第56話 人と樹木とウサギと僕と

新しいマスクを着け、除草剤を巻きながら進んでいく。


視界が霞むほどに胞子が濃く、今は安全ゴーグルも装備している。



「う、うぅ……」



胞子で黄色っぽく見える視界の向こうで、すすり泣くような声が聞こえてきた。



「歌丸」



マスクで少しこもった声を発する三上さん



「うん……」



僕は前に出て、その姿が見えるくらいまで接近する。



そこに、彼女がいた。



金瀬千歳かなせちとせと名乗った、ドライアドが涙を流している。



「ひどいよ……どうして、どうしてみんな…………私を置いていくの……!」



その言葉は僕たちを責める様に告げられているように見えた。


だけど、違うのだ。


彼女の視線は僕たちには向けられていない。



「それが……」



触れてはいけないことがある。


それは十分知っていたけど、暴かなければならない傷がある。


その行為にどれだけの激痛が伴うとしても、



「本物の金瀬千歳さんの最後の言葉だったの?」



突きつけなければ何にも変わらない。



「――――何を言ってるの?」



先ほどまで泣いていたはずのドライアドが表情を一瞬で凍り付かせてこちらを見た。



「金瀬千歳は、私だよ」



僕を見るその瞳には一切の迷いがなく、彼女がその事実を誰よりも信じていた。



「違う、君はドライアドだ」



それでも僕は真正面からそれを否定する。



「金瀬千歳さんのパートナーだった迷宮生物だ。君の名前は……」



そうだ、あの時彼女自身が言っていたことじゃないか。



「ララ、なんでしょ」



僕を見るドライアド――ララの表情は無表情から豹変する。



「――チガウッ!!!!」



周囲から木の根っこが生えて来て、鞭のようにしなりをあげて僕に迫る。


しかし、三上さんがそれらの根っこをすべて切り落として攻撃を無効化する。



「ありがとう三上さん」


「別にいいけど……やっぱり言葉だけじゃ駄目なんじゃないの?」


「だろうね。当然、認めないってのは重々承知してるけどさ……言っておかないといけない気がしたから。


言わずに事実を突きつけても、納得できないよ」


「それ、経験?」


「まぁね……散々言葉を尽くされた僕だから、言葉で指摘されることの大切さは身に染みてわかってる」


「……まぁ、いいわよ。


アンタがやりたいってことに私が付き合うって決めたんだしね」


「ありがとう」



彼女に礼を述べて、僕は再びララに向き合う。



「私は、ララじゃない……私の名前は、金瀬千歳!


ほら、ララならここにいる。そうでしょ、私は、ちゃんとここに生きてるっ!」



そう言って、彼女は傍らに生えてきた根っこに触れる。



「確かに生きているよ。だけど君は金瀬千歳じゃない。ララだ」


「チガウ、違うちがう違う!!」



迫る根っこはすべて三上さんが防いでくれるのだが、胞子の濃度が濃くなっていく。



「私は、金瀬千歳!


ちゃんとここにいて、生きてる! 誰も助けに来てくれなかったけど、ちゃんと生きてる!


