第102話 “好き”は何時だって恥ずかしい。

一体どうしてこうなったのだろうか。


僕は打ち上げ会場のど真ん中で正座をしながら考える。



「き、きゅるるぅ……」


「ぎゅぎゅう」

「GRRR……」



新しくやってきたエンペラビットのワサビはギンシャリの乗っているマーナガルムのユキムラにめっちゃ警戒している。


ギンシャリとユキムラは友好をアピールしているようだが……



「歌丸くん、どこを見てるの?」



声に反応して前を見れば、見慣れた獣耳をはやした英里佳様がおられます。


何故かわからないが、大変ご立腹である。



「それで歌丸くん……さっきモンスターパーティに出ていた……稲生さん? に、メイド服を着せて獣耳まで生やさせて何をしていたの?」


「あの、それどっちも僕がやったわけではないのですが……」



犯人は彼女の姉と義兄だよ。二人とも身内だよ。



「って言ってるけど…………ねぇ、紗々芽、私たち来た時こいつ何してたかしら?」



僕の右側にたつ詩織さんが剣呑な雰囲気で僕の左側にたつ笑顔だけど全然目が笑っていない紗々芽さんに問う。



「気持ち悪いくらいに鼻息を荒くしながら稲生さんのことを撮影してたかな」


「悪意ある表現!」




「でも事実だよな?」

「そうッスね」



傍聴席からのまさかの援護射撃!


しかし僕の味方ではない!



「ま、待って欲しい! 一般的な男子なら獣耳メイドが目の前にいたら誰だってああなるはずだよ!


ねぇ、みんな!!」



視線を周囲に巡らせた瞬間、その場にいた男子全員がほぼ同時に視線を逸らす。



「か、戒斗……!」


「肉やわらけーッスねぇ」



くそっ、ローストビーフをおかずにご飯、じゃなくてご飯をおかずローストビーフ食ってる! うらやましい!



「せ、先輩!」


「歌丸、現状の俺にそういう話題を振るな」「ごめんなさい」



よく見たら下村先輩の背後に般若るりせんぱい大蛇ひぐらしせんぱいの姿があった。


あまりの真顔だったので思わず謝ってしまった。


なんで怒ってるのかは全然意味がわからないけど、彼女たちにとってこの話題が凄く面白くなさそうなのだけは理解した。



「くっ、土門会長! 実行犯のあなたならわかってくれるはずですよね!!」



「あ、すまん、俺メイドよりナース派だわ」



まさかの返答!


僕も好きですけどね、獣耳ナース!!



「あら、そうなのですか? じゃあ……そういうの、用意しておきます?」



「お、おい……人前でそういうの言うなって……」



――クソッ!! リア充がぁあああああ!!!!



「同意を得られていないけど……結局あんたの変態趣味ってことよね?」


「そういえば大規模戦闘レイドのときの演説もどきでも似たようなこと話してたよね」



ああ、僕の黒歴史の一つとなったあれですね。


今思い出しても悶絶するやつだ。



「? なんのこと?」



一方で英里佳はキョトンとしている。



「ああ……そういえば英里佳はその時暴走してたからあの演説もどき聞いてないんだっけ」


「ある意味あれ、英里佳が一番の被害者じゃないのかな?」


「え……え……あの、詩織、紗々芽ちゃん、それどういうことなのか詳しく」「ちょっと僕の説明を聞いてくださーい!!」



あんな内容を英里佳に聞かせるなんてことしたら確実にドン引きされる!



「僕は全然、まったく下心無く獣耳メイドを愛でていただけなんだ!


仮に僕の趣味が変だと、仮に、仮に仮定したとしてだよ!」



「いや確定で変ッスよ?」

「なんで僕の攻撃の時だけ喋るの!?」



いつもどっちかというと僕の味方してくれる立場じゃなかったの君!



「とにかく、別にいやらしい気持ちはなくてですね…………そう、お父さんが娘を愛でる様な、飼い主がペットをかわいがるようなそんな気持ちなんだ!!」



「稲生さん、どうぞ」

「え、えぇ、!?」



今まで三人の背後に隠れていたメイド稲生にゃんが再び前に出てきた。



【カシャ!】


「だからなんで撮る!」


「はっ! 無意識に手が……!」【カシャ!】



くっ、考える前に勝手に指が動く!



