第21話

 半年後。テロの犯人は未だ捕まっていないが、テロそのものは段々と人々の記憶から薄れつつある頃。

 岡田友也を前に、赤ん坊を抱える私こと瀬田華蓮が居心地悪く突っ立っていた。

「えーっと……そんなわけで、子どもが出来ました」

「どんなわけで!?」

 ……。

 今泉真優は自殺した。あっさりと、大した抵抗もなしに、ただただ自らの手で命を絶って、ぞっとするほど予定調和に、この世に別れを告げたのだった。第一発見者によれば、彼女の死に顔はまるで笑っているみたいだったという。それは旅立ちの笑いか、諦念から来るものか、束縛からの解放か、はたまた大した意味はなく単なる偶然なのか、それは分からない。

真優の遺書により、半年前の今泉照人殺人事件及び連続爆破テロ事件の犯人は今泉晟であること、そして彼は群馬県でのテロに誤って巻き込まれてしまい死亡、残された今泉真優は精神的に不安定になり自殺……ということで、真相は明らかにされた。公には。

 群馬テロの後日、真優は私の家までやって来て、あの時本当は何があったのかを全て教えてくれた。

 今泉晟が全ての犯人であったこと。

 今泉晟が、かつての葛城王朝の始祖、今現在神武天皇と通称される男のクローン体であったこと。

 その今泉晟を、他ならぬ真優が斬り殺したということ。

 そしてテロに用意された爆弾を使って、今泉晟の遺体を極力何の破片も残さぬよう葬ったこと。

 私は続々と明かされる真実に驚き、怯え、悲しみ、考え、そのことに一杯一杯で、ついあっさりとその後の真優の頼みに首を縦に振ってしまったのだ。

 ――赤ちゃんのこと、お願いしたいんです。

 思えばあの時にどうして気付いてあげられなかったのだろう。というか気付くべきだったのだ。気付いてあげられたはずなのだ。……誰だって気付く程度のものなのだ。

 生へと向かう新しい命をお腹に抱える中で、彼女は、ただ一直線に死へと突き進んでいたその事実を。

 ……。

「というわけで、気味が悪いとか何とかで、親族の方々はみんなこの子のことを引き取りたがらなかったんだよ」

「はあ……」

 私が説明する間にも、岡田の表情にはどんどん諦めや呆れといった感情が浮かんできていた。何だかんだで岡田は赤子に限らず社会的弱者には優しいのだ。私が言い出したら止まらない人間なのだということは知っているはずだし、もう岡田は、この子を育てることを受け入れている。

 ……。

 これを機にプロポーズとかしてくれないかなあ。

 いつまで同棲を続けたら気が済むの?

私もうすぐ三〇だよ?

……。

「……ん、何かくさくない?」

「うん」

「ねぇ……これってさ」

「うん、まあ……想像通りのやつだよね」

「……」

「……」

「ぎゃあああああ!」

「今すぐオムツ買ってきます!」

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