第184話 バカップルって大変だ。

前回のあらすじ



カップル役としての稲生、そして撮影役の白木先輩と一緒におしゃれなランチをカップル限定サービスで取ることとなった僕、歌丸連理!


そこへやってきたのはバカップル役として行動している瑠璃先輩と下村先輩!


カップルがくっつくとハート柄になるシャツについて触れた時、下村先輩がその場で崩れ落ちる!


いったい、この後どうなるというのか!?




「……で、先輩はどうしてそんな疲れてるんですか?」



アニメのテンション高いアバンっぽいナレーションを脳内で済ませつつ、まずは出てきたお冷で喉を潤す。



「逆に聞くが……お前は疲れてないのか?」



下村先輩が戦々恐々と言った具合に僕を見ている。


本当にここに来るまで何があったんだろうか?



「いえ、僕はそれほど……稲生は?」


「あんたがふざけなければ、まぁ平気よ」


「僕がいつふざけたというんだ、失礼な奴だな」


「ぶっ飛ばすわよ」



真顔で言われた。怖い。(確信)



「……俺は、だな……その、あまり人前に出るのが得意じゃないんだ」


「はぁ……まぁ、裏方の方進んでやってるから薄々はそうかなとは思ってましたけど」


「北の生徒会の席に欠員が出た時……俺、実は最初に声を掛けられたんだが……ギルドの運営に集中したいからって断ったんだが……本音を言うと目立つのが苦手で断ったんだ」



……ああ、そう言えば一月にあった卒業レイドとやらで、今の生徒会には第一書記が空席だったっけ。



「まぁ、下村先輩が目立つのが苦手なのはわかりましたけど……それが今疲労してるのにどういう理由につながるんですか?」


「……瑠璃ってさ……見た目可愛いだろ」



あ、ちなみに今さらながら瑠璃先輩は席を外している。


お手洗いに行っている。



「まぁそうですね」


「性格も明るいし、友達も多い…………当然、あいつのことを好ましく思っている男も多いわけだ」


「……あー、なんとなくわかりました」


「? どういうことよ?」


「どうもこうも……下村先輩は瑠璃先輩のことを好きな他の生徒から敵視されて気疲れしてるんだよ」


「…………そういうことだ。


裏方ばっかりの俺にとって、意外と思ったよりキツかった。


そして何より……このシャツ……」



忌々しそうに自分の来ているシャツを見る下村先輩



「女子からのあの……温かい目がなんかいたたまれない気持ちになる……!」



新事実


下村先輩はメンタルが弱い。



「ちょっと大げさすぎませんか?」


「逆に聞くが……お前はどうしてそう平気なんだ?


注目度で言えば俺よりお前らの方がずっと上だろ」


「ははははは、慣れですかねぇ…………最近は聞かなくなりましたけど、一、二カ月前まで頻繁に僕って陰口言われてましたから気にするだけ疲れるかなって開き直りました」



あれ、なんか自分で言ってて少し悲しい気持ちになってきた。



「…………すまん。


よく考えたらお前の方が割と短期間で高密度に俺よりしんどい目に遇い続けてたな」


「いや、まぁ、別に謝られることではないですよ」


「図々しいが……何かこう……周りの目を気にしないコツみたいなものってないか?


流石にずっとこの調子だと身が持たない」


「と言いましても……開き直る方法って人それぞれですからねぇ……


僕の場合、まぁいいかって感じで流しましたけど……」


「……すまん、それ出来るほど俺はメンタルが強くないらしい」



落ち込む下村先輩


これは相当大変な様子だ。


何かできることはないだろうかと少し悩んで視線をさまよわせていると、ふとメニューにあるものを見た。



「…………ふふっ(ニヤリ)」


「ちょっと、急にどうしたのよ?」


「おっと、待て待て」



僕の顔を見てメニューを覗き込もうとしてきた稲生


僕はメニューの一部を手で隠した。



「下村先輩、とりあえず飲み物だけでも頼みませんか?」


「え……あ、ああ、そうだな。


瑠璃は……紅茶とか好きだったしアイスティーにしておくか。


俺は……どれにするかなぁ」


「あ、僕おススメのものあるんですけど、よかったらそれにしませんか?」


「ほぉ、どんなやつだ?」


「今の先輩にピッタリの奴です、元気が出ますよ!」


「栄養ドリンクみたいなもんか?


