第38話 己の欲さざる所は人に施しちゃいけないと思います(小並感)
その場で顔を隠しているマスクを引っぺがしてやりたいところだったが、物凄く嫌がるので近くの駅前の自警団組織の一室に連行し、そこでようやくマスクを取らせた。
「嘘……」
愕然と、三上さんは犯人の身元を確認して唖然とする。
「信じられない……」
「……マジッスか」
それは苅澤さんも戎斗も同じ様子で、犯人の顔を見た途端にこの反応だ。
「……英里佳、この人のこと知ってる?」
「ううん、私は全然……」
そうだよね、僕もさっぱりわからない。
そりゃ……
「確かにスカート捲りの犯人が女子生徒だったのは意外だけど……そこまで驚くものなの?」
そう、女子なのだ。僕たちが捕まえた生徒は女子。
先ほど姿を消した能力はやはり制服の効果であったのだが、彼女は僕たちとは違って腕章をつけていない。なのになんで制服が変化していたのか……その理由が気になるのだが……
「あんたたち……ニュースとか見ないの?」
呆れた顔でこちらを見てくる三上さん。
どういうことだろうか?
「中学はテレビとかあんまり見てないし……最近はダンジョン潜って帰った後は走り込みと素振りばっかしてる」
「私も同じ感じかな。中学はテレビ見てる時間があったら訓練してた」
「あー……榎並さんはそんな感じッスけど、歌丸はちょっと……いや、かなり意外とストイックなんスね」
意外とは失礼な。
「で、みんなは知ってるのこの変態」
「誰が変態だ!」
「いやどう考えてもそ――ぷげんっ!?」
犯人を指さした瞬間に一番近くにいた苅澤さんから後頭部を叩かれた。
「え、え?」
「え、あ、ご、ごめん咄嗟につい」
ついって、ついって! え、何、三上さんとか戎斗ならまだわかるけど苅澤さんからもブッ叩かれるの? なんか普段とキャラ違い過ぎないこれ!
「その態度だと、本当に知らないのね……いい、この人は」
「あいや待たれい」
三上さんの説明に口をはさみ、犯人はその場で立ち上がって僕と英里佳の方に向き直る。
「私のことを知らないとは、君たちも情弱はとても哀れ。
しかし、だからと言って私はそれを無視するほど非情ではない。
故に一度だけ自己紹介をしてあげよう! なに、名前くらいは聞いたことがあるはずさ!」
「なに調子乗ってんだこの変た――いたいっ!?」
「歌丸くん、ちょっと黙ってて」
また叩いた! 苅澤さんがまた叩いた!
「私こそ、この迷宮学園に降り立った史上最強のアイドル!
女子のあらゆる可愛さ、美しさ、綺麗さを追求し続ける女の子のパイオニア!
“
そう自信満々に自己紹介をしてドヤ顔で僕と英里佳のリアクションを待っているようだったが、答えは最初から決まっていた。
「「知らない」」「ぐふっ!?」
ハモって答えた僕と英里佳の回答に吐血(イメージ)しながらその場で倒れ伏す自称アイドル
「戎斗、解説プリーズ」
「マジで知らないんスか……?」
「うん。そんなに有名なの、この人?」
「有名っていうか……世界的な知名度なら各学園の生徒会を優に上回ってるッスよ。
子役の時に映画のオペラを歌うシーンがあって、その美声に世界中が感動し、そこから中学時代まで俳優、歌手として世界中を飛び回り、彼女が迷宮学園への入学する時期、一部のファンが暴徒化してこの迷宮学園に攻め込みそうになったくらいッスよ」
「あ、その事件なら知ってるかも」「私も」
確か去年の3月ごろ、ちょうどこの迷宮学園に世界中の人たちが集まって大騒ぎになったっけ。
学長が出てきそうな直前で、教師や自衛隊が総力を結集して暴動を鎮圧したとか。
「あ、ってことは二年生なんだ」
「反応するところはそこなのかな君!」
「だって興味ないし……」
「なんと……! まさかここまで美的感性が貧困な子がいたとは……!」
失礼な。
「あのね、歌丸くん。
MIYABIはアイドルとして世界中で有名だけど、今も芸能活動を続けていてその影響力はとても大きいんだよ」
「今もって……この迷宮学園って基本的に外部との連絡手段はないはずじゃないの?」
「そうだけど、東学区では一部の生徒にその手段が与えられているでしょ?
