第122話 エリアボス攻略① 人数揃ってます。
ドラゴンスケルトン
その姿は竜の形をした骨であるのだが、これは厳密には竜種の迷宮生物ではない。
というか、生物という呼び方も本来は正しくないだろう。
これは厳密には“
迷宮学園内に存在するものの方が力は強いが、迷宮が出現する前から世界中で観測された幽霊や悪霊なども同じ存在だといえる。
幽霊、悪霊とか、そういう怨念全般が迷宮内部にある動植物の死骸を操っているものであり……要するにゾンビとかそういう類の最終形態だ。
そして今、僕たちの目の前にいるドラゴンスケルトン
そこに利用されている骨は迷宮内で死に絶えた竜種
学長にこそ遠く及ばないが、人類の天敵と呼ぶにふさわしい迷宮生物の死骸を迷宮内の悪霊が操っているのだ。
【GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】
見るからに声帯など存在しないのにどうやって咆哮などやっているのか、なんて疑問を覚える。
「英里佳、一旦下して!」「駄目!」
「うん! …………うん!?」
すんなりと下されると思ったらまさかの拒否
一体何事かと思ったが、英里佳は高速で後ろへと飛ぶ。
直後、先ほどまで英里佳が立っていた場所に鋭い物体が突き刺さった。
あれは……骨か?
ドラゴンスケルトンの槍のような骨、おそらく翼の先端の一部が飛来してきたのだろう。
「あれは歌丸くんを狙ってる! 危ないから私から離れないで!」
「え、でもそんなはずは…………はず、は……………………ああそうだね、どう考えても今この場にいる中で僕が一番弱いもんね!!」
我ながら悲しい事実をまざまざと見せつけられた。
弱い奴ほど狙われやすい。
それは迷宮生物だけでなく不死存在でも適用されるルールのようだ。
先ほどアームコング相手に一歩も引かない戦いを見せたけど、それって紗々芽さんからの強化をもらっていたからできたことだから、僕自身が強いってわけじゃないのはわかってるけど……わかってるけど……!
「とにかく会場の外に! そこまで行けばなんとかなるから!」
「ああ、まぁ確かにそうだよね……会長とか来道先輩とか、会津先輩いるし、他にも北学区の先輩もいるからねぇ……」
ドラゴンスケルトンが最初に出てきたときは驚いたが、ここは北学区の敷地内。
そして生徒会という主戦力が揃っている場所だ。
場所も普通の広場を魔法で隆起させただけのものだし、正直、クリアスパイダーと比べると全然脅威じゃないわけで……
そんなことを考えながら英里佳に抱っこされたなんとも男としての尊厳の欠片もない状態でその場から離れようとしたのだが……
「きゃっ?!」
「どふっ?!」
勢いもそのままに見えない何かに激突した僕たちはその場に倒れてしまう。
僕は背中から地面に落ちて、英里佳は僕の上に覆い被さる。
……あ、いい匂い……
って、いってる場合じゃない!
先程みたドラゴンスケルトンの骨が迫ってきていて、このままでは英里佳の背中に刺さる!
「――弾いて!」
聞こえてきた声に、僕の体が意思を置いてきぼりにして反応する。
右手を豪快にその場で振り回し、あらかじめ右手に巻き付けていた金属パーツが遠心力で腕から離れた。
それは比渡瀬先輩からチケットと交換して手に入れた僕の新しい防具
金属の細長い棒がいくつもつながっているベルトは、僕から魔力を吸収して淡く発光する。
そして、迫る骨の槍と、光る金属のベルトが激突する。
【GAAAAAAAAA!?】
ドラゴンスケルトンが突如大きな絶叫をあげた。
僕の目の前に迫っていた骨は英里佳に当たることはなく軌道が逸れて僕たちの倒れている横側に突き刺さっていた。
地面に突き刺さっている骨とベルト接触した箇所の表面がうっすらと焦げていることを僕は起き上がりながら確認した。
よし、問題なく機能している。
「う、歌丸くん……今のは?」
「僕の新しい防具。それよりこれ……」
僕はつい先ほど英里佳と共にぶつかった見えない壁に手を触れる。
透明度が高くてぶつかるまでその存在に全く気づかなかった。
「この壁、もしかして……!」
英里佳は顔を青くしながら周囲を見回す。
そこでようやく僕たちは現状を正しく理解できた。
それはそうだ、歴戦の戦士といっても過言ではない人たちが集まっていて僕たちより対応が遅れるなんてことがあるわけが無かったんだ。
「音が遮断されている……!」
英里佳が驚きながら見た光景
僕たちが激突した壁に向かって天藤会長や来道先輩やほかにも沢山の北学区の三年生の先輩たちが攻撃を繰り出していたのだ。
だがこの壁はとても頑強なようでそのすべてが弾かれている。
「通れないし音も伝わりない。
そして何より先輩たちでも壊せない。
脱出は難しいだろうね」
そういえばあのドラゴンが、ドラゴンスケルトンを……紛らわしいから学長としよう。
まぁとにかくドラゴンスケルトンが現れる直前に周囲の景色が変化しているのを見た。
あの時にこの見えない壁、というか結界が作られたのだろう。
【GAAAAAAAAAA!】
そうこうしてる間に、僕たちのそばに刺さっていた骨が宙に浮いてドラゴンスケルトンの方に戻っていった。
なるほど、一回射出したらいちいち戻さないといけないわけか。
なんて考えている間に他の骨が飛んできた。
「
迫る来る骨を英里佳が、蹴りで弾く。
白骨化してもドラゴン、英里佳の攻撃にも骨は壊れない。
「連理!」
「歌丸くん!」
いつでも骨をさっきみたいに弾けるようにベルトを構えていると詩織さんが紗々芽さんを抱き抱えた状態でやって来た。
「これヤバイッスよ。どうするッスか?」
「うぉっ!? 戒斗いつの間に!!」
隠密スキルでも使ったのだろうか、音も気配もなく現れた戒斗。
「紗々芽、連理、アドバンスカードで他の子達を出して!
