第78話 生徒会ギルドのお仕事(闇)

ソルジャーアント、ファングラット、ボブゴブリン、キラービーといった迷宮生物モンスターが何度か襲ってきたりしたが、もう鎧袖一触がいしゅういっしょく


詩織さんが薙ぎ払い、英里佳が蹴散らし、来道先輩と戒斗が始末する。


そして僕もおこぼれを撃破し、ちゃっかりシャチホコたちが物理無効攻撃スキルである“兎ニモ角ニモラビットホーン”を使用したりもしていた。



つまり何が言いたいのかというと……



「圧倒的じゃないか我がパーティは」


「お前は特に活躍してねぇだろッス」


「平常運転じゃないか」


「確かに」



戒斗の突っ込みをさらっと流しつつ、僕は詩織さんと英里佳の新しい武器を見た。



「新しい武器の調子はどう?」



「軽いってのが一番ね。


それで切れ味も申し分ないし……なにより、刃こぼれとか気にしなくていいのが最高ね」



そんな風に語る詩織さんの手にある剣は、金属の細長い板に透明な刃が付属しているというような、玩具とかで見るようなデザインの剣だった。


しかし、侮ることなかれ。


実は詩織さんの武器は、この間撃破したクリアスパイダーの素材を使った新装備の試作品なのだ。


金属よりも軽いにもかかわらず、その頑丈さと強靭性もさることながら、最も注視すべきはその再生能力


クリアスパイダーの甲殻は、低温状態にさらされると元の形状に戻るという性質があった。


だからこの武器は使えば使うほど切れ味が落ちていくという刃物の欠点を一気に改善する。


グリップから使い手の魔力を吸って、金属部分を冷却する機能が備わっており、そうすることで刀身を低温状態にして切れ味が持続する。


しかも冷却機能を最大にすれば斬撃の後に氷が発生するというロマン武器に早変わり。


氷雪系統魔法剣type SINGLE試作型

『クリアブリザード・プロトタイプ』


クリアスパイダー自体が新種ということで、まだどのような使い方が一番なのかわかってない故に『試作』らしいが、完成度タケーな、おい。


これは僕も欲しい。



「私も、このブーツで普段よりかなり勢いよく蹴られるかな」



そう語る英里佳の靴は、僕が履いているような学生支給品ではなく、専用のブーツになっている。


脚から脹脛ふくらはぎまで丈夫な皮と要所要所をプロテクターで覆われたその靴も、見た目だけのものじゃない。


実はこのプロテクター部分は僕は直接見てないが、英里佳の尽力によって撃破したという第8層のゴーレムの身体を形成したものなのだという。


そのゴーレムは頑丈性はもちろん、魔力を吸うことで形が元に戻る性質もあったのだが、こちらの最大に注目する点は、重さを自在に変えられるということだ。


僕でも簡単に持てるくらいに軽いそのブーツ、込める魔力の量に応じて重量が増していくもので、蹴る瞬間に英里佳がブーツに魔力を流せば、その瞬間彼女の攻撃は何百キロのハンマーを打ち下ろしたものと同等のものに変化する。


重力系統魔法装甲type LEGS

暴君圧凄タイラント



「ハッキリ言って、榎並の打撃力は一年どころか三年のトップクラスに並ぶくらいだな……


三上の剣技も、一年とは思えないほどに鋭い。ルーンナイトの状態で真正面から戦えば俺も勝てないだろうな」



感嘆を通り越してあきれ果てたようにつぶやく来道先輩



「しかし、“レイドウェポン”なんて一年生のこんな早いうちに手に入るものじゃないんだがな……」



そう、二人が装備している武器、つまりレイドボスから作り出した武器を生徒の間では“レイドウェポン”と呼称される。


本来は大規模戦闘レイドで活躍した生徒を筆頭に上級生に割り振られる特別な武器だ。


この間かなりの大活躍を見せたこの二人にはそれを与えてもいいと北はもちろん、ほかの生徒会からもOKが出た。


僕? あるわけないじゃないか(泣)


