第20話 女におんぶに抱っこ(物理)

適応する人類ホモ・アデクェイション

効果:

スキルツリーダイアグラムの構成が変化し、新しいスキルの習得が可能となる。

変化するスキルについては原則として周囲の自然環境に適応するためのもの、もしくは身近な他者のスキルを模倣、応用したものとなる。


発動条件:4回以上死を覚悟した後に生き残ること。



「どうにも、今日の一連の出来事で発動したみたいです」



内容を読み上げて納得した。


昨日、シャチホコに目を潰された状態のラプトルと相対しなければならなかったときで1回。


今日、ゴブリン相手に喉笛を噛まれそうになって2回。


そして英里佳と共にラプトルから逃げ回っているときに3回と4回


正直、内心で死ぬかもとか漠然と思ってはいた。


この適応する人類ホモ・アデクェイションというスキルはツリーダイアグラムには表示されないタイプみたいだから増えていたことに気づけなかったんだ。



「……そりゃ、ヒューマンのステータスで死を覚悟したら普通に死んでるはずだもんな。


条件がわかっても、こんなの普通に転校勧めるぞ」



まさに苦虫を噛み潰したような、という表現が似合うほどに顔をしかめる武中先生。


そんな表情のまま僕の学生証をフリック操作して……



「……やっぱりな。歌丸喜べ、転職してるぞ」


「え、本当ですか!」


「ほれ」



喜ぶ僕にどこか呆れた様子で学生証を再び見せてくる武中先生。



歌丸連理うたまるれんり

――職業:ヒューマン・ビーイング



「“?”マークがビーイングに変わっただけですよね?」



というかこれ、意味合いそのまま“人間”じゃなかったっけ?



「ああ、スキルと名前が変わった以外は能力値に変化はない。そのままだ」


「結局僕弱いままじゃないですか!」



転職したら強くなるかと思ったのに!



「とにかく、今日はもう帰れ。いいな」



僕に学生証を渡すと、武中先生はそのまま去っていく。



「え、えぇ……っておおう!」


「あ、ごめんね。でも落ちないようにしっかり捕まってて」


「あ……うん、はい」



僕に肩を貸してくれいた英里佳が僕の前に移動したかと思うと軽々と背負う。


もうされるがままで、僕は内心で情けないなと思いつつも黙って頷くのであった。



「きゅきゅきゅ」



僕を背負いながら歩く英里佳より少しだけ前を進むシャチホコ。


そんなシャチホコの姿を見て、僕は先ほどのスキルについて思い出す。



「よくよく考えると、僕たちが生き残れたのってシャチホコのおかげなんだね」


「え? ナビのこと?」


「もちろんそれもあるけど……僕が覚えた共存共栄きょうぞんきょうえいっていう新しいツリーダイアグラムって多分シャチホコの持ってるスキルを模倣したものだと思うんだ。


特性共有ジョイントの効果も、シャチホコの持ってる群体同調フラークシンパシーと似たような効果だし」



異なる点を言えば、僕のは任意で相手を変えられるが、シャチホコのスキルは僕との間だけというところだろう。



「だからシャチホコがいなかったら僕たちは助からなかったんじゃないかって思う」


「……そっか。うん、そうだね。


シャチホコ、ありがとうね」


「きゅ? きゅうきゅきゅきゅきゅう」


「……なんか指? をこすり合わせてない?」


「ああ、これは『礼の気持ちならしっかり物で見せてもらおうか』っていう態度だね」


「わかるの?」


「まだ出会って二日だけど、こいつの思考パターンが読めてきた」



このウサギ、滅茶苦茶物欲が高い。


特に食欲に対してはとんでもなく強いぞ。



「今日は動けないから、明日な。

明日ミニキャロット買ってやるから」


「きゅー、きゅきゅきゅうきゅう!」



僕の言葉にシャチホコは地面で寝っ転がってその小さな手と足をばたつかせて分かりやすい駄々っ子の動作を見せる。


意地でも今日欲しいということだろうか。



「ふふっ……じゃあ、帰りに寄って買おっか?」


「え”……いや、流石にそれは悪いというか、恥ずかし」

「きゅう!」



英里佳の言葉に駄々っ子から素早くその場で跳びあがり、英里佳の脚にスリスリと抱き着くシャチホコ。


テメェ、昨日は英里佳怖がってただろうが。


なんなの? お前の恐怖ってミニキャロットでそんな簡単に取り除けるものなの?



