第88話 “危機感知”と書いて“主人公補正”

その手に持った剣をふるいながら迫ってくる相田和也あいだかずや


思ったよりはるかに動きが速い。



「シャチホコ、ワサビ、足!」


「「きゅ!」」



僕の指示に即座に反応して動く二匹


二匹とも額に紫に輝く角を出現させており、その状態で攻撃すればすぐに動けなくなる。



「はっ」



はるかに速い動きで迫る二匹のエンペラビットを鼻で笑ったのが見えた。


まさか、油断しているのか?


それがおごりだとすぐに気づくことになると僕が考えて瞬きをした次の瞬間、こちらに迫ってきた相田和也の姿が消えた。



「え――」


「死ねよバーカ」



かなり近くから声が聞こえてきた。


そして頭の上で風が吹いたと思ったときには、僕はいつの間にかその場でしゃがんでいた。



「「なっ!?」」



奇しくも僕と相田和也の声が重なった。


僕は突如後ろに出現した相田和也の存在に


相田和也は僕自身も予想外だった動きで完全に回避されたことに。



「くっ、のぉ!!」



とにかくこの距離はまずいとしゃがんだ状態から槍を振るう。


体勢が体勢だったから、当たっても大して威力はない。


だが相田和也はそんな僕のひょろい攻撃すら受けることも嫌がり攻撃を回避した。



「当たるかノロマっ」



同時に、僕は先ほど彼が背後に現れた理由を知る。


槍の柄が当たる直前、相田和也の姿がその場から完全に消えたのだ。



――転移魔法



西学区の副会長である小橋先輩が行ったものと同じように、一瞬で別の場所に移動できる魔法を相田和也が使用したのだ。



僕からまた距離が離れた場所に出現する相田和也


シャチホコたちもいったん僕のもとに戻ってきて警戒した様子で奴を見る。



「な、なんで……どうして攻撃してくるの……?」



唖然としている苅澤さん


見れば、ララが苅澤さんを守る様に前に出ている。



「あいつが、ドラゴンの言ってた生徒なんだよ」


「そ、それはわかるけど……どうして歌丸くんを……?」


「さぁね。


少なくとも、謝ってどうこう解決する感じじゃないのは確かだよ」



あの転移魔法はおそらく学長がスキルを与えた結果覚えたものなんだろう。


先ほどまで何の気配もなかったのに突然現れたトリックはそれだろう。



「シャチホコ!」


「きゅう!」



素早くシャチホコが単体で相田和也に攻撃を行おうとする。


その直後、また姿を消した。



「ふんっ!」


「なっ?!」



直感で柄を横に構えると、重い手ごたえがした。


視線を横に流せば、やはりそこには相田和也がいて、剣を振り切った姿をしている。



「ワサビ!」

「きゅるう!」



そこへすかさずワサビが脇腹目掛けて体当たり


僕自身もびっくりした防御にあちらも驚いていて今度は回避することもできずに見事に攻撃を受けた。



「つぅ、この、ザコ兎がぁ!!」



一撃そのものは大した威力ではないため、すぐに反撃をしようとした相田和也だが、その前にワサビはすぐに離れた。


一方で僕も、ワサビを振り払おうとして剣をふるい隙だらけになった相田への攻撃を試みる。


間合い的に槍を振っても意味がない。


そう思ったとき、もう僕は左手を固く握りしめていた。



「パワー」



すでにその手に相棒はなくなったが、だからと言って僕の手に何も残っていないわけではない。


それを証明するごとく、僕は腕を可能な限り最速で繰り出す。



「ストライクゥ!」


「がっ!?」



拳に確かな手応えが伝わってくる。



打撃系統初級技・パワーストライク


打撃昆を装備したときに僕も使えるようになった技だったが、使用回数が一定以上となったとき、打撃昆無しでも使えるようになる。


僕がソルジャーの適性を手に入れた時に、これを武器無しでも使えるようになったのだ。


……まぁ、普通に槍で刺したほうが強いから普段は使うことないんですけどね。



閑話休題それはさておき



拳に伝わる感触が突如消えて、僕の視界からも相田和也がその姿を完全に消した。


また転移で距離を取ったのだろう。



「この、ザコ風情が……!