だから助けてよ、私はここにいるんだから助けてよぉ!!」



「うん、助けるよ」



一歩前に踏み出す。


そしてそのまま一気に走り出して、僕はララの隣を走り抜けた。



「っ――駄目、そっちに行っちゃ駄目ぇえええええ!!!!」



金切り声のような悲鳴で僕を呼び止めとようとするララだが、僕は今出せる全力で走り抜ける。


この先にあるであろう、彼女が今も場所を目指して。





昨日の作戦会議の時、僕は学長の指摘からある考えが頭に浮かび、それが事実なのかを確認した。



「あのドライアドは何かを守ってるって……どうしてそう思ったの?」



「うん、エンぺラビットたちに大体の根っこが広がっている範囲を調べてもらって、仮にその範囲をこの円とするよ」



地面を打撃昆を使って浅く掘って円を描く。我ながらうまく描けた。



「それでえっと、そこの二匹、この端の部分から僕たちが歩いたと仮定した場合、僕たちがドライアドと接触した位置はどの辺り?」



「ぎゅぎゅう」

「きゅるるう」



僕たちに同行した二匹のエンぺラビットが、全く同じ位置を指さして、僕はそこに印をつける。


流石はシャチホコの仲間、地図とか無いのにすぐに判断した。



「これって……」



そう、昨日僕たちが接触した場所は根っこの中心から外れた位置だったのだ。



「多分だけど、だいたいこの範囲ならどこを通ってものあのドライアドの擬態が設置されているはずだよ」



先ほどのエンぺラビットたちが指定した位置と中心の距離が同じになるように円をさらに描く。



「つまり……本体は地下じゃなくてこの根っこの中心……あの擬態を素通りしたさらに奥にあるってこと?


