第81話 正統派巻き込まれる系ヒロインの実力

どうしてこうなったのかと、苅澤紗々芽は自問する。


何か悪かったのか?


歌丸連理に囮を押し付けるように言ったことだろうか?


それとも歌丸連理を非難するようなことを言ったことだろうか?


もしくは、歌丸連理を忌避するようになったことだろうか?



いや、本当はわかっているのだ。



すべては自分の性根の悪さが、巡り巡ってこういう事態を招いてしまったのだということを


だが、だが……



『ひ、きひ、きひひひひひひっ!』



「ちっ……気色悪い笑い声上げてないで姿を見せたらどうだ!」



『ああ、すまんすまん。


生徒会の懐刀……そいつが今、俺のナイフで翻弄されている。


滑稽すぎて笑いがこぼれてくる』



声はすれども姿は見えないアサシンからの攻撃


それらはすべて生徒会副会長の来道黒鵜らいどうくろう……ではなく、苅澤紗々芽を狙っていた。


今のところ来道のおかげで傷一つついていない紗々芽だったが……



(こんな目に遭わなきゃいけないほど、私って悪いことしてないのに……!)



絶賛その場で亀みたいに頭を抱えてうずくまっていた。


こんな無様な格好をしているのだって本意ではない。


だが、いつどこからどんなふうにナイフが飛んでくるのかわからない現状、的を小さくする以外に手段がないのだ。



「きゅるう!」


「そっちか!」



来道の頭の上に乗せられたワサビが耳で刺した方向からナイフが飛んできて、紗々芽へと向かう。


その途中で素早く来道がナイフを叩き落とすと同時に、別のナイフが来道を狙う。



「ちぃ!!」



マントを使ってうまく弾く来道


さっきからこの繰り返しで、紗々芽を守って動いた隙を狙い来道を攻撃


今はまだ防げる範囲内だが、徐々に普通に撃ち落とせなくなってきた。


完全に向こうのペースで遊ばれていた。



「はぁ……はぁ……」



普段は冷静な立ち居振る舞いを見せている来道の額に汗が浮かぶ。


分かっている。


自分を守るために今彼は気配を感じない相手の攻撃に全神経を集中しているのだ。


今のところはワサビがサポートしてくれているが、このままではいずれ集中力が切れる。


そうなれば、自分が攻撃を受け、来道もやられる。


まず真っ先に自分がやられるという状況に恐怖した。



「詩織ちゃん、お願い……助けて……!」



絞り出すような声で学生証に問う。



『――こっちと英里佳たちは敵を倒したわ!


すぐに英里佳がそっちに行くから耐えて!!』



学生証から聞こえてきた頼もしい言葉に、紗々芽は沈んでいた気持ちが一気に明るくなる。



「っ! 来道先輩!」


「ふっ……ああ、流石だ。


まさかこんなに早く片を付けてくれるとはな。


これは、俺も負けてはいられないな」



来道もその報告に笑みが浮かぶ。



「まったく、頼りになる一年だ。


帰ったら焼肉でも奢ってやらないとな」


「きゅるる」


「ん? ああ、お前にも好きなもの食わせてやるぞ」


「きゅるう!」



来道の言葉にワサビもやる気を見せて耳をぴんと伸ばした。



『ちっ』



そんな彼らの様子が気に入らなかったのか、舌打ちが響く。



『生徒会のいい子ちゃんは、楽しく仲間と協力ですか?


馬鹿らしい』



次の瞬間、ものすごい勢いでナイフが何本も飛んできた。



「っ!」



そのすべてが紗々芽に飛んでいくものであると軌道を呼んだ来道は、すべてを撃ち落とそうと動く。


目にもとまらぬ速さで振るわれる腕


そして弾かれるナイフ



「っ、ひ、あ……!


