第103話 過去話は連鎖する。



場所は北学区に位置する港


本来ならば西学区の大きな港を使うのが一般的なのだが、今回は特別に、それもかなりお忍びということで普段は誰も利用しない北学区の港が解放された。



「お待ちしておりました」



乗りつけられた小型のクルーザーから降りてきた二十代と思われる男性に恭しく頭を下げるのは北学区の生徒会で副会長を務めている氷川明依ひかわめいであった。


また周囲には教員や迷宮学園に出店しているとある企業の役員もいて、男性に対して頭をさげる。



「ああ、楽にしてください。


今日は“専務”としてではなく、卒業生としてこの場にいるんですから」



物腰は柔らかいが、その身にまとう雰囲気は間違いなくカリスマ性がある。



――金瀬創太郎かなせそうたろう



迷宮学園の卒業生の一人にして、彼の実家である“金瀬製薬”に莫大な利益をもたらす新薬や新製品を数多く開発した日本を代表する迷宮学園での成功者の一人


そして、今まさに世間を騒がせている迷宮学園の闇――犯罪組織によって葬られてしまった金瀬千歳かなせちとせの兄でもある。



「いやぁ、昔は私にとってここは地獄みたいな場所だったはずなのに、改めてやってくるとなんだかワクワクしてしまいますね」



そわそわした様子で周囲を見回す創太郎


彼としてはこの後に学園の中を見て回りたい気持ちでいっぱいなのだろうが、彼の護衛を務める身として明依はそれを控えてほしかった。



「あの……一応この学園では最大の脅威ドラゴンが健在なので、あまり目立つ行為はしないほうがよろしいかと……」


「はははは、いや、いくら何でも今の私では学長の気をほど引けはしないさ」


「…………彼?」



いったい誰のことなのだろうかと首をかしげる明依


そんなリアクションを見て創太郎はポケットからこの学園では基本使用が禁止されているスマートフォンを取り出して動画のライブ配信を見せた。



『優勝だぁ! 一位だぁ!!