誰の断りを入れて、俺の顔殴ってんだよぉ!!」



口から唾をまき散らしながらそう怒鳴り散らす相田和也


こんな俺様系なキャラじゃなかったが、やはり学長の言葉通りに錯乱しているようだ。



「あの……歌丸くん?」


「なに?


ラッキー回避して調子よく見えてるけど、結構一杯一杯だから手短に!」



自分でもどうして二回もあの攻撃を防げたのか不思議でたまらないのだ。


ぶっちゃけよく死ななかったなと不思議で一杯


次やられたら防げる自信が無い。


だから奴の一挙手一投足には細心の注意を払わなければならな――



「今、どうしてスキル使わなかったの……?」


「………………………………え?」


「いや、『え?』じゃなくて…………相田くんが学長の言ってた生徒なら、歌丸くんが特性共有ジョイントして意識覚醒アウェアーの効果で解決できるって話じゃ…………?」


「………………………………」



あー……そういえばそんな話もあったような……なかったような……



「あの、歌丸くん……?」


「はい」


「もしかしてだけど……その……」


「――過去は気にしちゃだめだ! はい、目の前のことに集中ぅ!!」



違うから、忘れてたとかじゃないから!


まだ枠が二つだけで、今英里佳と詩織さんに使ってて枠が空いてないだけだから!


英里佳の時みたいに枠を外してなんか大変なことになったときのことを備えてるだけだから!



「忘れてたんでしょ! 絶好のチャンス、忘れて台無しにしたんでしょ!!」


「ち、違いますぅ! ちょっとあいつのこと嫌いでイライラっと来てたから、顔面ぶん殴ってやりたかっただけですぅ!!


次ちゃんとスキル使いますぅ!」



とりあえず問題は二人のうちどちらかだが、解除した直後に戦闘能力が落ちる詩織さんより、少しの間猶予のある英里佳の方がこの場合は最適か?


いやでも、また暴走なんてことになったら目も当てられないというか……いやでも詩織さんが強敵と対峙してるときに万が一にも弱体化して捕まって「くっ殺」みたいな状況になってしまったら……!



「そう何度も、てめぇごときの攻撃を受けると思ってんのかぁ!」


「うぉわ!?」



考え事してる最中にまた相田和也が姿を消して剣をふるってきた。


今度もまた直感で攻撃右に跳んだら攻撃を避けられた。


なんで避けられんの僕っ!?


自分で自分の勘の良さにびっくりだよ!



「きゅう!」

「きゅる!」



即座に相田和也に攻撃を仕掛ける二匹だが、何度も食らうかとまた転移する相田和也


またかと思ったとき、何故か考える前にその場にしゃがんだ僕の頭上をまた剣が通り過ぎていく。



「ふん――って、ありゃ?」



槍を振り回したときにはもうそこには相田和也がいなくなっていた。



「糞が! なんで俺の動きがわかるんだ!」



僕が聞きたい。


なんでさっきから完全に対処できるんだよ僕



半ば混乱していると、また奴が転移した。


今度も死角からかと思ったとたん、目の前に剣を振りかぶった状態で現れる。


先ほどとは逆――!?



