第118話 戒斗『最強の武器はいつだってここに』



歌丸連理のおかげ(せい)で模擬戦の空気は仕切り直しとなり、その状況で戒斗は二人の敵を向き合いながら静かに対応を考える。


筋肉の疲労はスキルのおかげでほとんどなく、呼吸だって数秒で整えられる。



(単純に長期戦に持って行けば俺の勝利は確実ッスけど……そのまえにマーナガルムが危ないッスね。


誰かが敵を倒して、加勢……もしくはパートナーの稲生を倒さないと……)



中断されたおかげで土煙は完全に晴れた。


見える範囲内には高い場所で南学区の生徒と向き合っている連理と紗々芽の姿を確認した。


別の方向には敵のスカウトと向かい合っている詩織も確認する。


ならば、この場にいない敵のウィザードとマーナガルムがコンビで英里佳へ挑んでいるということはすぐに推測で来た。



英里佳の実力を疑っているわけではないが、マーナガルムの能力を考えるとやはりレイドウェポン無しは厳しいと言わざるを得ない。


状況を打開するには、今この状況で誰かが目の前の敵の突破が急がれる。



(この場で敵を倒せる望みがあるとすれば一番は……)



戒斗はまず詩織を見た。


一対一の状況で、尚且つレイドウェポンを持っている詩織が、もっともこの状況で相手を倒しやすいはずだ。


だが、その中で敵のスカウトも決して弱くはない。



(……たぶん、俺より強いッスね)



それが戒斗によるスカウト萩原渉の評価だ。


もちろん、銃を持っていなければの話だが……萩原の実力は敵のチーム竜胆で一番かもしれないと戒斗は読む。


全力で戦えば、負けるのは詩織の方だ。


だが相手は全力を出そうとはしないだろう。



(そんな奴が一番に警戒してるのは詩織さんの騎士回生Re:Knightくらい……だから詩織さんは他の連中が倒れるまでは手を出さず、時間稼ぎの一手のみ。


倒すのは難しいッスね)



ならば連理と紗々芽は、とそちらを見た。



(マーナガルムのパートナーと戦ってる二人ッスけど……残ってるのはアームコングとブラックハウンド……あの二体の迷宮生物をどう倒せるか……)



連理も強くなったのでブラックハウンドならばギリセーフだが、アームコングはどう考えてもアウトだ。


そちらはドルイドの術で対処できるかもしれないが、おそらく防御の一手


テイマーの支援系統のスキルを使われれば、二人ともあの二体を相手にして攻撃に転じられるとは到底思えない。



(無理ッスね……連理たちには悪いッスけど、たぶん倒せないッス)



他の三人が敵を突破できるビジョンが全く見えない。


だが、それはほかでもなく……



(……って、俺も人のこと言えないッスけどね)



向き合うはノーブルウィザードとナイトの敵


これを倒すための算段を戒斗はまとめられないでいた。



(長期戦に持ち込めれば勝てるけど、その前に榎並さんが負ければ危険。


だけど、短期決戦ではどうやっても……――)



頭の中でぐるぐると思考が回る。


このままではチーム天守閣は――



――――パァン!!



