第179話 いや、そんなキメ顔されても……

――カシャシャシャシャシャシャ!



指が動く。


意識とは無関係に勝手に動く。


呼吸が邪魔だ、手がぶれる。


しかし止めていると体中が酸素をよこせと震えだす。


鬱陶しい。


心臓の鼓動が無い身だからこそ感じる些細なブレ


常人に比べれば些細なものなのだが、それでも今はそれが鬱陶しい。


その震えさえなければ、僕は今完全な静止のまま、完璧なタイミングで指を動かせるのに!



――いや、諦めるな歌丸連理!



――震えがどうした!



――それすら計算に入れた上で指を動かせ。



――全身の神経を集中して指を動かすんじゃない。



――全身の神経を指を動かすために集中させて動かすんだ。



「はい、視線くださーい!」


「さっさと座りにゃさい!!」



カシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!



「はい、顔を赤くして怒った表情いただきましたー!


いいよー、可愛いよ稲生にゃん!」


「にゃあああああああああああああああああ!」


「いいねいいね、毛を逆立ててる子猫みたいでちょーいいねー!」



指が、止まらない。


体が指に支配されているかのように――いや、僕自身が指に……いいや、学生証のカメラと一体化しているというのか!


そうか、今の僕はカメラを撮る人間なんかじゃない。


カメラがとるために動く人間――いや、三脚の代用品なのだ!


そうだ、余計な感情など、邪心などすべて捨てろ。


ただ目の前の被写体にのみ意識を集中し、そしてどうやったら被写体がより輝くがだけを思考して動くんだ!


その先に、僕の追い求めてきた理想郷アルカディアがあるのだから!!



「はいいいよー! ちょーいいよかわいいよー!!」


「いいかげんにしにゃ、さい!」


「――ぐぇっふっ!?」



いいアッパーだなとおもいました。(小並感)


そして床に倒れた僕は、そこに広がる新たな世界に心情を素直に吐露した。



「ローアングルからの、メイド服も……いいっ」



あと、あとちょっと、あとちょっとで完全にその奥に秘密の花園パンツが見える!!



「ふにゃあ!?」

「ぐほぇ!!」



おもいきりふまれました。(小並感)



……というわけで……



「流石だな連理、同じ男としてある意味で尊敬できるぜ」


「今の流れを見てよく言えるわね……」



僕の隣で笑っている土門先輩


そしてそんな土門先輩の言葉に若干顔を引きつらせているのはこのアニマル喫茶を主導している三年の生徒会役員をしている植木彌うえきみつ先輩だった。


二週間以上前の銀杏軒で会って以来である。


ちなみに犬耳メイド姿である。



「すいません、学生証返してください」


「絶対ダメっ!」



今の僕の手には学生証が無く、それを奪った張本人の稲生にゃんが銀色の丸いお盆をもって僕を怒る。



「ゆ、指が震えるんだ……頼むよ、一枚、一枚だけでいいんだぁ……!」


「絶対いや! あんたそう言って滅茶苦茶取るもんっ!」


「わ、わかった、わかったよ……! じゃあ、動画にするから、それでいいだろ、な?」


にゃ? じゃない! 全然譲歩してにゃいじゃにゃいの!!」


「かーわーいーいー!」



この“な”って言おうとして“にゃ”って言っちゃうところがホント好き!



「にゃんにゃのよこいつぅー!」


「すいません、持ち帰りアリですか?」


「あはははは、流石にそれはしばくぞ?」


「じゃあどこまでおさわりOKですか?」


「グイグイ来るわねこの子……前に会ったときと別人なんじゃないの?」


「モンスターパーティの時もこんなだったぞ」



なんか植木先輩がドン引きしてるような気がするが、まぁ気のせいだろう。



「で、どこまでOKなんですか?」


「えっと……原則禁止だけど……そうね、許可がもらえたら手までセーフってことで」


「せめて耳を、耳を!」


「流石にそれはちょっと…………ほら、セクハラの法律ってわりと厳しいし」


「そんな……! そんなことって……!


