第13話 シャチホコこそが真の地雷だったのだよ!

現在迷宮探索中。


地下二階層で、僕たちは迷宮生物モンスターの群れと遭遇した。



「そっちに一匹流すわよ」


「よ、よし、バッチコーイ!」



前衛は当然、剣を使うことに特化したフェンサーの三上さん。



「歌丸くん、いくよ。筋力強化フィジカルアップ!」



後ろの方で杖を構えていた苅澤さんが魔法を発動させる。


すると僕の視界に赤い光が奔り、体に力がみなぎってくる。



「きゅきゅきゅぅー!」



僕の頭の上に乗っていたシャチホコも僕と同じように強化を施されたようで興奮気味に鳴きだす。


そして槍を構えた僕の眼前に、そいつは現れた。


緑色の皮膚、短い脚に図太い腕、そして猫背でまるでそこだけかなり重そうに見える体に見合わず大きな頭に小さな角。



――ゴブリン



日本風に言えば小鬼とでもいいんだろうが、みんなはそう呼んでいる。


迷宮の上層では大抵出てきており、攻略者のほとんどが最初に遭遇するという迷宮生物だ。


そんなゴブリンが僕の方を見て、口を大きく開けて突進してきた。


正直、滅茶苦茶怖い。怖いけど……!



「ラプトルよりはマシぃ!!」



槍の間合いに入ってきたのに合わせて突きを放つ。



「GUGYAAA!?」



飛びかかってきたゴブリンの肩を僕の槍が抉る。


その時に感じた手の感触が気持ち悪いと感じ、僕は思わず一歩下がってしまった。



「馬鹿、何してんの!」

「あ」



前で戦いながらこちらの様子を見ている三上さんから怒鳴られて僕は自分のミスに気付いた。


踏み込みが十分だったのにそれを駄目にした。


結果、刺さりが甘くなった槍からゴブリンは抜け出して距離を取る。



「SYAAAAAAAAAAAA!!」



肩から赤い血を流し、僕に対して強い殺気を出す。



「血……ゴブリンも赤いんだな」



そんなことを漠然と思いつつ、僕は槍を構える。


しかし向こうは迂闊に飛び込めばまた攻撃されると理解したようで、近くに落ちていた石を投げてきたのだ。



「うわっ!」



結構な勢いで当たったら痛いと避けると、その間にゴブリンが間合いに入ってきた。



「GAAAAA!!」



大口を開き、僕に噛みついてきそうになるゴブリン。


噛みついてくる場所は完全に喉だ。ヤバい、死ぬ!



「きゅううううう!」



その直後、頭の上に乗っていたシャチホコが前に飛び出し、迫るゴブリンの目を狙って蹴っ飛ばす。


蹴られたゴブリンは悲鳴を上げてそのまま地面に、それも僕の目の前に転げ落ちた。



「歌丸!」



三上さんの言葉に、僕はすぐさま反応し、倒れたゴブリンの頭を狙って槍を突き刺した。



そして……



「酷い。弱いじゃなくて、酷いわ」



ゴブリンとの戦闘終了後、三上さんからもらった第一声がこれである。



「まさかゴブリン相手に死にかけるとは思わなかったわ。


そのエンぺラビットの助けなかったから喉笛かみちぎられてたわよ」



「……おっしゃる通りです」



迷宮の通路のど真ん中で正座させられている僕は反論もできずに大人しく反省する。



「シャチホコちゃん凄いね~」


「きゅぅー」



シャチホコは僕の頭から離れ、今は苅澤さんに抱っこされた状態でいる。


どうも、シャチホコとしては自分に補助魔法をかけてくれた苅澤さんは敵ではないという認識でかなりリラックスしている。


その証拠に、抱っこされている状態で当たっている苅澤さんのたわわクッションを堪能しているのだから。おい、変われ(迫真)