「っ!」



身が竦む炸裂音がした。



「な、なんだ……?」


「……あそこだな」



戒斗と同じように炸裂音に驚いた対戦相手の鬼龍院蓮山と谷川大樹


谷川が指さした方向を、戒斗も見たのだ。



「あ、あれは……!」



その姿を見て戒斗は全身から汗が噴き出るのを感じた。


戒斗の視線の先、そこには一丁のライフルを軽々と片手で上空に掲げている男がいた。


その銃口からは硝煙が立ち上っていて、そして男の視線はただ真っ直ぐに戒斗を見ている。



「ひ、ひぃぃぃ……!」



北学区三年ハイガンナーの灰谷昇真はいたにしょうま


北学区の対人戦最強の男が今、無言で戒斗を見ている。



「――――」



「え?」



昇真が何か言った気がしたが、ここからは距離があるので何も聞こえない。


ただ口を動かしていることだけはわかる。


そしてそのまま昇真は静かに銃を下して観客席のほうに歩いて行ってしまった。



「……な、なんだったんだ、今の?」


「……俺は壁だ、故に……知らん」


「お前その台詞気に入ってるのか?」



鬼龍院と谷川がそんなことを話しているが、戒斗は先ほどの昇真が何を言ったのかを考える。



「――ううお、いいえ……?」



元々口数の少ない昇真だが、彼との訓練期間でどういった人なのかは知っている。


故に、彼がこの音でもっとも言いそうな言葉は……



「銃を……握れ……?」



これだろう。


だが、戒斗にはわからないことがあった。


今も戒斗の手には銃がある。


ちゃんと握っている。


それなのに今の言葉



「どういう、意味なんスか……?」



『え、えー……今のは……いったい何ですかねぇ?』


『……問題ない、ただの空砲だ』


『北学区のトリガーハッピーか。珍しいな、こんなイベントに顔を出すとはな』





「…………」



昇真は無言である一席に腰かけた。


その隣にあらかじめ座っていた北学区会計の会津清松はそんな昇真を睨む。



「おい、空砲でも撃ち場所考えろ」


「……人に向けてないだろ」


「お前には常識ってものがないのか?


銃を撃つのが好きなのはもうあきらめるが……周りを驚かせるなよ」



文句をつける清松だが、昇真は気にした風はない。



「はぁ……しかし、なんでお前がここにいる?


こと迷宮攻略においてはそこのバ会長以上のお前が来るとは思わなかったぞ」


「…………」


「無視かよ」


「――弟子の成長が気になるのかしら?」



そんな昇真たちの後ろの席に座っていた天藤紅羽てんどうくれはがニヤニヤと笑いながら声をかける。



「は? 弟子?」


「……紅羽」



驚く清松の反応を鬱陶しいというように顔をしかめて昇真が紅羽を睨む。



「照れなくてもいいじゃない、私も榎並さんと三上さんのこと気にしてるのよ。


自分でも意外だけど、指導した相手の活躍ってやっぱり気になるものよ」


「待て待て、弟子ってどういうことだ?


