007 引きこもりに手を焼く

 時間的には翌朝のようだが二時間ほどの時差はすぐには慣れない。

 三日目、となるのだろうか。部屋にこもると時間の経過が分からなくなる。特に睡眠不要なので丸一日閉じこもっていてもおかしくない。

 普通ならば現実の身体が睡眠を要求するものだ。

 アンデッドの睡眠不要というのは睡眠攻撃などに対する絶対耐性のことで、ゲームの設定に過ぎない。

 飲食不要というのは空腹によるペナルティを受けないという意味で永遠に食べなくてもいい、わけではない。

 あくまでゲーム内の設定だ。

 それが今は設定が現実としての効果を現している。

「おっと、そうそう。羽根がどうなったか……」

 一日に使える特殊技術スキルは次の日には回復する、というものがある。

 ゲームで通用した概念はここでも通用するのか。

 扉を開けて結果を確認する。

 風圧などで室内のものが移動しないように重しは乗せていた。

「……そういう結果か……」

 アルベドの説明の通り、羽根は消滅していた。ただし、保存プリザーベイションがかかっていない方だけ。

 使いきりアイテムの中には即座に消滅するものがある。

 中には規定時間になると自然消滅するものも。

 アルベドの羽根もゲーム内ではゴミアイテム扱いだから、そもそも残るようなアイテムとしては想定されていない。

 それを留める為には魔法的な処置が必要だという事かもしれない。

 とにかく、不可解な現象ではあるけれど実証は出来た。

 残った羽根はアイテムとして使用できるのか、という確認作業も大事なことだと思う。

「……少し勿体ない気もするが……。えーと、メイドでいいか」

 ずっと座っているのも退屈だ。と思っているのはモモンガだけかもしれないけれど。

 部屋に待機しているメイドを呼びつけておく。

「ありふれた魔法だから大人しくしていてくれ」

「はい」

 危なくはないが目蓋は閉じないように言いつけた。それからすぐに瞬きはしてもよい、と言い直した。

 命令の中身を柔軟に汲み取ってほしいが、命令する側は自由に解釈してしまうかもしれない。

 他の者なら瞬きするな、という命令を与えないとも限らない。

 命令を下す時はちゃんと考えなければ取り返しが付かなくなるかもしれないと思って反省する。


 〈飛行フライ


 魔法を唱えると手に持った黒い羽根は燃え上がって消えた。

 つまり魔法コストとして使えることが証明されたわけだ。

 この魔法は自分を浮かせて移動させる魔法だが相手にも使うことが出来る。

 集団で移動する場合は『集団飛行マス・フライ』という高位の魔法がある。

「魔法としての機能は正常だな」

 『飛行フライ』は空中に浮いた後で効果時間が切れるとゆっくりと落下する仕様になっている。ゲーム時代ではいきなりボタっと落ちたりはしなかった。

 高さ制限や移動速度にも限度があり、術者の意思によってある程度の制御が出来る。

 ゲームの中では当たり前だったことが今は全て新鮮に感じる。

 規定の時間になり、メイドは床に着地する。

「実験とはいえ、少し勿体なかったかな」

 成功しただけで満足しておく。

 一日経った今は生え変わったのか。

 アルベドの羽根はたくさんあるからどれがどれだか分からないかもしれない。

 目立たない位置の羽根だったし、後で声だけかけておく事にする。


 改めて『遠隔視の鏡ミラー・オブ・リモートビューイング』を使う。

 いちいちナザリック地下大墳墓から再出発せずに済むのは目印を指定できる機能のお陰だ。

 明るい草原と獣道が続く画面が映し出される。

 側には林とも森とも思われる木々がたくさん生えていた。

