第116話 やっぱり初手ブッパは(ry
『それでは、ギルド“風紀委員
ギルド“ライフプライス”所属、チーム
生徒会公認ギルド一年対抗の模擬戦を開始します!』
フィールドの反対側には姿は見えないが、鬼龍院達がスタンバっているはずだ。
というか、チーム名、虫歯なんかより普通にカッコいいじゃないかリンドウ
何が不満だったのだろうか?
『実況は西学区より出張してきました、東部迷宮学園放送部の
この放送は学園全体、さらにインターネットを通じて全国へ生中継しております!』
――うぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!
「なんか外野うるさくない?」
「水島夢奈の追っかけッス」
「彼女、有名なの?」
「テレビ見ろッス」
どうやら教える気がないらしい。
戒斗、解説キャラとしてのアイデンティティを自ら放棄するのか……!
まぁ、大して興味ないしそもそも今試合前だからいいか。
『解説は北学区生徒会の副会長である来道黒鵜先輩です。よろしくお願いします』
『ああ、よろしく頼む』
『そして今回ゲストには、南学区生徒会長である柳田土門会長にも来ていただきました』
『ナズナー! がんばれー! お兄ちゃん応援してるからなぁー!!』
土門会長……あなた他の学区に来てまで何やってんですか?
まぁ、稲生がここに来てるってことは付き添いついででゲストも請け負ったんだろうな、やりそうだあの人なら。
というかそんなことやったらまた稲生が怒るんじゃ……
――う、歌丸連理ぃーーーーーー!
「なんでっ!?」
フィールドの向こう側から聞こえてきた怒鳴り声に突っ込む。
僕が今怒られる要素一ミリもなかったよね、ないよね!? ねぇ!!
『さて、それでは北学区の一年生同士、実質一年生の代表チームを決める戦いとなりますが、お二人はどちらが有利だとお考えでしょうか?』
『編成を見た限り、チーム天守閣に遠距離攻撃ができる者はいない。
定石通りで考えれば、有利なのはチーム竜胆だろうな』
『そうだな、一番の強みのベルセルクも、うちのマーナガルムのユキムラがいるから有利とは言い難い』
聞こえてきた黒鵜先輩と土門先輩の評価
冷静な分析だなと感じる一方、少し悔しくも思う。
『おやこれは意外ですね、実績や評判ではチーム天守閣が有利と言われていたのですが……』
『まぁ、あいつらの活躍を見たらそう思うのも無理はないだろうな、うちのモンスターパーティでも連理の奴が大活躍だったし。
だがそういう前評判抜きにして冷静に現状を分析してみると勝てる確率が低いんだよな、面白いことに』
『は、はぁ……? 面白い……ですか?』
『ああ、あのチームの本質は単純な強さじゃない。
その強さの成長にこそ目をつけるべきだと俺は考える。
今あそこにいるあいつらが、以前よりどれだけ腕をあげたのかを注目したいところだ』
『……なるほど、理解しました。
つまりチーム天守閣の成長、それこそがこれまでの実績を積み上げてきた最大の要因であり、それゆえに予想がつけ辛いということですね!』
聞こえてきた内容に、気付けば僕は自然と口角が吊り上がっていた。
「これは、下手なところは見せられないわね」
「うん、特訓の成果を見せよう」
詩織さんも英里佳もやる気満々だ。
「こい、シャチホコ!」
「――きゅきゅう!」
アドバンスカードからシャチホコが出現し、僕の前に立つ。
状況はカードの中でも聞こえていたので理解できているようだ。
「さぁ、行くわよ」
そして僕たちみんなで一斉に天守閣と刺繍が施された腕章を身に着ける。
瞬間、僕以外の四人の制服が迷宮仕様へと変化した。
『さて、両陣営準備が整ったようです』
開始の合図を知らせるスターターピストル構える審判が前に出る。
今回は公正に判断を下すために、教師の人が審判をしてくれているようだ。
そして、スターターの引き金が引き、開始の合図が炸裂した。
「
「
同時に、紗々芽さんが詩織さんに強化を施し、英里佳が強化を開始したが――この時、すでに僕たちは出遅れていた。
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「っ、来た!」
