第204話 何かある度にBBQしてない、この学園?
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「というわけで、模擬戦は無事に終わりましたので、ここで打ち上げをしたいと思いまーす!」
上機嫌でジュースの入ったグラス片手にそんなことを言うのは、北学区生徒会副会長の氷川明依であった。
敗退すればとんでもない賞金を支払わなければならないという状況から無事に解放され、それどころか格安で多くの男子を体育祭期間中警備員として動員できるようになったという喜びでテンションがハイになっていた。
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「はい、というわけでじゃんじゃん焼いてくださーい!」
「「「いぇーい!」」」
そして北学区の生徒は基本的に後先考えない連中ばかりなのでノリもよく、用意された食材をじゃんじゃん炭火で焼いていく。
そしてそんな中には……
「はい、大地くん、あーん」
「や、やめろって恥ずかしいだろ?」
「いいから、あーん」
「しかたないなぁ……あーんっ」
一度断りつつも、まんざらでもない様子でいちゃついている下村大地と、北学区書記の金剛瑠璃の姿があり……
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「あーあ……良い所だったのに……」
「はっ……半身不随になってた分際でよくほざく」
「そういうあんたは片腕無くなってましたけどねぇ~?
銃を握る腕失うとかどうなのぉ? ガンマンとして終わってないかしらぁ?」
「よくほざく舌だ。
相当に油が乗っていると見える。この場で焼きを入れてやろうか?」
「やれるものならやってみなさいよ、あぁん?」
「お前らやめろ、マジでやめろ!
打ち上げ位は大人しくしてくれ!」
試合時間一杯まで殺し合いを楽しんでいた北学区生徒会長の天藤紅羽と、対人戦最強の灰谷昇真
そんな二人のガンのつけ合いを必死で止める北学区生徒会副会長の来道黒鵜がいて……
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「攻めの間合いや連撃は悪くないが、一撃で決めるつもりが無いのがバレバレだったな」
「ですけど……どうしても私の能力値だと一撃必殺というわけにはいかないので」
「それは当然だが、攻撃にその意志がバレバレだ。
迷宮生物は基本そういうの気付かないが、知能高い個体にはそういうのばれるぞ。
一発受けてからカウンター、とか狙ってこられたらお前は脆い。
その辺りは気をつけた方がいい」
「なるほど……」
コンロを囲みながら、先ほどの模擬戦の反省点を話し合う北学区生徒会の会計である会津清松と、栗原浩美がおり……
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「君凄いねぇ、一年生でそんなに鍛えてるなんて」
「わぁ、筋肉凄い……」
「基本学生証に頼らずちゃんと鍛えてる人って珍しいよねぇ」
「…………俺は、壁、だ」
上級生の女子から鍛え抜かれた体を触られて普段の仏頂面がぎこちなくしている谷川大樹
そして、そんな大樹の姿を眺めて……
「納得いかねぇ……!
なんであんな年中壁壁言ってるあいつがお姉さま方にチヤホヤされてんだ……!」
「理不尽過ぎるッス……俺ら、かなり頑張ってたはずなんスけどねぇ……」
嫉妬する萩原渉と、怒りを通り越して疲れ切った日暮戒斗がいて……
「はい、兄さんどうぞ」
「おお、ありがとう」
そんな二人を無視してBBQを楽しむ鬼龍院兄妹がいて……
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「きゅきゅきゅう!」
「GUOOOOO……」
飛竜のソラの背中を滑り台のようにして遊んでいるエンペラビットのシャチホコ
「GR……」
そんな姿を見て少し羨ましそうにするマーナガルムのユキムラ。
いや、どう考えてもお前の巨体では滑れない。
「ぎゅぎゅう」
「きゅるるん……」
自分たちのリーダーであるが、最も幼いシャチホコが面倒を見てもらって申し訳なさそうにしているドワーフラビットのギンシャリと、エルフラビットのワサビがいて……
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そして…………
「罪状は、ララに対するセクハラ行為です」
「あなたには黙秘権がありますが、虚偽の発言は自身の立場をより追いつめるものと理解してください」
小道具のメガネを身に着け、そして被害者のララの両脇を固める三上詩織と、苅澤紗々芽がいた。
「……えっと……弁護、頑張るね」
ぎこちない表情で、頼りない感じに榎並英里佳がそう言った。
「………………ねぇ、なんで私、裁判官ポジション?」
訳が分からないという風に、稲生薺がつぶやく。
「いくら何でもやり過ぎだと思うんだけど」
そしてそんな女子四人から囲まれる形で、腕を後ろに縛られたまま正座をさせられている歌丸連理がいた。
……もう平常運転気味だったので、周囲にいた者たちはその光景を特にツッコミを入れずにBBQを楽しんでいたらしい。
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僕、歌丸連理は模擬戦の打ち上げの会場にて、不当な拘束を受けていた。
「だからセクハラとか一切してないんだってば。
僕はただ安全に進むために地面を掘って進んでただけ」
「被告人、静粛に。
まだ発言の許可は出してません」
「稲生、乗るな、この流れには乗るな」
「静粛に」
味方がいねぇ!
