第28話 先取りの定番イベント
教師たちの集められた会議室にて、学長は吼えた。
「由々しき事態です!」
時刻はすでに日をまたぎ、時計の短針は2の半ばまで指しかかろうとしており、丑三つ時という誰もが寝静まる深夜。
にも拘わらず新入生を担当している教師たちは東西南北の学区全員総勢で300人近くが、つい先日に存在が発覚した学長のミニチュア分身体によって叩き起こされて集合していた。
全員、とてつもなく不機嫌そうである。
普通に労働法で訴えられるレベルであるのだが、これを集めたのは人類にとっての絶対強者であるドラゴンであり、無意味としか言いようがない。
「何が、由々しき事態なのでしょうか……寝なくても平気な学長殿」
不機嫌さを一切隠すことない低い声でそう話を切り出したのは武中幸人であった。
彼もまた、眠っていたところを叩き起こされた一人であり、そして入学から続いたドタバタがようやく落ち着いてきたと思っていたところだったのでなお不機嫌だ。
「学生たちが、青春してないのですっ!」
「よし、解散っ」
ガタタッ、と全員が示し合わせたかのように一斉に席から立ち上がる。
今、すべての教師が帰宅しようと気持ちを一つにしていたのだ。
「ちょ、待ってください、大事な話なんですよ!
ちょっと、あの、本当に帰りませんよね? あの、ちょとー、待ってください!
もう、待たないと全部私が勝手に独断で決めますからねっ!」
ピタッと、学長の言葉で教員全員が足を止めた。
この学長が一人で何かを決めて実行しようとすると、必ず数百人単位で死傷者が出る。
最たる例など“始まりの年”と呼ばれる迷宮学園の第一期生たちだ。彼らのその半数が死亡したことなど歴史的にかなり新しい惨劇である。
故に始業日に起きたトラブルでも十人以上死傷者が出たのだが、それすらこの学長にとってはかなり甘めに行った行為と、教員や上級生たちが尽力した結果だ。
全部一人に任せた場合、どれだけの被害が出るかわかったものじゃない。
本人、いや
全員が大人しく席に座りなおしたのを確認して、満足げに頷く学長。
「では、まずこのグラフをご覧ください」
会議室の奥の大スクリーンに投映されたのは円グラフだった。
タイトル部分には“今一番の悩みは?”と記載されていた。
そしてそこには大部分が緑色で、それが指し示すのは“迷宮攻略”とある。
そして次に多いのだ青色の“将来について”とある。
そして次が黄色で、こちらには“お金について”と書いてある。
最後に小さな赤い部分もあるのだが、そこにはなんて書いてあるのかわからない。
「はい、では
学長は赤い部分を伸縮式の指示棒でさす。
「えっと……病気や怪我についてでしょうか?」
「あなたには失望しました」
「えぇ!?」
ダンッ、とオーバーリアクションに机をたたく学長。
「貴方達教師がそんなんだから、彼らにはパッションが足りないのですっ!」
(((何言ってんだこのドラゴン)))
教員たちの気持ちは一つになった。
「良いですか、答えはこうですッ!」
ターーーーンッ! とキーボードをスナップを利かせて叩かれて、スライドに投映された画像が素人感丸出しのカクカクなアニメーションで文字が出てくる。
「そう、恋愛です!!」
「帰っていいですか?」
「駄目です! もう、そんなんだから結婚できないんですよ
「ほっといてください」
東学区担当にして、今年で35歳となる
「ここである新入生を例に出しましょう」
「ぶふっ」
パッと切り替わった画面を見て、武中幸人は吹き出した。
そこに映ったのは、自分が担当している
「彼はU君、今年入学した男子生徒で、現在クラスメイトで同級生の女子三人と、入学初日にテイムしたエンぺラビットと共に攻略に励んでいます」
ハッキリ言って、エンぺラビットをテイムしたのは人類において歌丸が初めてなので、もうこの時点でほとんどの教師には歌丸のことはバレバレだった。
「彼は入学初日、もはや相棒とも言える女子生徒Eさんとフラグ乱立させていました!」
教師がフラグとか言うなよ、と思ったが、突っ込んでいたらキリがないので全員流すことにした。
「命懸けで二度も彼女の命を救い、手と手をつないで密着もして、もうこれはマジで付き合う五秒前状態!
私もそれを大いに期待し、甘酸っぱい青春に期待を胸に膨らませていたのです! ですが、で・す・がぁ!」
ダァンっと再び机が勢いよく叩かれ、バキっと嫌な音が聞こえた。
「まったく進展してなかったのですよぉ!!」
耳鳴りがして、肌がざわつくほどの咆哮。
そのプレッシャーに肉体が硬直し、窓ガラスにピシリと亀裂が走る。
その気になれば文字通りこの場にいる全員を踏みつぶせるだけの能力を持っているドラゴンの力の一端を、こんな下らないことで体感することになるとは思いたくはなかった教師一同である。
「迷宮攻略に精を出すあまり、彼らはお互いに近くにいるということを意識せず、むしろそれはとても自然だと思ってしまっている!