まぁとにかく、レア中のレア、ゲームでいうところのSR《スーパーレア》位の装備を二人は手に入れたというわけだ。



「まぁ、それだけお前らチーム天守閣は期待されているってわけだ。


それに恥じないだけの活躍はしてみせろよ」


「「はい」」



いーなー、僕もアレ欲しいなー……



僕なんて文字通りの相棒だった打撃昆がなくなったので、仕方なく以前使っていた槍を使っているというのに……



「戒斗もいーなー……専用装備」


「え……い、いやこれ別にレイドウェポンじゃねいッスよ?」


「確かに二人が使ってるのより見劣りはするけど……HR《ハイレア》くらいはあるでしょ、それ」



実は戒斗、この間から新しい攻撃手段を獲得したのだ。


戒斗の手にあるのは一丁の拳銃だった。


ただし、クリアスパイダー戦で使ったものではない、グリップと撃鉄部分が半透明に青い物質でできていて、弾丸を込めるパーツの無い拳銃だ。


魔力によって弾丸を形成し、それを放つというロマン武器


ただし射程が短いので中近距離でしか使えない。


撃つ度にグリップに弾丸形成用の魔力を流し、撃鉄に弾丸を打ち出す用の魔力を流しながら擊鉄を引くという面倒な工程が必要。


かといってダブルアクションの拳銃で同じことをやろうとすると地味に複雑な機構が必要でコストがかかる。


最終的には「普通に銃撃った方が効率良くね?」って感じで使い手のいないお蔵入りした東学区の残念ロマン武器だ。


しかし戒斗の場合、西部劇のガンマンみたいな早撃ちができるので、魔力を流す工程を加えるだけで連射が可能というチート装備に大変化する。


そんな武器を、戒斗は姉である日暮亜里沙ひぐらしありさ先輩から譲ってもらったのだ。



「いやいや、お前には人類唯一の物理無効攻撃手段が三匹もいるじゃないッスか」


「確かにそうだけど……もっとこう、僕もシャキーンとか、ドカーンとか、そういうカッコいい感じのが欲しいんだよ、男の子的に!」


「わからなくはないッスけど……」



欲しい、めっちゃほしい専用装備!


カッコよく迷宮生物倒してみたい!


いやね、そりゃね、僕も自分のステータスはザコいのは痛いくらいにわかってるけど、やっぱり憧れちゃうものであって、とにかく欲しい!



だからこそ打撃昆とか地味に気に入ってたんだけどなぁ……いや、まぁ英里佳のほうが使いこなしてたのはわかってましたけどね……



「おい、無駄話してないで先を急ぐぞ」


「「うっす」」



来道先輩にそう促され、先へと進んでいく。



「……そういえば、来道先輩どうやって敵倒してたの?


なんか先輩が近づいた瞬間にゴブリンとか首スパーンってなったのはわかるんだけど……」


「ああ……たぶんナイフとかそういう得物ッスよ。


俺も早すぎて完全には見えなかったッスけど……長物じゃないのは確かッスよ。


ルーンナイトになった詩織さんには勝てないとか言って他たッスけど、戦闘本職でもないのにあの早業……相当の手練れッスよ、わかりきってることッスけど」



ディサイダーという職業はあくまでもエージェントの上位


ならばからめ手での戦闘をするかと思ったら全然違った。


この人どんどん前に出る。


アタッカーとしての迫力は英里佳に劣るけど、倒した数ならたぶん倍近いくらいに来道先輩のほうが多い。



「……やっぱり生徒会って強い人が多いよね、今更だけど」


「そうッスね。その直轄ギルドに所属する重み、大規模戦闘レイドを体験するまで実感湧かなかったッスけど……かなり重みがあるッスよ」


「うん、もっと頑張らないと」





生徒会副会長である来道黒鵜らいどうくろうの戦闘を見て、それでもなお上を目指そうと日暮戒斗と共に話し合う歌丸連理


その後ろ姿を見て、苅澤紗々芽かりさわささめは理解できなかった。


ただ口にするだけなら、まだ理解できる。


他者を羨望することとは、多くの場合は諦めもそこに混じる。


実力が離れているのならばなおのことだ。


しかし、歌丸は違うのだ。違うのだということがすぐにわかる。



誰よりも圧倒的なまでに差が開いていると、本人も身をもって知ってるはずなのに、その上でそうなるつもりでいるのだ。



(なんでそこまで……)



役目は十分果たしているはずだ。



歌丸連理という存在は、現段階で支援役として最上級以上の結果を出している。


ベルセルクである榎並英里佳を、最高の強化状態のまま常時戦闘に出す。


そして自身の持つスキルの効果で普通のナイトでしかないはずの詩織にスキルの連続発動を実現させている。


そして本人が迷宮生物モンスターを引き付けやすい特性もあるので、誘導もしていて、小型の敵も処理する。


何よりも、エンペラビットたちによるナビゲーション能力によって本来どんなに短くても30分はかかるはずの階層を10分足らずで踏破する。


断言できる。


このパーティの中核は、ベルセルクの英里佳でも、ルーンナイトになれる詩織でもない。


ヒューマン・ビーイング


一年生最弱というレッテルを張られた彼こそが、このパーティ全体の流れを作り上げているのだ。



(どうして、そこまでちゃんとやってて、それでもまだ上を目指そうとするの……?)



