幕間 「やだ、女子のラスボス力高過ぎ……!」
第176話 やだ、このパーティこじれ過ぎ……
■
俺の名前は
宮城県沖合に存在する東部迷宮学園の北学区の一年
学園どころか、全世界から注目を集めている歌丸連理を擁するチーム天守閣に所属する一年の一人である。
……え? 喋り方が違う?
いや、流石に地の文でそんな特徴的な喋り方は……え? 地味?
連理と区別がつかない?
……わかったッス。
これで行くッス。
まぁ、色々とあったけど、体育祭に向けての会議も無事に終了し、俺たちチーム天守閣も期末試験を無事に……まぁ、誰とは言わないッスけど、一名はギリで赤点は回避して特に問題もなく試験は幕を下ろしたわけで……
この後はまぁ、生徒会の下部組織らしく、体育祭の準備に励もうって感じになったわけなんスけど……
まぁ、色々と今さらながら話を蒸し返すと……連理はなぁなぁで他の女子メンバーとの仲を済ませようとしたつもりで、前回の一件で俺が知らないところでも仲を深めていたわけで……
いや、あいつが悪いわけじゃないことも俺は重々わかってるッス。
むしろ、三人ともその辺りをよくわかっていて、むしろ色々と苦しむあいつの傍にいたい、守りたい、支えたいって感じなわけで……
いや、本当に……不思議なことに誰も悪くもないのに修羅場が起こるんだなっと。
ただこの修羅場のやっかいなところは、当事者たちはさほど険悪ではないのに、その事情を知っている周囲がとても気まずくなるということで……
――今回の騒動は、期末試験終了直後の体育祭に向けた準備期間の一週間の前半
……つまり、三日間に起きた出来事ッス。
今にして思うと……いや、本当に…………どうしてああなったんスかねぇ……
というわけで意味深な感じのプロローグを入れつつ、視点を活躍しないけど目立ってるで定評のある歌丸連理に戻して、どうぞご覧あれッス。
■
「……っていう夢を見たんだけど、どう思う?」
「それに対して俺はどうリアクションを取ればいいんスか?」
はい、というわけで歌丸連理です。
妙な夢を見たのでそれをそのまま戒斗に言ったら物凄い呆れられた表情をされた。
「なんで俺がお前の夢に出てきてそんなナレーションをしなきゃいけないんスか?」
「むしろそっちこそ何勝手に僕の夢に出てきてんの? ショバ代払え」
「お前椿咲ちゃんの一件以来俺に刺々し過ぎないッスか? むしろ俺の肖像権の使用料を払えっス」
「冗談はさておき、なんか意味深な夢で気になるんだよねぇ」
「スルーッスか……まぁいいッスけど……準備期間の前半三日って、今日と明日明後日のことッスよね?
別に何も特別なことはなかったはずッスよ。競技の内容も決まって、俺たちも忙しかったけど参加競技もちゃんと書いたし、むしろ生徒会の方では俺たちが色々対処してる間に小難しい処理は終わってるみたいだし……
精々細かい備品の持って行く数量の確認と、開会式の段取りの確認程度だったはずッスけどねぇ……」
戒斗はそう言いながらサラダをフォークで食べ進めていく。
「……というかお前、やっぱりあの三人全員と何かあったんスか?」
「え、な、なんで?」
「自分で言ったんじゃないんスか。夢の中で俺がお前が三人と仲が深まったとかなんとか」
し、しまった……夢の語り部が戒斗だったからこっちの戒斗もそのことを知ってることを前提で普通に話してしまったぁ……!