ユキムラの雄叫びに僕たちは上空を見上げた。
「――へ?」
誰の声だったのか、間の抜けた声が聞こえた。
僕の声だったのかもしれないし、他の誰かの声だったのかもしれない。
だって、そこにある光景は予想外のものだったのだ。
僕たちの上を飛び跳ねているユキムラ
その背に誰かが乗っていた。
「――ブレイズ・セラフィム」
僕たちに向かって、真上から燃え盛る天使が降ってきた。
「――回避ッ!!」
「「「っ!!」」」
そしてこのスキルは
そのため紗々芽さんが自分よりも上位であると認識している人物――詩織さん以外の僕、戒斗、英里佳の三人に効果が発揮した。
一番近くにいた僕が紗々芽さんの手を引っ張り、英里佳が詩織さんの手を引き、そして戒斗は単独で、それぞれ別方向へと飛んだ。
落下してきた天使が地面と激突した瞬間に爆発が起きるが、とにかく僕も紗々芽さんもその場から急いで走る。
まだ爆発の土煙によってみんなの様子が見えないし、先ほどのユキムラも見失ってしまった。
「今の……乗ってたの、稲生じゃなかった……よね?」
「う、うん……マーナガルムに乗ってたのは…………鬼龍院麗奈だった」
やはり見間違いじゃなかったようだ。
相手の奇襲、それもこちらの無意識の固定概念を突かれた。
マーナガルムのパートナーである稲生をセットに考えていたために、このパターンを読んでなかった。
「――ここで会ったが、百年目よっ!」
「「っ!」」
すぐ近くから聞こえてきた声
驚いてそちらを見る僕と紗々芽さん。
そこにいたのは……いたのは…………いや、というか、その……
「なんだ、稲生か」
「なんだとは何よ歌丸連理ぃ!!」
僕たちの前に現れたのは、パートナーであるユキムラを伴っていない稲生妹であった。
その手に鞭が握られ、短いスカートに太ももまであるロングブーツを穿いた状態の、なんかエロい衣装だが……あれがテイマーの制服の変化なのだろうか?
「っ……ということは、まさか……!」
「無視してんじゃないわよ!!」
土煙はいまだに晴れないが、その向こうで今他のみんながそれぞれの奇襲を受けているということか!
「こ、この、歌丸連理ぃ……!」
「歌丸くん、あの……稲生さん涙目だよ?」
「な、泣いてないし! というか何模擬戦の真っ最中で手なんか握り合ってるのよ!!」
「え、あっ」
「おっと」
パッと顔を赤くしながら慌てて手を放す紗々芽さん。
いや、今更そんな恥ずかしがるようなこともないのでは? と思ったが、何やら稲生がさらに機嫌を悪くする。
「不潔よ、不純よ、何考えてんのよ馬鹿じゃないの、変態、アホ、歌丸連理!!」
「おいこらそれどういう意味だぁ!!」
どうして罵倒の言葉と僕の名前が同列の扱いみたいになってるんだよ!
■
「――GURUOOOOO!!」
「バーストボール!」
マーナガルム・ユキムラの背に乗った鬼龍院麗奈が、ベルセルクとして強化された榎並英里佳に向けて魔法を放つ。
「このっ――くぅ!?」
高速移動での回避を試みるが、体勢を崩した瞬間にユキムラの体当たりを食らった。
「英里佳!」
初撃を英里佳によって助けられた三上詩織は、その手にレイドウェポンである『クリアブリザード・プロトタイプ』を手に援護に向かおうとするが……
「――行かせないよ」
横からのナイフによる攻撃。
咄嗟に左手の盾で防ぐ。
「っ……萩原渉!」
シーフの上位職スカウト
敵チームの一人が、動きやすそうに裾の短いマントを身に着けた制服に変化させ、詩織の前に立ちはだかる。
「悪いね、榎並英里佳が脱落するまで付き合ってもらうぞ」
「っ……」
少し考えればわかるような、そんな手段
だが、それに思い至る前に始められた攻勢
敵はマーナガルムを英里佳にぶつけて時間稼ぎするなんて生温いことを考えていなかった。
マーナガルムとウィザードを組み合わせて、英里佳を倒すつもりでこの場に臨んでいたのだ。
(まずい……! 完全に後手に回った……!)
内心焦りながらも、目の前の敵を倒すことを優先しようと、詩織は剣を構えるのであった。
■
「おらおらおらおらぁ!!」
「くっ!」
無数に放たれる土属性の魔法による
戒斗はそれらをすべて空中で撃ち落とす。
「なら、これでどうだ!
