第23話 地域によって呼び方は違います。
本日は土曜日ということで午前中で授業は終了した。
僕はいつもの三人と一緒に学食の隅でお昼を取り、この後に瑠璃先輩のギルドに加入するための試験を受ける予定だ。
「カードを取られそうになった?」
「うん……多分だけどね」
昨日の夜に起きたことを僕は念のために三人に報告する。
ルームメイトである相田くんが僕がいつも枕元に置いてあるアドバンスカードに手を伸ばした。
実はあの後も彼が完全に眠るまで薄目を開けて起きていたのだ。
しかし、どうも彼はあの後シャワー室から出てこなくて、僕も結局徹夜してしまった。
まぁ、
「ルームメイトの相田って……あの
まさかそんなことをする奴だったとは……近づかない方がいいわね」
三上さんはそんなことを言いながらメモ帳を取り出して何かを書き込む。
メモとかは一昔前まではスマホとかで済ませるのが主流だったみたいだけど、迷宮学園では原則として生徒の通信機器に持ち込みは禁止ってことでこの迷宮学園では固定電話以外は外部とは通信できないことになっている。
一応学生証には登録した相手と連絡を取ったり、不特定多数の人たちが見る掲示板を見ることができるなどスマホみたいな機能もあるので、学生証をスマホみたいに使うこともある。
あ、当然僕は英里佳、三上さん、苅澤さんの三人の学生証を登録しているのでいつでも連絡は取れる。
「それにしても、歌丸くんよく気づけたね。
眠ってたのに近づいてた人に気づけるなんて訓練でもしてないと難しいのに」
感心した様子の英里佳。
褒められると悪い気はしないけど、正直普通の状態なら僕は気づけなかっただろう。
「あ、うん。
意識覚醒のスキルって実は結構細かく設定できてさ、普段は朝起きる時間に発動するようにしてるんだけど、それに加えて一定範囲内に誰かが近づいてきたときにも起きる様にしてるんだ」
「聞いてた以上に便利な能力だね……」
「僕も思った。説明文だけだとショボいけど、実際に習得してみるとヒューマンのスキルってかなり利便性高いんだよね」
相変わらず直接戦闘に役立つ能力はないけど、もうその辺りはシャチホコに頼るしかなさそうだ。
「それより問題なのは、歌丸くんが今後その相田くんと同室で生活できるかじゃないかな?」
「……そうよね。
アドバンスカードが狙いだっていうなら、歌丸の身の安全を考えないと。
正直、歌丸って一人なら簡単に殺せるものね」
苅澤さんの言葉に想像以上に物騒なことを言い出す三上さんに僕は顔を引きつらせてしまった。
「こ、殺すってちょっと物騒じゃない?
相田くん、クラスメイトだよ?」
「迷宮じゃ殺す殺されるは普通になってるでしょ。
生物とか殺すことに慣れてくると、人間殺すのに抵抗がなくなるって事例は実際にあるの。
迷宮学園では殺人事件も起きることだって割と良くあることだし、状況証拠だけみればあんたが殺される可能性は高い」
「そ、それは……」
殺人事件の発生率が一番高い場所は、実をいうと銃規制が緩い国にある迷宮学園だったりする。
そして日本国内でもそれぞれの迷宮学園内で起きる殺人事件が他の都道府県を見ると群を抜いて高い。
そして卒業生が連続殺人を起こしたってことで一時期社会問題にもなったほどだ。
この迷宮学園では、多くの人間が“殺す”という行為に慣れてしまう。
僕も殺すという行為は数える程度しかやっていないが、それでも生物が死ぬ光景を見るのには慣れてきたという自覚はあった。
「私たちの攻略の早さを見て、相田はそのヒントがシャチホコにあると睨んだのよ。
こうなったらすぐにでも歌丸は寮を引き払うしかないわね」
「え……いや、それはちょっと……寮母の白里さんシャチホコのためにいろんな道具揃えてくれたし、なのにすぐ出ていくのは」
「あんた、相田に殺されるかもしれないのよ?」
「でも、まだそうと決まったわけではないし…………そもそも…………金がない」
