第219話 日進月歩 その②



「テンペストラッシュ!」


「ふぁあいふぁあい!」



冷気を纏った連続の刺突を放つルーンナイトの三上詩織


それらを受ける北学区の生徒会長である天藤紅羽



(あれ、なんて言ってるんスかね?)


(たぶん『甘い甘い』じゃないかな?)



そんな光景を隠密スキルで隠れた状態で観察しながら移動している日暮戒斗と歌丸連理


(しかし、やっぱり強いッスねあの会長


本気出してないのに詩織さんが押し切れてないッス)


(まぁ、確かにね。


でも……向こうが迂闊に攻撃に転じられないってのも守りが堅い理由の一つかな)



そう呟く連理。


今もこうして剣をぶつけ合う二人だが、その周囲には常に三匹の動く影がある。



「きゅ」「ぎゅ」「きゅる」



三匹の連理のパートナーである兎たちが、今か今かと攻撃の隙を伺っているのだ。


もし紅羽が下手に隙を見せれば、即座に物理無効スキルでの攻撃が来る。


それを避けるために迂闊な攻撃はせず、周囲の兎たちを警戒しながら、ルーンナイトんの詩織の攻撃をさばいているのだ。



「ふぉふぁあっ!」



だが、一方で仮に攻撃する好機があったとしても……



「素立無場居」


「あぁーーーーーーーーーー!!」



即座に歌丸がスキルを発動し、詩織を転移で呼びよせて攻撃を回避。


そして追撃をしようとしたところで兎たちが進路を阻む。



「ペネトレイトスティング!」


「ああふぉう、ふぃふふぉいわふぇ!!」



間合いを一気に詰める刺突攻撃を受け止めるものの、苛立った声で叫ぶ紅羽


ちなみに「ああもう、しつこいわね」と言っているらしい。


先ほどからこれを繰り返してばかりで、時折兎たちの攻撃を受けているのだ。


状況としてはじわりじわりとチーム天守閣が仮想ドラゴンである紅羽を削っている状況だ。


さらに……



「そいや」



隠れながら銃を撃つ戒斗


狙いは紅羽――ではなく、その足元


衝撃により、そこにちょっとした穴ができる。



「あ」



そして突然できた穴に紅羽は足を取られて体勢を崩し……



「バーティカルブレイカー!」



容赦なく真上から真下へと振り下ろされる渾身の一撃



「あばっ!?」



頭上から降ってきた斬撃を受け、体勢を崩している紅羽は、そのまま頭を地面に叩きつけられる形で倒れた。



「「いぇーい!」」



してやったりと隠密スキルを発動させたままハイタッチする戒斗と連理



「テンペストラッシュ」



そして倒れた紅羽に対して当然のように追撃をしかけ、その身体を凍り付けにする詩織。



「いったぁ……唇切れた…………もう、流石に怒ったわよぉ……!」



口が普通に開くようになった紅羽は、凍った体をものともせずに立ち上がろうとする。



「立ち上がるまで数秒遅れますね」


「たかが数秒程度で」「きゅ」「……あ」



詩織の言葉に反論しようとした紅羽だが、目の前に現れたシャチホコを見て顔をサッと蒼くした。


そして、シャチホコの額に紫色の光の角が出現した。



「きゅう!」

「ぎゅう!」

「きゅるん!」



物理無効攻撃が三方向からほぼ同時に放たれ、鼻、脇腹、脛と絶妙に人間の痛がる個所を攻める。



「いったぁあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



そして悲鳴を上げる紅羽


そんな一連の流れを、離れた場所で見ている苅澤紗々芽は何とも言えない表情をしていた。



「……流石に大人げないような気が……」


「GRR……」



一応ついてきていたユキムラも、三人と三匹によって蹂躙されている紅羽に若干の同情を覚えていた。


いやまぁ、これも自業自得の状況であるのだが……



「………………」



一方でその光景を見て、榎並英里佳は沈黙している。


無表情で、三上詩織を見ているのだ。



「やっぱり……私は……」


「英里佳、そんな自分を卑下しないで。


あれは集団でやってるから有利になってるだけ。


さっきまで一人で戦っていた英里佳とは状況が違うから」


「そうじゃない……私は」



英里佳は自分の手を見る。


ベルセルクのスキルを使い、通常時より爪が鋭くなっているその手を、英里佳は力いっぱいに握りしめる。


