第52話 断崖絶壁の背水の陣って逆に生存フラグじゃね?

「げほっ……げほっ……」



体中が痛い。


ファングラットやソルジャーアントに噛まれ、キラービーに刺されて手足が焼けてるかのように熱い。


今も血が流れている。


キラービーの毒は出血がひどいからちょっと手足の感覚が鈍くなる程度で済んでるのが幸いだ。



「……まだ、スキルを覚えないか」



学生証を確認して、自分の変化のない状況に舌打ちをしてしまう。


ポイントはたまったが、もともとシャチホコの稼いだ500ポイントがあるから特にどうということはない。



「もっと……もっと自分を追い込まないと……」



死ぬギリギリまで自分を追い込む。


そうすれば新しい、現状を打開できるスキルを覚えられるはずだ。


そのためには……



――ギチギチギチッ



固いもの同士がこすれ合うような音がした。


そちらを見ると、何匹ものキラーアントがいた。



「……ああ、そういえばさっき潰した蟻に変な体液ぶっかけられたか」



フェロモンっていうの? そういうので仲間を呼ぶ習性があるって言ってたっけ……


そんなことを思い出しながら、僕は打撃昆を構えた。



「来いよ……効力が切れる前に倒せるだけ倒す」



何匹ものキラーアントが迫ってきて、ステータスアップポーションで強化した筋力で強引に薙ぎ払う。


三本同時服用は伊達じゃない。


あと、さっき今更ながら説明書読んだけど、あれって本当は時間内に一本が限度だったらしい。


それ以上飲むと副作用で失神するとか書いてあったけど、意識覚醒アウェアーのある僕なら問題はなかった。


だけど、まぁ三本は流石に吐き気がして今もそれが止まらない。



もう体も痛いし頭も痛い、痛い尽くしのオンパレードでさっきから意識覚醒が発動しまくりだ。



「おおおおおおおおおおおおお!!!!」



それでも僕は戦った。


そうでなければ、僕は僕を誇れなくなるから。






ポーションの効力が切れる時間を見計らった、エンぺラビットが迎えに来てくれた。


追ってくる迷宮生物を振り切って、エンぺラビットたちの隠れ里に僕はもう一度戻ってきた。



「ぎゅう……?」

『ダイジョブか?』



「……ああ……うん……なんとか、ね」



歩くたびに結構な量の血が流れていく。


本当、出血の量だけ見ればもうとっくに死んでいるレベルだ。


痛みで失神して動けなくなっていてもおかしくない。


それでもまだ手足を動かすのに支障がない程度で済んでいるんだから、本当に良かった。



「……せめて回復系のスキルでも取れたらなぁ……」



学生証のスキルツリーダイアグラムから、自然治癒能力を強化するパッシブスキルを見てみる。


使用可能の要求に1000ポイントというなんとも理不尽なものだ。


今までのスキルの傾向から考えて、きっととんでもない回復スキルなんだろうけど……現状半分しかない僕には届きそうにない。



「……今度シャチホコに何度か学長の不意打ちでもさせてみるか」



案外それだけでこの分のポイントが稼げそうで真面目に検討し始める。


とはいえ、現状取れないのでは意味もない。



「……エンぺラビット、ちょっと包帯巻くの手伝ってくんない?」


「ぎゅぎゅう」

『任せとけ』



流石に血を流したままってもの大変だし、止血だけでもしておく。


消毒だけでも意識覚醒が発動するほどの激痛が起きたが、とりあえずこれで歩いても血が流れることはなくなった。



「戻ったら回復魔法かけてもらわないと……」



失血死することがないだけで、本来は今の僕ってかなり重症のはずだ。


怪我の度合いだけ見たら多分ドライアドの胞子に感染した三上さんより酷いかもしれない。


というか、たぶん意識覚醒が無かったら今すぐにでも失神できる。


衣擦れだけでもかなり痛い。



「っ…………行こう」


「ぎゅう」



流石に今は頭に乗ることを遠慮してくれたらしい。


そうやってしばらくすると、エンぺラビットの長がいた。



「長、根っこの進行状況はどう?」


「ウタか……ふむ、用意してもらった除草剤のおかげでかなり進みが遅くなった」