 自然豊かな風景は機械文明の中で育ったモモンガにとっては新鮮なものだった。

 拡大縮小と視点移動には随分となれたので今回は勢いをつけて進むことにする。

「このアイテムはどこまで映せるんだ?」

 このマジックアイテムがあれば全フィールドを見渡すことも可能ではないかと思われるが、そこはゲームの制限というもので調整されている。

 移動に物凄く時間がかかっているし、どう考えても世界全土を見渡すのに一ヶ月くらいはかかるのではないかと思われる。

 数時間かかってまだ集落が見つからないのだから。

 移動速度は上がっているはずなのだが、実際はちょっと走った程度の早さだったりするのか、と疑問に思う。

 草木は見えるが動物のたぐいが見当たらない。

 たっち・みーが掴まえた『鎌鼬カマイタチ』が唯一の生物というわけではない筈だ。

 誰も居ない世界はありえるのか。

 様々な作品の中では騒乱の只中にある時代設定がお約束の筈だ。

 意味も無く転移というのは虚しい。

 こういう世界の監獄エリアということもあるかもしれない。

 もしここがまだユグドラシルのゲームの中だと仮定してみたが平和そうな監獄など聞いた事がない。

「………」

 道なりに行けば執着地点があるはずだ。丸く円になってたら恥ずかしいところだが、とにかく、進められるだけ進んでいく。

「メイドよ。食事は持参してもいいぞ。こっちは時間がかかるから」

「モモンガ様のお部屋でそう何度も食事をするのは……」

「構わん。いずれ、食事が出来る場所を用意しておこう。ずっと私の部屋に入り浸っていては退屈だろう。下から書籍を持ってきてもいい」

「い、いえ、そういうわけには参りません。メイド長に叱られてしまいます」

 ギルドマスターが良いと言ったのに遠慮するとは、少し驚きだ。

 何でも言う事を聞くわけではないのだな、と感心する。

 実際、メイドの言い分も理解出来る。

 口に物を入れたまま来客を招くメイドは失礼以外の何者でもない。

 かといって『維持する指輪リング・オブ・サステナンス』を装備させるのも可哀想な気がする。

 人造人間ホムンクルスは食事が何より大好きな種族だったはずだ。それを取り上げるのは心が痛む。

「……食堂で仕事をすれば良いのか……」

 多くのメイド達に興味深げに見つめられてしまいそうだ。だが、食事に関しては問題ないだろうし、来客対応もそれほど気にならなくなる、気がした。

 それでは重要な仕事が出来ない、とすぐに思い至る。

 メイドの事は後で考えて仕事に集中する事にした。

 後で移動する時にメイド長と話しをすればいい。


 現在位置から移動を開始しているはずだが距離感が掴み難い。

 移動距離の数字が書かれていればいいのだが、そういう機能は無いようだ。

 折角の自然豊かな世界を『ブルー・プラネット』に見せられないのは残念な事だ。

 十二年も経てば現実の方でも色々と忙しかったり、様々な事態に陥っているかもしれない。ずっとゲームに重きを置いてきた自分に彼らを責める事は出来ない。

 半数の仲間が居るだけでもありがたいと思わなければならない。

「モモンガ様、タブラ・スマラグディナ様がご面会を求めております」

 ノックの音に気付かないほど物思いに耽っていたようだ。

「通せ」

「畏まりました」

 一礼してメイドは入り口の扉を開ける。

 最高責任者ではあるけれど、今までのコマンド命令と違うと何だかこそばゆい気持ちになる。

 もう少し砕けた言い方が良いのか、試行錯誤中だが、仲間の居るところでは恥ずかしいかもしれない。でも、みんなそれぞれ自分のNPCノン・プレイヤー・キャラクターに色々と命令しているんだよな、と他の仲間の姿を思い浮かべる。

