006 アルベドの羽根
更に四時間ほど同じ画面を操作すると明るくなってきた気がした。
暗い世界に薄っすらと青みが差してくる。
厚い雲に覆われた自分達の世界ではお目にかかれない現象だ。
世界の美しさは壊してはいけない、と自然とそう思ってしまう。いや、思わせるだけの価値が目の前の画面には広がっている。
時間を確認しつつ他のメンバーに休息や今後の方針で意見があれば募集する旨を伝えておく。
次に
それぞれ担当するメンバーに連絡だけはしておいた。
「そういえば、アルベドって確か玉座の間にずっと居るんじゃなかったっけ?」
疑問に思ったのでタブラに連絡すると案の定、疑念は事実だった。
「ずっと立ちっぱなしですか? それはちょっと可哀相な気がします」
折角、自我が芽生えたのに。
普通は気にしない事だが、今は感情を持つ者が放置されていると思うと気になってしまうようだ。
『ゲームのキャラクターですよ?』
「そう割り切れるタブラさんは凄いですね」
『つい先日まで放置していたじゃないですか』
それはそうなんだけど。モモンガは反論しにくい問題に悩む。
たかが、ゲームのキャラクターだ。
自分は何故、気にする必要があるのか。
今まで放置して無視してきたクセに。
それはきっと無感情の顔に血が通ったからだ。
無機質は無機質のままなら気にしなかった。
『モモンガさんは人形遊びに目覚めたって事ですか?』
無い心臓にブッスリと突き刺す言葉に思わず精神が沈静化されられる。それほど衝撃の強い言葉に思えた。
確かにNPCはメンバーが作った元々はデータだけの空虚な存在だ。それを気にするのは確かにタブラの言う通りだ、と思う。
他のゲーマーだったらキモイと一蹴するところだ。
「自我を得た彼女たちを人形と思いたくないだけですよ」
と、震えそうな声で言い返す。
正直、強気な発言でどうにかなるとは思えなかった。
それはキモイゲーマーが言う屁理屈だからだ。もし自分ならバカにする自信がある。
『自我を得る前は完全なゲームキャラという人形でしたよ』
「……自主的に動き始めたNPCに戸惑っているだけです。決して人形遊びとは……」
『冴えない主人公そのままですね、モモンガさんは』
「……そ、そうですか?」
『そんなことで動揺するのがまさに……。いい歳した大人でしょうに』
社会人の自分がNPCを心配する。
それはまさに正気を疑われてもおかしくない状態だ。
ゲームキャラのことを真剣に悩む大人はゲームのやりすぎで頭がおかしくなったと言われても弁解が出来ない事だ。
ゲーム中毒。ネット依存症。
脳裏に様々な病名が浮かんでいく。
「……精神がアバターに宿ったせいかもしれませんよ」
正直、この言い訳が通じるとは思えない。だが、そういうことにしたい気持ちだった。
『それだけなら問題は無いと思いますが……。後でじっくりと話し合いましょうか』
「……いやです……」
特に説教に類するものは、と。モモンガは大きな声では言えなかった。
会社でも上司に叱られるのはいつだって嫌だ。好きな人はマゾくらいだ。
『いやいや。自分も
「……はい。一日の時間経過がまだよく分かりませんが……。いつ集まります?」
途中で接続が切れたが、ちゃんとかけ直す。
相手に別れの一言を入れるのが社会人としてのエチケットという身体に染み付いたサラリーマン気質が働いた。
◆ ● ◆
時刻は八時丁度。ただし、モモンガの時計は二十四時間仕様なので現地の時間とは二時間ほどの時差がある事になる。
さすがにアイテムの仕様も現地に合うわけが無く、これからどうしようかと悩んでしまう。
第九階層の円卓の間にゾロゾロと化け物達が集まってくる。
欠席者は居なかった。
半数が居ない状態だが、それは仕方が無い。
「睡眠を取られた方は気分はどうですか?」
「んー、アバターでもちゃんと眠れてびっくりだよ」
「排泄行為も出来るようです。いや~、久しぶりの一本糞を見る事になろうとは」
本来なら無理な話しだ。
現実の身体が漏らしてしまう。ゲーム内で排泄できるという事はいくつかゲームと現実が乖離していると思われる。
「快眠、快便の出来るアバターですか……。知るのが怖いですね」
「いわゆる
「治癒魔法で癒せると……」
「ゲームであってゲームではない現実……。不思議ですね」
それぞれ色々と実験してきたようで賑やかに話し始めている。その中でモモンガは冷静でいられるのか、自信が無かった。
「受肉しそうに無い人は平気ですか?