「歌丸くんもそれでいいかな?」



シャチホコにすり寄られ、なんだか嬉しそうにそう語る英里佳に、僕は「ノー」とは言えずただただ黙って頷くのであった。


前線基地ベースのある地下から地上へと出ると、もう結構日が傾いている状況だった。


商業施設の多い西学区なら品揃え豊富なスーパーマーケットがあるらしいが、寮には一応門限があるので、北学区にある小さなスーパーに向かうことを決めた。


ただ、その移動中、電車の中はまだしも駅からスーパーまでの道のりは周りの学生や、少人数ではあるが大人たちの僕を見る目が物凄く恥ずかしかった。


そりゃ、いくら華奢な方とは言え男子が小柄な女子生徒に担がれている光景なんてもう笑いもの同然というか、なんか僕に向けられる目がゲスを見るような感じでいたたまれなかった。



「じゃあ、ちょっとここで待っててね」

「きゅう!」



そんな恥ずかしい思いをしつつ、スーパーの出入り口近くに設置されているベンチで僕は座って待機した。


流石に店の中でも背負われたままというのは堪らない。


シャチホコは自分でミニキャロットを選びたいらしく、英里佳に抱っこされた状態でついて店の中に入っていった。


昨日と違って凄い懐きようだ。



「……いや、もしかして僕のスキルの影響か?」



シャチホコは頭は良いが、あまり理性的な性格ではない。


むしろ本能で動いている感じだ。


英里佳に対して警戒が昨日より格段に下がっているのは、僕の特性共有ジョイントがまだ発動し続けているから、それが間接的にシャチホコとも僕を通じてつながっていることを認識させているのか?


となれば、シャチホコにとって英里佳は敵ではないという認識を持っているということなのだろう。



「まだまだ、このスキルについて考えないとな」



その時だ。



「ん?」



物音がして、突然玉ねぎが僕の足元まで転がってきた。


音がした方を見ると、おそらくそこから転がってきたのだろうと思われる布の買い物袋が地面に落ちていた。


そしてその傍らには人が立っているのが見える。



「あの、これ落としまし、た……って、あれ?」



「嘘……生きてる?」



そこには見知った顔がいた。


というか三上さんだった。



「ああ、三上さんって実は自炊する方なんだね。ちょっと驚いて頭蓋骨が軋むぅぅぅぅぅううううう!!」



何の前触れもなく理由のないアイアンクローが僕を襲う!!!!



「やっぱり本物だ……」



「あ、アイアンクローで確認やめてぇ!」



「あ、ごめん、つい……」



ついって、そんなものの拍子でアイアンクローするものなの?


やっぱり怖い。グンマー怖い。



「で……あんたはどうしてこんなところにいるの?


もしかして……榎並さんは、もう……」


「ああ、それなら今シャチホコと一緒に中で買い物してるよ。


たぶん三上さんとは入れ違いだったんじゃないかな」


「え……生きてたの?」


「うん、生きてる」



僕が頷くと、なぜか三上さんは鬼気迫る表情をして僕に詰め寄ってきた。



「何があったのか、詳しく話しなさい。全部よ」


「うっす」



べ、別に怖くて即答したわけじゃないんだからねっ!



まぁ、どちらにしろ明日教室で会ったら話そうとは思っていたので、僕が二人と別れた後のことをかいつまんで話す。




すると、なぜかまだ話の途中、具体的には僕が隻眼のラプトルを仕留めたあたりで三上さんは僕の隣に座ったまま頭を抱えだす。



「……つまり……なに……歌丸、あんた一人でラプトルを倒したの?」


「うん、まぁ運良くね」


「それ、みんな信じたの?」


「え? あぁ、そういえば英里佳のことしか話さなかったからラプトルのこと説明したのは三上さんが初めてかも」


「はぁ!? なんで話してないの!」


「え、いやだって、僕にとっては大して重要なことじゃなかったし、英里佳のことの方が大事というか……」


「こっちも十分大事なことよっ!


