第120話 英里佳『共ニ在リシヲ強ク想ウ』



「あらあらあらあらあらあらあらーーーー?」



試合の状況を見て、北学区生徒会長の天藤紅羽てんどうくれはが口元に手を当てながら、ニヤニヤとした顔で同じ生徒会の仲間である会津清松あいづきよまつに顔を近づけた。



「あなたのチーム、随分押されてるように見えるのだけど、これはいったいどういうことかしらー?」


「……うぜぇ」



今の清松の表情はまさに苦虫を噛み潰した、というものを見事に体現していた。



「チーム全体が、なんだったかしらー?


戦った結果見事に押されてるわねー、あらー、どういうことかしらーーーーってわわっ! あ、危ないじゃないの!」



割と全力で拳を振るったが、腐っても北学区最強


ギリギリで回避されてしまうのであった。



「はっ! ああそうだよ! 完全にこっちの読み間違えだよ!!


相性のいい連中ぶつければそれだけで勝てると思ってたよなんか文句あるかこらああぁん!?」


「ふん、ざまあ見なさい!」



清松の怒鳴りに対してのまさかの煽り


これぞ北学区最強、誰もやらないことを、やらなくてもいいことを平気でやってのける!


だから清松が切れても仕方ない! 不思議じゃない!



「上等だバ会長、抜きやがれ、俺が直々に引導渡してやる!!」


「やれるものならやってみなさい、私の会長の所以を見せてやろうじゃないの!!」



二人して殺気立ちながら学生証を構えたが、それを上回る速度と怒気を持って二人の眉間に拳銃を押し付けられる。



「――やかましいぞお前ら」


「「はい」」



北学区生徒会大乱闘の始まりは、対人戦最強の銃使いが収めたのである。


二人が学生証をしまったのを確認して、灰谷昇真はいたにしょうまも拳銃をしまう。



「北学区っていつもこうなの?」



それをちゃっかり距離を取って見ていた南学区生徒会副会長の稲生牡丹いなせぼたんは苦笑いを浮かべていた。



「一緒にするな、このバ会長以外はまともだぞ」


「ちょっと、その呼び名定着させようとしないでよ」


「そうだ、会長という単語に失礼だぞ」


「それフォローしてるつもり、昇真?」


「っ……そうだな、お前の言う通りだ。


天藤・Bバカ・紅羽でいこう」


「それがいい」


「ちょっと」

「まぁとにかくだ、この試合は完全に俺のミスマッチだったな」



紅羽のことなど一切無視して、苦々しい顔をしながら模擬戦を再び見る清松



「日暮を筆頭に、三上、苅澤……そして歌丸までも確実に強くなっている。


本来の一年ならトップ集団が夏休み以降に到達する段階、それが今のチーム天守閣のいる実力だ。


チーム竜胆は決して弱くないが……例年のトップクラス、その域を出ていない」


「どう、凄いでしょう!」


「何故そこでお前が威張るのかは理解しかねるが…………チーム天守閣の凄さは改めて理解した。


そしてその強さも誤解していた。


個人技の得意なチームに見えて、その土台にあるのは常日頃から築かれる信頼関係だ。


お互いがお互いを信頼し合い、そして高め合った結果が今のそれぞれの強さにつながっている。


正直、ばらけた時点で誰かが他に歌丸当たりのカバーのために動いて隙を見せると思っていたんだがな……」


「そうよ、そうなのよ。


まぁこれでチーム天守閣の勝利は確実ね!」



