第66話 第9層救出作戦⑤ 超謝れ!! 

英里佳の救出を無事に完了した僕たちは、いったん安全地帯となっている第8層へと戻ってきた。


上でエリアボスの相手をしてくれていた会長も無事に戻ってきたところで、ひとまず全員が待機し、そして今後のことについての話し合いが行われることとなったのだが……



「私悪くないもんっ


そもそも私一人で歌うつもりだったのに色々準備するとか言われたから遅れたんだしー」



ぶーっとふくれっ面を見せてそっぽを向くMIYABI


作戦開始前、あれだけ大見得を切っておきながら間に合わなかったというのにこの態度


本当にメンタル強いなこのアイドル。



「まぁ、そもそもライブの決定自体が急だったのだし、仕方ないんじゃないかしら?」



そう擁護したのは、我らが北学区生徒会長の天藤紅羽先輩であった。


現在、この会議が行われているのは第8層に作られた生徒会関係者用の大型テントの中である。


メンバーは会長をはじめ、来道先輩、会津先輩、氷川、そして瑠璃先輩という北学区生徒会の面々と僕こと歌丸連理、そして西学区関係者のMIYABIとそのマネージャーだった。


なんで僕がこの場にいるのかだが、まぁ、今回の作戦の立ち上げに関わったということで一応形式だけでも出席するように言われたのだ。


ちなみに英里佳も後から当事者として参加する予定だが、今は怪我の治療と体に異常が無いかの診察を受けている。



「……では、ひとまず地上に戻るということで」「待ってくれ!」



この場での解散を宣言しようとした副会長の氷川明依に待ったをかけたのは、西学区の生徒会副会長であり、MIYABIのマネージャーである小橋努こばしつとむであった。



「ライブの告知はもうしてしまっていて、そしてMIYABIが救出作戦に参加するとは伝えています! どうにか、攻略という形ですぐに作戦を続行してくれないでしょうか!」



直角90度に腰を曲げて必死に頼み込むその姿、いろいろと胸に来るものがある。


正直、見ているこっちが申し訳ない気持ちになるくらいだ。



「と言われましても……こちらの主力はもうかなり疲弊しています。


怪我ならば回復魔法でどうにかなりますが、あの極限状態での戦闘はかなり負担をかけていて、すぐにエリアボスの攻略を行えるほどこちらの生徒は回復していません」



「そこを、そこを何とかお願いします!!」



お辞儀から土下座へと流れるように無駄のない動作で移行した小橋副会長


あまりに必死に頼み込まれてしまい、氷川も顔が曇る。



「お、おい小橋、うちの後輩を困らせないでくれ」



そこへ来道先輩が助け舟を出す。



「それにお前だって今回のゲリラライブに反対だったはずだろ?」


「――俺一人が損をするのなら、わざわざ頭なんて下げたりもしないさ」



来道先輩の言葉に、小橋副会長は顔を上げた。


その眼にはとても強い決意がこもっていた。



「今回のライブ……突然だったからこそ、急いでいろんな奴らが頑張って準備してくれたんだ。


衣装は万が一を想定して防御力もありつつ、そしてダンスに対応できるようにと西学区の職人をたたき起こして仕立てた。


この時点で軽く30万円は予算を使った。


機材も、攻撃受けても壊れないように東学区のパーツを使って急いで補強した。


精密機器だからな、壊れた時の予備も同じ補強を施してかれこれ200万は超えているうえに、総重量が4倍だ。


ここまで運んで設置し、そして回線つなげるのにかかった費用だけでもどんだけ少なく見積もっても50万を下回ることはない」



その眼から光が見えず、なんかもう闇に見つめられているような気分になるが、その口から図れる闇の深い情報に聞いているだけで気分が滅入る。


なんか会計職である3年の会津清松先輩なんて指折りしながらさらに顔色悪くさせているし。



「この後、それらの人件費も後で払う予定となっているがな……手伝ってくれた連中には、MIYABIのライブが見れるならタダで良いって言ってくれた奴もいるんだ。


だから、頼む!


