第48話 カードの管理はしっかりと!
エンぺラビットを追って木の
最初は真っ暗な空間が続いたかと思えば、たちまちに明るくなって……
「――どわぁああああっ!?」
勢いよく落下した。
だって明るくなったと思ったらその身は空中に投げ出されていたのだから仕方ない。
空中で必死にもがくものの、抵抗むなしく…………あれ、デジャブ?
なんて思ったままその身は勢いよく水面に叩きつけられた。
「げほっ、ごほっ…………し、死ぬかとおも」「きゃあ!」「え――ごふっ!?」
死ぬ。
水によって落下で死ぬことはなかったが、続いて上からの衝撃が全身に響く。
もうね、
「いったぁ……何よ今の……?」
「三上、さん……? あの、少し様子見てから降りてくるって言ってなかった……?」
「あ、ごめん下敷きにしてた?
突然あんたの悲鳴が聞こえたからなんかあったのかと思って」
足はつくが、結構深い湖だったから衝撃がきつかったのは最初だけだ。
「まぁ、いいんだけどさ」
彼女は
僕を助けようとして結果的に僕と一緒に遭難してしまったパーティのリーダーである。
一緒にとりあえず湖から上がる。
泳ぐのは得意ではないが、流石に足がついて流れもないところで溺れるほどではない。
「うへぇ……せっかく昨日乾かしたのにまたずぶ濡れだよ」
「それより、さっきのエンぺラビットは?」
周囲を見回してみる。
すると、視界の端でかすかに何かが動いたのを確認した。
「あ、あそこになにか……い…………」
「どうしたのよそんな間の抜けた顔し……て…………」
僕同様に、三上さんもその先にあるものを見て固まってしまった。
いや、そりゃ仕方がない。
だってその先には……
「きゅう」「きゃう」「ぐぎゅ」「きゅ「きゅう」ぶぎゅう」「きゅう「きゅ」」「きゅうう」
混沌。この一言。
もう、これでもかってほどに大量のエンぺラビットが、一か所に固まって団子みたいになっている。
いや、それ真ん中にいる奴どうなってんの? 死んでないよね?
「これだけの数のエンぺラビット……もしかしてここが住処ってこと?」
周囲を見回す三上さん。
パッと見は森林エリアと大差ないが、よく見ると周囲の木々の根元に小さな穴がたくさんある。
おそらく、あれらの穴が彼らの巣なのだろう。
「ぎゅう!」
そんな風に思案していると、おそらく僕たちをここに案内してきた一匹のエンぺラビットが、団子状に固まったエンぺラビットたちの前までやってきていた。
「ぎゅう、ぎゅぎゅぎゅう!」
「安心しろ、奴らは敵ではないぞ!」的な感じで説得しているのだろうか?
団子状態のエンぺラビットたちの中から、ひょっこりと一匹が顔を出す。
「ぶぎゅぎゅぎゅうぅん?」
うっわぁ、声ブッサイク!
「ひどい
「だったらシャチホコってかなり若いのかもね」
あいつの声めっちゃ高いし聞き取りやすいんだよね。
「ぎゅぎゅぎゅう、ぎゅん」
「ぶぎゃぶぎゃうぶぅ」
二匹が何やら会話しているようだが、流石に何言ってるかさっぱりわかんない。
「ねぇ、テイマーのスキルには迷宮生物と意思疎通するスキルがあるらしいんだけど、あんたにはそういうのないの?」
「どうだろ……ちょっと待って」
学生証を取り出してスキル一覧を確認する。
「あ……共存共栄の項目に“
どうやらスキル構成が変化したようだ。
できればもっと攻撃系統のものが欲しかったのになんでこんな時だけ?
「兎語って何よ?」
「僕も知らないけど、試しに取ってみる? かなりポイント安いし、今かなり余裕あるし」
「このままじゃ埒が明かないし……お願い」
「わかった」
リーダーからの許可も出たので、早速兎語を修得してみる。
「あと、それ私にも共有して。
枠、まだ一つ空いてるでしょ」
「わかった、それじゃあお手を拝借」
僕が習得しているスキルの一つ
以前は英里佳一人にしか使えなかったのだが、現在はそのスキルの性能を強化しているので、もう一人にスキルを共有ができる。
現在は僕たちの無事を知らせるために英里佳に対して行っているスキルを持続させている。
こちらから英里佳の状態はわからないが、英里佳たちにはまだ僕たちが無事なことはこれで伝わるはずだ。
まぁ、それはひとまず置いておいて、三上さんともスキルを共有したことで僕たちはこれで兎語なるものを覚えた。
それで改めて野生のエンぺラビットの言葉を聞いてみる。
『アイツ、弱イ、安全』
『嘘、人間、強イ、オ前、騙サレテル』
『嘘、違ウ、見ル!』
『ㇺッ、弱ソウ!』『弱ソウ!』『弱ソウ!』
「ぐふっ」
初対面の兎たちからもそんな評価を受ける僕っていったい……!