というか……もしかして……日暮のことか?」


「そうよ、言ってなかった?」


「聞いてないぞ。お前が五人まとめて指導してたんじゃないのか?」


「当然よ、餅は餅屋。


他の三人の指導なんて私には専門外だから、それぞれの専門家にお願いしたのよ」


「なっ……」


「何をそんなに驚いてるのよ?」



あっさりと言ってのける紅羽の言葉に唖然とする清松



「お前……本当にそんな後輩を指導するだけの気配りができたのか?」


「どういう意味かしら?」



そんな清松の反応を見て、やれやれと昇真は嘆息した。



「言いたいことはよくわかる」


「ちょっと」

「そちらは個人ではなくチームでの戦闘訓練、いや、戦術訓練でもしたのだろう。


あの動きは訓練された動きだ。本気でチーム天守閣を倒すため、個々の力を伸ばすのではなく集団としての力を伸ばす」



「……まぁ、その通りだ。


たかが一週間そこらで劇的に成長するなんてことはない。


別に個人訓練を軽視してるわけじゃないが、集団での動きに集中したほうが結果的には大きな力になる。


現に、お前らの指導したチーム天守閣、序盤では完全に翻弄されていたしな」


「パワーファイターの見かけとは裏腹に、総合力を重視するお前らしい。


だが、それゆえに……」



試合の再開を告げるブザーが鳴り響き、再び戦いが始まる。


昇真の視線の先には、銃を構える戒斗がいる。



「お前は個人の強さを軽視している。


南の会長も言っていただろ。


あのチームは、が成長する強さを持っている」






「おらおらおらぁ!!」



飛礫が、炎が、雨が、カマイタチが、電撃が次々と戒斗へと迫る。


戒斗はそれらを回避し、時に撃ち落としながらどう攻勢に出るべきかを思案する。



「くっ!」



反撃に出ても、やはり谷川の持つ巨大盾タワーシールドに阻まれる。





「成長は知らんが、個人の強さならちゃんとわかってるさ。


日暮戒斗は、チーム天守閣で目立ちこそしないが対人戦で一番厄介なのは間違いなくあいつだ」



そんな試合風景を、清松は腕を組みながら観察する。



「銃火器は迷宮序盤では敵なしだが、階層が進むにつれて通常の弾丸の効果が薄くなり、特殊な弾丸が必要になる。


しかし他の武器は壊れない限り何度もでも使えるが、銃の弾丸は一発限りの使い捨て。そのコスト故に、多くの者が銃ではなく他の武器を使う。


ガンナーのスキルも、強力な一方で通常のスキルよりも要求ポイントが他の職業の数倍だからな」


「ふんっ……根性のない者に、ガンナーを名乗る資格はないだけのことだ。銃が最強の武装なのは間違いない」


「相変わらず銃のこととなると頑なだな……だがそれも事実だ。


少なくとも、通常の弾丸でも効果がある学生にはこれ以上厄介な武器はない。


学生服は強化されれば銃弾も弾くが、学生服の役割はスキルの補助の方が大きい。


衝撃は殺し切れない。当たれば俺たちでもそれなりに痛い」


「そうなのよねぇ……」



清松の言葉にしみじみと頷く紅羽だが、その隣に座っている牡丹は顔を引きつらせる。



「当たっても痛いだけで済むんだ……」



ちなみに牡丹が受けた場合は制服は普通に貫通する。



「そもそも攻撃手段として銃は最速の部類に入る。


ピストルですら音速なんだ、それをわずかなモーションで何度も攻撃できる。


他の武器で同じことをするとなると上級スキル扱いだ。


避けるとなると現段階の北学区の二年でも半分くらいいればいい方だろう」


「そうよねぇ……ピストルはともかく、ライフルとか持ち出されるとすごく嫌よね。あれ避けるの本当に面倒なんだもの」


「ああ、ライフルはピストルの軽く4倍、下手したら5倍行くからな……そこまでいくと三年クラスの実力者しか無理だろ。俺だって十回も撃たれたら三回は避けられないだろうな……」


「それでも避けれるんだ……弾丸」



こうして普通に隣で会話してるけど、やっぱり北学区の人間って人間離れしてるなぁと改めて実感する牡丹である。


一応言っておくが、牡丹にはピストルを避けることなど普通にできないのである。



「まぁ、とにかくそういうことで、まだ未熟な一年生で対人戦で一番厄介なのは銃を持っている日暮戒斗だ。


あんなの一年で避けられるの、ベルセルクの榎並か、ルーンナイト状態の三上くらいだろ。


そしてその二人とも敵チーム……だから俺はあいつを真っ先に潰すように指導した」





「クソッ、マジでしつこいぞこいつ!」


「落ち着け」



魔法を先ほどから何度も放っているが、どれもが悉く対処される。


蓮山の予定では、とっくに戒斗を倒していたのだが、想定以上に粘る。



「大樹、つっこめ!」


「……それはベルセルクかルーンナイト対策じゃなかったか?


迂闊に使えば、こちらの手の内を晒すことになるが」


「このまま長引かせるつもりか!!」


「……俺は壁だ、了解した」



連山が大樹の真後ろ、それも完全に戒斗からの死角となる位置へと移動し、攻撃が止んだ。


戒斗も回避行動をやめ、銃を構えながら警戒する。



(一体、何をするつもりッスか……?)



そう思った時、巨大盾を構えた大樹がそのまま突進してきたのだ。



「んなっ!?」



迫る巨体。


迎え撃とうと銃を撃つが、しっかりと構えられた巨大盾が無駄だと弾く。


このままでは体当たりを食らうことになると横に避けたその時だ。



「――バーストボール!!」


「んなっ!?」



戒斗が避けたその瞬間、大樹の真後ろで準備をしていた蓮山が魔法を放つ。


2mもない距離から放たれた熱を帯びた球体が爆発する。





「――よっしゃっ!!」



戒斗が爆炎に飲まれたその光景を確認し、清松はその場で拳を握った。


想定とは違うが、確実に一発入った。



「ふぅん……シンプルだけど初見じゃ避け辛い攻撃ね、あれは」


「ああ。しかし前衛の頑丈さ、後衛の大火力が二つ揃って初めて成立する攻撃だ。


どちらか一方が欠けてればそれだけで一気に瓦解する。


一点特化した能力値の為せることだが、それでも一年であれだけできるのは、見事と言ってやろう」



紅羽と昇真がそんな評価をしている一方で、清松は得意げに笑う。



「おいおいどうした?