仲間意識が強まっているのはとても、とてもとても良いことですが、今回は違います! 完全に、完っ全にぃ! この二人恋愛する気がなかったんですよぉ!!」
何故本人たち置いてけぼりでこのドラゴンがそんなことを嘆くんだよと、誰もが心底思った。
「それでほかの学生たちにも聞いてみたらさっきのアンケート結果ですよ!
恋愛に対してほとんど興味がない! みなさんこれをどう思いますか!!」
「健全でいいと思います」
「高校生なんだから不健全くらいが健全なんですぅ!!」
一人の教員の真っ当な指摘もそう力強く断言されてしまった。
健全とはなんだろうか、という哲学的なことを考えて現実逃避をしたくなった武中であった。
「とにかく、もっとこう、学生たちに恋愛を意識させるためにはどうしたらいいのか、皆さん、朝まで徹底討論ですよぉ!!」
その言葉と共に、一気に分裂して各教員たちの机へと配置されるミニチュア学長。
「さぁ、どんどん意見を出してくださ――ぴっふぅ?!」
とりあえず無駄だとわかってはいるが、武中は小さくなった学長の体を掴んで思い切り机に叩きつけたのであった。
■
「今日は学長の意向により一年の授業は全部中止だ……」
眼の下にくっきりとした隈を作った武中先生はHRにて憂鬱そうに告げた。
「うぉっほぅ! まじッスかぁ!」
相変わらず“ス”のイントネーションがおかしいクラスメイトの
思わず後ろを向くと、英里佳も不安げに頷く。
「今、迷宮は学長が盛大に弄りまくっていて内部の構造が大幅に変化している。
その迷宮に入ってもらうぞ」
迷宮の構造が変化……しかも大幅ってあたりが怖いな。
シャチホコでも内部構造を把握できるだろうか……
「先生、その…………学長は私たちに何をさせたいんですか?」
三上さんがこの場にいる全員の疑問を代弁するように
「……………………言いたくねぇ」
さめざめと、自分の顔を覆って机に突っ伏す武中先生。
普段の先生の様子とは違ってかなり弱々しいというか、もうその背中に哀愁漂っている。
いや、本当に何があったの?
「そ、それじゃあ説明になってませんっ」
三上さんも負けじと追及をするが、どうにも答える気がない先生は疲れきった顔をあげる。
「行けば分かる。ぶっちゃけくだらない思惑だ。
だが、気は抜くな。あの学長は俺たち教師が一丸となっても手に負えない化け物だ。
俺たちの知らない仕掛けを“サプライズだ”とかのたまってやりかねない。全員、迷宮に挑むときは臨戦態勢で、常に警戒を厳としろ。一瞬だろうと気を抜くな」
「…………わかりました」
しかたなく席に着く三上さん。
不穏な空気が教室に流れ、これから入るダンジョンに不安がよぎる。
とりあえず僕たちは一同集まって装備を確認し、集まってダンジョンへと向かった。
「一体何があるんだろうね」
「学長主催となると、不安ね」
先を歩いて話してる苅澤さんと三上さん。
一方で僕は昨日の学長との会話を思い出す。
「……いや、まさかなぁ」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ」
あんな世間話の延長みたいなのでこんなことが起こるはずない……よね?