結果、その爪が掌に食い込んで血が流れる。



「英里佳、何してるの!」



紗々芽は慌てて英里佳の手を開かせようとするが、英里佳の手は固く、紗々芽の力ではびくともしない。



「私は、結局変われていなかった……いつもいつも、肝心なところで、歌丸くんに、守られているばかりで……」



深い、その後悔の念に苛む英里佳


その痛々しい姿に、紗々芽はそれ以上声をかけることが出来なかった。





会長の今の能力は驚異的だが、今の僕たちの力が全く通じていないわけじゃないことが証明された。


特に、戒斗の銃撃や、詩織さんの斬撃や冷気でもほとんど効果が無かったのに、シャチホコたちの物理無効スキルが目に見えて効果を見せている。



「ああもう…………流石に、ちょっと……いいえ、かなり、イラっと来るわねぇ……!」



先ほどまで上機嫌だった会長が、かなり不機嫌になった。



「中々だとは思うけど、英里佳との勝負の方がまだまだまだまだ楽しめたわ」



ドラゴンを連想させる鋭い眼光が、戒斗の隠密スキルで隠れているはずの僕と目が合った。



「さっさと歌丸くん殺して、英里佳の本気を引き出させえてもらおうかしら」



その言葉に、僕は明確な意思を感じた。


勘とかじゃない。


完全に見られてる。



「戒斗、こっから別行動!」


「ああ、分かったッス。


くそ、こんなことなら隠密スキルにもちゃんとポイント振っとくんだったッス!」



戒斗も自分のスキルが通じてないことを悟り、早々に別々の方向へと走る。



「させない!」

「邪魔!」



詩織さんの攻撃を今度はその翼で受け止めた。


見た所さほど分厚くないような翼膜に当たったはずなのに、詩織さんの剣を弾くくらいに強靭さを併せ持っているらしい。



「きゅう!」



そして僕と会長の進路上にいたシャチホコが物理無効スキルを発動させて突っ込もうとしたが……



「――サラマンダーボディ」



突如として灼熱の炎を纏う会長



「きゅきゅう!?」



既に地面から飛び跳ねていたシャチホコは、会長の炎見て驚く。


その炎にシャチホコが突っ込もうとしたのを見て、僕は思わず手を伸ばす。



「素立無場居!」



咄嗟のスキルを発動。


そしてどうやら、このスキルの対象にはシャチホコも当てはまったようで、どうにか回収できた。



「きゅぅ!」



しかし、前足や額に火傷がある。


少し遅かったようだが……



「まず、一匹」



――僕に心配している余裕はないようだ。



「素立無場居!」



再びのスキルを使用。


僕が転移したのは、英里佳たちの目の前だった。



「歌丸く」「シャチホコお願い!」



紗々芽さんが驚いていたが、有無を言わせずシャチホコを預けて再びスキルを発動。


今度は走っていた戒斗のすぐ近くに現れて、すぐに逆方向に走る。



「ああもう、想像以上に面倒なスキルね、それ」



再び接近されたと思ったので、即座にスキル発動


今度は詩織さんのすぐ近くだ。


すると、先ほどまで僕が立っていた場所に巨大な火柱が発生したのを見た。



「転移魔法の連続使用。


本来なら絶対にありえないことだけど……なるほど、厄介ね、これは。


でも、もぐら叩きみたいで少し楽しいかも」



全身に炎を纏いながら楽し気に笑う会長


短距離での転移の連続使用が、戦闘においてどれだけ敵に回すと厄介なのか……それは、以前に僕や紗々芽さん、英里佳が対峙した相田和也の一件で十分に理解してる。


特に格上相手に戦うなら、これほど便利なスキルはないだろう。



「連理、どうするつもり?


あの炎じゃ、ギンシャリもワサビも近づけないわよ」



詩織さんの言う通り、僕たちが圧倒的な優位な状況は今まさに崩れ去った。


シャチホコをはじめとする物理無効スキルが使える三匹の兎は、回避能力は半端なく高いのだが、その分耐久力はお世辞にも高いとは言えない。


紙装甲と言っても良い。


進化前のシャチホコは当然ながら、進化後であるギンシャリもワサビも、あの炎をまとめに受ければ即座に消し炭になるだろう。



「詩織さんのクリアブリザードの冷気で相殺して、その隙をつく……僕たちが勝つための手段はそれくらいだよ」


「かなり無茶だけど……しかたないわね.


