第4話 はじめてのもんすた~ 迷宮学応用編 

早速迷宮に入り、最初に僕の目に入ったのは英里佳えりかの変化だった。



「あ、あれ? なんか制服変えた? 早着替え?」



転送魔法陣によって迷宮に入った瞬間、英里佳の格好が変化したのだ。


具体的には、制服の一部、肩とか胸あたりに金属製の装備が付けられ、靴とかも頑丈そうなものに変わっているのだ。


そしてスカートの下からスパッツらしき黒い生地も見える。……残念とか全然思ってないから。



「迷宮に入る時にその人の適性に合わせて制服が自動で装備を変えてくれる仕様なんだって。


歌丸くんは適性がまだないからそのままみたいだけど」



防御力が高まった感じの英里佳と違って僕の装備は下が制服のズボンで上がジャージのまま。



「へぇ……これも魔法ってやつなのかな。すごいな」



僕がその恩恵を受けられないのは不満だが、これは適正が変わると衣装も変わるのかと思うと楽しみだ。


まぁそんなわけで迷宮の奥を進んでいく。


雰囲気はレンガが積み上げられたような通路が広がっている。


確かここって地下のはずなのだが、天井が妙に明るい。



「へぇ……天井自体が光ってるんだ」



キョロキョロと迷宮の構造を見回しながら歩いていく。


平坦な道ばかりでもなく、足場が結構ボコボコしていて歩きにくい。



「ほぉ~……おぉ、危ない危ない」



うっかりすると転びそうになるが、先行している英里佳もゆっくり歩いてくれているから焦らず進める。



「なんか、歌丸くん楽しそうだね」



不意に、前に進んでいた英里佳がそんなことを言い出す。



「うん、楽しいよ」



「歩いてるだけなのに?」



「そうだけどさ、なんか楽しくない?」



そういうと、英里佳は唖然とした顔でこちらを見る。



「あれ? なんか僕、変なこと言った?」



「……うん、かなり変かも」



なんかショック。


何がショックって、英里佳にその反応されるのがショック。



「いやでもさ、僕からしたら英里佳の方がよっぽど変だよ」



「わ、私が?」



僕の言葉にかなり焦った様子を見せる英里佳。



「だって、教室の自己紹介の時と全然キャラ違うじゃん」



「そうかな……私はそんなつもりないんだけど……」



「いやいや全然違うよ。


自己紹介の時は『近寄れば切る』みたいな感じだったし」



「そんなことないよっ!」



「いやあったあった。めっちゃ怖かった」



「うぅ……」



その恐怖のあまりに吐いた僕の証言の前には認めざるを得ないだろう。


なんか落ち込んだ様子で俯いてしまった。



「本当は、もっと普通に自己紹介するつもりだったんだよ私も……でも…………」



「でも?」



「…………ううん、なんでもない。先に進もう」



英里佳は再び歩き出す。


今、雰囲気が自己紹介の時――具体的には学長と話してた時と近いものに変わっていた。


なにか、彼女には彼女なりに確執があるようだ。


まぁ、今日組むだけの僕がそんな踏み込んだこと訊くべきじゃないか……



「止まって」



「どったの?」



しばらく進んでいたところで急に英里佳は歩みを止め、左にナイフを出して構えた。



迷宮生物モンスターがいる」



「まじで?」



僕は槍を構えて英里佳が見ている方向を睨む。


そちらは突き当りで、右側に道が続いており、その先から何か妙な音が聞こえた。



「きゅー」



奇妙な鳴き声とともに、ピョコピョコと妙な足音が聞こえてくる。


ゴクリと、緊張で思わず僕は唾を飲み込む。


そして、は姿を現す。



「きゅきゅ?」



「なにこれ可愛い」



パッと見はウサギっぽい長い耳、二足歩行。前足……というか手はちっちゃいがしっかり五本指揃っていて、反対に後ろ足は二足歩行を可能にするために結構大きい。