……まぁ、お前がそう言うならそうするか」


「じゃあ僕が注文しますね」



テーブルにあったベルを鳴らすと、すぐ近くで待っていたのか赤嶺先輩がすぐにやってきた。



「ご注文は?」


「えっと、僕はオレンジジュースで……稲生は?」


「じゃあ私はグレープジュース」


「あ、あとあちらのテーブルにアイスティーと、あと……これを下村先輩に」


「……ほぉ、お目が高い」



僕の意図を読んでくれた赤嶺先輩がとてもいい笑顔を見せてくれた。



「濃度は?」


「販売可能ギリギリ一杯」


「OKOK」



お互いにぐっと親指を立てて店の中に戻っていく赤嶺先輩



「…………なぁ、お前何頼んだ?


すごい不穏な会話を聞いた気がするんだが……濃度ってなんだよ?


なんで普通の飲み物の注文で濃度って単語が出てくるんだよ?」


「ほら、濃縮何パーセントジュースとか、そういうアレですよ」


「絶対違うだろ、なぁ、怒らないから早く言え。なぁ?


あ、やっぱ言わなくていい、メニューみればわか」「収納」



学生証を使って先輩の机と僕の机にあったメニューをストレージに収納


これでもう見れない。



「おいお前マジでなに頼んだ?


言え、なぁ、頼むから言ってくれ!


お前大抵巻き込まれるけど、お前が主導で動くと大抵周りが結構な被害出るんだぞ!


自分のトラブルメーカー体質をもう少し自覚もってくれないか頼むからマジで本当に!」


「あ、ちょ、あんま揺らさな……うぷっ、ちょ、マジでやめっ、ちょ、やめ!」



普段の落ち着いた様子からは少し考え憎いくらいに慌てふためく下村先輩


襟を掴んでグイグイをゆすられる。



「……これもなかなか面白いです(カシャ)」


「白木先輩、撮影は控えてくれませんかねぇ!


あ、そうだ先輩はこいつが何頼んだかしってますよね、教えてくれませんか!」


「別にそんな大したものじゃありませんよ。


お店でちゃんと許可を受けて販売したものしか置いてません。


このリハーサルは本番と同じものを出すものなんですからそこまで大袈裟にならなくても」


「……あ」



白木先輩の言葉に、ようやく下村先輩の手が止まった。


……おぇ、ちょっとこみあげてきた。



「そ、それもそうだった……ああ、店でそんな変なもの用意するはずがないよな……あ、あはははは……俺疲れてんなぁ」


「あはははは、もう先輩ったら動揺しすぎですよ。


冗談ですよ冗談」


「そうだな、悪い悪い」


「罰として出てきた飲み物一気飲みしてください」


「えぇ……なんか知らんが濃縮なんだろ?


大丈夫かよ、辛い奴だったら俺嫌なんだが」


「大丈夫大丈夫! 先輩ならいけますって!」


「まぁ、そうだな……よし、これくらいは俺も開き直って一気飲みするか!」


「その意気ですよ先輩! よっ、日本一!」


「「はははははははははははははははははははははははは!」」



「……何このノリ?」


「あなたも傍から見たら割とああでしたよ?(カシャ)」



稲生と白木先輩が何か言っているが、気にしない。



「みんなおまたせー」



そこへ戻ってきた瑠璃先輩



「ああ、飲み物だけ先に注文しておいた。


アイスティーでよかったか?」


「うん、流石アースくんわかってるねぇ~


それじゃあ食べ物なんだけ何に……あれ、メニューは?」


「歌丸、メニュー返せ」


「うっす」



というわけでメニューを学生証から出して瑠璃先輩に渡す。


もちろん下村先輩には見えないように角度調整して。



「さて、僕たちも何を頼もうかなぁ」


「基本的に二人で食べる前提のメニューよね、コレ……」


「あ、ピザとか良くない?