「特に問題は無いですね。人間の時と感覚はそんなに変わらないで動かせます」
「
「モモンガさんは死体ですが、異常は無いんですか?」
「はい。全く臓器が無いけれど感覚はあります」
「アバターは見た目ではなく、中身もしっかりそれぞれの種族としての特性が生かされているようです。それがそのまま設定どおりになると問題が発生するかもしれません」
「種族ペナルティは生きているようですからね」
と、それぞれ身に覚えのあるメンバーが頷いていった。
「食事が出来る人は味覚はどうですか?」
「普通にあるようです」
「……人間を食べる種族の人も居ますもんね。……そういうことでしょう?」
「そうです。設定が世界に最適化されて具現化する……。それぞれ気にしなかった弊害が目に見えてくると思います」
と、タブラが率先して話し始める。その間、モモンガは小刻みに震えているだけだ。
正直、考えるのも喋るのも怖かった。
アンデッドだから恐怖に耐性があるけれど気持ち的には人間のままだ。気にするところは気にしてしまう。
頼りになるメンバーが居てくれて今はとても心強いのだが、話題はとても深刻なものだった。
転移した世界の事よりもアバターとして受肉した事は後に色々な弊害をもたらす、と何処かの預言者が言いそうなセリフがモモンガの脳裏に浮かんだ。
頭蓋骨の中は
脳味噌が無いのに不思議だなと思った。
元の肉体がどうなっているのか。それを知るすべがあれば不安も少しは解消されるかもしれない。しかし、その方法は分からない。
ユグドラシルというゲームで遊びつつ現実の身体がどうなっているのかを同時に確認することは基本的に出来ない。
元より現実の身体に何かあれば強制ログアウトできる仕様だったはずだ。
「本体から切り離されたとして、いずれは磨耗して消滅することもありえるのでは?」
「無いとは言い切れませんね」
「復活魔法はどうなるのかな」
「アバターの肉体は復活しても動かない可能性はありますね」
物騒な想定問答が続いていく。
危機意識を持つ上では避けては通れない。だが、モモンガは考えたくは無いし、逃げ出したい気持ちだった。
嫌なことから逃げる。それは冴えない主人公っぽい行動原理に似ているのかもしれない。だが、ギルドメンバーは違う。
誤魔化しも言い訳も辻褄あわせもしない。とても真面目な議論を交わしていく。
タブラはモモンガの様子を知った上で議論を続けているし、無理にギルドマスターに喋らせようとは思っていなかった。ただ、現実を突きつけているだけだ。
モモンガが逃げて棚上げにするであろう題材をしっかりと聞かせる為に、と。
「モモンガさん」
「はいっ!」
思わず、大きな声で返事をしてしまった。
「無理に結論を求めたりはしませんよ。モモンガさんは
「主人公ですか?」
「折角、未知の世界に来たのに下らない仲間割れで台無しにしたくないので」
「うん」
「戻れないなら、それはそれで仕方が無い」
「精神だけアバターに宿って元の身体が普段の日常を送っているのなら、それはそれでいいじゃないですか」
確認するすべは無いけれど、とそれぞれ呟く。
分からないものを議論しても不毛だ。
分かるところから切り崩すのが健康的というものだ、という事で意見がまとまっていく。
メンバーはギルドマスターの決断を出来るだけ尊重し、各人で世界を調査することで意見が一致する。ただそれはモモンガ抜きで進めた話しだ。
「我々はこういう指針を示しました。モモンガさんはどういう意見なのか聞かせていただきたい。……ちゃんと聞きますから、好きに言ってください」
言葉の雰囲気では応援しているようにタブラやぷにっと萌えが言っているように聞こえた。
一部のNPCは表情が豊かなので見るだけで分かるのだが、人間ではない仲間の顔は判別がとても難しい。
「……元の世界に戻りたい人の為に……、元の世界に戻る方法があれば見つけたい。そうでない場合は世界の調査を続行したいと思います。どの道、かなりの時間が経過しました。それでもまだ運営側からの連絡は来ません。これは接続が切れたから、と考えるしかないのかもしれませんが……。各人へ『
無理して元の世界に戻っても辛い現実が待っている。ただ、それはモモンガだけの問題であって他のメンバーも同じ気持ちというわけがない。
それぞれ家庭などを持ち、仕事も順調な者も居る。
そんな彼らの意見は尊重すべきだ。
いつまでもナザリック地下大墳墓で遊んでいることなど出来はしないのだから。
仲間が居るだけでは駄目なんだろう。
