第100話 モンスターパーティ② フラグは立ててた。
『第4チェックポイントは趣も変わって氷河エリア!
氷雪系の魔法を使ってもらい、ツルツルと滑る氷面を溜め池に作っていただきました。
ちなみに、明日までスケートリンク場として開放いたしますので、皆さんどうぞご利用ください!』
さらっと宣伝する実況を聞きつつ、ひんやりとした空気を感じながらチェックポイントを走り抜ける。
見ると、先行した他の人たちがリンクの真ん中で何やら立ち往生していた。
『さーて、選手全員がリンクに到着しました。
ここでチェックポイントクリアの条件は氷の中に埋まっているボールを回収することです』
よく見ると迷宮生物たちがリンクの上に爪を立てたり地団太を踏んだりしている様子だ。
『リンクの作成には北学区の最強魔法使いの金剛瑠璃さんに協力していただきました』
『「瑠璃先輩かよ(ッスか)!?」』
『お前かよ!?』
『貴方ですか!?』
何か今、この場にいない人たちとほぼ同時に突っ込みをしたような気がした。
『氷雪系最強魔法【ニブルヘイム】で作られた氷はちょっとやそっとじゃ壊れません、流石ですねぇ!』
『ああ、
アレだろ、一度凍り付いたら同等の火炎魔法の【ムスペルヘイム】をぶつけるか、百人以上の火炎魔法をぶつけないと溶けないっていうやつ』
何使ってんだあの人!?
なんでそんな危険な魔法を使ってスケートリンク作ってんのっ!?
『まぁ、正確には最低でも三日間は解けない氷ということなのですが……とにかくその頑丈さは保証済み。
ここで一番苦戦しているのは爪がない上に軽量のシャドウライダーのようですね』
見れば黒くてうっすら透けて見える黒い馬が
一方、マーナガルムはその鋭い爪で少しずつリンクを削っており、金属光沢のある羽をはやしたアイアンホークはその
ファングトータスという、カミツキガメを巨大化させたような
『やはり見たところ爪も重さもないエンペラビットがここでは一番苦戦するのでしょうか?』
『いや、むしろあいつの一番の得意分野だろ、これ』
『え?』
『お前、第9層の
その通り
物理的に頑丈な物質の破壊
むしろそれは僕とエンペラビットたちの得意分野だ。
氷の中に埋まっているボールを見つけて、僕はギンシャリに指示を出す。
「ギンシャリ! 【
「ぎゅぎゅう!」
ギンシャリの額に紫色に淡く発光する角が生えた。
『あ、あれは物理無効スキル! 学長公認の、唯一ドラゴンにダメージを与えられるスキルです!』
実況もようやく気付いたのか声を荒げる。
先ほども網を破壊するのに使ったが、やはり物理無効スキルはこういう状況でこそ真価を発揮する。
他の参加者もギンシャリの能力に驚いている。
「ぎゅぎゅーう!」
ギンシャリは高らかと角を振り上げ、そしてそのまま額を氷にぶつけようとして……
「ぎゅ?」
――つるーんっ
氷に滑ってどこかに行ってしまう。
「ギ、ギンシャリー!?」
慌てて滑っていくギンシャリを追いかけ、僕も転ばないように気を付ける。
『ああ、額が小さくて体が丸まっているから、真下への攻撃ができていません!