もはや勝利を確信してご満悦な紅羽であったが……



「――それはどうかしら?」



そんな紅羽に待ったをかけたのは、このメンバーの中で唯一の南学区である牡丹であった。



「何、急にキャラを目立たせようとしても明らかに試合は終盤よ?」


「何の話? いや、そうじゃなくて……


こほんっ……現段階ではまだチーム天守閣が勝つとは限らないということです。


そもそも、この試合での前提にある状況は何も変わってないのだから」


「前提……?」



何のことだろうかと紅羽が首を傾げた時だった。



「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」



腹の底に響いてくるような重低音の咆哮が周囲に響き渡る。


その咆哮に込められた敵意は自分たちに向けられたものではないとわかっていても北学区の生徒としての本能から身構えてしまう。


平然としているのは、その声の正体を正しく理解している牡丹だけだった。



「――他の生徒が押し切る前にユキムラが勝てば、それで終わりなんですから」





「――かはっ!」


「きゅぷっ!?」



咆哮によって生じた衝撃波


その直撃を受けた榎並英里佳えなみえりかと、余波を受けたエンペラビットのシャチホコは近くにあった壁に打ち付けられた。


だが、そうやってその場所にとどまっていたら……



「――ブレイズ・セラフィム」



紅蓮に燃え盛る天使が、英里佳とシャチホコに迫る。



「きゅきゅきゅきゅ!!」



余波なので大したダメージの無いシャチホコはいち早く天使から逃げ切る。


英里佳も即座に移動するが、天使の振るった剣がすぐ近くに振り下ろされ、その熱で腕に火傷を負う。



「くっ……!」



距離を取ろうとしたが、すぐにユキムラが回り込んできて、その前足を振るう。


咄嗟に、手に持っていたナイフで爪を防いだが、その力に抗いきれずに地面を転がっていく。



「他の方は善戦しているようですが……問題はないでしょうね。


私とユキムラさん、その力を合わせればあなたとエンペラビットも問題なく倒せるようですし」



マーナガルムのユキムラと、その背にまたがる鬼龍院麗奈きりゅういんれいなは、よろけながら立ち上がる英里佳を静かに見下ろす。



「くっ……!」



マーナガルム


その存在と実際に戦ってみてわかるが、単純な膂力はそちらが上。


そのうえ、フレアウィザードである麗奈が射程のある攻撃で英里佳を誘導してくるので有利な間合いを取ることが難しくなっていた。



「やはり、貴方なんかより私たちの方がふさわしいと思いませんか?」


「……何が?」


「連理様の仲間に、ですよ」



どこか確信を持ったその言葉に、英里佳は胸の奥がざわつく不快感を覚える。



「連理様は、あなたと一緒に学長を……ドラゴンを卒業までに倒すことを目的としているのでしたね」


「そうだけど……何が言いたいの?」



余裕の笑みを浮かべていた麗奈だが、次の瞬間、ただただ冷ややかな無表情へと変わる。



「自殺したければお一人で、どうか連理様を巻き込まないでください」


「なっ……」



愕然と目を見開く英里佳に、麗奈は淡々と続ける。



「連理様の力は、個人のために使うべきものではありません。


貴方だって本当はわかっているのでしょう?