英里佳は
試合のルールではそれは禁止されていたが、相手は学生ではなく
手加減も何も必要ないだろう。
「連理、時間稼ぎをお願い!
英里佳と紗々芽はそのフォロー!
ギンシャリは私と一緒で他は連理のフォロー!
戒斗は私と一緒に来て!」
「了解!」
「わかった!」
「任せて」
ドラゴンスケルトンの攻撃が止んだと同時に僕はその場から走り出す。
「連理、無理するんじゃねぇっスよ!」
「そっちもね!」
戒斗の言葉を背中に受けながら僕はドラゴンスケルトンの意識を向けられるように走り回るのであった。
■
「クソ、堅ェ!」
その身の丈よりも大きな斧を見えない壁に向かって振るうのは生徒会会計の
その一撃の威力は学園屈指のものであるのだが学長のドラゴンにより張られた結界を破壊するには至らない。
「どいて」
続いて前に出たのは北学区生徒会の会長である天藤紅羽である。
その手に愛用のランスだけでなく左手には彼女のアドバンスカードが握られている。
「ソラ、お願い」
「GUOOOOOOOOOOOO!」
アドバンスカードから出てきたのはドラゴンスケルトンよりは小型だが、飛竜としてはかなり大きな迷宮生物だ。
そんなパートナーを背に馬上槍とも呼ばれる巨大な武器を構え、目の前の不可視の結界に狙いを定める。
「アラドヴァル」
「GUOOOOOO!!」
槍が解き放たれると同時に炎を吐く飛竜のソラ
ドラゴン系のパートナーと共に発動させるスキルによる刺突
紅羽の魔力を吸って吐き出されたソラの炎は単なる熱だけでなく物質の崩壊を招く強力な一撃だ。
クリアスパイダーとの戦いではその死体の確保を優先したために使えなかった破壊力が最も高い攻撃だ。
そしてそれを受けた結界は……
「ははっ……これは、ちょっと凹むわね」
紅羽の本気の一撃
それを受けてなお、結界は破れない。
学園最強、それの全力の本気の一撃を受けてなお健在な結界の頑丈さに他の北学区の生徒も唖然として動きを止める。
「破れなくて当然ですよ」
そしてそんな彼らに追い討ちをかけるが如く、つい先程結界の中から姿を消した学長が紅羽の前に現れる。
瞬間、誰もが武器を構えて距離をとる。
「この結界は私の本気の結界です。
私の鱗ほど頑丈ではありませんが、傷ついた直後から再生するので、突破できるのは歌丸くんだけでしょうね」
あっけらかんととんでもないことを説明する学長
本体の頑丈さに転移、透過など、いったいどれだけ反則的な能力を持っているのかと誰もが絶望する。
「GRRRRRR……」
飛竜のソラは主である紅羽を守ろうと前に出たが、自身よりも圧倒的なまでの格上の学長に怯えている。
「おやおや、そう怯えなくても良いのですよ?