歌丸選手、勢い余ってリンクの上を滑っていくエンペラビットのギンシャリくんを追いかけています!』
『ぶははははははははははははははははっ!!』
土門会長が解説の仕事を放棄して大爆笑しているのが聞こえてくる。
くっ、これは予想外。
「ふふふふふっ、無様ね、歌丸連理!」
そしてこちらの様子を見て勝ち誇ったようにどや顔している
「勝ち誇ってるけどマーナガルムの爪よりアイアンホークの方が掘り進んでるからな!」
「えぇ!?」
僕の指摘に気付いて急いでそちらの方を見る稲生
確かに爪よりは嘴の方が一点集中で掘りやすいかもな。
その一方で僕もギンシャリを回収し、ボールの位置まで戻ってくる。
このままでは氷を砕くことはできないぞ。
「くっ……いったいどうすれば…………あれ?」
ふと気が付くと、シャドウライダーのパートナーの上級生と思われる生徒がかろうじて割れた氷を手でどけているのが見えた。
「すいませーん! ここって学生が手を出してもいいんですかー!」
大声で叫ぶと、こちらの声が向こうにも届いたようだ。
『え? あー……えっとですね、こちらでは氷の破壊は
「なるほど……ならば、ギンシャリ、スキルを維持したまま体を丸めろ!」
「ぎゅ?」
「一体何をするんだよ?」と不思議そうに首をかしげながらも僕の指示通りにするギンシャリ
僕はそんなギンシャリを持ったまま、頭を下にして両手で持ち上げる。
『……あいつ、まさか』
解説の土門会長が何かを察したようだが、構わず僕はそれを実行する。
「どりゃあああああああああ!!」
『ああっと、歌丸選手、丸まったパートナーを持って氷の掘削作業を始めましたぁ!!』
『やっぱりなぁ! あははははははははは!』
『い、いや会長、これ笑ってる場合じゃ……』
僕の行動に他の参加者も唖然としており、そしていの一番に稲生が声を荒げた。
「は、反則! あんなの反則でしょお兄ちゃん!!」
『はいお兄ちゃんいただきました。
それでは柳田お兄ちゃん、解説を』
『どうも、柳田土門お兄ちゃんです』
「ぐ、ぐぅぅぅぅうううう!!」
おいやめてやれ。
うっかり素で呼んだのをいじってやるなよ。
稲生のやつ顔真っ赤で涙目だぞ。
「う、歌丸連理ぃ!!」
「いやなんで僕?」
なんか涙目で睨まれているけど僕は構わず掘削作業を続ける。
『まぁ、セーフだな。
あれは連理じゃなくてギンシャリのスキルの力が掘ってる。
あいつはそれをサポートしてより効率的に進めてるだけだろ』
「ふはははははははは! どうだ聞いたか稲生!
これは合法! 正義は僕にありぃ!!」
「ぐ、ぐぅう! 調子にのってぇぇええええ……!!」
稲生が涙目でこっちを睨んでくるが、まったく怖くない。
むしろその視線が心地いいね!
『いやはや、想像以上に大健闘していますねぇ歌丸選手
っと、そうこうしているうちに、あっさりとボールを回収してしまいましたね』
『ちなみに今さらだがリンク内は攻撃禁止エリアだから妨害はできないぞ』
余裕の一位に出戻り逆転!
このまま一気に次のチェックポイントを目指す。
が、
「あ、あれぇ……?」
あまりに不安定な足場に僕の歩みも止まる。
少し小高い感じの丘を駆け上がったと思ったら、そこにあるのは複数の岩の柱がワイヤーにつながれている場所だった。
『続く第5チェックポイントは溶岩エリア!
各岩場から岩場へと太いワイヤーが設置されており、それを綱渡りの要領で移動していきます!』
『本物はその岩場の下にリアル溶岩が流れててな、この出場している中だとファング―タス以外はそこを移動できないんだよな。
ちなみに今回は流石に本物の溶岩は危険だから、ちょっと熱めの温泉が流れてるぜ。
だから安心して落ちてもいいぞ!』
『はい、レースということで岩場を移動するもよし、熱い温泉を泳ぐもよし、岩場を飛び越えるもよし、上空を飛んでいくもよし!
ここが最後のチェックポイント、皆さんの技量が物を言いますね!』
なんとも好き勝手言ってるが、かなり熱そうだぞこの温泉
火傷とまではいかないけど、落ちたらヒリヒリしそうだ。
「と、とにかく行くぞギンシャリ!」
「ぎゅぎゅう」
最初は驚いたが、クリアスパイダーとの戦いのときの足場みたいなもんだろう。
「うおりゃああ――――ぁあああぁああああっ!?」
「ぎゅぎゅっ!?」
『歌丸選手、一歩目から足滑らせたぁーーーーーー!!
ワイヤーに捕まって落下は防ぎました!』
どうにかギリギリで踏みとどまり、ギンシャリも僕の服を引っ張ってどうにか引き上げてもらった。
「も、もう一度ぉおおおおおおっ!?」
「ぎゅ、ぎゅぎゅう!!」
『まさかの一歩目からの苦戦! 歌丸選手、まさかの地点で足止めを食らっています!』
『頑張れ連理! お前クリアスパイダーの時も足場悪い中でも戦ってただろ!』
『そうこうしてる間に、マーナガルムが追いかけてきました!』
実況の声にワイヤーに捕まりながら振り返ると、稲生がまたまたどや顔を見せてくる。
「無様ね、歌丸連理!」
「ぐぅ!」
今まさにその通りなのでなんも言い返せねぇ!
