第142話 まぁ、男なんてみんなこんなもんです。



食事も終了し、自由時間となる。


まだお昼を過ぎて少しばかりで、ホテルには6時までに入ればいいからまだ時間に余裕がある。



「さて、まずはどこに行きましょうか」



道に設置されている地図を眺めながら詩織さんがそうこぼした。


西学区と一言で言っても色々ある。



「遊ぶならまずモールで買い物かな?」

と紗々芽さん


「学生ならやっぱゲーセンッスよ」

と戒斗



うん、どっちも学生として健全な気がする。



「うーん……連理、何か意見はある?」



そう言われ、僕は咄嗟にゴーグルのスイッチを入れた。



『1 いろんなの見れるモールもいいよね』

『2 やっぱりゲーセンかな』

『3 敢えてのカジノ』

『4 もうホテルでいいんじゃない?』



ほう、こう来るか。


ただ4は無い。



「……他二人と違う意見出すとしたらカジノとか?」


「カ、カジノ?」



僕の意見に今まで黙っていた椿咲が驚いたような声をあげた。



「ここ、学生中心の島なのにそんな施設あるの?」


「厳密にはここは日本じゃないからね。


合法で開いてるらしいよ。ただやっぱり学生ばっかりだからラスベガスとかで聞くみたいなカジノと違って掛け金に上限設定がされてるみたいだけどね」


「へ、へぇ……」



感心したように椿咲は地図を眺める。


カジノの位置を地図が示しているのを確認して「ホントにある」とつぶやく。


だがもともと真面目な性格だからか、こういった施設には嫌悪とまではいかなくとも、不快感はある様子だ。


それを確認して詩織さんは即座に首を横に振った。



「却下。兄が妹に悪い遊びを教えようとしない。


英里佳は意見ある?」


「えっと……」



詩織さんにそう質問されて英里佳は地図を眺めながら考える。



「……こことかどうかな?」



そう言いながら提案された場所に僕たちは視線をむける。





で…………





「オールシーズンで遊べる室内プール完備のレジャー施設とは、なかなかの選択ッスね」



海パン一丁の姿で温水プールを眺める戒斗


現在僕たちがいるのは、西学区の中にある温水プールや大きな入浴施設を複数取り揃えた場所だ。



「それにしても……やっぱり外さないんスね、それ」


「何を今更。事情は戒斗も知ってるでしょ」


「水に入れて壊したりしたら大変ッスよ」


「大丈夫、これ防水」



僕も同じように海パンを装着


そして頭には当然ゴーグルもある。



「でも少し意外ッスね、妹さんが榎並さんの意見に賛成するなんて」


「まぁそうだね。


僕もてっきり紗々芽さんの意見でモールに行くことになるかと思ったんだけど、椿咲って実は体を動かす遊びが好きだったのかな?」


「船旅で疲れてるかと思ったッスけど、むしろ体動かしたいんスかね」



まぁ、それはそれとして……



「きゃ、もうやったなー!」

「あはは、ほら、こっちよー!」



プールの中で遊ぶ女子高生


その水着は学校指定のスクール水着とかではなく、フリルのついたビキニとかワンピースとかそういう派手だったり可愛いものだ。



「いつぞやの臨海学校もよかったッスけど……ああいう健全なのもいいッスねぇ」


「そうだねぇ~……」ジジッ、ジジジジッ


「……………そのゴーグル、拡大機能とかあったッスよね、たしか」


「そんなの無いよ」


「さらっと嘘つくんじゃねぇッス! お前今朝瑠璃先輩にそう説明してたの知ってるんスよ!」


「あ、ちょ、揺さぶらないで、酔う! うぇ、戒斗近っ、毛穴ガッツリ見える!?」


「やっぱり拡大して見てたんじゃないッスか! 貸せ、俺にも見せるッス!!」


「や、やめ、やめろー!