よくそこに思い至ったわね」



「腹立たしいけど、学長の助言で気づけた」


「演技をしてない……っていうのが?」


「いや、正確には演技はしてるんだけど……僕たちにはしていない。


だからあのドライアドは矛盾してたんだ」



「矛盾……?」






「止まって」「そっちは駄目」「助けて」「怖い」「置いていかないで」



周囲の木々から無数の声が聞こえてくる。


人の形の不完全な、金瀬千歳の顔を模した何かが声を発していた。



「――本来もっと外側に置いておくべき獲物を招くための擬態が、中心近くに配置されていること。


それが一つ目の矛盾だった」



左右から迫りくる根っこ


僕はそれを回避しながら走り続ける。






「一つ目ってことは……二つ目は何?」


「それは内容としては一つ目と被ってるんだけど……言動と行動が一致してないことだよ。


あの擬態……金瀬千歳は助けを求めているけど、ドライアドとしての行動はむしろ誰も近づけないようにしている。


根っこもそうだけど、何より胞子が決定的だよ。


あれじゃあよっぽどのことが無い限りはもう誰も近づこうとはしない」



「まぁ、そうよね。普通なら私も避けるように判断するわ」



「でしょ? そして三つ目、ドライアドは根っこの罠を広げ続けている。


一見普通に見えるかもしれないけど、これもドライアドの生態としては矛盾してる行動なんだよ」



そう、それは三上さんが僕に語っていた内容だ。


それに気づいたようで、三上さんもすぐに納得した。



「そうよね……ドライアドはむしろ周囲の樹木に擬態して獲物を罠にかける迷宮生物モンスター


本体の戦闘力はあまり高くないのに……今みたいな目立つ行動は遠まわしに自分を脅威にさらすことになる」


「その通り。


胞子はかなり強力だけど、体が大きいほど完全に動けなくなるまで時間がかかる。


アームコングくらいに巨大な迷宮生物がいるこの階層ではあまり有効とは言えない。


もし根っこがアームコングの生息域にまで及べば、根っこの罠や胞子を突破して一匹くらい本体に到達して倒してしまう危険性だってあるはずなんだ」



そうならないために、本来のドライアドは隠れていたはずだ。



「アームコングを倒せるくらいにあのドライアドが強いかって言うと、正直言ってNOだ。


僕でも対応できるような根っこの力で、あの腕力は防げない。


にもかかわらず、ドライアドの根っこは円形に満遍なく広がっていてアームコングの生息域やほかの迷宮生物の生息域を避けていない。


そうだよね、長」


「うむ、ウタの言う通りだ。


今は一部が我々の里に向かっているが、その前の状態の広がり方にズレはなく、今もゆっくりであるがその範囲を広げている」



長の言葉で矛盾が決定的なものとなる。



「擬態の矛盾、言動の矛盾、生態の矛盾。


どれも突き詰めていけばドライアドとして破綻する結果に行き着く。


なのにどうしてそれを続けるのかっていうのが、学長の指摘で気づけた。


ドライアドの演技が向いている対象は僕たち外側じゃなく」



ここまで言えば、流石に誰でも気づく。


三上さんは僕に問う。



「――内側……つまり、自分自身ってことね」





根っこを抜けた先。


そこには巨大な、しかし背がとても低い樹があった。


上にではなく横に枝が伸びていて、一見すると巨大な花のように見える。


いや、事実“花”なのだろう。


そしてその花の中心点にはとても大きな球体が存在が存在しており、半透明なソレの中に人影のようなものが見えた。


僕は迫る根っこを避けて、一気にその花の上に乗る。


途端に、根っこ追跡が無くなった。



「ここは君にとって金瀬千歳を演じる上で一番譲れない場所。


助けを求める彼女の目の前で、誰かが去っていくようなことはことはしたくないっていう君の想いが、そうさせているんだろ」



もう声は聞こえない。


だけど僕の声をしっかり聴いているはずだ。


足元の花が微かに脈動している。



「この花は、根っこみたいに誰かを追い払うのではなく、誰かを招く場所。


金瀬千歳の想いを汲んだ、君のやさしさがそうさせているんだ」



「――ちがう」



幼い、舌っ足らずな声がした。



目の前に現れたのは、木の根っこがそのまま髪となっているような女の子だった。


しかしその姿には不気味さはなく、むしろ可愛らしい、それでいて生命力が溢れているような印象を受ける。



「それがドライアドとしての君の本来の姿なんだよね、ララ」



「ここじゃない……千歳、あっち。


たすけてあげて」



そういってララが指をさすのは僕が来た道の方向だ。



「違うよ。金瀬千歳がいるのは、あそこだ」



だから僕は正反対の方向を指さした。





「あのドライアドは、ドライアドとしての意思と、金瀬千歳としての意思を二つ同時に実行しているんだ。


そしてその自覚がないゆえに、自分だけで二つの思惑を同時に実現しようとして、二つとも駄目にしてしまっている。


だからその行動が矛盾だらけになっている」



誰にも近づいて欲しくないけど、誰かを求めている。


その悲痛の声は本物で、しかし身を守ろうと追い払う。


誰にも近づいて欲しくないのに、自分を助けて欲しくてその存在を主張する。



あらゆる矛盾も、単体ではなく複数であると認識した途端に納得ができた。



多重人格たじゅうじんかく……ってことを言いたいの? 迷宮生物で?」



三上さんは僕の出した結論に唖然としている。


そりゃ、かなり荒唐無稽こうとうむけいなことを言っている自覚もあるけどさ……



「僕と長、さらに学長とで会話が成立している。


言葉を喋れない他のエンぺラビットとも意思疎通ができる。これは知性がなければ成立しないことなんだ。


知性を持っている故にこそ起こる精神障害は、人間だけに起こるものじゃない」



犬や猫でも“心的外傷後ストレス障害PTSD”が発症する例もある。


迷宮生物に多重人格――解離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがいが発症しても不思議ではない。



