第106話 別に寝なくても平気ってわけじゃないよ?

よく、ラブコメの主人公で「こいつホモなの?」って思う場面がある。


美少女のヒロインと二人っきりの状況で手を出さなかったり、すぐ近くでエロイベントが起きているのに何にもしないでいる主人公


正直、男としての機能が大丈夫なのかと心配になることが多々ある。



そして一方僕だが……



観自在菩薩行深般若波羅蜜多かんじーざいぼーさつぎょーじーはんにゃーはーらーみったー……っと」



「…………歌丸くん、何してるの?」



写経しゃきょう



違うんだ、逃げたんじゃないんだ。


たまたま今日は気分的に趣味の写経がしたくなっただけなんだ。


え? いつからそんな趣味がだって? ついさっきさ。



「写経できるんだ」


「まぁ、ちょっと知り合いに教えてもらって」



病院でお経を読むおじいさんから「もっと心を鍛えろ」と言われて半ば強制で教えられた。


正直、病院でそれは縁起が悪すぎてどうなのって思ったが、アレかな、みんなご年配の方だから逆に開き直って詠みあう人もいたくらいで、やってること葬式なのに雰囲気明るいという謎空間が出来上がってたな……


まぁ、教えられた当時は煩わしいばかりだったが、まさかこれを活用する日が来るとは……



「へぇ……歌丸くん、字綺麗だね」


「そうかな、ありがっ」



何となしに視線を上げた瞬間、平静となっていた心が一気に乱れた。


気が付けばいつの間にか英里佳が目の前にいたのだ。


シャワーから上がったばかりで、髪が若干湿っている。


そのためか。赤っぽい茶髪が今は黒っぽく見えて西欧の人形を思わせる雰囲気がどことなく大和撫子を連想させる。


そんな彼女が今、薄いピンク色のパジャマを着て僕の目の前に現れたのだ。



「? 歌丸くん、どうしたの?」


「い……いや、その…………」



どうしたもこうしたもーーーーーー!!


女子の、パジャマ! それも風呂上り!!


なんだこのコンボ! なんだこの破壊力! なんだこの可愛い生物!!



お、落ち着け、落ち着くんだ歌丸連理16歳!


こういう時はクールに、クールに……!



かわいいなんでもない


「えっ」


「あ、ごめん噛んだ。なんでもないよ」


「か、噛んだの?」


「カモン、ラビッツ!」


「唐突にどうしたの!?」



僕にはいつだって心強い仲間がいる。


そう、シャチホコ、ギンシャリ、ワサビ


この三匹がいれば、どんな状況だろうと切り抜けられる。



「きゅう!」

「ぐふっ!」


「ぎゅぎゅう!」

「ぐはぁ!」


「きゅるるるるぅ!」

「がばんっ!?」



唐突な三匹のウサギの攻撃が僕を襲う!


しかもこいつら、三匹とも能力同調ステータスシンパシーで僕の筋力値使ってやがる!