 部屋に病人のような色合いのタブラ・スマラグディナが入ってきた。

 感情エモーションアイコンが無いとさっぱり表情が読めない。

「おはようございます、モモンガさん」

 声の感じでは人間の時の発声と遜色が無く、機嫌も悪くない印象だった。

 アルベドの羽根を二枚取った事で怒り狂うのは神経質すぎるか。

「お、おはようございます、タブラさん」

 メイドがタブラの為に椅子を引く。その椅子に片手を上げつつ座る。

 ゲームの時は一切やったことのないイベントだ。

「数日ほど経ったわけですが、モモンガさん。気持ち的には何か問題とかは起きましたか?」

「問題……ですか? 身体は特に問題はありません。……アンデッドの種族特性で飲食と睡眠について気にならなくなったくらいです」

「そうですか。私も種族の特性で味覚が変わると思ってビクビクしましたが、名前の通り脳味噌がどうしても吸いたい、ということは今のところ無いようです」

 脳食いブレイン・イーターだから仕方が無いのかもしれないけれど、中身は人間だ。普通なら気持ち悪い事だ。

 他にも半魔巨人ネフィリム黒山羊の悪魔バフォメットが居るけれど、食事に関して仲間からの連絡はない。

 鳥人バードマンがメイドで遊んでいるくらいかな。

「未知のフィールドに出られないのでストレスとか溜まっているのでは、と思いましたが……。部屋にこもってて大丈夫なものですか?」

「ええ。今はアイテムを使うので手一杯なので」

「あっ、そういえばアルベドの部屋を用意をしなければ……。自由に動き始めた彼らの対応も考えないといけませんね」

「本来なら気にしなくてもいい問題のはずなのに……」

 ただ可哀相と言ったばかりに仲間に迷惑をかけてしまったようで胸が痛む。

 内臓は無いが人間の頃の気持ちで感じた。


 ◆ ● ◆


 ナザリック地下大墳墓のNPCは基本的にメンバーの思いを託されただけで実際に動くことはあまり想定されていない。トラップ類は除くが。

 まだ数日しか経っていないがギルドメンバー以外の仲間が増えたようで賑やかになってしまった。

 モンスターを狩りに行く場合は傭兵モンスターを引き連れることはあるのだが、あくまで盾役や使い捨てにしか使わない。

 NPCの生活を普通のプレイヤーは考えないものだ。

 明日の仕事の為にログアウトした後の彼らNPCの行動まで今まで気にしたことは無い。

「転移と同時に世界の最適化がおこなわれ、本来は無感情の彼らの表情が読めるようになった、とも言えますよね」

「最適化……ですか?」

「我々がより世界になじんだ、という意味です」

 それが本当なら仲間の表情も読めないと矛盾する。

「そうであっても特定の命令にしか反応しないはずの彼らが自主的に動くのはおかしいですよ」

「……あはは。そうなんですけどね。何事も仮説は大事です」

「……う~ん」

「あっ、そういえば地面とか壁とか鑑定しました?」

「いいえ」

「本来は意味が無いはずなんですけど……。なんと、成分表みたいなのが出ました」

「えっ!? マジですか?」

 驚くモモンガにタブラは頷きで答える。

 タブラの表情が分からないのと同様にモモンガの骸骨の表情の変化は理解しにくい。

 感情豊かなギルドメンバーはおそらく数人程度かもしれない。

 普段は無表情なので読み取るのは無理に近い。

 メイドやナーベラルのように人間にかなり近い姿をしている者はメンバーも視覚的に理解出来る。

「オブジェクトも色々と分かるようになってます。ユグドラシルというゲームを始めて遊ぶ初心者になった気持ちですよ」

「……そういえば、そうですね」

 何事も一つ一つ調べて進む、という意味で。

 そもそも『ユグドラシル』は多くがプレイヤー自身で調べて攻略していくゲームで、公式は殆ど情報を出さなかった。

 世界級ワールドアイテムの個数は誰もが知っているけれど、入手条件は誰も知らない。

 アインズ・ウール・ゴウンが集めたアイテムもかなり非合法に近い方法で手に入れたものが多い。

 未知のフィールドも多く、全容が解明されたとは思えない。

 イベントボス、レイドボスなどが色々と居て、公式のラスボスも居る。

「転移者が我々だけとは限りませんが……。新しい情報は見つかりましたか?」

「それが全然ですよ。延々とループする草原ではないかと思うほどです」

「それだけ広い世界ともいえますよね?」

「そうなんでしょうか。何か目印は欲しいですね」

 タブラに『遠隔視の鏡ミラー・オブ・リモートビューイング』を見せる。

「ナザリック地下大墳墓から移動しているんですよね?」

「はい」

 無限ループなら進んだ先にナザリック地下大墳墓が現れるかもしれない。