だが全体が猫程度のサイズで、歩き方がなんかペンギンっぽい。全体がモフモフの毛におおわれているのもかなりいい。



「エンぺラビット……珍しい」



「え? そんな名前なの?」



「みんなはそう呼んでるみたい。


普段は皇帝ペンギンみたいな歩き方で、見た目がウサギみたいだからそう呼んでるんだって。


逃げ足がすっごく早くて、倒すのが難しいらしいの。


でも基本的に人を襲ってこないし……無視して先に進んだ方がいいかも。


別に倒しても強くなれるわけでも珍しい素材が手に入るわけでもないし」



「ふむ……旨みのないメタル系のモンスターってことか……じゃあ進もう」



正直こんなかわいい生物を倒すとか言われたら僕もどうしようかと思った。


あんまり動物を触ったこともないけど、あんなモフモフな生物を倒すなんてもったいない。



「きゅぅ……!」



こちらが前に進もうとすると、英里佳さんの存在にビビったように物陰に隠れようとするエンぺラビット。


だが頭かくして尻隠さずという具合で丸見えだ。


こんなんで本当に逃げ足速いのかと内心思いつつ、僕たちはその横を素通りしぺっ!?



「きゅふんっ!」

「ぐはぁ!?」



唐突な横からの衝撃と顔の痛みでその場で転倒してしまう。



「え、ええぇっ!?」



前に進んでいた英里佳が信じられないものを見たかのようなリアクションを取った。



「い、痛い……!


ちょっと英里佳! こいつ襲ってこないんじゃなかったの!?


今めっちゃ攻撃されたんですけどぉ!!」



「そ、そう聞いてるはずだけど……いやでも、本当にエンぺラビットから仕掛けてきた記録なんて一度も……!」



慌てふためく英里佳をよそに、僕は槍を杖代わりにして立ち上がってエンぺラビットを睨む。



「きゅきゅきゅっ、きゅぅ~」



シュッシュッと、その小さな手でシャドーボクシングをしながら好戦的に僕を見ている。



「お前手じゃなくて足で蹴ってただろうが……」



あの小さい手には肉球なんてものはないが、先ほど蹴られる瞬間に弾力があった。


ということはこいつは横から僕を蹴ってきたということで間違いないのだが、なぜシャドーボクシング?



「とりあえず撃退を」「待った」



英里佳が前に出そうになったのを僕は止めて槍を構える。



「こいつは僕が倒す」



「えぇ……」



なんか心配そうに声をあげる英里佳だが、ここで逃げたら男が廃る。



「大丈夫、さっきは不意打ちだったけどこいつのへなちょこな攻撃なんて全然「きゅうっ!」きばふんっ!!」

「歌丸くんっ!?」



こ、こいつ……人が話しているところに……!



「きゅ、きゅきゅきゅぅ、きゅぅん?」



「よそ見とは余裕だなボーイ」と不敵に笑うエンぺラビット。

いや、言ってることも表情も全然わからないけどニュアンス的にそんな感じだった。



「ふっ……ふふふふ……こんな屈辱は、生まれて9度目だ」


「結構経験してるんだね……」


「ちなみに8度目は自己紹介の時です」


「あぁ……」



なんか納得したように遠い眼をする英里佳。


今はそれを無視して僕は槍をエンぺラビットに向けて放つ。



「えいっ!」



突く、というよりはただ前に出しただけの感じだったが、当たればこんな小さい生物くらい簡単に倒せる。


そう思った直後、僕の視界からエンぺラビットが姿を消した。



「な、なにぃ!?」



気が付いた時には僕の懐に飛び込んできたエンぺラビットは、その全身を使っての体当たりを僕の腹に叩きこげふぅ!!



「がっ、は……だがぁ!」「きゅっ!?」



懐に飛び込んできたのをいいことに、僕はがっしりとエンぺラビットを両手でホールドして捕まえた。



「ふはははは! 驕ったなエンぺラビット!


お前の瞬発力は確かに見事なものだが、筋力はそれほどでもない!