僕が一番だーーーーーー!!!』



「――んなっ!?」



そこに映っていたのは、今日はおとなしくしているように念押ししたはずの歌丸連理が、南学区で開かれているイベントに出場して、ゴールした後の映像であった。



「迷宮学園での出来事が定期的にわかるチャンネルでね、まさか妹の恩人が映るとは思わなかったけど……うん、見ていてなかなか気持ちがいい少年だね。


学長でなくても、興味が引かれるよ」



創太郎にはおおむね好評だったが、明依はそれどころではなかった。



「……おとなしくしてるように言ったのに……!」



厳密には迷宮に行くな、ではあるが、まさか迷宮以外でこんなことをしているとは思わなかった。



「ははは、彼と会うのが楽しみだよ」






日曜日


それはどうにも落ち着かない。


休日の代表ではあるのだが、基本北学区の生徒にとって土日は迷宮攻略に力を最も入れる日でもある。


だが僕は生徒会から昨日と今日は迷宮に入るなと禁止された身なので、今は特にすることもなく一人部屋となった寮の部屋でゴロゴロしていた。



「はぁ~……なんかこんなまったりするの凄い久しぶりかもぉ~……」


「きゅう~」

「ぎゅう……」

「きゅるるぅ……」



三匹のエンペラビットは窓から差し込む日差しを浴びながら床の上で寝転がっている


昨日仲間外れを食らって物凄くへそを曲げたシャチホコだったが、お土産に用意した黄金パセリとか虹色大根の山をもとに交渉したおかげでどうにか機嫌を直してくれた。


本当によかった。



「もう今日はこのまま惰眠をむさぼろっかなぁ……」



そう思い、瞼を閉じる。


ああ、なんか意識が遠のいて――――……



「歌丸いるか!」


「え?」



即座に意識覚醒アウェアーのスキルが発動し、微睡の中だった意識が完全覚醒する。


勢いよく扉が開いたので驚いたが、そちらを見ると何故か本来はこの場に現れることのないはずの人がいたのだ。



「会津、先輩?」



生徒会役員であり三年会計の会津清松あいづきよまつ先輩が今何故か僕の部屋に入ってきたのだ。



「二度寝とはいいご身分だな」


「え……あの、えっと……なぜここに?」


「良いから制服に着替えて急いで下に来い。もう下に車を待たせてる?」


「車?」


「良いから準備しろ。急がないと氷川に殺されるぞ」


「なんて物騒な……


というかどうやって入ったんですか? 鍵かけてましたよね?」


「知らないのか? 生徒会は独自にすべての部屋の合鍵を保管してるんだ」


「生徒会怖い」


「いいから早く来いよ」



そういって部屋から出ていく会津先輩


いったいなんだったんだ……呼び出しだったら学生証使えばいいのに……


もしかして何度か呼び出しされたのかなと思って学生証を確認したが、そういった履歴は残っていない。


どういうことかと首をかしげたが、ひとまず言う通りに制服に着替えて下に向かう。



「とりあえずお前らはカードの中な」


「きゅ」「ぎゅ」「きゅる」



動くのも面倒だった三匹は特に何も言わずにアドバンスカードの中に入っていく。


外履きに履き替えて寮を出ると、すぐ目の前に黒塗りのリムジンが止まっていたのだ。


そして車のすぐ近くに会津先輩もいた。



「よし、急いで乗れ」


「は、はぁ……」



促され、とりあえず言う通りにする。


車の中にいたのは僕だけでなく、いつものみんなもいた。


英里佳に詩織さん、紗々芽さんに戒斗もすでに乗っていた。


そしてそこに僕と、会津先輩、それに昨日もあった瑠璃先輩の合計七人が乗り込んでいた。



「おはよう、みんなも急に呼び出し受けたの?」


「うん、朝いきなり瑠璃先輩がやってきて……」


「私たちも、勉強中にいきなり侵入されたわ」


「あはは……」



なんか威勢よく飛び込んでくる瑠璃先輩の図がすぐに思い浮かべられるな。


一方戒斗はどことなく気まずそうだった。



「俺は風呂に入ってる最中に……」


誰得だれとく?」



男の入浴シーンとか死ぬほどどうでもいいんだけど。



「少なくとも俺はもの凄く損した気分になったぞ。


女子かお前は?」


「休日くらい別に朝風呂したっていいじゃないッスか」


「いや、なんかお前だと妙に腹立つ。な?」


「そうですね」


うん、戒斗ってぱっと見イケメンだから、そこだけならある程度理解できるけどここに三下キャラが加わって朝風呂しますって感じなると急にイラっと来る。不思議。


「理不尽ッス!」と戒斗が嘆いていると、ひとまずそれは置いておこう。



「なんでわざわざ全員を突然呼び出して、しかも車で移動なんですか?


学生証で呼び出してもらえれば自分たちで時間まで行くのに……?」



みんなも同じ気持ちなのか、声には出さなくても同調するような雰囲気だ。



「学生証の通信だと学長に勘付かれるからな。無駄かもしれないが、できるだけ穏便に済ませたかったんだよ」



なんかきな臭い雰囲気だ。


とても気になるのだが、会津先輩はそれ以上は何も言わずに窓の外を見ている。


これ以上は聞くなという意思表示なのだろうか?


試しに瑠璃先輩の方を見ると、彼女も窓の外を見ている。


だが、何というか会津先輩と違って心ここにあらずという感じだ。



「そういえば下村先輩」「ふきゃあ!?」


「え?」

「ッス?」

「「「?」」」



突如奇声を発した瑠璃先輩


なんか顔が真っ赤だ。


今にも火を噴きだしそうな勢いである。



「おいどうした猫が尻尾踏まれたみたいな声出してどうした金剛?」



外を見ていた会津先輩も、驚いて瑠璃先輩の方を見た。



「べ、別になんでもないですよマツ先輩!