「遅くなった……か」



ドライアドの根っこがこのエンぺラビットの里に到達した。


その対策として、僕は急いでエンぺラビットたちに除草剤の材料となる植物を集めさせてできる限り大量に除草剤をつくって根っこに直接かけさせた。


そのおかげで根っこは先端から腐っていくが、後からどんどん新しい根っこが生えてきて伸びてくる始末だ。



「……やっぱり、狙ってるのは」


「…………うむ、おそらくウタの仲間の娘だろう」



ドライアドが目標として定めているのはたぶんこの里のエンぺラビットたちじゃない。


もしそうだったら、もっとはやくここに来ていたはずだ。


ただ、ドライアドは今まで全体的に広く伸ばしていた根っこの進行のすべてをこの里にいる三上さんに集中してきた結果、その進行速度が爆発的に加速したのだ。



「このまま除草剤をかけ続けたとしても……おそらく二日後にはこの里全体が奴の根に覆われることとなる」



「……あと二日、か」



今日はもう外が夕方になっているだろうから、仮に今日のイベントが無事に終了したとして……残りのイベントを二日で……合計四日こなせるのか?


いや、無理だろ。


歴代のイベントは最低でも五日はかかるし、最長の場合はGWの全部、まるまる一週間にまたがったことがあった。


仮に今回のイベントが最短の五日で終わったとしても、やっぱり一日足りない。



「……我々も最後まであきらめるつもりはないが、万が一の時はこの里を…………ドライアドにとらわれた仲間を見捨てて別の里に移る。


里のために尽くしてくれたウタを十層まで案内はするが……」



言外に、三上さんのことは諦めろと長は言っているのだろう。


ドライアドの狙いが三上さんである以上、彼女と一緒ではこの十三層から上の階層にいくことも、ましてエンぺラビットたちについていって別の隠れ里を目指すのも困難だ。



「そんなこと、させない」



拳を強く握る。



「ドライアドは僕が倒す。


残った日数使って、必ずそのためのスキルを修得する」



そんなことを言っては見たものの、大言壮語も甚だしい。



僕は一人、三上さんが待っている大きな木の根元の方まで歩きながらため息をこぼす。



現状、僕が覚えられるスキルは……



肉体や精神が感じるあらゆる苦痛を我慢できる程度にまで軽減させるスキル


苦痛耐性フェイクストイシズム


ルビの直訳は『やせ我慢』だ。


ちなみに、あくまでというものであって、怪我が無くなるわけじゃないらしい。要するにセルフ麻酔って感じかな。


スキルツリーダイアグラムの構成を見ると、意識覚醒の補助に分類されている。


たぶんだけど、これを覚えると英里佳の狂化をさらに抑えられるようになるのだろう。



そして次に覚えられるのが酸欠にならなくなるという


超呼吸アンリミテッドレスプレイション


どんな状況であっても快適に呼吸ができて、息切れしなくなるというもので……たぶん字面と高ポイントも要求されるところを見ると、これを覚えると水の中でも土の中でも普通に呼吸できる可能性がある。


つまり窒息死しなくなるということだ。


すごいスキルではあるが、現状では必要はない。



そして最後が筋肉痛が即座に回復するという


万全筋肉パーフェクトマッスル


多分だけどこれ、要は筋肉に限定して損傷が即座に回復するというスキルなのだろう。


一般的に肉体の疲労っていうのは筋肉を使った時に出る乳酸が筋肉の繊維を壊している状態を指しているわけで、このスキルはその損傷を即座に回復できるというわけだろう。


つまり、筋肉を使う疲労が即座に回復するということだ。


名前はネタっぽいが、これを超呼吸と組み合わせた場合、なんかとんでもない化学反応が起きる気がするよ。



「……とはいえ、ドライアドを倒すのに有効かっていうと……微妙なんだよなぁ」



英里佳ならともかく、僕が体力無尽蔵になってもたかが知れてるわけで。


となれば、打開策は……



「……あと、3回か」



適応する人類ホモ・アディクェイション



発動条件

・4回以上死を覚悟した後に生き残ること。

 →残り3回

・?