そんな僕を詩織さんがもの凄く呆れてみている。



「胸ポケットから学生証を取り出す動きのキレ、今まで見てきたいろんな動きの中で一番良いんだけど……」



無意識って怖いな。



「稲生さん、ちょっとごめんね」


「え、あの――ちょ、にゃにゃぁ!?」


「――ふっ」「せいっ!!」「ぐはぁ!?」




気が付いた時、僕はいつの間にか詩織さんに蹴り飛ばされて地面を転がっていた。


そして今、僕は青い空を見上げて戒斗がもの凄く呆れた顔で僕を見ている。



「ぼ、僕はいったい……?」


「苅澤さんが稲生のスカートを少しだけ引っ張った瞬間、お前が下から潜り込むように体勢を変えてカメラを構えたんで、撮影される前に詩織さんが蹴り飛ばしたんス。


現状を理解したッスか?」


「なん、だと……!?」


「完全に無意識でやってるとか真正じゃないッスか…………俺から見ても惚れ惚れする位にいい動きでスカート覗きに行ったッスよ」


「ば、馬鹿な……!


僕が、そんな…………それじゃあまるで、僕が変態みたいじゃないか!!」



「「「変態だよ(わ)(ね)」」」



仲間三人の冷たい視線と言葉のナイフが僕に刺さる!



「こ、この変態にゃ!!」


「くそっ、稲生かわいいっ!!」


「にゃっ!?」



今までならなんかイラっと来たけど、獣耳メイドならなんでも許せる!



「で、お父さんが娘のスカートを覗くのがあんたにとっては普通なの?」



……あ、なんか今まで以上に冷たいまなざしを詩織さんが僕に向けてくる。



「ち、違くて…………あの、その……………――うちではそれが普通なんだっ!」



うわっ、僕何を言っているんだろう?



「歌丸家闇が深いな」

「会ったことないけど、あいつの妹の身の安全が心配ッスよ」



父さん、ごめんなさい。


貴方の知らないところで息子は父の名誉を傷つけてしまいました。



「ふふっ……まぁまぁ、その辺で良いじゃない」


「お、お姉ちゃん?」



ちゃっかり土門会長といちゃついていた牡丹先輩がやってきた。



「歌丸くんが誰を想うかは本人の意思によるものなんだし、それについて周りがどうこう言うべきじゃないでしょ?」


「「っ」」



え?


牡丹先輩の言葉がよくわからない。そしてなんで英里佳と詩織さんがもの凄くショック受けてるような感じなの?



「ナズナも満更じゃない感じだし……」

「お、お姉ちゃん!!」


【カシャシャシャシャシャシャ!】


「だからニャんで撮るニャ!」


「可愛いからに決まってんだろ!!」


「んニャ!?」



真っ赤な顔して語尾が「ニャ」


いい、最高にいいよこれ!



「連理、お前マジでそろそろ頭冷やしたほうがいいッスよ」


「冷やす?


何を馬鹿な、もっと熱くなれよぉ!!」


「キャラ変わり過ぎっス」



とにかくもっと色々と撮影を……



――ぽんっ



「――あ、も、戻った!」


「……え」



何ということでしょう。


メイド稲生にゃんが、メイド稲生に退化した。



「あ、もう時間切れか。


まぁ試作品ならこんなもんか」



そんな土門会長の言葉を聞いて、なんか一気に夢から覚めたような気分になる。


何してんだろう、僕……



「はぁ……」



ひとまずもう使い道のないカメラ機能をオフにして学生証を胸ポケットにしまう。



「……あの、歌丸くん、急にどうしたの?」



急にどうしたって……今まさにその原因が起きたのに何を言ってるんだろうか牡丹先輩は?


僕のテンションが駄々下がりになったのを見て、紗々芽さんがハッと何かに気付いたみたいな顔をする。



「あの、これ多分そういうのじゃないと思いますよ?」


「どう違うの?」


「……そうですね……」



困惑を隠せない牡丹先輩に対して、紗々芽さんは何故か諦めたような顔で英里佳のほうに歩み寄る。



「……英里佳、ちょっといい?」


「え――えぇ?!」



ひらりと舞うスカート


その奥から除かれる漆黒領域スパッツ


それでも咄嗟のことだったのでスカートを赤い顔で抑える英里佳――――



【カシャ!】

「何してんのよっ!」

「ぐはぁ!?」



再びいきなり蹴り飛ばされる。


理不尽!