――ホライゾンレイン!!」
土属性から変わって次は水属性の魔法を行使
水平方向へと降り注ぐ豪雨が戒斗に迫ってきて、これは流石に撃ち落とせないと持ち前の健脚と、歌丸連理のスキルである悪路羽途の効果で射線から逃げる。
「ちょこまかとぉ……!」
そんな戒斗を憎々し気に睨むのは、鬼龍院蓮山であった。
「お返しッスよ!」
そして銃撃を的確に蓮山の両肩両足を狙って行うのだが……
「――――フンッ!」
蓮山に弾丸が届く前に“壁”が阻む。
「ちっ……俺なんかに二人掛かりとか、ちょっと過剰戦力じゃないんスかねぇ……?」
まさか二人まとめて自分に襲いかかってくるとは思っていなかった戒斗は軽口をたたきつつ突破口を見出そうとする。
「けっ、こっちだって不本意なんだよ!!」
「……蓮山、あまり顔を出すな」
「お前が守れる範囲からは絶対出ないから安心して俺を守れ」
「……俺は壁だ、了解した」
そんなやり取りをしている最中に戒斗は攻撃を行ったが、谷川大樹はそれらをすべて完璧に対処して巨大盾で防ぐ。
後ろにいる蓮山を狙って攻撃した場合は盾でも防ぎきれないのだが、その時は鎧に当たって銃弾が弾かれる。
「くそっ」
その結果に戒斗は悪態を吐く。
戒斗は決して弱くないが、手にしている武器は所詮は通常の拳銃の域を出ない威力だ。
故に、単純にそれ以上の防御力を持つ相手には弾かれる。至って当然のことだ。
戒斗がもしガンナーであったならスキルの効果で威力を上乗せできたのだろうが、生憎そんな便利なスキルはない。
「さっさとテメェを倒して、歌丸連理を片付ける!」
「……油断禁物だ」
自分にとって最悪な相性の相手がぶつけられたのだと理解して、戒斗は顔をしかめるのであった。
■
「はぁ、はぁ……!」
物陰に隠れ、呼吸を整える
「――GUOOOOOO!!」
だが、休む暇を与えないと言わんばかりに、すぐ近くにマーナガルムが迫ってきた。
「――ブレイズ・セラフィム」
「っ、また!」
迫ってきた炎の天使を回避したが、その直後にマーナガルムの巨体による体当たり
反撃を試みた時にはすでに距離を離される。
(この体当たり、攻撃目的じゃない!)
もし本気で英里佳を倒すつもりなら、そのまま噛みつくなり引っ掻くなりしてくればいい。
だが、先ほどから行われるこの体当たりは英里佳の身体を遠くへと弾くばかりで着地さえミスしなければ攻撃として成立はしない。
(どちらかというと、それこそ距離を稼ごうとしている……――!)
「しまった、みんなは!」
周囲を見回した時、すでに土煙は晴れていた。
だが、近くに仲間の姿はもう見えない。
「ようやく気付いたようですね」
離れた場所で動きを止めたマーナガルム、その背中に乗る鬼龍院麗奈が英里佳を見下ろしていた。
その口調から、やはり自分を他の者たちから引き離すのが目的だったのだと英里佳は理解した。
下手な攻撃をして反撃されるよりも、確実に倒すために英里佳を孤立させたのだ。
「理性あるベルセルク……“
「ぱ、ぱら……? 何それ?」
「あなたの通り名ですよ、知りませんの?」
「初耳なんだけど……」
自分が知らないところでそんな残念な名称がつけられているのかと内心ショックを受けつつ、警戒を厳とする。
目の前の相手は、マーナガルムとウィザードという別々の存在とは考えないほうがいい。
自分と同等以上の膂力を持ち、火力のある魔法を使ってくる、超強力な移動砲台
それが今自分が相手にする存在なのだ。
「……あなた、火属性特化の“フレアウィザード”でしょ」
英里佳の“ベルセルク・スパイカー”と同様に、能力の方向性を特化させるウィザードの上位職
他の属性の魔法を使うのが困難になる代わりに、火属性の上級魔法を容易に使用できるのだ。
だからこそ、学園最強のウィザードである金剛瑠璃と同じ魔法を使えるのだろう。
「ええ、そうですよ。
緋焔の魔女とでも呼んでください」
「呼ばない」
兄と似た感性を持っているのかよ、とこの場に歌丸がいれば呆れているだろうが、英里佳はそう言った知識が薄いので特に関心も示さない。
ただ考えるのはこの状況をどう突破するかだが……