そこそこ食べ応えがありつつ、小さいサイズにすれば出店の分も余裕ができる。


そして何よりこれから行く出店でメニューがかぶりにくい」


「あ、いいわねそれ。


出店でピザってあんまり聞かないし、本格的な窯があるお店じゃないと電子レンジでチンしないといけないし……意外と目の付け所が良いわね歌丸」


「意外は余計だ。


じゃあ……味はどうする? 複数選べるけど……ハーフとフォーシーズンズとか選べるけど」


「味は複数ある方がいいけど……複数あって好きな味食べられないの悔しいし、ハーフで行きましょう」


「だね……あ、じゃあ僕はジャーマンにしよ。


コショウの効いたほっこりイモ、そこに油の乗ったベーコンがベストマッチだぜ!」


「な、なによそれくらい!


マルゲリータのトマトの酸味と甘みが、モッツァレラチーズのまろやかな風味で包み込まれて口の中が幸せいっぱいでお腹いっぱいなのよ!」


「後半は意味が分からないが美味しそうだ!


よし、じゃあマルゲリータとジャーマンのハーフで決定な!」


「異議なし!」



というわけで、飲み物が来た時に注文するものが決まった。



「……お前ら仲良いな」


「息合ってるねぇ~」



なんか先輩たちがこっちを見ているが、気にしない。



そんなこんなで赤嶺先輩がやって来て僕らのテーブルと下村先輩のテーブルにそれぞれ飲み物を置く。


その際、それぞれのランチを注文したのだが……



「……さて、これが……例のやつか」



下村先輩は自分の席に置かれてオシャンティーなグラスに注がれた透明な液体を見る。



「……なぁ、本当にこれなんなんだ?」


「え? アース君が頼んだんじゃないの?」


「いや、俺の分は歌丸のおすすめなんだが……」


「まぁまぁ先輩、ここは騙されたと思って一気にグイっとどうぞ!」


「騙されたくはないんだが…………まぁ、そうだな、どうせ店公認なわけだしこれくらいは」



そして、先輩はその場でグラスを口元によせて一気に傾けた。


ゴクゴクと喉を鳴らして一気のその中身を飲み干して――――



「――げふぃぉん」



潰れた。


変な奇声。



「「良し」」



僕と、そして隠れてみていた赤嶺先輩の言葉がハモった。



「良し、じゃないわ!


あんた下村先輩に何を飲ませたのよ!」


「ア、アースくん、大丈夫?」



僕に詰め寄る稲生と、潰れた下村先輩を心配する瑠璃先輩



「大丈夫ですよ、ただの西と南の悪ふざけでつくられたパーティグッズですから」


「パーティグッズ?」


「…………あ」



僕の言葉で稲生は察したらしい。



「はいそうです。


こちら、この店で提供している南学区の柳田土門会長の辞任原因となった、なんちゃって缶チューハイの完成版、その最高濃度を飲んでもらいました!」


「「な、なんだってー!」」



わぁ、瑠璃先輩ノリがいい。


稲生は通常運転だけどな。



「つまりアースくんは……?」


「酔いつぶれた感じですかね。


まぁでも本物のお酒じゃないんですぐ起きるはずですよ。


そしたらテンションがアゲアゲサタデナイト状態になるって……このメニューに書いてあります」


「あ、ホントだ書いてある! だけど意味がわからない!」



フィーリングでなんとなく行ける……かな? うん、行ける。



「はい、というわけで注文のランチメニューです」


「え、この状況で普通に運んでくるの!?」



赤嶺先輩がランチメニューを運んできたこの状況に瑠璃先輩が困惑している。



「珍しい……北学区の大規模破壊兵器デストロイヤーが翻弄されているのです」



シャッターを切りまくる白木先輩



「何そのあだ名怖い……あ、美味しい」



そして出てきたピザで僕が食べる予定のジャーマン部分を真っ先に食べる稲生



「……チーズうっまっ!」



そして特に気にせずマルゲリータを堪能する僕!