「事実負けてるから反論できないわよね」
「そうだけど、そうだけどぉ……!」
そして話し合いが終わったのか、僕たちを案内したエンぺラビットがやって来た。
「ぎゅう」
『人間、来ル』
そう言って、僕たちに背を向けて歩き出した。
僕たちは大人しくそれについていく。
「ただ鳴いているだけなのに言ってることわかるって不思議な気分ね……」
「どこに案内するつもりなんだろ……」
ひとまずついていくと、先ほどまで団子状にまとまっていエンぺラビットたちがばらけ、それでも物陰に移動して僕たちの様子を伺っている。
『男、弱ソウ』『女強ソウ』『女強イ』『強イ、怖イ』『女怖イ』
「……流石に傷つくわね」
相手は
一方で僕も普通に『弱い』と言われて傷つく。
『――同ジ匂イ』『同ジ』『同類、仲間?』
何匹かのエンぺラビットがそんなことを言いながら僕の方に近づいてくる。
しかし、近くに三上さんがいるということである一定まででそれ以上は近づいてこない。
「仲間って言われてるわよ?」
「シャチホコの臭いとかついてたのかな?」
もしかして、強くなったのに今こうして目の前を歩いてるエンぺラビットに襲われた原因ってシャチホコの臭いだったりしたのだろうか……?
そんなことを考えながらしばらく歩いていくと、これまた大きな三十人くらいが手をつないでも回り切れないほどの太い幹の大樹の前までやってきた。
「ぎゅう」
『見ル』
「こんな木を見ていったい何が……」
「これは……」
共に大樹を見上げて僕たちは言葉を失う。
その気は確かにパッと見は単なる大樹だが、よく見るとその幹には出っ張りがあって凄く
しかしその出っ張りをよく目で凝らしてみると、そのすべてがエンぺラビットの形を模していたのだ。
「……これ、触っても平気か?」
僕がそう尋ねると、エンぺラビットは首を横に振る。
「ぎゅうぅん」
『危険、感染スル』
「感染……? これ、病気なのか?」
「ぎゅ?」
『言葉、ワカル?』
「あ、うん、さっきスキルを覚えたからね。
で、これを僕たちに見せてどうしたかったの?」
「――よもや、人間を連れてくるとは」
唐突に聞こえてきた普通の言葉
ただし、それをしゃべったのは僕でも三上さんでもなかった。
「ぎゅう」
足元にいたエンぺラビットはその場で直立して首を前に傾ける。
まるで礼を取っているかのような姿勢だ。
一方、僕と三上さんはその声の主を見て目玉が飛び出るほどにびっくりした。
「しかし、なるほど。人間ではあっても、これならば協力を仰ぐのもまた理解できる。
よくぞ来られた我らが
なんか中二クサいこと言ってるけど……それ以上にただ単に驚きの事実を僕たちは絶叫した。
「喋ってる!?」
「デカッ!?」
「え、そっち? エンぺラビットが普通に人の言葉喋ってるのにそっちに反応するの!?」
「いや、別に迷宮生物がしゃべってるとか、ドラゴンが教壇に立って朝礼してる時点で大概というか……」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
なぜか腑に落ちないという表情を見せる三上さん。
でもとりあえず僕がもっとも驚いたのはそのサイズだ。
目の前のエンぺラビットは、それこそ人間の成人男性、いや、耳の長さまで込みなら3mはあるくらいの体長を持つとんでもなく大きな個体だったのだ。
耳が無くても、その身長は僕たちを超えている。
「死の理解者よ、名はなんと?」
「……その理解者ってのは、僕のことなの?」
そんな中二の感性を刺激するような二つ名を今まで名乗った覚えはないのだが……
「他に誰が?」
「あー……うー…………まぁ、いいか。
僕は歌丸連理。好きに呼んでもらっていいよ」
「ほう、良き名です。ではウタと呼びましょう」
なんで初対面の兎にあだ名つけられてるんだろう、僕? いや、別にいいんですけどね。
「えっと……私は三上詩織、こいつの仲間よ」
「……ふむ……まぁ、ウタの仲間であるのなら一定の信頼はおきましょう。
しかしくれぐれも、里の者には手を出さぬように」
「は、はぁ…………ねぇ、なんであんたこんな初対面の兎に全面の信頼置かれてるの?」
「僕が知りたいよ」
おかしい。
シャチホコが一緒ならまぁわかるが、今シャチホコは迷宮の外にいるのになんでこんなに僕に対して友好的なのかさっぱりだ。
あ、いや、友好的って言うか下に見られてるのか、僕?
「ウタよ、その者は我らが里に迫る脅威を退けるために協力者を探しておりました。
そして見つけたのがあなたなのですよ、我らと同じ死の
「ねぇ、死の理とか理解者ってどういうこと?」
「さぁ……でも、大したものじゃないし聞き流していいんじゃない?