「おらぁ!」



真正面から降られた剣


僕は咄嗟に槍の柄で剣を受け止めたが、その勢いに押し負けてしまう。


槍が手から弾かれる、とういことはなかったが、防ぎきれずに刃が僕の左肩にかすかに食い込む。



「つっ、ぐう!」



痛みを我慢して押し返そうとしたら、あっさりとはじけた。


肩から血がにじんで制服が赤くなっていくが、今は相田和也から距離を取ることを優先する。



「……はぁ?」



そして、相手はこちらが体勢を整えるまで何もしてこない。


それどころか、相田和也はキョトンとした顔で僕を見ている。



「ふざけてんのか?」


「は?」


「……はぁ」



一息入れたと思ったとき、また真正面に一瞬で間合いを詰めて剣をふるってきた。


今度も真正面ということで槍で防ぐが、同時に腹を蹴られた。



「――かはっ」



続けざま、怯んだこちらに剣での追撃を試みてきたので後ろに跳んで避けようとした。


しかしこちらよりも相手の方が間合いを詰めるのが早くてよけきれず太ももに剣が掠る。


苦し紛れに槍を振るが、当たる前に転移されて避けられ、シャチホコとワサビが近づこうとモーションを見せた直後にさらに遠い距離に移動してしまう。



「……もしかしてお前……」



そう何か言いかけた時、相田和也が姿を消す。


直後、僕は頭の上に何故か槍を持ってきてしまう。


すると、手にずっしりと重い感覚がして首だけで振り返るとそこには剣を振り落とした相田和也がいた。


そこから何か来たかと思えば、振りかぶった拳をふるってきた。


頭を殴られた衝撃で一瞬視界が明滅したが、僕が考える前に手が動いてまた重い感触がし、また直後に胸辺りが重くなったかと思えば、気付いた時には僕はあおむけに地面に倒れていた。



「……致命傷は回避できるが、それ以外はからっきしってわけか?」



頭を殴られたせいか、相田和也が何を言っているのかよくわからない。


よくわからないが、たぶんここから先はラッキー防御はできないということだけは理解できた。


それでもどうにかすぐに立ち上がって相田和也を睨む。



「ならお望み通り――」



シャチホコたちが間合いを詰めようとした直後、相田和也がまた目の前に現れた。



「徹底的にいたぶってやるよ!!」



振り切られた剣


そしてそれを防ごうとする僕だが、そこからは同じことの繰り返しだった。


いくら防ぎ、回避しようとしてもかすかに体が刃が当たる。


もともと体中がボロボロだったが、さらに全身が傷ついていく。


時折異様に勘が冴え渡って攻撃を回避できるが、それでもこちらの攻撃が一切当たらない。


いくらシャチホコたちであっても、突如転移によって出現する相田和也には対応が遅れてしまう。



「おら、だったらこれでどうだ!」



そういって姿を消した相田和也



「――ワサビ、動き回れ!」


「きゅる!」



僕の指示に従って即座にその場から動き回るワサビ


同時につい先ほどまでワサビがいた場所に剣が空振りされる。



「ちっ――なら」



また相田和也が姿を消した瞬間、すぐにその狙いが分かった。



振り返り、槍を構えた。


そしてその視線の先は苅澤さん


そしてそこへ相田和也は現れ――――ない。



「単細胞。


予想通りの反応だなぁ!」


「っ――歌丸くん、後ろ!!」



苅澤さんの声が届いた瞬間、僕は右肩に熱を覚えて、視線だけでもとそちらを見た時、今まで以上に深く、軽く5㎝くらいは肩に食い込んでいる剣が見えた。


異物が体内に侵入してくるよう違和感と、全身に響く鈍い振動が本能の警鐘を鳴らす。



「ぎ、ぐっ」



口から意思とは関係なく声が漏れた。



「ちっ……ひょろザコでも流石に腕を切り落とすのは簡単じゃないか」



そんな声が近くで聞こえた。



「きゅう!!」


「おっと危ねっ!」



シャチホコが突っ込んできた瞬間に再び転移によって距離を取る相田和也


痛みはスキルの効果で我慢できる程度だが、腕に力が入らず手に持った槍を落とす。



「きゅうきゅきゅきゅう!!」



シャチホコが心配した様子で僕を見上げてくる。


「僕は大丈夫。


僕からあまり離れず、かつあいつに動きを予想されないように動き回ってくれ。


そして行けると思ったら攻撃するんだ」



「きゅ…………きゅう」



今はあいつの動きにどう対応するかが最優先。


右手は上げづらくなったが、振り回す程度はできる。


左手はまだ固く握れる。



「大丈夫、まだやれる」



一発だ。


一発、当てればそれでいい。


当てる瞬間に二人のどっちかとの特性共有を解除し、そしてその分を相田和也に発動させればそれで解決できる。



「ははははは、なんだよ歌丸、ザコのくせにまだ俺に勝てるとか思ってんのか?


もう一発も当たるわけねぇだろバーカ!」



「…………」



冷静になって、相手の行動を予測するんだ。


理由はわからないけど、一撃で死ぬみたいな攻撃には対応できる。


ならばそれ以外、次にどこに現れてどんな攻撃をしてくるのかを予測するんだ。



「…………おい、さっきから何シカトこいてんだ?」


「…………」


「おいこらザコ!


さっきから何調子乗って俺のことシカトしてんだよぉ!!」


「…………」



おかしいな……さっきからやたらと怒鳴り散らしているが攻撃を仕掛けてこない。


なんか喋ってこちらの隙を伺っているのか……?