連理様の力は、より多く、より良き、より正しいことのために使うべきものだということを」



「な、何を……!」



反論しようとした英里佳だが、麗奈はそんな英里佳から視線を外して別の方向、今も銃弾の弾幕に苦戦している兄の姿を見ていた。



「……ああ、お兄様の方もあまり余裕はありませんね。


ユキムラさん、すいませんが追撃をお願いします」


「BOW!」



そして一気に迫ってきたユキムラ


先ほどの麗奈の言葉に動揺していた英里佳は、対応が遅れて回避が間に合わず、その爪を肩に受ける。



「ぐぅ!?」



その衝撃に手に持っていたナイフを落とし、地面を転がっていく。


そこへすかさず、魔法の炎による追撃が迫ってきたが、これは起き上がりながら回避してみせた。



「――エンペラビットのナビ能力……これが迷宮内部を知り尽くしているのならば、実質、迷宮の中で見つかる資源、そのすべてを手に入れられる」



攻撃を回避した英里佳に、魔法を放ちながら麗奈は先ほどの会話を続けた。



「そこで得られる利益が、資金が、資源がどれだけのものとなるのか貴方にはわからないのですか?」


「ふざけないで!」



攻撃を避けながら、英里佳は牙をむき出しにした。


そして、迫り来る火炎を勢いよく蹴り飛ばし、その風圧でかき消した。



「お金目的のために、歌丸くんを利用したいだけでしょ!」


「否定はしませんが、それは物事の一面に過ぎない。


それだけの資産があれば、いったいどれだけのことができると思ってるのですか?」


「そんな詭弁で、動揺を誘おうとしたって無駄!!」



反撃を試みようと英里佳が間合いを詰める。


迫り来る炎は回避、もしくはその蹴りで防御する。



「――きゅきゅう!」



そして、視界の外からシャチホコがその額に物理無効の能力を持った“兎ニモ角ニモラビットホーン”を発動させて迫ってきた。


正面の英里佳、背後からのシャチホコ


その二人の攻撃がユキムラと麗奈に迫るが……



「――GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」



ユキムラが再び吼える。



――ハウルシェイカー



ユキムラが修得したスキルの一つであり、その咆哮で大気を振るわせて衝撃波を発生させる。


そして体重の軽いシャチホコは、その余波だけでも吹き飛んでいく。


英里佳は二度目ということで踏ん張って耐えたが、その衝撃により移動速度が著しく削られ、動きが鈍る。



「バーストボール!」



そして麗奈はそれを見逃すことなく、魔法を叩き込む。



「きゃ、あぁああああっ!?」



防御を行ったが、ユキムラの衝撃波と爆発によって英里佳は再びその身体を後方へと吹っ飛ばされて地面に転がっていく。



「詭弁ではありません。


彼のその資産は、確実に次の世代に受け継がれる。


連理様のこれまでの行動を見ればわかります、彼は私服を肥やすためだけに動く様な狭量な男ではありません。


より多くの人を育てるためにその資産を使ってくれるはず、そしてその能力で、貴方たちチーム天守閣のような優れた人材を何人も何十人も輩出する」



倒れている英里佳に、麗奈は諭すように語り掛ける。



「ドラゴンを倒す。


それは決して間違いではない、いずれ誰かがしなければならないことです。


ですが、それを為すのは貴方ではない。


彼が育て上げた、連理様の意志を受け継いだより多くの人たちが叶えるものです。


それがもっとも確実にドラゴンを倒す未来へとつながる。


それこそが、この学園だけじゃない、日本を、世界中を再び人類の手に取り返すための手段なのですよ」



その手に持った杖を構え、紅蓮の天使を召喚したうえで麗奈は宣言する。



「わかりますか?


彼は、貴方個人の感情で振り回して良い人間ではない。


人の上に立つべき、選ばれた者なんです。


故に、連理様に貴方は相応しくない。分を弁えなさい」



迫る紅蓮の天使


それを前に、英里佳はただ茫然と立ち尽くす。



「私、は……」



――歌丸くんのそばにいないほうが、いいの?



