第212話 二つ名って自分では決められないよね。

――都心部に迷宮生物が出現


その対処に駆り出された僕たちチーム天守閣


迷宮生物は習性として、人を襲うものであり、神吉千早妃の言った通りに駅前での乱戦となったわけだが……



「――はああああああああああああああああああ!!」



スキルを全開で使用する英里佳は、人々に襲い掛かるゴブリンを一蹴していく。



「あ、あれは噂の“叡智の狂獣パラドクスビースト”の榎並英里佳だ!」

「“叡智の狂獣”ちゃんだ!」

「あれ、今日は“純情告白兎娘エクスプロージョンバニー”じゃないんだ」

「えー、“純情告白兎娘”見たーい」



そしてそんな英里佳の姿を見てスマホを片手に写メを取る一般人


意外と冷静だ。


いや、大混乱とかよりはずっといいけどさ……なんか、もうちょっと緊張感を持って欲しい。



「なんか変な二つ名みたいなの言われた……」



しょぼんと狼の耳が垂れている英里佳


うん、言ってたね。


前にチーム竜胆との模擬戦で、麗奈さんが言ってたね、そんな二つ名


そこになんかさらに一つ追加されてるし……



「――連理、英里佳」



そこへ新たな剣を片手にやってきたのは我らがリーダーの詩織さんと、その後ろから紗々芽さんと戒斗がそれぞれ武器を構えてやってきた。


全員、今は制服姿に変化している。



「お、チーム天守閣全員揃ってる」

「サインとかもらえるかな」

「馬鹿、今は邪魔だからやめておけって」



そして本当に冷静だな。


日本人ってこんな神経図太い民族だったのか?



「なんか思ったより騒ぎになってなくて肩透かしッス――ねっ!」



言葉を言いながら、こちらに近づいてきていたゴブリンを打ち抜く戒斗


……君、もう早撃ちどうこう関係なく半端ない射撃能力あるよね。


だって明らかに拳銃の射程じゃないもん。



「“最速の撃鉄”すげぇ!!」

「それ古いわよ、今は“魔弾射手デア・フライシュツ”様よ!」

「いやいや、“幻影の銃撃手ファントム・バレル”だろ」

「違うって偉智射破留イチイバルだって」



「……なんか知らん二つ名っぽいの呼ばれてるんスけど……」



自分の銃撃を見て騒いでる民間人の反応に戸惑う戒斗である


しかし、なんか満更でもなさそうだ。



「無駄口聞いてないでさっさとゴブリンを片付けるわよ!」



「チーム天守閣のリーダーの“ルーンナイト”だ!」

「あれがルーンナイト!」

「ルーンナイトちゃん、カッコいい!」

「やべっ、ルーンナイトちゃんマジタイプだわ俺」



「……今私、普通のナイトなんだけど……」



あー……まぁ、世間一般では詩織さんって人類初の“ルーンナイト”ってことで有名だからそれがそのままあだ名みたいに定着しちゃったのかなぁ……



「詩織ちゃん、あんまり気にしない方が……」



「あ、あれは、ササメ様だ!」

「ササメ様ぁ!!」

「ササメ様ぁ!!」

「「ササメ様ぁ!!」」

「「「「ササメ様ぁ!!!!」」」」



「なにあれ……」



紗々芽さんがドン引きした目をして、尚且つ声の聞こえている方を見ない様にしながら僕の方に近寄って来て、そして僕の影に入るように移動する。


ちなみに声のほとんどは男性だった。



「たぶんネットで僕たちのこと知った人じゃないかな。


僕たち割とネット中継でメディアの露出は多いみたいだし……」



「あ、U.T.だ!」

「お、本物のU.T.だぜ!」

「U.T.だ! 実在したんだ!」

「「「「「「U.T. U.T. U.T. U.T .U.T. U.T. U.T. U.T. U.T .U.T.!!!!」」」」」」



「僕の扱いだけなんか違くない?」



さっと、僕の質問に四人が一斉に視線を逸らした。



「完全に違うよね。


みんな人間としての扱い受けてるけど、僕の存在だけなんか違うよね。


珍獣とか、UMAとか、エイリアン的なニュアンスの扱いされてない、僕?