ないと思いたいなぁ……
…………
………………
……………………
「――青春と言えば海!」
ダンジョンに入っての学長の第一声がそれだった。
地下にあるはずの迷宮は今、どこまでも青い海が広がり、白い砂浜と、太陽が燦々と輝く状態となり、気温もかなり高い。
僕たちは迷宮学園にきて、
「海と言えば水着!」
「ちょっと、なんで急に!」
「う、うそうそうそぉ!」
「ちょっと男子こっちみんなっ!」
「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
悲鳴を上げる女子、対照的に歓声をあげる男子
魔法陣で移動した瞬間、迷宮用に変化した制服がさらに変化し、入ってきた女子全員が一瞬で水着に変化していた。
しかもただの水着ではない。明らかに布面積が少ないものばかりだ。
正直、目のやり場に困るレベルである。
当然男子生徒も水着に変化しているのだが…………何故か僕だけ通常状態である。
あれ、これもヒューマンとしての
職業ごとに男子の水着も違うのか、トランクスタイプとブーメランタイプに分かれている。
多分後衛がトランクスで前衛がブーメランってことだろう。
「うぅう……!」
「こっち見るんじゃないわよ! ぶっ殺すわよ!!」
「あの……セクハラドラゴン……!!」
そして僕の近くにいた苅澤さん、三上さん、英里佳は恥ずかしそうにしている。
……とうか苅澤さん凄い。あれ、スリングショットって奴でしょあれ……リアルで見たの初めてだ。
もうね、こぼれそう。
これ動けばリアルポロリが見れるレベルじゃ……「歌丸くん!」
「は、はいっ! み、見てませんよ!」
「い、良いからその、出来れば上着貸して貰えないかな……ちょっと……その、露出が……!」
「ど、どうぞどうぞ!」
僕は素早くブレザーとワイシャツ、それにTシャツを脱いで三人に渡す。
順番に苅澤さん、三上さん、英里佳がそれぞれ上着を身に着けて露出は減った。
結果僕は上半身裸で、周りの男子からブーイングと、女子からは恨めしい眼差しを受ける。
おかしいな、僕一切悪いことしてないはずなのになんか針の筵な気分だよ……
「歌丸くんありがとね……」
「あ、いえ……うん……ありがとう」
「? どうして歌丸くんがお礼を」
自然と口から出たんです。
というか、なんだろうね、苅澤さん露出は完全に減ったはずなのに……上半身ブレザーだけで下が何もつけてない状況だからかえって妄想が掻き立てられるというか……エロさが増した気がする。
「ちょっと……変な気を起こしたらぶん殴るわよ」
三上さんはそうすごんでくるが、正直顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのがまるわかりなのでそれほど怖くない。
とういかこっちも破壊力やっべぇ。
裸ワイシャツは男のロマンとか言われてたけど、水着ワイシャツはまた新境地を開拓している。
ワイシャツから透けている黒いビキニがとっても良いです。
あれだね、隠されているからこそ意味があるという、そういうことを今僕は体感していた。
「歌丸くん、その大丈夫? 寒くない?」
「あ、いや、全然僕は大丈夫」
英里佳は二人ほどの立派なものは持っていないが、スレンダーでとても女性的な色気がある。
そんな少女が水着Tシャツとか…………こう……水の掛け合いっこしてみたいです。
……はっ、いかんいかん、しっかりしろ僕っ!
「というか英里佳こそ、ごめんね、他に無くて……」
よく考えれば女子に先ほどまで来てた肌着渡すのってかなりデリカシーないんじゃないか?
緊急事態だったから咄嗟に渡してしまったが、セクハラになったりしないよね、これ?
「う、ううん、気にしないで。
他の人ならちょっと抵抗あるけど……歌丸くんなら大丈夫だから」
「……そ、そう?」
やっべぇ、マジで天使すぎるでしょ英里佳
「ふふふふっ……いやぁ、みなさん楽しんでいるようで何よりです」
目と耳が腐っているのだろうかあのドラゴン
男子たちが血走った眼で女子を視姦し、女子たちは露出で悲鳴をあげている。
ある種の阿鼻叫喚である。
しかしそんなことは無視して学長は力強く宣言する。
「というわけで、季節先取り、新入生の日帰り臨海学校を開催いたします!」
もう、誰でもいいからこのドラゴンを倒してくれないかと思った今日この頃。
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キャラクター情報②
――――――――――
ヒロイン
年齢 15歳 身長 152cm 体重 46kg
誕生日 11月20日 血液型 B型
能力値 強化時
体力:B → A-
魔力:C- → D
筋力:C+ → B+
耐久:C → B-
俊敏:C+ → B+
知能:C+ → 変化なし(歌丸と一緒の場合)
幸運:F+ → 変化なし
スキル
・
・????
本作のヒロイン
幼少のころから迷宮学園での攻略を目的として訓練をしており、尚かつ意図的にベルセルクとなるように教育を受けていた。
ある目的を果たすために迷宮に挑み、その一方で学長に対して強く明確な憎悪を抱いている。
戦闘能力は新入生の中でトップクラス
既に銃火器の使用免許を取得しているが、歌丸の借金を肩代わりしたため現在はナイフを使っての白兵戦がメイン。
人当たりは決して悪くはないのだが、ベルセルクの適性を得ることを入学前から強要されていたので交流関係についてはあきらめ気味であった。
現在は歌丸のおかげでパーティに加入ができて迷宮学園での生活に充実感を覚える一方、歌丸のことを守らなければならないという責任感を抱く。
歌丸のことは最初は興味を大してなく、入学式の日に彼が嘔吐した原因を作ってしまったという小さな罪悪感で声を掛けたのが始まりであったが、自分のことを友達と言って懸命に戦う歌丸に深い感謝と親愛を感じている。
一方で弱くとも命を懸けて攻略に挑む歌丸の姿に強い興味を抱いている。
三上詩織や苅澤紗々芽については仲間として意識を持っており、特に三上とはよく口論をするがその一方で信頼できる人物だという認識。
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