第25話 ドロケイ試験② ミッションインポッシボゥ
持久戦となれば本来、ルール上は隠れる場所の多い泥棒側が有利のはずなのだが……
『サンダーストーム!』
聴覚共有から聞こえてきた瑠璃先輩の言葉で身構えるが、こちらとはまた違った方向に竜巻が発生した。
見るともう結構な範囲の木が薙ぎ倒されており、明らかにその辺りは丸見え状態だ。
「使用する間隔はだいたい3分置き……あと3時間半はあるから……70回は使ってくるってことかな?」
「かもね。
よく確認できなかったけど、たぶん魔力の自然回復を早めるアイテムも装備してるんだと思うから、魔力切れは期待しない方がいいかも」
僕たちはまだ魔法を使われている場所から離れた場所にいるが、このあたりを攻撃されるのも時間の問題だろう。
かといってここから離れようにも、安全区画の外に出てしまうわけにもいかない。
それでは失格になってしまう上に、
「まさかの手詰まり、か……」
――いや、待て違う。
いきなりそんな結論を出すのは早計だ。
もっと聴覚に意識を集中させよう。
『……なんか誰も動かないね』
『動けないのよ。
栗原先輩も、下村先輩も瑠璃先輩が余力を残して魔法を使ってるの知ってるから、迂闊に出てくれば大火力で倒されるって理解してるし』
『歌丸くんや榎並さんも、かな?』
『そっちは論外ね。
榎並単独ならまだやりようはあるけど……歌丸が一緒の時点でもう榎並の行動はかなり制限されているわ』
ぐぅ……わかってはいたけど、やっぱり傷つくな、これ。
だが、今は我慢だ。
シャチホコの聴覚なら、もっと音を拾えるはずだ。
『――――で、ご―――か?』
……これは、下村先輩の声か?
なんか会話してるっぽいけど……近くに栗原先輩の声は聞こえない。
『――――――――は――する?』
こっちは栗原先輩の声だ。
こっちも誰かと会話しているみたいだが……二人の声が聞こえてくる方向は違う。
どういう…………あ、もしかして学生証を使った通信か?
なら、二人のどちらかと合流できればまとまって動ける可能性がある。
「……英里佳、先輩たちの居場所が分かったかも」
「え? どうやって?」
「シャチホコがいるのはスタート地点……つまりこの安全区域のほぼど真ん中でじゃん?
そこから聞こえる先輩たちの声の方向と大きさで確認したんだ。
で……あっちに下村先輩、あっちには栗原先輩がいるみたい」
「…………」
なぜか英里佳が唖然とした顔で僕を見ている。
「どうしたの?」
「あ、その……歌丸くんの能力……実はかなりすごいんじゃないかなって再確認を」
「こっちは僕って言うよりシャチホコだよ」
「そ、そっか……じゃあ、問題はどうやってそこまで行くかだね……合流する方法を考えないと」
「ああ、それなら簡単な方法が一つあるよ」
「え?」
僕は思いついた方法をかいつまんで英里佳に話す。
「……確かに、それなら攻撃される心配もなくなるけど……いいの?」
「良いよ別に。
これ一応チーム戦だし、最終的にこっちが勝てれば儲けもんだよ」
■
「ってことで捕まりに来ました」
「いやどういうことよ」
すかさずツッコミを入れるあたり、流石は三上さん。
「いや、僕のポジション的にはこうして捕まってる方がいいかなって思って。
ほら、失格にもならないし」
「それはそうかもしれないけど…………あんた、本当……やる気あるの?」
「メッチャあるよ、バリバリだよ」
「やる気ある奴は出て来てすぐに両手をあげてこっちに来ないわよ」
「だって瑠璃先輩、こっち見た瞬間すぐに魔法発動させようとしてきたし」
「それはそうだけど」と話を続けようとした三上さんだったが、その前に僕は真正面から衝撃を受けてよろめいた。
「きゅきゅきゅー!」
「おっとと……シャチホコ、やっぱり頭に乗るのな」
「あはは……よかったねシャチホコちゃん」
「苅澤さんが面倒見てくれたんだね、ありがと」
「ううん、別にいいんだけど……」
「――ねぇねぇレンりん」
ずいっと、僕と苅澤さんの間に突如割って入ってきた瑠璃先輩。
「おわっとぉ!」
「きゅきゅきしゃーーー!!」
かなり顔が接近したので僕は驚いてよろめき、シャチホコは前歯をむき出しにして威嚇する。
「君、結構性格悪いんだねぇ」
「いきなりなんですか?」
「だって、私が攻撃する瞬間に両手をあげて降参を宣言したでしょ?
