第128話 ラスボスはバニーガール
■
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「ふー……ふー……ふー……!」
互いに満身創痍
しかし、僕たちはお互いに一切戦意を失っていない。
少しでも多く、たったの一つの差でもより多く
そればかりを願い、すでに限界が訪れている肉体を精神で黙らせる。
「あ、ぐ――んぐっ!!」
吐き気のあまり眩暈が起こる。それでも僕は自分の肉体の限界を精神で黙らせる。
「お、おい、本当にもうやめるッス!」
「そうだ、流石にやり過ぎだろお前ら!」
今までことを静観していた戒斗とダイナマイト渉が心配に声を荒げる。
「なめ、る……なぁ!!」
そして僕に負けじと、鬼龍院兄が大きく口を開く。
「だからやめろって、お前そういうの得意じゃないだろ!」
とうとう口だけでなく、行動で鬼龍院兄を止めようとダイナマイト渉がこちらにやってきたが……
「俺は壁だ、ここは通さん」
安心と信頼と実績の壁くんがダイナマイト渉を止めた。
「大樹、何してんだ!?」
「男の勝負、横槍など無粋」
「いや、男の勝負って、お前これ……」
ダイナマイト渉は、壁くんの横から覗き見る様な形で僕たちの方を見て、戒斗はさめざめとした目で僕たちを見る。
「――これで、八皿、め……!」
「――俺も、だぞ……!」
お互いに、空となった皿を置く。
そして次に、山盛りの焼かれた肉が盛られた皿へと手を伸ばす。
「ただの大食い勝負ッスよね?」
「うむ」
「いや『うむ』じゃねぇよ!
蓮山が少食なの知ってるだろ! おい蓮山、マジでもう止めろ! お前腹壊すぞ!」
「まだ、まだだぁ……!」
「いや無理だから、お前今腹普段よりもスゲェ膨らんでるぞ!
というか顔蒼っ!?」
無理矢理に肉を食べようとして気分が悪くなっている鬼龍院兄
だがもう見るからに限界が近いようだ。
「ふ、ふはは……鬼龍院兄、やぶれた――うぷっ」
「お前も別に大食いでもないんだからその辺でやめとけッス」
「ふ、余裕余ゆうぷげっ……うさっ!」
「完全にリバースするカウント入ってるッスよね?」
そんなわけがない。僕はまだまだ余裕だ。
「――何してんだお前ら?」
そんな中、呆れた顔でやってきたのは生徒会会計の会津清松先輩だった。
その姿を確認し、鬼龍院兄は慌てて姿勢を正す。
「っ、き、清ま――ぷ、先輩」
「今お前なんて言った?」
「清松先輩」
「絶対に違うだろ……まぁいい」
そうは言うが、明らかに普段よりも膨らんでいる鬼龍院兄の腹を見て困惑している。
「清松先輩、今までどこにいたんですか?」
「事後処理だ。
と言っても、ここは北学区だったから大したこともなかったがな」
「? 事後処理って、なんかあったんですか?」
僕がそう質問すると、会津先輩は後ろ手に首のないドラゴンの骨をさす。
「あの残った骨をどうするかって話だ。
これが普通のレイドとかだったら各学区で取り分争いが起こってたところだが、今回は北学区の敷地内で、ほぼ全員が北学区の生徒だからな、六割は北学区で骨を占有することとなった」
その内容に僕たちは感嘆をこぼす。
ドラゴンの骨、学長と比べれば弱い個体ではあるが、それでも数ある迷宮生物の中ではトップクラスの脅威に位置するドラゴン
その骨となれば、優秀な素材だ。
武器にも防具にもいいし、時間経過で勝手に再生もするから建築材とか、変わり種としては車や船のフレームとかにも使ったりなんて事例もある。
そしてその六割となれば、そりゃとんでもない量だ。
「でだ、チーム竜胆とチーム天守閣。
お前ら二つのパーティはドラゴンスケルトンの討伐を達成したってことで、全体の三割までは好きにしていいってことになってる。」
「「「「え」」」」
会津先輩のその言葉に、壁君を除くその場にいた僕たち全員が間の抜けた顔をしてしまった。
「前準備もなく、見事に犠牲もなく討伐を達成したんだ。しかも一年生で、だ。
そのご褒美ってわけでもないが、それくらいのリターンはあっても罰は当たらないだろ」
会津先輩は優しげに微笑みながら僕たちにそう言った。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!