それじゃあ僕は、一体何しにここに来たんですか!!」


「普通に喫茶店として楽しもうってあたり眼中にないのにこの子」


「土門先輩が喫茶店には期待するなって」


「おいこら元会長」

「い、いや、ここでそれはズルいというか責任を俺に押し付けるなよ連理!?」


「いいじゃないですか、獣耳けもみみですよ、獣耳けもみみ


触れないなら何しにここに来るって言うんですか!」


「普通に注文しにゃさいよ! ほら、これ、メニュー!!」



獣耳への愛を語ろうとしたところに横槍ならぬ横メニュー


それは手書き感のあふれる小さなイラスト付きのメニュー表をラミネートしたものだった。


品数は少ないが、値段も抑えめだ。



「じゃあ、稲生にゃんを二時間コースで」


にゃポリタン大盛りにパンケーキベリーソースのアイスクリーム添えとレモン風味チーズケーキにホットコーヒーはいりました」


「ナポリタンってもう一回言って」


「そこで注文に対するツッコミじゃないところが流石だな連理」


にゃポリタン大盛り二つはいりました」


「ナズナちゃん、気持ちはわかるけど今日はそこまでたくさん用意してないから、普通で、ね?」


「あ、俺紅茶で」


「エスプレッソのブラックはいりました」


「待て、俺コーヒーのブラック苦手なの知ってるだろ!?


しかもエスプレッソってめっちゃ濃いやつだし!」


「スマイル下さい」


「お前ここに来てから無敵だな!?


呼んだの俺だけど!!」


「ふんっ!」



稲生にゃんはそっぽを向きながら踵を返してその場から去る。


そして教室の半分を遮っている暗幕の向こうに消えていった。



「あぁ…………!」


「そこまでガチに落ち込まなくても……ほら、犬耳だよー!」


「耳モフモフしていいですか?」


「それは流石にちょっと……うん、かなりやだ」


「ガッデムぅう……!」



この間あんなにフレンドリーに頭を撫でてくれた植木先輩から距離を取られた。


鬱だ、死のう。



「連理、流石にフルスロットルで飛ばし過ぎだ。


ほら、ちょっとお冷飲んで落ち着け」


「いただきます」



ごくごくと水を飲むと、喉の渇きが潤う。


自分で意外なほど熱くなっていたのだと自覚する。



「――――ふぅ…………さて、植木先輩と稲生の変化って、この間のモンスターパーティの打ち上げの時のパーティグッズですよね?」


「急にキリっとした……」


「切り替えの早さもこいつの持ち味だからな。


まぁ、その通りだ。


クラッカー型の“ケモナーケムリン”が正式に販売が決まったんだとよ。


俺は製品化までは知ってるが、その後のことは全部生徒会に投げてたからどうなるかと思ったが……まさか模擬店に使うとはなぁ」


「まずは私達が直接使って問題がないことを示して、気軽に使えることをアピールしようと思ったの。


学園祭の盛り上がるアイテムだってわかれば、大学、色んなお祭りでも売れるでしょ?


で、その売り上げが今後の南学区の利益になるってわけ」



そう自慢げに語る植木先輩


そして何やら他人事のように語る土門先輩に僕は少し違和感を覚える。



「その利益って先輩たち個人には入らないんですか?


口ぶりからして結構関わってるみたいでしたけど……」


「開発者の生徒にはもちろん売り上げから何パーセントかは支払われることになってるが、俺たちはあくまでその開発までの資金や技術の仲介しただけだからな。


でも、生徒会で手続した代わりに売り上げから代わりに南学区へ五年間の寄付を確約してもらったんだ」


「え……じゃあ実質先輩たちの利益ゼロなんですか?」


「おう、基本的に一銭も入ってこないぞ」



これには正直びっくりした。


土門先輩、色んな製品開発に力入れてるみたいだからかなり設けているのだとばかり思ってたんだけど……



「知ってると思うけど、私達南学区の最終目標は人類と迷宮生物の共存よ。


そのためにはいくら資金があっても足りないくらいよ。


そしてその資金を投じるなら、やっぱり学園が一番だと私達は考えてるの」


「…………前から知ってはいましたけど、その共存って結局どこまでのことを言ってるんですか?