こうなってしまえば逃げられまいっ!」



「きゅ――きゅきゅぅ……!」



ホールドから抜け出そうと必死にもがくエンぺラビットだが、こいつやっぱり筋力はそれほどでもなく完全に僕の手中だ。



「くくくっ……愚かなウサギよのぉ。


あのまま隅でガタガタと震えていれば見逃してやったというのになぁ……」



「歌丸くん、なんかセリフ回しが悪役みたいになってるよ?」



英里佳からのツッコミについてはスルーの方向で、槍を短く逆手に持ち替える。



「今宵の虎徹コテツは血に飢えておる」



「虎徹ちがうよ、槍だよそれ」



「さぁ死ぬがよい」



ぶすりと、後は手を少し動かすだけでエンぺラビットを仕留められる。


だが……しかし……けれども……!!



「きゅぅ……」



「ぐっ……!」



こいつ……! 先ほどまであんな好戦的だったくせになんだ、この目は!


赤くて小さなクリクリとした目を潤ませてこちらを見上げてくるエンぺラビット。


猫くらいの小さな体と、モフモフの毛、そしてあったかな体温が今ここに命を抱いているのだと実感させる。



「……はぁ」



僕は脱力し、腕の力を緩めてエンぺラビットを解放した。



「歌丸くん?」



僕の行動に英里佳が驚いた様子だ。


僕の意見を尊重してくれた彼女には、なんというか……申し訳ない。



「ごめん……流石にこんな生き物を殺すのは抵抗あるし……トラウマなりそう。


もっと殺しても抵抗ない感じのやつで慣れたいかも……」



自分でもなんとも情けないと思う。


こんな調子で、自分はこの先もこの迷宮学園でやっていけるのかと不安になってしまう。



「……そっか。


まぁ、しかたないよ今日が初めてなんだし。そういうの自己分析できるだけ立派だと思う」



「ホントごめん」



気を遣われているのを実感するだけに自分の情けなさと彼女に対する申し訳なさが増大した。



「……きゅ?」



英里佳と話してるうちにもう逃げ出したのかと思ったのだが、そこにはまだエンぺラビットが残っていた。



「ほら、しっしっ……もう襲って来るなよ」



「…………きゅっ」



エンぺラビットはその場からこちらに背を向けて、本当にペンギンみたいな歩き方でピョコピョコと間の抜けた音を出しながら離れていく。



「きゅう」



「さっさと行け」



何度か振り返ったエンぺラビットがその姿を見せなくなったのを確認して僕は槍を持ち直す。



「じゃあ先に急ごうか」



「そうだね」



再び迷宮の攻略を開始する。



「そういえば今日ってこの迷宮のどこまで行けばいいの?」



「えっと……攻略の前線基地の本拠地ベースが今日の目的地。


広場の各所にある階段は基本的にそこにつながってるの。


本来の攻略とは逆で、今日は地上を目指すのが目的なの。


そこに行けば適正を職業ジョブに変化できるの」



――ピョコピョコ



「英里佳ってもうベルセルクだよね?」



「適性はベルセルクだけど、正確にはまだ違うの。


今の私は適性がベルセルクなだけの“ノービス”


歌丸くんも、適正がないから制服に変化はないけど今の職業はノービスで固定されてるはずだよ」



――ピョコピョコ



「ノービス……初心者って意味だっけ。へぇ……つまり今日は転職イベントってことか」



「転職イベント?」



「パソコンとかでやるオンラインのゲームだと職業が選べてさ、今のこういうイベントをこなして職業を決めたりするんだ。


なんかこの学園、ゲームをもとに決めてる感じがあるよね」



――ピョコピョコピョコ



「……そうなんだ」



「うん。それにしても職業か……適性ない状態だと僕ノービスで固定されんのかなぁ……やだなぁ。


実質無職じゃん。引きこもりからニートとかヤダなぁ……駄目な大人の典型じゃん」



――ピョコピョコピョコピョコ



「…………歌丸くん」



「うん、わかってる」



流石にもう無視するのは限界になって振り返る。



「きゅっ!?」



振り返るとそこにいたのはさきほど見逃したエンぺラビットだったが、こちらに姿を見られると驚いてまさに目にもとまらぬ速さで物陰に隠れるが、そこは頭かくして尻隠さず。


どこにいるのかまるわかりだ。



「おい、何の用だ?