マーナガルムは稲生を騎乗させたまま僕とは別のワイヤーを器用にその巨体で走っていく。
そしてそのすぐ後をアイアンホーク、続いてシャドウライダー、ワイヤーを足場に駆け抜けていく。
一方、ファングトータスもやってきて、普通に温泉地帯を移動して言っている。
「ま、負けてたまるかぁ!」
こうなればもう、このまま移動だ!
『歌丸選手、ワイヤーに全身で掴まりながら移動!
ナイスガッツ! しかし、その移動速度は圧倒的に遅い!
首位争いはマーナガルムとアイアンホークのどちらかに決まったようです!』
■
「やった、勝てる……優勝できる!」
トップを走っているマーナガルムを駆る
自分の姉の育てたこのマーナガルムの速度なら、アイアンホークよりも早く駆け抜けられる。
一番警戒していた歌丸連理も、ワイヤーに芋虫のように掴まりながらもぞもぞと惨めに移動している。
途中予想外はあったが、完全勝利だ。
「――そう簡単に勝たせはしないぞ一年生!」
「っ!」
上空からの声
見れば、アイアンホークが迫っており、その背中には上級生の男子生徒がいた。
「頼むぜ相棒!」
「KUOOOOOOO!」
男子生徒はアイアンホークの背から飛び降りると、身軽になったアイアンホークが急降下してマーナガルムに襲い掛かってきた。
「GUOOOOOO!!」
アイアンホークの襲撃を回避はしたが、足場が悪くそれはかろうじての話。
一方で、振り落とされないようにマーナガルムの背に捕まっていたナズナは信じられないものを見た。
「と、飛んでる……!」
先ほどアイアンホークの背から飛び降りた男子生徒が、空中を飛んでいるのだ。
いや、正確にはかなりゆっくりと落下している。
『三年のブリーダーである佐原選手、あれはレビテーションの魔法でしょうか?』
『佐原は俺のギルドに所属しててな、ウィザードの適正もあって、アイアンホークと契約してからレビテーションの魔法を覚えるために転職したことがあったんだ。
あんなふうに空中なら敵に襲われにくいし、アイアンホークも自由に動けるから結構強いんだよな』
『ここで一気に動いた佐原選手!
三年の意地を見せてマーナガルムを駆る稲生選手に攻撃をしかけます!』
「くっ……マーナガルム、前に――わわっ!?」
ナズナが指示するよりも早く、アイアンホークの攻撃を避けようとするマーナガルム
しかしその行動はその場から後退するような形であり、ゴールから遠ざかる。
『アイアンホークがマーナガルムをけん制してる間に、空中に浮遊している佐原選手、気流系統の魔法を使用! ゴールの方向へと移動しています!』
『魔法の二重発動……本職顔負けの技術だな』
実況を聞いて上空を見ると、佐原が前に移動し、首位を奪われていた。
『続いてシャドウライダー、体重が通常の馬の半分以下であるその身軽さから、加藤選手を乗せながらでも楽々と進んで行きます!』
『ファングトータスもここで追い上げてきたな』
横と下を見れば、徐々にこちらに迫ってきている。
このままアイアンホークを牽制されると、佐原に先にゴールされる。
「――くっ!」
優勝を狙うナズナは、意を決してマーナガルムの背から飛び降りた。
「GUR!?」
ナズナの行動に驚いたマーナガルム
すぐに追おうとしたが、それをアイアンホークが邪魔をする。
「他のモンスターをどうにかして、私はゴールを目指すから!」
そう指示を出し、不安定な足場のワイヤーの上を慎重に前に進む。
『お、おいおいナズナ、無茶はするなって!』
『会長落ち着いて……!』
ナズナは慎重に前に進むことばかりを意識し、周囲へと意識が回らなくなる。
「絶対に、優勝するんだ……!
