第231話 遊園地デート & チーム天守閣頑張る。



僕、歌丸連理と神吉千早妃は運動競技場からタクシーで東京駅に向かい、そこからさらに直行バスでとある場所に向かった。


とある場所、そう、それは……千葉県!


千葉県にあるけど、東京ディスティニーパーク


アメリカで有名なディスティニー映画のキャラをモチーフにした、さまざまなキャラクターたちとである夢の場所である!



「す、すごい……ここが、東京ディスティニーパーク……!


千葉県にあるのに、東京! ディスティニーパーク!」


「あ、うん、連れてきておいてなんだけど、とりあえず名前はこれ以上連呼しないで行こう」


「?」



不思議そうに首を傾げる千早妃


いやまぁ、僕もなんでそんな注意をしたのかよくわかってないんだけどね。でもなんか危ない気がする。



「まぁとにかく、今日はこれからここで遊ぼう!」


「わぁ…………あ、でもいいんですか?


今は一応行事中なのに……?」


「その点はちゃんと確認してるし大丈夫。


現に今もほら、他の生徒も入ってるでしょ」



基本的に残りの今日からは他の学区はあまり直接競技に関わらないので暇な人が多い。


普通に観戦して楽しむ人もいれば、折角日本にいるのだからと名所とか行きたいという意見も出て、ドラゴン共も「折角なんだし楽しみましょう」「せやせや」って軽いノリでOK。


そんなわけで、競技が無い生徒は普通にパークで遊んでたりする。



「あと、僕こんなのもらってます」



僕が提示したのは、以前学園で行われた模擬店のリハーサルで、西学区の生徒会役員である白木小和先輩からもらったフリーパス


実は今回の体育祭には、このパークの運営会社もがっつり絡んでいて、このフリーパスも有効なのである。


まぁ、こんなパスもらえる人は普通体育祭で遊んでるような暇とか無いはずなんだけどね!



「このパスがあれば同伴者一名までなら入園料や遊具使用料全部無料! パーク内のレストランも食べ放題!」


「す、すごいっ!!」



千早妃が今まで見せたことのないような輝く目で僕の手にあるフリーパスを見ている。



「今で人伝でしか聞いたことのなかったパーク……それを見れただけでも感動なのに、さらにそんな好待遇……ああ、夢のようですっ」



もう目に見えてはしゃいでいる千早妃。


なんというか……想像以上に喜んでもらえて何よりだ。



「早速行こっか」


「はい、行きましょう!」



最初とは逆に、今度は千早妃が僕の手を引っ張って入場ゲートへと向かう。


とても興味津々らしい。



「ようこそいらっしゃいませ!


入園パスを確認します。お持ちでない場合はあちらのチケット売り場へどうぞ」


「これでお願いします」



そして僕は入場ゲートにてフリーパスを見せると……



「はい、確認させていただきます。


少々お待ちください」


「あ、はい」



なぜかパスをもって受付対応の人が奥の方へと移動した。


一体どうしたのだろうか?


そう不思議に首を傾げていると……



「――ターゲット入園確認。


各自配置につけ」



「なんか物々しい単語聞こえた!?」


「? 連理さま、どうかなさいました?」


「いや、今、今なんか受付の奥で変な言葉が!」


「そう、なんですか? ちょっと周りの音楽で私は聞こえませんでしたけど……?


それで、何と聞こえたのですか?」


「いや、それが」「お待たせいたしましたー!」



千早妃に話そうとした直後、受付に人が戻ってきて、何やら腕輪と獣耳付カチューシャを持ってきた。



「こちらを係員に見せれば全アトラクションとお食事など、一部を除き無料となります。


どちらをお付けになりますか?」


「え……あっと……じゃあ腕輪の方で」


「はい、それでは彼女さんにはこちらのカチューシャをどうぞ」


「あ、はいっ」



てっきりどちらの種類がいいか聞かれるのかと思ったらこの二つしかないらしい。


しかし、千早妃はこういう場だからなのか特に抵抗なく獣耳カチューシャを装備した。


………………いいねっ!