早速一人倒したぞ。


これでチーム天守閣の敗北は決定したも同然だな」



紅羽はさぞ悔しがるだろうなと思っていた清松だが、帰ってきたのは正反対のリアクションだった。



「私、避け辛いとは言ったけど……とは言ってないわよ」


「…………は?」


「あいつはエージェント系の上位職だぞ」


「…………ま、まさか!」



二人の言葉に、清松が再び視線を会場へと戻す。





「ははははは! どうだ見たか! これで俺たちの勝ちだ!!」



敵を倒した。


その感覚に蓮山が酔いしれたその時だ。



「っ!」



何かを察知したのか、大樹は蓮山が攻撃した方向とは逆――つまり、現在蓮山が背中を向けている方向へと巨大盾を伸ばしたのだ。



――ガガガンッ!!



瞬間聞こえてきた金属同士をぶつけたような音。


その音に驚きながら振り返る蓮山。


そこで見たのは……!



「なっ……ば、馬鹿な!?」



今魔法で攻撃したはずの戒斗が、銃を構えてそこに立っていたのだ。


ただし、身に着けていたはずの黒いマントは今はなくなっている。



「ありえねぇッス……普通今の防ぐッスか?」



一方の戒斗は戒斗で、自分の攻撃を防いだ大樹に戦々恐々としている。



「俺は壁だ。故に防ぐ」


「いや答えになってねぇッス」



ツッコミどころの多いナイトだが、それ以上に実力を上方修正すべきだと戒斗は思考するのである。



『こ、これは一体何が起きたのでしょうか!


先ほど、魔法の直撃を受けたはずの日暮選手が一瞬で反対方向に現れました!』


『あー……これは俺より専門家の話だな。


解説らしい仕事まだまともにやってないし頼むぜ来道副会長』


『日暮戒斗の職業は、エージェントの上位職だ。


エージェントの能力は変装や隠密のスキルなどがある。


その応用で、奴は身に着けていたマントを自分の姿へと変装させ、そして隠密で自分の気配を消し、爆発に生じた煙や風に紛れて移動したんだろう』


『なんと! 日暮選手、一年生とは思えないほどの技量です!』



そんな実況と解説を聞きながら、戒斗は次の攻撃の算段を考える。



(ようやく隙らしい隙ができたのに防がれたッス。


今ので駄目なら、もう短期決戦で勝つ方法はないッスよ……)



ハッキリ言って、戒斗は目の前の二人に負ける要素そのものはない。


焦って下手な攻撃をすればそりゃ負けるが、逆を言えばそれさえしなければ確実に勝てるのだ。


だが、それではこの試合で負ける可能性が高くなる。



(なら……)

「どうしたんスか?


さっきから亀みたいに引きこもってようやく攻撃したかと思えば今ので終わりッスかぁ?」



もう一度、今の攻撃をさせて今度は確実に倒す。


そう意気込んで挑発をする戒斗。


大樹はともかく、蓮山ならば乗ってくると考えたのだが……



「くっ――大樹、もう一度だ!」


「無理だ、次は確実に回避される」


「臆したか大樹!」


「俺は壁だ、お前を守るのが俺の使命。


故にお前の命令には従えない」


「くっ……!」



ギシッと音が聞こえてくるほどに歯を食いしばる蓮山だが、決して大樹の後ろから出てくるような軽挙は起こさない。



(無意味とは言わないッスけど効果が薄い……)



そこで戒斗は目の前の敵の評価を切り替える。


もっとも厄介なのはウィザードではなく目の前のナイトだ。


その技量、防御の一点に関しては間違いなく三年生クラス。ただ単に堅いだけでなく、防ぎ方も上手いし予測もできている。



(ただ一発撃っただかじゃ弾かれる……なら……一体どうすれば……!)