「今までで一番素早い動きで覗きに行ったぞ、あいつ……!」


「あの動き、なぜ迷宮でできないんスかね……?」



え? また僕やらかしてました?


そしておかしいな。今さっき胸ポケットにしまったはずの学生証がカメラ機能が起動した状態で手にある。


何故?



「……あ、あら?」



気付いた時にはまた地面に転がっていた。


そんな僕を見て困惑した様子の牡丹先輩が視界の端に映る。



「つまり、こういうことです」


「…………えっと……あのごめんなさい。


どういうこと?」


「つまりですね」



紗々芽さんは倒れている僕を蔑み切った眼で見ている。



「歌丸君が反応しているのは、稲生さんではなかったんです。


彼が反応してるのは、獣耳の生えた女子全般です」



「えぇ…………?」



僕はふらつきながら近くのテーブルに手をかけながら立ち上がる。


くっ……結構足に来る威力だった……!



「あの……先輩、もしかして僕が稲生……妹さんの獣耳メイド姿を見て惚れた……と思いましたか?」


「えっと……あの、違うの?」

「違います」



男として譲れない一線があるので、ハッキリと物申す!



「僕はただ獣耳メイドに、萌えていただけですっ!!」



「「「「「………………」」」」」



場が沈黙に包まれる。



「あれ、なんか急に気温下がった?」


「お前のせいッスよ」


「ふっ……僕が困ったとき、いつでもツッコミを入れてくれるよね、戒斗は」


「なんか今物凄くお前との縁切りしたくなったッス」



酷くね?



「…………あの……えっと……モエって、あの…………土門くん、わかる?」



困惑のあまり一番身近な男性に訊ねる牡丹先輩


ああ、普段は名前に君付けなんですね。



「あー………………うん、つまり、アレだな。


例えば結婚してる主婦がアイドルに熱狂する……みたいなものと種類は似てる感じのあれだな」



流石は会長


なんて的確な表現なんだ。



「う、うーん……わかるようなわからないような……?」



「――いいんです、この感情は一言や二言で語りつくせるような、甘っちょろい感情じゃないんです!」



「おーっと、これあの演説もどきの時の謎スイッチ入ったッスよぉー


頭打ち過ぎたからッスかね?」


「え、わ、私のせいなの!」



戒斗が何か言っているし、何故か詩織さんが困惑しているが、今は構うものか!



「稲生は何度も僕に突っかかってきて、正直ちょっと苦手意識がありますが、でもいいんです!


獣耳メイドであるならばすべてが許されるんです!


もっと言えば獣耳があるからいいんです! 獣耳が最高なんですよ!!」



メイド? ナース?


ふっ、違う。不要とは言わないが、それはあくまでも補助パーツ


萌えの真理はそこにはない。



「本来人間には備わっていないモフモフした耳、そして今後に増えるであろう尻尾!


そんなリアルとファンタジーの融合が醸し出すカタルシスを、僕たちは常に求め続けてきたはずだ!!


種類は違えど、誰もがリアルにファンタジーを求め続けて生きている!!


僕はたまたまそれが獣耳だったという話なんだ!!」



「ごめん、連理が何言ってるかわからないわ」


「詩織ちゃん、これはむしろ理解してはダメな内容だよ」



「そうだ、そもそも理解しよう、されようとすること自体が愚かしい!!」



「こっちに飛び火した!?」



今紗々芽さんはいいことを言った。


それを褒めたのに何故かとても嫌そうな顔だ。何故だ?



「僕は獣耳が大好きだ!


そしてこれはきっと本能だ! 理屈じゃない!


モフモフの耳をピコピコさせているそんな女の子をかわいいと想うこと、そこに理由なんて求めない!


ただ僕はそれを可愛いと思う! それを理解してもらえないのなら悲しくてはあっても、僕はそう思い続けることを恐れはしない!


何故ならば、本気で愛しているから!!」



よく聞く言葉だ。


「好きに理由なんていらない」と


まさにその通りだと思う。


何かを好きになるということにいちいち理由など必要ないのだ。



「何かを好きだと、それを打ち明けることは確かに恥ずかしい!