で、僕たちに協力を求めるってのは…………この木と一体化してるエンぺラビットたちのこと?」
「
左様って、現実で言う人初めて見た。あ、ウサギか。
「これらは人間が“ドライアド”と呼ぶ侵略者の持つ呪いを受けた姿。
これらを解くには、侵略者を倒す以外に手段はない。
しかし我らはあらゆる道を歩む術は持っていても、戦う術はない。
故に、戦えるものの協力を仰ごうとそのものは外に出た」
「で、結果僕たちをここに案内したと…………ちょっと待って、こいつ協力求めるとか言ってたけど普通に僕を攻撃してきたんだけど?」
「ぎゅう」
『力試シ』
「いや、試すって………………言いたくはないけど、僕お前に負けてるぞ?」
「ぎゅぎゅう、ぎゅうぎゅぎゅぎゅぎゅう」
『問題無シ、ドライアド、倒ス威力、アル』
ああ、なるほどね……つまり僕の攻撃にドライアドにダメージを与えられるだけのものがあるかを知りたかったのね。
こいつらって賢いし、見ただけで僕の攻撃力を大体は把握したのかな。
「よしわかった、じゃあドライアドを倒せばいいんだね。やってやろうじゃないか」
「感謝」「ぎゅう!」
「ちょっと待ちなさい「その代わり、ドライアド倒したら十層に案内してよ」何を勝手に……え?」
どうやら三上さんは僕が安請け合いをすると思ったらしいが、流石に僕もそこまでお人好しではない。
「エンぺラビットのナビ能力なら、十層まで楽に戻れる。
闇雲に上を目指すより、ドライアドの退治の方が多分楽だよ」
「それは、まぁ……そうかもしれないけど」
「あと……」
僕は樹と一体化している無数のエンぺラビットたちを見た。
「シャチホコの仲間が、こんな風になってるのは見過ごせない。
身勝手かもしれないけど……三上さん、力を貸して欲しいんだ」
「…………わかったわよ。
アンタの言ってることも筋が通ってるし……確かに、闇雲に上を目指すよりドライアド一体を討伐する方が楽かもしれないわね」
「ありがとう三上さん」
正直僕一人だと倒しきれるかも怪しかったし、彼女の協力も得られれば倒せる確率はさらにあがるはずだ。
「約束しよう。その程度こちらとしても造作もない」
長からの頼もしい言葉だ。
これでイベントが終わる前に地上に戻れる確率もグンと上がった。
「それにしても……ドライアドってエンぺラビットをこんなに捉えられるものなの?
正直罠とか普通に回避できるイメージがあったんだけど」
三上さんは樹と一体化しているエンぺラビットを見ながらそんなことを言う。
それは正直、僕も気になっていた。
あれだけ危機に敏感なエンぺラビットが、こうも捉えられるというのはどうにも納得がいかない。
「彼のドライアドは、もはや通常のドライアドよりはるかに進化した存在だ」
「進化?
迷宮生物って、基本アドバンスカードでテイムした個体以外は強くならないんじゃなかった?」
「左様」
長がそんな僕たちの疑問に答えてくれる。
「奴はかつて迷宮で命を落とした学生のパートナー……つまり、アドバンスカードを所有する個体だ」
「んなっ」
「なんですってっ!?」
長の言葉に僕は絶句し、三上さんが絶叫する。
「ちょっと待って……僕もシャチホコ――エンぺラビットのアドバンスカードを持っているけど、それは本来生徒とテイムした迷宮生物の両方がそろうことによって機能するはずなんじゃないの?
ドライアド単体で強化されるなんてことはありえないんじゃ……」
「……いえ、そうとも言い切れないわよ」
「どういうこと?」
「あんたの言ってることって単なる所有権の話なのよ。
アドバンスカードの制限って、要するにほかの生徒に奪われないようにするための安全策であって……実は迷宮生物単体でも使えるんじゃないかしら?」
「いやそんなはず」「製作者は学長よ」「あるね!」
物凄い説得力。確かにあのドラゴンならそんな
というか結局また学長が原因かよっ!
生徒だけでなく迷宮生物にまで被害が出るとかどんだけ傍迷惑な存在なんだアイツ!!
「一度カードに登録された場合、生徒か迷宮生物のどっちかが死んでも片方はそのまま残る。
生徒が死んで、次の所有者が現れなかった結果、そのドライアドはそのまま元の迷宮生物に戻った……いえ、凶悪化したのね」
「アドバンスカードのまさかの落とし穴だね……というか、それじゃあ尚のことほっとけないよ。
このまま無視したら、そのドライアド手に負えないくらい強くなる可能性があるじゃん」
「そうね……毎年、GWのイベント後に新入生が一気に森林エリアに入ってくるっていうし、ドライアドの犠牲者を出さないためにも生徒会直属ギルドの一員として対処しなくちゃ」
原因が学長だと知ってゲンナリな気分になるが、とにかくこれはもう見て見ぬふりはできない。
何としてもそのドライアドを討伐しなくては。
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