「「「…………ああ」」」
僕の言葉に三人とも頷いた。
そうなのだ。
ついこの間、僕たちはこのパーティで集めたお金で装備を一新したのだ。
三上さんの盾はもちろんのこと、僕も新しい直槍を購入したし、英里佳はナイフ、苅澤さんは魔法の射程範囲を広げるための杖を購入しており、全員が足りない分のお金を自腹で払っている。
もちろん生活費とその他雑費は残っているが、その程度で新しい部屋を借りるなど不可能だ。
「……じゃあ、寮の方で一人部屋に移してもらうとかくらいはした方がいいわね。
事情は今日、寮母さんに説明するとして……それで駄目そうだったら宿泊施設で一泊しなさい。それくらいのお金ならあるし」
この学園に宿泊施設、と聞くと首を傾げるかもしれないが、実は結構重宝されている。
例えば寮とかだと管理人がいる時間しか出入りができないため、門限を過ぎると寮生であっても部屋に戻れないことが多いのだ。
それでは学生が野宿してしまう、という意見もあるが管理人が二十四時間ずっと起きているのでは負担も大きいということで、簡易的な宿泊施設が学園内に設置されている。
所謂カプセルホテルというものだ。
ああ、今のところ僕に利用する予定はまったくないのだが、商業の盛んな西学区の一部の通りには愛を語らう感じの宿泊施設もあるという。
学生の島ということで本当は駄目なのだが、若さゆえに勝手に暴走されるくらいならいっそそういう場もあった方がいいということで黙認されているらしい。
「わかった。
じゃあ、とりあえず今は目の前のこと……ギルドへの加入試験だね」
「そうね。
試験内容は当日話すって言っていたけど……」
どんな内容なのか考えているとぽつりと苅澤さんがつぶやく。
「やっぱり討伐クエストとかかな?
実力を示す、みたいな」
「……多分違うんじゃないかな? 現時点の一年生の強さなんて五十歩百歩で大差ないし」
この学園の学生の強さは身も蓋もない言い方をすれば在学期間が長いほど強い傾向がある。
迷宮に潜って、そこでポイントを溜めた分だけ能力値を強化できるのだから当然の話だ。
だからぶっちゃけ、この時期の一年生である僕たちは逆立ちしたって上級生相手には手も足も出ないのだ。
それでもこの中で上級生とまともにやりあえる可能性があるのだとしたら
「そうね。むしろ戦闘能力はあって当然、試験するまでもなく大前提とされているものよ。そうじゃなきゃ生徒会直営のギルドは成り立たないもの。
だから単純に腕っぷしより、事件や事故に対してどれだけ有効な技能を持っているかを試されるはずよ。
そういう意味では……紗々芽と歌丸は問題なく試験をパスできるかもしれないわね」
「「え?」」
三上さんの言葉に僕も苅澤さんも同じリアクションをしてしまう。
「確かに……エンチャンターの能力の高さは迷宮生物だけでなく対人でも有効だし、何より希少な能力は生徒会だって確保したいはずだよね。
歌丸くんの能力だって、その効果を知れば生徒会も確保したいと思うはず」
「その通り。
二人の支援補助は、下手な戦闘力よりも有効な戦力となりえる」
「特に
「ええ、解毒剤とか用意する手間も減るし、何より戦闘のリスクも下げられる……生徒会が欲しがる要員なのは間違いないわ」
「そ、そうかなぁ?」
英里佳と三上さんの両方にそこまで持ち上げられるとなんだか照れくさい。
「そしてその恩恵を受けられる高い戦闘力を持ったベルセルク……その辺りを強調すれば榎並も受かりそうね。
むしろこの中で一番問題があるとしたら…………私でしょうね」
……意外だ。
まさか試験に対して誰よりも前向きな感じだった三上さんが、そんな風な結論を出すとは。
「まぁ、このパーティって私の指示ないと基本回らないし……その辺りよくわかるように立ち回れば多分大丈夫かしら」
あ、そうでもなかった。
やっぱり結構自信家だ。
まぁ、そんな感じで僕たちはこれから行われる試験の内容を予想し、その場合どう立ち回るべきなのかを相談しながら食事を進める。