これは僕専用なんだ、僕はただプールを眺めていただけで拡大して何か見ていたという証拠はない!!」


「いいから貸せ! 俺にも水着JKを間近で見られる体験を、男のロマンあるVR体験をさせるッス!!」


「絶対に嫌だぁ!!」



負けてなるかと戒斗の手から逃げる。


取っ組み合えば僕が負けるのは目に見えている。


ならば!



「うぉぉぉぉ!!」



生存強想せいぞんきょうそうLv.1 悪路羽途アクロバット 発動!



揺れるプールの水面を全力疾走で逃げる。



「あ、待ちやがれこの野郎!」



戒斗も負けじと僕を追ってプールの水面を走ろうとしたが……



「――解除!」


「どわはぁ!?」



しかし甘い。


君のその悪路羽途は僕と共有しているからこそ使えるもの。


僕が封じてしまえばこの通りだ!



「わはははははははは! 勝ったぁ!!」


「こ、この野郎待ちやがれぇ!」


「って泳ぐの速っ! そして怖っ!!」



水面を走る僕をバタフライで追ってくる戒斗


学生証の恩恵もあり、プロ顔負けの速度で泳ぐ戒斗が迫ってくるので、僕は全力で走って逃げる。



――このあとプールの監視員さんに滅茶苦茶怒られました。





男子二名が馬鹿をやっている一方、女子たちはレンタルの水着を選んでいる状態だった。



「えっと、じゃあ……これは?」


「うーん…………やっぱりこっちのほうが」



女の子はやはり水着を決めるのに時間がかかるものらしい。


どの水着がいいのか、悩んでいるようだが……



「……あの、やっぱり私こっちのスポーツ用のでいいから」


「駄目です。榎並さんはもうちょっと気にしたほうがいいです。


こういう場所で学校指定の水着なんて女子力が低すぎます」


「低すぎっ……!」



あまりにもバッサリと告げられた事実に絶句する英里佳


そんな英里佳の水着を代わりに選ぶ椿咲は内心では困惑していた。



(まさか何も考えずすぐにスポーツ用のものを選んで行こうとするなんて……


見た目はお姫様みたいに綺麗なのにそういうところ無頓着なんてありえないよ。


……でもどうしよう。


思わず水着を代わりに選ぶとか言っちゃったけど……)



ちらりと、横目で英里佳を一瞥する椿咲



「女子力……低い……」



椿咲の言葉にそれなりにショックを受けている様子で虚ろな目をしている。



(この人、兄さんと付き合ってるのかな?


兄さんたちと引き離せる時間が作りやすいと思ってここを選んだけど…………まずは会話で情報を引き出さないと)



「――えっと、何か服装で好みの色とかありますか?」


「い、色……?