そ、それでレンりん、アースくんがどうかしたの?」


「あ、いえ、昨日なんだか帰る時二人ともよそよそしい感じだったので何かあったのかなぁと」


「そ、そそそそそそんなことななないけどぉ?」



あるな、これ。


確実に何かあったな、これ。


目配せをするとみんな似たような感じで頷き合う。


確実に二人の間に何かあったのだと。



「なんだ、とうとう付き合いはじめたのかお前ら?」


「ぬわんっ――あぎゃ!――ぁ~~~~ぅう~~……!」



驚きのあまり立ち上がり、そのまま天井に激突した瑠璃先輩


かなり痛そうだ。


そしてそのリアクションを見れば、なんとなく察しがついた。



「わぁ……そうなんですか?」



意外にも一番に反応したのは苅澤さんだった。


両手を口元当たりで合わせて口元を隠そうとしているが、隠しきれずに口角が上がっているのが見えた。



「え、や、その、あの…………」


「ど、どうなんですか?」

「……私も興味あります」



しどろもどろになる瑠璃先輩に、詩織さんも英里佳も詰め寄る。


やっぱり女の子ってこういう話に興味があるらしい。


一方で僕と戒斗は顔を見合わせていた。



「昨日あの三人に何があったの?」


「いや、俺にもさっぱりッス」


「でも昨日戒斗ずっと下村先輩と一緒にいたよね?」


「そうなんスけど……でも詩織さんたちと合流してからはそっちと一緒にいたッスよ、俺」


「ってことは、僕がメイド稲生にぶん殴られているあたりで何かあったということだね」


「うーん、色々ツッコミ所が多いッスけど……まぁとりあえず会津先輩」


「ん、なんだ?」


「先輩は瑠璃先輩と下村先輩の関係について知ってたんですか?」


「まぁ、お前らより一緒に行動する時間は多いから自然とな。


金剛も、生徒会の時間とかに割と下村のこと話すから、たぶん天藤以外は全員勘付いてるんじゃないか?」



……会長……あなたそんな普段から生徒会に参加してないんですか?



「そういえば歌丸、お前昨日南学区で大活躍だったな」


「はぁ、まぁ、優勝はできませんでしたけどね」


「いや、初出場で二位は凄いだろ。


まぁ、普通のレース展開だったらお前も負けてただろうが、ある意味マーナガルムに助けられたって感じだったな」


「ですよねぇ……」



正直、僕があそこまで走れたのってマーナガルム――ユキムラが他の連中を牽制してくれていたからなんだよね。


普通に走ってたら順位がもっと下だったかもしれない。



「なんというか、お前なんであの活躍を普段からできないんスか?」


「そんなこと言っても……僕はいつでも全力なんだけど……」


「そういやあの後、正式に生徒会に南学区のイベントにお前を名指しで参加して欲しいって要請が来たぞ」


「え、いつの間に……」



土門会長あたりならそんなこと頼みかねないな。


あ、でも甲斐崎副会長とかもイベントの運営に力入れてたし、あの人からの可能性もあるかな……


まぁ、どっちにしてもそんな風に頼られるのはなんだか嬉しいものだ。



「一応お前の自由意志に任せるが、今後他の学区のイベントに参加するときは生徒会に一声かけてからにしろよ?


お前は良くも悪くも目立つんだから」


「あ、はい、気を付けます」


「ならいい…………ほれ女子ども、そろそろ到着だから騒ぐのはその辺にしておけよ」



そういわれて外を見ると、なんだか古い洋館をイメージしたみたいな建物が見えた。


車から降りて周囲を見回す。



「ここは……?」


「北学区の迎賓館げいひんかんだ。


普段はあんまり使われないが、設備は西学区の最高級ホテル並みなのは保証する」


「げいひんかん……?」



あんまり聞きなれない単語だ。



「海外の国賓こくひん、大統領とか首相とか、まぁつまりもの凄く偉い人をもてなすための施設ッス。


日本だと東京と京都の二つにある施設で、国が運営する最高級ホテル……いや、それ以上の宿泊施設ッスね。


この迷宮学園も法律上は日本国内ってことになってるッスけど実際のところはドラゴンの支配下ッスからね、ごくまれにやってくる日本の首相をもてなすために作られたんスよ。


いろんな手続きのもと、学長はこの施設に近づかないように契約されてるんス」


「え、あのドラゴンそんな契約守ってるの?」



なんか関係なくいつでもどこでも現れるイメージなんだけど……



「一応な、代わりに毎年馬鹿みたいに高い食材を要求してくるらしいぞ」



現物支給か。


いや、まぁあのドラゴン毎月の給料をすべて食費に溶かしてるらしいから、食材の要求は妥当なのか?