遊園地だから当然の様に獣耳が受け入れられるこの状況は、なかなか胸が弾む。



「――全スタッフ、総出でお二人のデートを応援いたしますので、何かあればすぐにお近くのスタッフにお申し付けください」


「え……あ、は、はい……」



腕輪を渡された際にそんなことを言われた。


どうやら、昨日の今日でガッツリこの遊園地にしこみの連絡がされたようだ。


手が早すぎる気がするが……まぁ、いいけどさ。



「と、とりあえず行こう」


「はいっ!」



獣耳カチューシャを装備して笑顔を見せる千早妃。


一緒に並んで入園すると、入って早々の大きな街のアーケード街を表現したようなゲートを目を輝かせて眺める千早妃。



――カシャ!



「連理様?」


「…………はっ!?」



気が付けば僕は生徒証のカメラ機能を使って千早妃を撮影していた。



「あ、ご、ごめん、つい無意識に……」


「連理様、撮影が好きなんですか? それはちょっと知りませんでした」


「あ、あははははは……まぁ、少々齧った程度にね。


こういう場だし、色々撮りたいなって思って」



よしセーフ! 獣耳に対しての撮影癖が出てしまったが流石は遊園地!


非日常という雰囲気で大抵のことが誤魔化せるぞ!



「って、お、おぉ?」


「あ、ミックマウス、ミックマウスです!」



このパークのメインマスコットである大きなネズミをモチーフにしたキャラクターが近づいてきた。


昔、彼が主役の映画を見たことがあり、そのキャラクターが目の前にいるというのはなんだかとても感慨深い。


何やらジェスチャーで僕に何かを伝えようとしている。



「……あ、写真」



僕が言い当てるとうんうんと大きく頷くミックマウス



「――よかったら写真、お撮りしましょうか?」



近くにいたスタッフがそんな提案をしてくれる。


折角だし、頼もうかな。



「じゃあ、お願いします。


ここ押すと撮影ですので。


あ、千早妃も自分ので撮る? もしくは後で通信で送る?」


「あ……いえ、私は生徒証を持ち歩いてないので」


「え?」



千早妃の言葉に僕は耳を疑った。


生徒証は僕たち迷宮学園の生徒にとって身分証明書以上の存在であり、常に肌身離さず持ち歩くのが当然なのだ。


生徒証って……つまりはステータスの設定もいじれないし、アイテムストレージがないってことだぞ?


前者はともかく、後者はかなり致命的だろ。



「まぁ……ちょっとした権力闘争の下らない見栄のせいですね」



千早妃の言葉に、僕は御崎鋼真のことを思い出した。


まさか、あいつが千早妃の生徒証を? でもどうしてそんなデメリットしかないことをする必要が……?



「ですので、気にせず」「ちょっと待ってて」



まぁ、今はそれを考えるところじゃない。


丁度すぐ近くの売店で、ちょっと割高だけど良いのがあった。


素早くそこに向かい、フリーパスは使えなかったので現金購入した。



「すいません、やっぱりこっちで撮影お願いします。二枚で」


「はいっ」



僕が手渡した新品のカメラを手に持ち、僕は千早妃と一緒に並ぶと、僕たちの後ろにミックマウスが立つ。



「はい、チーズ」



一緒に並んで笑顔で撮影。


その後、スタッフからカメラを受け取った僕は、カメラから取り出されたフィルムを確認する。


ちょっと熱かったが、軽く振って熱を冷ましてから、千早妃に渡す。



「はい、どうぞ」


「……これは?」


「インスタントカメラ……えっと、確か正確には……そう、ポラロイドって言って、取ってその場ですぐ写真が出てくるんだ。


これなら千早妃も写真見れるでしょ」



手渡した写真には、僕と千早妃、そしてミックマウスが一緒に写っている。


うん、インスタントってちょっと不安だったけどばっちり撮れてる。



「……あ」


「え、千早妃、ど、どどどうしたの!?」



突然千早妃の目から涙がこぼれた。


あまりに突然で、僕は混乱してしまう。


な、何、なんかまずかった? なんか凄い失礼なことしちゃった、僕!?