「――きゅきゅ、きゅきゅきゅ……!」
「…………え?」
ふと、英里佳は奇妙な声が聞こえて振り返ると、自分の髪に捕まっているシャチホコの姿が見えた。
「シ、シャチホコ……? なんでここに?」
てっきり歌丸の近くにいると思ったエンペラビットのシャチホコ、それが何故自分と一緒にこの場にいるのかと驚く英里佳
「きゅう、きゅきゅきゅきゅううきゅうきゅうう!!」
シャチホコは英里佳の髪から離れ、その場で地団太を踏みながら鳴きだす。
「ごめん、全然わからない……」
「きゅきゅーーーーーー!!」
しかし残念、今は歌丸と特性共有されているので兎語スキルが使える英里佳だが、シャチホコはまだ赤ん坊なので何がいいたいのかさっぱりわからない。
ちなみに、シャチホコは初撃はいち早く回避したのだが、その後土煙の中で歌丸に抱きついてついてきたつもりだったのだが、その実は間違えて英里佳に抱き着いてここまで来てしまったというのが答えである。
「あら……これは予想外ですね。
エンペラビットは連理様と一緒に動くと思ったので、稲生さんが対処するはずだったのですが…………ユキムラさん、問題はありませんか?」
「BOW」
ユキムラが「問題ない」と断言するように軽く吠えた。
「――きゅう?」
だが、それがどうにもシャチホコの気に障ったらしい。
このウサギ、幼いわりに、いや幼いからこそ物凄く負けず嫌いというか、低く見られることが我慢できないのである。
「きゅきゅきゅきゅう!」
英里佳より前に立ち、シュッシュとその小さな腕でシャドーを見せるシャチホコ
やる気は十分なようだが、その手を攻撃に使うことは本来はない。
「シャチホコ、私と一緒に戦ってくれるってことでいいのかな?」
「きゅう!」
威勢よく鳴きながら頷くシャチホコ
英里佳にとっても想定外のことであったが、この場でシャチホコが一緒にいたのは幸運だろう。
あの移動砲台に勝つためには、自分一人では厳しいと判断したからだ。
だが、自分と同等に動けるシャチホコがいるならば話は変わる。
「スピードで畳みかけるよ」
「きゅきゅう!」
狼と兎
チーム天守閣の戦闘の主力と探索の主力が今タッグを組む。
「やれるものならどうぞ。正規でもないのに訓練してない学生と迷宮生物の付け焼刃のコンビなど怖くありません」
「BOW!」
そしてそれを迎え撃つのは狼と魔女の高機動重火力の移動砲台
■
歌丸連理【ヒューマン・ビーイング】
「一人だからって容赦しないからな駄メイド!」
&
苅澤紗々芽【ドルイド】
「あの……女の子相手にあんまり乱暴しちゃ駄目だよ?」
VS
稲生薺【テイマー】
「何もう勝った気になってるのよ!!」
■
三上詩織【ナイト】
「邪魔よ、どきなさい!」
VS
萩原渉【スカウト】
「はいどきます、なんてなるわけないだろ」
■
日暮戒斗【エグゼキューター】
「ああもう、これ絶対俺貧乏くじッスよぉ……」
VS
鬼龍院蓮山【ノーブルウィザード】
「だぁもう、さっきからちょろちょろと当たらない!!」
&
谷川大樹【ナイト】
「落ち着け、俺たちの優位は……揺るがない」
■
榎並英里佳【ベルセルク・スパイカー】
「こんなところで、負けられない」
&
シャチホコ【エンペラビット】
「きゅきゅきゅう!」
VS
鬼龍院麗奈【フレアウィザード】
「それを慢心というのですよ、榎並英里佳」
&
ユキムラ【マーナガルム】
「GRRRRRRRR!!」
■
『生徒会公認ギルド一年対抗模擬試合、主導権を握ったのはチーム竜胆!
しかし、その奇襲にチーム天守閣見事に対処!
それぞれが各面々で激突!
さぁ、ここからどういった戦いが繰り広げられるのか目が離せません!』
そんな実況の音声が聞こえてくる光景を、とある空間で学長こと、ドラゴンがにこやかに観戦していた。
「さてさてどうなることやら……楽しみですねぇ」
不気味に笑うその口から覗かれる鋸の様に生え揃った鋭い牙
ドラゴンはそんな牙を舌なめずりで湿らせながら、爛々と目を輝かせて試合の進行を見守るのであった。
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