MIYABIのためだけに特別に彼女専用の通信機が用意されていて、今でも定期的に日本の番組にも出演していたり、迷宮学園の情報を伝えたりしてるの。
それに彼女と少しでも近づくために、西日本や外国からこの迷宮学園に入学しようとした生徒もいるくらいだよ」
そこまで言われて、僕もようやく状況を理解した。
つまり下手に彼女の機嫌を損ねると、僕は彼女のファンから敵視されるかもしれないということか。危ないな、これは。
「だけど……こほん……ですけど、どうしてそんなあなたがスカート捲りを?」
一応相手が相手なので言葉遣いを丁寧にしてみた。
叩かれないということはこれはセーフのようだ。
「ああ、それね」
なんか軽い調子で答えようとするMIYABIに、三上さんたちは固唾をのんで答えを待つ。
「リサーチよ」
「……リサーチ? なんの?」
「そんなの、パンツのリサーチに決まってるじゃない!」
いや力説されても……
「私はね、この学園に入学して最初に絶望したの!
女の子のファッションが外より遅れているってことにね! そりゃ、外部と切り離されているから仕方ないと思うかもしれないけど、何よりいけないのは女の子の考え方よ!
いくら迷宮学園だからって、装備の良さのためにファッションを犠牲にするなんて間違ってるわ!!」
「ファッションのために命のリスクを
「甘いわね、えっと」「
「よしじゃあウタ君!」
この学園の女子生徒の先輩は後輩にあだ名をつけないと気が済まないだろうか?
「ファッションは死ぬことと見つけたりよ!」
「馬鹿じゃないの」「あ」
また後頭部を叩かれそうになったが今度は完全にガードした。
僕も学習するのだよ。
しかしMIYABIも僕の反応は予想通りだったようで特に不満な様子はない。
「ふっ……私の崇高な考えが理解できないとは、君は本当に可哀想だねウタ君」
「多分その話で行くとこの場にいるあなた以外全員が可哀想になりますね。
というか目下一番可哀想なのはあなたです」「ああっ」
しゃがんで完全回避。
僕もやればできるのだよ。
「ウタ君、現状のファッションをいち早くそして確実に理解するためには何が必要だと思う?」
「そりゃ…………ファッション雑誌ってやつを見るとか?」
「ちっちっちっ、ウタ君それじゃ先取りとも確実とは言えないよ。
雑誌はあくまでも予測と現状を説明するのみであって、流行りだしているものを速攻でかつ正確に伝えられるわけじゃない。
むしろあれは業界が流行らせたいファッションを流布するのに使われてしまいがちだから現状を知るとはちょっとズレているのさ」
「じゃあなんですか?」
「ふっ……それは、観察さっ」
「…………まさか」
顔の筋肉が引きつりだすのがわかった。
ファッションに疎くても、いや、ファッションに関係なく目の前のアイドルが次に何を言い出すのかが良く分かった。
「そう! 今この迷宮学園で最も外の情報に触れ合ってきた新入生女子生徒!
その下着を観察することで今最も世間で流行るブランド、これから来るオシャレを私は読み取ろうとしたのさ!!」
「検挙しよう。その権限って僕たちにあるよね?」
「うん、歌丸くんごめんね。私もそう思えてきた」
よかった、苅澤さんも同じ考えのようだ。まぁ、スカート捲られた当事者としてはその反応も当然か。
「ま、待ってよ黒レースの君!」
「一度瑠璃先輩たちに連絡しますね」
なんか微笑み浮かべているけど目が一切笑ってない感じで学生証を取り出す苅澤さん。
そりゃ怒るよ。そうでなくてもスカート捲られたのにガラをばらされたらそりゃ怒る。
「下着の現状が知りたかったら普通に頼んで教えてもらえばよかったじゃないですか」
「そんなことしたら身構えられちゃうじゃん。
ファッションの真髄が見えてくるのだよ! そして人の本性が見えてくるのだよ!」
「そして!」とズビシィ!っと効果音が付きそうな感じにMIYABIは苅澤さんを指し示す。
「一見清楚に見えて下着がかなり大胆な子は、ニャンニャン(隠語?)な時は物凄く色々としたりされたりと興味津々なのさ! つまり、超ムッツリスケベ!!」
「んなっ!?」
「な、なんだってーーーーッス!!」
顔を真っ赤にする苅澤さん以上に強い反応を示したのは戎斗だった。叫び声にも“ッス”をつけるあたり、本当に律儀だよね。
僕? いやいや僕はただ聞き耳をたててその内容を心のメモ帳に記す程度で、まったくこれっぽっちも全然下心なんてないですよ?