せめてそいつらに報いるために、どうか、どうか頼む、いやお願いします!!」



再びの土下座


なんかもう、圧力がすごい。


土下座ってここまで人を圧倒するものだったのかとびっくりするほどだ。



「あと、これ外でも緊急特番組まれてて、学園の外にいるOBの人や、MIYABIのために資金や機材提供してくれた人たち、本当にいろんな人に迷惑がかかるんだ、だからどうかお願いします!」



「え、その……この場でライブするだけじゃダメなんですか?


その、榎並英里佳の救出を祝うという形では……?」



「えー……なんかそれじゃつまらないから私歌いたくなーい」



まさかの本人がボイコットである。


もうやめてあげて! 小橋副会長の精神的なライフはもう0よ!!



「くっ……というわけなので、どうか……どうかー!!」



床に額をこすりつける小橋副会長に完全に気圧される氷川と来道先輩の両副会長


困ったように会長である天藤先輩に二人して視線を向けるが……



「先に言っておくけど、私は戦えないわよ。


ソラはかなり疲れてすぐには飛べないし、私一人だと上に行くだけでも難しいもの。


本来私ってスピードよりもパワーで戦うタイプだから」



北学区の最高戦力がこういうんじゃ難しいだろう。


そもそも、現状あの高い巣の上にいるエリアボスを攻撃できるのは遠距離攻撃ができるやつか、空中に浮遊する足場を移動できるものだけ。


だが、第8層の入り口からエリアボスの距離はかなり離れていて遠距離攻撃も容易ではないし、エリアボスの甲殻はかなり頑丈で一発や二発当てた程度では話にならない。


また、巣の上にたどり着ける人員は英里佳救出でかなり疲弊してしまっている。


空を飛べる迷宮生物をテイムしている連中に運んでもらうとしても、近づこうとしたら結晶体の散弾の格好の的……会長のソラのような頑丈な鱗を持つ飛竜でも直撃を嫌ったのだから並の迷宮生物じゃ受ければ即死だろう。



「でも別に戦わないとは言ってないわよ。


ひとまず数時間ほど休憩をはさんでそのあとに延期という形にするから」



会長のまっとうな意見に対してMIYABIの反応は……



「えー……なんかそれじゃ燃えないし、私もう帰って寝ていいかなぁ?」


「小橋副会長、あなたキレてもいいと思います」



黙っていたけど思わず僕はそんなことを言ってしまった。


本来僕みたいな下っ端はこの場であまり口をはさむべきではないのだが、みんな同じ気持だったので注意はされなかった。



「ああ……殴れるものならばすぐにでもこの女を殴り殺してやりたい……だが……だがなぁ…………こいつの歌は本物で、そしてこいつの気分がよくないと歌の魅力が霞む!


こいつが最高の気分で歌うときは、本当に誰も魅了されるもので、俺もその一人だ!


こいつが最高のパフォーマンスでライブするのなら俺はなんだってする!