捕まるんじゃないわよ」


「わかった」



すぐさま走り、会長から距離を取り、その一方で一気に間合いを詰めようとする詩織さん。



「少しは本気出してあげようかしら――ねっ!」



詩織さんに向かって炎を纏った剣を振るう会長


クリアブリザードの冷気とぶつかり合い、冷え切った空気が一気に過熱されて膨張し、爆発が起きる。



「はぁ!」



先ほどと違い、ギンシャリもワサビも迂闊に攻撃が出来なくなったので、心置きなく攻撃ができる会長


僕からはとても負いきれないほど速いその攻撃が詩織さんに迫る。



「――スタブ!」



しかし結果は予想と反し、詩織さんは攻撃を受けるどころかカウンターを会長の喉に思い切り撃ち込んでいた。



「捌くの、上手くなったじゃない」


「教えていただいたものなので」



すかさずシールドを叩きつけて、強制的に距離を取る。



「ぎゅ、ぎゅ、ぎゅぅ!!」



そして今、クリアブリザードの冷気を受けた会長の身にまとう炎が先ほどよりも弱まっていた。


その機会を見逃すことなく、ギンシャリがもうスピードで体当たり。



「ぐっ」



物理無効スキルの痛みに顔をしかめる会長だが、その翼を広げたかと思えば、その体が宙に浮く。




「ちょっと邪道だけど、仕方ないわよね」



広げた翼が光を発したかと思えば、会長の周囲に無数のドッチボール大の火球が無数に発生した。



「さぁ、避けられるものなら避けてみなさい」



それらが一気に、運動場にいた僕や詩織さんの方に振ってきた。



「連理!」


「なんとか避ける!」



こっちに来ようとした詩織さんをそう制する。


今詩織さんの方に転移して逃げれば、確実に一気に会長からの襲撃を受ける。


しかし、これを僕だけで避けられるというのは難しいので……



「戒斗ぉ!!」


「だと思ったッス」



少し離れた場所にいた戒斗が僕や自分の方に迫っていた火球を銃で撃ち落とす。


火球は戒斗の弾丸を受けるとその場で爆発し、連鎖して近くにあった火球もさらに爆発する。


おかげで第一射は凌いだ。



「ほらほら、もっと行くわよ!」



爆炎によって見えないが、会長の声が聞こえた。


しかし、甘い。


さっきみたが、火球が出現すると同時に、あのサラマンダーボディというスキルの効果が切れていた。



「やれ、ワサビ!」



空中にいれば安全と思っているのなら、それは違う。


空中を自由に動ける、頼もしい味方がこっちに入るんだ。



「いったぁ!?」



聞こえてきた会長の悲鳴


爆炎が消えれば、地面へ落下してる姿が見える。



「ぎゅるぅ!」


「しまっ」



丁度下で待ち構えていたギンシャリが、待ってましたと言わんばかりにその場から跳ねた。


結果、鋭いボディが会長に決まる。



「~~~~~~~~っ!!」



声にならない声、と言えばいいのか?


会長がいたそうな顔をする。


だが、



「つーかーまーえーたっ!」


「ぎゅっ!?」



腹部に体当たりしたタイミングを狙い、会長はそのまま抱きしめるようにして捕獲したのだ。


そして首根っこを掴んで引き離す。



「ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅう!!」



ジタバタと暴れるギンシャリだが、悲しいかな、短い手足なので一切効果がない。



「これで、二匹っ!」



そう言って、会長の手から炎が発せられてギンシャリを焼いた。



「ギンシャリ!!」



燃えているギンシャリを咄嗟にスキルを発動させて回収しようとした。


瞬間、ギンシャリを掴んでいた会長ごと、僕の眼のまえに現れた。



「あ」


「へぇ、こうなるんだ。


面白いスキルね」



そう言って笑ったかと思えば、会長はギンシャリをこちらの方に投げてきた。


僕は咄嗟にギンシャリを受け止める。


――よかった、まだ生きてる。


それを確認したが、次の瞬間に僕は腹部に強い衝撃を受けた。



「――ごほっ」



口から赤い液体の塊が吐き出された。



「連理!!」



詩織さんの悲鳴のような声が聞こえてきた。



「はい、これで二匹と一人…………あら?」



一方で、僕はその蹴りを受けて後方へと吹っ飛ばされたが、どうにか踏みとどまる。



「あれ……?


おかしいわね、歌丸くんの耐久だったら立てるはずないんだけど?」



不思議そうな会長


それは僕も同じ気持ちだ。


だけど、こうして立っている。


それに……受けた衝撃のわりに、痛みが思ったほどない。



「共存共栄Lv.4」



その時、僕から見て正面――つまり、会長から見て背後に一人の少女が剣を構えて現れる。



庇代苦連理Sacrifice



詩織さんが、そこにいた。


口から血をこぼしながら、しかし、今まで以上に素早く力強い動きで剣を振るう。



「っ!」



それに会長は咄嗟に後ろに向けた刀で攻撃を受け止め、爆発が起きる。


僕はそれに吹っ飛ばされそうになったが、すぐに受け身を取って離れる。



「ダメージを引き受けるスキル、ってところかしら?


