第115話 手段を選んでいられない……いや、やっぱズルくね?
「お前ら揃いも揃って、人を馬鹿にするのもいい加減にし――――ってこら渉、持ち上げるなぁ!!」
「はいはい、勝手にチーム名変えるのやめようなぁー
歌丸相手じゃそうなるの目に見えてたろうが」
そう言いながら萩原に引きずられて去っていく鬼龍院
誰も止めないし、平常運転のようだ。
「んんっ……まぁ、意気込みだけは伝わっただろ」
「意気込み以外は何も伝わっていないともいえるわね」
気まずげに咳払いした会津先輩にツッコミを入れる天藤会長
「まぁ、他の連中も何か言いたいことがあったら言っとけ」
会津先輩がそう促すと、大柄な男子生徒はゆっくりとした動作で首を横に振る。
「自分は……特に」
「いや、何かあるだろ……こう、もっと、なぁ?」
「自分は……壁、ですから」
この無口な人キャラ濃いな。
「わ、わかった……じゃあせめて自己紹介だけでもしておけ」
「はい…………
そう言って、彼は軽く会釈をした。
というか、会釈だけした。
……え、それだけ?
「まぁ、こういう無口な奴なんだ。
ちなみに
ナイトっていうと、詩織さんと同じということになるが……詩織さんと違って防御主体っぽい気がするな。
それにしても本当にデカいな……身長2mはあるんじゃないかな。
本当に同年だ――……ん?
「初めまして、歌丸連理様」
気が付けば、ほんわかした雰囲気の少女が目の前にいて手を握ってきていた。
「さ、様?」
今まで生きてきてそんな風に呼ばれたの初めてかもしれない。
「
「え、あ、は、はい…………あ、あの……その、手は?」
「え…………あ、す、すいませんっ、感激のあまり、つい」
僕が指摘すると、鬼龍院さんは慌てた様子で、でも優しく僕を気遣うように手を放して一歩離れた。
ん? 鬼龍院?
僕は少し離れた場所でなんかさっき以上にギャーギャー騒いでる鬼龍院と、目の前にいる鬼龍院さんを見比べた。
こんな強烈な名字の人が、そんなゴロゴロといるようには思えないし……
「あの……もしかしてですけど……」
「はい、兄妹です。双子ではないのですけど、兄が5月生まれで、私が早生まれの3月なので」
「そ、そうなんですか……」
「敬語などいりません、どうか普段通りにしてください。
私もその方が嬉しいです」
「は、はい……じゃなくて、その……わかった。
ところで僕たち、初対面だよね?」
「はい、そうです。
歌丸様にお会いできることを、今日までずっと心待ちにしておりました」
え、なんで僕初対面なのにこんな好感度高めなの?
「私、歌丸様のファンなのですっ」
「フ、ファン?」
「はいっ」
頷いて、彼女は再び僕の手を取り顔を近づけてきた。
「貴方様からは近年ではもうほとんどと言っていいほど見ない、
歌丸様のような怪我や死を恐れずに果敢に敵に立ち向かっていく姿に、感激しましたっ!」
「え、えぇ? そ、そうかなぁ?
そういわれると、その、照れるなぁ~」
「「「」」」
――はっ!? 殺気!! なんでっ!?!?
背後から感じる異様なプレッシャーににやけた顔が一気に引き締まる。
と、とりあえず鬼龍院さん……紛らわしいから麗奈さんでいいか。
「あ、あの麗奈さん?」
「まぁ、名前で呼んでくださるのですね。
あの、でしたら私も……連理様とお呼びしてよろしいですか?」
「別に様付けなんてされるほど僕は大した奴じゃないよ」
だからとりあえず手を放してください。
「そんなことありませんっ」
ずいっと、さらに距離が近づく。
あ、なんか甘い匂いが……
「麗奈から離れろこのザコ丸がぁ!」
「歌丸くん、離れて」
それぞれの背後から引っ張られ、引きはがされる形となる。
「あぁ……」
あの、そんな悲しそうな顔されると罪悪感があるんですけど……
「おい麗奈、そいつは敵だって言って――」
「……蓮山お兄様、今の発言は取り消してください?」
「る……え、どうした?」
「連理様にむかって“ザコ丸”とはなんですか?」
「あー……いや、その……だって、ほら、敵だし……」
「確かに模擬戦の対戦相手ではありますが、礼節というものがあるのではないのですか?