相手の魔法を警戒しながら出方をうかがう戒斗


再び突っ込んでくるかと思ったが大樹はそのまま動かない。



「――ホライゾンレイン!」



そして再び放たれる大樹を壁とした蓮山の魔法


状況が最初に戻っただけだ。



(これじゃ長期戦確定ッス、埒があかない……!)



何か手はないか、何か倒す手は、と自分の手にある銃を見た戒斗だが……



「――って、あ」



そこでふと気づく。


あまりに当たり前すぎて、もっともシンプルで簡単な攻略法を。





「ようやく気付いたか」



試合中の戒斗の顔を見て昇真はそんなことを呟く。



「何か特別なことでも教えてたの?」



紅羽が興味津々に訊ねる一方で、清松は忌々しそうな顔だ。



「ふんっ……何を教えたのか知らないが、谷川にエージェント系のスキルによる翻弄はそう簡単に通じないぞ。


さっきの攻撃を回避して反撃……敵ながら見事だと言ってやるが、それでも状況は膠着状態のままなんだからな」



負け惜しみに聞こえるその言葉だが、れっきとした事実だ。


戦況は膠着状態。


故にそれを打開する手立てなどどこにもない。


はずだった。



「別に俺が教えたことじゃない。


奴にとって当たり前なことを思い出させただけだ」


「……どういう意味だ?」


「シンプルなことだ。


そもそも、奴は奴自身の手にある銃の最大の特徴をこの試合で忘れていたのだからな」





「はぁ!!」



気合の声と共に放たれる弾丸


クイックドロウ


一瞬で複数の弾丸を連射する。


狙いは当然、攻撃を仕掛けてくる蓮山


その弾丸を大樹は素早く防ぎ、蓮山もすぐに大樹の背後に隠れた。


即座に反撃をしようと魔法を放とうとした蓮山。



「――――っ! 蓮山、まだ出るな!」


「なに?」


「連射が続いている!」



今までなら数発で終わっていた戒斗からの攻撃が、まだ続いている。


これでは蓮山も迂闊に魔法を発動させるために顔を出せない。



「無駄なことを!


だったら、音が止んだ直後に威力が高いのを出すまでだ!」



そして蓮山は意識を集中し、今までよりも時間をかけて魔法を放つ準備をした。


そして、その準備にかかった時間はたっぷりと十秒ほどかけた。


だが、その間も戒斗からの連射の攻撃は続く。



「――――おい、いつまで続くんだこの攻撃!?」



すでに魔法を放つ準備ができている。


だが、このまま時間をかけ過ぎればせっかく溜めた魔力が霧散し、また最初からやり直しとなる。



「そうッスよね、なんでこんなこと忘れてたんスかね」



戒斗のクイックドロウはまだ続いている。


すでに撃ち始めから今までの動作で100以上の弾丸は放っているはずなのだが……



「この銃は、魔力で弾丸を作って魔力で撃つ。つまり普通の銃と違って魔力が続く限り弾切れしないし装填する必要もない」



戒斗はひたすら弾丸を撃ち続ける。


尽きることのない弾幕が、大樹の巨大盾に当たり続ける。



「そして連理のスキルで俺の手はクイックドロウを何十何百と繰り返しても疲れない。むしろ、やればやるほど俺の腕はその無駄を省いてより早く弾丸を撃てる」



その攻撃の速度たるや、もはやピストルと呼ぶにふさわしくない、マシンガンの域の弾幕だった。



「さらに、灰谷先輩との地獄の特訓で俺は放たれた小石を何度も何度も撃ち落とし続けた」



その放たれる弾丸のすべてが、巨大盾の一点に集中し続ける。



「――つまり!」



何かが割れる音が響き、次に大樹は己の腹部にかすかな衝撃が走ったのを感じた。



「なんだと……!」



これまで感情をほとんど見せなかった壁を自称する谷川大樹が、この試合で初めて明確な動揺を見せた。


彼の手にある巨大盾の一部が破損し、そこに生じた穴から大樹の纏う鎧に弾丸が当たったのだ。



「真正面からのごり押しで、俺はお前らを倒せるってことッス!!」

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