 もちろん、ある程度、進んだ後で戻って拠点が消えていないかの確認はしている。

「……長い一本道のようですね」

 いくつか枝分かれしてくれた方がまだワクワク感はある。

 ただひたすらに真っ直ぐの一本道だけだと不安になってくる。だが、アンデッドの精神は不安を抑制してしまうので今まで平然と続けてこられた。

「道なりに進むより、高く飛べたりしませんか?」

「一定の高さまでしか上がりません」

「俯瞰できるなら、出来ないはずは無いと思うのですが……」

 操作方法が間違っていたのか、モモンガがただ単にアイテムの使い方が下手なのか。

 地面に視点を移動させ、縮小。鏡の上と下から同じ身振りをおこなってみるタブラ。

「ああっ! 左右以外にも……」

 説明書が無いとアイテム一つ扱えない、というのは恥ずかしい事だ。

 普段はコンソールなどを呼び出せていたから気にしなかったが、今は感覚のみが頼りだ。だから、意外と出来ない事が多い、気がする。

 押しっぱなしにする。それらは鏡から外れた行為は認識しなくなるので、操作は出来る限り画面内でおこなう。

 視点を変えられても移動速度は変わらない。

「風景から察するに……。戦乱などは無さそうですね」

 焼け野原や煙が見えてこないから。

 大抵は混沌とした世界、というのがタブラ達のイメージにある。

 あまりにも何も起きない平和な世界だと逆に不安になってくる。

 ここがゲームの世界であれば、こんなに平穏な世界で自分は遊ぶのか、と疑問に思うほどだ。


 新たな視点に切り替わってから景色が一変してくる。

 長い道の先に小さいが集落のようなものが見えた。それと遥か先には山の景色がある。

 右旋回。左旋回を繰り返したが近くに海は見当たらない。

 大陸の中ほどかもしれない。

 見えた景色の中でも人々が争っている、ような雰囲気は無かった。

「……現在位置はかなり人里から離れていたようですね」

 真逆に視点を変えても長大な獣道が続くばかり。ただ、山ではなく鬱蒼と生い茂る森が広い範囲に見えていた。

 まず集落に向けて視点を進める。

「ようやく第一村人というところでしょうか」

 まだ人は見当たらないが移動にはかなり時間がかかりそうだった。もともとモモンガですら数時間もかかったのだから、タブラに代わったからといって急に早くなったりはしない。

「村はモモンガさんに調査してもらいましょうか」

「俺より人間型のメンバーに行ってもらいましょう」

「いいんですか? ギルドマスターだからって遠慮しなくていいんですよ」

 ギルドマスターだから残るわけではない。

 いきなり自分が未知の存在と接触するのが怖かっただけだ。

 実際、敵陣に果敢に突っ込めるほどの勇気は無い。

 何事も調査して慎重に進み、戦略を練るのが自分モモンガのプレイスタイルだから。

 意味も無く突っ込んでいく脳筋タイプだと不安がある。

「偽装アイテムも色々とありますよ」

 タブラとしては拠点にこもるモモンガの為に意見を言っていた。

 幻視した映像はそれ程長くは無いが、モモンガを孤独にするのは心が痛む事だった。

 それぞれが見た幻視は概ね共通で、NPCを引き連れて色々と冒険の旅に出る。ただ、未知のプレイヤーに怯え続け、慎重に進めた結果、様々な問題を抱える事になる。

 それらは断片的ではあるが、現状維持にこだわる部分は理解できないわけではなかった。

「……いや、やはりここは……」

 慎重なモモンガを外に出すのはタブラとて難しい気がした。

 元よりそういう人種なのだろう。

 仲間の意見を取りまとめたり、波風立てないようにするのがギルドマスターの仕事のようなものだから。

 転移したとしても思考はゲーム時代と変わらない、のかもしれない。


 それはそれで困るのだが。


 ゲームは終わった。

 タブラとしてはゲームではなく現実の事として認識してほしかった。

 外敵の存在が確認されれば自分たちも拠点を守る努力をするのかもしれない。少なくとも寝泊りできる場所をいきなり奪われたくはない。

 それでも度胸は無い。

 異常な強さの主人公の末路を知らないタブラではない。

 だからこそ、多少の無茶も許容したいと思っている。

「……アルベドを差し出すので外に出てくれませんか?」

「はっ!? ど、どうしたんですか、タブラさん!?」

「いや~。モモンガさんには外に出て村の調査をしてほしいんですけどね」

 と、語気を強めながら言いつつモモンガに顔を近づけるタブラ。

 多少の無理は通さないと、この童貞野郎は動きそうもないと判断した。

 アルベドを差し出しても万年童貞のモモンガがすぐにエロい展開にはしないだろうから、あまり心配はしていない。むしろ、許可を出しておけば何の気兼ねも無く大事にすると思った。