スゲェっすよ、それ、あの三割って、どんだけ凄いんスかそれ!?」
いち早く放心から回復した戒斗が大騒ぎを始める。
「戒斗、そんなに凄いの?」
「わからないッスか!?
あの巨体の三割ッスよ! 俺たち十人の鎧と武器一式作ってもまだまだ余るッス!」
「つまり?」
「残った分を売って金にすれば、どんなに軽く見積もっても数百万は堅いッスよ!!」
「売ろう!!」
全部売ったら数千万はするよねそれ!!
「何を勝手に決めてるんだテメェ!
ドラゴンの骨だぞ! アレを使えばどれだけ強力な武器ができると思ってるんだ!」
「はぁ!?
どうせお前らじゃろくに使わないだろ! ドラゴンの骨のどこに魔法使いを強化するポイントがあるんだコラあん!?」
「なんだその態度!
大体、お前らがなんでもらえて当然みたいな態度なんだよ!!」
「はぁ? もらえて当然だろ!
僕たちがどれだけ頑張ったと思ってんだ!!」
「お前はただ逃げてただけだろうが、俺は作戦を立案して全体を指揮したんだ、お前なんかより取り分は多い!」
「その作戦を立案する時間を誰が稼いだと思ってるんだ! 僕が時間を稼いだおかげだろ!」
「なんだとぉ!」
「なんだよぉ!」
お互いに一歩も引かずににらみ合う。
「おいこら、お前らこんなことで喧嘩すんなって」
僕たちを止めようと会津先輩が間に入り、そしてお互いを引きはがす。
そしてその際、僕たちの身体が少しばかり強く揺さぶられた。
普段ならなんてこともないのだが、この時の僕たちはお互いに不用意に力み、大声を出していたこともあり……何より、腹のコンディションが最悪だった。
「「うぷっ」」
「「「あ」」」
「ん……お前ら、急に動きを止めてどうし」
あ、無理。
「「おぅぇぇぇえぇえぇぇ――――!!」」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!?」
会津先輩の悲鳴がBBQの会場に響き渡ったのであった。
―――――
―――――――
―――――――――
そしてしばらくして……
「ちょっと目を離した隙に何やってんのあんたは?」
「お兄様、聞いていますか?」
詩織さんと麗奈さんから正座でガチ説教を受けていた。
ちなみに会津先輩は着替えるためにその場から立ち去って行ったし、今までワイワイと食事を楽しんでいた人たちも今は僕たちから距離を取っている。
「珍しく戦闘で特に怪我しなかったと思ったら、よりにもよってみんなが楽しむ場で吐くって…………あんたは場の空気を引っ掻き回さないと気が済まないの?」
「いえ、その……本当に、悪気はなくて、ですね……あの、なんと言いますか……」
弁明をしようと思うのだが、全面的に僕が悪いという自覚があるので本当に申し訳ない気持ちで一杯です。
「お兄様、先ほどから黙っていますが……何か言うことはないんですか?」
「……だから、その……わざとじゃなくて」
「わざとじゃなければ問題はないと?」
「お、俺だけが吐いたわけじゃないだろ!
もとはと言えば、こいつが――!」
やめろ鬼龍院! この場でその選択は正しくない。
「人のせいにしない!!」
「「」」
あまりの大きな声での怒鳴り声に、隣で正座していた僕までびくっとしてしまった。
「そして連理様」
「……は、はいっ」
「ここは祝いの席、羽目を外すなとはいいませんが、節度というものがあるのではないでしょうか」
「仰る通りです……全面的に、僕が悪かったです」
「はぁ……お兄様、ちゃんと聞いてましたか?