あまり行儀良くはなかっただろうけど、僕は内心でこんなお昼を楽しんだりもしていたのだ。
そして、時間はとうとうやって来た。
待ち合わせ場所は生徒会役員が使っているという学校地下にある特別な施設だ。
実は生徒会に関係ある者しか使用が許されていないダンジョンへの入り口がそこにあるのだ。
だから生徒会役員はいちいち地上の広場まで行ってからから潜るなんて面倒なことをしないで済む。
「あ、来た来た~」
施設の入り口には瑠璃先輩が待っていた。
他にも女子生徒と男子生徒が一人ずついる。
どちらもネクタイの色で二年生だとわかった。
「この子たちが加入希望者?」
「…………大丈夫か?」
二人は僕たちのことを見て品定めをする。
ちなみに男子生徒の先輩の「大丈夫か?」は僕を見て言われました。
「レンりんに関してはクロ先輩から根性あるってお墨付きいただいてるから平気だよ。たぶん」
「曖昧だな……まぁ、副会長の言葉なら信用できるか」
男子生徒は前に出て、僕に握手を求めてきた。
「俺は二年の
このギルドのメンバーで、職業はウォーリアーだ」
ウォーリアー……確かソルジャーの上級職にあたるもので、身の丈よりも巨大な武装を主に使う人が多いんだっけ。
「一年の
職業はヒューマン・ビーイングです」
そういいながら握手をすると、下村先輩は首を傾げる。
「ヒューマン・ビーイング……? すまん、聞いたことが無いな」
「一応、僕がその世界初の職業ってことになるみたいです」
ヒューマンはいたけど、ビーイングが付いたのは僕だけみたいだし。
「なるほど……特別な職業ってわけか。じゃあちょっとは期待させてもらうか」
「はい、よろしくお願いします」
握手を終えると、下村先輩はほかの三人にも話しかける。
その間に、今度はもう一人の女子の先輩が声を掛けてきた。
「私は
職業はソードダンサーよ」
剣を主武装に使うフェンサーの上級職の一つだったかな。
二刀以上の剣を自在に操るのに長けたテクニカルな人がなるもので、手数と技量がものをいうとか。
対人戦においては最強の一つに挙げられるものだったはずだ。
あ、ちなみに現在フェンサーの三上さんがなりたいと思っているのは攻撃と防御の両方に優れたナイトで、最終的には回復系のスキルも使用できるようになる最上級職のパラディンを目指しているらしい。
「ヒューマン・ビーイングの歌丸連理です。
よろしくお願いします」
「エンぺラビットをテイムしてるって聞いたけど……見せてもらってもいいかしら?」
「あ、はいもちろん。
来い、シャチホコ」
胸ポケットに入れているアドバンスカードに触れて名を呼ぶと、僕の目の前で光ってそこにシャチホコが現れる。
シャチホコはそのまま、僕の腕の中に飛び込んできた。
「わぁ……ほんとにエンぺラビットだ。
可愛いわね」
栗原先輩はとろけたような表情でシャチホコを見る。
「……きゅう」
「しゃあねーなー」って具合に黙って頭を差し出すシャチホコ。
お前白里さんの相手をしてだいぶ人間の相手に慣れたんだな。
なんてことを考えていると、差し出されたシャチホコの頭を撫でて栗原先輩はかなりご満悦だった。
「ヒロにゃん、ヒロにゃん、私にもさわっせてー」
瑠璃先輩も横から手が伸びてきてシャチホコの頭を撫でる。
「きゅ、きゅむぅ」
二人から同時に撫でられて苦しそうなシャチホコだが、ここで我慢するあたり後で野菜をせびられそうだ。
「おい女子二人、エンぺラビットが可愛いのはわかったが先に試験だろ」
呆れた様子の下村先輩に諫められ、渋々と手を離す二人。
シャチホコは定位置である僕の頭まで登ってくる。
「まったくアースくんは融通がきかないな」
「アースくん?」
「だってほら、大地って名前だし」
下村先輩のあだ名のつけ方雑じゃね?
いや、僕も含めてみんな雑だけど、明らかに下村先輩だけあだ名のベクトルが違くね?