それと同時に君の後ろをリカちゃんが走って森の中に入っていったよね?」
「「え?」」
あ、やっぱりバレてる。
二人には気づかれなかったからうまくいったかと思ったんだけどなぁ……
「降参宣言した相手に攻撃するのはペケちゃんって私が言ったの、ちゃんと覚えてたんだね。
降参するタイミング完全に合わせて横切られちゃったからライトニングでも攻撃は無理だったし、かなり速かったから追撃しても間に合わなかったもん。
流石はベルセルクってところかなぁ」
「僕と英里佳の距離も結構あったはずなんですけど……念には念を入れておいてよかったですね」
「ふぅん……君、結構策士だね」
「ただ臆病なだけですよ」
不敵な笑みを浮かべる瑠璃先輩。
正直、こっちは内心ヒヤヒヤだ。
「ま、ルールはルールだし、とりあえずこっちで待っててねぇ~」
「はい」
安堵したのを悟られぬように、僕は先ほど瑠璃先輩が地面に書いた円の中へと入ってそこで胡坐をかく。
これで僕は誰かに助けられるか、もしくはこの牢屋にあと二人が入ってこない限りは何もできない。
まぁ、英里佳なら大丈夫かな。
■
時間は少し経過し、英里佳は無事に下村大地と合流を果たしていた。
そして、英里佳の手には学生証が握られている。
「……なるほど……あいつ考えたな」
ここまでの合流の経緯を聞いて、大地は素直に歌丸に感心した。
エンぺラビットの聴力を使って自分の位置をおおよそ割り出したこともそうだが……
「学生証を使っての盗聴か……おかげであいつらの動きがこっちに筒抜けだ」
現在、歌丸と英里佳の学生証は通話状態となっており、互いの音声が聞こえるようになっている。
よって英里佳の手にある学生証に耳を済ませれば、今もスタート地点で留まっている瑠璃たちの動きを知ることができる。
「ってことだ……聞こえてるか、栗原」
『ええ。正直、彼のこと舐めてたわね』
「ああ、自分ですぐにその辺りに気づく機転はいい」
『嬉しそうね』
「俺たちのギルドに丁度欲しいタイプだからな。
まぁ……ここからの動きも見させてもらうか……」
二人の会話を聞いていて、自然と英里佳は自分の頬が緩むのを感じた。
歌丸のことをちゃんと見てくれる人がいるという事実が嬉しかったのだ。
そしてしばらく瑠璃たちの会話を聞いていて現状から動くつもりはなく、広範囲の魔法によって泥棒チームの隠れられる場所を徐々に減らしていく算段のようだ。
「まぁ、堅実に行くならそうだよな。
ってか、単に探しに行くの面倒なだけだろあいつ」
そんな風に大地は愚痴りながらどう動くかを考える。
「さて……榎並、お前のそのスキル……タイムリミットみたいなのは大丈夫なのか?」
「はい、問題ありません。
少なくとも歌丸くんが無事なら私はこの状態を持続し続けられます」
「そうか。なら、悪いが前に出て瑠璃の魔法を引きつけてくれ。
そのスキルを使っている今のお前の機動力なら広範囲の魔法でも逃げ切れるはずだ。
具体的には……あいつがサンダーストームを使った直後に突っ込んでくれ。
あの魔法の消費魔力は多いから、使った直後ならそんなデカい魔法は使えないはずだ。だがライトニングに気をつけろよ。
足を止められると一気に畳みかけられる」
「はい」
「その間に俺と栗原で接近して一気に倒す。いいな?」
『了解よ』
「わかりました」
「じゃあスタート地点の東側で待機して、タイミングは榎並に任せる。
俺は北の方に、栗原は回り込んで西側に待機だ。頼んだぞ」
そういって離れていく大地を見送り、榎並は身をひそめながらスタート地点の近くに戻っていく。
ピチャピチャと、歩くたびに水を吸った地面が音を立てるので、気取られぬようにゆっくりと進んでいく。
――トントントンッ
「っ」
不意に、音量を大きめにしている学生証から妙な音がした。
英里佳は学生証を耳に当てる。
――トン、トトン、トトトン!