連理様はちゃんと自分が悪いことを認めたのですよ? それなのにお兄様ときたら自分は悪くないと……」
「い、いやそこまでは」「言い訳しない」
そこからどんどん鬼龍院が日頃の生活での問題点がつらつらとあげられていく。
「きゅきゅう!」
「おわっ!?」
後ろから急に頭に何か乗ってきた。
「ぎゅぎゅ!」
「きゅるう!」
さらに両肩にも飛び乗ってきて体勢が崩れそうになったが、どうにか踏ん張った。
「シャチホコ、ギンシャリ、ワサビ」
飛び掛かってきたのは僕のパートナーである三匹のエンペラビットたちだった。
「やっぱりなつかれてるのね、歌丸くんの姿を見たらすぐに飛び出して行ったわよ」
「あ、お姉ちゃん」
今まで詩織さんの後ろで僕を呆れた目で見ていた稲生が、シャチホコたちの後からやってきた女性にそう声をかけた。
稲生の実の姉であり、南学区の副会長を務めている
「あ、先輩、うちの三匹どうでした?」
「エンペラビットは初めてだけど、異常らしいのは見つからなかったわよ。
三匹とも健康そのものね」
その結果を聞いて僕は安堵した。
「連理、稲生先輩に何か頼んでたの?」
「あ、うん、一応英里佳が湊先輩の検査受けるって聞いて、ちょうど稲生先輩がいたからシャチホコ見てもらおうと思って。
稲生先輩って獣医免許持っててさ、正常かどうかを比較するためにギンシャリとワサビにもついていってもらったんだ」
「なるほど……それで稲生先輩の姿が見えなかったのね」
何かに納得しているようだが、まぁとりあえずシャチホコたちに異常が無いのならよかった。
こいつらには今日はかなり無理させたから心配だったんだよね。
「きゅきゅきゅきゅう!」
「ぎゅぎゅぎゅぎゅう!」
「きゅるるるるるるう!」
「うるさっ!?」
三匹揃って凄い僕に何かを訴えかけるように鳴きだした。
「黄金パセリ欲しいんじゃないかな、ほら、最後の攻撃の時にそう言ったし」
稲生と同じく、後ろで僕を呆れてみていた紗々芽さんからそんなことを言われた。
ああ、そういえば言ったね。
「わかった、わかったから静かにしろ、今出すから」
学生証のアイテムストレージからひとまず入ってるだけの野菜を出す。
「きゅきゅきゅきゅ!」
「いたたたたっ、今出す、今出すから落ち着け」
急いで出したので普通の野菜が出てきた。
シャチホコはそれが不満だったので僕の頭の上から耳で額をパタパタ叩いてくる。
「……あ、やべっ」
しかしなんと運が悪いことに、アイテムストレージの中の黄金パセリはもちろん、虹色大根までストックが切れていることに今気づいてしまった。
「きゅきゅっきゅ!」
「ぎゅぎゅう!」
「きゅるるるるん!」
そのことをまだ知らない三匹は「早く出せ」とせがむように鳴くばかり。
や、やばい……このままじゃいつぞやの様にこいつらにフルボッコにされる。
こいつら一応僕の言うことは聞くけど、やるときはやるというか、遠慮というものがないので絶対に攻撃してくる。
今は衆人環視の中、ゲロを吐いた時点で色々と終わっているが、そこにプラスしてエンペラビットという最弱迷宮生物に蹂躙される様までは見られたくない!
「――よぉ、お困りのようだな連理!」
「そ、その声は!!」
絶望のどん底にいた僕に、救いの声が聞こえてきた。
「土門会長!」
南学区生徒会会長、柳田土門が得意げに微笑みながら僕の前に現れたのだ。
「ふふふっ、ほれ兎ども、お前らの欲しかったのはこれだろ!」
そう言って土門会長がアイテムストレージを操作する。
すると次の瞬間、山の様に大量の黄金と虹色の二つの物体が出現した。
それを見た瞬間に三匹とも僕から飛び出して山の中に体全体から突っ込んだ。
人の味覚にとっては劇物そのものだが、迷宮生物にとってはこの上ないごちそうである黄金パセリと虹色大根
それが今、目の前に山の如く積み上げられていたのだ。
「あ、えと、土門会長、これは……?」
ひとまずの危機から脱して冷静になった僕がそう訊ねる。
一体どうしてこんなタイミングよく、こんな劇物を会長が所持していたんだ?
