第90話 歌丸のクセに……

どうも、歌丸連理です。


現在迷宮で相田和也あいだかずやとかいう面倒な奴に追われており、非常にピンチです。


一発逆転で何かスキルが無いかとカードを確認したら、僕とシャチホコたちのポイントがごっそり減っていたので、まさかと思って苅澤さんのスキルを確認したのですが……



生存強想せいぞんきょうそう:Lev.2 義吾捨駒奴ギアスコマンド

・人道に背かない内容である限り“対象”に命令を強制的に実行させられる。

・命令実行中、“対象”は命令達成のための補正を受けられる。

・命令内容は“対象”の実力と補正の加算を合計したものを比較した上で達成可能なもので、かつ最長で10分以内のものとする。



発動条件

・対象と共存共栄きょうぞんきょうえいLev.1 特性共有ジョイント発動

・苅澤紗々芽の立場が対象より上位だと認識していること。


上記の内容をすべて満たしているときに発動可能】



案の定、パッシブトリガーが発動してしまったようだ。


これは酷い。


何が酷いって、なんかもう…………言葉では言い表せないくらい酷い。


なんか僕の恩恵贈呈ギフトが勝手に苅澤さんに発動してしまったみたいだ。


まぁ、確かに仲間を助けるために命を懸けるってのも発動条件だったけどさ、そこは僕にスキルが発動してもよかったんじゃない?


こう、そろそろ僕も漫画の主人公みたいに覚醒! とかしてみたかったんだけど……



「……これってもしかしてもう使えるのかな?」



スキルの内容を確認して、苅澤さんはさらりと恐ろしいことを口にする。



「いや、そんなことより早くここから逃げる算段を」「黙って」



っ、な、なんだ、口が、勝手に閉じて開かない……!?



「喋っていいよ」


「――あ、あー…………ふぅ……発動はできてるみたいだね。


とりあえずこれは今必要ないから」「勝手に特性共有ジョイントを解除しない」



っ……ま、また命令で僕の行動が封じられた。


なんか、ものすごくやりづらいんだけどこれ!



「歌丸くん、そこの壁壊してみて」


「え? いや、そんなことできるわけが――ってあれぇ!?」



僕の意志とは無関係に、僕は近くの壁に向かって大きく手を振りかぶっていた。



「――パワーストライク!」



そして勝手にスキルを発動。


当然壁は壊れない――と思いきや、まだまだ体が勝手に動く。



「パワーストライク、パワーストライク、ストライクぅぅぅぅ!!!!」



英里佳や詩織さんがやったようなスキルの連続発動


僕もそれを実行してひたすら拳を叩き込み、そして数秒後には壁に大穴ができた。



「………………あ、あれぇ?」



僕は今自分がやったことが信じられなくて拳を見た。


そこには普段通りの拳があり、あれだけ壁にたたきつけたのにまったく手が痛くない。



「……なるほど、これって歌丸くんを私が強化するスキルなんだ」


「え、そうなの?」



嫌がらせにしか使えないスキルっぽかったんですけど。



「命令に従うってのは副作用で、本命はこの“補正”の方だね。


この補正があれば、いくらの歌丸くんでも強化してない詩織ちゃん……ううん、強化無しの英里佳くらいには戦えるかもしれない」



さらっと人のことザコとか言いやがったよこの女


ぶん殴ってやりたいが、スキルがあるから無駄なのだろうし、今はそれどころじゃないのでぐっと我慢する。



「じゃあ、選択肢が増えたって考えてもいいの?


僕が相田和也と戦えるってことで」


「それは流石に早計かな……このスキルでの戦闘って正直歌丸くんよりも私の指示のタイミングがかなり重要になるし……指示が聞こえなきゃスキルが反応しないのか、距離とかその辺りもわからずに使うのは危なすぎるし……」


「なるほど……その辺りも考えないと駄目か」


重要になるのは苅澤さんの指示の内容とタイミング


指示伝達の方法が確立していない状況で使うのはちょっと危ない気もするな。



「だったら一番はやっぱり逃げること、か……補正の効果で僕の移動速度を上げるって感じで行けたりするのかな?」


「それが一番かな。


今まで獲得した歌丸くんのスキルの中で、これ一番使えないね」


「うーん、僕のせいみたいに言ってるけど、発現させたのは苅澤さんだからね?」


「え、歌丸くんでしょ? 別に私こんな使欲しがるわけないでしょ」


「何で僕が他人に命令されるようなスキルを覚えるの?