しかも腕食わせて内側から頭潰したとか、馬鹿じゃないの!?」


「あの、でもほら、僕みたいに貧弱だと鱗とか皮はどうやっても貫けないわけで……成功したから超ラッキー、みたいな?」


「結果論でしょ……ちょっと、腕見せなさい」


「あ、うん」



制服には自動修復機能というものがあり、よっぽど酷い損傷でない限り制服だけは地上へ出た瞬間に元に戻る。


だから僕は見た目綺麗な制服の袖をまくって隻眼のラプトルに噛まれた右手を見せた。


そこに痛々しい傷痕があり、こうして肌を晒していると風でみる。



「………………どうやら、嘘じゃないみたいね」



僕の腕の傷を見て三上さんは顔をしかめる。


しかしそれは僕の傷を見て気持ち悪いと感じた様子ではなく、まるで自分を責めているかのようだった。



「触っても、大丈夫?」


「ど、どうぞ」



ゆっくりと、僕にアイアンクローしてきた時とは違ってまるで壊れ物を扱うかのように三上さんは傷痕に触れる。



「う」


「あ、ごめん、痛かった?」


「あ、いや別に。ちょっとくすぐったい感じがして」


「傷口は敏感っていうものね……痛みとか、違和感とかはないの?」


「痛みはないけど、少し動かしづらい感覚があるかな。


でも回復魔法使ってくれた湊先輩って凄く腕の良い人らしくてさ、数日で以前と同じように動かせるんだってさ」


「傷痕は?」


「それはもう一生消えないって怒られちゃった」



僕がそう答えると、三上さんはなぜかとても暗い表情を見せた。



「ごめん」


「え……あの、どうして三上さんが謝るの?」


「私は……歌丸を止められなかった。


あのまま放っておけば、酷い目に遭うのはわかってたし……正直、さっきまであんたはもう死んだんじゃないかって思ってた」


「まぁ、そりゃしかたないというか……」



現に僕自身も死んだって思ったことは何度もあったしね。



「これは僕が決めて僕がやったことの結果だよ。


正直右手が取れるくらいのことはあの時覚悟してたから、こうして腕がつながってるだけでも儲けもんだって思ってる。だから三上さんの責任なんかじゃないよ」


「あんたは良くても…………リーダーとして、私は自分が許せない」



なんというか……僕の周りの人って妙に責任を背負い込むような気がする。


僕が勝手にやったんだから、むしろ「お前何勝手やってんだよっ」って怒鳴られるくらいは覚悟してたんだけどな……



「まぁ、とりあえず話の続きだけど……とりあえず僕の学生証を見てよ」



僕は自分の覚えたスキルの一覧を見せながら、その後に起きたことを三上さんに説明した。



「ちょっといい……さっき言ってたこれなんだけど」



そして話が終わってから、僕の特性共有ジョイント……いや、より正確には共存共栄きょうぞんきょうえいの項目を指さす。



「え、これ?


これは僕の適応する人類ホモ・アデクェイションで新しく発生したスキルツリーダイアグラムだけど」


「これ……ユニークスキルよ」


「ゆにーく? 面白的な?」


「それはユーモアよ。個性的って意味がユニークよ」



し、知ってたし……ちょっと聞き間違えただけだし……!



「スキルはパッシブ、アクティブの二種類で大別されるけど、他にも基本スキル、派生スキル、複合スキルっていう風に三種類にも分けられることがあるの。


基本スキルはあらかじめツリーダイアグラムに表示されているもののこと。


派生スキルは習得したスキルを一定以上熟練した場合、そこからさらにダイアグラムの枝が出てくるもののこと。


複合スキルは二種類以上のスキルの枝が一本につながって新しい枝として伸びていくもののことよ。


そして例外がユニークスキル」



三上さんは僕の学生証の画面を切り替えて、共存共栄きょうぞんきょうえいの一番下、根本のあたりを確認した。



「こんな風に、基本スキルと同じように完全に新しいツリーが発生して、スキル名の前にそのスキルの種類を示す大枠の名前も表示されるの。


職業ジョブによっては複数のツリーはあっても、本来は増えることはない。


けどユニークスキルは職業に関係なく、完全にその人専用で他の誰にも習得できないスキルという扱いになるの。


増える条件は謎が多いけど、歴代だと竜種を討伐し続けて竜殺しドラゴンスレイヤーっていうスキルを習得した生徒がいたらしいわ。


ただしその生徒で最初で最後。同じスキルをその後に得られた者はいない。だからユニークって呼ばれてる」


「へ、へぇ……」


「歌丸、事の重大性……わかってる?」


「うん、僕、凄い。OK?