愛を打ち明けることなど顔から火が出る様な思いだ!


だがそれでも思い、打ち明け、叫ぶ!


何故か! それはその想いを伝えることこそが最も愛を示すことなのだからだ!!」



拳を強く握り、僕は叫ぶ。



「一番恥ずかしいことは、理解を求め、拒否されることを恐れて秘すること!


ただ恥ずかしいからという理由だけで愛を伝えられないのならば、そんな愛に価値などない!


真に愛するのならば、自分が傷つく覚悟をしろ!!


愛とは、傷つくことと見つけたり!!


だからこそ僕は、誰に何と言われて、どう見られようと愛を叫ぶことをやめはしない!!」






言い切った。



この場に、僕はそのすべての想いを打ち明けたのだ。




「――でもその対象って獣耳ッスよね?」


「そうだよ」



何を当たり前のことを。


場に沈黙が流れる。


なんだろうか、この空気は?


まぁ、とりあえず誤解だけはしっかり解いておかないとね。



「まぁ、そういうことで僕の考えについての理解はまだしも、恋愛云々は無いことはわかっていただけましたよね?」


「……………え、えっと……あの…………それじゃあ歌丸くん、確認なんだけど……」


「はい?」



恐る恐るという具合で、牡丹先輩な先ほどから小刻みに震えているメイド稲生の肩に手を置く。



「その、ナズナについて思うところは?」


「獣耳が足りません」



まさにこれ。


今の彼女に足りない萌えポイントはそこに尽きる。


いやぁ、本当に残念過ぎるよこれは。



「――――結局」


「ん?」


「私の価値、全否定じゃないのぉーーーーーーーーーーーーー!!」


「ぷげらぁ!?」



唐突な暴力!


いきなり振りかぶったかと思えば、今までの攻撃とは比較にならないキレのあるビンタが放たれる。


あまりの勢いに首がもげるような錯覚がした。



「この、変態獣耳マニアーーーーーーーー!!」


「ぐぼぉ!?」



すかさず膝! 鳩尾みぞおちに刺さった、呼吸が……!



「だ、誰か助け――――!」



「とりあえずみんなもなんか食べようッス」

「そうね」

「あ、このお菓子、前に掲示板で人気になってたよ」



戒斗に誘われて詩織さんと紗々芽さんがそっちに意識が向いてる!


何故!?



「え、英里佳!」


「え、あ、あの…………ごめんね、流石にちょっと……今のは私でも擁護できない」


「何が!?」



今まさに超絶理不尽な目に僕遇ってるんですけど!?


だが、もしかしなくても、これは周りの状況を見るに、僕が何か失礼なことをやらかしたということなのか!?



「くっ……よし、わかった、ならば好きなだけ殴れ!!


よくわからんが、それでお前の気持ちが晴れるというのならば僕は逃げはしない!!


さぁ来い稲生薺いなせなずな! お前の悲しみを僕が受け止め切って見せる!!」


「上等よ、このバカぁぁああああーーーーーー!!!!」



「勢いでカッコいい感じに持って行ってるッスけど、完全に悪いのお前ッスからね?」




その日、結局僕は全身打撲を受けることとなったのだが、僕を守ると言ってくれた人は誰も守ってくれないのであった。


確かに普段と比べると軽傷だけどさ……なんか、僕こんなんばっかじゃね?



「きゅるるん!」

「ぎゅぎゅう!」

「WOOOOOW!!」



あ、ワサビとギンシャリを乗せながら楽し気にユキムラが走り回っている。


仲良くなったんだ……良かったね!