それで私が凄いんだって……あんな奴なんかより、私の方が凄いんだってみんなに認めさせるんだ……!」
ナズナを今突き動かすものは、歌丸連理に対する嫉妬だった。
北学区でありながら、誰もが出来なかったエンペラビットのテイムに成功し、そして南学区の目標の一つである迷宮生物との和解をエンペラビットとドライアド相手に成功してみせた。
今は秘密裏ではあるが、どうやって歌丸を引き抜こうかとナズナが尊敬する柳田土門と姉である稲生牡丹が話し合っていたことも聞いたことがある。
それが悔しかった。
子供じみた嫉妬であることはわかってはいたが、それでも我慢できなかったのだ。
自分の大好きだった二人が、自分ではなく他のどこの馬の骨ともわからないような奴を気にかけていることが、気に入らない。
だからこそ、証明するのだ。
この場に歌丸が出てきたことは予想外だったが、自分は凄いと、姉の後を継げるくらい立派であるとみんなに証明するためにこの大会で優勝して力を示す。
「絶対に、優勝を……!」
そう意気込んだ時、ナズナは足を滑らせる。
「あ――」
悲鳴をあげることもできず、落下
下に広がる温泉の中へと落ちる。
「あ、熱、熱い、いっ――!?」
咄嗟に温泉から出ようとばたついた時だ、先ほどまで緊迫状態にあった足を強引に動かした結果か、足が攣ってしまった。
その結果、ナズナはまともに動くこともできずにその場でもがく。
『あ、ああああっ! やばっ、やばいやばい、レスキュー早く!!』
『会長落ち着いてください! 待機してる救助の方がもう動いてますから!!
――って、あれはぁ!!』『え!?』
何やら実況の方で騒いでいるようだが、ナズナはそれを理解できないほどに混乱していた。
ただ必死に溺れないようにもがく。
(だ、誰か……助け――)
熱いし息苦しいし、早くこの場から誰か助けてくれと必死に空中に向かって手を伸ばす。
でもその手を掴む人は誰もいない。
それで諦めようとした時だ。
「――
誰かが手を掴み、急に周囲の熱さが軽くなった。
混濁していた意識も、急速に冷静になっていく。
「前に進めッ!!」
どういうことかと思ったが、とにかく足を動かす。
先ほどまで攣っていたはずの足が普通に動かすことができて、気付けば自分が走っていることに気が付いた。
「――え、えぇっ!?」
そして驚く。
ナズナは気が付いた時には、水面の上を走っていたのだ。
それも、何故か歌丸連理に手を引かれて。
『こ、これはまさかの歌丸選手!!
忍者のように水面を走って、稲生選手を救助、そのまま溶岩エリアを駆け抜けていきます!!』
『連理ぃ! お前やればできる子だって信じてたぞぉ!!!!』
実況席は大盛り上がり
ただただ困惑するナズナだったが、歌丸はそんなことお構いなしに声を張り上げる。
「このままゴールまで突っ切るぞ!!」
「は、はいっ」
困惑しながらもつい頷いてしまい、手を強く握られてしまったので反射的にナズナも握り返してしまう。
(なんだか……懐かしい……)
幼いころ、兄のように慕っていた土門に手を引かれていた時のことをなんとなく思い出す。
そして今、自分の前を走る歌丸の背中が、当時とても大きく見えた土門の背中と重なった。
――ドクンっ
「っ――!」
突然、ナズナの体が熱くなる。
先ほどまで軽減されたはずの熱が、今度は内側から燃え上がるようだった。
(な、なに……これ、いったい何……!?)
困惑するナズナをよそに、歌丸はただ前だけを見て疾走する。
そして……
『――ゴーーーーーール!!!!
歌丸選手と稲生選手、手をつなぎながらゴールを決めました!!
そのすぐ後にエンペラビット、そしてアイアンホーク、シャドウライダーをリタイアさせたマーナガルムも即座にゴール!
歌丸選手と稲生選手で、一位と二位が決定しましたぁ!!!!』
モンスターパーティは、誰もが予想外の結果に終わる。
…………この後に!
■
「やったぁ! 一位だぁ!!」
「ぎゅぎゅう!!」
自分でもびっくり
稲生の奴がおぼれだしたとき、思わず僕もワイヤーから手を放して落ちてしまったけど、その時
――水面走ればいいんじゃね?
体重軽い状態で走れるなら、沈む力よりも水を蹴る力の方が強くなるから忍者みたいに見事に走れた。
おかげでファングトータスも追い抜いて、上で小競り合いをしている連中も無視して一位でゴール!
「ばんざーい、ばんざーい!」
「ぎゅぎゅーう、ぎゅぎゅーう!」
もう僕とギンシャリはお祭り状態、嬉しさのあまり小躍りでも開始してしまいそうだ。
「な、い、いつまで手を握ってるのよ!」
「おっと忘れてた」
そういえばつないだままだったっけ。
「くっ……ふん……笑いたければ笑いなさいよ!」
「え? 何が?」
稲生が突然怒り出す。
一体どうしたのか……意味が分からない。
「~~~~っ……どうせ、私のこと馬鹿にしてるんでしょ!
あれだけ大口叩いておいて、結局あんたに負けて、それどころかこんな風に助けられて……私、凄い無様だって思ってるんでしょ!!」
「そんなことは思ってないけど…………あ!
