第37話 タイホーのほえろ!
「ぅう……」
スカートの裾をおさえてモジモジしている英里佳に、キュンとなった。
姿は先ほどと一切変わっていないのだが、なんだろう……こう、今の英里佳はすごく守ってあげたい感じだ!
「やっぱり囮なんて間違っている!
すぐに英里佳にスパッツを」「黙れ」「ウッス」
いや、やはりここは正義を成すんだ。
だって僕たちは仮にも風紀委員を名乗っているのだから!
「清々しいほどの掌返しッスね」
「歌丸くん、迷宮攻略以外だと物凄く素直なんだね」
「いや、あれは素直っていうかヘタレなだけッスよ」
戎斗と苅澤さんが何か言っているが、とりあえず今は流そう。
「英里佳、その……大丈夫?」
「…………うぅ」
英里佳は顔を赤くしたまま若干涙を浮かべたその眼で僕を睨む。
だけどなんかその姿が可愛くてドキッとしてしまう。
「スパッツ……無理矢理脱がされた」
「う、うん」
「それで…………犯人捕まえるまで絶対帰さないって苅澤さんがアイテムストレージに入れた」
その証言を受け、僕も戎斗も苅澤さんの方を見た。
「ん、なに?」
「「なんでもない」ッス」
やっぱり彼女、温和に見えて結構えげつないよね。
「ああもう、いつまでウジウジしてんのよ鬱陶しい。
そんなに捲られたくないなら犯人捕まえることにだけ集中しなさい。
絶対にこの手で見つけて……八つ裂きにしてくれるわ」
そう言いながら彼女はその手に武装の剣を出す。
そして制服も通常時から迷宮攻略仕様に変わっていた。
僕たちの身に着けている腕章は単なる身分証だけでなく、迷宮内と同じように制服の形状を変化させられることができるようになるのだ。
武器やスキルの類は迷宮関係なく使用できたりするが、制服は違う。
今の僕の制服には効果はないが、三上さんの制服には特殊な効果がついているのだという。
三上さんは制服自体が簡易な鎧に変化していてスカート的な意味だけでなく総合的に防御力が上がっている。鎧の重さも制服が変化したとは思えないどう見ても金属製のものだ。
しかし、本人に確認したところ鎧に変化しても着ている本人の感覚は変わらず、重さを感じないのだという。
要するに、本人にだけは重さが発生しないということだ。
現段階ではそれ以上の大した効果はないが、上級生ともなればさらに強力な効果があるらしい。
ようするに、迷宮の外で武器やスキルを使って不埒な真似をする相手に対して、僕たち生徒会関係者は腕章の能力で迷宮内と同様に武器やスキルに加え、防具まで使えるというアドバンテージを有しているのだ。
「英里佳も制服を変化させたりはしないの?」
よく見れば腕章まで外されている。
これでは英里佳はベルセルクの姿になれないぞ。
「囮にするんだから武装させちゃ近寄ってこないでしょ。
それに一応確認したけど、榎並の制服には特に効果なんて無いわよ。というかあんた腕章いらないでしょ。どうせ迷宮でもそのままなんだから」
「それ地味に傷つくからやめて」
「はいはい、とりえあえずあんたの腕章は一時的に日暮に貸しなさい。
エージェントの制服って、初期段階でも効果があったはずでしょ」
「え? あ、ああそうっすね。でもあれ、任意で色が変わるだけッスよ」
「迷彩で周囲の景色に溶け込むのよ。というかアンタの制服なんだから特性把握しておきなさいよ。ほら歌丸、さっさと渡す」
しかたないなと腕章を外して戎斗に渡す。
戎斗は腕章を腕に着けて、さきほど三上さんがやったように学生証を確認した。
「お、本当に迷宮の外でも制服の変更ができるんスね」
そう言いながら学生証を操作すると、戎斗の姿は袖が長くてゆったりしたものにかわり、先ほどまでなかったフードが出現する。
ボタンで留めるタイプだった上着がファスナーで止めるタイプとなり、裾も伸びて太腿くらいまでありそうなほどかなりゆったりした感じだった。
「それじゃあその迷彩で目立たないように動いて榎並の周囲を警戒しなさい。
私と紗々芽は所定の位置で待機して、榎並はさっき話した通りのルートを歩いて、出てくるまで往復よ」
「あの、僕は?」
「榎並と一緒に歩いてカップルの振りでもしてない」
「カ、カカカカップルっ!?」
「っ!!」
「そういうリアクションは良いからさっさとしなさい。
ほら、大通りを二人で腕組みながら歩いて、私たちの存在を気取られぬようにするよ。いいね」
そんな風に念押しをして、三上さんは路地裏の方へと姿を消して至った。
苅澤さんも同様で別方向に移動し、戎斗は…………
「あ、あれ、戎斗?」
ちょっと見ぬ間にいなくなった。いつの間に……!