「す、すいません。急に……あまりにも嬉しくて、つい」


「え……そ、そうなんだ……いやでも、ちょっと大袈裟なんじゃ……」


「いえ……私、こういうの初めてで……」



そう言って、千早妃は写真を宝物のように胸に抱え込む。



「私、この写真を一生の宝物にしますっ」



喜んでもらえて嬉しいが、ちょっと思い付きで買っただけの写真にそこまで喜ばれるとちょっと申し訳ない。



「そこまで喜んでもらえるのは嬉しいけど……まだまだ序の口だよ。


もっと一杯撮るし、もっとたくさん楽しもう。折角のデートなわけだし」


「はいっ」





少々時間を巻き戻す。


全国各地で行われている一年生を対象とした勝ち抜き戦の競技場の一つ。


宮城県内で行われるその会場は普段ならば野球場として使われるのだが、現在はゴム製のマットが四角形に敷かれて区切られた簡易のリングが複数設置されている。


相手を場外にさせる、もしくは戦闘不能にする、または降参させることで勝利となり、それ以外の細かいルールは特に設定されていない。


例年はもっと細かいのだが、今回は死んでも復活する結界があるからその辺りはかなり寛容になっているらしい。


午前中は選手はそれぞれのリングで十回連続で勝利した者を選抜する。


そして午後から勝ち残った者たちで総当たり戦を実施し、最多の勝ちを重ねた者が翌日のトーナメント戦に出場する。


ちなみに十回勝つ前にリングから降りた場合はそれまでの勝利がリセットされるという厳しいルールだ。


さらに、基本的に予選は使用武器は運営側が用意したもので、スキルの使用は人試合に着き三回までとなかなか厳しい、選手の技術を要求されるものであるのだが……



「ふー……」


「こ、降参、降参する!!


だか、だからもうやめて、いえやめてくださいっ!!!!」



そのリングの一つで、異彩を放つ少女が一人いた。



「あ、あれが噂の東のベルセルク……!」

「クールビューティとか言われたのに……なんだよあの戦い方……!」

「えげつない……人体急所を攻め込み、さらに倒れたところに追撃って」

「なんで場外しようとしてるのに追撃するんだよ……」



参加者の多くの男子は、その見た目とは異なる荒々しい戦いに戦々恐々としていた。



「いくら不死身の結界があるからってやり過ぎじゃ……」

「普通、むせび泣く相手にあそこまでやるか……?」

「というか……あの相手選手、一回死んでないか?」

「そ、そういえば……あいつ足折れてたのに戻ってるよな……?」



あまりに残虐。あまりに冷徹。そして、あまりの強さにこの場にいる一年生たちの心は折れかけていた。というか、もう何割かは折れており出場辞退に向かってる生徒もいる。



「レイドウェポン使わなければ普通だと思ったのに……」

「馬鹿か! 普通じゃないから一年でレイドウェポン持ってるんだろ!」

「っていうかさ、あの子、ベルセルクのスキル全然使ってなかったぞ?」

「は? ま、待て! じゃああの子、本来の武器もスキルも使わず、素の体術だけであれなのか!?」



「――次、誰?」



騒ぐ男子たちを、英里佳は冷徹な目で見まわす。


瞬間、誰もが一斉に目を背けた。



(ていうかなんでまだリングにいるの!?)

(この予選って10回連続で勝てばもう戦わなくていいってルールじゃん!)

(絶対あの子10回以上買ってるし、シード枠獲得分の勝利もしてるってば!)