「…………ああそうか、俺のことなんて眼中にないってことか?」



身にまとう雰囲気が変わったような気がした。


攻撃を仕掛けてくるか、そう思ったときまた目の前に相田和也は姿を現した。



「ザコがザコがザコがザコがぁああああ!!!!」



「っ、く、の、ふぅ!」



今までと違い、ヒット&アウェイではなく続けざまの連続攻撃


あまりに動きが稚拙だったので、どうにかうまく回避できる。



「や、止めて、どうしてそんなことするの!」


「うるせぇ、外野は黙ってろぉ!!」


「っ、苅澤さん、こいつは僕とシャチホコで引き付けるからワサビと一緒に先に逃げて!」



そうだ、ラプトルとかの脅威がいるんだからこれ以上こいつに構ってる場合じゃない。


苅澤さんだけでもこの場から逃がさないと……!



「だから、てめぇはどこ見てんだよぉ!!」



動きがさらに大雑把となっていくが、迫力が今までと段違いだ。


あまりの気迫に自然と足が後ろへと向かう。



「そうやっててめぇは、内心で俺のこと馬鹿にし続けてきたんだろぉ!」


「苅澤さん、早く!!」


「っ、だから、テメェはぁ!!!!」


そこで突如剣ではなく、足をかけられて僕はその場に転んでしまう。



「ザコがザコがザコがザコがぁあああああああああああ!!」



転んだ僕の胸を思い切り踏みつけてくる。


肺の中から空気を強制的に吐き出されて、僕の右手に思い切り剣を突き刺してきた。



「っぁ!」



肺の中の空気がほぼ空なのでまともに声を上げることもできない。


だが、これは一種の好機。


腕を無理やり振って、相田の手から剣を引きはがす。


さらにその勢いで僕の腕から剣が抜けて、地面を転がっていく。


これで剣を使えない。


そう思ったのだが、次に視界に映ったのは僕に馬乗りして拳を大きく振りかぶる相田和也の姿だった。



「この、ザコが、ザコが、ザコがぁああああ!!」


何度も何度も力一杯に殴りつけてくる相田和也


僕はそれを両手でガードするが、それもお構いなしと相田和也は何度も拳を叩きつけてくる。


そのたびに僕は腕の傷から血がにじんでいき、徐々に感覚がなくなっていく。



「きゅう!」

「きゅるぅ!」



そこへエンペラビット二匹が紫に輝く角をはやした状態で体当たりを食らわせる。


よし、なんで転移をしなくなったのかわからないがこれで勝て…………



「邪魔だぁ!!」


「きゅ!?」

「きゅる!?」



二人の攻撃を受けても一切痛がるそぶりを見せず、それどころか彼が大声で叫んだ瞬間に衝撃はみたいなものが発生してシャチホコとワサビをその場から吹き飛ばした。


なんだ、このスキル……!?



「歌丸くん、早くスキルを!」



刈澤さんがそう叫ぶ。


僕のスキルは相手との接触で発動する。


だからこう何度も殴って来ている相手には発動条件は満たしているのだが……



「もう使ってる!」



悪いとは思ったが、前回のリスクも考慮して詩織さんの枠を使った。


しかし、相田和也が僕を攻撃する手を休める様子が一切ない。



「学長のスキルのせいで、暴走してるんじゃなかったのか!」


「な、なんで……どうしてこんなこと……」


「――そんなもんっ!!」



大きく振りかぶった拳が、地面に横たわったままの僕の頭に打ち込まれた。


額と後頭部、衝撃で挟まれたことで視界が明滅し即座に思考が冴えわたる。


意識覚醒アウェアーが発動したのだ。



「テメェを、ぶっ殺したいからに決まってんだろうが!」



「っ、のぉお!!」



このままでは殴り殺される。


そう思ってスキルを即座に解除し、抵抗を試みるが相手の方が力が上で思うように動けない。


そんな中、勢いよくしなる何かが僕の上に乗っていた相田和也を吹っ飛ばす。



「ウタマル!」


「ぷっ――助かる!」



口の中が血の味でいっぱいになって不快で、殆ど血のタンを吐きながら立ち上がる。



「この、邪魔なんだよ植物風情がぁ!!」



「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」



相田和也がそう叫んだ瞬間、突如僕たちの目の前に一体、後方に一体とラプトルが出現した。



「なっ……!」

「そん、な……!」


「……ふたりとも、さがって!」



ラプトルの出現に戸惑う僕たちを守ろうとするララ



「きゅきゅきゅう!」

「きゅ、きゅるう……!」



シャチホコが毛を逆立ててラプトルと警戒し、ワサビは気圧されている様子だ。



「あはははは!