「とりあえず俺たち風紀委員」「
ああ、やっぱり下村先輩もその名前嫌なんだ。
「俺たちは今までそれぞれ別の生徒会直営ギルドに所属していたが、卒業生が抜けてバラツキの出た戦力を均一化するためにメンバーを一新している。
だからメンバーは少ないが…………俺たちは相当強いぞ」
「「っ……」」
前衛職である英里佳と三上さんは下村先輩から何かを感じ取った様子で身構えた。
僕はその辺りはよくわからないけど、なんとなく腹の底が重くなったような感じがした。
「ぷっ……アースくんかっこいー(笑)」
「くすっ」
「う、うるせぇな。
こほんっ…………まぁ、そういうわけであんまり油断はするな。
試験の内容についてだが……正直俺たちもその辺りは手探りな感じだ。
だから単刀直入に、今俺たちがお前たちに求めている能力を見る」
いったいどんな試験なんだと僕も苅澤さんも前のめりになって、一言一句聞き逃さないように意識を集中する。
「ドロケイをやるぞ」
……………………ん?
「いやいや、アースくん違うよ」
あ、よかったなんか違うらしい。
「ケイドロだよ」
大して、というかまったく変わらなかった。
「ジュンドロじゃないの?」
栗原先輩もですか。というかジュンって何? どこから来たの?
「は? ドロケイだろ、名前」
「ケイドロだってば」
「え、あのだから、ジュンドロじゃないの?」
というか何の話?
「ねぇねぇ、レンりんはケイドロ派? それともドロケイ派?」
「まず意味がわかりません」
「え? 知らない? まず二チームに分けて」「いやルールじゃなくてですね」
一応引きこもりだった僕でもルールは知ってる。
というか、幼稚園とかに通ってた時にやった記憶がある。
そんな時、僕の服の裾を誰かが引っ張ってきた。
何だと思って見てみると、英里佳が困惑した様子で見ていた。
うん、気持ちはわかる。
僕も現状に困惑して――
「あの……どろけーって、なに?」
あ、この子リバーシも知らないくらい遊びに疎い子でした。
「えっと……英里佳は鬼ごっこってわかる?」
「う、うん」
「その応用版というか……地域によって呼び方は変わるけど、助け鬼って僕は呼んでた」
「邪道だ」「少し黙ってろ」
瑠璃先輩が下村先輩につっこまれているが今は気にしない。
「まぁ、ここはわかりやすく泥棒と警察……略して“ドロケイ”って呼ぶね」
「しゃあっ!」「そんなぁ!」
「ちょっと、二人とも静かに」
先輩方三人のリアクションなんて気にしない。
「一方のチームを泥棒、もう一方のチームを警察として泥棒が逃げて警察がこれを捕まえる。ここまでは普通の鬼ごっこと一緒なんだ」
「うん」
「で、捕まった泥棒は警察が指定した場所、牢屋に待機する」
「あ、わかった。警察が泥棒を全部捕まえれば勝ちなんだね」
今の「あ、わかった」っていいながら手を合わせるの可愛いなちくせう。
「そうなんだけど、実は捕まった泥棒は脱獄してもう一度逃げることができるんだ。
捕まっていない泥棒が、捕まった仲間にタッチするのが条件」
「ということは……鬼、つまり警察は泥棒を追う人と、脱獄しないように見張る人がいるんだね。
結構奥が深いね」
「そういうことだけど……先輩たちの言う試験ってただのドロケイな訳ありませんよね。
追加のルールはなんですか?」
僕の言葉に、瑠璃先輩はニッコリと笑う。
「簡単だよ。まず私が警察で、アースくんとヒロにゃんが泥棒ね」
「え……先輩たちでチームを分けるんですか?」
三上さんと同じで、僕も驚いた。
てっきり僕たち四人と先輩たち三人の対戦になると思ってた。
「そだよー。そっちのほうが面白いし。
しーたんたちのチーム訳は後で決めてね。基本2:2ね。
で、場所は迷宮第10階層の
武器の使用は自由。相手を殺さない限りは基本何でもアリ」
「ちょっと待ってくださいっ!」
慌てた様子で三上さんが問う。
「武器の使用って……ドロケイ、ですよね?」
「そそ。リアルケイドロ」
あ、この人意地でもケイドロ押して行く気だ。
「えっと……要するに実戦形式で犯人を追う訓練よ。