「来ないなら、こっちから行くから」



そう言ってリングから英里佳が下りて、他のリングに向かおうとした直後。


次の対戦相手を待っていてフリーだった選手たちが急いで逃げ出した。


この勝ち抜き戦は、連続十回勝つまでにリングを降りるとこれまでの勝ち星が無効になるが、それも辞さないらしい。



「さぁ、やりましょう」


「ひ、ひぃいいいいいい!!」



しかし、哀れ。


一番近くのリングにいた男子生徒が捕まった。



――ちなみに、この会場には関しては午前中で選抜が終わったという。


英里佳は無事に翌日のトーナメント出場を決めたらしい。





「――はぁ!!」


「ぐ、ま、参った!」



また、別の会場。


場所は神奈川県内にあるサッカー場であり、そこにもゴムマットを敷いた簡易リングが複数作られていた。



「あの子、手数多いな……」

「いや、手数だけじゃなくパワーもあるぞ。対戦相手の攻撃を盾で完全に受け止めていた」

「違うな、あれは単純なパワーだけじゃない。盾の受け方が上手いんだ」

「いや、その前に剣で相手を牽制していた。あれじゃ反撃を警戒して腰が自然と引けちまうって」

「だからってパワーが無いわけじゃないだろ、鍔迫り合いで押し勝ってたし」



多くの男子たちから観察されるその少女


その技術はすでに三年生クラスのラインにも届いており、その技術力の高さに多くの一年が目を引かれる。



「ルーンナイトの三上詩織……スキルだけじゃないな」

「……お前勝てるか?」

「無理。武器制限でスキル制限だからもしくはっと思ったけど、あれは無理」



東の生徒は、いつも遠目から見ていたチーム天守閣のことを、心のどこかで侮っていた。


しかし、そのリーダーを務める少女のその実力を目の当たりにし、そして手合わせをしてわかった。


彼女は――いや、彼女たちは本物だと。



「可愛くて強いとか、どんだけやねん」

「おもろいやん、あの子」

「やばい、惚れる」



本来は完全に敵である西の生徒たちも、誰もが詩織に見惚れていた。



「次、お願いします」



そんな彼女の言葉を受け、また一人、彼女へ挑む。





そして、北海道某所クレー射撃場



「ふぅ……」


「「「……………………」」」


『……えっと、日暮戒斗選手……トラップ、スキート、ともにパーフェクトですね。


現時点で、決勝出場決定です』



他の選手たちが射撃用のライフルを使う中、一人、回転式拳銃で参加した戒斗は、射撃の圧倒的な実力で楽々勝利していた。






「こ、これは……!」

「なんということだ……!」



そして、福島県某所



「う、美しさと荒々しさが絶妙に表現されている……!」

「生命力にあふれながら、どこか死を連想させる恐怖……人の一生を表現しているというのか!」

「これぞまさしく、植物を司る、ドルイドの境地か……」



周囲がそう騒ぎ立てる中、一人の少女とドライアドがやや困惑している。



「えっと……」


「紗々芽、大丈夫?」


「大丈夫というか……よくわからないというか」



スキルの芸術点を計るというよくわからない競技によくわからないまま参加させえられた苅澤紗々芽は、ひとまずうっぷんを晴らす意味合いで樹木を利用するスキルを乱発した。



「ふっ……認めたくないものだな」

「だが……実際に見せられては……いや、魅せられては反論もできないな」

「ぐぅの音も出ない…………まさか、この私がそんな感覚を味わうことになるとは、ねっ」



その結果、出来上がったのは多種多様な植物の根っこや幹や枝が絡み合う謎のオブジェなわけだが、それが審査員の皆さんから高評価され、他の参加者の美術専攻してます的な明らかに通常の者とは違う改造された制服を着た者たちからも戦々恐々とされている。



「あ、あの……ぇと……」



何やら空気がおかしいことになり、早々にこの場から去りたい紗々芽。


頑張っているみんなには悪いが、もういっそリタイアしようかなと本気で検討しようとしたその時だ。



「苅澤紗々芽さん。


……あなたは、もう今日は帰っていい」


「え、あ、はい」



審査員の一人からそんな言葉を受け、内心ほっとする。


自分は失格なのだろう。そもそもルールとかよくわからず適当にやったのだから無理もないかと考える。



「――もはや決勝など不要。君こそ優勝だ!」


「え…………えぇええええええええええ!?」



まさかの宣言に驚愕する紗々芽。



「待ってください」

「それは横暴だ!」



他の審査員が待ったをかける。


そうだ、是非言ってくれと紗々芽は二人を内心で応援するが……!



「それでは明日、彼女の技が見られないではないか!」

「そうだ、もっと色んな苅澤紗々芽先生の表現を見てみたい!」


「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」



驚愕、さらに倍。


あまりに事態の急変に、自分が審査員から先生呼びされていることにも気づかない。



「ふむ……ならば明日は、準優勝者と三位決定戦を決めたのち、エキシビションとして苅澤紗々芽先生の演技を見させてもらおう」


「「異議無し」」



「ふぅ、まぁ仕方がいないな」

「ああ、だが、たとえ二位でも明日は全力を出す」

「いや、むしろこれを見た以上は明日はさらに上を目指す」

「そうだな。たとえ結果は変わらないにしても、勝つ意欲は失わないぜ」



「あ、あの、皆さん、私は別に芸術とか詳しいわけじゃ……」

「…………?」



周囲から拍手までされて焦る紗々芽


そんな彼女の反応がよくわからずにドライアドのララは小首をかしげる。



……まぁ、つまりそういうことになった。



歌丸連理がデート中の間、他の仲間たちもなんやかんやで順調に勝ち進んでいたのである。

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