こ、ここから私、離れます!」


「なんだとっ!?」


「あっちに誰かいるのなら、反対方向に逃げれます、それで、どうにか隠れます!!」



言うが早いか、紗々芽は震える脚に活を入れてすぐさまナイフが飛んでくる方向とは逆に走り出した。



「待て、そっちは――」



背後で来道が何かを言っているが、もはや紗々芽の耳には入らない。


そして藪の中を突っ切っていこうとしたその時だ。



「一名様ごあんなーい」


「――え」



突如現れた髑髏の覆面の男が、紗々芽の手を掴んだ。



「苅澤!!」

「きゅるう!!」



来道はナイフの対応で動けず、移動を試みるも、先を読んで投げられるナイフがそれえを阻む。


男は苅澤の首に腕を回して、見るからに大きな剣を喉に当てた。


ひやりとした金属独特の冷たさと、その鋭さが紗々芽を恐怖で縛る。



「動くなよ副会長。


かわいい後輩ちゃんの顔に傷がつくぜぇ」



「ちっ……!」



ナイフの攻撃が止んだが、そう脅されてしまっては来道は動くわけにはいかなかった。



「な、なんで……もう一人……?」



眼に涙を浮かべ、困惑しながらつぶやく紗々芽



「は? ……ぷっ、ははははは!


こいつ馬鹿だ、副会長が必死にお前を守りながら俺のことも警戒してただろ、というかちゃんともう一人いるって最初に叫んでたぞ?」


「え……」


「マジで気付いてなかったのか?