何で僕が僕の得にならないスキルなんて覚えるのさ」


「それだったら私だって、そもそも歌丸くんに命令できたからって一体何が得があるの?」



殴りたい、この女。



「迷宮で起こる変な事態は大体は歌丸くんのせいなんだからおとなしく受け入れて」


「ぐぬぅ……!」



スキルの効果か、なんか仕方ないって気持ちになってしまった。


なんか僕のせいな気がしてきたぞ。



「そもそもそっちが何ていってもこのスキルで歌丸くんは反論なんてできないんだから無駄なことはしない方がいいよ?」



勝ち誇ったような顔でこちらをみる苅澤(もはや“さん”はいらん)


イラっとくる。イラっと来るけど逆らうといろいろアレだから我慢する。



「性悪女(ぼそっ)」


「は? 今何て言ったの?」


「いってませーん。別に君に対しては何にも言ってませーん」


「……謝って」


「断る」


「なっ……え、いいから謝って! ほら、謝って!


……………………なんでスキル発動しないの?」


「僕はただ素直な心情を吐露しただけで、君に対して暴言を吐いたわけじゃない。


ただ独り言を呟いただけで、君に対して謝罪するのは不合理、つまり人道に反する!


だからスキルが発動しない!」


「な、なんて面倒なスキル……使えるのか使えないのかよくわからない効果とか本当に歌丸くんそのものでしょ。やっぱり歌丸くんが発現させたスキルなんでしょ」


「どんだけ僕のせいにしたいんだよ!


こんなスキルのせいで貴重なポイントいくつ使ったと思ってんだよ、そのポイント返してよ!」


「だからそれは私のせいじゃないって言ってるでしょ!」


「いーや、君だ!」


「そっちのせい!」


「苅澤、ちゃんと責任を自覚しろ!」


「偉そうに! もっと私を敬いなさいよ!」


「嫌に決まってるでしょ紗々芽様! あ、あれ?