どうだ歌丸! これが俺の力だ、お前なんかより、俺の方がすごいんだよ!!


こいつらを俺がテイムしたんだ、お前のウサギなんかとは比べ物にもならねぇぞ!!」



ラプトルの強さは身をもって体感している。



「シャチホコ、ワサビ、とにかくラプトルを速さで翻弄しろ!


壁や天井を駆け回って、あいつらの足に“兎ニモ角ニモラビットホーン”を当てまくれ!」



「きゅう!」

「き、きゅる!」



僕の指示に従い、即座に動く二匹。



「苅澤さん!」


「え、あの、え?」



僕が差し出した手を不思議そうに見る苅澤さん


時間もないので、強引にその手を握って特性共有を発動させた。



「僕が合図したらララをカードに入れて。


すぐにこの場から走り抜ける」


「え、は、走って逃げられるの?」


「そのためにスキルを共有したんだ、大丈夫」



この状況なら問題なく悪路羽途も発動する。



「GAAAAAAAAA!!」



そんな中、ワサビの攻撃を受けながらもお構いなしといった具体に一匹がこちらに向かってきた。



「ララ!」


「うん」



ララは近づいてきたラプトルに向けて鞭を使う。


その攻撃を受けるのを嫌がってバックステップで回避したラプトル。


この間にもラプトルが攻撃を続けている。



「てめぇ……!


俺を、無視してんじゃ……ねぇぞ歌丸ぅううううう!!!!」



ラプトルたちが足止めされてこちらを攻撃しきれないと判断したのか、また相田和也が近づいてきた。



「いき、とめて」



突如ララがそんなことを言う。


どういうことかわからなかったが、僕は咄嗟に呼吸を止めて、苅澤さんも口元を手で覆った。


瞬間、転移によって相田和也が目の前に現れたと思った瞬間黄色い煙で視界が埋め尽くされる。



「な――ぐはっ!?」



黄色い煙はすぐに消えて、視界に入ってきたのは地面に倒れている相田和也だった。


まさか胞子を目くらましに使って怯んだ瞬間に攻撃したのか?



「「GAA!?」」



「きゅ?」

「きゅる?」



相田和也が地面に倒れた瞬間、突如ラプトルたちが動きを止めた。


なんだろうと思ったけど……相田和也が倒れたまま動かない。


もしかして今のララの攻撃で気絶したのだろうか?


そう思ったとき、ピクリと相田和也の腕が動いたのを見た。



「逃げるよ!」



それを見た瞬間、僕は言葉では表現しきれないような恐怖を覚えた。


先ほどの彼の気迫もすごかったが、それとはまた違う、それでいてとても強い恐怖がそこから感じられた。



「え、で、でも……!」



この状況で彼をおいていくのは、正しい判断なのか疑問があるのだろう。


拘束したほうがいいかもしれないし、連れて逃げたほうがいいかもしれないとか、確かに色々と考えることだが……今は、とにかくこの場から逃げ出したほうがいい。


僕の本能がそう判断を下した。



「いいから!」


「う、うん」



ララを一度カードの中に入れて、僕たちはその場から地上を目指して走り出した。


スキルも発動して足取りも軽く、先ほどよりも早い。


そして僕たちは全力疾走しながら倒れいている相田和也を呆然と見ているラプトルを素通りしていく。



「こ、これで地上に逃げられる……よね?」



足取りも軽く、少し余裕が出てきた様子で聞いてくる苅澤さん


だが、僕はどうにもこの場から急いで離れなければならないという焦燥感に駆られていた。



「とにかく、今は走ろう」



なんとなく……なんとなくではあるんだけど……


たぶん、追ってくる。


そして、きっと相田和也は僕たちに追いついてくる。


そんな嫌な予感が止まらなかった。

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