そんな考えが頭の中によぎる。



「――きゅっきゅきゅぅ!!!!」



「え」



横から弾丸の如く突っ込んできたシャチホコ


その体当たりが英里佳の脇腹を的確にとらえた。


そしてそれは単なる体当たりではない。


能力同調ステータスシンパシーによって歌丸の筋力を使ったのだ。


故に、ただ棒立ちしている英里佳を吹っ飛ばすだけの衝撃をシャチホコは英里佳に与える。


地面を転がりながら、英里佳は見た。


自分を押したあのエンペラビットが、紅蓮の炎の中に飲み込まれていくのを



「シャチホコっ!!」



すぐさま起き上がりその名を呼ぶ。



「そんな……」

「GR……」



そして魔法を放った麗奈と、その様子を見ていたユキムラは炎の中に飲み込まれたシャチホコの姿を見て絶句する。



「――き、きゅう」



元々、試合用に威力は抑えていたのだろう。


シャチホコは今の一撃で即死するようなことはなかった。


ただ全身が痛々しく焼け焦げた姿で、シャチホコはその場に倒れていたのだ。



「シャチホコ、しっかりして!」



すぐさま英里佳はそのそばに駆け寄って抱き上げる。


直撃ではないのだろうが、背中に酷い火傷が見られた。



「すぐに棄権しなさい、連理様の大事なパートナーをこんなことで失うわけにはいきません」


「っ……わか」「きゅ、きゅう」



英里佳が頷くその前に、シャチホコが自分を抱き上げる英里佳の手を噛んだ。


ただ、それは非常に弱弱しいものであった。



「シャチホコ?」


「き、きゅきゅ……きゅきゅきゅう……!」



火傷を負いながらも、シャチホコはその首をあげてユキムラを睨む。



「GRR、RR……!」


「ユキムラさん?」



酷い火傷を負った、幼い兎


だがその眼に込められた気迫にユキムラは押し負けてその場から一歩だけ後ずさった。



「……主人に似て、とても雄々しいのですね……ですが、これは模擬戦です。


意地を張るべきことではありません。シャチホコ様、すぐに棄権して治療を受けて下さい」



種族名ではなく、敬称をつけて名前を呼ぶ。


麗奈にとって、今目の前にいるシャチホコはそれだけの相手であると認識を改めたのだ。


だが、その言葉にシャチホコは首を横に振る。


その眼に込められた闘気はいまだに衰えていない。



「どうして、そこまで……?」



その姿をすぐ近くで見ている英里佳が問う。



「きゅ、きゅう……!」



強い意志のこもった真っ直ぐな眼差しが、英里佳に向けられる。


シャチホコはいまだ幼く、それを正確に言葉にできはしない。


だが、それでも何かを伝えたいと英里佳のことをじっと見る。


その眼はただ真っ直ぐに「それでいいのか?」と問いかけてくるように英里佳には思えた。



「榎並英里佳、棄権しなさい。


もうあなたにこの場に立つ資格はありません。


連理様だけでなく、シャチホコ様までも傷つけるのですか?」



「っ……」



その言葉に、英里佳は途端に自分が恥ずかしく思えた。


いつだってそうだ。


力があるはずなのに、自分はいつもいつも何もできない。


一番大切なものを、自分が守ろうと思ったものに守られてばかりだ。


そんな自分に、歌丸連理のそばにいる資格などあるのか?


自問自答したその問いに、英里佳は自分でもわからずに涙が出てくる。



「私は……歌丸くん……私は……」



『――――英里佳ぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!』



「っ!」



突如聞こえてきた叫び声


それが何を示しているのかわからず、驚いて顔をあげた。



「れ、連理さま?」



姿は見えないが、確かにその声は歌丸の声だ。


どうしてその言葉が聞こえてくるのかと不思議に思ったが、なんてことはない。



歌丸はここにいなくても、この試合である意味一番英里佳の傍にいたのだ。



『僕は、君がいなくなるなんて絶対に嫌だからなぁぁーーーー!!!!』






聴覚共有


そのスキルを持っているシャチホコが近くにいるのだ。


だから僕はずっと、英里佳と麗奈さんの会話を聞いていた。


まぁ、義吾捨駒奴ギアスコマンド・セミオートがあるからこそそちらにも意識が割けただけの話だ。


一人では、きっと今こうして叫ぶことはできなかっただろう。



「ふぅ……よし、待ってもらってありがとうな」


「は、はぁ……と、突然どうしたのよ……?」



律義に僕の「ちょっと待った」を聞いてくれた稲生は困惑した様子だ。


でも構わないさ、今、彼女に一番伝えたいことを伝えられた。


それだけ叶えば、後は僕がどう思われようとどうでもいいことさ。



「英里佳の方で、何かあったの?」


「たぶん大丈夫、英里佳なら何とかしてくれるさ」


「……うん、そうだね」



紗々芽さんも英里佳を信じて、再び目の前の敵に意識を集中する。



「さぁ、再開しよう」


「……ねぇ、ちょっと待って」


「ん? なんだよ、こっちはもう用は済んだぞ」


「なんか胸ポケット光ってるわよ」


「「え?」」



稲生の指摘に、僕と紗々芽さんは同時にそこを見る。


それは、僕が学生証を普段入れている胸ポケットだった。



「この光り方……もしかして……!」



見覚えがあるのか、紗々芽さんは目を大きく見開いた。


そして僕も、その光り方に覚えがある。



「……確認してもいいか?」


「いいけど、私にも何が起きてるのか教えなさいよ」



というわけで僕はすぐに学生証を取り出して中身を確認する。



適応する人類ホモ・アディクェイション


発動条件

・4回以上死を覚悟した後に生き残ること。

・心を通わせた仲間を命懸けで守ると誓う。

・己の殻を打ち破る。 New!!

・?