……あ、嘘ですごめんなさい。だからアイアンクローはもうやめて」


「まったく…………まだ習得してないから奥の方の能力は非表示されてるみたいだけど名前だけ見れば集団で行動するのに適した能力であることは確かね。


これなら大規模戦闘レイドで引く手数多になるのは確定ね」


「れいど?」


「後で話すわ。で、問題なのはこのホモね」



そう言いながら、三上さんは僕の適応する人類ホモ・アデクェイションを指さした。



「ちょっと、言い方」


「長ったらしいのよ。で、とにかくあんたのこのホモが一番問題なの。


さっき言ったように、ユニークスキルはほかの誰にも習得できない。


なのに、この能力の説明文を見たらあんた、ユニークスキルを覚え放題ってことよ。


一生に一つ習得できることもほとんどないユニークスキルをあんた一人で独占って……聞く人が聞いたらブチ切れるわよ」


「そ、そんなに?」


「そんなによ。


しかも仮に環境適応のスキルを覚えた場合、この共存共栄でパーティ全員火山地帯だろうと極寒の中だろうと普通に生きられるってことでしょ。


反則的よ、これ。誰にも見せてないでしょうね?」


「えっと……英里佳と武中先生には見せた、かな」



湊先輩はヒューマンのスキルについては詳しかったけど、こっちの適応する人類ホモ・アデクェイション共存共栄きょぞんきょうえいについては知らないはずだ。



「うぅ……」



なぜかとても憂鬱そうに頭を抱える三上さん。頭痛かな?