というか絶対にエイリアンだよね。僕でも知ってるよ、アルファベット二文字のあの有名な映画の奴」



絶対にE.〇.だよ。間違いなく〇.T.だよ。


僕の呼び方確実にそこから引用されてるよ。



「さっさと片付けるわよ!」

「うん」

「おッス」



そしてそのまま去っていく詩織さん、英里佳、戒斗


僕の話題には触れないつもりだ。



「さて……それじゃあ私とララは防御固めるから、その間歌丸くんは私の防御と、あと周囲の警戒をお願い」


「わかった。


………………あとでエゴサーチしておこうかなぁ」


「やめておいた方がいいと思う。お互いに」


「ですよねぇ……」



紗々芽さんの真顔でのその言葉と、そして今の周囲の反応で、少なくともあまり心地いい感じじゃないと思うんだ。


そんなこんなで、三人が迫るゴブリンの相手をしてる間に、僕と紗々芽さんはアドバンスカードからシャチホコたちとララを呼び出す。


シャチホコたちで周囲の警戒、及び撃退。


そしてララの能力で街路樹を少しばかり強化して操り、ゴブリンだけを自動で狙うようにする。


さらに怪我人なども紗々芽さんが対応し、僕は一応紗々芽さんの護衛という形でその場に残る。


何度かこちらに迫ってきたゴブリンもいたが、所詮は上層の迷宮生物。


今の僕でも十分に対処可能で、一撃で倒せた。


これなら楽に終わりそうだなと、そう思ったとき……



「GYUUUU」



「な、なんだあれ、デカいぞ!」

「ボブゴブリンだ! 見たことある!」

「うわ、ちょっと、なんでこんな近くから……!」



騒ぎ出す民衆。


その声に僕も紗々芽さんも驚いた。



「そんな、いきなりどうして!」


「詩織ちゃんたちを突破……なわけないよね。


たぶん、召喚されたんだと思うよ。


さっきちょっとだけ魔力を感じたから」


「ってことは、またドラゴンか……!」



余計なことが本当に好きだな。


折角防衛ラインを英里佳たちが広げて安全な場所が出来たと思ったのに、その内側に召喚するとか悪質過ぎる。



「紗々芽さん、お願い」


「わかった」



だが、ボブゴブリン程度なら僕でも大丈夫だ。



「接近して」



紗々芽さんからの義吾捨駒奴ギアスコマンドで速力が強化される。


さらに、紗々芽さんが新たに覚えたという見るだけで強化を施すという新しいスキルの慈恵等視射ジェラシィによって、今まで以上に格段に速く接近できた。



「GU!?」



ボブゴブリンにとっては、一瞬で僕が目の前に現れたように見えたことだろう。



「殴って!」

「パワーストライク!」



紗々芽さんの視線を受けつつ、スキル発動


僕の振りかぶった拳は、ボブゴブリンの胸に突き刺さり、骨を砕く確かな手応えを感じた。



「GUFO!?」



そのままボブゴブリンは吹っ飛んでいき、壁にぶつかって動かなくなった。



「ふぅ……素の英里佳くらいに速かった気がするけど……なんか凄い強化されてない、僕?」


「ま、まぁ……歌丸くんに対して、私のスキルって効果が高くなってるから」


「?」



以前よりも強力になった補助に首を傾げてそんなことを呟くと、何故か紗々芽さんは少しだけ顔を赤くした。


いったいどうしたんだろうか?