えっと……………………黒、とか」


「黒、ですか? ちょっと意外ですね、もっと明るい色が好きなのかと」


「うーん……でもなんか黒って外れもあんまりないから楽だし」


「それ面倒くさがりな男子の意見ですよ。女子力が無いです」


「……無いの?」


「皆無です」


「――――」



さらにショックを受けた様子だ。心なしか、足が震えている。



「…………まぁ、兄さんも黒は好きみたいですけど」


「ほんとうっ!?」



先ほどまで虚ろな目をしていたのに一気に食いついた。



「え、ええ……まぁ、榎並さんと似たような理由ですけど………」



元々おしゃれに気を遣うような環境でもなかったこともあり、連理はおしゃれにはほぼ無頓着だった。


ただ悪目立ちさえしなければいいという程度の認識から、持っている服装も暗色系が多かったと記憶している。



「……兄さんの好み、やっぱり気になるんですか?」


「え……あ、ううん……なんでもない」



何故か急にテンションが下がってしまった英里佳


どうしたのだろうかと疑問に思う



「とりあえず榎並さんの体系ならどれでも似合いそうですけど……」


「……本当、私はどれでもいいよ」


「…………ちなみに兄さんって意外とフリフリなのが好きみたいですよ」


「詳しく教え――なんでもない」



物凄い速さで食いついて物凄い速さで訂正する。


もうなんか情緒不安定にしか見えない。


ちなみに兄の趣味を何故か知っている椿咲だが、その理由については敢えて今回は触れないでおく。



「――ちょっと二人とも、いつまで時間かけてるの?」



未だに水着を選んでいる状態の二人に声をかけたのは、すでに水着に着替えたリーダーである詩織であった。



「あ、すいません、すぐに――っ!」


「ごめん、詩織、すぐに決め――っ!」



振り返った瞬間椿咲も英里佳も絶句する。



「? 二人ともどうしたのよ」



同年代と比較してもプロポーションの良かった詩織


アスリートの様に引き締まりつつもグラビアアイドル顔負けのそのプロモーションのギャップが見る者にその圧倒的な敗北感を刻み付ける。



――ちなみに、英里佳は言わずもだが、椿咲も英里佳と大差はないとだけ言っておく。



「それにしてもレンタルが豊富で本当によかったわ……前の臨海学校の時は本当に酷かったし」


「え? 臨海学校なんてあったんですか? 今でもまだ海に入るには時期が早いのに?」


「あの学長の思い付きで一日だけ迷宮の中が常夏のビーチみたいになったのよ。


その時に制服も強制的に変化して、布面積の少ない水着なんか着せられて……はぁ……今思い出しても頭の悪いイベントだったわ」


「そ、そんなことが……」



現在、詩織が来ている水着はいわゆるホルターネックというタイプの赤いビキニである。


椿咲の視点で見れば十分に大胆なんだが、これ以上に凄いものを臨海学校で着せられ得たのかと思うと唖然としてしまう。



「……あの、その時兄さんは?」


「いたけど……どうかした?」


「い、いえ……なんでもないです」


「……というか、英里佳はどうして固まってるのよ?


なんか変なところある?」


「え……あ、うぅん……なんでも……ない…………です」



といいつつ、物凄く暗くなって自分の胸に手を当てている。


明らかに詩織と自分とで女子として圧倒的に負けているのかを自覚してしまったようだ。


同時に、困惑もしていた。



(なんで今さらこんなこと気にしてるんだろ、私……)



以前にも詩織のスタイルの良さを目の当たりにしたのにこの敗北感


なぜ自分は彼女に対して劣等感を覚えているのかと、英里佳はただただ困惑する。



「あの……参考までに聞きたいんですけど、何かプロポーションのためにやってることってありますか?」



お年頃なこともありそんなことを質問する椿咲


自然と落ち込みながらも英里佳は聞き耳を立てる。



「特別なことはしたつもりはないけど……栄養バランスをしっかりとって運動もしっかりして…………まぁ、そうね。強いて言うなら……」


「強いて言うなら?」



なぜか最後に遠い目をする詩織



「ごめん、おまたせー……って、あれ、二人ともまだ着替えてなかったの?」



詩織の次にやってきたのは紗々芽である。


こちらは下にパレオを巻いているようだが、上がチューブトップというタイプのものであり、上から固定されていないからか、揺れる。


何がとは言わないが、揺れる。ただただ揺れる。



「「――――」」



その圧倒的な大質量の前に、英里佳も椿咲も先ほどを上回る敗北感の絶望に飲まれた。


そしてそれに追い打ちをかけるがごとく、詩織は残酷な事実を口にする。



「結局、遺伝なのよね」





「さて、ようやくみんな集まったッスね」



指導員さんの説教から解放されたタイミングで着替えを終えたみんながやってきた。


詩織さんも紗々芽さんも相変わらずのプロポーション


周囲からいろいろな視線を受けているのだが…………



「何故に二人してパーカーを羽織ってるの?」


「……べ、別に……なんでもないよ」


「放っておいてください……」



何故か英里佳も椿咲もパーカーを装備している。


そしてなんだろう、物凄く親近感を覚える目だ。



「どうしたんスかあの二人、なんか連理がシャチホコにボコボコにされた後みたいな目をしてるッスよ」


「ああ……見覚えがあると思った。私の時はギンシャリだったわね」


「あ、そういえばララとワサビにボコボコにされたときもこんな目だっけ」



なるほど納得。


そして僕、今更ながらエンペラビットに負けすぎぃ!