「……とんでもない爆弾を抱え込んでしまったわ」


「えっと……どんまい!」


「ぶん殴るわよ」


「ごめんなさい。


でも、そこまで三上さんが気にすることないんじゃない?」


「気にするに決まってるでしょ。もうアンタは私の仲間なんだからリーダーとして仲間を守るのは当然のことなの」


「三上さんっ」


「それにあんたのスキルがあれば私たちの攻略も凄い捗るだろうし」


「三上さん……」



仲間という言葉は感動的であるが、一気に盛り下がっちゃったよ。



「とにかく……あんたはもうそのスキルを見せびらかさないこと。


そうでなくてもスキルって本来は隠すものなのに、なんでそうホイホイ他人に見せるのよあんたは?」


「ま、まぁまぁ。


で、話戻すけど……僕のスキルの効果で英里佳のリスクは解消されたからさ、今後一緒に行動してもいいかな?」


「もうそれしかないでしょ。


アンタのスキルのことが外部に漏れることは防がないといけないし……まぁ、認めるのは癪だけど榎並さんの実力は一年でもトップクラスよ。


攻撃を受けるリスクがないなら、むしろ大歓迎よ」


「よっしゃ」



これで英里佳とも今後一緒に行動できる。


そう思うと自然と、動かすことも億劫だった手で握りこぶしを作っていた。



「……本当にあんたって、榎並さんのこと大好きよね」


「え? そうかな?」


「どう考えてもそうでしょ。


やっぱり好きなの?」



そんな彼女の質問に、僕は少しだけ考えてから首を傾げた。



「よくわかんないや」


「あっそう……とりあえず三日間謹慎の間に私たちでブラックハウンドは倒しておくから、明けたらすぐに五階層だから覚悟しておきなさいよ」



三上さんは僕の隣から立ち上がり、買い物袋を片手に立ち上がる。



「あ、そうだ」



そのまま去るかと思いきや、三上さんは買い物袋から何かを取り出し放り投げてきた。



「おっととぷっ」


「ちょっと、大丈夫?」



受け止めようとは頑張ったが、あまりに手が動かなくて顔に当たった。



「大丈夫大丈夫……えっと…………これは?」



顔に当たって僕の膝に落ちたのはケミカルグリーンなラベルが張られた吸引タイプのゼリーパックだった。


これの普通の「十秒チャージ」ってのなら知ってるけど、こんな薬品みたいな感じのパックは初めて見た。



「青汁グゥレィトゥ・セカンドシーズン、ゼリータイプよ」


「三上さん、こんなの飲んでるの?」



なんか色合いが毒々しくてあまり飲みたくはないんだけど……



「こんなのとは失礼ね。確かに味の癖は強いけど、栄養価が高くて迷宮に長期に潜るときはオススメって言われてる栄養食よ。


今のあんたが動けないのって栄養不足なんだし、それ飲んで消化にいいもの食べて今日はしっかり休みなさい。これリーダー命令よ」



そういって今度こそその場から去っていく三上さん。


その場に残された僕は膝の上に置いてある青汁ゼリーを見た。



「……まぁ、三上さんもこういうの飲んで健康な肉体を手に入れてるんだろうな」


ならば僕も飲んでみよう。


力が満足に入らないからか、かすかに手が震える。


それでもどうにか蓋をパキッと回してみた。



「うっ」



開けた瞬間、ゼリーとは思えないほど強烈な青臭さが周囲に広がって僕は眉間にしわを寄せてしまった。


それでもどうにか両手で口に運び、そっとプラスチック製のチューブに口をつけた。



「歌丸くん、おまた――――って、ちょっと待って!」


「んんっ!?」



その時、丁度買い物を終えた英里佳がやってきて急に大声を出すので、僕は驚いてパックを握る手に力がこもる。



――瞬間


――視界にノイズがはしり、激しい明滅が起こる。



「ごっ、がっ――!?」



意識覚醒アウェアーが断続的に発動し続け、その度に僕は口の中に広がる土、泥、砂、鉄、炭、灰――およそ普段口にはしないような、それで決して食べた覚えはないはずなのに本能が「これはその味だ」と告げる不可解な味覚に頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。



「んんっ……――ゴクンッ」



口に入れたものを吐き出すわけにもいかず、どうにか我慢して飲み込んでみせた。



「だ、大丈夫?」


「はぁ……はぁ……なに、これ?」



僕は手にした青汁ゼリーを見た。


英里佳は僕の手にある青汁ゼリーを見て露骨に顔をしかめた。



「それ……栄養価が凄く高いんだけど、味がひどすぎて誰も買わない健康食品だよ。


ただ、気付け薬としてとか、罰ゲーム目的で買っていく人とかいるけど…………そんなの誰からもらったの?」



「三上さん。さっきまでここにいて……これでも飲んで元気つけろって。


なんか……常用してるみたいな口ぶりだったけど」



僕の言葉に、英里佳がまさにドン引き、って感じに表情を見せた。



「極々稀に、その青汁グゥレィトゥシリーズを買い込む人がいるっていうのは聞いたことあるけど…………三上さんがまさかそういう人だったなんて……」


「リーダー命令で飲めって言われたんだけど……僕はどうしたらいいのかな?」


「捨てる……のはちょっと悪いよね。それ、結構高いんだよね」



「……………………」

「……………………」



「…………………………」

「…………………………」



互いに目くばせをして、一つの思考に至る。



「「シャチホコ」」



「きゅ?」



先ほどから英里佳の足元でポリポリとミニキャロットを食べているシャチホコがそこにいた。



――結果



「きゅぷっふ」



見事完食。



「凄い、こいつ野菜ならなんでもいけるのか?」



今度同じの渡されたらこいつに処理――じゃなくて、あげよう。うん、そうしよう。



「とりあえず……はい、歌丸くん」


「え? あ、普通のゼリー」



英里佳から手渡されたのは、僕でも知ってる「十秒チャージ」のゼリーだった。



「とりあえず少しでも栄養は取った方がいいと思って」


「ありがとう」



その心遣いが心に沁みる。



「それ飲んで少し休んだら帰ろ」


「うん」



帰りも英里佳に背負われていくのだろうかと思うとちょっと憂鬱だけど、まぁ仕方ないか。


そう思いつつ、僕は英里佳に手渡されたゼリーを口に運ぶ。


口いっぱいに広がる甘酸っぱい味わいを楽しみつつ、隣に座って膝の上でシャチホコを抱っこしている英里佳を見た。



「英里佳」


「なに?」



にっこりと僕の方を見て微笑み彼女を見て、僕は今日、無様なりに頑張ったことが間違いじゃなかったんだと実感した。



「これからよろしくね」


「うんっ」



この笑顔には、命を懸ける価値がある。


僕は心からそんなことを考えた。

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