「そして一度それが解放されるとオープンになる! 夏休みが過ぎるとあか抜けた感じになる子だ!!」
「ああ、なんかわかるッス! 一夏の体験で乙女が女になった的なアレッスね!!」
「その通りだよ三下君!」「
君、その喋り方で初対面の印象の8割以上がそんな認識になっちゃう
「そしてそこの君!」
「わ、わたしっ?」
今度は矛先が自分に来たので驚いている三上さん。まぁ、そうなるよね流れ的に。
「普段勝気に見えて下着が清純なあなたは実はとても乙女チック! 人を指導する立場だけど、恋人にはそれが逆転! むしろ家では甘やかされたがる感じ!!
私生活も夜の指導権も実は握ってほしいとか思っている、ソフトMだ!!」
「マジッスか!!」
「そそそそそんなわけないでしょうが!!」
動揺しすぎだと思います。(ニッコリ)
「そして最後に君!!」
「え、あ……はい?」
最後は英里佳だけど……
「さぁ、パンツを見せてくれたまえ! それで君の本性をさらけ出す!!」
まさかの直球での要求とは予想外な。
それに対して英里佳は……
「嫌です」
だよね。
「くっ……この流れならいけると思ったのに……」
いや無理でしょ。
どう考えても無理があるでしょそれは。
「紗々芽」
「うん、もう連絡したよ。すぐに西の生徒会に連絡してこっち来てくれるって」
「え”」
今、仮にもアイドルが出してはいけない感じの声が出てたけど……まぁ、流石に今ので完全に二人とも
相手が先輩でしかも世界のアイドルということで直接怒鳴るような真似はしないが……もうこれは完全に止められない雰囲気だよ。
「で……日暮」
「ウッス」
こっちもこっちで自覚はあるようで、すでにその場で正座したかと思えばすぐさま土下座に移行。
その無駄のない流れるような動作に一種の感動すら覚える。
だけど、なんでだろう……
明らかに謝罪をしているのに、彼が許される未来が見えない。
むしろその土下座、僕にはもう首を
「覚悟は……できてる?」
「……ご、御容赦を……!」
まぁ、それはそれとして置いておこう。
「な、なぜなんだ……なぜこんなことに……!」
打ちひしがれた感じで床に手をついているMIYABI
なんというか、変人だよねこの人
「あ、そういえば、先生とかにも連絡したほうがいいんじゃないかな?