だから、今すぐに作戦を続行してくれるというまで俺は土下座をやめない!!」


「コバちゃんがんばれー」



――やばい、小橋副会長があまりに報われなさ過ぎて泣けてきた……


なんでこんな一生懸命な人がこんないい加減な奴のために頭下げて、そして頭下げさせてる張本人が興味なさげに学生証いじってんだろ……



「――失礼するわよ」



そんな時、会議中のテントの中に誰かが入ってきた。


それは二人の女子生徒であった。そして二人とも僕は知っている。


そして天藤会長が、笑顔で出迎える。



「あら、雲母きららがこっちに来たってことは治療はもう終わったの?」


「ええ。とりあえずはですけど」



北学区生徒会の最後のメンバーの一人である湊雲母みなときらら先輩


そしてもう一人は、つい先ほどまで彼女の治療を受けていたであろう、この会議への参加が決定していた少女、僕たちが先ほど救出した……



「英里佳、もう平気なの?」


「うん、心配かけてごめんね」



榎並英里佳その人だった。



「えっと……傷のほうはどうですか? その、あととか……」


「三上さんから受けた傷は消えそうだけど……矢を無理やり抜いた痕はさすがに残るわね」


「…………」



湊先輩の言葉に、僕はなんだか気持ちが沈んでしまった。


傷痕きずあとというのは男にとっては勲章くんしょうみたいなものだが、女の子にとってはあまり快いものではないはずだ。


だから、極力英里佳にはそういうのが残ってほしくなかったのだ。



「あの、歌丸くん、私は別にそういうの気にしないからそんな顔しないで」


「いや、だけど……」



こんな時なんていうべきなのか言葉を選んでいると、僕と英里佳の間に湊先輩が割って入る。



「本人がそう言っているのなら気にしなくてもいいわよ。


それより――歌丸くん、手を出しなさい」


「え? あ、はい」


「そっちじゃない。噛まれた右手のほうよ」


「…………どうぞ」



僕は応急処置として包帯を巻かれた手を差し出し、そして僕の手を握った瞬間湊先輩は顔をしかめた。



「完全に骨折れてるじゃない。


榎並さんの傷よりも酷いわよこれ」


「え……」



湊先輩の言葉に、この傷を不可抗力とはいえ僕に与えてしまった英里佳が顔色を一気に蒼く変えた。


何も本人がいる前で言わなくても……



「どうしてすぐ言わなかったの」



その言葉は僕に対しての質問というよりは詰問だった。


視線や雰囲気が、僕を責めている感じである。



「いや、別に死ぬような傷でもないですし……ほかにも怪我してる人がいたのでその後でもいいかなって」


「スキルで痛みに耐えやすくなったからって、怪我をそのままにしていいはずないでしょ。


前もそうだったけど、自分を蔑ろにし過ぎよ。あなたの行動、モニターで見ていたけど運が悪かったらあなたは死んでいたわよ」


「……すいません」


「私に謝るくらいならもっと自重しなさい」



そういいながら、僕の腕に回復魔法が施される。


青白い優しい光が僕の右手を包み、先ほどまでまともに指も動かせなかったのだが完璧に動くようになる。



まぁ、ちょっと噛み痕が残ったがそれはそれだ。僕は男だから問題ない。



「……歌丸くん、あの……」


「あー……えっと……まぁ、これは僕が勝手にやったことだし…………その、とりあえずお互い気にしないという方向で」


「でも」「はいはいはいはい、とりあえずそういう話は二人っきりでしましょう」



英里佳の言葉を遮ったのは湊先輩だった。


そして先輩はまっすぐに会長のほうを見て質問する。



「攻略戦の開始はいつの予定ですか?」


「ちょうどそのことを話していたところよ。


そこの土下座続行中のマネージャーさんは今すぐ開始してくれって言われて……うちの副会長たちが困ってるのよ」


「それはちょうどいいですね。


医療課として、私も即座にエリアボスの攻略を希望します」



湊先輩の言葉におもわず土下座していた小橋副会長が驚いて顔を上げた。



「湊さん、どういうことですか?


生徒会の一員であり、そして医療課のあなたなら現状ではすぐに攻略を開始する余裕がないことくらいはわかるはずですよね?」


「確かにその通りよ。


だけど医療課として人命以上に優先すべきことはない。


動ける人がいるのなら、すぐにでもエリアボスを攻略して救助に当たるべきよ」



そうきっぱりと断言した湊先輩の言葉に、誰もが頭に疑問符を浮かべる。



「……なぁ、湊……すでに榎並の救出は終わってんだが……というか、そこにいるだろ?」



その通り。


第9層で救出すべき対象である英里佳はもうここにいる。


もうあの階層に助けるべき人はいないはずだ。


なのに湊先輩はむしろ来道先輩の言葉をいぶかしむかのように小首を傾げ、



「? ……来道副会長、私が言っているのは今も第9層で氷漬けになっている二名のことです」



「「「「は」」」」



異口同音、誰もが唖然とする。



「奇跡的に、二人とも仮死状態でまだ蘇生可能です」



「「「「え」」」」



数秒、長い沈黙がテントの中に流れていく。


そして、放心状態からいち早く復帰したのは氷川だった。



「それは、どういうことですか?


