないはずだ。
「あっちにお城に登るアトラクションあるよ」
「あ、知ってます! 映画のあのお城ですよね!
映画の内容を体験できるアトラクションです!」
僕たちが向かったのは、ゴンドラに乗って城に向かい、その中を最上階へと昇っていくものだった。
乗り物系だが絶叫要素はなく、せいぜい高い景色を見られる程度だろう。
最上階に行って、そこからはエスカレーターで地上に降りるだけだしね。
気楽なものだと思って早速向かうと……
「――いらっしゃいませ、あなた方は今年で入園一万組目のカップルです!」
アトラクションの受付に入った途端にベルを鳴らされて、僕も千早妃もキョトンとしてしまった。
な、なんだ急に!?
と思ったけど、受付での出来事を思い出す。
これがもしかして例の仕込みか?
「記念に仮装して城の最上階での映画名場面シーンの再現記念撮影などできます!」
「知ってます! 呪いの掛かって獣に変えられてしまった王子と、主人公の女の子がキスして呪いが解けて、そしてそんな二人を国民が祝福するっていう……!」
映画のシーン再現か……僕はその映画はちょっと知らないけど……千早妃は凄い詳しいな。
「……って、え? キ、キス? 流石にそれはちょっとまずいんじゃ……?」
「私は構いませんよ?」
「いや、僕が構うというか、色々立場上問題があるわけで」
「――では、我々スタッフは準備に入りますので、お二人はアトラクションをお楽しみください」
「って、え、ちょ、受けるとはまだ言って――ってもういない!?」
いつの間にかスタッフはもういなくなっていた。
残された僕はただ困り果ててその場で呆然としてしまう。
「……駄目、ですか?」
「え?」
ふと、千早妃が少しばかり悲し気な表情で見ているのに気付いた。
「私は、その……あの映画のワンシーンに凄く憧れてて、それを連理様と一緒にできるなら…………すいません、我儘言ってしまいましたね。
スタッフの皆さんには、やはり中止にしていただきましょう」
「…………~~~~っ、わかった、わかったからそんな顔しないでよ。
折角のデートなんだし、いいよ、一緒に体験しよう、その映画のワンシーンっての」
「……いいんですか?」
「うん、いいよ。ただし、キスはなしね。もしくはフリ。
それが条件ね」
「はいっ!
そちらは本番まで取っておきましょう!」
「そういうことじゃないんだけど…………まぁ、いいか。
ところで、僕はこの城を舞台にした映画は見てないんだけど、千早妃は知ってるの?」
「はいっ!
私、その映画が大好きなんです」
「じゃあアトラクションに乗りながら教えてよ。
体験型ってことで映画の流れに沿うみたいだけど……解説があったほうがもっと楽しめそうだし」
「任せて下さい。
まず映画の初めはですね、主人公の女の子が――」
楽し気に映画の内容を語りだす千早妃
僕は彼女と手をつなぎながらアトラクションへと向かうのであった。
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