ちょっと外に公衆電話あったし、僕武中先生の番号知ってるから電話してくる」
「そう、お願い」
三上さんからもOKでたし、電話しに行こうかなと外へ向かおうとしたら突如足が重くなる。
「ちょ――ちょっと待って、マジでそれは待ってってば! それは本当に洒落にならないよ!!」
MIYABIが今まで以上に慌てふためいた様子で僕の脚にしがみついてきていたのだ。
生徒会に連絡すると言っていたとき以上の慌てぶりだ。
「せ、生徒会に連絡言ったら自動で先生に連絡行くし、別に言わなくてもいいじゃないかな、ね!!」
「いや、だったら今言っても変わらないし……そもそも犯人が世界的人気のアイドルって言われたらむしろ先生には真っ先に耳に入れるべきでは?」
「いや、だからそれは……あの、本当にちょっと待って! サインでも新曲のCDでもあげるし、なんならライブの最前席のチケットだってあげるから!!」
「結構です」
「ぐふぅ!」
吐血(イメージ)をしながらも、しがみつく手の力を一切緩めない。
なんだこの態度? 先ほどと違って、かなり緊迫感があるぞ。
「――まったく……予定と違う妙なことをするからこんなことになるんだ」
そんな時、何処か棘のある雰囲気の男の声が聞こえてきた。
全員そちらに目線をやると、僕たちと同じように腕に緑色の腕章を身に着けた男がいた。
スクエアフレームの眼鏡をかけ、キッチリとネクタイを締めており、眼鏡のブリッジ部分を指で押しながら位置を直す。
その動作の一つ一つがなんだか厳しい雰囲気を醸し出していて、自然と背筋が伸びた。
制服はこの西学区のものだけど……なんか学生というよりは、敏腕ビジネスマンと言われた方がシックリくる。
「このチームの代表は?」
「わ、私です」
「そうですか」
三上さんの前まで移動して、その男性は胸元に手を入れた。
何をするのかと思うと、銀色の小さなカードケースを取り出して、さらにそこから一枚の紙を取り出して両手で三上さんにそれを差し出す。
「西学区生徒会第二副会長、ついでにそこの阿呆のマネージャーをしております。
二年の
名刺だった。
よく社会人とかが取引先の人と交換するアレだ。
「え、あ、あの……私たち名刺持ってないんですけど……」
「お気になさらず。西学区の生徒以外にはまだ馴染みのないものなのは知っておりますので。
それよりも……誠に申し訳ございませんでしたッ!」
その場でしっかりと90度に腰を曲げて頭を下げてくる。
西学区の生徒会長と言えば、この学区においての№2の実力者
そんな人が生徒会メンバーとはいえ、まだ新入生の僕たちに頭を下げてきたという事実に、僕はもちろん、三上さんもその場にいた全員が呆気に取られてしまう。
「え、え……あの、ちょっとコバちゃん、何もそこまで全力謝罪をしなくて――もぱっ!?」
「お前も頭下げろッ!」
「「「「「!!??」」」」」
小橋副会長は僕の脚にしがみついていたMIYABIを引き剥がしたかと思えば、そのまま頭を掴んで強制的に頭を下げさせた。
その強引さにも驚いたが、僕たちはそれ以上に小橋副会長の動きに驚愕した。
一瞬だったのだ。
目を瞑ったりしてなかったはずなのに、一秒と掛からずに彼は三上さんの前から僕のすぐ近くまで移動してきていたのだ。
速いとかそういうレベルじゃない。
目を配らせて確認すると英里佳は小さく首を横に振る。
つまり、英里佳ですら見えていなかった。ならば運動性で今の現象を起こしたというわけではないのだろう。
多分転移、もしくは認識をズラすスキル……もしくは……時間を操る魔法でも使ったのか……とにかく並の実力者じゃない。彼はこの場にいる僕たちよりも圧倒的なほどに格上だ。
「い、痛い痛い、コバちゃん痛いってば!」
「いいから謝れ! お前が予定と違うことするからこんなことになったんだぞ!
しかも往来で、どれだけの人に迷惑かけたと思ってんだ!!」
「あの……その予定ってどういうことですか?」
一番近くにいたので僕がそう訊ねてみる。
すると、小橋副会長は顔をあげ、頭を下げたことでズレたメガネの位置をブリッジを押して直した。
「失礼しました。
この度、金剛様の方からの突発的な事態への対処の試験をと依頼されまして。
こちらで皆様の生徒会直属ギルドの適性を見させていただく予定だったのです。
しかし……恥ずかしながら、うちの李玖卯が勝手に備品を持ち出してこのような事態となってしまいまして…………誠に申し訳ございませんでした」
再び頭を下げる小橋副会長
その一方で頭をあげたMIYABIはつまらなそうに口をすぼめている。
「だってー、あんなつまらない台本で演技とかしたって面白くないしー
何よ今時暴漢に襲われてるから助けてー、とか流行らないわよ。
絶対に私が起こした事件の方が面白かったぱうわぁ!!」
「誰が頭をあげていいと言った……!!