二人ともエリアボスの攻撃を受けて足を踏み外し、そしてエンパイレンに落下して爆死したのでは……?」


「これですよ」



そういいながら、湊先輩がポケットから一枚のバッチを取り出し、その表面には天使のように頭に輪っかと、背中に翼の生えた羊が描かれている。



「スケープゴートバッチ」



それは以前、僕や英里佳がギルドへの入隊試験の際に使用した即死を防ぐ消耗品で一定以上のダメージを受けるとバッチが身代わりになってくれるというアイテムだった。



「……いえ、ですがそれは一年に多めに配ったのでもう在庫が無くて配れなかったはずじゃ……」


「配布じゃなくて個人で所有していたそうよ。


持っていたのは一人だけなんだけど……えっと、この画像を見て」



湊先輩が学生証を操作すると空中に一枚の画像が映し出された。


そこには二人の生徒が上下に浮かぶような形で氷漬けになっている姿があった。



「二人とも、エリアボスの攻撃は直撃してなくて、避けようとして足を踏み外したのよ。


そしてこの下の生徒が少し早く落下して、エンパイレンの急激な発熱によって爆発が起きた。


この時点でこの生徒は死んでいたはずだけど、そこはバッチが即死を防ぎ、なおかつ上の生徒への爆発の衝撃が弱まったの。


水が入ってすぐに凍らされたことで二人とも火傷はしてるけど死ぬほどの傷は負ってないわ。


普通の方法ならこの時点で助からなくても、急いで救助すればまだクレリックの上級回復魔法で蘇生ができるはずよ」



回復魔法スゲェ。



「タイムリミットは?」



そう質問したのは天藤会長だった。



「4時間、それを過ぎたら蘇生はできません」



「無茶よ! あのエリアボスの耐久見たでしょ! 会長の攻撃でようやく甲殻にダメージを与えられて、それでもすぐに回復するのよ! 4時間以内に倒せるはずがないじゃない!」



ヒステリックに声を上げたのは氷川だった。



「ちょっと待った!」



そこで再び僕は声を上げた。



「何よ! 今あなたに構っている時間はないのよ!」


「いいや聞いてもらう。


そもそも忘れないでもらいたい。


そのエリアボスの足一本はいまだに再生してなくて、そしてそれを為したのは?」



僕のその言葉に、氷川は「あ」と声を漏らす。


そう、会長の攻撃にも耐えるあのエリアボスに、足一本喪失させるほどの攻撃を行ったやつがいるのだ。



「――僕のパートナー、シャチホコです」



あいつの物理無効、および回復阻害の攻撃はエリアボスにもっとも有効だ。



「僕が囮になって逃げまわる間に、シャチホコがボスに攻撃をし続ける。


そうすれば4時間以内、いやもっと早く確実にエリアボスを倒せます!」


「……先ほど自重しろといった手前、怒るべきなんだろうけど……現状だとそれがもっとも効果的みたいね。


お願いできる」


「はいっ!」



そうと決まれば、とりあえず上に行く手段を考えなければならないな。



「待ちなさい、勝手に決めないでください!」



だというのにいちいち突っかかるなこの学園一のスナイパー氷川



「……というか、氷川コラ」


「なんですかその言葉遣い」


「お前さっき僕に目の前で死者が出たぞとか言って責めたよな。これ以上作戦は長引かせられないとかなんとか言ってさ」


「え…………あ…………えっと……」



わかりやすく目を泳がせる氷川


いくらしらばっくれても僕は忘れないぞ。



「別に……責めたわけじゃ……ないですし、作戦を迅速に終わらせようとすることに何の問題があると?」



くいっと眼鏡、じゃなくて色の薄いサングラスの位置をながら開き直ろうとするが、そういう問題じゃない。



「あのさ、僕がそれ言われたときどんな気持ちになったか想像できる?


あの時さ、滅茶苦茶へこんだんだぞ! 謝れ、あの時の傷ついた僕の心に謝れ!!」


「は、はぁ!? なんで私が謝らなければならないんですか!」


「精神的苦痛を被った」


「何を勝手な、こっちだって人が死んだことに対して平気じゃなかったわよ!」


「それはそれだろ! 僕が言ってるのはお前の誤った言動についてであって、それに与えられた精神的苦痛についていってんだよバカバーカ!!」


「そっちの暴言こそ精神的苦痛でしょ!」


「事実を述べただけだよバーカ! お前が適当なこと言ったことで僕はとてもとても心が傷ついた! ほら、小橋副会長だって頭下げたんだし、同じ副会長としてさっさと僕に土下座しろ!!」


「それこそ関係ないでしょ!!」


「いいから嘘言ったことを謝れ!!」


「くっ、こ、この…………っ!