「やっぱり」
「やっぱりって、何?」
「多分日暮くん、私みたいに英才教育受けてたんだよエージェントの」
「エージェントの英才教育……? でもそれってスパイ目的だよね? それなら東とかこの西学区の生徒になるはずでしょ。なんで北学区に?」
「そこまではわからないけど……少なくともあの、ただ適性があるだけでここまですぐに姿を隠せるものじゃないと思う。
それに彼の評判を改めて確認したんだけど……彼は迷宮で良く迷うけど、その反面、
身のこなしも、かなり熟練してるのは間違いないし……」
英里佳がそこまでいうのなら、たぶんそうなのだろう。
しかし……なのに所属が北っていうのは確かに不思議だ。
なんか気になるし、今度聞いてみよう。
「……とりあえず、囮の役割はちゃんと果たそっか」
「そうだけど…………その、今更だけど英里佳は本当に大丈夫?」
「もうここまで来たら後に引き下がれないよ。
それに私だってあの犯人は捕まえたいって思うし、そうすべきだって思ってるから」
なるほど。英里佳だって女の子だし、そして生徒会関係者としての自覚を持っている。なんかいいなって思う、そういうの。
「それじゃあ行こ」
そういって、英里佳は僕の手を取った。
「う、うん」
僕はその手を握って、彼女と一緒に歩き出す。
ちなみに今シャチホコはアドバンスカードの中に戻している。
囮をするなら、どうしてもあいつの存在は目立っちゃうから仕方がない。
「それにしてももうすぐ五月かぁ……早いものだね。ゴールデンウィークってことで一応授業は休みらしいけど……なんか不安だよね」
「不安って……どうして?」
「あのドラゴンが何もしてこないとは思えなくてさ……今年の学生死亡率、例年でもかなり低いみたいだけど、そろそろ何かしでかしてもおかしくないじゃん」
「…………そうだね」
僕の言葉に、英里佳が目を細める。
やはり彼女は学長に対して強い敵意を持っている。原因まではわからないけど……
「あの……歌丸くんが迷宮攻略に挑む理由って、なに?」
「理由って……どうしたの急に?」
「その……なんとなく思って。もしかして話したくないことだった?」
ふむ……まぁ、一応周りからデートっぽく見えるようにしないといけないわけだし、世間話としての話題としては妥当なのかな……?