 許可を出さない場合はいつまでも他人行儀のままで見ている者を苛々とさせるに違いない。

「村の調査をするのにアルベドを差し出す意味が分かりませんよ」

 と、童貞というか冴えない主人公らしく、を探そうとする。

 とても面倒くさい。

 引きこもりを外に出すくらい面倒くさい。

「……骸骨だからエロい事なんて出来ねーだろ? ●●●無いんだから。あったところでアンデッドだ。種族の特性で快感とか感じる事は無理だろうに」

 冴えない主人公はどストレートな単語にとても弱い。

 案の定、顔を手で覆い隠そうとするモモンガ。

 お前、自分の歳を考えろ、とタブラはつい怒りを込めて言いそうになった。

「荷物をまとめて適当なNPC連れ出して良いから、外に出ろって言ってんだよ。仲間の頼みを聞いてくれませんか?」

「頼みというより脅迫ではないですか?」

「そっちの方が良いなら、全裸のアルベドを持ち込みますよ」

 創造主に逆らうNPCは居ませんから、と物騒な言葉を小さく呟くとモモンガは身震いして小さく縮こまる。

 絶体絶命のピンチに対して控えているメイドは顔を青ざめさせて身体を震わせていた。

 お互いが至高の存在なのでどうすればいいのか分からない様子だった。

 数分ほど睨み合いが続く。ただし、タブラが一方的に見つめているだけだ。

 はたから見ると化け物同士が顔を突き合わせているだけだが。

 感情エモーションアイコンが出せないので、どんな心境かは互いに把握できない。

「そ、そんなに俺を追い出したいんですか?」

 先に折れたのはモモンガ。

 息苦しいシチュエーションが苦手だからだ。

「そういうわけではありませんよ。内にこもると気分が滅入る。モモンガさんに第一村人との接触の権利を譲ろうと思っただけです」

「それは……、対人スキルの高い……」

「逃げるな、冴えない主人公」

 語気を強めてタブラはモモンガの言葉を遮った。

「は、はいっ!」

「みんなはモモンガさんにはになってほしいんですよ。その気持ちが通じませんか?」

「いや、それはライトノベルの話しでは?」

「違いますよ。モモンガさんの話しです。何なら、他のメンバーに聞いてみるといい。誰もが同じ事を言いますよ」

「……う」

 現メンバー全員ならばモモンガに勝ち目は無い。

 ただ、それを全員分本当に確かめるのも怖い。それはタブラの言葉がであるように思えたからだ。

 大錬金術師とも言われるタブラが冗談を言う事はありえるのか。

 これがるし★ふぁーなら少しは言い返している気がする。

 ぷにっと萌えと死獣天朱雀だった場合は何も言い返せない自信がある。

「検討します、じゃなくて、お前モモンガさんが行け」

 タブラの言葉は更に重くし掛かってくる。

「……はい」

「よろしい。偽装のアイテムなどは用意しておこう」

 返事をした途端に言葉の圧力が消えたので驚いた。

 あまり怒らせてはいけない人間なのかもしれない。

 ゲーム時代は様々なギミック製作に携わっていたので強引なところは珍しいかもしれない。

 あと、モモンガより強い魔法詠唱者でもある。だから、というわけではないが逆らえない雰囲気を感じてしまう。

「外に出た途端に封鎖とかしませんよ。ギルドマスター権限を剥奪するわけじゃないんですから」

「……はい」

「それでアルベドは……どうしましょうか」

「そのままで」

 そう言うとタブラは苦笑したようだ。

 声に出して初めて相手の感情が少しだけ分かるようになる。

 無言は意外とキツイ。

「NPCだから、というわけではありませんが……。モモンガさんが気に入ったのであれば設定を書き換えましょうか?」

「い、いいえ。それはなんか違うと思います」

 激しく抵抗するのは童貞の証し。

 知識にある冴えない主人公を具現化したような態度にタブラは苦笑する。

 社会人でエロゲーが好きなくせに女性と付き合うのが苦手というのが信じられない。