一回、二回、三回と学生証を指で叩いているようだ。
そしてそれを何度も繰り返している。
「これって……もしかして…………っ!」
不意に、頭上から光が降り注いできたのを感じ取って仰ぎ見る英里佳。
そこには先ほどから何度も見た“サンダーストーム”の発動準備段階に発生する魔法陣が上空に展開されたのだ。
そして、視界が雷光で眩む。
■
「ふん、ふふーん……♪」
鼻歌交じりに魔法を発動させる瑠璃先輩。
僕は牢屋と指定された場所で待機しながらその様子を見ていたのだが……途中からある違和感に気づく。
なぜか、彼女の手には杖の他に学生証が握られているのだ。
「……あの、瑠璃先輩?」
「どったのぉ?」
「あ、いや……その学生証でなにしてるんですか?」
「何って、友達とチャットだよ。
だってほら、警戒はしーたんとさめっちに任せてるからちょっと暇なんだもーん」
「は、はぁ?」
三上さんたちの方を見るとなにやら不満げな様子であるが、相手はこちらを試験している先輩ということで特に何も言っていない。
いや、確かにあの二人に警戒を任せて魔力が回復した直後に魔法を撃つだけの状況だから暇なのはわかるけど……
『じゃあスタート地点の東側で待機して、タイミングは榎並に任せる。
俺は北の方に、栗原は回り込んで西側に待機だ。頼んだぞ』
向こうの動きを確認するため、僕は今シャチホコの聴覚共有を使った状態だ。
おかげで胸ポケットに入れている学生証から聞こえてくるわずかな音声も聞き取れた。
音量も抑えているから、三上さんたちはもちろん、瑠璃先輩にも気づかれていないようだ。
……だが、なんか違和感があるな、今の。
いや、作戦としては別に悪くないし、むしろ今の状況では間違ってないんだけど…………今、なんで下村先輩は“スタート地点”を主観に置いたんだ?
まぁ、別にそれほど疑問を抱くようなことではないのかもしれないけど……
「――そっか、東か」
どうでもいいことかな、っと思ったその直後、瑠璃先輩がそんなことを呟いた。
僕は内心驚きながら瑠璃先輩の方に目線だけを向ける。
そして僕が見たのは、学生証を眺めてニヤッと不敵な笑みを浮かべている瑠璃先輩だった。
僕は何となく嫌な予感がしたので、胸ポケットに入れたままの学生証を制服の上から何度か指で叩く。
一回、二回、三回と続けて叩いてそれを何度か続ける。
先輩たちには伝えていないが、これは英里佳と僕の間だけで決めた危険信号だ。
何か怪しいと思った時にこの合図を出すことになっていた。
「サンダーストーム!」
そして、瑠璃先輩は東側――つまり、英里佳がいるであろう方向にドンピシャで魔法を放った。
これは、偶然か?