「さっき大声でこいつらに用意するって言ってたからな、こいつら見た目と違ってかなり食うから必要になると思って持ってきたんだ。
まぁ、一応俺からの礼だ」
「え? 礼?」
どういうことかと首を傾げると、土門会長は僕に対して頭を下げた。
「……ナズナを、義妹を助けてくれてありがとうな連理」
「私からもお礼を言わせて。
ナズナを守ってくれてありがとう」
土門会長だけでなく、牡丹先輩からもお礼を言われた。
「え、あ、いやそんな、僕はただ囮になってただけで、ドラゴンスケルトンを倒したのは他のみんなですし……」
正直、お礼を言われても困ってしまう。
「もちろん、あの場にいた全員に感謝してる。
だが、それでもあの場で、お前がナズナに向けられるかもしれなかった攻撃を全部引き付けれてくれいた。
おかげでナズナはこうして元気だ。本当にありがとうな」
「ええ。謙遜しないでもいいのよ。
あなたは今日、とても頑張ってたわよ」
「……せ、先輩……!」
こうも評価してくれる人がいるんだ……地味だけど、頑張ってよかった思えるよ……!
「……ところで、なんでお前正座してるんだ?」
「それは聞かないでください」
忘れてたけど現在説教の真っ最中だった。
「はぁ……ほら、もう立っていいわよ」
「え……い、いいの?」
つまり、説教は終わり?
「良いからさっさと立ちなさい」
「うっす」
どうやら問題ないらしい。
ならばと僕はその場からすくっと立ち上がる。
「ん? それにしても、なんか思ったより肉の消費が少ないな」
コンロの皿に盛られている肉やまだ中身の入っているクーラーボックスを眺めてそんなことを呟く土門会長
瞬間、事情を知っている面々が一斉に僕や鬼龍院兄を睨んだが、即座に僕たちは顔をそむけた。
「まぁ、余ってるならちょうどいい。
ついでもこれも持ってきたんだ!」
そう言って、土門会長がまたアイテムストレージをいじって今度は大量の缶をその場に出現させた。
「ちょ……それ酒じゃないんスか? 缶チューハイとか、そういうの?」
出てきた缶のラベルを見て驚く戒斗
コンビニとか言ったときに見る酒の類のラベルとよく似ている気がする。
ここは迷宮学園
教員のために一部の店舗で酒を取り扱ってはいるが、学生の飲酒は認められていない。
それが会長ならばなおのこと駄目なはずだが……
「ふふふっ、そこは心配ご無用!
これは南と西学区の共同開発のパーティグッズだ!」
おや、どこかで聞いた覚えのあるフレーズだ。
「東学区で作成された、戦意高揚のための薬剤の失敗作。
服用するとテンションが上がるが軽い混乱状態を引き起こすというものだ。
それをかなり薄く希釈して副作用はなく、飲みやすい味付けを南で研究してな、今年の夏から販売予定のなんちゃって缶チューハイだ!」
「「「おぉ」」」
会長の説明に聞いていた面々が興味津々に感嘆した。
未成年にとってアルコールというのはやはり未知の魅力がある。
体に悪いとはわかっているので敬遠するべきものだが、やはり興味はでてくる。
酔っぱらうという未知の経験、それがノーリスクで叶うというのなら是非とも体験してみたい。
「今回はそのテスターとして無料で飲み放題だ!
カロリーは低いし、むしろ消化促進のために体にいい成分も入ってるからどんどん飲んでくれ!
