第121話 そんな期待は求めてない!!



その光景を、誰もが見ていた。


現地で、観客席で、モニターで、インターネットで、そしてもしくは……



「――ふ、く、くふ」



爛々と輝く目に喜色が浮かぶ。


人が誰もいない、しかしドラゴンだけが存在し、学園内ならばあらゆる場所を観測できるその空間



「ふははははははははははははははは!!」



そこでドラゴンは歓喜に笑う。



「まさか、まさかまさかまさか!」



その眼が捉える先に映る映像は、兎の耳をはやしたベルセルク


榎並英里佳えなみえりか



「まさかの予想外!


まったくもって想定外!


いやしかし、待ちに待ったこの光景!」



その雄叫び一つ一つが人の身体を破壊して余りあるエネルギーを秘めている。


この場に他の生物が存在していたのならば、すでにその体は挽き潰されていたことだろう。



「――確かめずにはいられない!!」





『こ、これは……あの……えっと……』



試合状況を実況していた水島夢奈は現状をどう説明すればいいのか困惑していた。


当然だ、学生と迷宮生物の融合


そんな人類未踏、前代未聞、世界初の現状を正しく説明することなどできはしない。



『歌丸連理のスキルか』


『連理の? え、あれ、ベルセルクのスキルの一種じゃないのか?』



そんな中で、状況をいち早く飲み込んだのは解説の来道黒鵜であった。



『ベルセルクのスキルは肉体を変化させるものだ。


そしてそれらは榎並の今まで使っていたスピードに特化した“狂狼変化ルー・ガルー”はもちろん、基本は肉食獣ばかりだ。


本来のベルセルクの代名詞であるパワー特化、熊型の“剛熊変化ベルセルクフォーム


複数の対象の威圧、恐慌させることができる、敵にすると一番面倒なライオン型の“獅子噴震ライオット・ビースト


他にもいくつかあるし、属性変化とか多様にあるが……そこに兎型なんてものは存在しない。


あれは……エンペラビットのものだろうな』


『……だが、そんなことありえるのか?』



確かに、ゲストとしてこの場にやってきた柳田土門やなぎだどもんもその光景を見たが、いまだに信じられないでいるのが本音である。



『現に目の前に事実がある』



そう言いながら、黒鵜の視線は英里佳から学生証を確認している歌丸連理へと移った。



『ユニークスキルなど未知のスキルを発現させるヒューマン・ビーイングの専用スキルである“適応する人類ホモ・アディクェイション


そしてそこから修得した他者にスキルを与えるスキル“恩恵贈呈ギフト


その力により、榎並英里佳は誰も到達したことのない領域に至った』



そう解説する黒鵜に、土門は焦りながらマイクに音が入らないように手をかぶせて質問する。



「お、おい、それ言ってもいいのか?


一応は隠してただろ?」



その問いに、黒鵜もマイクに声が入らないようにしてから返す。



「既に認識しているものはいたし、あれはもう決定的だ。


下手に手を出される前に、この場で生徒会公認としたほうが後々面倒はない」


「……はぁ……まさか、模擬戦の最中にやらかすとはな……」



よりにもよって、全世界にインターネットを通じての生放送中のユニークスキル発動


これはもう隠す方が無理。


だから敢えて開き直ったほうがいいと即断したのは後々の英断ではあるのだろうが……現状、混乱の収拾がつきそうにない。



『え、っと……え、あの、試合からはまだまだ目が離せません!


歌丸選手のスキルにより、未知のユニークスキルを発現させた榎並選手!