「まず、セクハラの定義について確認しましょう」
そう言ってまず一歩前に出たのは伊達メガネをクイっとあげる。
「まずセクハラとは、性的な触り方、もしくは言動をしたことで被害者に不快感を与えること全般を指します。
今回の被告の行為は前者、ララさんに対して性的な身体接触をしたものといたします」
「いやそれおかし」「被告、静粛に」
稲生ぇ……
僕が愕然としていると、今度は同じく伊達メガネを装備した紗々芽さんが一歩前に出る。
「社会的に問題視されるセクハラは、基本的に男性から女性への被害が多い傾向です。
これは男性が無意識に女性より優位だと考える身勝手な考えがあり、故に男性に自分がセクハラをしたという意識を持っていないことこそが問題の根底にあります。
ここで罪を認めさせなければ、いつまでも日本の男性優位の遅れた考えは変わらないと主張します」
「いやいやいやいやいや、拡大解釈しすぎ」「静粛に」「できるかぁ!」
流石にこれは黙っていられない。
なんか僕の行為全般を社会全体の問題みたいにされても困る。
そう思って意見を言おうとしたら……
「シャラップ」
「――――っ」
試合が終わった後に特性共有を戻すよ言われたのでまさかと思ったが、本当に使われた。
生存強想Lv.2
理不尽な状況なのに、これってセーフなの? 今の僕を黙らせるのって人道に背かないことなの?
本当に僕にとって使い勝手悪いなこのスキル!
「弁護人、意見は?」
「え、えっと…………歌丸くんは、別に女性軽視とかしてないと思います」
「何故?」
英里佳……!
君が唯一の今の良心だよ!
「だって、歌丸くんむしろ女性に守られることの方が多いし……」
「ぐふぅ……!」
「「「あぁ……」」」
英里佳ぇ……!
そして全員納得するのかよ!
「あと……あくまで地面を掘っていて進んでいたことで、結果的に根っこに触れたことって誰にも予想がつかないことだと思うので……その、回避しようのなかった不幸な事故だと思います。
だから情状酌量の余地はあると思いますので、寛大な処置を求めます」
「「「「」」」」
「……………あの、みんなどうしたの?」
英里佳は小首をかしげているが、僕を含めて全員が戦慄していた。
「……榎並が普通に喋れてる」
「え、どういう意味?」
「てっきり状況に流されて何も言えないと思ってたわ」
「詩織?」
「……ごめん、私も」
「紗々芽ちゃん!?」
「……ぼ、ぼぼ僕は信じてたよ! 英里佳ならやってくれるって!」
「歌丸くん、どうして目を背けるの?」
いや、別に何でも……って、あれ?
「そういえば、英里佳、さっき着けてたゴーグル今はないけどどうしたの?」
「あ……その、あれは……ちょっと壊れちゃって……」
なんか答えづらそうに視線を泳がせる。
でも、壊れたって……あれ結構高いはずだけど……
「弁償とか大丈夫?