僕だったらシャチホコたちとか、稲生だったらユキムラ……うちのパーティの紗々芽さんだってララと良好な関係が築けています。


これだって十分共存してますけど……それじゃあ足りないんですか?」


「いい質問ね。


じゃあ、歌丸くん。


現時点で迷宮生物と人間……どっちが大きな利益を得ていると思う?」


「え?」



どっちが利益を?


そう質問されて僕は一瞬困惑する。



「どっちって……現時点では……まぁ、敵対関係なわけだし……どっちも損を…………いや、違うか。


………………現時点で、迷宮が出現してから今日まで、人間が……人類文明が一方的に利益を得て、逆に迷宮生物が一方的に損してる」


「その通り」



僕の回答は正解だったらしく、植木先輩は大きく頷いた。



「迷宮の出現で人類が被害を受けたって言うけど、それって最初だけ。


主に学長たちドラゴンが世界中の人間を黙らせるために行った示威行為と、最初の卒業生が出てくるまでの三年間。


でも、それ以降人類が大きな損をしたとはいえない。


そもそも、この迷宮出現から今日まで迷宮生物たちが得をしたことなんて一つもないんじゃないかしら?」


「そう、ですね。


ラプトルやハウンドだって、人間を食べたりしますけどそれって他に食べる物が無いだけで……ラプトルがハウンド食べることってありましたし……」



迷宮生物と大きなくくりで考えているが、別にあいつら全員中が良いわけじゃないし、敵対関係も存在はしている。


そしてそれら全員に敵対しているのが僕たち学生と言えるだろう。


そしてその利害関係は一方的……とまでには言わないが、かなり人間側が得をしていることは認めざるを得ない。



「…………もしかして、南学区の最終目標って、人間側が迷宮生物全体に利益を与えられる関係を築くのが目的なんですか?」



僕のその問いに、二人が頷く。



「具体的に、どうするつもりなんですか?」


「具体的にどうするっていうのはまだ決まってないが……正直、このまま一方的な関係は良くないって不安が根底にはあるんだよな」


「ええ、均衡がとれない状況って歴史的に見ても長続きした試しがないし」


「バランス…………迷宮生物が……いえ、迷宮がいつかの地球みたいに資源枯渇するみたいになるってことですか?」


「可能性の一つとしてはある。


今の世界情勢は各国の迷宮学園の数が大きく比重してる。


迷宮が無くなればそのバランスは崩れる。


その時に生じる混乱は計り知れないな。


もしくは……逆の可能性もあるな」


「逆?」



どういうことかと首を傾げる僕に、冗談っぽい口調で土門先輩が言う。



「人間に怒りを燃やした迷宮生物の大反乱……とかね」


「それは……いくらなんでも極端すぎませんか?」



迷宮生物がいなくなると思ったら爆発的に増加するかもとか、最初の危惧の大前提が壊れてるよ。



「でももし世界中の迷宮から、迷宮生物たちがあふれてきた場合……その時どれだけの犠牲が出るかわからないのわよ。


実際に深刻な問題に両方ともつながるわ。


そう言ったときが来た時……もしくは来ない様にするために、北学区みたいに戦う以外の方法で迷宮生物や、迷宮と関わっていく関係を作っていくのが最終的な私達南学区の目標よ」