どんだけ理解力がないんだよ、これじゃあ頑張ってた副会長が不憫だなぁ」



覆面を被った男の笑い声


そしてその言葉に、紗々芽は顔を真っ青にする。


気付かなかった。


ただ、早くこんなひどい状況が終わって欲しいとだけ考えて、周りのことなど気にも留めてなかった。



「苅澤を離せ」


「おいおい、まずは武装を外して誠意ある態度を見せろよ」


「…………これでいいか」



言葉と共に、来道はマントを外す。


そこから見えたのは黒いアンダーシャツと、鍛え抜かれた上半身が見えた。


そしてその手には何もない。


明らかにナイフを撃ち落とすときに金属でできた武器を持っていたはずなのに、どう見ても無手だ。


マントの内側にも武器が仕込まれた様子はない。


その姿に男は目を細める。



「…………見えない武器ってのはあながち間違いでもなかったのかもな。


レイドウェポンか……もしくは深層の秘匿された素材の武器か…………まぁいい。


おい、こいつの手足を封じてくれ、このままじゃ安心できねぇよ」


『…………』


「おい!」


『興覚めだ。


こんなくだらない結末でこの男を殺しても何も意味がない。


見せしめにその女を殺してさっさと退却するぞ』



「ひっ」「っ」



姿なきアサシンの言葉に紗々芽が恐怖し、来道が目を見張る。



「おいおい、せっかく捕まえたのになんで逃げるんだよ……?」


『他の連中がやられたのはすでに知ってるだろ。


もうすぐここに来る』


「は? 相手は一年だろ……あいつらも別にお前ほどではないにしろ、そこまで弱くは……」


『理性あるベルセルクと、新たな特殊職業エクストラジョブのルーンナイト……あの大規模戦闘レイドで見せた戦いぶりを見ればわかる。


どちらかが来るだけでも厄介だ。


無駄口を叩くなら置いていくぞ』


「ちっ…………あーあ、せっかくの上玉なのにもったいねぇ。


持って帰って遊びたかったんだがなぁ~」



覆面の男は残念そうにため息を吐きながら、その切っ先を紗々芽の喉に当てがった。



「い、いや、いやぁあああああああああああ!!」



たまらず悲鳴を上げる紗々芽


必死に男の手を振りほどこうとするが、圧倒的に力が足りない。



「やめろぉ!!」



たまらず来道が叫ぶが、男はそんな言葉を聞き入れる気は一切なかった。


なかったのだが…………その手がピクリとも動かなくなる。



『……おい、何をやっている?』


「あ……あれ……? いや、ちょっと待ってくれ……なんだこれ……?」



覆面で顔こそ見えないがひどく焦っているのはわかる。



「か、体が……うごか、ねぇ……!!」


『一体なんの冗だ…………っ!』



アサシンが息をのむ声がした。


来道もそれとほぼ同じタイミングでこの場で起きた事態に気付く。



「苅澤、すぐにこっちにこい」


「え……で、でも」


「もうそいつは動けない。


お前をしゃがんむだけでそいつの拘束から抜け出せる」



来道の言われるがまま、紗々芽はゆっくりとその場でしゃがもうとすると、あっさりと男の拘束から抜け出せた。


男は捕まえる気がないのか、終始棒立ちだ。



「な、なんで動かねぇんだ……! おい、これはいったいどういうことだよ!!」



覆面の男が悲鳴のような声を上げた。


だが、それに応える者は誰もいない。



「お、おい、どこ行きやがった、おい!!」



狼狽えながら喚き散らす男をよそに、紗々芽はすぐに来道のもとへ行って振り返る。



「……あ」



そして紗々芽もようやく気付いた



男の足元、そこから木の根っこが生えてきていて、男の死角となる背中から根っこが腕に絡みついていたのだ。



『――さっきの、もうどこかににげた、よ』



男と来道たちのちょうど中間あたりから地面が膨らんで、何かが出てきた。


それは髪の毛が木の根っこでできている、幼い女の子だった。


しかしそこの不気味さなどなく、生命力のあふれた印象を与える様なかわいらしい女の子だ。



「ま、まさか……ドライアド……標的の?!」



男が驚愕しながら叫ぶ。


そしてその光景は来道も紗々芽も少なからず動揺していた。



「な、なんでこんなところにドライアドが……」



困惑と恐怖を感じつつも、身動きが一つもとれない男


そんな男を無視するように、ドライアドの女の子は紗々芽のほうを見た。



「……だいじょう、ぶ?」


「え……あ……う、うん。


助けてくれて、ありがとう」



とりあえず、紗々芽はなんとなく礼を言った。


そして同時に、今目の前にいるドライアドこそが自分たちが探そうとしていたドライアド・ララであると悟った。



「じー…………」


「…………え……あの、どうしたの?」


「じーーーー………………」



ドライアド・ララの視線は紗々芽に釘付けである。


つま先から頭のてっぺんまで、余すことなく観察する。



「おい、応えろよ! 俺を助けろよ!!!!」


「うるさい」


「あぎょ!?」



伸びてきた木の根っこが男の首を絞めつけて、男はそのまま意識喪失