いつまでもたむろするだけではいずれ飽きる。
「普通の転移ものなら何がしかのイベントなりが発生するものだけどね」
「たっちさんが捕まえたモンスターはどうなりました?」
「ああ、あれ。やっぱり『
「……つまりユグドラシルのモンスターがここにも居るってこと?」
「違うゲームの『
「モンスターはモンスターだ。これはますます外を調査しないとね」
序盤で出てくるには高レベルのような気がするけれど、と他のメンバーの呟きが聞こえる。
普通なら低レベルの『
『お約束』がそのまま通じる世界とも限らない。
「調査する時は常に複数で当たってください」
「了解」
モモンガの言葉にそれぞれ返事を返していく。
反対意見が無いのが少し気になった。
大抵は一つくらい反対する者が居てもおかしくない気がしただけだが。
墳墓内のチェックやアイテム管理。
NPCの状態の調査。
トラップ類。停止しているモンスター類。
改めて総点検し、外に出るものは一通りの荷物の用意などを始める。
モモンガ独りだけならば、それらを全て一人でやらなければならないところだ。
仲間に分担させると効率的に進めることが出来て心強いと思った。
第十階層に移動し、玉座の間に行くとアルベドが居た。
居るのは当たり前かもしれないが、ずっと居るところが気になった。
自分の記憶では守護者統括は常に玉座の隣に居る。つまり移動していないことになる。
「アルベドは部屋で休まないのか?」
「NPCの状態をチェックするのが私の仕事ですので」
ゲームの時代では今の質問に答えることは無い。
今はどんな言葉にも柔軟に対応してくる。
微動だにしないNPCではなく、血の通った人間と遜色ない動きを見せる。
だからこそ心配になってくる。
ずっと現場待機で退屈したり、ずっと立ってて平気なのかどうか。
自分なら平気と答えられる筈が無い。
眠気に襲われたり、足腰の血行が悪くなる、と思う。
ずっと同じ態勢を取り続けるのは生物として危険な行為だと聞いた覚えがある。有名なところでは『床ずれ』だ。
長期間、同じ体勢で眠ると血行が悪くなり、背中が血だらけになるとか。
アルベドの場合は足下に血が下がるはずだから足のむくみが悪化してしまうのではないのか。
「ちょっとスカートを上げてみろ」
「はい。
アルベドは素直にスカートをたくし上げる。
色白の綺麗な足に
見た目には血行は悪そうには見えなかった。
「ずっと立ってて平気なのか?」
モモンガの記憶が確かならばアルベドは玉座の横を何年も立ち尽くしていた筈だ。
血行が悪くならない筈が無い。もちろん、ゲームのキャラクターだから平気というシステム的な事があるのかもしれないけれど。
「はい」
薄く微笑むアルベド。
ゲーム時代は無表情なので気にならなかったが、今はとても美しい娘に見える。
玉座に座り、コンソールを呼び出して色々とチェックを始める。
資産は潤沢だ。アイテム類も問題は無い。
NPC達の現在位置も把握した。
ここでモモンガは気付いた。
もともとナザリック地下大墳墓は毒の沼地にあった。それが何故、平原にあるのか、と。
自分達、つまりプレイヤーが異世界に転移する、という話しは聞いたり、読んだりして知っている。
今回は
早速、仲間と連絡を取ってみるとそれぞれ大層、驚いていた。
『普通なら核融合とか起きますよね』
『質量保存の法則はどうなっているんだ?』
『無理矢理ナザリックがねじ込まれたならあちこち軋んだりしないわけ?』
などなど。
心配事が一気に増えた。
コンソールで見る限り、異常事態は確認出来ない。
それぞれの階層に居るNPC達にも壁などを確認させているが水漏れなどは見当たらないらしい。
『下水ってどうなってるんでしょうか?』
『……あんまり物理法則とか考えたく無いな……。なんか……、怖い』
問題なのは地下ダンジョンが転移した事だ。
空中に浮かぶ城ならば別段、問題は無い、と思う。
ユグドラシルの世界そのものなら汚い雲が見えているはずだ。
ナザリックは十の階層に分かれているとはいえ、実際の規模はとても大きいし、広い。それを転移という言葉で片付けるのは恐ろしいことかもしれない。
下水に関しては食堂が通常稼動できているし、風呂場に異常事態が起きたという報告も無い。
そもそもナザリック地下大墳墓自体、ゲームのデータとも言える。
ありえざる存在がありえざる技術と法則で存在している。それは本当はとても恐ろしいことなのでは無いか、と。
小難しい事は考えたくないのだが、今後の予定に響く恐れは頭の片隅に入れておかなければ危険かもしれない。