「お、お前らいきなり何するんだ……!」


「きゅきゅきゅきゅきゅきゅう!!」


「いやお前は何言ってるかわからないよ……ギンシャリ解説」


「ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ!!」

『昼飯昼飯飯飯飯飯飯ぃ!!』



「……ご飯、欲しいってことかな?」



ああ、特性共有ジョイント使ってる状態だから、英里佳もギンシャリの言ってることわかるのか。



「たぶん、だと思うけど…………あ、そういえば僕昼ご飯食べる前に今までずっと寝てたんだった」



「きゅう!」

「ぎゅう!」

「きゅる!」



三匹とも「そうだそうだ」という具合に耳ビンタを僕に浴びせまくる。


地味に痛いからやめて欲しい。



「じゃあ今からご飯に……って、そうだ、そういえば英里佳、ご飯は食べたの?」


「え……あ、そういえば夕飯はまだだったかな」


「じゃあ食堂に……は、いけないか」



今英里佳は男子寮に忍び込んでいる状態であり、食堂になどいけばそれがばれる。


別に女子が男子寮に入ること自体は許可が下りれば問題ないが、泊まり込みは禁止なのだ。


かといって、食堂から部屋まで食事をテイクアウトなどできないし……



「……じゃあ、ちょっと簡単なものでも作るよ」


「え……歌丸くん、料理できるの?」


「まだ勉強中だけどね。


迷宮攻略が早く終わったときとかに詩織さんに教えてもらってるんだ。


先週も一回だけ一緒に下の厨房借りて他人丼とか作ったよ」


「へ、へぇ~……そう、なんだ……」



あれ、なんか急に英里佳のテンションが下がったような……気のせいかな?



「部屋の設備じゃ大したものは作れないけど……何か苦手な食べもの英里佳はあったりする?」


「特にはないけど……」


「そっか、じゃあちょっと待ってて」



確か豚肉がまだ余ってたから、生姜焼きとかならできるかな……


そう思いながら立つと、ジャージの裾を引っ張られた。



「え……どうしたの?」



見ると、引っ張っていたのは英里佳だったのだ。



「わ、私が作るから。部屋借りるわけだし」


「え……いや、でも別にそれは気にしなくても」



というか、英里佳って前にお弁当での前科があるし、料理初心者の僕じゃ監督できないから遠慮してもらいたいんだけど……



「私が作るからっ」


「あ、はい」



あっさりと頷いてしまう自分にちょっと自己嫌悪してしまう僕なのであった。



「よし……それじゃあ、少し待っててね」



エプロンまでつけてやる気を見せる英里佳


台所に立つ彼女を後ろから見守る僕



「えっと……まずはこれを切って……」



ちょっとぎこちないが、英里佳もあれから料理を勉強しているのか、危なげもなくキャベツを切っていく。


手に持っているの包丁じゃなくてサバイバルナイフであることは、まぁこの際気にしないでおこう。


刃物を扱うならやっぱり手馴れたものの方がいいよね。


今は蹴り主体で戦闘にナイフ使わないからこの機会に折角だから使っておこうってことかな。


…………でも、確か僕の記憶が正しければそのナイフでいろんな迷宮生物仕留めてなかったかな?


こう、ゴブリンとか、ネズミとか、アリとか…………い、いや、英里佳ならきっと武器の手入れとかしてるし……大丈夫なはず……大丈夫、だよね?



なんか作り始めから色々と不安を煽られるが、僕も頷いた側の人間として英里佳を信じて見守ろう。



「えっと……油はこれくらいでっと」



おかしいな……まるで揚げ物作る時みたいにドバドバとフライパンに油を注いでいる気が……



「で、衣をつけて……」



刻んだキャベツに、他人丼づくりの時に余った卵と小麦粉をまぶしてまとめたものをオタマに入れて熱した油に投入


おかしいな……かき揚げ的なものを作っているのだろうか?


でもそれ、キャベツだけですよね?


キャベツの千切りの天ぷらってあったっけ? 少なくとも僕そんなのしらないんだけど……


内心でツッコミを入れるのもなんだかなと思ったので、もう色々と諦めて僕は英里佳の手元を見ることをやめた。


そうだ、今の彼女の後姿を見よう。


女子がエプロン姿で料理を作っている。


うん、素晴らしい。


そうだ、今はただこの光景を目に焼き付けることだけを考えよう。


それが幸せというものだ。


うん、そうだ。


これでいいのだ!






「はい、できたよっ」




うん、良くないよね。


そうだよね、いくら現実逃避しても別に時間が止まるわけじゃないもんね。


僕の目の前にはおそらく冷蔵庫に入っていたキャベツ半玉をすべて使ったであろうかき揚げがたくさん積み上げられた大皿がある。



「ちなみに、この料理名は?」


「えっと……キャベツのかき揚げ?」



おかしいな……かき揚げっていろんな材料をまとめて揚げる料理だったような気が……どう見ても単品、キャベツ以外何も混ざってない気がするんだけど、これ。


そして豚肉あったはずなのになぜ使わなかったー?