「それで……仮にあのドライアドが精神障害を起こしていると仮定して、アンタは何をするの?」


「事実を突きつける」


「事実……? 金瀬千歳が死んでいるって言って信じるとでもいいたいの?」


「違うよ、言葉だけじゃどうしても納得できないことがある。


だから、彼女が絶対に近づいて欲しくないところに、彼女自身が自分に向けて隠したものを暴くんだ」





「何を、するの……やめて、それに近づかないで……!」



ララが僕を止めよう声をあげるが根っこ生えてこないし、ララ自身の動きもかなり遅い。



「根を広げ過ぎだよ。


エンぺラビットたちが今、君の根っこの端を全方位から除草剤をぶっかけている。


その修復に力を奪われているから、君自身も動きが鈍っているんだね」



ここに来るまで僕単体で根っこの罠を抜けきれた理由はそれだ。


ドライアド一体には、贅沢過ぎるほどの数の戦力投入


長たちにはかなり無茶な頼みをしたと自覚しているが、それでも僕はどうしてもここにたどり着きたかった。



「それは、私の核なの……それを潰されたら、私が死んじゃう」


「違うよ、君の核は今ここにいる君自身だ」



とてもその気持ちは尊いものだと思う。


無意識とはいえ、自分の命よりも他者を大切だと思えるその気持ちは、とても尊い。


故に、思う。


このままじゃ駄目だ。



「これは、君が生きていくうえで全く必要のない存在だ」



人影の見えた球体は、近くで見れば琥珀色をしていた。



「だけど、君が生きていくうえで命よりも重いと想える……そんな大切な存在だった」



昔、テレビで見た蚊の閉じ込められた琥珀の化石を思い出す。


人間が死んだ姿としては、かなりロマンあふれる死にざまで、未来人がみたら跳んで喜びそうな姿だと不謹慎ながら思う。



「金瀬千歳


君が命を懸けて守りたいと思い、守れなかった君の大切な人だ」



ドライアドの樹液を固めてく作られた球体


そのなかで静かに死んでいる擬態とまったく同じ容姿の少女がそこにいた。



「今にして思うと、僕たちはかなり運が良かった。


数ある擬態の中から制服を着た擬態と巡り合えた。


それが無かったら、僕は君の存在に気づくことも、ドライアドに挑もうとすら思えなかったんだからね」



打撃昆を取り出して、大上段に振り上げる。



「パワーストライク」



今僕が出せる全力の一撃


それは琥珀色の球体に一気に亀裂が走る。


バラバラと琥珀の破片が宙を舞っていく。



「あ、ああ――――」



ララの声にもならない声が聞こえた。


だが、横目で見た限り彼女の方に変化はなく、目の前で砕けた琥珀の中から一人の少女が……いや、少女だった遺体が出てきた。



「あ、あ……!」



その姿を確認してララがその場で膝をつく。


僕は制服の上着を金瀬千歳に被せた。


いくら死体とはいえ、否、死体だからこそ辱めるようなことはしてはならないと思ったからだ。



「は、やく……戻さないと、死んじゃう……千歳、死んじゃう……!」



先ほどまで琥珀の球体が設置されていた場所から樹液がボコボコと湧き出してきた。


僕は制服に包んだ遺体を持ち上げて樹液から離れようと後ろに下がる。



「はやく、戻して……死んじゃう、千歳、腐って溶けちゃう……!!」


「いい加減に認めるんだ。


ここにいる彼女はもう死んでいる。


これは遺体だ。どうやっても金瀬千歳は生き返らない」


「千歳、千歳、千歳返して返してかえせぇぇーーーーーーーーー!!」



金瀬千歳の遺体を奪ったからか、先ほどと違って木の根っこが周囲から僕に向かって伸びてきた。



「最後の一本……使わせてもらうよ」



ステータスアップポーションを飲み込んで、筋力を底上げする。


これで遺体を抱えた状態でも普通に動ける。



「速い、けどぉ!」



だけど先ほどまで僕を捉えようとしていた根っことは明らかに動きが違う。


おそらく、周囲の根っこの動きを止めて遺体を奪おうとすることに全意識を集中しているのだろう。


だけどそれでも簡単に捕まるわけにはいかない。



「動きのパターンくらい、もうわかってる!」



足払いが来たら次は反対方向への胴を狙った薙ぎ払いが来る。


その場に倒れこむと、鼻先を根っこがかすめていく。



「ふんがぁ!!」



普段なら絶対できないような背筋を使った倒れた状態からの飛び跳ね起き。


そのまま続いてくる根っこのラッシュを回避し続けていると……



「――テンペストラッシュ!」