蓮山お兄様は以前から落ち着きがない方でしたが、そうやって相手を誹謗中傷するような方ではなかったでしょう」
「いや、でも……あいつが……」
「でももしかしありませんっ!」
なんか、妹相手にガチで説教されている。
身長は麗奈さんの方が高いから、もうなんかお姉ちゃんに叱られている弟にしか見えない構図である。
「歌丸くん」
「あ、はい」
僕を引きはがした英里佳は、なんかものすごく無表情で僕の名前を呼んだ。
「女の子相手だからって、対戦相手にそんなデレデレしない」
「別にそんなつもりは」「しない」「ウッス」
反論するべきではない。
そう本能的に察知して即座に頷いた。
「ふんっ、無様ね歌丸連理」
と、今まで谷川大樹の後ろに隠れていた女子生徒の声が聞こえた。
というか、なんか聞き覚えがあるぞこの声。
「――出てきなさい」
そして谷川の背後が光ったかと思えば、そこには突如巨大な狼が出現した。
…………って、まさか、こいつ……!
「ゆ、ユキムラ!?」
マーナガルムのユキムラ
モンスターパーティの打ち上げで、僕が名をつけた迷宮生物と大型犬や狼の交配種だ。
ってことは……!
「随分と驚いているようね」
そしてユキムラを引き連れる形で僕たちの前に姿を現したのは、南学区の生徒会関係者だった。
現在の南学区生徒会副会長の実妹である。
「ちょっと、その子は北学区ではないんじゃないの?」
稲生の制服は北学区と違って白を基調としたところに黒いラインではなく、赤いラインが入っている南学区の制服だから、天藤会長もすぐに気づいた。
「別に他の学区だからってギルドに入れてはいけないってルールはないだろ」
一切気負うことなくそう言い切る会津先輩の態度を見て、天藤会長が目を細める。
「…………ふぅーん……榎並さん相手にどうやって立ち回るのかと思ったけど、それがあなたの自信の理由なわけ。
でも生徒会の力をごり押ししてそれが通るとでも?」
「言っとくが、お前がサボってる間の会議で北はもちろん東西南北全部の生徒会で合意の取れたれっきとした合法だぞ」
「え」
会津先輩の言葉を受け、僕たちは一斉に会長の方を見た。
それつまり、別に隠していたわけではなくて、会長がちょっと調べようと思えば……いや、訓練の期間中に少しでも生徒会に顔を出していればすぐに判明したってことだよね?
「――――」
「「「「「……」」」」」
僕たちが言葉を待っていると、天藤会長は突如青空を仰ぎ見て……
「今日はいい天気ね」
誤魔化そうとしているらしいが、まったく誤魔化し切れていない。
「みんな、迷宮では基本何が起こるかわからないわ。
これも訓練だと思って、想定外の事態でも見事に対処してみせましょう!」
戦闘以外ではポンコツの会長より頼りになる詩織さんの言葉に、僕たちも仕方ないかと気持ちを切り替える。
「というか、稲生ってアドバンスカード持ってたのか?」
「ええ、そうよ」
胸を張りながら僕にアドバンスカードを見せてくる稲生
そこにはデフォルメされた狼っぽいキャラが描かれていて、上部と下部に稲生の名前とユキムラの名前がローマ字で刻印されていた。
「言っておくけど、私もユキムラも南学区では攻略に力を入れてるんだからね!