「べ、べべべべべべつつつになかったーよぉ?」
「声めっちゃ震えてるし上擦ってるッスよ」
そう言いながら、戒斗は顔に手を当てて机に両肘をおいた。行儀悪いな。
■
日暮戒斗は歌丸連理の言葉にひそかに頭を抱えていた。
(やべぇ……榎並さんには告白が盗聴されてるのは知ってたっスけど、まさか俺の知らない間に他の二人とも何かあったのは想定外ッス。
しかも前回と違って今度は全員連理の事情を把握してるわけッスからねぇ……体育祭でノルンを引き込むことが第一目標ってことで榎並さんも無茶はしないだろうッスけど……そっちの対処とか全然考えてなかったッス。
いや、そもそも部外者の俺が下手に対処すべきでもないことは重々承知してるッスけど………はぁ)
そんなことを考えつつ、戒斗は先日、歌丸椿咲が本島に戻った日、見送り後に顔を出した姉との会話を思い出す。
まず最初に今回の犯罪組織のアサシンとの対峙で心配させたことを注意されつつも、成果を上げたことをほめられたりした。
そして簡単に世間話などしつつ、久しぶりに姉弟らしい時間を過ごす。
そんな折、歌丸連理の一件で戒斗の姉である日暮亜里沙はこう告げたのだ。
『歌丸後輩の今回の情報……特にプライバシーに関しては完全に秘匿はされますが……正直西の銃音副会長が不安ですわね』
『不安って……どういうことッスか?』
『会ってみてわかってるとは思いますが……あの男は歌丸後輩を快くは思っていません』
『まぁそうッスねぇ……』
『……実を言うと、個人的に歌丸後輩に恨んでる可能性がありますの』
『はぁ? なんで連理が恨まれるんスか?』
『銃音副会長は入学時からずっと犯罪組織の捜査を独自で行ってきていて、すでに相当なところまで掴んでいましたの。
確固とした証拠を集めてまとめて検挙……というのを狙ってたのですが』
『……その前に、連理が金瀬千歳の遺体を迷宮から持ち帰った』
『その通り。そのせいで犯罪組織は銃音副会長にとって想定外のトカゲの尻尾切りを行い、捜査していたつながりが全部潰されてしまった……というわけですの』
『な、なるほど…………でも、それ逆恨みッスよね?』
『ええ、その通り。だから向こうもこれまで特に何もしてこなかったわけですが…………ですが、その……歌丸後輩の告白を聞いた時の銃音会長の表情が……なんというか』
『なんというか……?』
『……学長のニヤッとした顔と被って見えた気がしまして』
『善意に見せかけた悪意しかないイベントを仕掛けてくる、あの学長と同じ顔ッスか?』
『…………まぁ、結果的に貴方たちは今回犯罪組織の中心となる者を二人も捕まえているわけですし、お釣りがくるくらいの功績ですから、多分大丈夫でしょう。……ええ、多分』
その時は別段深く考えず、戒斗は期末試験のためにすぐに頭を切り替えたが……どうにも連理の夢の話を聞くとそれが引っかかるのだ。
この学園に来てトラブルとの縁が深すぎる連理
もはやその夢すら何らかのトラブルの予知夢ではないのかと考えてしまう。
「……そういや、この試験期間中に何か三人に変わったことなかったッスか?」
「え……いや、別に特に何も……」
といいつつ、視線をさまよわせて何かを考えている連理
仕方ないと戒斗が切り出す。
「榎並さんとか、どうなんスか??」
「なんか目を合わせてくれないかな……でも、普通に会話はするよ。
……一歩半くらいの間隔が常に開いてるような気がするけど」
「なるほど」
榎並英里佳の反応は予想通りだ。
以前、迷った末に部屋に言って同居を懇願するというとんでもないことをやらかした前科があるが、基本過去を反省する英里佳ならばそうだろう。
(まぁ、試験期間が終わって他に集中することが減った今日からどうなるかは不安が残るッスけど……)
「じゃあ、詩織さんはどうッスか?」
「――――っ~~~~!
べ、べべ、別に何にもないんだからね!」
「キメェ」
三上詩織の名前を出した途端急に顔を赤くした連理
正直キモイ
キモイが、これは相当なことがあったな戒斗は予想した。
(こいつヒロイン気質なところがあるッスからねぇ……しかも詩織さん、前にこいつに迫ったこともあるみたいッスから、またなんかやったんスかねぇ……?)