風が吹いたと思った瞬間、僕に迫っていた根っこが全部破壊される。



「どう、生きてる?」



風と共に現れた最強の騎士となった三上さんが僕を見てそういった。



「三上さん、今すごくカッコいいよ」


「そう? でも、悪くないわね」



そんなことを言いながら今も迫りくる根っこを切り払う。



「で、あれがドライアドの本体?」



三上さんは周囲の根っこを切り払い続けていく。



「あああ、邪魔、邪魔、返して、千歳死んじゃう返せ!!」



そしてその視界の中に今も叫びながらその場から動かず涙を流し続けるララを見た。



「説得失敗してるじゃない」


「返す言葉もない」


「で、どうするの? あれじゃあもう倒すしかないんじゃないかしら?」



今も根っこは僕たちに襲い掛かり続けているし、胞子の濃度も高くなっている。


このままこの場にいるだけで、ルーンナイトの三上さんはまだしも、少なくとも僕は胞子に感染するのも時間の問題だろう。



「でも、まだ手はある」


「説得しようにも、話聞かないわよ、アレ」



三上さんの言う通り、ドライアドは錯乱状態にあって話ができるような状態じゃない。


だけど、ならばそれを解除してやればいい。



「僕が英里佳助けたときの方法、知ってるよね」


「は…………ああ、なるほど」



僕がやろうとしていることの意味が分かったようで、不敵に笑う。



「だけど、それだけであの状態をどうにかできるのかしら?


榎並と違ってまだ理性的に見えるわよ」


「できるよ……これさえ覚えれば、っと」



素早く学生証を操作し、集めておいたポイントを使用する。


本当は取っておきたかったけど、今使うべきところだろう。



「能力をさらに強化した。これでいけるはずだよ」


「わかったわ。


榎並には悪いけど、私の方はまだ維持してよ。騎士回生Re:Knightまで解除されるし」


「了解、合図したら邪魔な根っこ吹き飛ばして」



僕はゆっくりと金瀬千歳の遺体をその場に置いて、足に力を込めていく。



「――今ッ!!」



「ペネトレイトスティング」



スタブの発展スキル


同じ発展のテンペストラッシュとは違い、こちらは一撃に重きを置いた攻撃


そしてそこから生じる衝撃波は前方の障害をすべて排除する。



「はああああああああああああああああああああ!!」



大声をあげて、自分に渇を入れながら走る。




――英里佳、ごめん、かなり心配かける。


――後で一杯謝るから許して欲しい。



特性共有ジョイント、解除」



英里佳とのつながりが、今途切れた。


それをはっきり知覚する。


だけど同時に、一つ空きができた。



「何を――」


「こうするのさ!」



ララの顔に手を触れる。



特性共有ジョイント、発動」



意識覚醒アウェアー、発動



これで狂乱状態だった意識は理性的なものにもどるが、それでもララに対しては大きな効果はない。


あくまで意識が喪失しないとこのスキルは発動しないのだから。


だけど、ここにさらにたった今習得したスキルが上乗せされれば――――



苦痛耐性フェイクストイシズム、発動」



やせ我慢に特化したこのスキル


その効果は“肉体やが感じるあらゆる苦痛を我慢できる程度に軽減させる”というもの。



「――――あ」



「もう、君は狂うことはできない」



物理法則も肉体の限界も鼻で笑うように飛び越える僕のスキルにより、精神的な揺るぎない防御を得たララは、現実を直視して正しく認識する。


そこに苦痛は伴うが、もうそれを否定できるほどに彼女は弱くなれない。



「彼女を……金瀬千歳を解放してあげよう」



「う……あ……」



もうマスクは必要ない。


先ほどまで周囲に充満していた胞子が、消えていくのだ。



「彼女は僕たちがちゃんと地上に連れていく。


だから、もういいんだ。君はもう、頑張らなくていいんだ」



「う……ぅ…………ううう、う……うぁ……ああ、うぅうううああああ、ああああ……ああああああ」



「今まで、よく頑張ったね」



先ほどとは違い、感情を血と一緒に吐き出しているかのような苦痛はそこにはない。


涙と一緒に感情を、今まで溜め込んでいた物を流出させているララのその姿は、ドライアドとか人間じゃないとか、そういうの全部忘れてしまうくらいに……ずっと、そう、きっと僕なんかよりずっと……人間っぽかった。

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