全身をファングラットの大群に噛みつかれたときは死ぬかと思った。


今思い出しても全身が震える。


自分が人間ではなく、餌にされていく感覚は、なんとも…………生きた心地がしなかった。



「っ……しっかりしろ、僕


今まさにその感覚で苦しんでるのは三上さんじゃないか!」



今動けるのは僕だけなんだ。


僕がしっかりしなくてどうするというのだ。



「三上さん、今戻ったよ」



表情はなるべく普段通りを意識しているが、痛みで引きつったものになってないか心配だ。



「…………あ……うん……おかえり」



三上さんはぼうっとした表情で目線だけこちらに向けている。


意識覚醒アウェアーは発動しているはずだが、それ以上に意識の混濁が激しいのだろう。


彼女の手を見ると、色が緑っぽく変色している。植物化が始まっているのだ。



「里は……どう?」



「根っこの進行は除草剤で遅らせられる。


とりあえずあと三日は持つから、それまでに救助が来なかったら避難しようって話になってる」



「……そう」



今彼女の不安を煽るようなことは言いたくなかったから、ひとまず彼女もイベントが最短で五日で終わってることも知ってるはずだ。


問題ない。


根っこが到達する前に僕がドライアドを倒せば済む話だ。



「相当、無茶したわね……」


「……なんのこと?」


「血の匂いそこまでぷんぷんさせて……気づかないとでも思った?」


「違うよ、ただちょっと切れ痔が酷くて」



なぜあらゆる選択肢の中からそんなウソがでてくるのだろうか、僕の頭



「もっとましな言い訳考えなさいよ……肩、血が滲んでるわよ」


「え、嘘…………あ」



実際にそこを確認してみたが、さっき入念に止血はしたので血が出ているはずはない。


そしてカマを掛けられたのだと理解すると、得意げな顔をしている三上さんがいた。



「何してきたの?」


「…………ちょっと、スキルを覚えようとしただけ」


「覚えようとしただけって…………学生証、見せなさい」



辛うじてまだ動く手を伸ばしてきた三上さん。


そんなの彼女の言葉を断ることができず、僕は学生証を渡す。


三上さんは普段の倍以上の時間をかけながら学生証の表面をフリックさせ、そして僕のスキルの詳細説明の欄を見た。



「…………歌丸、アンタ……!」



怒っていた。


高熱と激痛で意識が常に朦朧としているはずの三上さんが、僕に対して明確に怒っていた。



「あと、三回……それでドライアドに勝てるスキルを覚えられるんだ」



僕がそう説明すると、三上さんは感情を爆発させてその場から起き上がる。



「馬鹿じゃないの! それで死んだら元も子もないでしょ!!」


「これ以外に方法が無いんだから仕方ないでしょ!」



退いてなるものかと、僕も声を荒げて反論する。



「仕方ないって、救助を待つって選択肢があるでしょ!


わざわざあんたが危険を冒す必要が無いじゃない!」


「エンぺラビットたちが怯えてる! 根っこがこんなに早く里に来たのは根っこが原因なんだから何もしないわけにはいかないでしょ!」


「状況を考えなさいよ!


あんた一人でなにができるのよ!」


「何もできないから、今こうしてスキルを覚えようとしてるんだろっ!!」


「なんでそんな極論になるのかって言ってるのよ!!


他にももっといろいろ手が無いか考えなさいよ!!」


「考えたさ、考えたとも!!


だけど時間が足りないんだからこうするしかないんだよ!!」


「三日もあるんだから他にも色々と――――っ……それも嘘なのね?」


「っ……」



表情が顔に出るとはよく言われたけど、この時ばかりはそんな自分が恨めしく思えた。


僕の顔を見て、三上さんの疑問が確信へと変わってしまったのだから。



「みみっちいあんたのことだから……そこまで大きなズレたことは言わないはずよね……あと二日ってとこかしら?