「話聞いてるの?」


「……すいません」


「まったく……今時普通の中学でもゴブリンとの戦い方程度は教えてるはずなのに……中学もろくに通わないからこうなるのよ」


「面目次第もございません…………で、でも次は大丈夫! ラプトルの奴より動きも遅いし力も強くないから、次は絶対に一撃で倒すから!」


「当り前よ。次同じミスしたらパーティ解消よ。いいわね」


「うっす!」


「きゅう」



話が終わるとシャチホコがすぐに僕の頭の上に戻ってくる。



「とりあえずあんたの訓練も兼ねて戦闘を重ねながら先に進みましょう。


あんた自身は強くなれなくても、エンぺラビットの能力値はあげられるでしょ」


「あ、うん。さっきシャチホコがゴブリンに攻撃したからポイントも入ってるみたい」



僕はアドバンスカードを取り出して学生所と同じようにフリックで操作する。



「うん、あと少しで攻撃系のスキルを覚えられる」


「そう。じゃあそれを習得したらすぐに討伐クエストよ。並行して採集クエストも進めるから、休めないわよ」



そういって先へ進みだす三上さん。


僕と苅澤さんはそのあとについていく。



「歌丸くん、さっき私歌丸くんに強化かけたとき、シャチホコちゃんにも効果が出てたけど……どうして?」


「ああ、それはシャチホコのスキルだよ。


群体同調フラークシンパシー”っていうパッシブスキルで、自分と行動を共にする存在と自分で強化を共有するものなんだ。


他にもいろいろと役立つスキルも覚えさせてる」



苅澤さんは少々驚いた様子で僕の頭の上のシャチホコを見た。



「シャチホコちゃん、もうスキル覚えてるんだ……」


「やっぱ驚くよね。


実はアドバンスカードを確認したらさ、ポイントの残高が僕の初期保有のポイントを軽く上回ってたんだよね」


「え……どうしてそんなに?」


「多分だけど…………ラプトルリザードの目をシャチホコが潰したから、かな」



生徒やアドバンスカードの契約した迷宮生物が強くなる場合、主に迷宮生物との戦闘ことでポイントが入手できる。


大抵は倒すことが条件だが、相手が自分よりも格上の場合はダメージを与えることでポイントを入手できる場合だってある。


シャチホコは圧倒的なほど格上のラプトルの目を潰したとなれば、入手したポイントが高い。


あとは入手したポイントでツリーダイアグラムから選択して能力値上昇


そしてぶっちゃけ、今のシャチホコの能力値は全部僕と同等か、上回られてしまった。



「苅澤さんの補助も凄いよね。


普段の僕なら、ゴブリンにあそこまで槍を深くさせないよきっと」



「そっか、役立ってよかった。


私が今覚えられるのって筋力強化フィジカルアップだけでね、エンチャンターとしてはこれってハズレスキルなんだって」


「え、なんで? すごく便利なのに……」


「確かに普段後衛の人とか、前で戦わない人には重宝されるんだけど……昨日詩織ちゃんに施したら『戦いづらい』って言われちゃったの。


訓練を積んだ人の場合、身体能力が急に変わると返って戦い辛いんだって。


だからエンチャンターとして欲しい魔法は武器を強化したり制服の防御機能を強化する魔法がいいんだけど、私のダイアグラムの構成だとまだ覚えられなくて」


「へぇ……結構大変なんだね」


「そうでもないけど…………うん、でも歌丸くんが一緒のおかげで私の魔法もちゃんと役に立てるんだってわかって、なんだか嬉しいな」



そういって微笑む苅澤さん。


その表情にちょっとドキッとした。


……いやぁ、本当にすごい幸運だよ。


こんなかわいい子と仲良くなれて一緒のパーティに入れるなんて、本当に僕はついている。



「こら、無駄口叩かない。


ここは迷宮よ、油断してると大怪我するわよ」


「あ、ごめんね詩織ちゃん」



三上さんに睨まれて背筋がピンと伸びる。


同時に僕はその言葉でふとあることを想いだす。



「シャチホコ、お前このあたりで“万能草ばんのうそう”が生えてる場所ってわかるか?」

「きゅ?」



僕たちが今受けている採集クエストは「万能草を500g以上の納品」である。


万能草というのは文字だけ見ると薬草の進化形みたいに思えるかもしれないが、これは食材である。


名前の由来となるのは、この万能草はあらゆる植物のあらゆる栄養成分を豊富にもっているからだ。



健康なんて万能草食ってれば事足りる。



最近の世界の共通認識がこれである。


もっともその味は苦くて酸っぱくて辛くて最後に甘いという無茶苦茶なもので、好んで食べるものは少なく、乾燥させて少量を振りかけたりカレーに混ぜたり、もう調味料に近い扱いだ。