マーナガルムにどう立ち向かっていくのか注目です!』




混乱した現状でありながら、たどたどしくありながら聞きかじった単語から的確な実況をして見せた水島夢奈に、何気に凄いなと感想を抱く黒鵜と土門なのであった。





「これが……連理様の力……!」

「GRRR……」



エンペラビットのシャチホコと融合した英里佳を前にして、警戒を厳とする鬼龍院麗奈きりゅういんれいなとマーナガルムのユキムラ。



対する英里佳だが……



「――ああああああああああああああああああああ!!」



その充血した目で敵を見据えて地面をける。


たったそれだけの動作で地面が大きく抉れて土煙が舞い上がる。


真正面から、それも何の駆け引きもなく突っ込んできたのだ。


こんなの、格好の的にしからないはずだった。



少なくとも今までなら。



「そんな――早っ」

「GUOOOOOOOOOOOOOOO!!」



麗奈が認識したときにはすでに英里佳は蹴りを繰り出す体勢で身構えており、間合いに入っている。


故に判断を下したのはユキムラ


咄嗟にハウルシェイカーを発動させ、空間が振動し、その個所と英里佳の蹴りが激突する。


まるで火薬が破裂したかのような大きな音と共に、衝撃波が発生した。



「犬ぅ!!」


「GAAAAAA!!」



血走った目の英里佳の激しい攻撃


対するユキムラはその巨体からは想像もできないほどに機敏な動きで攻撃をいなし、牙や爪でカウンターを狙う。


だが、その一方でその攻防についてこれない者がいた。



「な、わ、きゃあ!!」



今までユキムラの背中に乗っていた麗奈がその激しい動きについてこれずに振り落とされたのだ。


そしてそんなことも構わず――いや、構うこともできないほどにユキムラは目の前の強敵に意識を集中していた。


相手は兎


しかし、少しでも気を抜けば狩られるのは自分だ。


迷宮内部の強者としての本能がユキムラにそう強く訴え続けるのだ。



「な、にが……!」



そして目の前で繰り広げられているにも関わらず、何が起きているのか全く認識できないその攻防に麗奈は息を呑む。



「があああああああああああああああああああ!!」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」



素早く動き、目で追うことも困難な英里佳


そしてそれと同等の動きで迫るユキムラ


今までのユキムラは、背中にいた麗奈を気遣ってかなりセーブしたものだったのだろう。


つまり、本来のユキムラの全力が今目の前に出ている。


そしてそれと同等の動きを見せるエンペラビットの能力を上乗せされた英里佳


どちらもとんでもなく、そして拮抗しているように見えるが、麗奈にはすぐにわかった。



(このままじゃ、負ける……!)