「ぐはぁ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁあああ!!」



後輩の歌丸連理うたまるれんりがメイド服を着た稲生薺いなせなずなにコンボを嵌められている光景を眺めながら、下村大地しもむらだいちは考える。



「まぁ……正論ではあるよな」


「え……もしかして、大地さんも獣耳が?」


「いやそうじゃなくて」



隣にいた日暮亜里沙ひぐらしありさの言葉を即座に否定する。


生憎、大地にはそういった趣味はない。


あってもせいぜい水着関係にこだわりがある程度だが、今は割愛しておくことにした。



「ただ、大した理由もないのに想いを打ち明けないのって……間違ってはいるんだろうなって」


「え……」

「…………アースくん?」



後輩の言葉で区切りがつくというのも癪だが、このまま何もしないほうが格好悪いし、何よりたぶん今を逃すとこの後もずっと区切りがつけられない。


そう思って、大地は視線を空中コンボに移行している歌丸から外す。


…………物凄く非現実的な光景が今映ったような気がしたが、おそらく気のせいなので気にしないことにする。



「瑠璃、ちょっと大事な話があるから一緒に来てもらえないか?」


「え……?」


「あ、あの……大地さん、それは……その、この場では駄目なのでしょうか?」



猛烈な嫌な予感がした。


引き留めようとしたが、すぐにそれは無駄だとわかる。


大地の顔を見て亜里沙はすぐにそう気付いた。



「すまないが、瑠璃と二人っきりで話したいんだ。


その……亜里沙には悪いんだが、席を外してくれ」




「……………………は、ぃ」




もともと、気づいてはいた。


こういうことになる可能性は常にあったことくらい。


だってずっと遠くから見ていたのだから、気付かないはずはないのだ。


そしてそれが、思わぬところからの後押しによって為された。


まだ始まっていない、けれどもようやく始めようとした一人の少女の歪んだ思いは今……



「ち、ちちょっと、流石にやりす――げぼぉ!?」

「わああああああああああああああああああ!!」


「ナズナ、流石にやり過ぎよ!」

「やばいって、歌丸やばいって!!」



身内に必死になだめられているメイドに、マウントを取られて殴られ続ける情けない後輩によって、終わったのだった。








「酷い目にあった……」



回復用のポーションもらったからもう傷も痛みもないけど、精神的にボロボロだよ、僕は



「同情はするッスけど、女心を踏みにじったお前の責任ッスよ?」


「えぇ、何が?」


「本当にわからないんスか?」


「だってさ、嫌いな奴から変に好意を受け取っても普通に嫌でしょ?


だからきっぱりそういうのは無いって言っただけなのに…………なんで殴られるの、僕?」


「うーん……対処法の取り方は正しいのに、根本を理解してないからこそのミスッスかねぇ……まぁ、パーティの今後を考えればこれでいいんスけど……」


「何が?」


「いや、もうお前はそのままでいてくれッス」


「?」



なんかよくわからないが、時刻はもう夕方で、みんなとは別れて僕たちは寮に向かっている。


ギンシャリとワサビは疲れたのか眠ってしまったので今はアドバンスカードの中だ。



「とりあえず今日はもう早めに寝よっと」


「そうッス……それにしても、なんか姉貴最後のあたり急に元気なさそうだったけど、なんだったんスかね?」


「そういえばそうだね……下村先輩や瑠璃先輩もなんかよそよそしかったし……あれ?」



ふと、玄関の方を見るとピンク色の小さな影が見えた。


最初は置物かと思ったが、よく見るとそうでなかった。



「きゅきゅう……!」



なんかフリフリの衣装を着せられたシャチホコが、ものすごい形相でこっちを見ている。



「よぉシャチホコ、出迎えしてくれてた」「きゅう!」「ぐへぇ!?」



いきなり蹴られた!


なんか今日、こんなんばっかりじゃないか?



「い、いきなり何を――どはぁ!!」


「きゅきゅきゅきゅきゅきゅ!!」


「ち、力強っ――お前、能力同調ステータスシンパシー使ってるだろ!?」



こいつ僕の筋力値を自分のステータスに加算して攻撃してる!


稲生と同じくらいに痛い!



「あらあら……」


「あ、白里さん、これどういうことッスか?」



奥から出てきた白里さんが困った様子で出てきた。


と、とりあえずこいつ止めて!



「シャチホコちゃん、テレビに映った歌丸くんみてね、なんだかとっても羨ましそうにしてて、そのあとニュースで打ち上げしてる光景も映ったのよ。


それ見てから物凄くやさぐれちゃって……」


「ああ……シャチホコにしてみれば置いてけぼり食らったようなもんッスからね」



「あの、二人ともとりあえず助け――――!」

「きゅきゅーーーーーーううぅ!!!」



「ぐはぁ!?」




…………なんというか、散々な土曜日だ。

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