今までのイベントの傾向を考えれば、五日経てば救助に来る可能性が出てくるものね」



「そ、それは……」



完全にこっちの考えが読まれてしまい、言葉に詰まる。



「……隠し事はしないで、正直に話しなさい。


アンタだって自分がどれだけ無謀なことしてるのか理解してるはずでしょ。


その上で、一緒に方法を考えましょう」



……やっぱり、僕って嘘とか人を騙すのって物凄く向いてない気がする。


隠そうと思っても、こんなにあっさりボロが出るのだから。



「――そう……つまりあんた一人なら助かる可能性があるのね」



すべてを話し終えた上で、三上さんはそんな言葉を発する。



「これからの迷宮攻略のことを考えれば……歌丸は絶対に生き残るべきよ」



「ふざけないでよ、僕にはさっきあれだけ怒って、自分はいいっておかしいでしょ」



「状況が全然違うでしょ。リスクを考えればそれが一番賢い。


今すぐにでもエンぺラビットたちに頼んであんただけでも十層に連れて行ってもらいなさい。最悪、あんたが一人で救助を呼びに行けばいいわ」



「そんなこと言って誤魔化さないでよ。


上に戻ったら、今度はこの階層に来られなくなる。シャチホコが来ない時点でそれが分かり切ってるんだ。


来られるとしてもそれは最短で三日後、その前に根っこが三上さんの元に来てたらそれで終わる」



「じゃあハッキリ言うわよ。




――私を見捨てて逃げなさい」






「絶対に嫌だ」



お互いに主張を譲らない。


安全に僕だけが生き残るか、共倒れのリスクを背負って僕がスキルを覚えるか


その二択で三上さんが前者を、僕が後者を選ぶ。


状況判断で、これが単なる文章問題なら僕は前者を選ぶのだろうが……今の僕は絶対にそれをしたくなかった。



「どう考えてもそれが正しい状況判断でしょ」


「どこがどう正しいのか僕にはまったく理解できないし、したくもないね」


「ヒューマン・ビーイングの能力はまだ未知数で、これからの人類の迷宮攻略の大きな足掛かりになる可能性がある。


そしてアンタのテイムしたシャチホコのナビゲート能力、そして物理無効の魔力攻撃……学長も言っていたけど、これが揃っているアンタはドラゴンを倒せる可能性がある。


陳腐な言い方だけど人類の希望なの。


人類の未来のために、あんたは生き残りなさい」


「はぁ? 人類の希望、未来?


それ本気で言ってるの? 熱で意識朦朧としてるからってよく恥ずかしげもなくそんなこと言えるね。


僕のことなんだと思ってるの?