そしてさっさと謝罪をしろ、いい加減にしないとこっちも本気で怒るぞ……!」
もう頭から角生えるんじゃないかってくらいに怒っている小橋副会長
別に僕たちが起こられてるわけじゃないのに、そのオーラに腰が引けてしまう。
「ご、ごめんなさい、もうしないから!」
「謝るのは俺にじゃない!」
「は、はい! 本当にごめんなさい! 楽しくて調子に乗りすぎましたごめんなさい!!」
必死に何度も僕たちに向かって頭を下げるMIYABI
あまりの必死さに、三上さんも苅澤さんも怒りは引っ込んでむしろ困惑している感じだ。
「わ、わかりました。
謝罪を受けますからもうその辺りで」
「あ、本当? やー、よかったよか」「反省しろ」「……はい」
切り替えが早すぎるのも問題だなって思った。
「あの……それで私たちの試験というのは?」
「ああ、そちらでしたら文句なしに合格です。
予定より一名多かったですが、彼もその役割に関しては特に不足もありませんし
西学区生徒会から見てもあなたたちには十分に活躍していけると判断します」
小橋副会長のその言葉に、ひとまずは胸をなでおろす。
「それで……その…………大変申し訳ないのですが……今回の件についてなのですが……」
ハンカチを取り出し、顔から吹き出ている脂汗を拭く小橋先輩
なんかできるビジネスマンから一気に苦労の多いうだつの上がらないサラリーマンになってしまったぞ。
「……そちらで適切に対処していただけるのならこちらは口出しはしませんし、口外もいたしませんので、ご安心ください。
紗々芽も、英里佳も、アンタたちもそれでいいわね?」
適切にってあたりをやけに強調したが、まぁ確かにこんなこと口外できないよね。
「うん、わかった」
「私は別に……」
「俺も問題ないッス」
「僕も」
相手は仮にも世界的なアイドルなのは変わらないわけで、そんな人物がスカート捲り事件を起こしたとか言えないし。
「ありがとうございます。
後ほど必ずお礼を……お詫びと言ってはなんですが、ディナーをこちらでご用意いたします」
小橋副会長の言葉に、僕はもちろんその場にいた者たち全員が高揚感を覚えた。
だって西学区副会長の用意するディナーだ。かなり上等なものに違いない。
「あ、それ私も」「テメェはこのまま俺が直々にしょっ引いてやる」
もうここまで反省しないとか頭がおかしいんじゃないのだろうか?
「では、こちらでご予約しておきますので、都合の良い時間にこのお店にどうぞ」
「は、はぁ……」
店の場所を記されたカードを手渡され、三上さん
なんかこっちも名刺っぽいけど、それだけで高級感漂ってる。
「あ、いーなー、私もそこ行き」「お前が行くのは生徒会室だ」
もう僕の中ではアイドルというより変人としてカテゴライズされたMIYABIは小橋副会長にズルズルと襟をもって引かれながら部屋を出ていく。
「あ、ちょっと待って! そこのスパッツガール!」
「な、なんですか……?」
突如呼ばれて自分のスカートを押えて警戒する英里佳。
「君はもうちょっと女子力上げといた方がいいよ。
あんまりのんびりしてると横から掻っ攫われちゃうぜ!」
そう言い残して、結局小橋副会長に引きずられながら出て行ってしまった。
「掻っ攫うって……英里佳、今のどういうことなんだろうね?」
「さぁ……なんだろう?」
僕も英里佳も今のMIYABIの言葉の意味が分からずに首を傾げた。
すると、なぜか他の三人は呆れたように嘆息する。
「え、何?」
「これはどっちにしろ気にしなくてもよさそうね。悪い意味で」
「そうかもね」
「鈍感と鈍感を掛け合わせるとこうなるんすね」
「何が?」
僕が質問をしても三人とも何も答えずに部屋を出ていく。
「さて、それじゃ今日の任務も終わったし、町の中見て回りましょ」
「うん、折角だし洋服とか見てみたいかな」
「俺もついていって良いッスか? 荷物持ちでもなんでもするッス!」
部屋に残された僕と英里佳はお互いにまた顔を見合わせた。
「どういうことなんだろ?」
「……さぁ?」
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