「おぉおおお!」

「凄い、テレビより本物凄いぞ!」

「誰だよU.T.弱いとか言ったやつ! めっちゃ強いじゃん!」



「お、おぉ……!?」



周囲から聞こえる声に思わず驚く。



「いいぞ、歌丸連理!」

「かっこいー!」

「ありがとー!」



「え、あ……え、えへへへへ、いやぁ、どうも、どうもっ」


「歌丸くん、顔が凄くニヤけてるよ……」


「あ、いや、その……大勢からここまで褒められるって言うのはあんまりなかったのでちょっと嬉しくてつい……」


「あー……歌丸くんって、学園だと入学当初の悪いイメージを引きずってる人も結構いるもんね」


「まぁね……って、またなんか来たっぽい。


ワサビが今対処してるけど、結構数多いかも」


「この辺りはララに任せて対処に行こう。


詩織ちゃんも戻したほうがいいかもしれない。


拠点防衛なら一番詳しいし」


「だね。僕は先行するから、紗々芽さんが連絡してからついてきて」


「わかった」



まだ補助の能力が残っているので、僕はすぐさまその場から走り出し、人ごみなどあれば周囲の壁を足場にして飛び越えて進む。



「いたっ!」



敵はボブゴブリンが4体


ワサビが対処しているようだが、あいつは一撃の威力は小さいから倒し切るのに時間が掛かるようだ。



「うぇぇええ、ぇええええ!」



そして厄介なことに、ワサビが相手してない別のボブゴブリンが小学生くらいの子供の方に向かっている。



「――レージング!」



右手に巻き付けていた拘束具のレイドウェポン、レージングに魔力を流して起動させる。


それを投げると、空中で一度分解し、そして分解した金僕パーツからそれぞれ光の帯が伸びてそれぞれを結び付ける。


結果、小学生に迫っていたボブゴブリンを巻き込む形で一つとなり、その動きを封じた。



「パワーストライク!」



頭を思い切りぶん殴ると、その感触で頭蓋骨を砕いたことを確信する。


倒れて動かなくなったのを確認して、レージングを回収する。



「ふぅ……君、大丈夫?」


「う、うん……」


「立てるかい?」



よっぽどボブゴブリンが怖かったのか、その小学生は涙で顔がくしゃくしゃになっていた。


ひとまず立ち上がらせるために手を貸そうとする。



「――あ、う、後ろ!」


「は?」



小学生の声に反応して振り返ると、頭が変形したゴブリンがいつの間にか立ち上がっていて口を大きく開いて僕に迫ってきていた。



「なっ!?」



避けようとしたが、直後に足が止まる。


今ここで避ければ、こいつはまだ立ち上がれていない小学生に襲い掛かる。



――こうなったら、腕を噛ませて、その隙に首をへし折る。



そう思って身構えた、その直後だった。



「一閃」



ボブゴブリンの首が飛ぶ。



「…………は?」



一瞬のことで何が起きたのかわからなかった。


ただ……目の前で首の無くなったボブゴブリンの身体が倒れていき、僕の目の前には、長い黒髪の……日本刀を振りぬいた女性が立っていた。



「踏み込みが浅い。


頭蓋骨を砕いただけで脳へは届いてないからこうなるのです」



――学生ではない。


明らかに、僕よりずっと年上の、日本人。


そんな女性が今、確かに……スキルを使った。


――ナイト系の亜種の職業と呼ばれている“サムライ”


そのスキルを、今目の前の女性は使ったのだ。



「……あの……あなたは、いったい」



「……それは後です。


この辺りは私が片付けておくので、その子を安全な場所へ」


「え……あの、でも」


「早くしなさい。愚鈍なのは嫌いです」


「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!


ほ、ほら君、ちょっと大人しくしててね」



氷のように冷たい目に睨まれて思わず即効で頷いてしまった。


でも……なんだろう、今の目、どっかで見覚えがあったような気がするんだけど…………いや、まぁ、似たような目は頻繁にされるけど、なんか違和感があった。


ひとまずは小学生を抱っこしながらその場から移動していく。



「――疾風」



そしてその際に振り返ってみると、突きのスキルを使ってゴブリンの腹を貫いていた。


しかし……スキルを使っているというよりは、まるで自分の動きを確かめているように見える。


その姿を見て、僕は確信した。



――あの人は、間違いなく迷宮学園の卒業生だ。


それもドラゴンが認める、学生証を持って卒業を許された、北学区の腕利きの卒業生。


予想外の助っ人の登場である。





そんなこんなで、何度か近くにボブゴブリンやハウンドとか出現することはあったが、僕と紗々芽さん、そして戻ってきた詩織さんに、サムライの卒業生の女性の協力もあって、少なくともこの駅周辺では被害は殆どでなかった。


そして三時間が経過し、出現していた迷宮生物や残った死体が消えていく。



「――いやぁ、終わったッスねぇ。


……で……どちら様ッスか?」



先に戻ってきた戒斗は、先ほど僕を助けてくれたサムライの女性を見ている。



「連理の恩人よ。


遅くなりましたが、仲間を助けていただきありがとうございました」


「えっと……歌丸くんのこと、ありがとうございました」



詩織さんと紗々芽さんにはすでに僕が助けてもらったことを話した。



「別に良いわ。


むしろ、私の方があなたたちに世話になってる方が大きいみたいだし」


「「え?」」



女性の言葉に、詩織さんも紗々芽さんも同時に首を傾げた。



「……いや、まさか……えぇ……?」



一方で戒斗は何か察したようだが、いったいなんだというのだろうか?



「あの……それ、どういうことですか?」



女性の言葉に僕がそう質問すると、背後から息を呑む気配がした。



「どう、して……」


「……英里佳?」



振り返れば、そこには唖然とした表情の英里佳がいた。



「三カ月ぶりね英里佳。


まさか、こんなに早く再会できるとは夢にも思っていなかったわ」



その言葉を発したのは、サムライの女性だった。



――三カ月ぶりの再会



その言葉を聞いて、僕も、詩織さんも、紗々芽さんも、そして戒斗も、この女性が誰なのか理解した。



「初めまして、チーム天守閣の皆さん。


私は榎並伊都えなみいと


そこにいる榎並英里佳の母です」



「…………母?」



僕は思わず、背後にいる英里佳と、目の前の伊都と名乗った英里佳のお母さんを見比べた。



……あ、そうか、さっきの冷たい眼差しの違和感って、入学当初の英里佳の雰囲気に似てたのか!


そんなことに気付いた僕に、英里佳のお母さんは何故か僕の方に近づいてきて、そしてその手を握ってきた。



「娘がお世話になっております。


今後とも、娘をくれぐれもよろしくお願いしますね、歌丸連理さん」



礼儀正しい言葉のはずなのに、とてつもない圧を感じた。


だから僕は思わず……



「は、はい……こちらこそ、よろしくお願いします」



普通に頷いたのであった。

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