第20話
お腹の底さえ震えるような大きく低い轟音が私たちを襲う。そして耳が痛くなるほどの衝撃が空気を叩く破裂音。十分に距離を取っているはずなのに、恐怖でここから逃げ出したくなる。
とうとう爆発が始まったのだ。つまり、真優の予想は大当たり。事前にテロの場所を予測して住民を避難させ、そして死傷者ゼロ。全国紙の一面記事をかっさらえるほどの大手柄だった。
そんな中、一番に口を開いたのは千歳だった。彼女は爆発した地点を、高校時代から使っている愛用のカメラで何度も何度も写真に撮りながら呟く。
「おお、本当に爆発した……」
「爆発したねえ」
これは津久井さん。暢気に応じている。
千歳はあらかた撮り終えたのか、撮った写真を確認しながら私と津久井さんの所へ戻ってくる。ここは街灯さえない田舎の山奥だが、果たしてこの暗さの中、無事写真は撮れたのだろうか。
千歳は胸ポケットをまさぐって取り出した名刺を私に手渡す。
「ええと、誰だっけ、今泉真優ちゃん? 多分、これから色々なウチの同類から取材依頼が来るだろうけど、取材はどこのマスコミよりも、まず月刊マーを最優先とするようにって言っておいてね?」
「はいはい、分かってるって。だけど、ちゃんと良い記事にしてよね? 真優は私の大事な後輩なんだから」
千歳からの名刺を受け取りながら、私、瀬田華蓮は特に何をするでもなく、こうしてのんびりと千歳たちと雑談を交わしていた。いや、別にサボっているというわけではない。爆発テロなどに対処する課に所属しているわけではないから何をすべきかなんて分からないし、何よりこれは群馬県警の管轄だ。奈良県警の私がいちいち口を出しても場を乱すだけだろう。
すると、
「ん……あれ、真優?」
そこには、人々が爆発した方を向いて様々な思いを巡らせているのと反対に、ただ一人爆発した方を背にして歩く真優の姿があった。トボトボと下を向いている。何かあったのだろうか。私は取りあえず真優を呼ぼうと――
「おーい、真……」
――真優を呼ぼうと声を上げて彼女の名前を最後まで呼ぶことは、適わなかった。
千歳が小さく漏らす。
「……何あれ。血?」
そう。私たちに気付いているのかいないのか分からないが、私たちに目もくれずにこの場を去ろうとしている真優は、この暗さからでも分かるくらいに、頭から足先まで真っ赤に染められていた。衝撃に、私たちは真優に何があったのかを訊くことも、それよりもまず真優を呼び止めることそれさえも出来なかった。
真優はそのまま去っていった。
一度も高天原山、爆発現場を振り返ることすらなく。
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