木の根っこが離れたかと思えば、その場に崩れ落ちてしまった。



「的確に頸動脈を絞めたな……見事だ」



などといいながら来道はマントを羽織りなおす。


もはや周囲に先ほどのアサシンがいなくなったことを確認したので、どこか安心した様子である。



「――紗々芽ちゃん! 先輩!!」

「きゅう!」



そんな時、別方向から狂狼変化ルー・ガルーを発動させている英里佳とシャチホコが駆けつけてきた。


そして紗々芽はすぐさまドライアドの姿を確認し、紗々芽を守るように立つ。



「ドライアド……どうしてここに?」


「きゅうぅ……」



シャチホコは警戒したように泣きつつ、ちゃっかり来道の背後を陣取っていた。



「落ち着け榎並、そのドライアドは俺たちを助けてくれたんだ。


少なくとも敵ではない」


「……そうなの?」



英里佳は不安げな様子で紗々芽を見る。



「う、うん。たぶんその子が詩織ちゃんの言ってたララってドライアドだと思うよ」


「きゅるきゅる」



唯一この中でララとの面識があったワサビが来道の頭の上で何度も頷く。



「は、はぁ……はぁ……ようやく追いついた。


いやぁ、苅澤さんの悲鳴が聞こえてびっくりし………………あれ、ララ、なんでこんなとこにいるの?」


「ウタマル……?」



遅れてやってきた歌丸はララの姿を見て驚いた顔を見せ、ララも歌丸の姿を確認して反応する。


その後、歌丸は周囲を見回して、足が木の根っこに絡まった状態で倒れている男子生徒を確認した。



「えっと……どういう状況ですか、これ?」



正直、その言葉は紗々芽が一番言いたいことであった。





「ってことは、つまりララが苅澤さんを助けてくれたってことだよね?」


「うん」


「そっか、ありがとね」



偉い偉い、本当に偉いよ。


とりあえずララの頭を撫でてみる。


木の根っこで見た目硬いかなって思ったけど触ってみるとかなり柔らかい。



「ぁう……うん、どういたしまして」


「あ、そういえばそっちに詩織さん行ってるみたいだけど、気付いてる?」


「うん……ちかくにきてるみたい」


「おい歌丸、三上もこっちに今向かってきてるってことなのか、それは?」



来道先輩の言葉に、僕は一瞬考えたがすぐに勘違いに気付く。



「あ、いえそういうことじゃないんです。


今ここにいるララは擬態……つまり、ララの分身のようなもので、ララの本体は別のところにいるんです。


そっちの方に詩織さんが向かってるってことです」


「つまり……仮にアサシンがここにいるドライアドを倒しても本体が無事なら問題はないってことか?」


「はい」


「……想像以上にすごいドライアドだな。


俺の知る限り、今ここにいるドライアドの擬態だけでも、通常の個体よりよっぽど高い知能を持ってるぞ」



感心したようにララを見る来道先輩


すると、ララはそんな来道先輩の視線から逃れるように僕の背中に隠れた。



「ああ、すまん。怖がらせたか?」


「えっと……僕も詳しいわけではありませんけど、たぶん知らない人が多いので戸惑ってるのかと」



「…………じー…………」



と思ったらなんか僕の背中に隠れながら誰かを見ている。


なんとなく、僕も来道先輩も、そして英里佳もララの視線の先にいる人を見る。



「…………あの、えっと……なに?」



ララに見つめられている苅澤さんは、困ったようにみんなを交互に見て、最後にララを見た。


だが目が合った瞬間、ララは僕の後ろに隠れてしまった。



「……あの、私この子の気を悪くさせることしたのかな?」



恐る恐る僕にそう訊ねる苅澤さんだが、正直見当もつかない。



「僕も詩織さんもこの子と会ったのはこの間が初めてだからなんとも……でも、別に怖がられてたりしてる感じではないと思うよ。ね?」


「…………ぷい」


「……なんか顔背けられてるんだけど」


「照れてるだけだよ。たぶん」



この子こういうキャラだったっけ……?


僕がそんな風に首をかしげていると、英里佳が来道先輩に意見する。



「あの、先輩。詩織や日暮くんの方と合流したほうがいいんじゃないでしょうか?」


「ん……まぁ、確かにそうだな。


位置がばれた以上、もう急いでドライアドの本体のほうに行った方がいいか」



「……もういない、よ」



ララがそんなことをつぶやいた。



「ララ、それってどういう意味?」


「わたしの“ね”、ほそいのだけなら……すごくひろくのばしてる、から……わかる……さっきまでここにいたおもさ……なくなってる」



ララの言葉に、僕と来道先輩は顔を見合わせる。



「気配や足音をいくら消せても、エージェントのスキルに体重を消したりするのってありませんよね?」


「ああ……お前の悪路羽途アクロバット、だったか?


それ以外で体重を消す、もしくは空中を移動するなら魔法を使うことになるが、クリアスパイダー戦で使ってた限定滞空機動エリアルステップ位しか思い浮かばないな……これは歩数限定だし、ずっと浮いていられるものじゃない。