拮抗では駄目なのだ。


そもそもスタミナ前提の長期戦など、チーム天守閣全員においては愚策中の愚策


なんせ彼らは全員歌丸の持つ“万全筋肉パーフェクトマッスル”がある。


筋肉疲労を瞬時に回復させてしまうこのスキルの恩恵を得ている英里佳相手に持久戦では絶対に勝てるはずがないのだ。


さらに言えば……



「――“二兎ヲ追ウミラーステップ”」



英里佳が受けている恩恵は、何も歌丸からのものだけではなくなっている。



「分身っ!?」



麗奈も目の前で、英里佳の姿が二つに増えたのだ。


その光景にユキムラも動揺して動きが止まった。


そしてそこを狙われる。



「「危機一発クリティカルブレイク!!」」



一見すれば左右から同時に繰り出されたかのように見えるその攻撃


ユキムラは自信に迫る脅威を直前になって認識し、どうにか回避しようと頭を下げたが、外れだ。


「――――GYAINN!?」



真下から上へと繰り出される飛び膝蹴り


それがユキムラの顎を的確にとらえ、その巨体が空中へと浮かぶ。


――圧倒している。


圧倒的なまでの強者であるエリアボスの遺伝子を受け継いだマーナガルムを、たった一人の少女が真正面から押し勝っているのだ。



「ブレイズセラフィム!!」



このままではユキムラが倒される。


それだけは阻止しなければと麗奈は今の自分が放てる最大の攻撃を放ったのだが……



「ふぅ!!」



技ですらない、ただの蹴り。しかもその風圧だけで麗奈の最強の魔法が消し飛ばされた。



「なっ――――はっ!?」



そしてその光景に唖然とするより早く、英里佳がいつの間にか麗奈の前の前に立っていた。


その充血した赤い目が、麗奈の姿を映す。



「あ、ぁ……!」



カタカタと奥歯が震えるのを感じた麗奈


止めようと思っても、体が全然いうことを聞いてくれない。



「どこがいい」


「……え」


「女の子だから、顔は流石にやめておく。


だから……ねぇ、どこを蹴られたい」



淡々とした英里佳の言葉に、麗奈は全身から汗が噴き出すほどの恐怖を覚える。


逃げなければと考え、咄嗟に理性が無駄だと判断を下すが、本能がそれでもと逃げなければと暴走する。


しかし、恐怖のあまり足がすくみあがり、麗奈は無様に地面に臥す。



「ぁ……あ!?」



咄嗟に顔だけ上げたが、そこに見えたのは無表情のまま足を振り上げた英里佳の姿がそこにあるばかりだった。



「杖なら、片手はなくても平気だよね」



疑問などない。


本気だと根拠もなく悟った。悟ってしまった。


その赤い目に映る自分の恐怖に歪んだ表情が見えた麗奈は、何もできずにその場で固まった。



「――ユキムラ!!」

「GOOOOU!!」



「なっ」



しかし、その足が振り下ろされる直前、真っ白な巨体が英里佳を体当たりで吹っ飛ばす。


それは当然ユキムラだが、その背中にいる人物に麗奈は目を見張る。



「ナズナ、さん?」


「話はあと! ユキムラ返して、たぶんこの子一人じゃ勝てない!!」



切羽詰まった様子でそう言い切るユキムラの本来のパートナーである稲生薺いなせなずなは冷や汗をかきながらすでに距離を取っている英里佳を見た。



「……あなたは…………歌丸くんはどうしたの?」



ナズナの対戦相手は歌丸連理と苅澤紗々芽であることを想いだして英里佳が訊ねる。



「他の子たちに任せてきたわ、そもそもエンペラビット対策で私があそこにいたわけだし」



その言葉に、英里佳はユキムラにまたがる稲生の格好を確認する。



「……テイマー……ああ、そういうこと。


シャチホコをテイマーのスキルで捕縛するつもりだったんだ」



テイマーの単体で発動するスキルは、基本的に迷宮生物モンスターを牽制させたり怯ませたりするものと、テイムまで持って行く直前の段階で使う捕縛スキルがある。


大方、ナズナの当初の予定ではシャチホコをスキルで牽制し、そこに生じた隙を狙って捕縛する予定だったのだろう。



「私にそれが通じると?」