無意識に、紗々芽はその手に握られている杖を掴む手に力がこもる。


別に、手を抜いてるつもりはない。


エンチャンターとして、それぞれに適切な付与魔法エンチャントを施して、効果時間が切れる前に再びかける。


複数の人数にそれを行うならば、常に時間や使用頻度を考え続けなければならない。


だから下手に動かず、常に視界を周囲に巡らせて戦況を見なければならない。


だから紗々芽はエンチャンターとして、決して手を抜いているということはないのだ。



だが、歌丸を見ていると思ってしまう。



まるで自分が、適当にしているように見えてしまう、と。



以前ならば、こんなことを感じたりはしなかった。


歌丸の行動は無茶ばかりでそれを諫める詩織がいた。


ハラハラと歌丸の行動を心配する英里佳がいた。


馬鹿にするように呆れる日暮がいた。


だが、今はそんな彼らは歌丸のやり方を肯定し、そのうえで彼と同じようにより上を目指そうと試みている。



自分だけが、取り残されたような気がするのだ。



しかし、そんな胸の内を紗々芽は誰にも明かすこともできずに、ただただ黙ってみんなの後ろをついていくのであった。






「ってことで長、また来たよ」


「ほほぉ……あまり人を連れてくるのは良くないことなのだが、ウタの友人ならば歓迎しよう」



現在やってきたのは第13層にあるエンペラビットたちの隠れ里


ギンシャリたちのおかげですぐにここにやってこれた。



「……流石に、エンペラビットでもここまでデカいと迫力あるな」



喋る上に巨大なエンペラビットである長に気圧されてしまう来道先輩


英里佳や戒斗は無言だが、驚いているのは顔を見ればわかる。



ちなみに長以外のエンペラビットたちは遠巻きでこちらを確認している。



「ふむ……」

「きゅう?」



長の視線が僕の頭の上に載っているシャチホコに向けられた。



「その子がウタの最初のパートナーか?」


「そうだけど……シャチホコってやっぱりこの里の出身?」


「いや、おそらく生まれたてなのだろう。


ちょうど生まれたその日にウタと出会ったのだろう」


「? つまり、第1層にシャチホコの親がいたってこと?」


「いや、我らを含め迷宮生物という存在は迷宮の中で“発生”することがある。


ある日、気が付いた時には迷宮にいたのだと自覚するのです。


この里にいる多くの存在は普通に繁殖したものも多いが……その個体、シャチホコは我と同じように迷宮で突然発生した個体なのでしょうね」


「へぇ……そうなんだ……」



まさかそんな方法で迷宮生物が増えたりするとは……びっくりだぜ。



「……一応仮説の一つとしてそういう考え方もあったが……事実だったとはな」


「え? 来道先輩、知らなかったんですか?」


「知らないというか、確認のしようがないんだ。


しかし……迷宮生物から直接そういわれたら、そうなのだろうな……これで今まで話し合われていた論争の一つが片付くな」



おお……なんか今意図せず世界的な大発見をしてしまったようだ。



「まぁ、とりあえず話を戻すけど……ララに会いに来たんだけど、どこにいるかわかる?」


「む? 例のドライアドか……それならば居場所は知っているが…………あそこにいる者も案内するのは、やめておいた方がいい」


「え?」



長が何を言っているのか、わからなかった。


ただ、長の視線を向けた方向に顔を向けると、そこにはただ木々がならんでいるだけだった。



「きゅ?」「ぎゅ?」「きゅる?」



僕のパートナーたちも、何が何やらわからないという反応だが……



「音に頼りすぎだな……もっと空間を意識すればすぐにわかる。


ウタが気付かなかったということは……我々にとっては招かざる客、早々に立ち去ってもらいたい」



警告するようにそう告げた長の声



「――チッ」



強い敵意のこもった舌打ち


瞬間、何もなかったはずのその場所に突如黒いフードを被った人物が姿を現す。



「……え、誰? 知り合いですか?」


「…………いいや、おそらく…………俺たちの敵だ」



そういって、来道先輩は何故かその人物を睨みつけながら前に出た。



「え……いや、敵って…………その人、学生ですよね?」


「ああ、おそらく“アサシン”……シーフの上位職だろうな。


自分だけにしか効果はないが、隠密系のスキルを持っている。


そのスキルを駆使して、俺たちの後をついてきたってわけだ」


「何のために……?」


「決まってるだろ。殺人の証拠隠滅のためさ」


「は……」



思考が停止する。


……さつじん……サツジン………………殺人っ!?