それとは別に外を映し出すような画面が設置されていない第十階層はとても寂しいところだと思う。
音楽が鳴っていないので静寂が凄まじい。
もし、人間の肉体を持っていたならば耳鳴りが酷く響いている。
こんな寂しい空間にアルベドは独りで過ごしている。それはとても可哀想な気がした。
「……アルベドの部屋は……」
確かアルベドの個室は無かったはずだ。
そもそもNPCに部屋を与えるのはデータ容量的に言えば無駄だ。
それでも今は自由意志によって活動しているし、メイド達もそれぞれ飲食を楽しんでいる。
思い立ったら吉日。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
さっそくタブラに連絡を入れる。
『アルベドの部屋ですか? 確か作ってないです』
「作ってあげて下さい。お願いします」
たかがゲームのキャラとばっさり切るのは可哀相だ。
それはやはり自我を得たせいかもしれない。そうでなければ気にしない者もきっとどこかに居る、かもしれない。
『……新たに作るのは難しいと思うので空き部屋を使わせてもいいですか?』
「寝泊りできるなら……」
『……モモンガさん。急にNPCに愛着でもわいてどうかしたんですか?』
「それは……、分かりません。なんとなくNPC達が可哀相に思えてしまって……」
『世界に最適化されたのは案外NPCだけじゃないかもしれませんね』
タブラは何度か唸るような音を聞かせてきた。それは困惑というよりは自分でも色々と考えているような感じに聞こえた。
言葉のニュアンスから怒っているわけでは無さそうだったのでモモンガは安心した。
たかがゲームのキャラクターに本気になってキモイ、とか言われるかと思っていた。
確かに自分でもおかしいとは思っている。
それでもやはり無機質なゲーム時代と今では何かが違う気がしてならない。
前方には誰も居ない空間が広がっている。隣りには絶世の美女。
それはきっと孤独感かもしれない。
一人身であるモモンガにとって独りで過ごすことには慣れているのだが、気持ち的には嫌なものだ。
ゲームの中で出会う仲間が居るから寂しくなく、楽しく過ごせた。それを失うのが怖いと思っているのかもしれない。
そこでふと、気付いたことがある。
アルベドはいつ風呂に入ったのか、と。
何年も立ち尽くしていれば当然、髪はボサボサ。爪は伸び放題のはず。
手は白い婦人用の手袋に包まれているが足下は確か綺麗な素足だった。
埃っぽいところは見当たらない。
そんな事を女性に聞くのは勇気が要る質問だ。
ゲームキャラクターに成長という概念が設定ではあっても実装はされていなかったような気がした。
ユグドラシルというゲームは実質、十二年間の運営だ。
不死とはいえサービスが終われば消えるもの。それが消えずに残った場合はどうなっていくのか。
細かいところだが歯は磨いていない気がする。
「………」
知らなきゃ良かったゲームキャラクターの真実、みたいな感じだった。
一気にイメージが悪くなった。
だが、それは仕方が無い。
本当の意味で細かい詳細が適用されるようでは色々と不都合がある筈だ。
現実に
他にもモンスターが居た場合はどうすればいいのか。どんなことを想定すればいいのか。
分からない事だらけだ。
「……アルベド。その腰の翼に触れてもいいか?」
「はい。どうぞ、遠慮なく」
と、言いつつモモンガに尻を向ける。
身体に触るというよりは翼に触れるくらいならハラスメントには当たらないかもしれない。
骨の手でアルベドの腰から生えている大きな黒い翼に触れてみる。
設定では堕天した天使の翼とかいうものだったはずだ。
モンスターとして出てくる
羽根の一枚一枚がしっかり表現されていた。
ここまで細かくデザイン出来るものなのか。
多少の羽ばたきが出来るようだが辺りに羽根を落とすようなことは無いようだ。
ゲーム時代では散らばってもすぐに消滅する仕様だったとか。と、あまり詳しく見ていなかった事を思い出そうとしたが無理だった。
横に広げれば三から四メートルは広がるかもしれない。
天使のように背中から生えていないので、どうやって空を飛ぶんだろうかと疑問に思う。
そこは便利な飛行スキルで簡単に飛ぶんだろうけれど。
物理法則を無視した動きは現実ではありないことだ。
腰から生えているとはいえ千切れそうな脆さを感じる。
今なら色んなモンスターを研究することも出来るのではないだろうか。
「……羽根は生え変わるのか?」