「ところであんたたち、私たちがいない間何やってたの?


なんか監視員の人凄いこっち睨んでるんだけど?」


「「いえ別に何も」ッス」



さっきのこと知られたらすぐにまたお説教されることが目に見えているから敢えて黙って置く。



「詩織さんのこと見てるんじゃないのかな?


ほら、凄い綺麗だし」


「え……そ、そう?」



……あれ、ここは「あっそう」とか「そう、ありがと」とか軽く流されると思ったんだけど……なんか、思ってた反応と違う。



「ねぇねぇ歌丸くん、私のはどうなの?」



僕が詩織さんの反応に少し困惑していると、紗々芽さんが微笑みながら近づいてくる。



「ど、どうって?」


「私の水着、どう思う?」



そんな風に悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、彼女はチューブトップの水着の真ん中を少し上げる。


その動作でその豊かな実りが揺れるの僕は目が離せなかった。


――これゴーグル無かったらガッツリ胸とその大渓谷を見ていたのまわりから丸わかりです。






同時刻・西学区生徒会室より



「「「――――」」」


「ちょっとそこの色バカ三人衆、盗撮で訴えられたくなかったら画面から目を逸らしなさい」


「コバちゃん、私のこと散々言ってるけど今の君も大概だと思うな~」






「えと、あの…………凄く良いです」


「何が?」


「何が、といいますと……?」


「どこが、どういう風に、良いのか詳しく教えて欲しいなぁーって」


「え、えと、あの、その……」


「歌丸くん、前に言ってたよね、私の何が良いのか?」



…………もしかして今、前に迷宮で相田和也に追われてた時に僕が言ったこと根に持ってる?


胸がデカいって第一印象だって言ったこと今ここで言えと!


身内というか、妹がいる目の前で!?


だが、だがこの大いなる渓谷からは目が離せないのが男の性なのか……!



「――兄さん?」


「――紗々芽ちゃん?」



その時、ほぼ同時に僕と紗々芽さんの方が掴まれた。



「鼻の下を伸ばすなんて身内として恥ずかしいので、止めてもらえませんか」


「はい」



思考するより前に逆らってはいけないという思いから僕は即座にカメラのフレームを紗々芽さんの谷間から外したのである。



「あんまり異性に近寄るの、どうかと思うの」


「え、英里佳?」


「どうかと思うの」


「あの」


「思うの」


「……そ、そうだね……うん、気をつけないとね、うん」



笑顔なんだが、なんかとても威圧感のある英里佳の言葉に、紗々芽さんは頷く。


ど、どうしたんだろ急に……もしかして怒ってるのかな?



「こほんっ……まぁ、とりあえず泳ぎましょうか折角だし」


「えっと…………ここ色々あるよね、波のあるプールとか、流れるプール、噴水プールにサーフィン体験もできるみたい」


「ウォータースライダーも種類豊富ッスね」



そう言われて椿咲が周囲を見回す。


この室内レジャー施設、本当に色々あるからねぇ……



「じゃあ、まずは波のあるプール行ってみよう!」


「それあんたが行きたいだけでしょ……」



バレたか。



「でもここのメインの一つだし、やっぱり外せないよ。


椿咲もどうかな?」


「え……まぁ、兄さんがそう言うなら………………私もちょっと興味あります。


海で泳いだことないので、波のあるプールは気になります」


「そう?


まぁ、椿咲ちゃんがそう言うならそうしましょうか。


あ、でもちゃんと泳ぐ前に準備運動するのよ」


「そうだね」



プールには入ったけど、あれは泳いだんじゃなくて走ったんだからセーフ、セーフ。


まぁそんなこんなで、僕たちのプールでの楽しいひと時が始まるのであった。

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