「いや、全然。というかそうだなぁ…………やっぱり一番の理由は自分を変えたいから、かな。所謂“高校デビュー”ってやつ?」
「……高校デビュー?」
「そうそう。
僕中学の頃から超インドア生活送ってたって自己紹介したじゃん」
「う、うん」
「我ながら、あれは人の生活じゃないって思うよ。ベッドから出ない時間が長くて、色んな人に甘えて生活しててさ」
当時のことを思い出すと、本当に自分が情けなくて死にたくなる。
まぁ、だからこそ今こうして普通に迷宮攻略に励めるのが嬉しいんだけどね。
「それで家族や周りの人にすんごい迷惑かけたって自覚があってさ……これじゃあいかんと迷宮で一山当てたいと思って」
「じゃあ、家族のために?」
「うーん……まぁ、それもあるかな。
家族のために頑張りたいってのも嘘じゃないけど、やっぱり一番は自分のためだよ。
僕はさ、胸を張れるように生きていたいんだ。迷宮学園を卒業したいろんな国のいろんな先輩たちの体験記読んで、胸が躍ったんだ。
僕もあんな風になりたいって。だから全身全霊をかけて迷宮攻略に挑む。そう決めたんだ」
「…………」
……なんというか、黙られても困るんだけど……
「……あの、僕、なんか気に障ること言っちゃったかな?」
「え、あ、ううん、そうじゃなくて…………うん、なんかいいと思う。そういうの、歌丸くんらしくて、私は好きだよ」
「そ、そう? なんかそう言われるとこそばゆいなぁ~」
「凄く前向きで、歌丸くんっぽいと思う」
「そうかな、うん、そう見える?」
「見える見える」
「あははははぁ、なんか照れるなぁ~」
やばい、なんかニヤける。ニヤニヤが止まらない。
そうか、ちゃんとそう見えるのか、なんかちょっと自分に自信が――
「――と、とぉおっ!?」
照れるあまりちょっと足元がおろそかになっていて小さな段差に躓いた。
顔面からまた舗装された地面に激突――するかと思った寸前で地面との接近が停止した。
「歌丸くん、大丈夫?」
「あ……う、うん、ありがと英里佳」
英里佳が咄嗟に僕を支えてくれたので転ばずに済んだ。
というか流石だ。体格的に僕の方が重いはずなのに軽々と支えられてしまった。
その時だ。
――突風が僕の頬を駆け抜けた。
「わぷっ!?」
あまりに強い風で目を瞑ってしまう。
「「「きゃあああああああああ!!」」」
近くから女性の悲鳴が耳朶を打つ。
まさか……!
「え、英里佳、大丈夫っ!?」
すぐに立ち上がって確認を取る。
すると英里佳も困惑した様子で周囲を見ている。
「わ、私は大丈夫。丁度歌丸くんが風よけになってくれたから」
「そっか……ってことは――シャチホコ! 聴覚共有!」
「きゅう!」
即座にスキルを発動させて周囲の音を聞き分ける。
「うわ、えろ」「いやぁ」「なによこ」「おおおう」「よし」「やあああん!」「地球に生まれて」「くっそカメラさえあれば」「誰よ今の!!」「くっそ」「えへへっ」
「ぐっ……」
あまりに多い声を一斉に判別しようとしたから、気分が悪くなる。
だが、英里佳ほどの美少女のスカートをめくれなかったとなれば必ず動くはずだ。
その証拠に、先ほど三上さんのスカートをめくるために連続でスカートを捲ったのだから、犯人は必ずすぐに――
「ガスターウィンド」
聞こえた。
「英里佳、左ッ!!」
「ッ!」
僕の声を聞いて英里佳は咄嗟にその方向に対してスカートを押える。
すると再び風が発生したようだが、スカートを押えた状態では捲れない。
そして僕は見た。
帽子とマスクで顔を隠し、春にしては長いコートを着た人物がそこにいた。
「ちぃ!」
舌打ちをしたかと思えば、そのコートの主はその場から姿を消す。
――まさかあれ制服っ!?