「苅澤さんとはどうッスか?」
「紗々芽さんは……え、えっと……あ、あはは、別に、何にもないよ?」
「顔めっちゃにやけてるッスよ」
詩織の時とは一変して顔がだらしなくなる連理
別の意味でキモイ。いや、やっぱり普通にキモイ。
(こっちは何があったのかよくわからないッスねぇ……苅澤さんはいまいち読めないッスから。
力関係はスキル的に苅澤さんの方が上ッスから、苅澤さんが何か仕掛けたと考えるべきッスよねぇ)
おおよそのところは正解にいっている戒斗
洞察力と推理力など、かなり秀でているのだが、何分他のメンバーの印象が強烈なためにあまり目立たない不遇な男である。
「……ん、おっと、ちょっと喋り過ぎたッスね。
とりあえずさっさと片付けて事務室に行くッスよ。
今まで先輩たちにしてもらった分、しっかり仕事こなさないといけないんスから」
「あ、そうだね」
時計を見て、もうすぐ集合時間となることに気付いた二人は急いで朝食を済ませた。
学園は今は休みとなり、殆どの生徒は迷宮に向かうか、自主的に体育祭の準備のために活動をするなどしている。
そんな中で生徒会関係者である連理と戒斗は制服に袖を通して北学区の校舎へと向かったのである。
■
一方その頃
榎並英里佳の場合
「……ようやく、届いた」
朝、自分当てに届いた荷物を確認して英里佳は心底安堵した表情をしていた。
朝食もすでに済ませ、制服に着替えている。
普段ならこのまますぐに登校するのだが、今日はそこにさらにもう一つ身に着ける者が加わる。
歌丸連理の告白
それを聞いていこう、英里佳はまともに連理のことを直視できなくなってしまったのだ。
後ろ姿を見る位は問題ないし、むしろ気が付けば見ているくらいなのだが、一定の範囲に近づくと心臓の鼓動が早くなって興奮状態となり思考がまともにならなくなる症状を発症し、うっかりすると抱き着きそうになる自分を自制する日々
これまで自分の都合で少し離れただけで苦難を味わってきた歌丸のことを考えると、傍から離れたくない。
しかし、傍にいると顔を見るだけで興奮してしまう自分にも問題がある。
そう悩んだ末に、彼女は少し前までの歌丸の姿から着想を得て、西学区にとある依頼をし、その頼んだものが今日届いたのだ。
「これがあれば……」
その手にあるのは、体験入学期間中に歌丸が装備していたゴーグルとほぼ同じもの
ただ違うのはその中身の仕様
ゴーグルをすっぽりと頭にかぶり、横にあるスイッチを押す。
「顔認証、起動」
そしてゴーグルのカメラが起動し、被っている状態でも周囲を見えるようになる。
さらに英里佳は学生証のフォルダから、歌丸の写真(隠し撮り)を表示してそれをゴーグル越しに眺める。
すると、その写真で歌丸の顔だけが即座にモザイク処理された。
「よし、これで大丈夫!」
全然大丈夫じゃない。
■
一方その頃
三上詩織の場合
「はっ、ふぅ!!」
「ぎゅぎゅん!」
「くっ!」
真下から潜り込むように放たれた頭突きに、詩織は持っていた剣を弾かれた。
「ぎゅ」
そして肩に乗られて首に小さい手を添えられる。
「……はぁ……私の負けねギンシャリ」
「ぎゅ」
詩織の言葉に、茶色の大きめのウサギ――ドワーフラビットのギンシャリは満足げに頷いて肩から降りた。
「はい、今日もありがとうね」
学生証から取り出した人参丸々一本を受け取り、ギンシャリは嬉しそうにその場で齧りだす。
連理が浜辺にて涙を流したあの日
それから詩織は毎日、連理からパートナーである兎の三匹をローテーションで借りて試験期間中であっても毎朝スパーリングの相手をしてもらっているのだ。
ちなみに、言わずもがな全敗である。
シャチホコは進化こそしてないが、流石は最古参。主人のように強者と対峙するための立ち回りを覚えており、搦め手が上手い。
ワサビも進化して空中でも機動を変えてくるので死角を警戒してもまた別の死角に即座に回り込まれて攻撃される。
そして目の前のギンシャリはフィジカルが以前よりはるかに上がっており、下手な攻撃は簡単に弾かれてカウンターを入れられるし、体当たりの重みもかなり強くて踏ん張らないと簡単に転ばされるほどだ。
「速い攻撃にも目は慣れて来たけど……やっぱりまだ予測が甘いわね。
戒斗なら多分対応はできるはずだし……英里佳ならそもそもスピードで普通に対応するだろうし」
素振りをこなしながら、先ほどのスパーリングを振り返る。
目下、彼女の目標は同じチームに所属する戒斗と英里佳だ。
英里佳は言わずもがな優秀なアタッカーだが、最近の戒斗は目を見張る活躍をしている。
自分と違ってユニークスキルの類はなく、特にアサシン戦では連理からのスキルの恩恵をほとんど受けることなく独力で倒している。