 現実の女ならば無理も無いのだが、相手はゲームキャラだ。

 選択肢を選ぶだけで結婚まで出来る相手だ。命令一つでどうにでもできたりする。

「……自分の姿をもう一度、鏡で見た方がいいんじゃないですか? その姿でエロい話しが苦手ってバカにしか見えませんよ」

「お、大きなお世話です」

 タブラの言う通り、白骨死体の死の支配者オーバーロードだけど中身はしがないサラリーマンの『鈴木すずきさとる』だ。

 骨の身体で女性をどうこうエロいことする事は出来ないけれど、感触があると身体に触れる事も恥ずかしい。その気持ちはまだ残っている。

 童貞と言われてたが、それは自覚している。

 同棲する相手でも居れば、と思ったところでモンスターだけど女性がけっこう居る事に気付いた。

「……アルベドと同棲ってことに……」

 それどころか大勢のメイドも居る。

 控えのメイドと同棲しているとも言える。

「今更な問題だったようですが……、それでもすぐには納得できません」

「童貞らしい答えでビックリです。女性と同じ部屋で過ごしてはいけない規則はありません。アルベドは私が許可しましょう。一緒に連れて歩いてもいい。彼女アルベドの親だから……、逆に私の相手となる女性は……、アウラかな?」

 無許可で連れ出すのは確かに抵抗を感じていた。

 創造主の許可があれば気持ち的にはだいぶ楽になるかもしれない。

「アルベドはレベル100ですから。簡単には倒されないでしょう」

「この世界にはレベル100を超える敵が居るかもしれませんよ」

 ゲーム的な話題だとモモンガも饒舌になる。それはタブラも何となく感じていたので少し懐かしさを感じた。


 ◆ ● ◆


 未知の敵と一言で言ってもどんな存在かまでは確定されたわけではない。

 現地のモンスターに過ぎないかもしれないし、これから向かう村の調査もしなければならない。

 童貞相手だと時間ばかりかかって厄介だ。だから、嫌いだとも言える。とても面倒くさいから。

 『ユグドラシル』のレベル上限は100。

 人間種は種族レベルは無いが職業クラスに経験値を割り振れる。

 やろうと思えば100個の職業を得ることも可能。

 下級職の上限は15まで。中級職は10。上級職は5。

 それぞれ一定レベルごとに特殊技術スキルを得られるようになる。

 課金や隠し職業もあり、多くのプレイヤーは自分にあった職業を調整していく。

 一度獲得した職業が気に入らなかった場合はレベルダウンで消す事が出来る。

 魔法職も同様だ。

 転移後の世界ではレベルの上限はまだ未知だがレベル100を超える敵が居ないとは断定できない。

 自分達が本当に強いのか、弱いのかはこれから一つずつ調べるしかない。

 問題は戦う必要性があるのかどうか。

 モモンガはどうにも好戦的なようで敵が居ると思っている。

 確かに敵対プレイヤーも来ている可能性はあるかもしれない。だからといって、この世界でも戦わなければならない理由になるのか。

 ナザリックを奪われる、という理由ならば仕方が無い気もするけれど。

「上限突破した敵に対して我々は手も足も出ない気がしますけど?」

 そもそも自分の意思でレベル上限を突破できたら苦労はしない。

 運営会社がアップデートでもしてくれないと到底無理な話しではないのか。

です」

「……そうですよね」

「ガチガチに固めると警戒されてしまいそうですが……。それなりの防衛はしておきますよ」

「お願いします」

「……モモンガさん、面倒くさい……」

「?」

 もし、タブラに表情があれば最後の言葉は笑顔で皮肉を言う表情になっている筈だ。

 物事を迅速に決めるより慎重な方がギルドマスターらしいが、慎重すぎては時間ばかり無駄にかかってしまう。

 村人一人と話すのに一日がかりになるかもしれない。

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