一方は危険な時の逃走のための訓練って考えて。
一応安全策としてこれをみんなつけてもらうわ」
栗原先輩が補足説明をしながら僕たちに渡してきたのは頭に輪っかが描かれて翼の生えた羊が空を飛んでいるというシュールな絵の描かれたバッチだった。
「こ、これっ……スケープゴートバッチ……!」
バッチを受け取って三上さんがとんでもなく驚いているが、僕としてはなんと前衛的な絵に興味を惹かれる。
「これ、なに?」
「これはスケープゴート……つまり身代わりだよ。
これをつけている人が攻撃を受けた場合一度だけその攻撃のダメージを防いでくれるアイテムなの。
痣ができる程度の攻撃でも壊れちゃうほど脆いけど、即死するような攻撃も防いでくれる効果があって、消耗アイテムの中ではかなり高価で迷宮最前線の必須アイテムだよ」
「へぇ……見た目の絵の割に凄いんだね」
英里佳は受け取ったバッチを胸のあたりにつけたので、僕もそれを見習って胸のあたりに針で止める。
「スケープゴートバッチが破壊されればその時点で泥棒も警察もペケちゃんね。
ただし泥棒側は戦う前に素早く降参すれば破壊されずに牢屋に行けるし、警察は降参した泥棒を攻撃してはペケちゃんです。だけど泥棒は戦闘の途中で降参するのもペケちゃんだよ」
ペケちゃんって何? 普通に駄目とか反則とかでよくね?
「牢屋に入った泥棒は当然大人しくしてもらうけど、監視役より泥棒の数が多い場合は監視役と戦って脱獄するもオーケー。ただしその場合は監視役も当然攻撃がキャナイデューだよぉ」
……なんか言ったほうがいいのかな?
そう思いながらアース先輩、もとい下村先輩の方を見ると、悟ったような表情で首を横に振られた。
諦めろってことですね。
「またほかの泥棒が牢屋の泥棒を助けた場合、泥棒も警察もお互いに三十秒間は攻撃をしてはナッシング。
そうだね~だいたいね~2時から開始にして、6時まで泥棒がひとりでも逃げきったらウィナー。全員捕まえたら警察が勝って、それで……ああ、どっちかを全滅させても勝ちってことにしよっか。
なんか質問ある?」
全体的にあなたのしゃべり方について僕は問いたいです。
「あの……私たちもチームで別れるということなんですけど……その場合……あの……もしかして勝ったほうが合格で負けた方が不合格……ということでしょうか?」
「ん~……どうしよっか?」
「えぇ……」
質問に質問で返されて苅澤さん困惑してるよ。
というか、たぶんそれ先輩方は誰も答える気はないみたいだ。
三上さんもそれを察したようで特に何も言わない。
「……わかりました。
じゃあ、チーム分けについてですけど……歌丸、榎並、アンタたちはどっちがいい?」
「え?」
唐突な三上さんからの言葉に僕は間の抜けた声を出してしまった。
確かに二人組とは聞いていたけど、そんなにあっさり決めていいの?
「え、じゃないわよ。
アンタたちは二人一組で動くのは実質確定でしょ能力的に」
「あ、そっか、そういえばそうだね」
英里佳はベルセルクだ。
僕の
だから英里佳が存分に力を振るうのなら当然僕が一緒でなければならない。
「じゃあ……英里佳はどっちがいいと思う?」
「泥棒、かな。
その……警察の場合、歌丸くんは……その……すぐにバッチ破壊されそうだし」
「あ、はい」
そうだよね、確かに僕の戦闘能力だとこの場で勝てそうな相手なんて苅澤さんくらいで他の人たちが相手の場合瞬殺確定だった。
だが泥棒なら降参さえすれば復帰の可能性がある。
その時は英里佳から助けてもらえて…………あ、僕完全にこの試験英里佳頼りだ。
「じゃあ、僕たちは泥棒で」
「私と紗々芽が警察ね」
「よっし、それじゃあ張り切って行ってみよっか!」
にこやかな瑠璃先輩。
なんか、試験って聞いたからちょっと緊張してたけど……案外気楽なものなのかもしれないな。
――なんてことを考えていた僕は間抜けだった。
――そんな後悔をするのもこの時点でほんの十分後であることを、この時の僕はまだ知らない。
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