それにユキムラがいれば、そんなベルセルクだろうとルーンナイトだろうと楽勝よ!」
「GRRR……」
稲生の言葉に同意するように唸るユキムラ
「むっ」
「……言ってくれるわね」
こちらの主力二人も稲生に対して敵意を向けるが、稲生はまったく気にした風はない。
「まぁそういうことだ。
榎並のベルセルクも三上のルーンナイトも使用については特に誓約はないからこれでフェアだろ。
まぁもっとも、三上についてはなれるものなら、だけどな」
詩織さんのルーンナイトの発動条件は生徒会ならばすでに知っている。
僕は僕自身を追いつめるための手段を持っているが、詩織さんにはそれが通じない。
ならば、敢えて向こうは詩織さんを追いつめる様な手段は使わないように立ち回るはずだ。
この戦いで詩織さんの
「こういう奴なのよねこいつ。
器が小さいというか、ネチネチと陰険で……だからモテないのよ」
「おいこら不良会長、聞こえてんぞこら」
「なんのことかしらぁ~」
「はっ……その余裕も今日で最後だ。
この模擬戦でこちらが勝利した暁には、北学区の全戦力を投入してお前を拘束するための決議を通してもいいことになってるんだからね」
「…………え、ちょっと待って、なにそれ?」
会津先輩の言葉に、天藤会長の顔色が豹変した。
「言葉通りだ。
流石の氷川も、そしてあの
本来なら有無を言わさぬ実力行使をしたいところ、こんな公の場で、正当な勝負で決めるって言うんだから相当なまでに寛容な処置だろう?」
「…………じ、冗談よね?
私が生徒会長になるとき、迷宮攻略以外する気ないってあらかじめみんな、了承してくれてたわよね、ね?」
「いやいや、後輩の育成に力を注ぐくらい良心的な会長なら、やっぱりそれくらいしてもらっても当然というか……もう卒業までの迷宮での単位は稼いでるんだから、そんな時間があればちょっとは生徒会を手伝えというか……俺たちもな、本当にお前が少しくらい手伝ってくれればここまでしなかったわけなんだよ、本当に、なぁ?」
「あの、えっと……」
表情はにこやかだが、これは誰が見てもわかる。
会津先輩、相当にキレてる。
もう噴火直前というか、静かに噴火しているというか……
「そういうことで、逃げるなよ会長。
というか逃げても無駄だ。フロントライナーにも話は通してるから、いざってときはそいつらもお前を捕まえるために動くからな」
「お、横暴よ!」
「やかましい! というか散々権力振りかざしてサボりまくったお前が言うな!!」
「うっ」
「さぁって、たまりにたまった仕事があるし、三日徹夜の終わらないハンコマラソンが待ってるからなぁ、覚悟しろよぉ……ふふっ、ふはは、ふははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
高笑いしながらその場から去っていく会津先輩
あまりの迫力に誰も何も言えず、マーナガルムのユキムラまでビビって尻尾を丸めていた。
「…………はっ!?
そ、そういうことだから、あんたたちなんて私とユキムラでけちょんけちょんにしてやるんだからね、覚悟しなさい歌丸連理!」
「いや君の相手どう考えても僕じゃないからね?」
僕たちのチームでユキムラと即座にやり合える人なんて言えば……
自然と、僕たちの視線は英里佳に向けられる。
英里佳はすでにその眼でユキムラを見ていて、ユキムラも英里佳を睨んでいる。
「相手が誰だろうと、勝つのは私たち」
「っ…………ふんっ!
私のユキムラに勝てるなんて思わないでよね!
行くわよユキムラ」
「WOW」
会津先輩が去っていった方向にユキムラを引き連れて去っていく稲生
「では皆さま、また後程」
「言っておくが歌丸連理、俺はお前なんか」「お兄様行きますよ」「え、ちょ、ひっぱるなっ!」
襟をつかまれて去っていく鬼龍院
なんかお菓子コーナーから母親に無理矢理引きはがされていく子供に見える。
「やれやれ……谷川、行こうぜ」
「……ああ」
そして残った二人も去っていき、その場に僕たちだけが残される。
「……みんな、今日の勝負、絶対に勝ってね!」
会長が今まで以上のやる気を見せて僕たちにそういう。
個人的には仕事しろよと言いたくなったが、黙っておくことにした。
言ったくらいで仕事するなら、そもそもこんな事態になってないしね。
とりあえず作戦会議、というか最終ミーティング。
「ひとまずマーナガルムの相手は英里佳に一任ね。
それ以外の面子で当たったら確実に負けるわ」