いやそれより、英里佳は無事なのか?
僕は内心ひどく焦っていたが、それを気取られぬように今まで通り興味無さそうに目を閉じつつ聴覚共有を発動させて英里佳の声を探す。
『――ぁ……ぁ……………はぁ…………はぁ』
――なんかエロい。
シャチホコの聴覚を通じて聞こえてきたのは、英里佳の荒い息遣いだった。
とりあえず生存は確認できた。
まぁ、バッジがあるから死ぬようなことはないことは知っていたけど……
「……むぅ……外したかな」
続いて聞こえてきたのは、残念そうな瑠璃先輩の声だ。
その方向には、広範囲になぎ倒された樹が見える。
しかし、そこには人の姿などない。どうやら英里佳は無事に逃げ切れたらしい
僕は極力平静を装う。
「そっちに誰かいたんですか?」
「え、あ……なんかいるような気がしたかなぁ」
僕の問いを適当にはぐらかすような瑠璃先輩だが……なんか、すごく怪しい。
いやだが……その場合はどうなる?
もうちょっとよく確認しないと何とも言えないけど……
もしかしてこの試験……単にケイドロで勝てばいいわけでもないのか?
「あたっ」
突如後方からコツンと何か頭にぶつけられた。
振り返ると三上さんと苅澤さんがいるのだが、どちらも僕の方を見てないままだ。
だが、僕の背中あたりを見ると小さく折りたたまれた紙があった。
「…………」
「ふぅむ……おっかしいなぁ」
瑠璃先輩の方を見ると、彼女は僕の方を見ずに学生証を弄っている。
僕は背伸びをするような動作をしながらその紙を拾い、そして瑠璃先輩からは見えないように広げて中身を確認する。
そこにはどちらが書いたのかはわからないが、明らかに女の子特有の丸っこい文字でこう書いてあった。
『三回に一回のペースで魔法を撃つ前に学生証でチャットしてる』
そう書かれた内容を見て、僕の疑念は限りなく強い確信に変わった。
そしてそのまますぐに受け取った紙を握り潰す。
偶然の可能性もまだある。
だがもしそうでなかったら?
――その場合……つまり……
ここまで考えて、僕はある結論に至る。
――この試験、ドロケイの勝敗を競うものじゃないのかもしれない。
――――――――――
キャラクター情報①
――――――――――
主人公
年齢 16歳 身長 163cm 体重 51kg
誕生日 4月2日 血液型 AB型
能力値 (最大A
体力:F+
魔力:E+
筋力:F-
耐久:F
俊敏:F-
知能:C
幸運:C-
スキル
・
・
・共存共栄Lev.1
・
テイムモンスター
・シャチホコ(エンぺラビット)
能力値
体力:D
魔力:F
筋力:F+
耐久:F-
俊敏:A-
知能:D-
幸運:B
スキル
・
・聴覚共有
・
本作の主人公。
迷宮学園でも歴代において例を見ない低ステータス。
人類において初めて最弱モンスターであるエンぺラビットに襲われた男。
迷宮学園入学前は本人曰く超インドアな生活を送っており、入学を機に高校デビューを狙う。
とある目的のために命を懸けて迷宮攻略に励む。
また人との協調を大事にする一方で、自分でもできることがなにかないかと常に模索し続けている。
英里佳が気になっているのだが、本人としてはそれが友愛なのか恋愛なのかの線引きがいまいちわかっておらず、深くは考えていない。
またほかの人たちに対しても先入観を持たずに仲良くはなりたいとは思ってはいるが、悪意に対しては人一番敏感で、そういった相手には基本的に無関心な態度を取る。
とはいえ別段本気で嫌っているわけでもなく、悪意を持っている相手だろうと関わってみて面白いと思ったら仲良くなりたいとは考える。
勉強、運動、家事など人より劣っているが、本人もその自覚はあるため現在改善のために努力はしている。
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