「冷めないうちにどうぞっ」


「い、いただきます」



まぁ、この間みたいなグリーンカレーと比べれば万倍マシだなと自分に言い聞かせて箸をつけて一つ口につける。


サクッとした感触がして、噛むごとにキャベツの甘みが引き出されていく。



「……美味しい」


「本当?」


「あ、うん。


まぁほとんど……というかそのまんまキャベツだけど、結構美味い。


うん、これ美味しい」



正直びっくりした。


見たまんまキャベツだから、正直大したことないと思ったら意外とイケるぞこれ。



「実はこれ、お母さんがよく作ってくれたものなの」


「英里佳のお母さんが?


え……これを?」



料理というにはあまりに簡素な気がするんだけどこれ……



「ふふっ……凄く貧相だよね」


「……あ、ごめん」


「ううん、良いの。実際その通りだから。


私、二人が卒業してすぐに生まれてね、そのままお父さん大学に進学したからすっごく貧乏な時期があったの」



まぁ、子供育てるのってお金かかるし、そのまま進学するとなるとやっぱり裕福ははずがないか……



「このかき揚げはお父さんが大学生だった時によく食べてたもので、これをお金に余裕ができてからもおつまみにして晩酌してたってお母さんが話してたの」


「へぇ……」



おつまみか……それは結構いいかもしれない。


飲んだことないけど、これと一緒にビール飲むのとかすごく絵になる気がする。



「じゃあ、これが英里佳にとってのおふくろの味?」


「うん、そうかも。


私も小さい時、おやつにこれねだってたから、作り方も覚えちゃったの」



そう語る英里佳の顔は嬉しそうで、その顔を見ていると自然と僕までも嬉しい気持ちになってしまう。


意外なところで英里佳の意外な一面を見れた。


それが僕にとってとても嬉しかった。



「きゅきゅ!」

「ぎゅう!」

「きゅるるん!」



野菜メインであるためか、エンペラビットたちがテーブルに顔を乗せて「食べさせて」って感じで僕や英里佳の方を見る。



「お前らなぁ…………はぁ……英里佳、少しだけ分けてあげてもいいかな?」


「少し多めに作ったから大丈夫。


歌丸くんの方こそ、足りなかったりしない?」


「今日は半日以上寝てたから大丈夫だよ。


ほらお前ら、英里佳に感謝しろよ」



一匹に一つずつかき揚げ、というかキャベツ揚げを渡すと、それぞれが両手でもってガツガツと食べ始める。


そういえば焼肉に行った時も生より火の通った野菜の方が好みだったなこいつら。


そしてすぐさま三匹ともキャベツ揚げを食べきってしまい、お代わりをねだられる前に僕はアイテムストレージから餌として確保していた虹色大根や黄金パセリを出して三匹に食べさせた。



「さて、僕たちも食べよっか」


「うん」



その後、雑談を交えながら僕と英里佳は大皿に乗ったキャベツ上げを食べ進めていく。


その後一緒に後片付けを済ませ、僕もシャワーを浴びて今日はあと寝るだけとなったが……ここで一つ問題が。



「僕は普段下のベッド使ってるけど英里佳は上使う?」


「…………ねぇ、そういえば歌丸くんの前のルームメイトってさ」


「相田和也だけど…………ああ」



なんか英里佳がもの凄く嫌そうな顔をして二段ベッドの上の方を見ていたので察した。


そうだよね、あいつ色々やらかしたから英里佳としてはあいつの使ったベッド使いたくないよね普通。


本人は全く覚えはないだろうし、僕も途中から気絶してて何を言われたのか知らないけど、英里佳がここまで嫌悪するってことは相当酷いこと言ったんだろうな……



「えっと……じゃあ、僕が上使うから英里佳が下使うってことで」


「いいの?」


「というか、英里佳こそ僕の使ったベッドで大丈夫?