これには誰も異議を唱えない。
そう言った詩織さんも、ルーンナイトにならない限りは対抗できないのは目に見えているし……
「ただレイドウェポンが使えない以上、不利なのは英里佳のほうよ。
無理せず生き残ることを優先して。あんたが負ければその瞬間にこっちのチームの負けよ」
「ユキムラ、まだ生後一年も経ってないけど、かなり強いし早いから気をつけてね」
「うん、任せて」
モンスターパーティでユキムラの実力をすべて測れたわけではないけど、あの巨体からは信じられない身軽さ。
まずベルセルクとして強化した英里佳でないと対応すらできない。
「となれば、次の問題はシャチホコたちとララのうちのどちらかよね……」
詩織さんの言葉に、戒斗が腕を組みながら口を開く。
「総合力を見ればまぁララなんスけどねぇ……対人戦である以上、エンペラビットたちの機動力も無視できないんスよね」
「じゃあやっぱシャチホコ、もしくはギンシャリかな」
ステータスで見ればシャチホコの方が強いけど、ギンシャリは度胸があるからなぁ……ワサビも決して弱くはないけど、穏やかな性格だから知り合いであるユキムラの相手はやりづらいだろう。
「まぁそうなんスけど……なんだかなぁッス」
「何よ、煮え切らないわね?」
「いや、向こうも確実に榎並さんにマーナガルムをぶつけてくると思うんスよ。
そしてそれを提案したのはおそらく会津先輩ッス。
その先輩が、エンペラビット対策をしてないとは思えなくて……」
「そんなこと言い出したら、ララのことも対策してると思うよ。
鬼龍院達のパーティと違って僕たちのパーティの情報は駄々洩れだしね」
「……そうなんスよねぇ。こっちは後手に回ってるんスよね……」
頭を抱える戒斗
まぁぶっちゃけエンペラビットとドライアドのどちらを出すのかという選択だが……
「――紗々芽、連理、二人はどう思う」
詩織さんが僕と紗々芽さんを見てそう問う。
この場の意見なんてただ一つ。
どれが一番勝てるのか、ということだ。
「――シャチホコを出したい」
だから僕は一番勝率が高いと思う相棒を選ぶ。
「理由は?」
「今までいつだって僕の予想を超えてくれるからかな。
相手の思惑だって、シャチホコなら何とかしてくれると信じてる」
「……ララは戦えないこともないけど、戦闘よりも回復とかの調合の方が得意な子なの。
だから、私も歌丸くんの意見に賛成かな」
僕と紗々芽さんの言葉を受けて、詩織さんはうなづく。
「わかった、ならこっちが出すのはシャチホコで決定ね。それじゃあ作戦を詰めるわよ。
まずあっちの編成はナイト、スカウト、そしてノーブルウィザードと……さっき聞きそびれたけど、妹も魔法職だったはずよ」
「だったはずって……鬼龍院兄妹のこと知ってるの?」
「入学当初有名だったわよ、ウィザード兄妹ってことで。
入学前からその高い適正があって、実を言えば私もパーティの候補にって誘おうと思ってたのよ。
まぁ、その噂もあんたがまるごと持って行ってそれ以降あまり聞かなくなったけど」
「へぇ……ってことは、向こうには遠距離攻撃手段の持ち主が二人もいるってこと?」
「そうね、戒斗の銃は射程が短いから遠距離攻撃はできないし……一応聞くけど、模擬戦に使える射程の長い銃火器って今ある?」
「ライフルはあるけど……実弾しか」
「俺は弾どころか銃もないッス」
うん、英里佳のは対人戦じゃ絶対使えないし、戒斗もシングルアクションの銃でしか速射できないというコンプレックスから他の銃は持ってないんだったか。
「じゃあやっぱり、シャチホコにはウィザードの牽制を頼むことになるわね。
その間に私と戒斗でナイトとスカウトを対処に当たるわ」
「僕と紗々芽さんは?」
「ちょっと危ないけど……二人には囮になってもらうわ。
鬼龍院兄の方はあんたに対抗意識持ってるし、あんたの姿が見えてればそっちに意識が向くはずよ。
その隙をこっちは突くように動く。
紗々芽は、ドルイドの魔法で守りに徹してちょうだい」
なるほど、まぁ確かに鬼龍院の反応を見る限り僕のことを放っておくとは思えない。
うまく行けばその間にシャチホコが倒してくれるかもしれないし……つまりいつも通りなわけだが。
作戦、というほどではないが、自分たちが何をするべきなのかは決まった。
「よしそれじゃあチーム天守閣、勝ちに行くわよ!」
「「「「応!」」」」
後は勝ちに行くだけだ。
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