足りないならお金僕も出すけど」
「それは大丈夫だから、気にしないで」
……あれ、そう言えばゴーグル外した英里佳とこうして普通に目を合わせて喋られるのって椿咲が来る前にも色々あったから結構久しぶりじゃね?
「こほんっ……では、被害者の証言をどうぞ」
「まだ続ける気かよ……」
「静粛に」
そしていよいよララが前に出てきた。
なんか普段よりもじもじしてる。
やめて欲しい、紗々芽さんが僕を変質者を見る様な目で見てきて居た堪れない。
「ドライアドにとって…………根っこは、凄く、大事……」
まぁ、基本的に植物全般にとってはそうだよね。
「その中でも……歌丸、触ったの……本体に直接、栄養与える根だった」
……え、根っこに違いあるの?
「昔から……その……それは……大事な、大事な人以外、触らせちゃいけないって……ひっぐ……えぐ……う、ぅう……いけ、ないっ、て、い、言われて、て……うぅ、うぅぅ……」
「――すいませんでしたぁ!!!!」
即行で土下座した。
根っこくらいとか思ってたけど、ここまでガチ泣きされたら罪悪感が半端ない。
もう土下座する以外に僕に選択肢はなかった。
こんなんで許されないかもしれないが、もうこれ以外に僕にできることなんて……
「――――って、紗々芽に言う様に言われてた」
「っておぉぉぉおおおおいっ!!!!」
「新しい根っこは敏感、なのは本当……びっくりして力抜けた。
でも、感覚的には髪の毛引っ張られる……感じ?」
まさかの裏切り!
顔をあげると先ほどと違って「てへっ」という感じで舌を出すララがいた。
「ふふ、よくできたね、演技上手だったよ」
「うんっ」
一切悪びれもなく、紗々芽さんに褒められて喜ぶララ
そして詩織さんも事情を知っていたのか伊達メガネを外して含み笑いした表情で僕を見る。
「思ったよりすぐに折れたわね。
冤罪ってこういう風に発生するのかもしれないわね……」
「ねぇ……なんで僕こんな目に遇ったの?
流石におかしいよね」
「女心を弄んだ意趣返しよ。昨日のあれこれはこれで全部チャラにしてあげる」
「昨日のって……いや、あれは…………………いや、まぁ……わかった、そういうことなら僕もこれ以上言いません」
昨日の告白のこととか、二人に責められると正直何も言えない。
そして今回言われてるのは、おそらくベストカップル決定戦が終わった後の、僕が稲生から注目の目を僕に集めさせたあの告白のことだろう。
あの情報が二人に届いてないわけがないもんね……
「まぁでも、ララに多少なりとも被害が出たのは事実だし、打ち上げは終わるまでそのままでいなさい」
「え、ちょっと……」
そのまま去っていく詩織さん。
「はぁ……それじゃあ、私も行くわね。
お腹すいちゃったし」
「稲生、あの、この縄解いて!」
「自分で頑張りなさーい」
興味が失せた様子でそのまま去る稲生
「え、英里佳!」
「その……ごめん、私すぐに行かなきゃいけないことがあるから、また」
「英里佳ぁ!!」
まさかの英里佳まで去っていく。
そしてその場に残ったのは……!
「ふふふっ」
なんかSっ気全開な微笑みで僕を見下ろしている紗々芽さん!
怖い、なんか怖い!!
――ぐぅ~~~~
「うっ」
そしてこんな状況でも正直な僕の腹!
「ふーん……お腹空いたんだ?」
「ま、まぁ……」
「何が食べたいの?」
「いや、その前に縄を」「駄目」
駄目か……駄目なのか。
「一応それ、罰だしね」
理不尽すぎる。
そんな風にうなだれると「でも」と紗々芽さんが弾んだ声を出す。
「代わりに、私が歌丸くんに食べさせてあげるっ」
なんだか紗々芽さんがここ最近で一番いい笑顔でそんなことを言い出したのが、とても印象的なのであった。
……あ、ちなみにララはもう興味が無くなった様子でシャチホコたちのほうに行きました。
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