「はい。……よく抜け落ちますが翌日には新しい羽根が生え変わっております」
「!?」
思わず驚いて精神の安定化が起きた。
安定なのか抑制なのか分からないが、感情の起伏に左右されるようだ。
翌日には生え変わるというのは一日に使えるスキルのようなものに似ている。
そうだとしても無茶苦茶な身体だ。
治癒魔法で治る事もあるし、ゲームではそれほどおかしくはないけれど、現実ではあり得ない現象だ。
「落ちた羽根はどうなるんだ?」
「……それが……、私にも分からないのです。気が付くと消滅しているようなので」
演出で羽根が舞うのは知っている。ただ、その後のことは分からなかった。
普通に考えれば床が羽根だらけになるものだ。それが無いのは落ちたら消える、ということだ。
「では、一枚取ってもいいか?」
「はい。モモンガ様のお好きにされるといいでしょう」
拒否されないだけ安心したが、出来るだけ痛く無さそうなところから羽根を一枚、取る。
見た目は鳥の羽根だ。
それを床に落としてみる。
普通なら床の上に落ちる。それは当たり前の話しだが、問題はその後だ。
アルベドの言葉が正しければ、残る事は無い。
「………」
結果としては残った。
何度か拾っては落しを繰り返してみた。
「……消えないな……」
「そうですね」
折角なので鑑定魔法で調べてみる。
普通ならゴミみたいなアイテムは調べる価値が無いのだが、果たしてどんな結果になるのか、興味があった。
ありとあらゆる全てのものがアイテムとして設定されているわけではない。
いくらユグドラシルとて限界はある。
プログラムされたデータであり、まして人間が作り上げたものだ。
NPCやモンスターの内臓や血管まで完璧にデザインされているわけではない。必要な演出部分のみはあるかもしれないけれど。
空想上の生物を現実に作り出すことは常識的に考えれば出来はしない。
イベントボスとして神などが敵になる場合があるが、日本のゲーム会社がどうやったら天使や悪魔を現実世界に創造できるというのか。
「……〈
本来ならばゲーム会社が実装したアイテム以外は鑑定はできないものだ。たとえば『
鑑定結果は『
簡単な説明文が添えられているのだが、全部読む前に消えてしまった。
永続的に効果のある魔法では無いようだ。
ずっと脳裏に浮かんでいると思考の邪魔になるから仕方が無いのかもしれない。それはそれで別にどうでもいいけれど。
何らかの素材アイテムになるらしい。
一部は魔法のコストとして使われるので羽根一枚でもバカには出来ない。
飛行の魔法である『
魔法に必要なアイテムを収納する専用の箱のアイテムがあり、
魔法を行使する時、所持しているだけで自動的に消費されるものだから拠点に戻った時はアイテムの個数を確認するのは玄人プレイヤーであれば当たり前の事だ。
「………」
明日になると生え変わるということは、その時にアイテムが消える可能性がある。
執務室に置いて観察するのもいいだろう。
保存用としてもう一枚の羽根を確保しておく。
「明日になると生え変わるんだな?」
「いつもでしたら、そのはずです」
「……細かい確認作業で済まなかったな」
モモンガは自室に戻ろうと思ったが、戻ってしまうとアルベドが一人で残る事になる。
一緒に連れて行くべきか。
少しの逡巡の後で意を決する。アルベドを第九階層に連れて行く事にした。少なくとも一人でさびしい思いはしない。
ここはギルドマスター権限を行使する絶好のタイミングだ。
ナザリック地下大墳墓において自分は最上位者だ。創造主のタブラよりも上の存在なのだから。
「畏まりました。……ですが、よろしいのでしょうか? 私の任務はここで仕事を全うする事だと……」
「よろしいんだ。私が許すと言っているんだから」
別に自分の部屋に連れ込むわけではない。
不眠不休で働く他のNPCたちの居る食堂辺りに連れて行くだけなのだから。
天井に配置されているシモベは数時間毎の交代をするように命じておいた。
さすがに玉座の間を無人することは出来ない。
第九階層に移動した後、アルベドの事はタブラに任せることにした。
無理矢理連れて来て丸投げするのは気が引けるのだが、創造主の責任という事で自分を納得させる。
シモベに連絡を取り、二枚の黒い羽根の片方に『
それから執務室の個室に入り、羽根を机の上に置く。
翌日に残っていれば問題は無いが、消滅しているようであれば色々と改めて考える必要がある。
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