相田和也が使ったって言っても、もう上のベッド白里さんが洗濯してほとんど新しい状態だよ」


「それでもやっぱり歌丸くんの方がいいかな」



…………うーん、これは信頼されているということなのかな?


まぁ、相田和也よりはよっぽど信頼されているのは確実だろう。


僕としても嫌がられないのは嬉しいんだけど、なんだろう……これは僕はどうリアクションするのが正解なのかな?


凄く複雑な心境だ。


……いやいや落ち着け僕。


こうして僕のことを信頼してくれている相手にそんな色目を向けることなど失礼千万


ここは妹が一緒にいるのだと自分に言い聞かせよう。そうだ、そうしよう。



「とりあえず今日はもう寝よう。


英里佳、朝は自分の寮で食べるんだよね?」


「うん、そうしないと抜け出してるのばれちゃうし」


「ならなおのこと早く寝ちゃおう。


電気小さいのつけとく?」


「どっちでも大丈夫だよ」


「じゃあ小さいのだけつけて、スキルで早めに起きるように設定して寝よう」


「うん、おやすみなさい」


「おやすみ」



電気を暗くして僕は上のベッドに上がって、横になって布団をかぶる。


そして意識覚醒アウェアーのスキルを解除し、ゆっくりと目を閉じるが…………



(眠れん)



いつもならスキル解除したら即座に眠れた。


だが、今日に限っては英里佳が来るまで眠っていたので全然眠くならない。


その一方で……



「すぅ…………すぅ…………」



ベッドの下から聞こえてくる規則正しい寝息


僕と違って英里佳はスキルを解除した途端に眠ってしまったらしい。


というか、あの……一応ここ男子の部屋なんですけど、もうちょっと警戒とか、緊張とかしてくれてもいいんじゃないかな?


なんで君がそんなリラックスして速攻で寝落ちしてるの?


おかしくない?


おかしいよね?


おかしいよ。(確信)



「きゅぅ……」

「ぎゅう」

「きゅるぅ」


「寝苦しい(確信)」



そういえばこいつらもよく一緒に寝てたな。


普段から一緒に寝てたけど、こんなに暑苦しいのによく今まで普通に寝れたな僕。


そうでなくとも英里佳が下にいて緊張してるのにこれって、寝られないよ……


こういう時は羊を数えるといいっていうけど、あれって本来英語で数えるから意味があるんだよね。


sheepシープ』と数えて『sleepスリープ』って自分に言い聞かせるっていう自己暗示みたいな。


でも羊って南学区で実物見たけど、可愛いって言うよりはたくましい感じがしてみてても落ち着かないんだよね、見てても。


やっぱりこう、眠るときにイメージするならこう、癒しというか、可愛い者とかが良いと思う。


そう、例えば……



「けもみみがひとり……けもみみがふたり……」



とりあえず知り合いの女子を全員片っ端から獣耳けもみみ化させていこう。




二時間後……



「詩織さんはやっぱり犬かなぁ……いやでもこう、トラとかもいいかな……」



三時間経過……



「紗々芽さんは雌彪めひょう……は、ちょっとあざといな……じゃあ兎?