いいえ、そもそも私は一切虚偽の発言などしていません」


「はぁ?」


「仮死状態であったとしても、広義でみれば死亡者なので私は一切虚偽は言ってません!」


「屁理屈じゃねぇか!!」


「むしろ私に今の発言によって与えられた精神的な苦痛について謝罪を要求します」


「開き直ってんじゃねぇぞ口だけでカッコいいこと言って普通に倒されたくせに!


何が学園一のスナイパーだ! お前なんぞ学園一普通のスナイパーだ!」


「一なのか普通なのかはっきりしなさい。というか謝りなさい!」


「そっちが謝れ!!」


「いいえ、そちらこそ謝りなさい!!」


「そっちだ!!」


「あなたです!!」


「お前!!」「あなた!!」



「……お前ら仲いいな」



「「どこが!!!」」



思わず同時に異口同音で突っ込んでしまい、再びにらみ合う。


だが会津先輩の言葉をそのまま受け入れるなどもってのほかだ。



「だいたいさ、まだ助けられる仮死状態の人を死亡者とか言って見捨てようとする冷血女なんかと一緒にしないでくださいよ!」


「だ、誰が見捨てるなんて言ったんですか!!」


「言ったも同然だろ! 僕たちを邪魔しようとしてる時点で!」


「あなたの頭スカスカな作戦じゃただ被害が増えるだけで救出できないと言ってるんです!!」


「お前にだけは言われたくないよこのファッションインテリ伊達メガネ!」


「だからこれはサングラスで、そもそもファッションってなんですか、取り消しなさい!」


「だったらお前なら僕よりいい作戦が考えられるっていうのかよ!」


「当たり前です! あなたの矮小な脳みそじゃ考えつかないような、それこそ犠牲者を一切出さない作戦だって考えられます!!」


「言ったなぁ?! だったらマジで考えろよ!!


犠牲者ゼロでエリアボス倒す作戦!! どうせ無理だろうけどさぁ!!」


「はぁ!?!?


そんなことあるわけがないでしょ、あなたじゃないんですから!!


私の指揮のもと、完全に安全であんなハリボテ同然のクモを封殺してあげますよ!!!!」





「――えっと…………それじゃあ、北学区はこれから氷川副会長主導のもとエリアボスの討伐を行うということでよろしいのでしょうか?」



恐る恐る尋ねてきた小橋副会長


その言葉に、一瞬氷川はキョトンとした顔になり、そしてすぐに顔面蒼白となる。



「え……あ…………その……それは、えっと」



目に見えて狼狽えて目がバタフライしている氷川の姿に僕は思わず吹き出してしまう。



「ぷふー、こいつやっぱり勢いで無理なこと言ったんだ―、かっこわるーっ!」


「で、できますよ! なんだったら今すぐにでも考えつきます!!」



売り言葉に買い言葉


本当に勢いとは恐ろしいものだが、得てして真に恐ろしいのはその勢いを調子付かせる者なのだろう。



「――みんな今の聞いたねー!


それじゃあ今すぐ攻略戦始まるから準備してねー♪」



テントの中に明るい声が広がり、誰もがその声の主に視線を向けた。



そこには満面の笑みを浮かべたMIYABIが学生証を口元に近づけていた。


その姿に、すでに同じ手をやられた面々は勘づいた。


わかってないのは現場にいなかった小橋副会長と湊先輩と英里佳くらいだろう。



「……MIYABI、さん……あの……今、何を?」



氷川がわかりきったことを尋ねる。


いや、正確にはわかってはいるのだが頭が理解を拒んでいるのだろう。



「えっとね、今の会議、特に氷川副会長とウタくんのやり取り全部私の放送チャンネルで学生証通じて流しちゃった♪」



テヘペロと舌を出してウィンクするMIYABI



「当然私も攻略戦歌っちゃうよー!」



その言葉と同時に、テントの外が一気に歓声が沸く。


リアルタイムで流していたようだ。



「あ……あぁ……ああああああぁぁぁ…………」



その場にペタンと座り込んでうつむく氷川


僕はそんな彼女を見て一言。



ザマァドンマイ



おっと、本音と建前が逆に……



「ふんっ!」「ぐはぁ!?」



殴られますた。

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