あ、でも気分が悪くなったらすぐに中止だぞ、一応解毒薬のドリンクも用意してあるから、ヤバくなったらすぐにこっちを飲んでくれ」
そう言って別の種類の缶を準備する土門会長
話を聞いていた北学区の学生の面々が缶チューハイモドキを手に取っていく。
やはり北学区の生徒って好奇心が強いなぁと思わされる。
その一方で僕もちゃっかり一本ゲット
「ちょっと、あんた本気で飲む気?」
「え、駄目なの?」
「ついさっきあんた自分が何したのかよく思い出して見なさい」
ああ……確かについさっき吐いた奴が酒飲むとか止めるよね、普通。
「いやでもほら、本物じゃないし、消化促進の効果もあるっていうし」
「だからって……」
「まぁまぁ、詩織さんもそう固くならなくてもいいじゃないッスか。
場の空気も持ち直したんだし、むしろここで飲まないほうが興ざめッスよ?」
僕と同じく缶チューハイモドキを手に取った戒斗がそんなことを言いながら詩織さんにも缶を渡した。
「折角だし、別にいいんじゃない、今日くらいは」
と、いつの間にかその手に同じ缶を持った紗々芽さんがそんなことを言う。
紗々芽さんもこういうのに興味があるとは意外である。
「紗々芽まで……はぁ……まったく、飲みすぎるんじゃないわよ?」
「うん、わかった。
あ、英里佳、はいこれ」
少し離れた場所に座っていた英里佳にも、缶を渡す。
「あ、うん、ありがとう」
見れば説教もひと段落して鬼龍院兄妹も缶チューハイモドキを手に取り、稲生も壁くんもダイナマイト渉もみんなしてすでに準備万端だ。
「よし、連理、音頭とれ」
そう土門会長に促され、特に断る理由もないので僕は景気良く缶チューハイモドキを高々と掲げる。
「それではご指名を受けまして、不肖ながら歌丸連理、音頭を取らせていただきまーす!」
「いいぞー」
「はやくしろー」
見ていた北学区生徒の面々から早く飲んでみたいという意志が伝わってくる。
「それでは皆さん元気よく、東部学園の発展を願いましてー、かんぱーい!!」
「「「かんぱーーい!」」」
みんなしてほぼ同時にプルタブを開くと、プシュッと気持ちのいい空気の抜ける音がした。
そして僕も一気に缶の中身をごくごくと飲んでみた。
「うん、さわやかなマスカット風だね」
「こっちはビターなレモンッスね」
「私はオレンジよ」
「こっちはモモかな」
と、お互いに感想を言い合うが……
「ぎゃはははははははは!」
「ふふ、ふふふふふふっ」
突然、鬼龍院兄妹がその場で笑いだす。
何事かと思って驚くと、どうやら異変はそれだけじゃなかった。
「俺は、壁だ。故に、飲む」
まるで何かから解放されたかの如く、缶チューハイモドキを飲んで飲んで飲みまくる壁くん。
「はぁ……めんどくせぇ……もう、何もかもがめんどくせぇ……」
ダイナマイト渉はその場に座り込みながら、ぐびぐびと缶チューハイモドキをあおる。
他にも見れば、周りの北学区生徒たちも騒いだり泣いたり怒ったり、中には寝てしまっている者たちまでいる。
「え、な、何事これ?」
「もしかして、これが土門会長の言ってた効果?
即効性にもほどがあるでしょ……」
一口飲んだだけで周囲が混沌とした状況に変わったのを眺めてドン引きする詩織さん
その一方で、戒斗は首を傾げながら缶チューハイモドキをもう一口飲んでみた。
「……なんか、普段と全然変わった感じはないッスね。
これも、ただのジュースみたいにしか感じないッス」
「そう言えば確かに……なんで僕たち
試しにもう二三口のんでみたが、特にテンションが上がったとかはない。
個人差、というにはこのメンバーだけ無事というのは妙だ。
「……もしかして、歌丸くんのスキルの効果じゃない?」
「ああ、それッスね。
なるほど納得。
確かに、僕の意識覚醒の効果なら混乱とか無効にしてくれるな。
「じゃあ、試しに解除してみる?」
「やめときなさい、この惨状に仲間入りする気?」
そう言ってまだ中身の残っている缶を机に置く詩織さん。
もう飲む気はないらしい。
同じく、紗々芽さんも周囲の惨状を見て飲む気が無くなったようだ。
確かに……僕もほろ酔いくらいのを想像してたんだけど、これはどう見ても泥酔の手前位の酔い方だ。
「えへへへへへへ~!」
「こら、ナズナ、しっかりしなさい!