――紗々芽様、紗々芽様…………くっそう紗々芽様って言えな、ああもう、なんだこれっ!?」



普通に苅澤と呼ぼうとしても口が勝手に“紗々芽様”としか言えない。



「うーん……なんかちょっと馴れ馴れしい気がして気持ち悪いかな」


「おい」


「とりあえず私に対しては常に敬語で喋ってね」


「嫌です、紗々芽様――ってああもうっ!?」


「ぷっ…………結構面白いスキルかもね」



「――ふたりとも、あそばない」



そんなやり取りをしていると、今まで黙っていたドライアドのララがちょっと怒った様子でこちらを見ていた。



「いまここ、めいきゅう。ふざけるの、きけん」


「「…………はい」」



至極まっとうな意見に僕も紗々芽様(無自覚)も頷くしかなかった。


そうだ、ここはまだまだ危険地帯で、こんな下らない言い合いなんてしてる場合ではなかった。



「ごほん……とりあえず紗々芽様、逃げる提案についてですが」


「あ、やっぱり気持ち悪いから敬語はなしで」


「…………………………とりあえず一緒に逃げるのはあまり賢くないのは事実なんだ。


相田和也は転移系のスキルを持っていて、僕やシャチホコの耳に引っかからなかったのは突然僕たちの進行方向に現れたからなんだ。


また同じように先回りされる危険性がある。


というか、たぶんもうされてる」



先ほどから僕たちを追ってくる足音が一切しなくなった。


代わりに、なんだか進行方向が騒がしい感じがする。



「だからって、歌丸くんを囮にして私たちが逃げろって」


「やっぱりそれが一番賢いって思うんだ」



相田和也は理性をもってしても僕を殺そうとしている。


逆を言えば彼の意識は完全に僕に向いているわけで、紗々芽様が逃げるだけの隙は充分にあるのだ。



「……ところで、歌丸君は相田くんに恨まれる覚えってある?」


「えっ……いや、特に何も。


もともとルームメイトだったけど、それだけだよ。


僕のアドバンスカードを盗もうとしてきて、その次の日には勝手に部屋から出ていったってくらいで……それっきりこの間のクラスでの会話以外は何も接点はないよ」


「それと……歌丸くんからは特に相田君に対して強い恨みみたいなものもなかったんだよね?」


「まぁね」


「じゃあ、どうしてあの時相田君の言葉を無視してたの?」


「あの時?」


「相田君と戦ってた時、なんかいろいろ歌丸くんに言ってたでしょ?」


「言ってたけど…………それ、今関係ある?」


「たぶんあると思う。


少なくとも、相田くんにとってはそれが一番大事なことだったと私は思うの」



そういわれて、僕は少し考える。



「確かになんか言っていたようだけど、よくわからないんだよね……」


「よくわからないって?」


「だってさ、なんか力を誇示してるみたいな感じの言動だよね、アレ」



どうだ俺は凄いだろうって感じの内容だった気がするが……



「総合的にどう考えても相田和也の方が強いよね」


「まぁ、うん」


「そんな当たり前のこと、なんでそんな大事なことみたいに言う必要があるの?」



僕がそう言うと、紗々芽様は少しばかり間をおいて問う。



「歌丸くんにとって、相田和也という存在ってどんな認識?」


「どうって……そんな急に言われても……」


「なんでもいいの。


こう、凄いとか、強いなとか、嫌なやつとか……」


「うーん……………」



僕は相田和也のことを想いだして、とりあえず素直に意見を述べた。



「正直、関わりたくないかな」


「……関わりたくないの?」



何故か僕の感想に紗々芽様は意外そうな顔をした。


まるで僕がそんなこと言うのを想定してなかったような感じだ。



「いや、だって僕のことを殺したいとかいう相手と積極的にかかわりたいとは思わないよ」


「理由とか、知りたいとは思わないの?」


「知りたい知りたくない以前に、心当たりがこれっぽっちもないんだ。


あそこまで恨まれるにしたって、原因が全く分からなくてさ、接点が驚くほどないんだよ。同室だった時も会話だってまともにしたことがない。


何か僕が悪いことしたのかと思ったけど、部屋で一緒にいるときなんて睡眠時間だけで、イビキとかうるさいのかとも思ったけど、戒斗の反応を見た限りそうでもないし……訳が分からな過ぎて、正直、もう怖いというか……うん、関わりたくないんだよね」


「えっと……つまり…………歌丸くんは、彼に関心がないってこと?」


「まぁ、そうかな」


「……日暮くんとか、割と興味持ってたよね?


最初すごい悪口とかいってたでしょ?」


「戒斗はキャラ強烈だったし、話してみる機会があったからね」



考えてみると、戒斗って今じゃ僕にとっての唯一の親友かもしれないな。



「………………じゃあ、本当に、歌丸くんには相田和也が命を狙ってくる心当たりがないんだよね?」


「うん、まったくわからない。


紗々芽さんはなんかわかる?」


「たぶんわかるかも」


「やっぱそうだよね。そんなわかるわけが…………はい?」



今、なんて言った?



「え? わかるの? マジで?」


「うん。


というか……たぶん、私が歌丸くんに感じてるのとかなり似てる感情から来てると思うよ」


「似てる感情? なにそれ?」



一体どんな感情を彼女は僕に向けているというのか?


それが何のか尋ねると、また苅澤さんは間を置いた。


だいたい十秒ほど、たっぷり時間を置いてから口を開く。



「劣等感……かな」


「…………」


………………


「……………………」


「……………………」



………………………………え?



「なんで?」



まったくもって訳が分からない。


劣等感?


どこでそうなる?


つまり、紗々芽さんや相田和也が、僕に劣等感を抱いてるってこと?


話の流れ的にそうなるはずだけど……おかしくない?


僕のスペック、現状ですら基本的に北学区の底辺なんだけど。



「……ちょっと黙って聞いてて」


「――――っ」



義吾捨駒奴ギアスコマンドが発動し、僕は急に何も喋れなくなってしまった。



「正直言うとね、私は君のこと見下してたの」



うん、知ってた。


というか現状の状況で彼女が僕のことを尊重する雰囲気とかないから今さらだよね。



「だけど、その一方で歌丸くんは成果を出し続けていて君に対して私は…………自分が君に負けているって気がしていた」



それは違う。


そう思ったんだけど、口が閉じたままで何も言えない。



「歌丸くんのことだから、そうじゃないって言おうとしてるんでしょ?