それでも健康食品ということで需要が高く、最近だと漢方やサプリとしても注目を集めているのでいくらでも採集を求められる。



「どうしてそんなことエンぺラビットに聞くのよ?」



僕を若干呆れた様子で見ている三上さん。



「まぁいいから見ててよ。


えっと……シャチホコ、ほら、この草」



学生証を操作する。学生証には辞典機能もあり、その中に万能草は写真付きで紹介されている。


僕はその写真をシャチホコに見せた。



「きゅきゅ」



写真を確認するとシャチホコは僕の頭から降りてピョコピョコとペンギンみたいに歩き出して僕たちよりも前を行く。



「ついていってみよう」


「……まぁ、物は試しよね」


「シャチホコちゃん、歩き方可愛いね」



シャチホコの後についていって先に進んでいく。


歩き方がなんとも間抜けに見えるが、以外と動きが早いな。


シャチホコは一応僕のテイムした迷宮生物ということで、僕は自然と先ほどよりも前の立ち位置で歩き、なんとなく三上さんと隣になった。


そこで僕は今が一番のチャンスだと思って話を切り出す。



「三上さん、ちょっといい?」


「何?」



足を止めて、僕の方を向いてくれた三上さんに、僕は深々と頭を下げた。



「その……遅くなったけど、今朝は叩いてごめん」



「っ…………それは……」



なんだか息を詰まらせるみたいな声が聞こえた気がしたが、頭を下げている状態の僕は今彼女がどんな表情をしているのかわからなかった。



「その……………………べ、別にいいわよ。

あんたのへなちょこビンタなんてまったく痛くないし、特別に許してあげるわ」



「本当? あー、よかったぁ」



僕は頭をあげる。胸のつっかえが一つ消えて心から安堵をこぼす。



「もう許してもらえないんじゃないかって今日ずっと気が気じゃなかったんだ」


「……ふん、大袈裟すぎよ。


ほら、エンぺラビット見失うわよ」


「そうだね、早く先に進もう」





本気で安堵していながら呑気に歩いている歌丸。


そんな彼の背中を見ていて、三上詩織は自分がいつの間にか歩調を少し落としていたのだと気づいた。



「詩織ちゃん、謝らなくていいの?」


「……私が何を謝るっていうのよ?」


「そうだね。謝る相手、どっちかっていうと榎並さんだもんね」


「…………」



苅澤紗々芽の言葉に顔をしかめつつも反論はしなかった。



「私は………………間違ったこと、言ってない」


「詩織ちゃん……」


「紗々芽は、余計な気とか遣わなくていいから。次に変なこと言ったら、絶交なんだからね」



そういって、歩調を早めて前へと歩き出す詩織。


そんな様子に紗々芽は小さくため息をついた。



「昔っから本当に頑固なんだから……」



詩織は本当はかなり落ち込んでいることなど幼馴染である紗々芽にはすぐにわかったのだが、付き合いの浅い歌丸はそれがわからない。



「ふんふふんふふーん♪」



むしろ、先ほどのやり取りで許してもらえたと素直に喜んで鼻歌まで歌っていた。



「……歌丸くんの半分……ううん、数パーセントでも素直さを詩織ちゃんが持ってたらなぁ」



人間関係に問題を拗らせ気味の幼馴染に、静かに心を痛める紗々芽であった。





「万能草獲ったどー!」

「きゅっきゅきゅー!」



シャチホコに案内されたのはもう視界いっぱいに生える万能草の群生地。


人が滅多に入ってこない感じで、もしかしたらここに来た攻略者って僕たちがはじめてなのではないだろうか。



「本当に……ついた」


「これ……全部もってけば追加報酬とか貰えるのかな……」



唖然とする三上さんと苅澤さんをよそに、僕は学生証の機能の一つである“アイテムストレージ”から、配給された麻袋を取り出してそこに万能草を積んでどんどん入れていく。



「ふははははははは! シャチホコ喜べ、今日はお前に高級サラダ食わせてやるぞ!」


「きゅきゅう!」


「更に奮発して温野菜追加だ!」


「きゅきゅー!!」



大興奮という様子でその場で元気に飛び跳ねるシャチホコ。


安い(確信)