上記の内、いずれか一つを果たす。



「発動条件が増えてる!」


「もしかして、これって……!」


「え、なに、どういうこと?」



試合中だということも忘れているのか、無防備に稲生がこちらに近寄ってきて僕の学生証を覗き込む。


おい、アームコングとブラックハウンドが対応に困ってるぞ。


それはおいておくとして、僕はスキルツリーダイアグラムの方を見た。


そして、そこでおかしなものを見た。


というより、初めて見たが、僕の場合はそれはある意味では予想できたことでもあった。


僕の学生証には、僕は使えないだけでちゃんと騎士回生Re:Knight義吾捨駒奴ギアスコマンドの表示はされている。


そこからそれぞれ枝が伸びていた。


元々表示されている基本スキル、基本スキルからさらに伸びる派生スキル


そして、複数のスキルから延びた枝が集まってできる複合スキル


そして例外とされるユニークスキルがあるわけだが……そのユニークスキルは例外であっても、何もその条件が適応されないわけではなかったのだ。



「“共存共栄きょうぞんきょうえい”と、“生存強想せいぞんきょうそう”の複合スキル!」



本来ありえない、ユニークスキルとユニークスキルの複合


それが今、僕の学生証に発生していた。


そしてその使用者は当然……!






理屈なんて全く分からないが、使い方は知っている。


ならば迷わず使えばいい。


それがきっと、今一番自分に必要なことなのだから。



――体が熱を帯びる。


――その手に抱き上げた命の熱を感じる。



「きゅ、きゅきゅきゅう!」



火傷を負って衰弱していたはずのシャチホコが急に元気になった。


その傷も、すぐさま回復していた。



「な、何が……何をしたのですか、榎並英里佳!」



困惑する鬼龍院麗奈に、英里佳は静かにその手にシャチホコを抱きながら立ち上がる。



「資格なんて、どうでもいい」


「は?」



もはやその眼に、迷いなどない。



「あなたは、歌丸くんのこと何にもわかってない」


「な、何を……」


「貴方はただ、勝手に自分の理想を押し付けているだけで歌丸くんのことを何も見ていない」



英里佳は知っている。


本当の彼がどんな人間なのかを



「弱くて、無鉄砲で、能天気で……いつも心配かけて……」



この学園に来て、ずっとそばで見てきた彼のことを知っている。



「だけど優しくて、明るくて、面白くて……少しむっつりなところもあって」



思い出されるのは、彼と歩いてきた学園での日々


まだ半年も経っていないのに、英里佳にとってはとても長く、ずっと昔からそばにいてくれたようにすら思えた。



「私が、私こそが一番最初に彼の隣にいたの」



だからこそ、絶対に譲れないものがそこにある。



「ボッと出のあなたが、ずっと私がいた場所を奪おうなんて烏滸がましい!!」


「っ、わ、私はそういう話をしているのでは」「うるさいっ!!」



もはや聞く耳持たない。問答無用。



そう、すべてはいつだって力業シンプルに解決される!



「絶対に渡さない! 歌丸くんの隣は、詩織でも紗々芽ちゃんでも、日暮くんでも、まして絶ぇっ対に貴方なんかじゃない!


私が、歌丸くんの一番近くに、隣にいるの!!」



「あ、貴方一体何を言ってるんですか!!」



麗奈はただただ困惑する。


この女は何を聞いていたんだ! あの能力の価値を理解しているのか!


そんなことを言いたくなったが、言ったところで次に何が返ってくるのかなど分かりきっていた。



「うるさい!!!!」



そう、もう無意味だ。


そもそも理屈でどうこうなるのなら、世の中そんな単純で簡単なことはない。


時に理屈を上回る圧倒的な情熱こそが、個人の感情こそが、世界より重くなる時が来る。


それが今、この時だ。



共存強想きょうぞんきょうそうLev.3」



互いを助け合うことを目的とした共存共栄


生きるために現状で最適な感情から発露する生存強想



それが今、一つとなった。




月兎羅月GET LUCK!!」



光が発生し、即座に収束する。



「そんな……まさか……!」



その光景を前に、麗奈はただただ絶句する。



「学生と……迷宮生物の…………融合……!?」



そこに立っていたのは、通常のベルセルクではなかった。


英里佳の狼を模した獣の耳が、見慣れたシャチホコの長い兎の耳へと変化している。


そしてその眼は、シャチホコ同様に赤く充血したものへと変わった。



「邪魔をするなら、問答無用、兎にも角にも蹴っ飛ばす!!」



今ここに、阿修羅すら凌駕するバニーガールが誕生した。

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