レイドウェポンと、ドラゴンの骨を使った防具という、一年では破格の装備を手に入れている彼女だが、それに驕ることはなく、むしろより強さを求めている。
それはわかっているからだ。
ルーンナイト状態にならない限り、自分は戒斗に勝てないという事実を。
「もっと強くならないと……!」
自分が連理を守るのだと、詩織は自分に言い聞かせる。
まぁ、男前度に関してはすでに戒斗を圧倒しているわけだが、言わぬが花であろう。
■
一方その頃
苅澤紗々芽の場合
「ふん、ふふふふーん♪」
鼻歌交じりに卵をフライパンで焼き、その一方で小さい鍋にてコトコトと刻んだ野菜を煮る。
「えっと……確か嫌いな物はなかったけど、ケチャップとか好きだったから……あ、でも今かけちゃうとちょっと湿気っちゃうし……そっちはパックでいいかな」
制服の上にエプロンを身に着け、テキパキと“三人分”のお弁当を準備する。
今日は授業もないが、一日中生徒会の仕事をこなすことになるだろうからとお昼は各自で済ませておけと事前に知らされている。
そのためのお弁当で、自分と、詩織と、そして連理の分を用意している真っ最中である。
実は以前から連理のお弁当は本人ではなく詩織が自分の当番の時に一緒に用意していたのだが、ここ最近は紗々芽も自分の当番の時に連理の分を用意するようになったのだ。
栄養バランスは肉体づくりのためにも大事ということで、連理を強くするためならば……などと理由を色々こねくり回したのだが……
うん、重い。
「えへへ……歌丸くん、喜んでくれるかな……?」
完全に乙女の顔である。
もう料理のメニューも、栄養こそしっかり考えているが歌丸の好みを把握したものが中心となっている。
しかも彼に渡す分にだけちょっとした飾り切りまで仕込む始末。
普段ならば面倒だからと絶対にしないであろうことを、歌丸の弁当にだけはしっかりこなしているのだ。
重い。
「あっと、こっちもそろそろいいかな」
朝食分で用意したコンソメスープだが、量が多い。
それもそのはず。
これもお弁当で持って行く予定なのだ。
「こっちの保温容器に入れてっと……ふふー、これならお昼ごろにはできるかなぁ~♪」
楽しそうにコンソメスープを容器に移し、しっかり蓋をして中身がこぼれない様にする。
そしてその上に別の容器を重ね、その中に用意していた具材を入れていく。
中には時間が無いと用意した冷凍食品があったりもするが、それをそのままお弁当に入れる。
ただし、これは決して手抜きというわけではない。
下にあるコンソメスープの熱で解凍され、むしろお昼には温かい料理が食べられるというちょっとお高いお弁当箱である。
わざわざ歌丸のために紗々芽が自費で購入したものだ。
重い。(確信)
「オムレツとほうれん草のソテーに、ミニハンバーグ……それと温野菜。
デザートのカットフルーツは別のタッパーで用意するとして……あとは……オニギリの具は……マヨネーズも結構好きだったし、ツナマヨかな。あとは梅も用意してっと」
本当に楽しそうにお弁当を用意する。
そのクオリティはどれも高く、下手なお母さんの料理よりも美味しいことである。
「ふふ、ふふふふ……私の」
いや、本当にここまでなら多少重いが乙女の可愛らしい一面で済ませられるのだが……
「私の料理が……私の手で作ったものが、歌丸くんの中に……う、うふふ……うふふふふふふふふふふふふっ」
…………想いが重い。
ちなみに、衛生面は何も問題はない。
赤いものに別の赤いものが混じっていることはない。
少なくとも、今のところはただの美味しいお弁当である。今のところは。
■
……ん、なんか今ちょっと寒気がしたような……気のせいかな?
あ、どうも、歌丸連理です。
まぁ、とにかく生徒会の仕事を頑張らなければ。
「よし、今日も頑張ろうか。
まぁ、どうせ大したことは無いだろうけど」
「……なんかフラグ臭い気がするのは気のせいッスかねぇ……」
戒斗が何か言っているが、そんなポンポンと騒動が起こるはずがないじゃないか!
(←フラグ)
来週に差し迫った体育祭
そこで勝利してノルンを仲間に引き込む。
僕が生き残ることも、そしてドラゴンを倒すことも、まずはそこから改めて考え様。
兎に角今は、僕にできる目の前のことを頑張ってこなそう!
僕はそう意気込んで、校舎の中へと入っていく。
――そして、後日
――地震のような揺れの衝撃と、熱い風をまき散らす魔法、そして迫り来る敵の恐怖に震えながら、僕はこう思う。
――フラグみたいなこと言わなきゃ良かった、と。
――心底僕は、そう思うのであったが……この時の僕はまだ、それを知らない。
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