さっき見逃してやったのにまだ仕掛けてくる気か。


次は見逃さないぞ……英里佳が!」



「私なの?」



「先生、お願いします」



「えぇ……」



次は捕まえられずにフルボッコにされる自分の未来が見えたので、ここはおとなしく強い人に任せよう。


男が廃る? 僕の座右の銘は“いのちをだいじに”だ。



「きゅ!? きゅきゅきゅうんっ!」



しかし、予想に反してエンぺラビットが首を必死に横に振ってその小さな手で万歳した。



「……これは、不思議な踊り?」



「たぶん降伏の意味だと思うけど……もしかしてテイムできたのかな?」



「テイムって…………あれでしょ、ゲームだとモンスターを捕獲するとかいう」



「うん、それ。


“テイマー”っていう職業の人がいて、主に迷宮の動物を食料に使えるかもってことで南学区の方に連れ帰っている人がいるの。


だから南学区の学生が積極的にその職業を目指すんだけど……それ以外、それもノービスがテイムした例は初耳」



「いや、でもテイムしたわけじゃないかもしれないし」



「とりあえず呼んでみたら?


それに従ったならテイムしたってことだし」



「わかった。


すぅ……Hey Come on」



「なんでネイティブ発音?」



僕がエンぺラビットを呼ぶと、そいつはピョコピョコと僕の足元までやってきて飛び跳ねた。



「おっと」



咄嗟に受け止め、結果的に抱っこした形で落ち着く。



「やっぱりテイムしたみたいだね」



「そうだけど…………こいつ強くないよね?」



「うん、素早さだけならほとんどの迷宮生物の頂点に立つけど、他は最弱」



「クーリングオフって可能かな?」



「きゅっ!?」



「え、捨てられるの!?」みたいなリアクションを取るエンぺラビットだが、そもそも僕はお前を捕まえた覚えはない。



「できなくはないけど……そのままでもいいんじゃない?