「え、あの……アースくん、アースくん、ほんとに大丈夫?


ピクリとも動かないんだけど……」



「あ、ちょっとそれチーズの塊乗ってる、私がマルゲリータ注文したのよ!」


「そっちこそ僕が頼んじゃジャーマンのベーコンの塊取ってんじゃねぇか!」


「……あ、このカルボナーラ美味しい」



「後輩と先輩が揃って私たちを無視するよアースくん!」



瑠璃先輩がここまで困惑するのって珍しいなぁ……



そんなことを想ったその時だ。



「うっ……」



ピクリと、下村先輩の指が動いた。



「アースくん!」



起きたと思って笑顔を見せる瑠璃先輩


下村先輩は顔を手で覆いながらゆっくりと体を起こし、そしておもむろに手を伸ばして瑠璃先輩の手を両手で包む。



「…………アースくん?」


「瑠璃」


「は、はい」


「――結婚しよう」



「「「「ぶっはぁ!?」」」」



間近で聞いていた僕、稲生、白木先輩、そして隠れて様子をうかがっていた赤嶺先輩が驚きの余り吹いた。



「え……な、え、……えぇ!?」



唐突なプロポーズ


当然のことながら酷く狼狽える瑠璃先輩


そんなことお構いなしと、なんか目が据わっている下村先輩は瑠璃先輩に顔を近づける。



「卒業まで待てない。


お前が欲しい」


「ちょっと待ってアースくん、お、落ち着いて、それは前にお互い卒業後って話し合って決めたことで、あの、その……!」


「もう、駄目なんだ。


お前が欲しい。お前がいないと、もう駄目なんだ!


結婚しよう、瑠璃! もう我慢ができない、お前のすべてが狂おしいほどに欲しいんだ!!」



……ちなみに、このテラス席って人がテラスにいないだけで、普通に近くに人が通ってるわけで……



「わぁちょっと見てあれ」

「熱烈だなぁ……」

「バカップル役だっけ」

「ひゅーひゅー!」



普通に見られてます。


しかし……魔法職以外の人が飲むと悪酔いし易いって話だったけど……下村先輩が飲むとああなるのか。


面白いが……ちょっと目立ちすぎているかな。



「…………」


「…………」



僕と稲生は目と目が合い、そして頷き、即座にピザを食べてジュースを飲み干す。


そしてそんな僕たちの行動を見て白木先輩もちゃっかり注文していたカルボナーラを急いで食べる。



「「「ごちそうさまでした」」」



そして即座に逃げる。


フリーパスだから支払いいらず!



「え、ちょっと待って! この状況でおいていかないでーーーーーーーーーーーー!!!!」



背後で瑠璃先輩が叫んでいた。



「……ねぇ、泣きそうな顔で叫んでるけどいいの?」


「嬉し涙だよ。


いやぁ、想い合ってる二人が結ばれるなんて良かったなー。


それにバカップル役として完璧だし」


「それはそうかもしれないけど……」



店を出て人ごみに紛れて店から離れる僕たち


まだ背後から瑠璃先輩の叫びが聞こえるが、何を言っているのかまでは聞き取れない。



「良い絵が撮れました。


あとで現像して贈呈しましょう」


「それは良いですね」


「……あんた、あとで絶対に怒られるわよ」


「大丈夫、ちゃんと下村先輩が自分の意志で飲んだことを証明する言質を学生証で録音してるから」


「なんの対策してるのよ……」



訴えられたら怖いもん。



「さて、それじゃあ縁日エリアに行ってみようか!」


「浴衣にも着替えられますので是非ご利用してください」


「私知らないからね……」



というわけで、いざ縁日エリアへ!

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