「なるほど…………正直そこまで深く考えてませんでした。


南学区って、実はどの学区よりも深く迷宮のこと考えてたんですね」


「いや、ただ漠然とした不安があるからとりあえずなんかしようってのが正直な本音だよ。


最初に南学区作った先輩方に比べれば俺なんて全然さ」



そう笑っている土門先輩だが、実際のところはその視野の広さは今までこの学園であってきた誰よりも広いのかもしれない。


こんな人が学生証をもらえないって……なんかおかしいな。


……いや、判断基準はドラゴンが作ってるから主観的な価値基準で土門先輩が当てはまらないのか。



「でも、実際のところ結局は学長の匙加減なのよねぇ……」

「だなぁ」


「それ言ったら全部おしまいですよね……」



そうなんだよねぇ、先輩たちの危惧してる極論二つって、ぶっちゃけドラゴンたちならいつでもできることなんだよなぁ。


というか、あいつらその気になれば多分一週間とかからずに人類全滅することもできると思うんだよね。



「でも、私たちの方向性は間違ってないと思うの。


学長は戦う北学区を一番に評価する傾向があるけど、それでも私達のように逆の存在も容認している。


もしかすると学長も何か今とは別の形で人類と共存してる可能性がある。


逆に、学長……ドラゴンと敵対関係にある迷宮生物もまた存在する可能性もある。


もしそうなら、学長が私達人類に牙を剥いた時に、その存在の力を借りる必要がでてくるかもしれない。


そういう色んな可能性がいくらでも考えられて、いくらでも試さなきゃいけないことがあるから……そのために私たちは未来の後輩たちにその手段としてのお金を残しておきたいのよ」



そんな風に語る植木先輩


未来のため、その無数のどれが正解なのかわからない可能性のため


それらを試すための手段としてのお金を自分ではなく未来に託す


それは、とても立派だ。


立派……うん、立派なんだけど……



「犬耳メイドが何語ってんだってろうって思うのは僕だけでしょうか?」


「奇遇だな、俺も同じ気持ちだ」


「あれ、なんで私凄い真面目なこと言ったのにそんな評価されてるの?」


「すいません、耳が駄目なら尻尾触っていいですか?」


「うん、それ多分一番セクハラになるから駄目、見るだけ」


「――ちっっくしょぉ……!」


「そんな振り絞ったみたいに言わなくても……っていうかホントに落差が酷いよ」



僕が落ち込んでいると、黒幕の奥から甘い匂いがしてきた。



「あらあら、随分話し込んでたけどどうしたの?」


「持ってきたわよ」



――カシャシャシャシャシャシャ!!



そこから登場した人物を確認した瞬間に響き渡るシャッター音


同時に、ナポリタンをお盆で運んでいた稲生にゃんが僕を睨む。



「う、歌丸連理!」


「僕じゃない僕じゃない。学生証ない」


「え?」



キョトンとした顔になる。


そうか、これが反射か。


などと漠然と思いながら、シャッター音の発生源を僕は見た。



「……いぃ」



恍惚な表情で土門先輩が見ている先にいるのは、狐耳の女性


他の二人と違ってメイドではなく何故か巫女服だった。赤袴が眩しい。


はい、稲生にゃんの姉の稲生牡丹大明神様ですじゃ。



「ありがたや、ありがたや……」


「な、泣きながら拝んでる……!」



先ほどから頻繁にドン引きされているが、もう別にいいかと思った。だって僕がすべてをさらけ出した結果だと思えば普通に受け入られるから。(真理)



「あはは……はい、それじゃあどうぞ。


一応お昼の後だから小皿にしたんだけど、大丈夫?」


「あ、ちょっとこう手首丸めて狐っぽく鳴いてもらっていいですか?」


「え、えっと……こんっ」


「「キタ―――――――――――――――――――――――――ッ!!」」


「「増えたっ!」」



僕の無茶ぶりに律義に答えてくれる稲生大明神いなせだいみょうじん


僕だけでなく土門先輩までも歓喜に吠える。



「それはそれとしていただきます」


「ホントに切り替え早いわね歌丸くん……」


「折角の料理、冷めさせるのは失礼なので」



小皿に盛られたナポリタン


フォークにからめてさっそくいただく。



「おぉ……うん、美味い。


ソースが濃厚で、トマトの酸味が程よく…………………………美味いです!」


「食レポしようと思ったけどできなかったんだね……」



植木先輩の僕に対する評価が今日だけでだだ下がりだ。



「い、いやでも本当に美味しいですよ、これ!