「一応、学生の居住スペースに現れないのもその契約があるかららしいッスよ」


「日本ありがとう」



日常生活でもあんなのが出てきたらストレスで死ぬわ。



「…………って、ちょっと待ってください。なんでそんな場所に僕たちが呼ばれたんですか?


もしかして警備ですか? 僕じゃむしろ警備に穴が開きますよ?」


「自覚あるのか……いや、その辺りはちゃんとプロがいるから大丈夫だ。


お前たちはこの施設を利用しているゲストから呼んでくれと頼まれたんだ」



ゲストに呼ばれた?


ここを利用してるってことは、相当偉い人だよね。


なんでそんな人に僕たちが呼ばれるんだ?



「みんな、なんか心当たりある?」



僕がそう訊ねると……



「うーん……ちょっと私はわからないかな」

と英里佳


「うちの実家はそこそこ金はあるッスけど、両親は堅苦しいの嫌いだからこういうところは絶対に利用しないッスね」

と戒斗


いや待て、それつまりもし学園に来たらここ利用できる人ってことだよね?


え、ブルジョワ、ブルジョワなの君? 三下なのに?



戒斗の家がそこそこ格式があるのは日暮先輩を見ていて知っていたつもりだったが、まさかそこまで凄いとは思わなかった……


すると、一方で詩織さんと紗々芽さんが顔を見回せて何か話している。



「二人はもしかして心当たりあるの?」


「あるというか……連理、あんた本当に自覚ないの?」


「何が?」


「あの、ほら、ララのこと」


「ララ? それがどうかしたの?」



ララとは、僕と詩織さんが十三層で出会い、そして今は紗々芽さんのパートナーとなっているドライアドのことだ。


でもどうしてそれが今出てくるんだ?



「……ああ、なるほど。


でもこいつ、MIYABIのことも知らないくらいテレビみない奴ッスからそれじゃわからないッスよ。たぶん榎並さんもわかってないッスよね?」


「え……あ、うん……なんのことなの?」



なんか戒斗もわかった風なリアクションだが、僕も英里佳もわけがわからずに首をかしげる。



「無駄話はそこまでだ。


ひとまず中に入れ」



そう促されて迎賓館の中へと入っていく。


豪華な扉が開くと、何故かいきなりずらっと並んだスーツ姿の人たちが僕たちに頭を下げた。


そしてその中でもかなり背格好のいいピッシリとしたスーツを着た男性がやってきて頭を下げた。



「ようこそいらっしゃいませ。


歌丸連理うたまるれんりさま、三上詩織みかみしおりさま、苅澤紗々芽かりさわささめさま、榎並英里佳えなみえりかさま、日暮戒斗ひぐらしかいとさま、お待ちしておりました。


私は西学区で接客マナーの講師をしております真壁正一郎まかべしょういちろうと申します。


本日は皆さんの案内役を仰せつかっております」



「は、はい?」

「あの……これはいったい?」



いきなりそんな風にもてなされ、僕と英里佳は困惑する一方、他の三人は納得したような顔だ。



「ああ、やっぱり」

「そういう立場なんだね……」

「西学区の講師に三年生の先輩方わざわざ招くとか力の入れ方半端ないッス」



よく見ると、戒斗の言う通り今僕たちに頭を下げてる人たちはかなり若い学生のようだ。


どうして西学区の人がここに?