それで私と撃ちあえると本気で――――え?」



先ほどまで余裕で受け止められていたはずの剣だが、今までより圧が強まっているのが傍から見てもわかる。


たしか、あれって僕のダメージを引き受けて、そしてその分に応じて能力値が向上するスキルだったはず。



「――連理! 早くその子の治療を!」


「あ、わ、わかった!」



詩織さんの言葉に僕はすぐにスキルを使って紗々芽さんの元に移動した。



「紗々芽さん、ギンシャリお願い!」


「わかった、任せて」



そしてすぐにあちらに戻ろうとした時、英里佳と目が合った。



「歌丸、くん」



何か言いたそうだったけど、唇が少し動いたかと思えば、そのまま閉じてうつむいてしまう。



「英里佳、大丈夫」


「え……」


「回復するまで、ちゃんと持ちこたえるから今は休んでて」



そのまま、僕は戒斗の方にスキルを発動して転移した。



「やばいッスね、ワサビだけじゃ倒せないッスよ」


「もともと、簡単に倒せるとは思ってないよ。


だけど、全力でぶつかる価値はある戦いさ。


今の僕たちに出せる全部をぶつけよう」



そんなことを言いつつ、すぐに戒斗とは別方向に走る。


詩織さんは会長と剣を交え続けるが、会長の攻撃の速度が最初より上がっていて強化された詩織さんがまた押され始めた。



「素立無場居!」



危ないと思ってすぐに詩織さんを呼び寄せ、一度仕切り直させる。



「正直びっくりだわ。


チーム天守閣って、一人でも掛けたら脆いチームだって思ってたんだけど……粘り強さも一級品だったのね」



追撃はせず、素直に感心した様子で僕たちをそう評価する会長



「それに、歌丸くん、あなた随分と余裕があるみたいね」


「はぁ? どこを見て言ってるんですか?


余裕なんて無く、みんな必死ですよ」


「そう? じゃあ、どうしてそんなに楽しそうに笑うのかしら?」


「…………ん?」



会長に指摘され、ふと自分の顔を触ってみた。


……ふむ、確かに口角がめっちゃ上がってる。


うん、これは笑ってるね、僕。



「あんた、割と序盤から笑ってたわよ」



隣で詩織さんが口の端からこぼれる血を拭いながらジト目で僕を見ていた。


そう言われ、なんとなく離れた場所の戒斗を見ると、頷いているのが見えた。



「私も戦う時は笑うけど……歌丸くんは違うわね。


戦いを楽しむほど、強さが無い。


何が楽しいのか、私に教えてくれない?」


「どうしてって、そりゃ……決まってますよ」



顔に出ていたのはちょっとびっくりだが、それでも僕は偽ることなく堂々とこの気持ちを言葉にする。



「ちゃんと僕たちは、前に進んでる。


今、改めてそれを実感してるからです」



胸に手を当てて、僕は恥じることなく言い放つ。



「ドラゴンを倒すって決めたあの日から……ちゃんと僕たちは強くなってる。


同学年じゃない、学園最強の会長とこうして立ち回ることが出来るようになってる。


――学園に来る前じゃ、夢にも思わなかったほどに僕たちは強くなってるんです。


今はまだ、悔しいけどあなたに勝てません」



僕の言葉に、会長の微笑みながらも、鋭い眼光で僕を見据える。



「今はまだ、ねぇ……」


「はい、今はまだ、です」



そのプレッシャーに本能が警告を告げてくるが、それでも僕は言葉を続ける。


確信を持っているから。



「でも、いつか必ずあなたを超える。


迷宮で誰よりも僕たちは先に進む。


ドラゴンだって、絶対に倒す」


「大言壮語、って言われるわよ」


「誰がなんて言おうと、僕にとってドラゴンを倒すことはただの聞いて憧れる夢物語じゃない。


どれだけ遠かろうと必ずたどり着ける地続きの目標です」



拳を固く握りしめ、それを会長に対して突きつける。



「一人では駄目でも、仲間がいれば無理じゃない。


たとえ一人一人じゃかなわなくても、力を合わせればなんとかなる。


仲間がいれば、不可能なことなんて何もない。


僕は今、それを強く実感してます」



僕がそう言い切ると、会長は何とも言えない表情を見せた。



「やばい、めっちゃ青春してるこの子……見てるこっちが逆に恥ずかしくなる」


「え?」



なんか思ってたリアクションと違う。




「あんたはもう……」


「詩織さん?」



隣にいた詩織さんも口元を抑えて顔を背けてる。



「よくもまぁ、そんな小っ恥ずかしいことを堂々と……」



いつの間にかこちらに歩み寄ってきていた戒斗が呆れ気味に僕を見ている。



「え、何、みんなして何?