子どもとかすごい好きだと思いますし!」


「ふふ、ありがと。


パンケーキもおすすめだから食べてみて」


「っ!」



何故かぴくっと稲生にゃんの耳が動いた気がした。



「では、いただきます」


「はい、めしあがれ」


「――――――」



稲生にゃんはお盆を胸元に抱えてこちらをじっと見ている稲生にゃん


あえて気付かない振りをして僕はパンケーキをフォークで切り分ける。


まずは生地をそのまま。



「ふむふむ……ふむ」


「……………」



生地が軽く、とても食べやすい。


これは……もしかしてヨーグルトを入れているのかな?


これだけでも十分に美味しいが……さて、それじゃあベリーソース部分と絡めてみてどうなるか……



「……おぉ……ふむふむ」


「っ……」



酸っぱさが良い感じに食べやすさを引き出し、尚且つ記事の甘さを際立たせている。


そして何よりこのソース、甘さが意外と控えめだ。


生地の甘さを活かす感じなのだろう。


では、最後にアイスクリームを……



「……おぉ! うん、なるほど!」


「っ!」



濃厚なバニラアイスが一気に口の中塗りつぶす。


しかし優しいその甘みを、コットンで優しくふき取る様にパンケーキの生地が入り、ベリーソースの酸味が下を戻す。



「パンケーキってこんなにうまかったんだ……これ絶対に売れますよ!」


「ふ、ふんっ! あ、当たり前よ。


みんなが頑張って育てた素材を使ってるんだから、これくらいは当然にゃのよ!」



胸を張ってそんなこといいつつ、嬉しそうにニヤついてる稲生にゃん、マジ可愛い。



「それじゃあ土門くんはこっちのチーズケーキを……はい、あーんっ」


「あーんっ」



そして体面では土門先輩が狐耳巫女にチーズケーキをあーんで食べさせられていた。


ぶっちゃけ羨ましい。


僕もケモ耳美少女にあーんされたいっ!


というわけで、さっそく……



「すいませんあのオプションいくらですか?」



金で解決。


僕学んだ。


他人がいくらねだっても無駄だから、素直に金を払うべきだって。



「そっちはお店関係ないから……」


「入れれば絶対に話題になります!


やりましょう、絶対に馬鹿な男どもが食いついて儲かりますよ!」


「自分で馬鹿って言っちゃうんだ…………いや、まぁ、確かにケモナーケムリンの宣伝のためにメイド喫茶を意識した感じはあるけど……」


「やりましょう」


「うーん……ナズナちゃん、どうする?」


「わ、私ですか?」


「私としては素材に自信があるから味で勝負したかったんだけど……ケモナーケムリン宣伝ならそっちも大事かなってこの男子二名みたら思い始めた感じなんだけど……ナズナちゃんの忌憚のない意見を一つ」


「そん急に言われても……


正直気が進みませんけど、でも……まぁ……歌丸連理が、どうしても……どうしてもっていうら――あれ?」



――ぽんっ



そんな間の抜けた音がしたかと思えば、稲生にゃん…………違う、稲生薺いなせなずなの姿が獣耳から元に戻った。



「…………はぁ


あ、すいませんやっぱりオプション無しで」


「え?」

「は?」



獣耳が無くなったメイドなどメイドにあらず。


ただの歩行型メイド服スタンドだ。



「……ふぅ、コーヒーが美味しい」


「っ……こ、この……このぉ~~~~~~~~……!」


「ナ、ナズナちゃん?」



後ろでなんか植木先輩が慌てているが、まぁ気にしない。


今は純粋にこの美味しいパンケーキを堪能させてもらおう。


そう思った矢先、僕の真横からフォークが伸びてきて、そして皿がガツンと音を立てるほど勢いよくパンケーキに刺さる。



「え、ちょ、お前いきなり何を!?」


「そんなに食べたきゃ、食べさせてあげるわよ、歌丸連理ぃーーーーーーーーーーー!!」


「わ、馬鹿やめろ、そんな勢いよく、あ、やめ、あ、ちょあ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



この後、植木先輩に止められるまで僕は稲生と必死の攻防を繰り広げることになるのであった。


そしてその間のことだが……



「きゅぅ」

「ぎゅう」



二匹のウサギが揃って「だめだこりゃ」的なジェスチャーをしていたような気がしたのは、僕だけだっただろうか?


とりあえず少しは助けて欲しかったです。

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