とはいえ驚いてる暇はない。
「待てっ!」
「きゅっきゅう!」
同時に地面を蹴る僕とシャチホコ。
まぁ、当然の如くシャチホコの方が足が速い。
故に、完全に姿が消える前に犯人に“
「いったぁ!?」
攻撃力は小さいが、それでも物理防御貫通の効果に犯人が悲鳴をあげて消えかけていた姿がまた浮かび上がる。
「このっ!」
「きゅきゅっ!?」
咄嗟に腕を振るった犯人。シャチホコはそれを避けるが、同時に犯人はその場から走り出す。
そしてマズイ、人込みに入られたら逃げられて見失う。
「――すぅ」
その時、背後で英里佳が息を大きく吸い込んだ音が聞こえた。
それを聞いた途端僕は即座に“聴覚共有”を解除する。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
全身の肌が粟立つほど脅威を感じる咆哮がその場に響き渡り、誰もが本能的な恐怖で足を止めてしまう。
ベルセルク特有スキル
人間を含め、肉体のある
格下の存在ならばこれだけで気絶させられるのだという。
そしてこのスキルを使った英里佳自身も、数秒動けなくなるというデメリットがあるのだが――
「ふんぬぅ!!」
僕は動きが止まった犯人の脚に向かって体当たりをして、その場で転ばせる。
「く、が――こ、この、離せ!」
倒れたショックで硬直が解けたのか、足を動かす。
そして片足が逃れたが、もう片方が逃がしてなるかとガッシリ捕まえた。
「この、離せ変態っ!」
「そっちに言われたくないよっ!」
なぜスカート捲り犯人に変態呼ばわりされなきゃいけないんだ!
「この、やばい、良いから離せって!!」
「絶対にはな、痛い、ちょ、蹴るなよ!」
見苦しく抵抗してこちらを何度も蹴ってくるが、こうなったら絶対に意地でも離さんッ!
「――歌丸、よくやったわ」
「うん、凄いよ歌丸くん」
「本当だったらそれ、俺の役目だったんスけどね……」
「それ以上歌丸くんを蹴るなら……許さない」
「あ”」
僕の拘束を逃れようと犯人が暴れている間に、みんながそれぞれの方向から犯人を囲んだ。
そしてその状況でもはや逃亡は不可能だと悟ったようで、犯人は僕を蹴るのをやめてその場で両手をあげた。
「見逃してもらったりは」「「は?」」「何でもないです」
という訳で、僕たちチーム“天守閣”は活動初日にしてスカート捲り犯の逮捕に成功したのであった。
――――――――――
キャラクター情報③
――――――――――
ヒロイン②
年齢 15歳 身長 159cm 体重 50kg
誕生日 12月5日 血液型 A型
能力値
体力:C+
魔力:C
筋力:D+
耐久:C-
俊敏:D-
知能:B
幸運:E+
スキル
・スラッシュ
斬撃時に威力強化
・シールドバッシュ
盾を使っての当身に威力補正と硬直状態を付与
・スタブ
突き攻撃の威力強化
・ウォークライ
声を聞かせた相手の敵意を自分に向けさせるスキル
英里佳同様、幼いころから迷宮攻略をするために訓練を受けてきたエリート。
能力は平均的に高く、現段階の一年生の中でもトップクラス。
パーティの中ではタンクとしての役割を担うが、その一方でパーティの司令塔も兼ねており、みんなのまとめ役。
迷宮攻略は人類の発展のためだと信じており、志が高く、正義感も強い。また将来も計画的に考えており、スキルを保持して卒業してその能力を将来に活かせるようにと考えている。
成績も優秀で攻略のための志も高いためか、周囲にもとめる意識も高くなってしまって人を見下す言動が多いが、意外と面倒見が良かったりもする。
当初は実力もない歌丸を粋がるだけのお調子者だと思っていたが、その迷宮攻略に対する意欲は自分と同じかそれ以上だとして認めており、またその能力の有用性にもっともはやく気が付いた人物
苅澤紗々芽とは幼馴染で、昔から一緒にいる。一見すると引っ張っているように見えるが、その実紗々芽からフォローされていることが多く、そのことに感謝はしている。
また、紗々芽ほどではないが女性としてとてもグラマラスな肉体をしており、実は歌丸から一番性的な眼で見られていたりもするのだが、そのことをまだ本人は知らない。
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