だけど違うよ、私は本当に何もしてない。


君みたいに自分に何ができるのかとか大して考えず、現状できる範囲でできることをやってるだけ」



そう語る彼女はわずかに目を伏せた。



「私が北学区に来てるのは詩織ちゃんがいるからだけど……もっと言えば単に楽だったからだよ。


詩織ちゃんに任せていけば、本当に楽だった。


自分にできることをしっかり果たせば、あとは詩織ちゃんが最高の仕事をしてくれた。


たまにミスはしても、私でも十分にフォローできる程度のことで、本当に楽だった。


エンチャンターって役割も私の性分に合ってたし……たぶん他の職業ジョブだったら私はほかの学区に移ってたと思う。


ただ楽がしたかったから、本当にそれだけで私はここに来た。


おかしいでしょ?


そんな風に怠けたいだけなのに、ちゃんと努力してる歌丸くんのこと見て、見下してたんだから」



自虐的に笑っている紗々芽さん


その姿はまるで懺悔をしているかのように見えた。



「そして……たぶん、私と同じような感情を相田和也も歌丸くんに向けていたんだと思う。


特に、彼の場合は歌丸君が言ったように総合的な実力でいえば歌丸くんよりも強いからなおのこと劣等感が強く、そして悪い方向に作用したんだと思う」



そこまで言われて、僕もようやく相田和也の真意がわかった。


要するに、彼は気に入らなかったのだ。


弱い僕が、誰よりも北学区一年の中で最大の実績を出しているパーティに所属しているという事実が、彼にとって受け入られなかった。


そして学長から力を受け取ったことで、彼のため込んでいた感情が一気に弾けた。


つまりはそういうことなのだろう。


僕が常に周りに感じている劣等感。


そして知らぬ間のうちに僕が周りに抱かせてしまっていた劣等感


それが、相田和也の場合は学長のせいで最悪の方向に爆発したのだろう。



「私も同じだから……相田和也くんの気持ちがなんとなくわかるよ」


「――それは違うと思う」


「え」



自分でも驚いたが、なんか急に喋れるようになった。


確かこのスキル、相互に互いの関係性を認識している必要があるんだっけ。


だったら、たぶん今、紗々芽さんが僕より立場が上だと認識してないから、スキルの効果が切れたんだ。



「紗々芽さん、君が正直に話してくれてうれしかった。


そういうこというのって、たぶんすごい勇気がいることだって思う。


だから僕も正直に言うよ。


僕は君に対して思う印象ってある一点を除いてほとんどないんだ」


「ある一点って……なに?」






「胸、デケェなって」















「……は?」


「エンチャンターとか云々言われてもピンとこないけど、とりあえず胸がデカいって印象がすごくて、ぶっちゃけ今も僕が君に対して抱いている印象はそれしかない。


いいや、むしろその認識がついさっき確固たるものに変わったよ」



なんだか周囲の僕に対する視線が冷たいものに変わったような気がしたが、とにかく僕は一生懸命に思いを口にする。



「君は相田和也と同じなんて言ってるけど、それは違うよ。


君は間違いなく、女性として最高の武器を持つ、胸のデカいとても魅力的な人だよ。


第一印象だけでそこまで君は魅力的なんだ。ぱっと見ほぼ印象に残らない相田和也なんかとは天と地との差がある。


そんな奴と君が一緒なわけがないさ」



僕にできることなんて、基本的に素直に相手に思いを伝えることだけだ。


これまでもずっとそうしてきた。


だから今回もそうするだけだ。



「それに」「黙れ」



あ、あれ? またスキルが発動して……?



「つまりなに?


君にとって私の印象って胸だけってこと?」



喋れないので素直に頷いた。



「胸以外に、私には魅力がないと?」



本当はほかにもあるんだろうけど僕には見つけられないってだけの話なんだが、あながち間違ってないので頷く。



「私が良いというまで逆立ちし続けて」


「いや、そんなことできな――あれぇー?」



急に喋れるようになったので逆立ちなんてやったことないと言おうとしたら、命令されたらあっさりできてしまった。


このスキル不思議。



「ふんっ!」


「ぐほぉ!?」



そんな状態の僕の腹を杖をフルスイングで殴ってくる紗々芽さん。


倒れそうになったが、なんか体が勝手に元の位置に戻る。


なにこれ筋肉の限界とか物理法則とか色々超越してない?



「絶対に言う」


「え……」


「地上に出たら、絶対に歌丸くんに胸触られたってみんなに言ってやる」



そう言ってその場から先へと歩き出してしまった。



「え、あ、ちょ――紗々芽さーん!」



呼び止めるが向こうは一切歩みを止めずに先へと進んでいく。


普通に歩こうにも逆立ちから元に戻れず、仕方なくその体勢のまま僕もついていくが……なにこれ逆立ち進みづらい!!