「今日は何食べよっかなー! ラーメン、焼肉、寿司、天ぷらとかもいいなー!」



これだけあれば今日の夕食とかかなり豪勢にできるぞ。



「あの、歌丸くん。どうしてシャチホコちゃんがここ知ってるってわかったの?」


「え? あー、それは僕じゃなくて英里佳が気づいたんだよ。


エンぺラビットってすぐ逃げるけど迷宮の中にどこにでも現れるから、きっと迷宮全体を把握してるからナビとして役立つって」



万能草を摘み取りながら答えると、質問してきた苅澤さんが恐る恐るという様子で三上さんの方を見た。



「…………そ、それって……かなりすごい、よね?」


「凄いどころか、もう……それ……誰もが欲しがるわよ、エンぺラビット。


迷宮は時間経過で内部が変化してる。


少なくとも、昨日とはこの階層だって地形が変化しているのに、エンぺラビットは迷わずここにたどり着いた。


ってことはよ……その子は迷宮の変化のパターンを知っている……もしくは変化した迷宮の内部の状況を読み取る能力を持っているってことよ」


「へぇー、凄いね。とりあえず採集クエストを優先し「状況を把握しなさいよこの馬鹿っ!!」ふぁっ!?」



至近距離で怒鳴れてしまい変な声が出た。


先ほどまで元気よく飛び跳ねていたシャチホコも驚いて硬直してしまう。



「もしその子のナビゲーションの能力が本物なら、アンタ冗談抜きで命狙われるわよ!」


「なんで?」



普通に尋ねると、なんだか三上さんは頭を抱えた。


どうしたんだろう、頭痛だろうか?



「いい、迷宮攻略は北学区の学生にとっての共通目的! 迷宮の奥にはまだ人類未踏の未知の技術やエネルギーが眠っているの!


それが手に入らないのはなんで!!」


「遠いから?」


「わざと? わざと言っているのかしら?」



あっれぇ? 笑顔なのになんだか怖いぞ。


プレッシャーが半端じゃない。



「迷宮は文字通りところなの!

迷宮生物の強さはこっちも対応できるけど、その内部の複雑さに多くの学生たちが苦しめられてるの!

間違った道に進んで遭難したり、トラップで命を落とす学生が毎年、何百何千といるのよ!


その状況でナビの能力がばれたらどうなると思うの!」


「喜ばれる」


「……紗々芽、なんで私を後ろから羽交い絞めするのかしら?」

「詩織ちゃん、堪えて! わざとじゃないよ、ただちょっと天然なだけだよ!」



二人して急に体を寄せ合うとか、女子ってスキンシップ多いって聞くけど本当なんだな。


しかし、なんで三上さんはそんな拳が白くなるほど手を強く握りしめているのだろうか?



「ふぅー、ふぅー」


「詩織ちゃん、落ち着いた?」


「……ええ、もう大丈夫よ。


いい、もしよ、もしその子のナビゲーションでそれらを回避できるとしたら、あんたはその弱さで上級生に迷宮の奥に連れていかれて危険な目に遭うのよ!」


「え、迷宮の奥に行けるの! よし、望むとこ」



ビュン、という風切り音が聞こえたかと思えば、三上さんの拳が僕の頬をかすめたのだと数秒後に気づく。



「そんなに死にたいの、アンタ?」


「なんかごめんなさい。


よくわからないけどとにかく許してくださいお願いします。」



理由はさっぱりわからなくて理不尽な気もするが、ここはとにかく謝るべきだと僕の第六感が告げている。


まったくさっぱりこれっぽっちも全然三上さんの怒っている理由は見当もつかないけど、とにかく謝る。



「はぁ……いい、よく聞きなさい」


「うっす」

「きゅっす」



自然と僕はその場で姿勢を正して正座しており、隣で律儀にシャチホコも正座していた。というかできたんだな、骨格的に無理っぽくね?



