日本が誇るべき名作

結局のところ、私はこの作品を一種の教養小説ではないか、と考える。自分の成長していく姿を描いた教養小説。描き方は草野流独特で屈折しており、それこそが本作を魅力たらしめているものだが、物理的な側面もあれば、精神的な側面もある。描かれるのは革命であるとしてもいいだろう。自分の世界及び自分を取り巻く周りの世界への反抗及び超越、それこそがこの作品のテーマであることは間違いなかろう。
 
 しかしながら色々な要素が絡み合っており、また世間一般からいい意味でずれた見方をするため、教養小説的なものだと見づらいし、そもそも教養小説だと単純に定義すること自体が間違っている。内容は独創的であり、文学史においてもこれほど独創的なものは中々ない。だがどういう点が独創的か、と聞かれればうまく返答することができない。それはその斜めに構えた思想的な内容か?主人公の人生か?決行した革命的要素か?判然 としない。というよりどれか一個というわけではあるまい。色々な要素が絡み合っており、そこに口でうまく説明できない草野様式の美がある。それらの結合したものがこの作品の芸術性ではなかろうか。
 草野の美は決して澄んだような人を魅了させるようなものではない。言い換えれば純粋なものではない。作中においても美女がいつでも醜い存在になれるとしているように、草野の美はどこか醜としての美も含んでる。それは悪いえばいいだろうか、あるいは官能的なものといえばいいだろうか。かといって純粋な「醜」というわけでもない。醜さもあり澄んだ美もある。その絶妙なが配合というのが草野の美ではなかろうか。本作においてもそれが調合されている。その何とも言えない美、そしてそれが他 の作品比べ濃密である、こそがやはりこの作品を日本文学において欠かせない名作たらしめているものであろう。

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