そしてララやシャチホコ、ワサビも僕の方を一切みずに先へと進む。



「あの、待って紗々芽さん、違うんだ、そういうことじゃなくて、あの話を聞いてください!」


「変態」


「あの、僕も話のチョイスを間違えたのは認めるけど、あのだからですね」


「スケベ」


「だからあの、紗々芽さんー!」


「ロリコン」


「いや、別にロリコンでは……」


「英里佳のこと好きなのに?」


「英里佳はロリってわけじゃ……いや、そうじゃなくて」


「そうだよね、巨乳も好きなんだもんね」


「確かにそっちも好きだけれども!」


「節操無し」


「いや、だから――」



埒が明かないので、とにかく先ほど言おうとしたことの続きを僕は叫ぶ。



「僕は、君のことをもっと知りたいって思ってる!」



僕が叫ぶと、先を進んでいた紗々芽さんの足が止まった。


その間に僕は逆立ちのまま少しでも距離を詰めようと前に進む。



「僕はまだ、君のいいところとかほかにまだよくわかってないけど、相田和也なんかとは違う!


僕は、君のいいところ今からでも、いっぱい見つけたい!


本気でそう思ってる!


君は僕のことそんなに好きじゃないかもしれないけどさ、僕は君のこと好きになっていきたいって思ってるんだ!


今までも、そしてこれからも!」



逆立ちのまま、ようやく僕は紗々芽さんの前にこれたので、真正面から見上げて彼女の顔を見た。



「だからあんな奴と一緒だなんて自分を決めつけないで欲しいんだ!


僕だけじゃない、ララだって君にいいところがあるって、そう思ったから僕や詩織さんじゃなくて、紗々芽さんを選んだんだ!


だからもっと自信をもって欲しい、紗々芽さんは、良い人なんだって、自分で自分のこと認めて欲しい!


自分で自分のこと嫌いになるなんて、そんなのきっと悲しいだけだよ」



紗々芽さんはしばらくの間無言でジッと僕の顔を見ていた。


そしてしばらくしてから急にふきだした。



「ぷ、ふふっ……逆立ちしながらそんな、真顔されても……ねぇ?」


「コレさせたの紗々芽さんなんですけど!?」



僕だってもっと普通にしたいよ。


しかもこの逆立ちしながら見上げて喋るのって首半端なく痛いんだけど。



「あはは……うん、そうだね。


もう普通にしていいよ」


「ぐほっ!?」



命令を解除された瞬間にバランスが取れなくなってその場で崩れ落ちた。


頭は守ったが、地味に痛い。



「立てる?」



そう言いながら差し出された紗々芽さんの手


僕はその手を取って立ち上がる。



「とりあえず、今の言葉に免じてみんなに言うのは保留にしてあげる」


「あ……はい、どうもです」


「とりあえず、今は地上目指そう」


「そうだけど……結局どうするか考えてないんだけど?」


「うーん…………」



紗々芽さんは少しだけ時間を置いてから、にっこりと笑顔で言い切る。



「その時になってから考えよう」


「えー」



なんてアバウト



「だって私たちだけじゃどうせロクなことできないし、私も歌丸くんも参謀役って感じでもないし。


仮に歌丸くんの案を採用したとしても、私の行く先に他に何が仕掛けられてるかわかんないでしょ?」


「………………まぁ、確かに」


「だったらやっぱり一緒に行くのが賢いと思うの。


だから一緒に地上を目指そう」


「えー」


「ウダウダ言わない」


「……はい」



紗々芽さんは僕の手を放して、また先に進む。


僕も今度はそれに置いて行かれないように隣を歩いていく。



「きゅう」

「きゅる」



そうしている間に、シャチホコとワサビが僕の両肩に乗ってきた。



「ウタマル」


「ん? なに?」



少し後ろを歩いていたララに呼ばれ、首を少し動かして振り返る。



「ちじょうでるの、みんないっしょ」


「…………うん、そうだね」



結局何の解決策も僕たちにはない。


いくら考えてもまともな策はないし、都合よくこの状況を解決してくれるスキルも手に入らない。


それでも、不思議と僕たちの不安は和らいでいた。


ただ現実から目を背けているだけかもしれないが……それでも僕たちは地上を目指す。


ただその決意だけが、不思議と全身に力を巡らせてくれている気がした。






ーーーーーーーーーー

※スキルの内容について一部修正しました。

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