現実的に考えて撤退したと判断していい」



重さ、というのは盲点だった。


確かに、鳥でもない限りは地面と接するし、その地面に根を伸ばしている植物であるララならば根っこを通して人の位置を判別くらいできても不思議ではない。



「ってことは、もう安全ってことですよね!」



瞬間、いきなりテンションが上がった苅澤さんが食い気味に来道先輩に詰め寄った。



「あ、ああ、そうだな。


とりあえず本体と接触して、三上たちを交えて今後のことを話そう」


「? わたしに、用あるの……?」


「ああ、とりあえず本体……三上たちと一緒に話すが、そちらに行っても構わないか?」



来道先輩がララにそう確認を取ると、ララは僕を見てから、次に何故か苅澤さんを見た。



「……そのひとをつれてくるなら……いいよ」


「え」



何故か指名されてしまった苅澤さんは驚きの余りに硬直する。



「……別に構わないぞ、どうせ一緒に行く予定だしな」


「わかった。まってる」



そう言い残して、ララはその場から地面の中に溶けるように消えてしまった。



「え……あの…………え?」



苅澤さんはひどく狼狽えた様子で、ララの擬態が消えた地面を見て、次に僕を見た。



「なんで私?」


「さ、さぁ……?」



結局ララ本人に聞かないとどうにもならないということで、僕たちはシャチホコとワサビに案内されてララの本体がいるところまで向かう。


そして向かった先には以前にも見た巨大な花があった。


ただしサイズは若干小さくなっている様子で、その前に三上さんとギンシャリが一緒にいるのが見えた。


その姿を確認すると、苅澤さんがその場から走り出す。



「詩織ちゃん!」


「紗々芽! よかった、みんな無事だったのね!」



二人ともお互いの無事を確認するように抱き合う。


……ふむ、詩織さんは今鎧身に着けてるし、苅澤さんは厚手のローブでよく見えない。


普段ならこういう場面で二人の豊かなアレがアレしてアレなんだけど……そしてなにより……



「? 歌丸くん、どうしたの?」


「いや、なんでもないよ」



こういう時、アレのアレがアレで英里佳がしょぼーんとなるのが見たかったんだけど、今は状況が状況だし自重しよう。



「俺今、お前が相当歪んでるように思えてきたぞ」



唐突に来道先輩にそんなことを言われた。何故だ?



「――ウタマル、ミカミ」



上からの声に見上げると、巨大な花の上からこちらを見下ろす幼い女の子の姿があった。


間違いなくララだ。


外見だけなら先ほどの擬態と一切変わらない。



「あれがドライアドッスか……見た目はただの女の子ッスね」



完全初対面の戒斗はそんな感想をこぼす。


そして僕らは全員がララに招かれる形で花の上へと移動し、そして来道先輩はどうしてこの場にやってきたのかを順序立てて説明する。



「……ちとせ、ひとりにした、わるいやつ……わたしの、ことばで……つかまえられる?」



すべてを聞き終え、ララが不安げに僕にそう訊ねた。


僕はその問いにどうこたえるか迷っていると、来道先輩が即座に肯定してくれた。



「大丈夫だ。迷宮生物モンスターで喋る個体は少ないから刑事事件の証拠として扱われた例は少ないが、ないわけじゃない。


現に世界中の迷宮学園で起きた事件でドラゴンである学長の証言で有罪が決まった判例もあるし、君の証言で金瀬千歳を殺害した者たちを捕まえられるさ」



「……わかった」



頷いてくれたララ


彼女自身も、金瀬千歳の一件を解決したいという気持ちはあったようだ。



「だったら、とりあえず地上に戻るためアドバンスカードの契約が必要になる。


本当なら話を通して君によさそうな相手を用意したいが、アサシンが動いてるとわかった以上はこの場で契約をしてもらいたい。


歌丸か三上のどっちかがパートナーでいいか?」



来道先輩は前回の面識があるために僕と三上さんを推薦したのだが、ララは首をプルプルと小さく振った。



「ん」



そう一音発して、ララはその小さな指で一人の少女を指し示す。


なんとなく、詩織さんと戒斗以外はその行動が何を示しているのか察しがついた。



「……あの、なんでまた私なの?」



指でさし示された先にいたのは、やはり苅澤さんだった。


そして困惑する苅澤さんを無視して、ララは地面――というか彼女の身体の一部である巨大な花に手を触れたかと思うと、そこから一枚のアドバンスカードを取り出す。



「はいっ」


「あの、はいって言われても…………え、あの、なんで私の手に根っこ絡ませるの!?」



ララの根っこに腕を絡まされた苅澤さんは自分の意志とは無関係に手を前に差し出す形となり、そしてララの手からアドバンスカードを受け取った。


瞬間、アドバンスカードの上部が発光して、先ほどまでなかったアルファベッドがそこに刻まれた。



――SASAME-KARISAWA



どう見ても、苅澤さんの名前がそこに刻まれていた。


その文字を見て信じられないと目を白黒させる苅澤さんをよそに、ララは少し不安げな顔で僕らのほうを見てこう言った。



「わたし、このひと……が、パートナー、いい」



事後承諾ってこういうことなんだなぁっと、僕は漠然と思いました。


そしてその数秒後、第13層に苅澤さんの悲鳴が響き渡ったのは、言うまでもないのであった。

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