ああ、じゃあ……とりあえず一言だけ」
「何よ……!」
僕は背筋をピンと伸ばし、直角に体を曲げる。
「ごめんなさい」
「ぎゅう」
一緒になってギンシャリも頭を下げる。
「は……? な、なんであんたが頭下げるのよ?」
「スタートの前、僕は君とマーナガルムの信頼関係について馬鹿にした。
だけどさ……ほら」
「――きゅぅん」
「え……あ」
マーナガルムは今、とても心配した様子で稲生にすり寄っていた。
「そいつ、僕が行かなければすぐにでも下に飛び出しそうだったんだ。
僕が助けに行かなくても、君はどっちにしろ無事だった。
君の無事を見届けてから、マーナガルムは君の指示を従ってアイアンホークとシャドウライダーを撃退して素早くゴールした。
少なくとも、君がそいつから信頼されてるってことだ。
だから僕が間違ったことを言っていた。それを今、謝罪させて欲しい」
「…………そう、だったんだ」
今まで怒っていた稲生は微笑みながらマーナガルムの頭をなでる。
マーナガルムは気持ちよさそうに目を細めた。
「ごめんね、君がそんなに私のこと思ってくれたのに……私、自分のことばっかりで」
「ぐるぅ……」
互いに身を寄せ合う稲生とマーナガルム
美しい主従関係だな。
「まぁ、それでも優勝したのは僕なんですけどねぇ!!」
「んなっ」
「ぐるぅ」
「ぎゅーうぎゅー」
「やーれやれ」って感じの動作をするギンシャリ
いったいどうしたというのか?
「優勝だぁ! 一位だぁ!!
僕が一番だーーーーーー!!!!」
「な、なに調子に乗ってるのよ!」
「ぷぷぷぷっ、二位が何言っても痛くも痒くもありませーん!」
「こ、この……!」
肩をプルプル震わせながらこちらを見る稲生
いやぁ、やっぱり勝つって気持ちがいいなぁ!!
『――あー、えーっと……それでは、結果を発表しますぅ』
と、ここで実況の声が聞こえてきた。
さぁ、ここで高らかに再び僕の名前が呼ばれるであろうと、身構える。
『まぁ、色々とありましたが…………ひとまず優勝者とそのパートナーを発表します。
会長、どうぞ』
『…………ああ』
おや、なんか土門会長の声に元気がないな?
もしかしてアレかな、優勝して大穴だったからもらえるお金の額にビビったのかな?
まぁ、僕が優勝するのはみんな予想外だったし、嬉しさのあまり呆然自失なんてことも――――
『優勝は……三年、葉山とファングトータスだ』
「「え」」
「ぎゅ」
「がる」
「「「え」」」
「「「「「「「「え」」」」」」」」
みんなが「え」である。
僕も稲生も、ギンシャリもマーナガルムも、後からゴールした先輩方も、観客席にいた生徒たちも、みんなが「え」である。
いや、え、え、え?
え、いや、え、その、え?
もう一回言うけど……え?
『えっと……一位と二位でゴールした二人は、スケープゴートバッチの破損によるペナルティで、二位と三位だ』
その言葉に、僕と稲生は即座に胸ポケットに手を当てた。
そこにはスタート前に着けていたはずのバッチがなくなっている。
「そ、そんな、攻撃何て受けた覚えは…………あ!」
『ナズナについては、その……温泉に落下したときに攻撃判定を受けたようだ』
「ち、ちょっと待ってください!
じゃあ僕は!?
攻撃何て受けてないし、落下の時も着地しましたよ!!」
納得できずにそう叫ぶと、実況の人の声が返ってきた。
『歌丸選手、暗闇エリアでトラップ受けましたよね?』
「は、はい…………って、まさか…………あのタライっ!?」
タライ……まさかの、タライで……!
『いえ、歌丸選手についてはその前の網から脱出したとき、受け身を取らずに尻もちついた時ですね』
――――タライですらないだとっ!?
『まぁ……二人とも十分に健闘したってことで……拍手!!』
パチパチパチと……小さく、むなしい拍手が観客席から聞こえてきた。
僕と稲生は、ただ茫然とその場に立ち尽くす。
そして見事優勝したファングトータスとそのパートナーの葉山先輩は、どことなく引きつった表情で優勝を喜んではいたが……
『これは……なんと言えばいいのでしょうね会長?』
『……まぁ、あれだな。
“ウサギとカメ”って感じの結果だよな』
誰が上手いことを言えと……
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