私は眷属だからなんて理由で貴方のすべてを縛ろうなどとは考えていません。
寧ろ迷いを抱きながらもパートナーを守ろうとするその姿勢は素晴らしい。忠義、見事ですよ」
「学長、すぐにこんな馬鹿げたことはやめてください」
飛竜のソラとは対照的に、紅羽は凛とした立ち姿で主張する。
結界の破壊が物理的に不可能ならば、学長に解除させる意外に現状の解決策は無いのだが……
「嫌です」
そう、この学長が大人しくそんな要求を呑むはずがない。
「歌丸くんたちを殺す気ですか?」
「ふふふ、さぁ、どうですかねぇ」
すっとぼけるように学長は顔を背けて結界の中を見る。
透明なので中の様子はわかるのだが、音は完全に遮断されていて彼らに指示を与えられない。
もし声が届くなら先程の学長が言ったことをそのまま伝えて歌丸に壁を壊させようとするのだがそれも叶わない。
「ドラゴンスケルトン……貴方たちがそう呼ぶあの私の眷属の成れの果ては大した戦闘力はありません。
現に、ほら」
学長が指し示した先で、歌丸が光輝くベルトを振り回して迫り来る骨を弾いた。
「ステータスがお世辞にも高いとは言えない歌丸くんでも、対不死の装備さえ持っていればちゃんと対処できます」
「あのベルトは学長が?」
「いえ、あれは歌丸くんが自分で用意したもののようですよ。
他にも色んなギミックがありそうですが、どう使うのかが見物ですねぇ」
楽しげにドラゴンスケルトンの攻撃に対処する歌丸を見る学長
他の二匹のエンペラビットと榎並英里佳や苅沢紗々芽にドライアドのララがフォローしている。
「確かに、あのエリアボスは他の個体と比べれば攻撃力は大したこともありません。
ですが、あの骨はドラゴン系の迷宮生物のもの」
ただの不死存在なら、紅羽だって焦りもしない。
しかしそこに人類の天敵であるドラゴンの要素が混じってくるとその驚異は格段に増す。
「ドラゴンの骨は物理的な破壊は困難です。
榎並さんのパワーなら破壊は可能でしょうが、不死存在相手には多少壊しても効果なんて高が知れてる。
かといって、対不死の装備をあの場で持っているのは歌丸くんだけ。
しかも見たところ魔力を使用する装備です。
逃げることが出来ない状況で、魔力が切れればどうなるか、学長ならわかっているでしょう」
「そうかもしれませんねぇ」
紅羽の言葉を学長は否定はしなかった。
だが結界を解こうとする様子は一切ない。
「建前はもうそれで終わりですか?」
「そうですね、あとはもう言うことはありません」
今までの凛とした雰囲気が一変し、武器もしまい、パートナーのソラもカードにしまって学長の隣に並んで観戦する。
「会長も大変ですねぇ」
「そうですねぇ、一応は行動しておかないと示しがつきませんから」
何事もなく世間話を始める学長と紅羽の姿に誰もが固まる。
「お前なぁ……」
巨大な斧を担ぎながら、清松は呆れたように額に手を当てる。
だか責めたりはしない。
そもそも先程の紅羽の全力の攻撃で結界を破壊できなかった時点でこの学園で結界を突破できる者などいないのだ。
『あ、あの……これはどうしたら良いのでしょうか?』
実況席で進行を任されていた水島夢奈は困惑しながら尋ねる。
「ひとまず放送は中断だ。
マイクの電源を切れ」
今まで結界の破壊のために動いていた解説の来道黒鵜は席に戻る。
「……来道、一応聞くが本当にあの結界を突破できないのか?」
そしてその席で神妙な面持ちで状況を見守っていたのはゲストとして招かれていた柳田土門であった。
彼にとって義妹である
可能ならばすぐにでもあの場所から逃げてもらいたいのだ。
「無理だ」
ただ一言。
あまりにも簡素なその言葉に土門は一瞬顔をしかめたがそれ以上は何も言わずに席を立つ。
「牡丹の側に行ってくる」
ナズナの実の姉である牡丹は今も観覧席で悲壮感に溢れた顔をしている。
婚約者として、そんな彼女の側にいたいと思ったのだろう。
土門が席を立ち、その場から離れる。
「あの、来道副会長……彼らは大丈夫なんですか?」
放送は中断ということでマイクの電源オフの状態で水島夢奈が尋ねる。
「本来、エリアボスと出会ったら逃走が基本だ。
戦うのなら最低でも10人以上が推奨だ」
「だったら、彼らは大丈夫なんですか?」
結界内にいる人数は確かに10人いるし、それに迷宮生物のパートナーもいるから戦力としては十分だと思えるが……
「この10人の基準は全員が三年生の場合だ」
「それは……」
一年と三年ではその実力の差は大きく違う。
いくら人数が揃っているとはいえ、万全とは言えない。
「だが……」
そんな絶望的な状況で、少なくともチーム天守閣の者達は誰一人諦めずに立ち向かっている。
「ある意味、この状況こそが一番の強みなのかもしれないな」
「強みというと、誰のですか?」
その問いに、黒鵜はどこか確信を持って告げた。
「チーム天守閣
あのチームはいつだってそこを越えてきた」
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