「迷宮の奥に行くほど迷いやすくてトラップもえぐいんだから誰だってナビが欲しい。


だけど迷宮生物も弱いわけじゃないとくれば、アンタは確実に足手纏いになる。


そんなの抱えたまま攻略を続けようなんて、よっぽどのお人よしの馬鹿だけよ。


アンタ弱いんだから、最悪の場合事故に見せかけてそのまま迷宮で殺されてアドバンスカード奪われる危険性があるのよ。


ちょっと考えればわかるでしょ!」


「な、なるほど」

「き、きゅうきゅ」


「歌丸くん……」



傍目で見ていた苅澤さんも呆れ気味だ。



「アンタが危機感なさすぎるのよ……まったくそんなんで迷宮攻略やっていけないわよ」



「そうだね。うん、気を付けるよ。


あの、三上さん」


「なによ?」


「ありがとね」


「なんで礼を言うのよ?」


「だって僕のことを心配してくれたんでしょ?


ちょっと怖かったけどさ、嬉しかった」



素直に感謝の気持ちを伝えると、三上さんは顔を真っ赤にして声を荒げる。



「なっ、いや――ちが……ば、バッカじゃないよ!


自意識過剰も大概にしなさい!」



あれ、もしかして違った?やばい、恥ずかしい。


というか、顔を真っ赤にするほど怒鳴るとか尋常じゃないよ。すぐに話題を変えないと!!



「ま、まぁ、とりあえずシャチホコのナビについては保留でいいんじゃないかな?


まだ確証はないし、ナビできるところも実は少ないかもしれないしね」



とりあえず話題を変えようとそんなことを言うと、向こうもそれに乗っかるように頷いてくれた。



「こほんっ……そ、そうね。


どっちみち確認できないんじゃ意味もないわよね。一応言っとくけど……“歌丸”も黙ってなさいよ」



あ、ようやく「アンタ」じゃなくて名前で呼んでくれた。



「わかった、気を付けるよ」


「……さ、それじゃ万能草を集めるわよ。


さっさと終わらせて迷宮生物倒して強くなって、今日中にでも討伐クエストを達成するわよ」



そういいながら袖をまくって三上さんも万能草の採取作業を始める。


そして彼女が背中を向けている間に、苅澤さんがこちらにやって来た。



「歌丸くん、ちょっといい?」


「え、いやまぁいいけど、なに?」



ちょ、近い。苅澤さん近い。



「ありがとね」



ひゃん。


ヤバい、変な声出そうになった。耳元でのささやきヤバい。


なんかザワザワするんですけどぉ~!



「詩織ちゃんってよく怒ってばっかりでみんな離れて行っちゃうんだけど、本当はすっごく優しいんだよ。


本人は親切のつもりで言ったんだろうけど、気持ちがこもり過ぎてついつい怒鳴っちゃうみたいなの」



み、耳が幸せとはこのことか!



「だからそのまま誤解されちゃうんだけど……歌丸くん、その辺りちゃんと分かっててくれてよかった。


本当にいい子だから、仲良くしてあげてね」



「う、うん」



あれ、なんか耳が幸せ過ぎて内容良く覚えてないけど……まぁいっか!


それに僕が頷くと苅澤さん満足げだったし、とりあえず良しとしよう。



――GRRRRRRRRRRRRRRRR!!



「「「っ!!」」」



僕たちは突如として鳴り響いた音に驚く。


何だと思っていると、周囲を見回すが、音源が見つからない。



「なにこれ?」



「緊急警報……ね。


異常事態が起きたときに迷宮全体に鳴り響くって聞くわ」



【あーあ……緊急事態の発生でーす】



「緊急報せる声がダルそうだ!」



【地下三階層にて、ラプトルリザードの群れ出現しましたー。


新入生の討伐クエストは中止としますのでー、新入生の皆さんは前線基地ベースに戻ってきてくださいねー。死にますよー、ガチでー。


繰り返し…………は、いっかまぁ。以上、緊急連絡でしたー】



なんかお昼の放送みたいなんだけど……いや、凄く適当過ぎてお昼の放送以下だコレ。



「紗々芽、歌丸。急いで戻るわよ」


「うん」


「了解」



幸い、もう万能草は目標分くらいは手に入ったし、今日のところはこれで大人しく帰るとしよう。


僕たちがいるのはまだ地下二階層だし、問題はない。




――そう、問題はなかった。


だけど問題はもう別のところで起きていたことを、僕は前線基地に戻ってから知ることになる。

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