だが今目の前にいるのは、エンペラビットの能力を上乗せされた英里佳のみ


それにテイマーのスキルが通じるはずがない。



「思ってないわよ。


でも……私とこの子が一緒なら、いくらでもやりようがあるわ!」


「BOW!!」



ぎゅっとユキムラの毛皮を掴んだ状態で、ナズナは体勢を低くしてユキムラとの体の密着する範囲を広げる。



「ポーセスライフ」



ナズナの身体が脈動するように緑色に光り、そしてその光がユキムラにも伝達していく。



「……テイマーの治療スキル」



回復魔法というものは、基本的にクレリックを筆頭にドルイドなどが使用できるものだ。


だが、実を言うと迷宮生物を対象に限定したもので同じ効果を発揮できるスキルが存在する。


それこそがテイマー系のもつスキル。


対象を調教、訓練、そして信頼度を深めるために精神や肉体をケアするためのスキルをテイマーは修得できるのだ。


そしてそれを今、ナズナはこの戦闘中にユキムラに対して行っている。


それによりユキムラは戦いの疲労と、先ほど英里佳から受けたダメージが回復していく。



「お願いね……ブラッドアップ!」



そして続いて赤い光がナズナから伝達し、ユキムラの身体を覆う。



「――GUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」



今日一番の覇気のこもった遠吠えを発しながら、その鋭い眼光で英里佳を睨む。



「筋力向上のスキル


……紗々芽ちゃんの筋力強化フィジカルアップと同じもの」



つまり、今のユキムラは先ほど以上に速いということだ。



「だからなに」



地面を蹴る。


姿が消えたかのようにすら麗奈には見えたが……



「――だから、勝てるってことよ!」

「GUOOOOOO!!」



それはユキムラたちも同じ。


迫ってきた英里佳、その背後に一瞬で回り込んだのだ。



英里佳は驚愕の顔を見せながらも、動きは止めることはなく、即座に回避


ユキムラも追撃に走る。


その動きは先ほど以上に激しいものだが、その背にいるのは麗奈という臨時ではなく本来のパートナーであるナズナ


振り落とされることなく、そしてユキムラの邪魔もすることはない。


今も赤と緑の脈動が交互に続いており、戦いながらユキムラを強化し、癒し続けている。



「終わりよ、榎並英里佳!」



勢いが一切衰えないユキムラの追撃から逃れきれず、英里佳のその体が爪に切り裂かれた。


ように見えたが、それは違う、分身だ。



「――右!」



咄嗟のナズナの声に、ユキムラは振り向きながらその爪を振るった。


そこから迫ってきていた英里佳を確かにその爪でとらえたが、それもまた分身であり、爪が空を切る。



「あまり、調子に乗らないで」



周囲を駆け巡る英里佳


ただし、その姿は一人や二人ではない。


そして先ほどの様に三人いるわけでもなく、もっと数は多い


ユキムラがその一つ一つに襲い掛かって消したりはするが、すぐに新たな分身が姿を現してきた。



「何人いるのよこいつ!」



思わずそんなことを叫んでしまうナズナ



「ただ」「早くなった」「だけで」



そして、分身は一つではない。


一度使えばその数が倍に増える“二兎ヲ追ウミラーステップ


シャチホコもかつて8体まで分身ができたのだから、英里佳ができない道理などありはしない



「今の」「私に」「ううん」



そう……だから



「私に」「勝てるな」「なんて」「思」「っ」「て」「る」



だからこそ、その力が上乗せされた状態ならば……



「わけ」「ない」「よね」




合計、十六人の榎並英里佳がその場に現れても、不思議ではない。



「「「「「笑わせないで」」」」」



一斉に襲い掛かる分身と英里佳


どれが本物なのかと即座に判断はできない。


だがそんなことお構いなしとそれらすべての攻撃をユキムラは撃退を試みた。





『これは、もはや一年生同士の試合などという枠組みでは収まり切れません!