顔がだらしないことになってるわよ!」
「お、おぉ……販売するときはもっと薄めた方がよさそうだな……」
土門会長も、この状態は想定外だったらしい。
副作用は無いのかもしれないが、混乱の度合いが酷い。
これ薄める前ってどんな状態だったんだよ……
……関係ないけど、稲生の奴本当にだらしない顔だな。
具体的には百年の恋も冷めるレベルで酷いぞ、あれ。いや恋してないけどさ。
――ゴクゴクゴクゴクッ
「……ん?」
やけに近くで飲み物を飲む音が聞こえるなと思ったら、英里佳が先ほど詩織さんと紗々芽さんが机に置いた缶チューハイモドキを飲んでいた。
「えっと……英里佳、もしかして喉乾いてたの? 水取ってこようか?」
「……いい。それより、歌丸くん」
「え、な――にぃ!?」
いきなり首襟を掴まれたかと思えば、英里佳が僕を引っ張って顔を近づけてきた。
そしてそのままお互いの顔が接触するかと思ったその直後――
「何してんのよ!」
「何してるの!」
勢いよく後ろから首襟を引っ張られてそのまま地面に倒れる。
そしてそんな僕を無視して、鬼気迫った表情で僕の襟を引っ張った詩織さんと紗々芽さんが英里佳に詰め寄った。
「あんた今あいつに何しようとしたの!」
「そ、そうだよ英里佳! 自分が何しようとしたのかわかってるの!?」
背中は痛いが、それ以上に僕は混乱していた。
一体どうしたのだろうか、起き上がって英里佳の顔を見た。
「……あの、なんか英里佳の目、座ってる気がするんだけど」
「「え?」」
僕の言葉に、慌てていた二人がまじまじと英里佳の顔を覗き込む。
「……もしかして……え、でも……歌丸、英里佳にも
「う、うん」
「でも……これ、明らかに……」
紗々芽さんもう一度英里佳の顔を見る。
普段は白くて透き通った肌が今は赤みがかっていて、目線もどこを見ているのかわからない状態でさまよっている。呼吸もなにやら荒い。
どう見ても、他の北学区の生徒動揺に酔っぱらっている。
「……もしかして、スキルの反動の影響って肉体の疲労だけじゃなくて、連理とのスキルの共有にも影響が出てるんじゃないんスか?」
そんな戒斗の呟きが聞こえてきたが、それを確かめる前に英里佳がその場から立ち上がり……
「どーしてじゃまするの?」
「「え?」」
「わたしは、歌丸くんと……」
「あの、英里佳、ちょっと落ち着きなさい。ね?」
「そ、そうそう。ほら、まず先にあっちのドリンク飲もう、ね?」
何かまずいと思った二人が即座に解毒薬の方のドリンクを英里佳に勧めるが、英里佳はそんなの一切無視して僕の方に歩み寄ってきた。
「うたまるくん、絶対に、私は……!」
「え、あ、あの……英里佳さん?」
最終的にまだ起き上がっていない僕に馬乗りになった英里佳が、ガシッと僕の顔を掴んできた。
そして再び、今度は英里佳から僕の方に顔を近づけていき……
「ルートバインド!!」
接触する前に、英里佳の身体に根っこが絡まって僕から強制的に引きはがされた。
「良いわよ紗々芽! そのまま抑えてて、今解毒薬飲ませるから!!」
「うん、お願い!!」
何やら普段より鬼気迫る、というかドラゴンスケルトンと戦った時以上に焦っているように見える二人。
一体どうしたんだ……というか、えっと……今英里佳、僕に何をしようとしたんだ?
「――邪魔、しないでぇ!!」
「げぇえ!?」
よりにもよって今の状態で
これはまずいと思ったが、その前に……
「歌丸くんは、わたしのなんだからぁ!!」
ぴかっと、何やらそんなことを叫んだ英里佳の身体が発光する。
「――きゅきゅっ!?」
黄金パセリと虹色大根の山の中に突っ込んでいたシャチホコが英里佳の方に吸い寄せられ、そしてそのまま英里佳とシャチホコの姿が重なって……
「
「「「「はぁぁぁあああああ!?」」」」
よりにもよって、今日、ドラゴンスケルトンを倒すのに大活躍だったスキルが、酔った勢いで発動してしまっただと!?
「ちょっとどうすんのこれ!?」
僕がそう叫ぶと、詩織さんは顔を引き締めて盾を構えた。
「とにかく力づくで止めるわよ!!
――
そしてまさかのこっちでもスキル発動!
シャチホコと合体した英里佳に、ルーンナイトとなった詩織さんが盾を片手に立ち向かう。
「えちょ、それ発動するって、連理お前今かなり追い込まれてないッスか!?」
「冗談抜きでヤバいでしょこれは!!」
誰か助けて本気で、マジお願いします!!
打ち上げのはずのBBQ会場
そこでまさかの、チーム天守閣の主力二人の激突が始まった!
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