「俺たちは警備を任されているからここまでだ。


粗相はするなよ」


「じゃあまたあとでね、みんな」



そういって先輩たちは外へと出て行ってしまった。


扉が絞められて取り残されてしまった僕たち


どうすべきかと困惑していると、真壁先生が優しそうに微笑む。



「どうぞ、私についてきてください」


「えっと……あの」


「ほら、連理、行くわよ」



困惑する僕の肩を軽くたたいて真壁先生についていく詩織さん


まだ混乱が続くが、ひとまず言う通りにして僕たちもついていく。


長い廊下を歩いていくと、ひときわ大きな扉の前までやってきた。



「――お客様をお連れしました」


『……どうぞ、通してください』



真壁先生がそう声をかけると中から落ち着いた雰囲気の男性の声が聞こえた。


真壁先生が扉を開き、僕たちを無言で中へと誘導する。


先陣を切ったのは詩織さん。


僕たちはみんなして彼女の後に続いて中へと入っていく。



「では、失礼いたします」



真壁先生は頭を下げて扉を閉め、室内には僕たち五人に、部屋の主である男性が一人、そしてその傍らには生徒会副会長である氷川明依の姿もあった




「やぁ、初めまして北学区のホープ“チーム天守閣”のみなさん


私は金瀬創太郎かなせそうたろう


この学園の十年前の卒業生さ」



「…………金瀬? ……あっ」



その名前を聞いて僕は紗々芽さんの方を見た


だから先ほど彼女はララの名前を出したのだ。



「こちらの創太郎さんは学長に卒業後も学生証の携帯を許可されており、現在は金瀬製薬で技術者としても専務としても活躍されている方です」



氷川からそう補足説明を受けてようやく状況が飲み込めた。


つまりこの人は……



「金瀬千歳さんの……お兄さん、ですか?」


「ああ。君と……あと、三上詩織さん、だったね?


二人が妹の遺体を迷宮から運び出してくれたんだってね。ありがとう、妹が入学してから五年ぶりに顔が見れたよ。


本当にありがとう」



僕たちの前までやってきて深々と頭を下げる金瀬創太郎さん。


凄く偉い人から頭を下げられて、正直ビビる。



「い、いや、そんな顔を上げてください。


僕たちは別にそんな……当然のことしただけですよ、ね?」


「はい。私たちはただそうしたいと思ったからです。


むしろ……金瀬千歳さんをずっと守ってきたのは、彼女のパートナーだったララの方ですから」



そうだ。


そもそも遺体が残っていたのだってララがいたからだ。


もし彼女がいなければ、そもそも遺体そのものが迷宮に残っていたのかも怪しい。



「えっと……あの、この場でララを呼んでも大丈夫ですかね?」



ララのアドバンスカードを持つ紗々芽さんが恐る恐る質問する。


まぁ、確かにこんなお堅い場所でララとはいえ、迷宮生物モンスターを呼び出すのは気が引けるよね。



「私としては是非とも話したいのだが……氷川くん、大丈夫かな?」


「ええ、創太郎さんが問題なければ」


「では……」



紗々芽さんがアドバンスカードを出すと、そこから光が放たれて僕たちの前に髪の毛が木の根っこでできた幼い女の子――ドライアドのララがその場に現れた。



「ぁ……あの……うぅ」


「え、あの、ララ?」



ララはなんだか気まずそうにうつむいてしまう。



「はは、なんだか怖がられてしまったのかな?」



金瀬創太郎さんは少し寂し気に笑うが、どうもそんな雰囲気じゃない気がする。



「まぁ、とりあえず掛けてくれ。


君たちとは一度ゆっくり話したかった」



そう促され、僕たちはそれぞれ席に着く。



「…………あれ、十年前の卒業?」


「ん、それがどうかしたのかい?」


「あ、いえその……」



僕はふと英里佳の方を見た。



「………………」



英里佳はとっくに気付いていたらしい。


おそらく、十年前という単語を聞いた時点で。



金瀬創太郎、迷宮学園の十年前の卒業生


それはつまり…………


英里佳の父親、榎並雄吾えなみゆうごさんが死んだ年度の卒業生ということだった。

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