「は、え、ちょ、はぇあ!?」


「どっから声出してんッスか」



今は戒斗からの突っ込みに対して何も反応できる余裕がない。



「っ……歌丸くん、私の後ろから出ないようにして」


「紗々芽も、私の後ろに隠れて」



前衛二人は警戒して武器を構えながらアサシンの生徒を睨む。


戒斗も拳銃を構えて警戒をするのだが、僕はまだ状況を把握できない。



「さ、殺人ってどういうこと!


あのアサシン、本当に職業通りに誰か殺したの!?」


「それはわからんが……目的は金瀬千歳かなせちとせのパートナーであるドライアドの始末だろうな」


「ら、ララを……どうし…………!」



そこで僕はようやく気が付いた。


そうだ、最初にララが僕たちに会ったとき、なんて言ってた?



 『――酷いよ……また、みんな……私を見捨てるんだ』


 『待って……待ってよ、置いていかないでよぉ!!』



あの言葉は、ララが主人である金瀬千歳の言葉をまねたものだったが……今にして思うとなんだかとても悪意が裏に潜んでいたように思える。


そして、今の来道先輩の殺人という言葉は……



「……金瀬千歳を……ララたちを迷宮に置き去りにした連中の、関係者!」


「だろうな。氷川の言う通り、俺がついてきて正解だったな」


「は? 氷川? え、あいつこうなること予想してたんですか!?」



あの女、まんまと僕たちを囮に使いやがった……!



「文句なら本人に言えよ。


戒斗、援護頼む。


他の二人はそっちの護衛頼むぞ」



「うっす!」

「「はい」」



この場でもっとも的確なのは来道先輩の指示従うことだろう。



そして来道先輩はさらに前に出てアサシンの生徒を睨む。



「武器を捨てて、俺たちと一緒に来てもらおうか」


「嫌だと言ったら」



冷淡な声で吐き捨てるアサシン


その声は妙に聞き取りづらい。


男のように聞こえるが、なんだか女のようにも聞こえる気がする。


体つきも、ゆったりとした大きな服装で男女かも判別しづらいし、あの大きめの服の中に武器を仕込んでいるのかも判別がしづらい。



「認識阻害……ッスね。


エージェント系はスキルを使ってる時しかできないんッスけど、アサシンの場合は制服が変化してるときは常時その姿の判別が難しくなるッス。


あのフードを取らない限りは、俺たちにはあのアサシンの顔どころか、性別を判断できるような声も体つきも認識できないんッスよ」


「なんて厄介な……!」


「その上、シャチホコたちの耳も欺く消音スキルの高さ……三年クラスの実力者ッスよ」



三年クラスのアサシン


それは確かに、とんでもない脅威だ。



「そうか……なら力づくで捕縛させてもらおう」


「…………チッ」



再び聞こえてきた舌打ち


瞬間、再びアサシンの姿がぼやけて消えてしまう。



「………………逃げたか」



そういって、来道先輩は戦闘態勢を解除してこちらに戻ってくる。



「長、だったか……? さっきのやつはもうこの場にはいないんだな?」


「うむ、この場から出ていったぞ」


「ならいい」



そうは言うが、来道先輩は明らかに面倒くさいというように大きなため息をついた。



「まさか俺やエンペラビットでも指摘されるまで気付かないくらいの手練れをよこしてくるとは……想像以上に厄介な案件だったようだな、これ」


「え……追跡とか、できないんですか?」



エージェントの最上位職である来道先輩ならできると思うのだが……



「無理だ。


あれだけ近くにいたのに足音も匂いも、気配すらわからなかった。


攻撃を仕掛ける意志があったのならまだ対処のしようもあるが、完全に逃げる気全開だとな……追跡スキルを発動させないように攻撃をしようともしないあたりが、本当に面倒だ」


「あ、あの! 一体、どうい、うことなん、ですか……!!」



状況があまり理解できずに呆然とする僕の横で、今まで黙っていたはずの苅澤さんが声を荒げながら質問をぶつける。


見れば一目でわかるくらいに顔が真っ青になっていて、寒くもないのに全身が震えている。


そのせいで舌がもつれているのだが、そんなことにも気づかないほどに苅澤さんは取り乱していたようだ。



「……まぁ、要するに、だな」



苅澤さんのリアクションを見て、来道先輩は罰が悪そうな顔をして答える。



「迷宮学園に根を下ろしてる犯罪集団…………俺たちはこれからそれと対決することになったわけだ」



迷宮学園


そこはどうやら迷宮生物以外に、人の闇というものが潜んでいる場所だということを僕はここに至って初めて知ることになったのだった。

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