いや、バニースーツとか凄くエロいけどやっぱりそうじゃなくてこう……」



四時間経過……



「氷川……氷川かぁ…………なんだろう、なんか猫、アメリカンショートヘアっぽい感じが……ああでも涙目な感じはわりとよかったかも、犬のたれ耳とか……」



五時間経過……



「稲生は三毛猫」



六時間経過……



「英里佳はやっぱりこう、うん、やっぱり狼で……いやでもやっぱり他のバリエーションも……」



「――歌丸くん、どうかしたの?」



「……え?」



なんか下から声が聞こえてきて何だろうかと思ったら部屋が明るくなっていた。


まさかと思って下の方を見ると、英里佳がベッドから出ていてこちらを見上げていた。



「…………あれ、もう朝?」



おかしいな……ずっと獣耳について考えていて、一睡もしてないぞ。


スキルずっと解除してたはずなのに……



「歌丸くん、大丈夫?」


「あー……うん、大丈夫大丈夫、全然平気だよ」



とりあえずスキルをオンにしておこう。


少し頭がぼんやりするけど、スキルが発動している間は眠ることは無いし、たぶん大丈夫だろう。



「えっと……じゃあ私ちょっと着替えるから洗面所借りるね」


「どーぞどーぞぉ……」



洗面所のほうに向かった英里佳を見送り、僕はひとまずベッドから出て軽く背伸びをする。



「うーん……久々の寝不足感…………迷宮で遭難して以来かな、これ」



あの時と違って肉体的な疲れはほとんどないが、やっぱり意識が少しぼんやりする。


注意散漫にならないように気を引き締めておこう。



「とりあえずちょっと水でも飲もう」



そこで洗面所に向かったとき、ふと水切り場に置いたまま棚に戻し忘れた食器を見た。



「ん?」



見覚えのない箸があるなと思ったが、たぶんこれ英里佳の私物だな。



「それじゃあ歌丸くん、私一回自分の寮に戻るね」


「え、あ、うん」


「じゃあまたね」



そういって英里佳はジャージの姿で窓から飛び出して行ってしまった。



「……あ、これどうしよう」



ふと、水切り場に置きっぱなしの箸を見た。


今日も英里佳がこの部屋で夕食を食べるならいいとしても、夕食を済ませてからこっちに来るのなら自分の箸が無いと困るだろう。



「……まぁ、ランニングの時にでも返そう。忘れたら大変だし、すぐの方がいいよね」



時計を見ればちょうどいつも起きる時間だった。



「って、こらお前らいつまで寝てるんだ」



「きゅ」「ぎゅ」「きゅる」



ベッドで寝っ転がっているエンペラビットたちを起こし、僕もジャージに着替え、英里佳の箸をアイテムストレージに入れて外に出る。


寮母の白里さんは今食堂で朝食の準備をしていた。


ランニングから戻ったころには朝食の準備はできてるだろう。



「あら、歌丸くんおはよう」


「おはようございます、ランニングいってきます」

「きゅ」「ぎゅ」「きゅる」


「はい、いってらしゃーい」



僕とエンペラビットたちを笑顔で見送ってくれた。


そして僕たちはいつも走っているコースを走る。


寮から少し離れ、学園の端っこ。


海が見えるコースだ。


早朝ということで人が少なく、ひんやりした空気の中を波の音を聞きながら走るのはなかなか心地いい。


そしてコースの途中、女子寮の近くを通ったときだ。



「あ、歌丸くん」


「やっ、英里佳さっきぶり」



ついさっき部屋から出ていった英里佳と会った。


普段の英里佳ならもうとっくに出発していて別の地点で出会うが、今日は僕の部屋からいったん自分の部屋に戻っていたから出発が遅れたようだ。


おっと、そうだ忘れないうちに箸返さないと……



「英里佳これ、僕の部屋に忘れてたよ」


「え……あ、箸。わざわざごめんね」


「まぁ、一応ね。今日の夕食も僕の部屋以外で食べてくるなら必要だと思ったんだけど……今日はどうする?」


「放課後は迷宮行くし……早く終わったら夕飯の買い物しておくのもいいんじゃないかな?」


「まぁ確かに……冷蔵庫今豚肉しかなかったからそろそろ買い物を……………」


「歌丸くん、どうしたの?」



……なぜもっと早く気付かなかったのだろうか、僕は。


英里佳とここで会うのはあまりないが、いつもこの時間に出会う人がいただろう。


寝不足で意識がはっきりしていなかったせいか、そんなことまでも僕は寝ぼけて忘れていたらしい。



「――ねぇ今の、連理の部屋に箸を忘れたって……どういうこと?」



英里佳の後ろ、つまり、僕の真正面にほとんど無表情で、しかしどうしてか物凄く怖い目をした三上詩織さんがジャージ姿でそこにいた。

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