僕なんか変なこと言った!?」


「「「言った」」」

「きゅる」



ワサビまでだと!?



「まぁ、いいわ。


なんか毒気抜かれちゃったし…………次でまとめて殺して、今日は終わりにしてあげるわ。


それで、どれだけ実力に差があるか思い知りなさい」



そこまで言って、会長は愉し気に僕を見て言い放つ。



「その上でまた同じこと言ってくれるのを期待するわよ、歌丸くん」



そう言って、再び刀を構える会長


全身に炎を纏わせ、その熱量がこちらまで伝わってくる。



「まったく……会長に文字通り火がついたッスね」



やれやれと言いつつ、銃を構える戒斗



「そうね。


でも……こっちもやられっぱなしなのは面白くないわ」



盾をしまい、両手でクリアブリザードを握り直す詩織さん。



「こうなったら一矢報いてやりましょう。


私が初撃を何とか防ぐ。


連理、レージングで動きを止めて、戒斗の冷気の弾丸で少しでも炎を弱める。


あとはワサビで攻撃して、少しくらいお返ししなさい」


「わかった!」

「了解ッス」

「きゅる!」



これが最後の一撃となる。


そう確信し、僕たちは構える。



「――待って」



その時、背後から声が聞こえてきた。


僕はもちろん、詩織さんも戒斗もそちらを見る。


そして僕はその姿に、僕はさらなる高揚を覚える。



「もう動いて大丈夫?」



答えの分かりきった質問をする。


彼女は微笑みながら頷く。



「戦えるよ」



普段とは違う、赤い瞳に、兎の耳



「私自身が、どうすべきなのか、どうしなきゃいけないのか……まだ正直わからない」



その言葉とは裏腹に、その瞳には真っ直ぐな意志が見えた。



「でも、どうしたいのかだけは、わかった気がする…………少しだけだけど」



はにかみながら、彼女は僕に微笑み、そして僕の前に立って会長を見据える。



「貴方なんか、大っ嫌い」


「あら、残念」



先ほどの立ち回りの最中では見られなかった、恍惚という表現が的確な笑みを浮かべる会長



「後で改めて謝罪するわ。


ちょっと言い過ぎたかなって思ってるし」


「あなたの謝罪なんていらない。


どうせ、あなたは私の気持ちなんてわからないんだから」


「そうやって突っぱねてたら人とのコミュニケーションなんて取れないわよ」


「言葉で重ねてわからない相手に、何を言っても無駄。


だから」



そう言って――英里佳は身を低くして、いつでも前に出られるように構える。



「――力づくでわからせる」


「変わらないのね、そうやって何でも力で解決に持って行くんだから」



会長はやれやれと呆れたようなジェスチャーをしながらも、隠し切れない歓喜が笑みとしてこぼれている。



「私には言葉が足りなかった。


目も当てられないほどに、酷く足りなかった。それは認める。


でも……!」



英里佳は前を見ている。


それなのに、この瞬間、英里佳の意識は僕に向けられていた。


僕はそう確信した。



「言葉だけじゃ、伝えられない気持ちもある。


私はいつだって、その気持ちを伝えることを諦めたことはなかった。


みんなも……歌丸くんも、紗々芽ちゃんも、詩織も、日暮くんも…………鬼龍院麗奈きりゅういんれいなだって、そんな私にちゃんと向き合ってくれた!」



そんな英里佳の言葉に、僕は自然と拳を握りしめた。


嬉しくて、力が湧いてくる気がした。



「だから、私は間違ってない。


最善ではないかもしれないけど、間違ってなかった。


お母さんとのこれまでの十年も、私が学園で過ごしたこの数カ月も……全部間違ってない。


それを、私の……ううん、私たちの全力で証明する」



「ああもう、本当に」



全身に炎を纏わせる会長



「青くて青くて、臭すぎて……聞いてるこっちが火が出そうになるじゃない!!」



それに対して全身に物理無効の力のある紫色の光を纏う英里佳



「今度こそ、勝って見せる!!」



飛竜との融合したドラゴンナイトの極地に到達した生徒会長の天藤紅羽


エンペラビットと融合し、現時点の人類で唯一の物理無効スキルの使える榎並英里佳


二人の激突が、今、僕の目の前で始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る