人智を超えた戦士と、叡智の結晶である魔獣、その両者の激突です!』


『なぁ、さっきからあいつらの攻撃がぶつかる度に風を感じるんだが……気のせいか?』


『いや、実際に俺も感じている…………他の連中なんてあの距離だから試合なんてしてる場合じゃないな』



黒鵜の言葉どおり、すでに英里佳とユキムラ&ナズナの対戦が始まった時点ですでに他の試合は中断されていた。


日暮戒斗とその対戦相手である鬼龍院蓮山と谷川大樹はそれぞれ衝撃から退避するためにそれぞれ離れた位置の物陰に身を潜めていた。


そしてそれは三上詩織と対戦相手の萩原渉にも言えたことだ。


そして当然……



「あばばばばばばばっ!」


「う、歌丸くんしっかりつかまって!」



実況席からは障害物の上にいた歌丸連理と苅澤紗々芽がその衝撃はで吹き飛ばされないように木の根っこに捕まっている姿が見えた。


ブラックハウンドは初めから木の根で拘束されているのでそのままだが、アームコングも障害物の上から落下しないように踏ん張っている真っ最中だ。



『他の連中と違って建物の上、衝撃を遮るものがないからな』


『――おおっと、ここでマーナガルム・ユキムラ、動きを止めました!』



実況の水島の言葉に、全員の意識が榎並英里佳とユキムラの激突へと意識を傾ける。





「ユキムラ!」

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」



ハウルシェイカー


その攻撃で迫る分身を消し飛ばす。


そして目の前に迫るのは、蹴りの体勢を構えた榎並英里佳



危機一発クリティカルブレイク!!」


「――レイジバイト!!」



このままでは撃ち負ける。


そう判断したナズナはユキムラにこの試合では使わないようにと指示していたはずの殺傷性の高いスキルを命じた。


そして同じ考えだったであろうユキムラはすぐに答える。



「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」



白銀に発光する牙で、迫り来る英里佳の一撃を迎え撃とうとする。


そして、互いの攻撃がぶつかるその直前――




「実に面白い!!」




圧倒的なまでのプレッシャーを携えた絶対強者が姿を現す。


それぞれの両手に、強力な衝撃と、鋭い牙を受けながらも、平然としている。




「しかし、そこで敢えて邪魔に入る!」


「なっ」「GR!?」「嘘……」



自分たちの渾身の一撃を何でもないかのように受け止めるその存在に瞠目する英里佳とユキムラ、そしてその存在の出現に絶望するナズナ



「そう、私です!!」



迷宮学園学長、人類の天敵、ドラゴン


それが今、現れたのだ。



「っ!!」


「BOW!!」



そして英里佳とユキムラはいち早くドラゴンから距離を取る。



「ああ、まったくなんと素晴らしい!


人と迷宮生物の融合!


人の英知で到達した魔獣と人の絆!


似て非なる両者の力の激突が、まさかこれほどまでに心を躍らせてくれるとは!!」



拳をぎゅっと握りしめ、ドラゴンは高らかに叫ぶ。



「我ながら、このタイミングでこのような場に現れるのはあまりにも無粋!


というか他の人がやったら私、ブチぎれてしまうところですが……まぁ、それはそれっ!!」



ギラギラと輝くその双眸そうぼうでみられる英里佳とユキムラ


互いに身構えはするが、迂闊に攻撃するような真似はしない。



「――私のワクワクが、確かめたいという気持ちが、好奇心が止まらないのですよ!!」



ドラゴンがそう叫んだ途端、周囲の景色が一変する。


少なくとも、英里佳の見える範囲内の景色がぼんやりと歪んむ。



「故に、試合は私が預からせていただきまして……


まぁまずは、彼がいないと盛り上がりませんよね?」



――パチンッ、とドラゴンが指を鳴らす。


同時に、その場に突如ある人物が姿を現す。



「――え?」



「歌丸くん!?」

「歌丸連理っ!?」



そこに現れたのはキョトンとした顔の歌丸連理


学長はそんな連理の首襟をつかみ、まるでボールのように放り投げる。





「え、ちょ、うわああああああああああああ!?」



つい先ほどまで衝撃に飛ばされないように木の根っこに捕まっていたのに、いきなり学長に放り投げられた僕、歌丸連理


状況がわからず混乱して空中で手足をばたつかせたが、地面に落ちる直前で英里佳が僕を受け止めてくれた。



「あ、ありがと英里佳」


「歌丸くん、大丈夫!」


「おかげさまで」



英里佳は心配そうに僕にそう質問してくれるのだが……あの、とりあえずこのお姫様抱っこ状態から解放してください。



「素晴らしいですよ、榎並さん」


「っ……!」



賞賛の拍手を送るドラゴンを、英里佳は殺意すらこもった眼光で睨む。


あの……とりあえず下して。



「以前のあなたなら、歌丸くんを受け止めるのではなく、歌丸くんを放り投げて無防備になった私へ攻撃していたことでしょう。


それどころか、歌丸くんを気遣っている。


いいですね、とてもいい! 立派な成長です!!」


「黙れっ!!」


「ふふふふふっ、嫌です!」



何故か見るからに上機嫌なドラゴンだが、それと反比例して英里佳の怒りやら殺意のボルテージがどんどん上がっていく。



「さぁ、役者が揃ったところで試合再開です! ただし、ルールは変更、主催は私!


昨日の敵は今日の友!


さぁ、チーム天守閣、チーム竜胆!」



学長の背後に光が発生し、巨大な魔法陣が空中に映し出される。


それは、確か小橋副会長が転移魔法を使う時ほんの一瞬だけ見える魔法陣と同じものだった。



「互いの持てる力を出し切って協力し、これを倒して見せなさい!


大丈夫、君たちならきっと勝てます!!」



学長はそう言い残して姿を消したが同時に僕たちの目の前の魔法陣から巨大な骨の怪物が姿を現した。



――ドラゴンスケルトン



二十層代にて出現すると言われている、エリアボス


竜の姿を模した巨大な骨の怪物。それが今、僕と英里佳の前に姿を現したのだ。

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