ステータスは歴代生徒最弱、中学もろくに通わず運動成績は底辺、エンぺラビットに襲われた上に負けて、ゲロ吐いて、モブのファングラット相手に血塗れにされてる。


断言しよう、僕には絶対無理ッ!」



三上さんの僕を見る目が鋭くなり、かすかに怒気が視線にこもる。



「……あのね、私は真面目な話をしてるんだけど」


「僕だって大真面目だよ」


「ふざけてはぐらかそうとしてるんでしょ」


「先にはぐらかしたのはそっちじゃないか」


「私がいつ」「吊り橋の時、どうして僕を助けようとしたの」



三上さんは言葉を詰まらせる。



「あの時、吊り橋の下を流れる川は激流だった。


そして蜂の大群も迫ってた。


リーダーとしてあの場は僕よりほかのみんなと共に逃げるのが正しかったはずだよ」


「だからそれは、アンタが人類の」「咄嗟にそこまで考えられるわけないでしょ」



ハッキリと、僕は三上さんの言葉を否定する。


彼女は理性的で、思慮深い。


だが、咄嗟の機転はあまり利かない。


そういうのはどちらかというと苅澤さんの役目であって、彼女は最初に定めた目標をどれだけ効率的に達成するのか……定規みたいに正確に物事を進めていくタイプだ。



「君が言ったことだろ。人類云々で迷宮攻略するって理由は親への当てつけだったって。


だったらそれが咄嗟に出てくるはずはないし、少なくとも僕はそれじゃあ納得できない」



僕は知りたい。


たとえ知らなくても、僕がやろうとすることに関係はないが、だけど知っておきたい。



「僕は君に正直に話した。だから君も正直に話して欲しい」



命を懸けても守りたいと思った仲間三上詩織が、あの時どうして僕を命懸けで助けようとしたのかを。



「私は……」



躊躇ったように視線を逸らす。


そして言葉を待つ。



「…………ただ、なんとなく」



「…………ん?」



なんか、物凄く申し訳なさそうな表情で彼女はそんな言葉を絞り出した。



「…………その、本当は…………なんとなく、気づいたら飛び出していたというか……自分でもどうしてあんな行動に出たのかわからなかったのよね」


「…………そう、なんだ」


「……ええ」


「……ふぅん」


「…………」


「…………」



気まずい沈黙が流れる。


いや、まぁ、そうだよね、咄嗟だったもんね。


反射的な行動だったなら理由とかいちいち考えられないよね。そりゃそうだよね。



「でも多分…………歌丸、アンタに影響されたんだと思う」


「え、僕?」


「ええ、そう。アンタが前に……後先考えずに榎並を助けようとラプトルがいること承知で迷宮につっこんだでしょ。


結果はそれで何とかなったけど、どう考えてもあれって愚行そのものじゃない。


アンタ、浅い考えで突っ込んだでしょ」


「まぁ、うん、そうだね」


「私も……あの時、きっと助けられるって根拠もなく思って飛び込んだ。


だから……理由とは違うかもしれないけど…………しいて言うなら、あの時のアンタの真似をしたかったのかもしれないわね」


「僕の真似って……なんで?」


「それは…………カッコよかったから……かしら」


「え、マジで?」


「勘違いしないで、行動だけでアンタ自身はカッコよくないわ」



うん、知ってた。



「だからその…………私はただ……自分が正しいと思ったことを全力でやろうとするアンタみたいになりたかった……それだけよ」


「……そっか、うん…………そっか」



正直、あんまり理由としては納得できるものではなかった。


だけどそれは間違いなく彼女の本心で、彼女が素直に僕に打ち明けてくれた真実だ。



「……だったら、僕は尚のこと引くわけにはいかないよ」


「な、なんでそうなるのよ?」


「だってさ、可愛い女の子からカッコいいって言われてやる気にならないなんて男子失格じゃん?」


「か、かわっ……!?」



もともと譲る気のなかった僕の意思がさらに確固とした強いものへと変わる。


同時に、決死の覚悟から死んでも生還してやるという執念が胸の奥から湧き上がってくる。



「僕は君に絶対死んでほしくない。


そして今度は君に、僕自身がカッコいいって言ってもらえるようになりたい」



彼女を見捨てない。


僕は命を懸けてそれを達成すると誓う。


たとえ僕自身がどうなるとも、何があったとしても……



――三上詩織は見捨てない。



僕はそれを魂に誓う。



「そのために僕は絶対にドライアドを倒す。


――以上、話し合い終了!」



やる気が満ち溢れている。


今ならどんな敵とだって戦って勝てるような気がする。まぁ、気がするだけなんだけど……とにかくやる気の炎が胸に燃え盛っていた。



「って、結局現状何にも解決してないでしょ!」



意気揚々と立ち去ろうとしているのだから水を差さないで欲しい。



「そこは、ほら、なんかこう……あれな感じでいくよ!」


「どんな感じよ! そんなあやふやな感じでどうにかなるわけないでしょ!」


「いや、きっとここで僕の秘められた力が目覚める的な!!」


「下らない妄想も大概にしなさい」


「いやでも…………というか、さっきから異様に元気だね? 熱引いたの?」


「そんなことで誤魔化すんじゃ…………そういえばそうね、なんかさっきより楽になったような」



不思議そうに、額に手を当てる三上さん。


……って、手ぇ!?



「手、戻ってる!?」


「え…………えぇ!?」



僕の指摘に、三上さんも自分の手を見て驚きの声をあげた。



「それとなんか胸ポケット光ってない!?」


「え……嘘、何!?」



驚いたように三上さんは自分の胸ポケットから学生証を取り出した。


そしてその表面をフリック操作して、数秒ほど固まる。



「ど、どうしたの……?」


「…………これ、見て」



そう言って差し出された学生証には、こんな表示がされていた。



共存共栄きょうぞんきょうえいLev.2:騎士回生Re:Knight



……なぁにこれぇ?

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