エンぺラビットをテイムしたって前例もないし、凄い事だよきっと」



「すごいのかなぁ……まぁ」



僕はモフモフのエンぺラビットの頭と背中を撫でる。



「きゅぅ~」



気持ちよさげに鳴くエンぺラビットを見て心が癒される。



「ペットとしてならこいつは欲しいかも」



「……私も、その……触っていいかな?」



羨ましそうにそんなことをいう英里佳。


やっぱり彼女も女の子らしくこういう小動物が大好きだったらしい。


そんな彼女に胸が高鳴ったことは内緒。



「いいよ」



僕がそういうと、英里佳はパッと笑顔になって恐る恐るとエンぺラビットに手を伸ばすが……



「かっ!!」



エンぺラビットは唐突に顔を強張らせ、その口に生えた長くて鋭い前歯を見せる。


どう見ても威嚇ですね。わかります。



「…………」



手を伸ばす直前の姿勢で固まった英里佳。


心なしか、ちょっと目が潤んでる。



「…………そ、そうだよね……これが普通……うん、普通だもん」



あ、「もん」可愛い。


って、そんなこと考えてる場合じゃない。



「こ、こらお前、英里佳に威嚇なんかするな」



「きゅ?」



「なんでなん?」っとクリクリした目でこちらを見上げてくるエンぺラビット。



「い、いいの歌丸くん。


そもそもエンぺラビットって本来は人一倍臆病な迷宮生物なんだもん、それが普通だよ」



「え、ちょっと待って。その臆病なこいつに襲われた僕ってなんなの?」



「えっと……それは…………なんでだろうね?」



可愛い笑顔でコテンと小首をかしげるのくっそ可愛いけどさ、完全に誤魔化してるよね。


確実に察してるよね、その理由。



「さぁ、気を取り直して先に進もっか」



一連の流れをなかったことにするかのように前へと進みだす英里佳。


しかたなく僕もそれについていくが、歩きながら気づく。



「ほれ、お前も降りろ。


お前抱いたままじゃ槍が使えないだろ」



まぁ、まともに使えるかどうかは別としてだけど……



「きゅっ」



「どわわ、っておいこら」



エンぺラビットは僕の腕から飛び跳ねたかと思えば、あろうことか僕の頭の上に乗った。


そしてそのまま降りてなるものかと後ろ足と前足で固定される。



「ふふ……似合ってるよ」



「勘弁してよ……こら、降りろ」



「きゅー、きゅん」



「えー、やだぁ」って感じの声がしたが、おそらく顔を背けたりしたのだろう。


頭の上にいて見えないけど。



「そういえばその子、なんて名前にするの?」



「名前? エンぺラビットでしょ」



「そうじゃなくて、その子自身の名前。


エンぺラビットはあくまでも通称だし、これから一緒に行動するんなら名前つけないと。


テイマーはそうするものだよ」



「ふむむ」



別にテイマーになりたいわけでもないし、出来れば普通の前衛職を目指したかったが……まぁ、こいつをペットとして飼うのならそれでもいいのかもしれないな。



「よし、お前の名前はシャチホコだ」


「え……なんでシャチホコ? それってあれだよね、日本のお城の上にある飾りの」


「うん、なんとなくニュアンスで。


どうだシャチホコ?」


「きゅう!」



どうやら気に入ったみたいだ。



「よしお前の名前は今日からシャチホコで決定な」


「きゅっ!」


「もしもの時は囮たのんだぞ」


「きゅぅ!?」


「テイマーとしては間違ってはない判断だけど……容赦ないね歌丸くん」



などと会話を交わしつつ、迷宮を進んでいく。


しかし、途中から道が分岐しているようで、どっちに進んだらいいのか悩む。



「うーん……どっちが正解なのか進んでみないとやっぱりわかんないのかな」



「かといって、迂闊に進むのも危険なんだよね。


迷宮で迷って数日くらい出られなくなるってことはザラにあるし、そのまま行方不明になったって前例もあるから」



「こわっ! 迷宮こわっ!」



さすが宮というだけはあるな……ここで迷子、というか遭難したらそりゃ大変だ。


うん、そうだよな、何も危険は迷宮生物だけじゃないんだ。


この迷宮そのものも学生たちにとっては立派な危険物。それを忘れてはいけない。



「今日のところは死ぬ危険はないだろうけど……でもここで判断を誤るようならこの先の迷宮攻略はやっていけないかな」



そういいながら真剣な眼差しで周囲を確認し始める英里佳。


どちらに進むのが正解なのか探っているようだ。



「……右、かな」



ぼそりと呟くと、英里佳がこちらを見た。



「どうしてわかるの?」



「あ、うん……足跡とかそういうのは多分先輩たちが消してるから無駄だと思って、だけど迷宮生物と戦闘したならそのみたいなものがあると思うんだ。


それで、右の方が手の届かない天井あたりに焦げ目みたいなのが残ってるみたいなんだよね」



僕の言葉を聞いて英里佳も天井の方を見た。



「……本当だ。よくわかったね」



「うん、右の方を意識したら見つけた、こいつのおかげだけどさ」



僕は頭の上のシャチホコを指し示す。



「どうしてシャチホコのおかげなの?」



「あ~、いや……大したことじゃないんだけど……よく見てて」



まず、僕はシャチホコを落とさないように頭を左側に向けた。


当然、何も起きない。


次は顔を右に向けると……



「…………きゅきゅぅ(ぷるぷるぷる)」



微かだが、シャチホコが頭の上で震えだしたのだ。



「……これは……つまり……」



シャチホコの様子を見て英里佳も気づいたらしい。



「右の道のむこうにこいつが嫌がるやつ……他の学生が多くいるってことじゃないかな」



英里佳はシャチホコを見て納得する。



「なるほど……そっか、エンぺラビットは迷宮のいろんな場所で出現するし、私たち以上に迷宮に詳しいからどこに人間が集まるのか理解してるんだ」



つまり、僕は期せずして迷宮における優秀なナビゲーションを入手したということになる。


戦闘力は皆無に等しいが、これは迷宮攻略が捗るわ~



「でかしたシャチホコ。今度ウサギ肉食わしてやる」


「きゅうっ!?」


「せめてそこはニンジンにしてあげて、可哀想」


「ジョーダン、ジョーダン」



そんなこんなで、僕たちは迷宮攻略をつづけるのであった。

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